資料2-1   障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営等に関するガイドライン   平成29年5月   内閣府政策統括官(共生社会政策担当)   目次  はじめに  1 地域協議会はなぜ必要なのですか? (1)相談への迅速かつ適切な対応 (2)紛争解決に向けた対応力の向上 (3)職員の事務負担の軽減 (4)権利擁護に関する意識のPR (5)互いに本音で話し合える関係の構築  2 地域協議会は何をするのですか? (1)想定される主な所掌事務 ① 複数の機関等によって紛争の防止や解決を図る事案の共有 ② 関係機関等が対応した相談に係る事例の共有 ③ 障害者差別に関する相談体制の整備 ④ 障害者差別の解消に資する取組の共有・分析 ⑤ 構成機関等における斡旋・調整等の様々な取組による紛争解決の後押し ⑥ 障害者差別の解消に資する取組の周知・発信や障害特性の理解のための研修・啓発 ⑦ 個別の相談事案に対する対応 ⑧ その他 (2)協議の対象となる事案  3 地域協議会はどうやって立ち上げるのですか? (1)設置形態 (2)親会議と子会議 (3)メンバー ① メンバー構成 ② オブザーバー ③ 性別、年齢及び障害種別 (4)事務局 ① 事務局の運営主体 ② 事務局の役割 ③ 事務局に求められる配慮 (5)設置主体 ① 都道府県で設置する場合 ② 市町村単位で設置する場合 ③ 複数市町村が連携して設置する場合 ④ 役割分担  4 各相談窓口と地域協議会との関係はどうなるのですか?  5 設置後はどのように運営すればいいですか? (1)議題等の検討 (2)守秘義務の確保 (3)公開・非公開の判断 (4)事例の収集 ① 間口の広い相談体制の構築 ② アンケートの工夫  6 参考資料   はじめに この「障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営等に関するガイドライン」は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」)第17条において、国と地方公共団体の機関が、地域における障害者差別に関する相談等について情報を共有し、障害者差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うネットワークとして組織できることとされた、「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「地域協議会」)について、地方公共団体(注1)の担当者の方々に実際に設置し、かつ、効果的に活用していただくためのガイドラインとして作成したものです。 作成に当たっては、「障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営指針」(平成28年3月31日内閣府政策統括官(共生社会政策担当)決定)及び「障害者差別解消支援地域協議会設置の手引き」(平成28年3月内閣府障害者施策担当)の内容を統合し、これらを土台とした上で(注2)、内閣府で開催した「障害者差別解消支援地域協議会の設置等の推進に向けた検討会」(以下「検討会」)における議論の成果を反映しています。なお、検討会では、事例収集や相談対応の在り方など、幅広いテーマの議論が活発に行われたことから、本ガイドラインでは、地域協議会のみにとどまらず、こうしたテーマを含めて、検討会の議論の成果を幅広に盛り込んでいます。 本ガイドラインを活用して、地域協議会の設置予定が未定となっている地方公共団体をはじめ、より多くの地方公共団体において地域協議会が設置され、かつ、有効に活用されることを期待します。 (以下脚注) 注1 普通地方公共団体(都道府県及び市町村)のほか、特別地方公共団体である特別区や地方公共団体の組合(一部事務組合や広域連合)も含まれます。 注2 「障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営指針」及び「障害者差別解消支援地域協議会設置の手引き」は、本ガイドラインの取りまとめを機に廃止します。   1 地域協議会はなぜ必要なのですか? 平成28年4月から障害者差別解消法が施行され、行政機関等と事業者においては、不当な差別的取扱いの禁止とともに、合理的配慮の提供が求められることになりました(事業者による合理的配慮の提供は努力義務。)。また、国及び地方公共団体においては、障害を理由とする差別(以下「障害者差別」)の解消に資する体制の充実を図ることとされました。 障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者にとって身近な地域において、主体的な取組がなされることが重要です。 しかし、地域において生活する障害者の活動は広範多岐にわたっていますが、障害者が行政機関の相談窓口に障害者差別に関する相談等を行う際、初めから権限を有する機関を選んで相談することは難しいと考えられます。また、相談等を受ける行政機関においても、相談内容によっては、当該機関だけでは対応できない可能性があります。 このまま手を打たなければ、次のような事態を招くおそれがあります。 ①窓口により対応へのばらつきが生じ、無用なトラブルを招きかねない ②障害福祉担当部署や問題発生部署が、課題解決の全てを背負わなければならなくなる ③地域における合理的配慮や建設的対話のレベルが上がらず、関係者の理解が一向に進まない ④これらの結果として、同じような問題が繰り返されてしまう こうした事態に陥らないよう、障害者差別解消法第17条において、国と地方公共団体の機関は、地域における障害者差別に関する相談等について情報を共有し、障害者差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うネットワークとして、地域協議会を設置できることとされました。 地域協議会を設置することで、次のようなメリットが期待できます。 なお、地域協議会の設置だけで完結するのではなく、相談体制や紛争解決体制の整備など、関連する様々な取組を有機的・総合的に展開することが重要である点にも留意が必要です。  (1)相談への迅速かつ適切な対応 障害者、事業者等からの相談がいわゆる「たらいまわし」になることを防ぎ、関係機関等で共有・蓄積した相談に係る事例等を踏まえて迅速に権限ある機関につなぐなどの対応が可能となります。  (2)紛争解決に向けた対応力の向上 障害者差別に関する相談を受け止め、相談に係る事案について関係者間で意見交換することにより障害者差別解消に向けた認識や望ましい対応の在り方などに関する情報の共有を図ることができます。さらに、こうした意見交換を重ねることにより、各メンバーの障害者差別に係る認識が深まり、これまで表面化していなかった事案の円滑な掘り起こし等にも資することが期待されます。 また、事案によっては斡旋・調整などの権限を有する適切な機関につないだり、自ら紛争解決に向けて取り組むことにより、訴訟に至る前段階で解決を目指すなど、紛争解決に向けた対応力の向上を図ることができます。  (3)職員の事務負担の軽減 地域協議会の設置自体が事務負担の増加になるのではないか、という懸念もあるかと思いますが、長期的な視点で見れば、相談に係る事例の共有・蓄積が進むことにより、新たな相談にスムーズに対応できるようになります。 また、運営の工夫次第では民間部門と協働して取組を進めやすくなるなど、地方公共団体の職員の皆様の事務負担の軽減につながることも考えられます。  (4)権利擁護に関する意識のPR 権利擁護に関する意識が高く、障害者差別の解消に向けて積極的に取り組んでいる地方公共団体であることがPRできます。  (5)互いに本音で話し合える関係の構築 地域協議会の場で各メンバーが一堂に会し、対話を行うことで、お互いに本音で話し合える関係を築くことができ、いざという時も相互に協力できる雰囲気を醸成することができます。   2 地域協議会は何をするのですか?  (1)想定される主な所掌事務 障害者差別解消法では、障害者差別に関する相談や、相談事例を踏まえた障害者差別解消の取組を効果的かつ円滑に行うために地域協議会を開催することとされていますが、具体的な所掌事務については法律上の明確な定めはなく、地域の実情に応じてそれぞれ判断することとなります。 想定される地域協議会の主な所掌事務は、次のとおりです。なお、これらに限定されるものではありませんので、障害者差別解消法の趣旨の範囲内で独自の取組を行うことも可能です。  ①複数の機関等によって紛争の防止や解決を図る事案の共有 障害者差別と思われる相談については、単一の機関で対応可能な事案もありますが、例えば、商店街全体として障害者への対応に課題を有するような事案や、保健・福祉の関係機関による支援が必要な事案などについては、単一の機関では対応が困難な場合があります。 このため、地域協議会でこうした事案をケーススタディとして共有し、今後、同様の事案が発生した際に迅速かつ的確な対応ができるよう話し合いを持つことが考えられます。  ②関係機関等が対応した相談に係る事例の共有 関係機関等が対応した相談事例に関する情報(特に紛争の解決や合理的配慮の提供などに結びついた事例や、相談を踏まえて実施した調整の内容等)について共有することで、地域協議会を構成する機関等が障害者差別の解消に関する共通認識を持つことにつながります。 また、類似する相談を受ける際の参考となるだけでなく、地域全体の相談対応力の向上につながるものと考えられます。  ③障害者差別に関する相談体制の整備 障害者差別に関する相談へ対応することが想定される窓口の洗い出しや、窓口によって聞き取る内容の不整合が生じないようにするための共通の情報記入シートの作成、さらには、相談を受けてから事案の解決を目指す際の相談フローの検討などについて協議することが考えられます。  ④障害者差別の解消に資する取組の共有・分析 障害者差別の解消に向けては、発生した事案への対応だけでなく、障害者差別が起こらない地域づくりをしていくことが重要です。現に提供されている合理的配慮(提供主体が特に意識せずに行っている取組を含む。)の事例を収集し、地域協議会の中で共有するとともに、実施に向けたポイントを評価・分析し、より多くの機関等で良い取組が実践されるような事例集の作成などについて話し合いを持つことが考えられます。  ⑤構成機関等における斡旋・調整等の様々な取組による紛争解決の後押し 地域協議会で意見交換し、権限を有する機関につないだ場合、その機関が紛争解決のために斡旋・調整等の様々な選択肢の中でどのような解決策をとるか考えることになります。 このため、地域協議会での意見交換の段階から、合理的配慮の考え方や過重な負担の判断基準、蓄積・共有した事例等を踏まえた解決方法をアドバイスすることで、その機関が行う紛争解決の後押しを行うことが考えられます。  ⑥障害者差別の解消に資する取組の周知・発信や障害特性の理解のための研修・啓発 障害者差別解消法では、事業者でない一般私人の行為を対象としていないことから、原則として地域協議会の協議対象となりません。 ただし、障害者に対する誤解や偏見、無理解、合理的配慮に関する情報不足が引き金となって発生する障害者差別を解消していくためには、障害者差別解消法の周知はもちろんのこと、障害特性を理解するための研修・啓発や、④で取り上げた障害者差別の解消に資する取組に係る事例の発信なども重要です。 そのため、相談に係る事案に関する協議のみならず、それぞれの地域で重点的に実施すべき研修・啓発等の分野や内容を検討するとともに、効果的な周知・発信の在り方などについて協議することが考えられます。こうした協議を通じ、例えばロールプレイを活用した体験型の研修など、先進的な取組をいち早く関係機関で共有することもできます。 なお、こうした取組と直接関連するものではありませんが、地域協議会そのものが多様なメンバーにより構成されていることから、各メンバーの所属団体等を通じ、幅広い事業分野に周知が進むことも期待されます。  ⑦個別の相談事案に対する対応 複数の機関にまたがる内容の相談など、地域協議会を活用しなければ解決が困難と考えられる事案等について、地域協議会の場で解決に向けた話し合いを行うことが考えられます。 紛争の解決のため、事実調査や報告徴収、助言、勧告、斡旋等の独自の権限が付与されていたり、「調整委員会」等の名称で、首長の附属機関として位置付けられている地域協議会もあります。また、相談者から取り下げのあった相談事案についても、必要と認められる場合は事実調査や対応方針の協議を継続したり、障害者本人からの明確な相談がなくても、必要があれば相手方に事情を伺うなど、実効性の確保に向けた工夫を行っている例もあります。 なお、個別の相談事案を取り扱う場合は、個人情報の保護にも留意する必要があります。 このほか、必要に応じ、対応状況について相談者に情報提供することも重要です(この場合、相談の受付から事案の終結までの相談フローがあると説明しやすくなります。)。  ⑧その他 障害者差別解消の取組そのものではありませんが、関連する取組を地域協議会で併せて実施することで相乗効果を期待することもできます。 例えば、障害者差別の解消に係る取組に加え、障害者へのちょっとした手助けや配慮を住民に幅広く求める「あいサポート運動」の推進を所掌事務としている例などがあります。  (2)協議の対象となる事案 地域協議会では、その所掌事務に応じた幅広い事案について協議を行うことが想定されますが、代表的なものとしては、次のような事案が考えられます。 ①単一の機関による対応では紛争の防止や解決に至らなくなった事案(商店街など多様な事業者が集合する地域全体で取り組む必要性のある事案、障害者本人が適切な機関とつながっておらず専門機関による支援が行われていないことから生じている事案等) ②相談を受けた機関が直接的な権限等を有しておらず、かつ、複数の機関等にまたがると考えられる事案(保健機関に寄せられた相談であるが、実際には学校や職場を含む日常生活全般に課題が生じている事案、グループホーム等の建設に関する反対運動や地元同意問題への対応等) ③アンケート等により把握された障害者差別や合理的配慮等の事例、望まれる合理的配慮等の在り方 ④アンケート等を踏まえた地域における効果的な理解促進や普及啓発の在り方 ⑤相談窓口等における対応のばらつきを防止する情報、注意事項等 また、地域協議会を経ずに紛争の解決に至った事案についても、必要に応じ地域協議会で情報収集し、各メンバーで情報共有することが有効と考えられます。 なお、一般私人の行為や個人の思想、言論については、障害者差別解消法第7条及び第8条(注3)の対象とされていないことから、一般私人による事案は地域協議会における情報共有の対象にはなりません。 一方、同法第5条に基づく「環境の整備」に関する相談や、制度等の運用に関する相談については情報共有の対象とし、今後の改善等につなげていくことも有効と考えられます。 (以下脚注) 注3 第7条では「行政機関等における障害者差別の禁止」、第8条では「事業者における障害者差別の禁止」についてそれぞれ規定。   3 地域協議会はどうやって立ち上げるのですか?  (1)設置形態 地域協議会の設置形態に特別な決まりはありません。設置する単位(都道府県・市町村)によっても異なりますし、市町村の場合でも規模によって異なりますので、設置根拠を含め、地域の実情に応じてさまざまな立ち上げ方が考えられます(このため、必ずしも条例を根拠とする必要はありません。)。 既に障害者差別の解消に関する条例等に基づく会議体を有している場合は、その組織に地域協議会の機能を付加する方法もあるでしょう。また、既存の障害者虐待防止法に基づくネットワークや、障害者総合支援法に基づく協議会の枠組みを活用して地域協議会を立ち上げるケースも多く見られます。多くの場合、障害者施策に関する会議体の構成メンバーは重複することが多いので、既存の会議体の枠組みを活用しつつ、必要なメンバーを加えることにより、参画する機関等の負担も抑えながら地域協議会を立ち上げることができます。 地域協議会によっては、事実調査や紛争解決に係る権限を付与するため、条例等に基づき別途設置されている「調整委員会」等の枠組みを母体としている例もあります。 いずれにせよ、設置形態の別を問わず、実質的に地域協議会の機能を果たすことができるかという点が重要となります。 また、地域協議会の設置に消極的な市町村については、設置のメリットについて改めて周知を行うなど、都道府県から働きかけを行うことも有効です。都道府県によっては、管理職員等が管下の全市町村を訪問して「本気度」を示しながら、地域協議会の設置等に向けた働きかけを行っている例もあります。 なお、協議会の立ち上げに当たっては、地域協議会の名称(注4)及び構成員の氏名又は名称について、地方公共団体の公報への掲載、インターネットの利用その他の適切な方法により公表することが必要です(注5)。 (以下脚注) 注4 特に要件はなく、必ずしも「障害者差別解消支援地域協議会」という名称を用いる必要はありません。 注5 障害者差別解消法施行規則(平成28年内閣府令第2号)により定められています。  (2)親会議と子会議 特に比較的規模が大きい地方公共団体においては、効率的に議論を進めるため、親会議(代表者会議等)の下に子会議(実務者会議、ワーキングチーム等)を置くことも効果的と考えられます。 子会議を置くことで、必要なときに機動的に地域協議会における協議を行うことが可能となるほか、子会議であらかじめ論点の整理等を行うことで、親会議における円滑な議論が期待できるなどの効果が期待できます。 親会議(代表者会議等)と子会議(実務者会議、ワーキングチーム等)を置く場合、例えば、次のような役割分担が考えられます。 (親会議の役割の例) ○基本的な運営方針の検討のほか、政策提言、研修啓発に関する企画の決定、相談体制の構築や個別の相談に係る事案の進行管理など、地域協議会全体に関する事項を協議 ○地域における障害者差別の実態や差別の解消に資する取組に関する情報交換を行い、関係者の共通認識を醸成 ○子会議が円滑に運営されるための環境整備を図り、代表者レベルでの連携を推進 (子会議の役割の例) ○親会議において共有された検討事項のうち、実務的な意見交換を積み上げる必要があるもの(注6)を中心に協議 ○障害種別ごとの対応について協議 なお、正式に子会議を設けるのではなく、協議内容に応じメンバーを限定して開催する方法も考えられます。 (以下脚注) 注6 具体的には、次のようなものが考えられます。 ・地域における障害者差別の実態把握や差別の解消に資する取組に関する情報の収集 ・相談窓口による紛争の防止、解決に向けた協議やそれぞれの機関の活動状況の情報交換 ・障害者差別の解消に資する取組の共有・分析・周知・発信や障害特性の理解のための研修・啓発・発信 ・地域的な広がりを持った障害者差別解消の推進に資する基盤整備(講演会の実施、ボランティアや支援者への研修、障害者との交流事業などの実施等)のために必要な連絡調整  (3)メンバー  ①メンバー構成 メンバー構成は、設置主体(都道府県・市町村)や区域の広さ、人口規模などによって異なります。障害者差別解消法では、地域協議会のメンバーとして、国及び地方公共団体の機関のうち、医療、介護、教育など障害者施策に関連する部署をはじめ、NPO法人などの団体(注7)、学識経験者、その他必要と認める者を示しています。 想定されるメンバーの候補は14ページの表のとおりですが、これらの機関等をすべてメンバーにしなければならないということではなく、それぞれの地域の実情に応じてメンバー構成を考えることが重要です。 メンバー構成の検討に当たっての留意事項は、次のとおりです。 ・意思決定過程における障害者の参画を推進する観点から、障害当事者や障害者団体等をメンバーに加えることが重要です。また、地域協議会のメンバーである障害者団体等には、地域における啓発活動の講師を務めてもらうなど、積極的に障害者差別解消に向けた取組への協力を求めることも有効と考えられます。 ・法律問題や各障害特性に係る専門的知見を適切に反映させる観点から、法曹関係者や医療関係者(注8)については、原則としてメンバーに加えることが望ましいと考えられます。 ・障害者差別に係る紛争解決に大きな役割を果たしている法務局や労働局、警察等の機関については、支障となる事情(注9)がなければ、メンバーに加えることが有効と考えられます。 ・先進的な取組を行っている事業者、民間団体等をメンバーに加え、障害者差別解消に向けた地域の民間部門の機運醸成の旗振り役として活躍してもらうことも有効と考えられます。 ・民間団体と協働して事務局を運営する場合、民間団体が主導してメンバーの選定を進める方法もあります。 ・バランス確保の観点から、経営者団体と労働者団体など、立場が異なる団体を共にメンバーに加えることも有効です。 ・地方公共団体については、障害福祉担当部署はもちろんのこと、関係する主要な部署の職員をメンバーに加えることで、結果的に庁内の情報共有が進み、必要な協力を得やすくなります。 ・国の出先機関や広域的な職能団体などをメンバーに加えることは、都道府県や政令市でなければ一般的には難しいのではないかと考えられます。 (以下脚注) 注7 社会福祉法人などの法人のほか、いわゆる「権利能力なき社団」も含まれます(①団体としての組織を備えること、②多数決の原則が行われていること、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること、④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることの四条件を満たす団体)。 注8 医療関係者については、(専門職たる医師の側面が強い)医師会、(医師の雇用主としての側面が強い)医療機関など、様々な関係者が存在するため、それぞれの地域協議会の目的や機能に応じて具体的に検討する必要があります。 注9 例えば、当該機関の権限と地域協議会の権限がバッティングし、両者の役割分担を適切に整理することが困難になるケースも想定されます(この場合、正式なメンバーではなく、オブザーバーとして参画を依頼することも有効です。)。  【想定される地域協議会の構成機関等】 (作業者注:以下表。縦の項目を大段落とした)    「都道府県」   [当事者] ・障害者団体、家族会等   [行政] ・国の機関:法務局、労働局や運輸支局などの国地方出先機関等 ・地方公共団体:障害者施策主管部局、都道府県福祉事務所、保健所、精神保健福祉センター、都道府県消費生活センター、教育委員会、学校、都道府県警等   [関係機関・団体等] ・教育:校長会、PTA連合会等 ・福祉等:都道府県社会福祉協議会、民生・児童委員協議会、福祉専門職等団体、社会福祉施設等団体、障害者就業・生活支援センター等 ・医療・保健:医師会(医師)、歯科医師会(歯科医師)、看護協会(保健師・看護師)、医療機関、病院団体等 ・事業者:商工会議所、経営者協会、公共交通機関、事業者等 ・法曹等:弁護士会(弁護士)、司法書士会、人権擁護委員連合会(人権擁護委員)等   [その他] ・学識経験者、新聞社、放送局等    「市町村」   [当事者] ・障害者団体、家族会等   [行政] ・国の機関:法務局、公共職業安定所(ハローワーク)等 ・地方公共団体:障害者施策主管部局、人権主管部局、福祉事務所、保健センター、市町村消費生活センター、教育委員会、学校、警察署、消防本部等   [関係機関・団体等] ・教育:校長会、PTA連合会等 ・福祉等:市町村社会福祉協議会、相談支援事業者(基幹相談支援センター、市町村障害者相談支援事業者)、社会福祉施設、民生・児童委員等 ・医療・保健:医師、歯科医師、保健師、看護師等 ・事業者:商工会議所、公共交通機関、事業者等 ・法曹等:弁護士、司法書士、行政書士、人権擁護委員等   [その他] ・学識経験者、自治会等 (作業者注:表ここまで) ※表の機関等をすべて含めなければならないということではなく、メンバー構成は地域の実情に応じて検討。  ②オブザーバー メンバーの選定に当たり、候補者等(候補機関、候補団体)から就任に難色を示されるケースも考えられます。こうした場合、候補者等の意向にもよりますが、オブザーバーとして参加してもらうことも有効です。オブザーバーと位置付けた場合、特定の議題について協議を行う場合に欠席を認めるなどの運用も容易となります。 オブザーバーの具体的な位置付けについては、それぞれの地域協議会で定めることになりますが、正規のメンバーと同様に議論に参画できる場合は、実態上、正規のメンバーと位置付けた場合と同等の効果が見込まれると考えられます。 また、地域協議会との役割分担が必要な機関等がある場合は、正規のメンバーではなくオブザーバーと位置付けた上で、敢えて一体化させずに相互に連携を図っていく手法もあり得ると考えられます。  ③性別、年齢及び障害種別 障害者差別解消法の規定には明示されていませんが、障害者差別に関する協議を行う場であることに鑑み、障害者及びその家族の参画について配慮するとともに、性別・年齢・障害種別のバランスを考慮することが望まれます。 特に、知的障害や精神障害、発達障害、難病等を含め、幅広い障害種別の方の参画を得ることは、多様な視点を反映した議論を進めるためにも重要と考えられます。また、障害当事者(本人)と、保護者、後見人等との見解が必ずしも一致するとは限らない点にも留意が必要です。 また、幅広い機関等の参画を得ることは非常に重要ですが、人数が多くなり過ぎると実質的な議論が難しくなるおそれがあるため、必要に応じ子会議を置くなどの工夫を行うことも重要です。  (4)事務局  ①事務局の運営主体 障害者差別解消法では、地域協議会を構成する地方公共団体が庶務を処理することとなっており、一般的には都道府県・市町村の障害福祉担当部署が事務局を担うとともに、地域協議会のメンバーとして参画することが想定されています。 ただし、障害福祉担当部署に限定されるものではなく、福祉の総括部署や人権担当部署が事務局を担うことも考えられます。また、障害者の権利擁護に積極的な社会福祉法人やNPO法人、障害者団体連絡協議会等の地域の民間団体と協働して事務局を運営することも考えられます。こうした民間団体の参画を得ることにより、障害当事者の視点を反映した事務局の運営が可能になるほか、メンバーの障害者団体等との円滑な連絡調整や意見集約が可能となるなど、事務局機能の強化も期待できます。 地方公共団体によっては、域内の事業者への説明会を開催する際に、障害福祉担当部署が単独で対応するのではなく、事務局を協働して担う民間団体と連携して対応している例もあります。 複数市町村が連携して地域協議会を立ち上げる場合、事務局を各構成市町村が持ち回りで担うことが考えられますが、事務局機能の円滑な承継が可能となるよう、段階的に引継を進めるなどの工夫を行うことも重要です。  ②事務局の役割 事務局の主な役割として想定される事項は、次のとおりです。 ○地域協議会に関する事務の総括 ・協議事項の洗い出し・整理等の地域協議会開催に向けた準備 ・地域協議会の議事運営、議事録の作成、資料の保管 ・地域協議会で対象となった個別の相談に係る事案の記録の管理 ○各種取組に関する実施状況の進行管理 ○各種取組の実施に関する関係機関等との連絡調整 また、事務局においてもコーディネート機能を持ち、仮に事務局あて直接相談が寄せられた場合でも、権限を有する他の機関につなげるようにすることが望まれます(注10)。 (以下脚注) 注10 事務局にそれらの機能を専門に担う相談員を配置するかについては、各地方公共団体の判断となります。  ③事務局に求められる配慮 先述のように、意思決定過程における障害者の参画を推進する観点から、障害当事者や障害者団体等を地域協議会のメンバーに加えることが重要であり、障害当事者の参画を得るに当たっては、メンバーの障害特性を踏まえた適切な情報保障を行う必要があります。 具体的な情報保障の手段については、あらかじめ関係するメンバーから了承を得ておくことが必要です。例えば、次のような情報保障を行うことが考えられます。 ・障害特性により頻繁に離席の必要がある場合、出入口に近い席を確保する。 ・スクリーン、手話通訳者、板書等がよく見えるように、スクリーン等に近い席を確保する。 ・筆談、読み上げ、手話、点字、拡大文字等のコミュニケーション手段を用いる。 ・会議資料等を点字、拡大文字等で作成する際に、各々の媒体間でページ番号等が異なり得ることに留意する。 ・視覚障害のある委員に会議資料等を事前送付する際、読み上げソフトに対応できるよう電子データ(テキスト形式)で提供する。 ・比喩表現等が苦手な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに具体的に説明する。 ・障害者から申出があった際に、ゆっくり、丁寧に、繰り返し説明し、内容が理解されたことを確認しながら応対する。その際、なじみのない外来語は避ける、漢数字は用いない、時刻は24時間表記ではなく午前・午後で表記するなどの配慮を行う。 なお、こうした配慮は、障害者差別解消法で定める「合理的配慮の提供」や「環境の整備」に該当し、地域協議会以外の会議等を開催する場合も幅広く対応が求められます(こうした対応に要する予算の確保に当たっては、各部署の自覚を求める観点から、障害福祉担当部署が一括して予算要求を行うのではなく、各部署が必要な経費をそれぞれ積算して予算要求する取扱いとしている地方公共団体もあります。)。  (5)設置主体 都道府県の地域協議会と市町村の地域協議会は、それぞれに期待される役割を踏まえた適切な役割分担を行うことが望まれます。例えば、個別の事案に関する協議については、住民に身近な市町村の地域協議会が担い、都道府県の地域協議会は、そのバックアップを行うとともに、各相談窓口からの情報提供を踏まえた協議に基づき、地域における障害者差別解消の取組に関する提言を行い、広域の取組を推進するなどの役割分担が考えられます。都道府県と市町村の地域協議会に期待される役割は、それぞれ次のとおりです。  ①都道府県で設置する場合 都道府県で設置する場合は、広域自治体としての特性をいかし、次のような業務を担うことが期待されます。 ・相談事案の情報共有や構成機関等への提言 ・地域における障害者差別解消のための取組についての協議・提案(事例集積による認識の共通化、構成機関による周知・啓発、社会資源の開発・改善等) ・市町村の地域協議会から情報提供のあった事案や、協力を求められた事案への対応についての協議 ・都道府県単位又はブロック単位で設置されている国の出先機関との連絡調整 ・広域的に展開している事業者や事業者団体、職能団体等への協力要請 ・市町村から寄せられた相談に係る事例や解決に向けた取組の事例などの集積と分析 ・広域的に取り組むことで効果的な周知・啓発活動の企画立案、実施などの協議  ②市町村単位で設置する場合 市町村単位で設置する場合は、住民に身近であるという特性をいかし、個別の相談に係る事案を解決するための後押しはもちろんのこと、そうした事案を通じて抽出された課題、地域特性を踏まえた課題などを協議することが期待されます。 ただし、国の機関による権限行使が必要となる事案や、チェーン店や公共交通機関など、広域的に展開している事業者が関係している障害者差別の事案に関する相談など、市町村単独では対応が困難なケースも考えられます。その場合には、都道府県単位で設置する地域協議会へ協力を要請することが想定されます。 複数市町村が連携して設置する場合(下記③)と比べ、必要な業務量は一般に多くなりますが、事務局体制の連続性の担保や責任の所在の明確化等のメリットも多く、特に、比較的規模の大きい市においては、市町村単位で設置することが効果的と考えられます。一方、規模の小さい市町村においては、事務体制を勘案して業務の負担が過多とならないよう、地域協議会の機能を限定したり、14ページの表(想定される地域協議会の構成機関等)にかかわらず、メンバーを絞り込むなどの工夫を行うことも考えられます。 なお、政令市については、地方公共団体としての規模や行使可能な権限の範囲などを考慮すると、都道府県・市町村いずれの機能も有する地域協議会を設置することが想定されます。  ③複数市町村が連携して設置する場合 これらの中間的な位置付けとなるのが、複数市町村が連携して広域的に設置する場合です。障害者施策においては、多くの地域で「障害保健福祉圏域」が設定されていることから、こうした広域連携の枠組みを活用し、複数市町村が事務局機能を分担(又は持ち回りで担当)することで、単一市町村で行うよりも少ない負担で地域協議会を立ち上げることが可能となります。また、広域連合の枠組みを利用したり、近隣の市町村と合同で立ち上げることも考えられます。 複数市町村単位で地域協議会を設置することで、各市町村で対応した相談に係る事例を合わせた一定件数の事例を一つの地域協議会で共有・蓄積・議論することが可能になるなどのメリットも考えられます。 この方式で立ち上げる場合、各構成市町村でそれぞれ根拠となる条例等を制定すると、機動的な改正等が困難になるおそれがあることから、例えば、地域協議会の「会長決定」を根拠として位置付け、事後に各構成市町村がそれぞれ「会長決定」を決裁するなどの方法が効果的と考えられます。 また、立ち上げ後の運営を円滑に進めるためには、地域協議会を設置する趣旨や目的、メリット等について、あらかじめ各構成市町村が共通認識を持っておくことが大切です。全ての構成市町村が地域協議会の設置に向けて積極的に取り組むことが理想ですが、市町村間でいわゆる「温度差」が見られる場合は、積極的な市町村が消極的な市町村を巻き込んでいくことも有効です。その際、「本気度」を示すため、管理職員による調整を試みたり、必要に応じて都道府県が仲介を行うことも効果的と考えられます。  ④役割分担 一般に、都道府県の地域協議会は、都道府県単位で設置されている国の機関の参加が期待できるほか、都道府県の区域全体の人的資源を活用することが可能と考えられます。このため、市町村の地域協議会だけで扱うことが困難な相談事案がある場合、市町村の求めに応じ、都道府県の地域協議会が必要な助言を行ったり、そのメンバー等を市町村の地域協議会に派遣するなどの協力を行うことが考えられます。 市町村によっては、その職員が都道府県の地域協議会にオブザーバーとして参加したり、都道府県に置かれた広域支援相談員の協力を得るなど、密接な連携を図っている例もあります。また、都道府県の地域協議会に参画している者を市町村の地域協議会にもメンバーに加えることで、事実上の連携の確保を図っているケースもあります。 なお、市町村が地域協議会を設置していない場合、当該市町村だけでは対応が難しい事案については、都道府県の地域協議会で取り扱うことが考えられます。この場合、当該市町村の担当部局は、都道府県の地域協議会にオブザーバー参加することが期待されます。 また、居住先の地方公共団体とは異なる地方公共団体において障害者差別が発生するケースもあります。相談を受けた地方公共団体だけでは対応困難な場合は、地域協議会も活用しつつ、関係する地方公共団体間で情報の共有や連携(注11)を図っていくことが望まれます。 (以下脚注) 注11「垂直」(都道府県と市町村間の情報共有・連携)、「水平」(都道府県相互間や市町村相互間の情報共有・連携)のいずれも含みます。   4 各相談窓口と地域協議会との関係はどうなるのですか? 障害者差別解消法では、障害者差別に関する新たな機関を設置するのではなく、既存の機関等を活用・充実させることとなっており、国及び地方公共団体においては、相談窓口を明確にするとともに、相談等に対応する職員の業務の明確化・専門性の向上を図るなど、必要な体制整備を図ることとされています。 地方公共団体においては、障害福祉担当部署をはじめとして障害者施策に関連する多くの機関等が相談窓口となる可能性がありますが、全ての問題を最初に受け付けた機関だけで解決することが求められるわけではありません。むしろ、関係機関のリストを整備するなどして相談の一次的な受け皿となり、自ら対応できない事案については、地域内の他の適切な機関につないでいくことが重要となります(注12)。こうした面からも、地域協議会を設置することのメリットがあります。 それぞれの相談窓口で受けた相談のうち、つなぐことができる適切な機関がない事案や、複数の機関による連携が必要と思われる事案については、本人の同意を得た上で、地域協議会に情報を提供して解決に向けた取組などを協議することが考えられます。 また、障害者差別の解消に至った事案、本人は障害者差別と認識していないが客観的に困難を抱えているような事案についても、個人情報や秘密に係る情報を特定できない範囲で情報提供することが考えられます。 (以下脚注) 注12 この場合、相談者の希望を踏まえ、紹介先の受入意向等を確認するとともに、個人情報の取扱いを関係法令に基づき適正に処理した上で、つないだ先の機関を相談者に紹介するなどの配慮が必要です。   5 設置後はどのように運営すればいいですか?  (1)議題等の検討 地域協議会の趣旨や目的について、当初から各メンバーが十分に把握しているとは限りません。むしろ、特に初期の段階では、ポイントとなる基礎的な事項を各メンバーにしっかりと理解してもらうことも重要です。 そのためには、「一つのストーリーを紡ぐ」ように、地域協議会の各開催時に何が求められているのか、何を目指していくのかについて、あらかじめ具体的なイメージを固めた上で議題を検討する必要があります。 例えば、次のような流れで議題を設定することが考えられます。  ○開催1回目 →地域協議会のミッションや、地域における障害者差別解消の概況と課題、今後のスケジュール等について意識の統一を図る 議題(例)→左記の議題を設定する目的 ・委員紹介→各メンバーの顔合わせを行う ・首長、担当部局幹部等の挨拶→地域協議会が目指すビジョンや大きな方向性について伝達する ・○○市意識調査結果→住民の意識の現状について報告する ・○○市におけるこれまでの主な取組→施策の取組状況について報告する ・今後の開催スケジュール(案)→今後の具体的な協議の進め方について意見を聴取する ・○○市事例調査(案)→障害者差別に係る事例調査の方向性について意見を聴取する  ○開催2回目 →役所の担当部署で対応した事例等を取り上げ、事例から得られる教訓や課題のイメージについて各メンバーで意識の統一を図る 議題(例)→左記の議題を設定する目的 ・○○市事例調査結果→1回目の議論を踏まえて実施した事例調査の結果について報告する ・○○市で対応した最近の主な相談事例→担当部署で受け付けた相談事例のうち主要なものについて報告する ・事例の提供依頼→事例調査結果や担当部署の相談事例を踏まえつつ、今後の協議に資する相談事例の提供を各メンバーに依頼する  ○開催3回目 →メンバーの所属機関等が対応した具体的な事例を取り上げながら実質的な議論(協議)を開始する 議題(例)→左記の議題を設定する目的 ・各機関等における最近の主な相談事例→各メンバーが対応した相談事例のうち主要なものについて、事務局で整理、取りまとめを行った上で報告する ・自由討議→上記で報告された事例を踏まえ、障害者差別解消に向けた今後の課題や対応の在り方について自由に協議する また、お互いに本音で話し合える関係をできるだけ早く構築してもらうため、名刺交換の時間を設けるなど、各メンバーが交流する時間を意識的に設けることも効果的です。名刺交換がどの程度行われたかで地域協議会の成否が左右されるとの考え方もあります。  (2)守秘義務の確保 地域協議会における協議事項は地域ごとに異なりますが、個人情報等(注13)を扱う可能性がある場合は、守秘義務の確保が重要となります。障害者差別解消法第19条では、地域協議会の事務に従事したことがある者に対し、地域協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない旨を規定しており、相談者に対して安心して相談できる環境を整備するとともに、地域協議会における積極的な情報交換や連携の推進を担保しています。 守秘義務が課されるのは次のとおりです。地域協議会で個人情報を扱う可能性がある場合には、メンバーに対して法に基づく守秘義務があること、違反した場合には罰則(注14)があることなどを周知することが適当です。 (以下脚注) 注13 漏洩により事業者等の信用を棄損するおそれのある情報を取り扱うことも想定されることから、事業者等の情報も守秘義務の対象となります。 注14 守秘義務に違反した場合には、障害者差別解消法の罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が適用されます。  (ア) 国又は地方公共団体の機関である場合 当該機関の職員又は職員であった者  (イ) 法人である場合 当該法人の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者  (ウ) (ア)又は(イ)以外の者である場合 地域協議会を構成する者又はその職にあった者 注:地域協議会のメンバーが、協議会には直接的には参加していない上司に対し復命した場合、当該上司は地域協議会の事務に従事する者として守秘義務が課せられます。 注:派遣労働者や地域協議会の運営に係る事務の委託を受けた者であっても、地域協議会の事務に従事する場合は守秘義務が課せられます。 また、それぞれの都道府県・市町村の個人情報保護条例等に基づき、地域協議会への情報提供に関しての本人による同意(注15)を得ておくことも重要となります。 あらかじめ守秘義務や個人情報の取扱いに関する考え方を整理し、関係機関等と共有しておくことで、各関係機関等が躊躇せず、必要な相談事例等を地域協議会に持ち込みやすくなる(情報を共有しやすくなる)効果も期待できます。 個人情報の取扱いの在り方を検討するに当たっては、個人情報の保護と事例等の分かりやすさのバランスを考慮することが大切です。個人情報の保護に力点を置き過ぎるあまり、必要以上に事例を抽象化してしまうと、具体的な状況がイメージしにくくなるなどの問題も発生します。一方で、人口流動の少ない地域では、一般に、固有名詞が特定されやすいことを踏まえ、個人情報保護の観点から慎重に検討を行う必要があると考えられるなど、地域の実情も踏まえて対応する必要があります。 (以下脚注) 注15 具体的には、個人情報の入手に当たり、地域協議会の目的、構成員、情報交換を行う構成機関の範囲、地域協議会に課されている守秘義務等について説明し、あらかじめ本人の同意を得ておく必要があります(その際、①個人情報の提供先、②提供される個人情報の内容、③提供先における個人情報の利用目的を明らかにした上で、署名又は記名・押印の方法によることが適当と考えられます。)。  (3)公開・非公開の判断 地域協議会を公開するかどうかについては、それぞれの地域協議会の機能や協議事項、地域の実情等を踏まえて判断することが大切です。 仮に地域協議会を公開する場合は、固有名詞や個別事案を一般化した上で取り上げるなど、守秘義務に抵触しないよう留意する必要があります。なお、一般に、人口流動の少ない地域では、固有名詞を一般化するなどの対応を行っても、特定される可能性が高まる点に留意が必要です。 地域協議会を公開しない場合は、適切な情報公開の観点から、事後に議事概要を公表したり、求めに応じて記者へのブリーフィングを行うなどの対応を行うことが望ましいと考えられます。 また、折衷的な対応として、通常は公開するものの、個人情報等を含む(又は個人情報等が容易に推測され得る)内容について議論を行う場合は傍聴者に一時退室を求めるなどの運用も考えられます。  (4)事例の収集 障害者差別解消に係る事例についての協議は、多くの地域協議会における主要な任務の一つであり、適切な事例の収集が地域協議会の実効性ある議論に向けたカギとなっています。 しかしながら、相談事案の絶対数が少ない、事業者側の協力が得られにくいなどの事情により、事例の収集に苦慮している地方公共団体も少なくないと考えられることから、潜在化している事案を掘り起こしていくことが重要です。 また、掘り起こしにより事案の数が増えても円滑に比較や分析を行うことができるよう、相談シートの様式やアンケート項目の検討に当たっては、内容に応じて記号選択式を採用したり、共通の設問を設けるなどの工夫を行うことが望まれます。 事案の掘り起こしに向けた具体的な取組としては、例えば、次のような取組などが考えられます。また、その実効性を高めるため、地域協議会においても障害者差別解消に係る必要な情報発信や啓発などの取組を行うことが期待されます。  ① 間口の広い相談体制の構築 各相談窓口の位置付けにもよりますが、厳密には障害者差別解消法で定める差別事案に該当しないと考えられる内容の相談や、日々の小さな不快、不満等に関する相談についても、入口の段階で一律に排除することなく、まずは相談窓口で傾聴することが望ましいのではないかと考えられます(一律に排除すると、対象外と整理された相談事案は、入口の段階で解決の道が閉ざされることになります。)。 障害者差別解消法で定める差別事案(「不当な差別的取扱い」及び「合理的配慮の不提供」)のほか、「不適切な行為」、「不快・不満」の類型を設け、幅広い間口で相談に対応するなどの工夫を行う例もあります。また、人権問題等に関する相談窓口に専門の相談員を配置し、一体的に相談を受け付けることにより、間口の広い相談対応を行っている例もあります。 「相談窓口で相談していた」という噂が地域内で拡散することを懸念し、相談窓口に赴くこと自体に心理的ハードルを感じているケースもあると考えられます。このため、相談窓口を設けるほか、郵送や電子メール等でも相談を受け付けるなど、心理的ハードルを緩和する配慮も求められると考えられます。 これらの留意点も踏まえつつ、相談体制の在り方について検討を行うとともに、検討の結果を相談フローとして明確化し、どの相談窓口でも共通して十分な対応を行うことができる体制の構築が望まれます。 なお、相談への対応を検討するに当たっては、他の機関からの支援が十分であったかという視点や、他の要因によるものと考えられてきた課題が、実際には障害者差別を要因とする課題に該当しないかという視点からも検討していくことが重要です。  ② アンケートの工夫 事業者における合理的配慮や建設的対話を広げるためには、同業種(類似業種)の好事例を水平展開することが有効であり、その手段として、事例収集のためのアンケートを実施することが考えられます。 こうしたアンケートを行う場合、どのような設問を設けるかが重要になります。 障害者が「不当な差別的取扱い」を受けたり、「合理的配慮」の提供を受けられなかったという事実があっても、障害者本人には差別を受けたと自覚することが難しい場合があります。このような場合、「あなたはどのような差別を受けたことがありますか」などの設問では、正しい回答を得ることは期待できません。 このため、障害者向けのアンケートの場合、例えば「障害のために困ったこと」、「障害のために悲しい思いをしたこと」などの設問を設ければ、潜在的な差別事案の掘り起こしにもつながると考えられます(ただし、差別事案以外の回答も混じる可能性があることに留意する必要があります。)。 また、事業者は、対外的にネガティブな印象を与えないよう、自らに関係する差別事案については積極的な言及を避ける傾向があると推測されます。このため、アンケートで直截な設問を設けた場合、ポジティブな好事例については問題なく収集できる反面、ネガティブな差別事例については収集に支障を来すおそれがあります。 このため、事業者向けのアンケートの場合、「障害のある顧客に応対する際に悩ましいと感じていること(苦慮していること)」、「障害のある顧客から寄せられたことのある要望」など、事業者が回答しやすい設問となるよう工夫することが大切と考えられます。 また、事業者に何らかの指摘を行う必要がある場合も、まずは事業者の優れた取組を評価した上で、さりげなく、かつ建設的なトーンで提案を行うなど、接し方を工夫することが効果的です。  6 参考資料   【障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(抄)】  (障害者差別解消支援地域協議会) 第十七条 国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するもの(以下この項及び次条第二項において「関係機関」という。)は、当該地方公共団体の区域において関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができる。 2 前項の規定により協議会を組織する国及び地方公共団体の機関は、必要があると認めるときは、協議会に次に掲げる者を構成員として加えることができる。 一 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他の団体 二 学識経験者 三 その他当該国及び地方公共団体の機関が必要と認める者  (協議会の事務等) 第十八条 協議会は、前条第一項の目的を達するため、必要な情報を交換するとともに、障害者からの相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関する協議を行うものとする。 2 関係機関及び前条第二項の構成員(次項において「構成機関等」という。)は、前項の協議の結果に基づき、当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を行うものとする。 3 協議会は、第一項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるとき、又は構成機関等が行う相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関し他の構成機関等から要請があった場合において必要があると認めるときは、構成機関等に対し、相談を行った障害者及び差別に係る事案に関する情報の提供、意見の表明その他の必要な協力を求めることができる。 4 協議会の庶務は、協議会を構成する地方公共団体において処理する。 5 協議会が組織されたときは、当該地方公共団体は、内閣府令で定めるところにより、その旨を公表しなければならない。  (秘密保持義務) 第十九条 協議会の事務に従事する者又は協議会の事務に従事していた者は、正当な理由なく、協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。  (協議会の定める事項) 第二十条 前三条に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、協議会が定める。   【障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行規則(平成28年内閣府令第2号)(抄)】 1 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第十八条第五項の規定による公表は、障害者差別解消支援地域協議会の名称及び構成員の氏名又は名称について行うものとする。 2 前項の規定による公表は、地方公共団体の公報への掲載、インターネットの利用その他の適切な方法により行うものとする。   【障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定)(抄)】 4 障害者差別解消支援地域協議会  (1)趣旨 障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者にとって身近な地域において、主体的な取組がなされることが重要である。地域において日常生活、社会生活を営む障害者の活動は広範多岐にわたり、相談等を行うに当たっては、どの機関がどのような権限を有しているかは必ずしも明らかではない場合があり、また、相談等を受ける機関においても、相談内容によっては当該機関だけでは対応できない場合がある。このため、地域における様々な関係機関が、相談事例等に係る情報の共有・協議を通じて、各自の役割に応じた事案解決のための取組や類似事案の発生防止の取組など、地域の実情に応じた差別の解消のための取組を主体的に行うネットワークとして、障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができることとされている。協議会については、障害者及びその家族の参画について配慮するとともに、性別・年齢、障害種別を考慮して組織することが望ましい。内閣府においては、法施行後における協議会の設置状況等について公表するものとする。  (2)期待される役割 協議会に期待される役割としては、関係機関から提供された相談事例等について、適切な相談窓口を有する機関の紹介、具体的事案の対応例の共有・協議、協議会の構成機関等における調停、斡旋等の様々な取組による紛争解決、複数の機関で紛争解決等に対応することへの後押し等が考えられる。 なお、都道府県において組織される協議会においては、紛争解決等に向けた取組について、市町村において組織される協議会を補完・支援する役割が期待される。また、関係機関において紛争解決に至った事例、合理的配慮の具体例、相談事案から合理的配慮に係る環境の整備を行うに至った事例などの共有・分析を通じて、構成機関等における業務改善、事案の発生防止のための取組、周知・啓発活動に係る協議等を行うことが期待される。   【障害者差別解消支援地域協議会の設置等の推進に向けた検討会 開催規程】 1 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)の施行に当たり、障害者差別解消支援地域協議会の設置等の推進に向けた検討を行うため、障害者差別解消支援地域協議会の設置等の推進に向けた検討会(以下「検討会」という。)を開催する。 2 検討会の構成は、座長及び構成員10人以内とし、政策統括官(共生社会政策担当)が指名する。 3 座長は、必要があると認めるときは、関係者に検討会への出席を求めることができる。 4 検討会の庶務は、政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(障害者施策担当)において処理する。 5 前各項に定めるもののほか、検討会の運営に関し必要な事項は、座長が定める。   【障害者差別解消支援地域協議会の設置等の推進に向けた検討会 構成員】 毎日新聞社論説委員 野澤 和弘[座長] 日本精神科病院協会副会長 河﨑 建人 明石市福祉部福祉総務課障害者施策担当課長 金 政玉 ピープルファースト東京事務局長 佐々木 信行 長生・夷隅地域のくらしを支える会 中核地域生活支援センター長生ひなた所長 渋沢 茂 弁護士 関哉 直人 筑波大学教授(人間系 障害科学域 知的・発達・行動障害学分野) 柘植 雅義 明蓬館高等学校共育コーディネーター 南雲 明彦 三重県健康福祉部障がい福祉課長 西川 恵子 WEL'S副理事長 就業・生活支援センター WEL'S TOKYO センター長 堀江 美里 平塚市福祉部福祉総務課地域福祉担当主管 又村 あおい   詳しくはこちらをご参照ください  (障害者差別解消法のことが知りたい) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html  (障害者差別解消法の全文が読みたい) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html  (障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針が読みたい) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html