参考資料4-1 厚生労働省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針 ・福祉事業者向けガイドライン ・医療関係事業者向けガイドライン ・衛星事業者向けガイドライン ・社会保険労務士の業務を行う事業者向けガイドライン 障害者差別解消法福祉事業者向けガイドライン 〜福祉分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針〜(案) 令和6年○月 厚生労働大臣決定 はじめに 平成28年4月1日から「障害者差別解消法」が施行されています。 この法律は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項や、国の行政機関、地方公共団体等及び民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置などについて定めることによって、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につなげることを目的としています。 この対応指針は、「障害者差別解消法」の規定に基づき、福祉分野における事業者が障害者に対し不当な差別的取扱いをしないこと、また必要かつ合理的な配慮を行うために必要な考え方などを記載しています。 日々の業務の参考にしていただき、障害者差別のない社会を目指しましょう。 ※この対応指針は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号)の施行の日(令和6年4月1日)から適用します。 目次 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過 ・・・ p1 (2)対象となる障害者 ・・・ p2 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 ・・・ p3 (4)福祉分野における対応指針 ・・・ p3 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い  1 不当な差別的取扱いの基本的考え方 ・・・ p5 2 正当な理由の判断の視点 ・・・ p6 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方 ・・・ p6 2 過重な負担の基本的な考え方 ・・・ p9 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例  (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例 ・・・ p10 (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例 ・・・ p12 (3)合理的配慮に該当すると考えられる例 ・・・ p12 (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例 ・・・ p15 (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例 ・・・ p15 (6)障害特性に応じた対応について ・・・ p16 第4 事業者における相談体制の整備 ・・・ p32 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 ・・・ p33 第6 国の行政機関における相談窓口 ・・・ p34 第7 主務大臣による行政措置 ・・・ p34 おわりに ・・・ p35 参考資料 ・・・ p36 (作業者注:目次ここまで) p1 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過 近年、障害者の権利擁護に向けた取組が国際的に進展し、平成18年に国連において、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)が採択されました。我が国は、平成19年に権利条約に署名し、以来、国内法の整備を始めとする取組を進めてきました。 権利条約は第2条において、「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義し、その禁止について、締約国に全ての適当な措置を求めています。 我が国においては、平成16年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正において、障害者に対する差別の禁止が基本的理念として明示され、さらに、平成23年の同法改正の際には、権利条約の趣旨を踏まえ、同法第2条第2号において、社会的障壁について、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義されるとともに、基本原則として、同法第4条第1項に、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」こと、また、同条第2項に、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」ことが規定されました。 p2 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定されました。我が国は、法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ、平成26年1月に権利条約を締結しました。また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、相談体制の充実や情報の収集・提供の確保など障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化する措置を講ずることを内容とする改正法が公布されました(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号。以下「改正法」という。))。 (2)対象となる障害者 対象となる障害者・障害児(以下「障害者」という。)は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものです。 これは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるというモデル(いわゆる「社会モデル」)の考え方を踏まえているものです。したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限りません。 また、特に女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより、さらに複合的に困難な状況に置かれている場合があること、障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意する必要があります。 p3 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 法第6条第1項の規定に基づき、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27年2月24日閣議決定、令和5年3月14日変更。以下「基本方針」という。)が策定されました。 基本方針は、障害を理由とする差別の解消の推進は、雇用、教育、医療、公共交通等、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野に関連し、各府省の所掌に横断的にまたがる施策であるため、政府として、施策の総合的かつ一体的な推進を図るとともに、行政機関間や分野間における取組のばらつきを防ぐため、施策の基本的な方向等を示したものです。 (4)福祉分野における対応指針 障害者基本法第1条に規定されるように、障害者施策は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるという理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指して講じられる必要があります。 そのうえで、法第11条第1項の規定に基づき、主務大臣は、基本方針に即して、事業者が法第8条に規定する事項に関し、適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めることとされています。 本指針は、上に述べた法の目的を達成するため、特に福祉分野に関わる事業者の対応指針を定めたものです。 本指針において定める措置については、「望まれます」と記載されている内容等法的義務ではないものも含まれますが、法の目的を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟な対応を積極的に行うことが期待されるものです。 なお、事業者は、障害を理由とする差別を解消するための取組を行うに当たり、法、基本方針及び本指針に示す項目のほか、各事業に関連する法令等の規定を順守しなければなりません。 p4 また、福祉の専門知識及び技術をもって福祉サービスを提供する事業者は、日頃から、障害に関する理解や障害者の人権・権利擁護に関する認識を深めるとともに、より高い意識と行動規範をもって障害を理由とする差別を解消するための取組を進めていくことが期待されます。 本指針の対象となる福祉事業者の範囲は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条に規定する社会福祉事業その他の福祉分野に関わる事業を行う事業者です。 「本指針の対象となる福祉事業者」 ・生活保護関係事業(救護施設、更生施設などを経営する事業など) ・母子福祉関係事業(婦人保護施設など) ・高齢者福祉関係事業(特別養護老人ホーム、通所介護事業所など) ※医療保険制度における訪問看護事業等は、障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドラインを参照してください。 ・障害福祉関係事業(障害者支援施設を経営する事業、障害福祉サービス事業、身体障害者生活訓練等事業、補装具製作施設など) ・隣保事業 ・福祉サービス利用援助事業 など なお、基本方針において、「事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含み、国、独立行政法人等、地方公共団体及び公営企業型以外の地方独立行政法人を除く。)であり、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者である。したがって、例えば、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となり、また、対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別を問わない。」と規定されています。 (注)事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされており、同法に基づき別途定められた「障害者差別禁止指針(「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第116号))」及び「合理的配慮指針(「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成27年厚生労働省告示第117号))」を参照してください。 p5 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い 1 不当な差別的取扱いの基本的考え方 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、サービス等の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付するなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止しています。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当します。 また、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではないことに留意する必要があります。 したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たりません。 不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことです。 p6 2 正当な理由の判断の視点 不当な差別的取扱いであるのかどうかの判断には、その取扱いを行う正当な理由の有無が重要となります。正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合です。 正当な理由に相当するか否かについて、事業者は、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止など)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際、事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められます。 なお、「客観的に判断する」とは、主観的な判断に委ねられるのではなく、その主張が客観的な事実によって裏付けられ、第三者の立場から見ても納得を得られるような「客観性」が必要とされるものです。  また、「正当な理由」を根拠に、不当な差別的取扱いを禁止する法の趣旨が形骸化されるべきではなく、抽象的に事故の危惧がある、危険が想定されるといった理由によりサービスを提供しないといったことは適切ではありません。 ※後述の第3「障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」では、正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例及び正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例の具体例を示しています。 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方 <合理的配慮とは> p7 権利条約第2条において、合理的配慮は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。 法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)をしなければなりません。 これまで事業者による合理的配慮の提供は努力義務とされていましたが、令和3年の改正法により、法的義務へと改められました。事業者におきましては、合理的配慮の提供の義務化を契機として、本指針に基づき、合理的配慮の必要性につき一層認識を深めることが求められます。 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものであること、また、障害の状態等が変化することもあるため、特に障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜見直しを行うことが重要です。加えて、合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意する必要があります。 合理的配慮は、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があります。その提供に当たってはこれらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ、2 「過重な負担の基本的な考え方」に掲げる要素も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要があります。 p8 建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要です。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられます。 ※後述の第3「障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」では、合理的配慮に当たり得る配慮の例の具体例を示しています。 <意思の表明> 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられます。 また、障害者からの意思の表明のみでなく、障害の特性等により本人からの意思の表明が困難な場合には、障害者の家族、支援者・介助者、法定代理人等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。 なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、支援者・介助者等を伴っていないことなどにより、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白であるときには、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提供するために建設的対話を働きかけるなど、自主的に取り組むことが望まれます。 p9 <環境の整備との関係> 法第5条においては、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者・支援者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として事業者の努力義務としています。 環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待されています。また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、内部規制やマニュアルの整備等のソフト面の対応も含まれることが重要です。 障害を理由とする差別の解消のための取組は、法やいわゆるバリアフリー法等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づくこのような環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進められることが重要です。 環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものですが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置です。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなります。 なお、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことは有効です。また、環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中長期的なコストの削減・効率化にも資することとなります。 2 過重な負担の基本的な考え方 過重な負担については、事業者において、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、過重な負担に当たると判断した場合、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際には前述のとおり、事業者と障害者の双方が、お互いに立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められます。 p10 *事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か) 当該措置を講ずることによるサービス提供への影響、その他の事業への影響の程度。 *実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) 事業所の立地状況や施設の所有形態等の制約にも応じた、当該措置を講ずるための機器や技術、人材の確保、設備の整備等の実現可能性の程度。 *費用・負担の程度 当該措置を講ずることによる費用・負担の程度。複数の障害者から合理的配慮に関する要望があった場合、それらの複数の障害者に係る必要性や負担を勘案して判断することとなります。 *事務・事業規模 当該事業所の規模に応じた負担の程度。 *財務状況 当該事業所の財務状況に応じた負担の程度。 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例 事業者が福祉サービスを提供するに際して、次のような取扱いをすることは「不当な差別的取扱い」となるおそれがあります。 p11 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではありません。また、客観的にみて正当な理由が存在する場合(第2(1)2 参照)は、不当な差別的取扱いに該当しない場合があることにご留意ください。 ○サービスの利用を拒否すること ・サービス提供の場面における障害者本人や第三者の安全性などについて具体的に考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由として施設利用を拒否すること ・人的体制、設備体制が整っており、対応可能であるにもかかわらず、医療的ケアの必要な障害者、重度の障害者、多動の障害者の福祉サービスの利用を拒否すること ・身体障害者補助犬の同伴を拒否すること ○サービスの利用を制限すること(場所・時間帯などの制限) ・正当な理由なく、対応を後回しにすること、サービス提供時間を変更又は限定すること ・正当な理由なく、他の者とは別室での対応を行うなど、サービス提供場所を限定すること ・正当な理由なく、サービス事業所選択の自由を制限すること(障害当事者が望まないサービス事業者をすすめるなど) ・サービスの利用に必要な情報提供を行わないこと ○サービスの利用に際し条件を付すこと(障害のない者には付さない条件を付すこと) ・保護者や支援者・介助者の同伴をサービスの利用条件とすること ・サービスの利用に当たって、他の利用者と異なる手順を課すこと(仮利用期間を設ける、他の利用者の同意を求めるなど) ○サービスの利用・提供に当たって、他の者とは異なる取扱いをすること ・正当な理由なく、行事、娯楽等への参加を制限すること ・正当な理由なく、年齢相当のクラスに所属させないこと p12 ・本人を無視して、支援者・介助者や付添者のみに話しかけること ・障害者本人の尊厳を軽視して、見下したような言葉遣いや幼児を相手にするような言葉で接すること ・正当な理由なく、本人の意思又はその家族等の意思(障害のある方の意思を確認することが困難な場合に限る。)に反して、福祉サービス(施設への入所、通所、その他サービスなど)を行うこと (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例 正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意が必要です。 ○車椅子の利用者が畳敷きの個室の利用を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行うこと。(事業者の損害発生の防止の観点) ○手続を行うため、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認すること。(障害者本人の損害発生防止の観点) (3)合理的配慮に該当すると考えられる例 事業者は、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合には、次のような合理的配慮を提供することが求められています。合理的配慮を提供する際には、障害者の性別、年齢、状態等に十分に配慮することが必要です。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではなく、掲載した例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意してください。また、事業者に強制する性格のものではなく、ここに記載された事例であっても、事業者の事業規模等によっては過重な負担となる可能性があるため、事業者においては、法、基本方針及び本指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待されます。 p13 なお、合理的配慮の提供に当たっては、個々の障害特性等をアセスメントし、個別の支援計画(サービス等利用計画、ケアプラン等)に位置付けるなどの取組も望まれます。 ○基準・手順の柔軟な変更 ・障害の特性に応じた休憩時間等の調整や必要なデジタル機器の使用などのルール、慣行を柔軟に変更すること ○物理的環境への配慮 ・施設内の段差にスロープを渡すこと ・エレベーターがない施設の上下階に移動する際、マンパワーで移動をサポートすること ・場所を1階に移す、トイレに近い場所にする等の配慮をすること ○補助器具・サービスの提供 <情報提供・利用手続きについての配慮や工夫> ・説明文書の点字版、拡大文字版、テキストデータ、音声データ(コード化したものを含む)の提供や必要に応じて代読・代筆を行うこと ・手話、要約筆記、筆談、図解、ふりがな付文書を使用するなど、本人が希望する方法で分かりやすい説明を行うこと ・文書を読み上げる等、口頭による丁寧な説明を行うこと ・電子メール、ホームページ、ファックスなど多様な媒体で情報提供、利用受付を行うこと <建物や設備についての配慮や工夫> ・電光表示板、磁気誘導ループなどの補聴装置の設置、点字サイン付き手すりの設置、音声ガイドの設置を行うこと ・色の組み合わせによる見にくさを解消するため、標示物や案内図等の配色を工夫すること p14 ・トイレ、作業室など部屋の種類や、その方向を示す絵記号や色別の表示などを設けること ・パニック等を起こした際に静かに休憩できる場所を設けること <職員などとのコミュニケーションや情報のやりとり、サービス提供についての配慮や工夫> ・館内放送を文字化したり、電光表示板で表示したりすること ・筆談、要約筆記、手話、読み上げ、点字、コミュニケーションボードの活用、触覚による意思伝達などによる多様なコミュニケーション、振り仮名や写真、イラストなど分かりやすい表現を使って説明するなどの配慮を行うこと ・口話が読めるようマスクを外して話をすること ・ICT(コンピューター等の情報通信技術)を活用したコミュニケーション機器(データを点字に変換して表示する、音声を文字変換する、表示された絵などを選択することができる機器など)を設置すること ※ 第2(2)1 合理的配慮の基本的な考え方<環境の整備との関係>においても触れましたが、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前の改善措置については、合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めることとされています。 <バリアフリーに関する環境の整備の例> ・施設内の段差を解消すること、スロープを設置すること ・トイレや浴室をバリアフリー化・オストメイト対応にすること ・床をすべりにくくすること ・階段や表示を見やすく明瞭にすること ・車椅子で利用しやすい高さにカウンターを改善すること <合理的配慮の提供と環境の整備の関係に係る例> ・代筆を求められた場合に対応できるよう、あらかじめ適切な代筆の仕方について職員研修を行うこと p15 ・オンラインでの手続が必要な場合に、ウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求められた場合に、電話や電子メールでの対応を行うとともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行うこと (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例 事業者が福祉サービスを提供するに際して、次のような取扱いをすることは、「合理的配慮の提供義務違反」に該当するおそれがあります。ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではありません。また、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについても前述(第2(2)参照)の観点等を踏まえて判断する必要があることにご留意ください。 ○筆記が困難であるためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の活用を認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること ○電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、自社マニュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例 合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、合理的配慮の提供義務に反しない場合であっても、過重な負担に当たると判断した場合等、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、建設的対話を通じて理解を得るよう努めることが望まれます。 ○事業者において、事業の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること。(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点) p16 (6)障害特性に応じた対応について 障害者と接する際には、それぞれの障害特性に応じた対応が求められます。以下に、代表的な障害特性と対応時に配慮すべき事項について簡単にまとめています。なお、障害の程度や状態等、具体的場面に応じて柔軟に対応するよう留意する必要があります。 このほか、障害児については、成人の障害者とは異なる支援の必要性があります。こどもは成長、発達の途上にあり、乳幼児期の段階から、個々のこどもの発達の段階に応じて一人ひとりの個性と能力に応じた丁寧に配慮された支援を行う発達支援が必要です。また、こどもを養育する家族を含めた丁寧かつ早い段階からの家族支援が必要です。特に、保護者がこどもの障害を知った時の気持ちを出発点とし、障害を理解する態度を持つようになるまでの過程においては、関係者の十分な配慮と支援が必要です。 また、医療的ケアを要する障害児については、配慮を要する程度に個人差があることに留意し、医療機関等と連携を図りながら、個々の状態や必要な支援を丁寧に確認し、適切な支援を行うことが必要です。 視覚障害(視力障害・視野障害)  【主な特性】 ・先天性で受障される方のほか、最近は糖尿病性網膜症などで受障される人も多く、高齢者では、緑内障や黄斑部変性症が多い ・視力障害:視覚的な情報を全く得られない又はほとんど得られない人と、文字の拡大や視覚補助具等を使用し保有する視力を活用できる人に大きく分けられる(全盲、弱視といわれることもある) *視力をほとんど活用できない人の場合、音声、触覚、嗅覚など、視覚以外の情報を手がかりに周囲の状況を把握している p17 *文字の読みとりは、点字に加えて最近では画面上の文字情報を読み上げるソフトを用いてパソコンで行うこともある(点字の読み書きができる人ばかりではない) *視力をある程度活用できる人の場合は、補助具を使用したり文字を拡大したり近づいて見るなどの様々な工夫をして情報を得ている ・視野障害:目を動かさないで見ることのできる範囲が狭くなる 「求心性視野狭窄(さく)」 見える部分が中心だけになって段々と周囲が見えなくなる・遠くは見えるが足元が見えず、つまずきやすくなる 「中心暗転」 周囲はぼんやり見えるが真ん中が見えない・文字等、見ようとする部分が見えなくなる ・視力障害、視野障害の状況によって、明るさの変化への対応が困難なため、移動などに困難さを生じる場合も多い 【主な対応】 ・音声や点字表示など、視覚情報を代替する配慮 ・中途受障の人では白杖を用いた歩行や点字の触読が困難な人も多いため留意が必要 ・声をかける時には前から近づき「○○さん、こんにちは。△△です。」など自ら名乗る ・説明する時には「それ」「あれ」「こっち」「このくらいの」などと指差し表現や指示代名詞で表現せず、「あなたの正面」「○○くらいの大きさ」などと具体的に説明 ・普段から通路(点字ブロックの上等)に通行の妨げになるものを置かない、日頃視覚障害者が使用しているものの位置を変えないなど周囲の協力が不可欠 ・主に弱視の場合、室内における照明の状況に応じて、窓を背にして座ってもらうなどの配慮が必要 聴覚障害 【主な特性】 ・聴覚障害は外見上分かりにくい障害であり、その人が抱えている困難も他の人からは気づかれにくい側面がある p18 ・聴覚障害者は補聴器や人工内耳を装用するほか、コミュニケーション方法には手話、筆談、口話など様々な方法があるが、どれか一つで十分ということではなく、多くの聴覚障害者は話す相手や場面によって複数の手段を組み合わせるなど使い分けている ・補聴器や人工内耳を装用している場合、スピーカーを通じる等、残響や反響のある音は、聞き取りにあまり効果が得られにくい ・聴覚の活用による言葉の習得に課題があることにより、聴覚障害者の国語力は様々であるため、筆談の場合は、相手の状況にあわせる 【主な対応】 ・手話や文字表示、手話通訳や要約筆記者の配置など、目で見て分かる情報を提示したりコミュニケーションをとる配慮 ・補聴器や人工内耳を装用し、残響や反響のある音を聞き取ることが困難な場合には、代替する対応への配慮(磁気誘導ループの利用など) ・音声だけで話すことは極力避け、視覚的なより具体的な情報も併用 ・スマートフォンなどのアプリに音声を文字に変換できるものがあり、これらを使用すると筆談を補うことができる 盲ろう(視覚と聴覚の重複障害) 【主な特性】 ・視覚と聴覚の重複障害の人を「盲ろう」と呼んでいるが、障害の状態や程度によって様々なタイプに分けられる(視覚障害、聴覚障害の項も参照のこと) <見え方と聴こえ方の組み合わせによるもの> 1 全く見えず聴こえない状態の「全盲ろう」 2 見えにくく聴こえない状態の「弱視ろう」 3 全く見えず聴こえにくい状態の「盲難聴」 4 見えにくく聴こえにくい状態の「弱視難聴」 <各障害の発症経緯によるもの> 1 盲(視覚障害)から聴覚障害を伴った「盲ベース盲ろう」 2 ろう(聴覚障害)から視覚障害を伴った「ろうベース盲ろう」 p19 3 先天的、あるいは乳幼児期に視覚と聴覚の障害を発症する「先天性盲ろう」 4 成人期以後に視覚と聴覚の障害が発症する「成人期盲ろう」  ・盲ろう者がそれぞれ使用するコミュニケーション手段は、障害の状態や程度、盲ろうになるまでの経緯、あるいは生育歴、他の障害との重複の仕方によって異なり、介助方法も異なる ・テレビやラジオを楽しむことや本や雑誌を読むことなどもできず、家族といてもほとんど会話がないため、孤独な生活を強いられることが多い 【主な対応】 ・盲ろう者関係機関に相談し、対応に関する助言を受ける ・障害の状態や程度に応じ視覚障害や聴覚障害の人と同じ対応が可能な場合があるが、同様な対応が困難な場合が多く、手書き文字や触手話、指点字などの代替する対応や移動の際にも配慮する ・言葉の通訳に加えて、視覚的・聴覚的情報についても意識的に伝える (例)状況説明として、人に関する情報(人数、性別等)や環境に関する情報(部屋の大きさや机の配置、その場の雰囲気等)など 肢体不自由 ○車椅子を使用されている場合 【主な特性】 ・脊髄損傷(対麻痺又は四肢麻痺、排泄障害、知覚障害、体温調節障害など) ・脳性麻痺(不随意運動、手足の緊張、言語障害、知的障害重複の場合もある) ・脳血管障害(片麻痺、運動失調) ・病気等による筋力低下や関節損傷などで歩行が困難な場合もある ・ベッドへの移乗、着替え、洗面、トイレ、入浴など、日常の様々な場面で援助が必要な人の割合が高い ・車椅子使用者にとっては、段差や坂道が移動の大きな妨げになる ・手動車椅子の使用が困難な場合は、電動車椅子を使用する場合もある ・障害が重複する場合には、呼吸器を使用する場合もある p20 【主な対応】 ・段差をなくす、車椅子移動時の幅・走行面の斜度、車椅子用トイレ、施設のドアを引き戸や自動ドアにするなどの配慮  ・机アプローチ時に車椅子が入れる高さや作業を容易にする手の届く範囲の考慮 ・ドア、エレベーターの中のスイッチなどの機器操作のための配慮 ・目線をあわせて会話する ・脊髄損傷者は体温調整障害を伴うことがあるため、部屋の温度管理に配慮 ○杖などを使用されている場合 【主な特性】 ・脳血管障害(歩行可能な片麻痺、運動失調) ・麻痺の程度が軽いため、杖や装具歩行が可能な場合や、切断者などで義足を使用して歩行可能な場合は、日常生活動作は自立している人が多い ・失語症や高次脳機能障害がある場合もある ・長距離の歩行が困難な場合や、階段、段差、エスカレーターや人ごみでの移動が困難な場合もあり、配慮が必要 【主な対応】 ・上下階に移動するときのエレベーター設置・手すりの設置 ・滑りやすい床など転びやすいので、雨天時などの対応 ・トイレでの杖おきの設置や靴の履き替えが必要な場合に椅子を用意するなどの配慮 ・上肢の障害があれば、片手や筋力低下した状態で作業ができる配慮 ○上肢に障害がある場合 【主な特性】 ・上肢(肩から関節を含む手指)に欠損がある、あるいは可動域に制限が生じる変形障害、動作に制限が生まれる運動機能障害等に分類 ・身体のバランスを上手くとることが難しいため、歩行が困難になる方もいる ・両上肢に障害がある場合は、配慮すべき場面が多くなり、支援が必要となることがある p21 ・物を掴んだり持ち上げたりといった行為が難しい場合もある 【主な対応】 ・片手に荷物をもったときのドアや鍵の開閉の補助や、買物等で会計をする際に荷物を置くスペースや置台を設置する等の対応 ・機器操作や瓶やペットボトル等の蓋開けの配慮 ・食事面では、ナイフ・フォークの使用が難しいときは、一口サイズにカットする等の配慮や、バイキング形式の食事ではトレーで食べ物を運ぶのが難しいため配膳の補助やワゴンを用意する等の配慮 構音障害 【主な特性】 ・話す言葉自体を聞き取ることが困難な状態 ・話す運動機能の障害、聴覚障害、咽頭摘出などの原因がある 【主な対応】 ・しっかりと話を聞く ・会話補助装置などを使ってコミュニケーションをとることも考慮する 失語症 【主な特性】 ・聞くことの障害 音は聞こえるが「ことば」の理解に障害があり「話」の内容が分からない 単語や簡単な文なら分かる人でも早口や長い話になると分からなくなる ・話すことの障害 伝えたいことをうまく言葉や文章にできない 発話がぎこちない、いいよどみが多くなったり、誤った言葉で話したりする ・読むことの障害 文字を読んでも理解が難しい ・書くことの障害 書き間違いが多い、また「てにをは」などをうまく使えない、文を書くことが難しい p22 【主な対応】 ・表情が分かるよう、顔を見ながら、ゆっくりと短いことばや文章で、分かりやすく話しかける ・一度でうまく伝わらない時は、繰り返して言ったり、別のことばに言い換えたり、漢字や絵で書いたり、写真・実物・ジェスチャーで示したりすると理解しやすい ・「はい」「いいえ」で答えられるように問いかけると理解しやすい ・話し言葉以外の手段(カレンダー、地図、時計など身近にあるもの)を用いると、コミュニケーションの助けとなる ※「失語症のある人の雇用支援のために」(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター)より一部引用 高次脳機能障害 交通事故や脳血管障害などの病気により、脳にダメージを受けることで生じる認知や行動に生じる障害。身体的には障害が残らないことも多く、外見では分かりにくいため「見えない障害」とも言われている。 【主な特性】 ・以下の症状が現れる場合がある 記憶障害: すぐに忘れてしまったり、新しい出来事を覚えることが苦手なため、何度も同じことを繰り返したり質問したりする 注意障害: 集中力が続かなかったり、ぼんやりしてしまったりして、何かをするとミスが多く見られる 二つのことを同時にしようとすると混乱する 主に左側で、食べ物を残す、障害物に気が付かないことなどがある 遂行機能障害: 自分で計画を立てて物事を実行したり、効率よく順序立てたりできない 社会的行動障害: ささいなことでイライラしてしまい、興奮しやすい こだわりが強く表れる、欲しいものを我慢できない 思い通りにならないと大声を出したり、時に暴力をふるったりする p23 病識欠如: 上記のような症状があるという認識が乏しく、できるつもりで行動してトラブルになる ・失語症を伴う場合がある(失語症の項を参照) ・片麻痺や運動失調等の運動障害や眼や耳の損傷による感覚障害を持つ場合がある 【主な対応】 ・本障害に詳しいリハビリテーション専門医やリハ専門職、高次脳機能障害支援普及拠点機関、家族会等に相談する ・記憶障害 手がかりがあると思い出しやすいので、手帳やメモ、アラームを利用したり、ルートマップを持ち歩いてもらったりする 自分でメモを取ってもらい、双方で確認する 残存する受傷前の知識や経験を活用する(例えば、過去に記憶している自宅周囲では迷わず行動できるなど) ・注意障害 短時間なら集中できる場合もあるので、こまめに休憩を取るなどする ひとつずつ順番にやる 左側に危険なものを置かない ・遂行機能障害 手順書を利用する 段取りを決めて目につくところに掲示する スケジュール表を見ながら行動したり、チェックリストで確認したりする ・社会的行動障害 感情をコントロールできない状態にあるときは、上手に話題や場所を変えてクールダウンを図る 予め行動のルールを決めておく p24 内部障害 【主な特性】 ・心臓機能、呼吸器機能、腎臓機能、膀胱・直腸機能、小腸機能、肝機能、HIVによる免疫機能等の障害により日常生活に支障がある ・疲れやすく長時間の立位や作業が困難な場合がある ・常に医療的対応を必要とすることが多い 【主な対応】 ・ペースメーカーは外部からの電気や磁力に影響をうけることがあるので注意すべき機器や場所などの知識をもつ ・排泄に関し、人工肛門の場合、パウチ洗浄等特殊な設備が必要となることへの配慮 ・人工透析が必要な人については、通院の配慮 ・呼吸器機能障害のある方は、慢性的な呼吸困難、息切れ、咳等の症状があることを理解し、息苦しくならないよう、楽な姿勢でゆっくり話をしてもらうよう配慮 ・常時酸素吸入が必要な方は、携帯用酸素ボンベが必要な場合があることを理解 重症心身障害・その他医療的ケアが必要な者 【主な特性】 ・自分で体を動かすことができない重度の肢体不自由と、年齢に相応した知的発達が見られない重度の知的障害が重複している ・ほとんど寝たままで自力では起き上がれない状態が多い ・移動、食事、着替え、洗面、トイレ、入浴などが自力ではできないため、日常の様々な場面で介助者による援助が必要 ・常に医学的管理下でなければ、呼吸することも栄養を摂ることも困難な人もいる ・重度の肢体不自由や重度の知的障害はないが、人工呼吸器を装着するなど医療的ケアが必要な人もいる 【主な対応】 ・人工呼吸器などを装着して専用の車椅子で移動する人もいるため、電車やバスの乗降時等において、周囲の人が手伝って車椅子を持ち上げるなどの配慮が必要 ・体温調整がうまくできないことも多いので、急な温度変化を避ける配慮が必要 p25 知的障害 【主な特性】 ・概ね18歳頃までの心身の発達期に現れた知的機能の障害により、生活上の適応に困難が生じる ・「考えたり、理解したり、読んだり、書いたり、計算したり、話したり」する等の知的な機能に発達の遅れが生じる ・金銭管理、会話、買い物、家事などの社会生活への適応に状態に応じた援助が必要 ・主な原因として、ダウン症候群などの染色体異常、または先天性代謝異常によるものや、脳症や外傷性脳損傷などの脳の疾患があるが、原因が特定できない場合もある ・てんかんを合併する場合もある ・ダウン症候群の場合の特性として、筋肉の低緊張、多くの場合、知的な発達の遅れがみられること、また心臓に疾患を伴う場合がある 【主な対応】 ・言葉による説明などを理解しにくいため、ゆっくり、ていねいに、分かりやすく話すことが必要 ・文書は、漢字を少なくしてルビを振る、文書を分かりやすい表現に直すなどの配慮で理解しやすくなる場合があるが、一人ひとりの障害の特性により異なる ・写真、絵、ピクトグラムなど分かりやすい情報提供を工夫する ・説明が分からないときに提示するカードを用意したり、本人をよく知る支援者が同席したりするなど、理解しやすくなる環境を工夫する 発達障害 ○自閉症、アスペルガー症候群を含む広汎性発達障害(自閉症スペクトラム) 【主な特性】 ・コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手な部分もある p26 ・特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりする ・感覚の過敏さを持ち合わせている場合もある ・強い関心や感覚の鋭さを社会の中で活かして活躍される方もいる 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・肯定的、具体的、視覚的な伝え方の工夫(「○○をしましょう」といったシンプルな伝え方、その人の興味関心に沿った内容や図・イラストなどを使って説明するなど) ・スモールステップによる支援(手順を示す、モデルを見せる、体験練習をする、新しく挑戦する部分は少しずつにするなど) ・感覚過敏がある場合は、音や肌触り、室温など感覚面の調整を行う(イヤーマフを活用する、大声で説明せずホワイトボードで内容を伝える、人とぶつからないように居場所を衝立などで区切る、クーラー等の設備のある部屋を利用できるように配慮するなど) ○学習障害(限局性学習障害) 【主な特性】 ・「話す」「理解」は普通にできるのに、「読む」「書く」「計算する」ことが、努力しているのに極端に苦手 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・得意な部分を積極的に使って情報を理解し、表現できるようにする(ICTを活用する際は、文字を大きくしたり行間を空けたりするなど、読みやすくなるように工夫する) ・苦手な部分について、課題の量・質を適切に加減する、柔軟な評価をする p27 ○注意欠陥多動性障害(注意欠如・多動性障害) 【主な特性】 ・年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性・衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性がある ・多動性・衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もある ・また、いろいろなことに関心を持ったりエネルギッシュに仕事等に取り組まれたりする方もいる。 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・短く、はっきりとした言い方で伝える ・気の散りにくい座席の位置の工夫、分かりやすいルール提示などの配慮 ・ストレスケア(傷つき体験への寄り添い、適応行動が出来たことへのこまめな評価) ○その他の発達障害 【主な特性】 ・体の動かし方の不器用さ、我慢していても声が出たり体が動いてしまったりするチック、一般的に吃音と言われるような話し方なども、発達障害に含まれる 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・叱ったり拒否的な態度を取ったり、笑ったり、ひやかしたりしない ・日常的な行動の一つとして受け止め、時間をかけて待つ、苦手なことに無理に取組まず出来ることで活躍する環境を作るなど、楽に過ごせる方法を一緒に考える 精神障害 ・精神障害の原因となる精神疾患は様々であり、原因となる精神疾患によって、その障害特性や制限の度合いは異なる ・精神疾患の中には、長期にわたり、日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態が続くものがある ・代表的な精神疾患として、統合失調症や気分障害等がある ・障害の特性もさまざまであるため、積極的に医療機関と連携を図る、専門家の意見を聴くなど、関係機関と協力しながら対応する p28 ○統合失調症 【主な特性】 ・発症の原因はよく分かっていないが、100人に1人弱かかる、比較的一般的な病気である ・「幻覚」や「妄想」が特徴的な症状だが、その他にも様々な生活のしづらさが障害として表れることが知られている ・陽性症状 幻覚: 実態がなく他人には認識できないが、本人には感じ取れる感覚のこと なかでも、自分の悪口やうわさ、指図する声等が聞こえる幻聴が多い 妄想: 明らかに誤った内容を信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのこと。誰かにいやがらせをされているという被害妄想、周囲のことが何でも自分に関係しているように思える関係妄想などがある ・陰性症状 意欲が低下し、以前からの趣味や楽しみにしていたことに興味を示さなくなる 疲れやすく集中力が保てず、人づきあいを避け引きこもりがちになる 入浴や着替えなど清潔を保つことが苦手となる など ・認知や行動の障害 考えがまとまりにくく何が言いたいのか分からなくなる 相手の話の内容がつかめず、周囲にうまく合わせることができない など 【主な対応】 ・統合失調症は脳の病気であることを理解し、病気について正しい知識を学ぶ必要がある ・薬物療法が主な治療となるため、内服を続けるために配慮する ・社会との接点を保つことも治療となるため、本人が病気と付き合いながら、他人と交流したり、仕事に就くことを見守る ・一方で、ストレスや環境の変化に弱いことを理解し、配慮した対応を心掛ける p29 ・一度に多くの情報が入ると混乱するので、伝える情報は紙に書くなどして整理してゆっくり具体的に伝えることを心掛ける ・症状が強い時には無理をさせず、しっかりと休養をとることや、速やかに主治医を受診することなどを促す ○気分障害 【主な特性】 ・気分の波が主な症状としてあらわれる病気。うつ状態のみを認める時はうつ病と呼び、うつ状態と躁状態を繰り返す場合には、双極性障害(躁うつ病)と呼ぶ ・うつ状態では気持ちが強く落ち込み、何事にもやる気が出ない、疲れやすい、考えが働かない、自分が価値のない人間のように思える、死ぬことばかり考えてしまい実行に移そうとするなどの症状がでる ・躁状態では気持ちが過剰に高揚し、普段ならあり得ないような浪費をしたり、ほとんど眠らずに働き続けたりする。その一方で、ちょっとした事にも敏感に反応し、他人に対して怒りっぽくなったり、自分は何でも出来ると思い込んで人の話を聞かなくなったりする 【主な対応】 ・専門家の診察の上で、家族や本人、周囲の人が病気について理解する ・薬物療法が主な治療となるため、内服を続けるために配慮する ・うつ状態の時は無理をさせず、しっかりと休養をとれるよう配慮する ・躁状態の時は、金銭の管理、安全の管理などに気を付け、対応が難しい時には専門家に相談する ・自分を傷つけてしまうことや、自殺に至ることもあるため、自殺などを疑わせるような言動があった場合には、本人の安全に配慮した上で、速やかに専門家に相談するよう本人や家族等に促す p30 ○依存症(アルコール) 【主な特性】 ・飲むことが良くない状況やタイミング等を分かっているにもかかわらず、飲酒したいという強い欲求がコントロールできず、過剰に飲酒したり、昼夜問わず飲酒したりすることで身体的、社会生活上の様々な問題が生じる ・体がアルコールに慣れることで、アルコールが体から抜けると、発汗、頻脈、手の震え、不安、イライラなどの離脱症状が出る ・一念発起して断酒しようとしても、離脱症状の不快感や、日常生活での不安感から逃れるために、また飲んでしまう 【主な対応】 ・本人に病識がなく(場合によっては家族も)、アルコール依存症は治療を必要とする病気であるということを、本人・家族・周囲が理解する ・周囲の対応が結果的に本人の飲酒につながってしまう可能性があるため、家族も同伴の上で、アルコール依存症の専門家に相談する ・一度断酒しても、再度飲酒してしまうことが多いため、根気強く本人を見守る ○認知症 【主な特性】 ・認知症とは、単一の病名ではなく、種々の原因となる疾患により記憶障害など認知機能が低下し、生活に支障が出ている状態である ・原因となる主な疾患として、 アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症等がある ・認知機能の障害の他に、行動・心理症状(BPSD)と呼ばれる症状(徘徊(はいかい)、不穏、興奮、幻覚、妄想など)がある 【主な対応】 ・認知症は誰もがなりうるものであり、家族や身近な人が認知症になることなどを含め、多くの人にとって身近なものであることを理解する ・認知症の人を個性、想い、人生の歴史等を持つ主体として尊重し、各々の意思や価値観に共感し、できないことではなく、できることやできる可能性のあることに目を向けて、本人が有する力を最大限に活かしながら、地域社会の中で本人のなじみの暮らし方やなじみの関係が継続できるよう、伴走者として支援していく ・早期に気付いて適切に対応していくことができるよう、小さな異常を感じたときに速やかに適切な機関に相談できるようにする p31 ・認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)には、何らかの意味があり、その人からのメッセージとして聴くことが重要であり、BPSDの要因として、さまざまな身体症状、孤立・不安、不適切な環境・ケア、睡眠や生活リズムの乱れなどにも目を向ける ・症状が変化した等の場合には、速やかに主治医を受診し、必要に応じて専門機関に相談することなどを促す てんかん 【主な特性】 ・何らかの原因で、一時的に脳の一部が過剰に興奮することにより、発作がおきる ・発作には、けいれんを伴うもの、突然意識を失うもの、意識はあるが認知の変化を伴うものなど、様々なタイプのものがある 【主な対応】 ・誰もがかかる可能性がある病気であり、専門家の指導の下に内服治療を行うことで、多くの者が一般的な生活が送れることを理解する ・発作が起こっていないほとんどの時間は普通の生活が可能なので、発作がコントロールされている場合は、過剰に活動を制限しない ・内服を適切に続けることが重要である。また、発作が起こってしまった場合には、本人の安全を確保した上で専門機関に相談する 難病 【主な特性】 ・神経筋疾病、骨関節疾病、感覚器疾病など様々な疾病により多彩な障害を生じる ・常に医療的対応を必要とすることが多い ・病態や障害が進行する場合が多い 【主な対応】 ・専門の医師に相談する ・それぞれの難病の特性が異なり、その特性に合わせた対応が必要 p32 ・進行する場合、病態・障害の変化に対応が必要 ・排泄の問題、疲れやすさ、状態の変動などに留意が必要 ・薬の効き具合による日内変化などに留意が必要 ・体調がすぐれない時に休憩できる場所を確保する 第4 事業者における相談体制の整備 障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に応じることが必要です。そのためには、法で定められた国や地方公共団体における相談及び紛争の防止等のための体制整備のみならず、障害者にサービス提供を行う事業者において、直接、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に応じるための体制の整備や事業主や管理職を含むすべての職員の研修・啓発を行うことが重要です。 中でも、福祉の専門知識及び技術をもって福祉サービスを提供する事業者については、特に、その基本的専門性に鑑み、より充実した相談体制の整備をはじめ、日頃から、障害に関する理解や人権意識の向上・障害者の権利擁護に向けた職員の研修に積極的に取り組むことが重要です。 なお、事業所において相談窓口等を設置(事業所における既存の苦情解決体制や相談窓口を活用することも考えられます)する際には、ホームページ等を活用し、相談窓口等に関する情報の周知を図り、利用しやすいものとするよう努めるとともに、対面のほか、電話(電話リレーサービスの対応を含む)、ファックス、電子メールなどの多様な手段を相談者の障害特性に応じて可能な範囲で用意しておくことが重要です。また、相談等に対応する際には、障害者の性別・年齢・状態等に配慮することが重要です。例えば、女性の相談員を配置することも考えられます。実際の相談事例については、相談者のプライバシーに配慮しつつ順次蓄積・公表し、以後の合理的配慮の提供等に活用することが望まれます。あわせて、地方自治体の相談窓口や障害者差別解消支援地域協議会、障害当事者団体、医療、教育、労働関係機関などとも連携して、差別解消に向けた取組を着実に進めていくことが望まれます。 p33 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 障害者差別は、障害に関する知識・理解の不足、意識の偏りなどにより引き起こされることが大きいと考えられることから、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重する共生社会を目指すことの意義を職員が理解することが重要です。 また、こうした理念が真に理解されることが、障害者差別や、障害者が時に感じる大人の障害者に対するこども扱い、障害者に対する命令的、威圧的、強制的な発言などの解消にもつながるものと考えられます。 このため、事業者においては、研修等を通じて、法の趣旨の普及を図るとともに、事業所の地域の取組のなかで近隣住民への理解を促していくことが重要です。研修等の実施に当たっては、内閣府が障害者の差別解消に向けた理解促進のためのポータルサイトにおいて提供している、事業者が障害者に対応する際に参考となる対応例等、行政機関が作成し提供する周知・啓発資料等を活用することも考えられます。また、障害者から話を聞く機会を設けることも有効です。 加えて、事業者の内部規則やマニュアル等について、障害者へのサービス提供等を制限するような内容が含まれていないかについて点検することや、個別の相談事案等への対応を契機として、必要な制度の改正等を検討するなど、障害を理由とする差別の解消の推進に資するよう、制度等を整備することが重要です。 なお、障害者差別の理解には、障害者虐待防止に関する理解も極めて重要になってくることから、併せて研修を行うことが望まれます。 p34 第6 国の行政機関における相談窓口 法第14条において、「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう人材の育成及び確保のための措置その他の必要な体制の整備を図るものとする」と規定されています。 相談に際しては、福祉事務所などの地域の自治体の様々な相談窓口や各都道府県において組織される障害者差別解消支援地域協議会などもご活用ください。 厚生労働省における福祉関係の担当窓口は以下のとおりです。 (1)生活保護関係 社会・援護局保護課 (2)地域福祉、生活困窮者自立支援関係 社会・援護局地域福祉課 社会・援護局地域福祉課 生活困窮者自立支援室 (3)障害者福祉関係 障害保健福祉部企画課  障害保健福祉部障害福祉課 障害保健福祉部精神・障害保健課 (4)高齢者福祉関係 老健局総務課 第7 主務大臣による行政措置 事業者における障害者差別解消に向けた取組は、本指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待されています。しかし、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされています。(法第12条) p35 おわりに 障害者差別解消法の理念を実現していくには、国民一人ひとりの障害に対する理解と適切な配慮が不可欠であり、差別と解される事例についても、お互いの意思疎通不足や理解の不足が起因していると思われることも見受けられます。法に定められたから義務としてやるという姿勢ではなく、事業者や障害者が歩み寄り理解を深めていくことが、差別解消の第一歩につながると考えられます。 本指針は、そうした事業者の取組に資するよう、今後も、より具体的な事例、特に好事例をお示しできるよう努めてまいります。 事業者のみなさまの法に関するより深い理解と、障害者差別解消に向けた取組を積極的に進めて頂きますようお願いします。 p36 参考資料 p37 ■障害者差別解消法関係の経緯 平成16年6月4日 障害者基本法改正 ※施策の基本的理念として差別の禁止を規定 平成18年12月13日 第61回国連総会において障害者権利条約を採択 平成19年9月28日 日本による障害者権利条約への署名 平成23年8月5日 障害者基本法改正 ※障害者権利条約の考え方を踏まえ、合理的配慮の概念を規定 平成25年4月26日 障害者差別解消法案閣議決定、国会提出 平成25年6月26日 障害者差別解消法 公布・一部施行 平成26年1月20日 障害者の権利に関する条約締結 平成27年2月24日 障害者差別解消法「基本方針」閣議決定 平成28年4月1日 障害者差別解消法施行 令和3年6月4日 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 公布 令和5年3月14日 障害者差別解消法「基本方針」の変更閣議決定 p38 ■障害者権利条約とは 障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定めた条約です。 2006(平成18)年12月13日に国連総会において採択され、2008(平成20)年5月3日に発効しました。我が国は2007(平成19)年9月28日に条約に署名し、2014(平成26)年1月20日に批准書を寄託しました。また、同年2月19日に同条約は我が国について効力を発生しました。 この条約の主な内容としては、以下のとおりです。 (1)一般原則 障害者の尊厳、自律及び自立の尊重、無差別、社会への完全かつ効果的な参加及び包容等 (2)一般的義務 合理的配慮の実施を怠ることを含め、障害に基づくいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること等 (3)障害者の権利実現のための措置 身体の自由、拷問の禁止、表現の自由等の自由権的権利及び教育・労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置等を規定。社会権的権利の実現については漸進的に達成することを許容 (4)条約の実施のための仕組み 条約の実施及び監視のための国内の枠組みの設置。障害者の権利に関する委員会における各締約国からの報告の検討 p39 ■本指針に関する障害者差別解消法の参照条文 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (目的) 第1条 この法律は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。 第6条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。 2から6 (略) (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第8条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (事業者のための対応指針) 第11条 主務大臣は、基本方針に即して、第8条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めるものとする。 2 (略) (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) 第12条 主務大臣は、第8条の規定の施行に関し、特に必要があると認める時は、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。 p40 ■国の「基本方針」に定められた「対応指針」に関する規定 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定) 第4 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 2 対応指針 (1)対応指針の位置付け及び作成・変更手続 主務大臣は、個別の場面における事業者の適切な対応・判断に資するための対応指針を作成するものとされている。作成・変更に当たっては、障害者や事業者等を構成員に含む会議の開催、障害者団体や事業者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成等の後は、対応指針を公表しなければならない。 対応指針は、事業者の適切な判断に資するために作成されるものであり、盛り込まれる合理的配慮の具体例は、事業者に強制する性格のものではなく、また、それだけに限られるものではない。事業者においては、対応指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待される。 また、対応指針は事業者に加え、障害者が相談を行う際や、国や地方公共団体における相談機関等が相談対応を行う際等にも、相談事案に係る所管府省庁の確認のため参照され得るも のであることから、対応指針においては、各主務大臣が所掌する分野及び当該分野に対応する相談窓口を分かりやすく示すことが求められる。 (2)対応指針の記載事項 対応指針の記載事項としては、以下のものが考えられる。なお、具体例を記載する際には、障害特性や年齢、性別、具体的な場面等を考慮したものとなるよう留意することとする。 ○趣旨 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例 ○事業者における相談体制の整備 ○事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 ○国の行政機関(主務大臣)における所掌する分野ごとの相談窓口 p41 ■障害者に関係するマークの一例 「令和5年版 障害者白書」(内閣府)より 【障害者のための国際シンボルマーク】 所管:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 【盲人のための国際シンボルマーク】 所管:社会福祉法人日本盲人福祉委員会 【身体障害者標識(身体障害者マーク)】 所管:警察庁 【聴覚障害者標識(聴覚障害者マーク)】 所管:警察庁 【ほじょ犬マーク】 所管:厚生労働省 【耳マーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【ヒアリングループマーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【オストメイト用設備/オストメイト】 所管:公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団 【ハート・プラスマーク】 所管:特定非営利活動法人 ハート・プラスの会 【「白杖SOSシグナル」普及啓発シンボルマーク】 所管:岐阜市 【ヘルプマーク】 所管:東京都 【手話マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 【筆談マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 p42 ■コミュニケーション支援用絵記号の例 「R5年版 障害者白書」(内閣府)より 【絵記号の例】 わたし あなた 感謝する 助ける 【絵記号による意思伝達の例】 朝起きたら顔を洗って歯を磨いてください。 p43 ■身体障害者補助犬とは         「身体障害者補助犬」は、目や手足や耳に障害のある方の生活をお手伝いする、「盲導犬」・「介助犬」・「聴導犬」のことです。                        身体障害者補助犬法に基づき認定された犬で、特別な訓練を受けています。 補助犬の種類 ○盲導犬 目の見えない人、見えにくい人が街なかを安全に歩けるようにサポートします。障害物を避けたり、立ち止まって曲がり角を教えたりします。ハーネス(胴輪)をつけています。 ○介助犬 手や足に障害のある人の日常の生活動作をサポートします。物を拾って渡したり、指示したものを持ってきたり、着脱衣の介助などを行ないます。「介助犬」と書かれた表示をつけています。 ○聴導犬 音が聞こえない、聞こえにくい人に、生活の中の必要な音を知らせます。玄関のチャイム音・FAX着信音・赤ちゃんの泣き声などを聞き分けて教えます。「聴導犬」と書かれた表示をつけています。 補助犬の同伴については、「身体障害者補助犬法」で、人が立ち入ることのできるさまざまな場所で受け入れるよう義務づけられています。「犬だから」という理由で受け入れを拒否しないでください。 補助犬の同伴を受け入れる義務がある場所 ・国や地方公共団体などが管理する公共施設・ 公共交通機関(電車、バス、タクシーなど) ・不特定かつ多数の人が利用する民間施設−商業施設、飲食店、病院、ホテルなど ・事務所(職場)−国や地方公共団体などの事務所−従業員40人、令和8年7月1日以降は37.5人以上の民間企業 補助犬の同伴を受け入れる努力をする必要がある場所 ・事務所(職場)−従業員40人、令和8年7月1日以降は37.5人未満の民間企業 ・民間住宅 補助犬の受け入れ施設の方へ ○補助犬は、ユーザーの指示に従い待機することができるので、特別な設備は必要ありません。 ○補助犬の同伴を受け入れる際に他のお客様から苦情がある場合は、「身体障害者補助犬法」で受け入れ義務があること、補助犬の行動や健康の管理はユーザーが責任をもって行なっていることを説明し、理解を求めてください。 ○補助犬が通路をふさいだり、周りのにおいを嗅ぎ回ったり、その他、何か困った行動をしている場合は、そのことを補助犬ユーザーにはっきり伝えてください。 ○補助犬を同伴していても、補助犬ユーザーへの援助が必要な場合があります。補助犬ユーザーが困っている様子を見かけたら、まずは声をかけたり、筆談をしたりコミュニケーションをとってください。 p44 ■障害特性や特性ごとの配慮事項等 ※障害特性や特性ごとの配慮事項等を知るには、例えば、以下のようなホームページがあります。 【内閣府】障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト https://shougaisha-sabetukaishou.go.jp/ 【国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター】こころの情報サイト https://kokoro.ncnp.go.jp/ 【青森県】障害を知るためのガイドブック https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/syofuku/kyouseishakai.html 【群馬県障害者社会参加推進協議会】障害のある方へのマナーブック https://www.normanet.ne.jp/~gunmasin/pdf/R5manner06.pdf 【千葉県】障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン https://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/shougai-kurashi/jouhouhoshou/ 【東京都心身障害者福祉センター】障害の理解のために(リーフレット) https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shinsho/tosho/hakkou/pamphlet/syougairikai.html 【八王子市】みんなちがってみんないい(障害のある人を理解するためのガイドブック) https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/005/014/009/p021337.html 【武蔵野市】心のバリアフリーハンドブック https://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/542/handbook_kaitei.pdf 【厚木市】この街でともに…〜障害のある人を理解するためのガイドブック〜 https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/shogaifukushika/9/12/1889.html 【富山県】障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちづくりのためのアドバイス事例集(障害のある人が「困った」事例から) https://www.pref.toyama.jp/1209/kurashi/kenkou/shougaisha/jigyousha/kj00011743.html 【大阪府】障がい者が必要とする社会的障壁の除去のための配慮や工夫の事例について http://www.pref.osaka.lg.jp/keikakusuishin/go-hai/ 【島根県・鳥取県】障がいを知り、共に生きる https://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/syougai/ippan/aisupport/supporter.html https://www.pref.tottori.lg.jp/273476.htm 【熊本県】障害のある人もない人も共に生きる熊本づくりのために(パンフレット) http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_3020.html 【沖縄県】こころのバリアフリー2(各種冊子) http://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kodomo/shogaifukushi/keikaku/jorei/bf2.html 【名古屋市】こんなときどうする?‐障害のある人を理解し、配慮のある接し方をするためのガイドブック‐ http://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/22-2-0-0-0-0-0-0-0-0.html 【横浜市】わかりやすい印刷物のつくり方(ユニバーサルデザインの視点から) https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/fukushi-kaigo/fuku-machi/torikumi/insatutop.html p45 ■障害特性に応じた具体的対応例(その1) 自分のタイミングで移動したい(視覚障害1) 全盲の視覚障害者Aさんは、地域の福祉センターを訪問する際、案内看板等が見えず単独で行くことができませんでした。しかしセンター入り口付近にガイドボランティアが配置され、手助けが必要な人に一声かけてくれるようになったことから、付き添いがなくても一人で通うことができるようになりました。 また併せて、エレベーターや階段の手すりにも点字シールを表示することになり、ガイドボランティアと離れていても、自分のタイミングで移動することが可能になり、御本人の気持ちもとても自由になりました。 アンケートも多様な方法で(視覚障害2) アンケートを取る際に、印刷物だけを配布していました。すると、視覚障害の方から、電子データでほしいと要望がありました。電子データであればパソコンの読み上げソフトを利用して回答できるからとのことでした。 紙媒体という画一的な方法ではなく、テキストデータでアンケートを送信し、メールで回答を受け取るという方法をとることで、視覚障害の方にもアンケートに答えてもらえるようになりました。 同性による案内(視覚障害3) 視覚障害者のBさんはトイレの個室を利用するため、職員の方に案内をお願いしました。また、同性の職員に案内してほしいということも伝えたところ、希望に応じて同性の職員に案内をしてもらえるようになりました。 p46 ■障害特性に応じた具体的対応例(その2) 研修会等での配慮(聴覚障害1) 聴覚障害者(2級)のAさんは、ある研修会に参加することとなりました。事務局から研修担当者には、Aさんは聴覚障害があるので配慮するよう伝えていましたが、研修担当者はAさんは補聴器を付けていたので問題ないと思い、特段の配慮もなく研修が進められ第1日目が終わってしまいました。Aさんは、補聴器をつけていても、すべて聞き取れる訳ではないことを事務局に相談したところ、次回以降、手話通訳者か要約筆記者(ノートテイク)で対応してくれることとなりました。 呼び出し方法の改善(聴覚障害2) 聴覚障害者(発語可能・4級)のBさんは事務手続きのため、受付を済ませ呼び出しを待っていましたがなかなか呼ばれませんでした。受付に、呼ばれていないことを申し出ると、「名前を呼びましたが、返事がありませんでした」とのことでした。音声による通常の呼び出ししか行われなかったためです。 その後、事務局は対応を検討し、聴覚障害のある方には、文字情報などでも呼び出しを伝え、手続きに関するやりとりに関しても筆談等で対応することとしました。 盲ろう者とのコミュニケーション(盲ろう者) 盲ろう者であるAさんは、通訳・介助者を同伴し、パソコン訓練を実施する施設に相談に行きましたが、盲ろう者との特殊なコミュニケーション方法である「手書き文字」「点字筆記」「触手話」「指点字」ができる職員がいないとの理由で受け入れを断られてしまいました。 後日、Aさんは通訳・介助者を同伴して盲ろう者関係機関に相談したところ、「Aさんは点字ができること、また、手のひらに書く(手書き文字)ことでコミュニケーションがとれることを施設側に伝えたらよいのでは。」との助言を受け、あらためて、Aさんは点字ができること、また手のひらに書く(手書き文字)ことでコミュニケーションがとれることを施設に説明した結果、施設側も理解を示し、前向きに受け入れる方向で話が進展しました。 p47 ■障害特性に応じた具体的対応例(その3) 建物の段差が障壁に(肢体不自由1) 車椅子を使用している身体障害者(1級)Aさんが、外出中、建物に入ろうとすると大きな段差があり立ち往生してしまいました。 スタッフに協力をお願いしてみると、段差を車椅子で乗り越える手伝いを申し出てくれました。介助のお陰で、無事に建物に入ることができました。 障害への理解が深まれば(肢体不自由2) 座骨部に褥(じょく)瘡(そう)(床ずれ)発生を繰り返している脊髄損傷者Bさん。褥瘡は、長時間座位を保持していることが原因で発生していました。褥瘡悪化による手術で数ヶ月単位の入院を繰り返していました。 納期がせまっており長時間作業をしなければならない場面でも、時間調整や褥瘡予防できる姿勢を確保するため途中で休憩をとることなど周囲の理解と協力を得ることで、褥瘡の発生をおさえ、入退院を繰り返すことなく生活することが可能になりました。 p48 ■障害特性に応じた具体的対応例(その4) 施設での電動車椅子による自立移動(肢体不自由3) 重度の脳性麻痺であるCさんは、介助用車椅子を使用し、施設職員や家族の介助による移動が主でした。リハビリテーションセンターにおいて、施設での電動車椅子による自立移動が可能か検討したところ、座位保持装置や特殊スイッチを装備・使用した電動車椅子で安全に施設内を移動できることがわかりました。 当初、施設側が電動車椅子移動による安全性の確保について懸念していましたが、リハビリテーションセンター担当職員による実地確認や使い方の指導により安全な移動が可能であることが理解され、その結果、施設内で本人の意思により自由に移動することが可能となりました。 脳卒中の後遺症があるが、働くことを希望する方への支援(肢体不自由4) 50歳代で脳梗塞(脳卒中の種類の1つ)を発症し、入浴、更衣、屋外の外出などに介助が必要であることから、日中自宅に閉じこもりがちであるが、今後、働くことを希望しているDさん。本人の残存能力を踏まえ、更衣や外出練習などを提供する通所リハビリテーションに通うことになりました。訓練により、就労に向けて活動するための機能が向上し、地域の就労継続支援事務所に通うことで社会参加できるようになりました。 p49 ■障害特性に応じた具体的対応例(その5) 話すことの障害(失語症) 失語症(発語がうまくできない)のAさんが、買い物に行きましたが、自分の欲しいものを探すことができませんでした。店員にどこにあるのか尋ねようとしましたが、欲しいものをうまく伝えられず、時間が経過するばかりでした。 店員は、Aさんが言葉をうまく話せないことがわかったため、「食べ物」、「飲み物」、「日用品」等と的を徐々に絞って確認していく方法をとったところ、Aさんの欲しいものが判明し購入することができました。 p50 ■障害特性に応じた具体的対応例(その6) メモを活用して行き違いを防止(高次脳機能障害) 高次脳機能障害のAさんに、先ほど伝えたことを忘れて勝手な行動をしていると注意したところ、聞いていなかった、知らないと逆に怒り出してしまいました。Aさんは普段、難しい言葉を使ったり、以前のことをよく覚えている方なので、高次脳機能障害の特性を知らない周囲の人は、Aさんはいい加減な人だと腹を立てて、人間関係が悪化してしまいました。 高次脳機能障害者は受傷前の知識や経験を覚えている場合が多いのですが、直近のことを忘れてしまいがちであるという説明を受け、周囲の人は、障害の特性であることを理解することができました。また、口頭で伝えたことは言った、言わないとトラブルのもとになりやすいので、メモに書いてもらい、双方で確認するようにしたら、トラブルがおきなくなりました。 p51 ■障害特性に応じた具体的対応例(その7) 作業能力を発揮するための一工夫(知的障害1) Aさんは、作業能力はあるけれど、不安が強くなると本来の作業能力が発揮できなくなってしまいます。Aさんの担当は清掃作業。1フロアーを一人で担当するように任されていましたが、広い範囲を一人で任されることに不安を感じ、本来の作業能力を発揮できずミスが増えていました。 作業量は変えずに2フロアーを2人で担当する様にしたところ、Aさんの不安が減少し、本来の能力を発揮できるようになり、ミスも減りました。 対人コミュニケーションに困難を抱える若者の就労支援(知的障害2) Bさんは、高校を中退後、一時アルバイトを経験したものの、すぐに辞めてしまってからは就労から遠ざかった生活を続けていました。軽度の知的障害が疑われ、対人コミュニケーションに課題を抱えるBさんは、以前、アルバイト先の上司から強く叱責を受けたことで、すっかり自信と意欲を失っていたのです。 生活困窮者自立支援制度の自立相談支援機関は、すべての書類にルビを振り、また、Bさんが理解するまで繰り返し丁寧な説明を行うなど、Bさんの社会参加に向けて粘り強い支援を行いました。並行して、就労支援員がBさんの特性に理解のある職場の開拓をすすめました。その結果、アルバイト経験があり、本人の関心の高い飲食業界において、就労訓練事業として週3日、3時間程度の就労から始めることになりました。その後においても、自立相談支援機関がBさん本人と就労先双方へのフォローを行いながら就労の継続を支援しています。 一人暮らしの金銭管理をサポート(知的障害3) 一人暮らしをしながら地域の作業所に通うCさんは、身の回りのことはほとんど自分でできますが、お金の計算、特に何を買うのにいくらかかるのかを考えて使うのが苦手なため、日常の金銭管理をしてくれる福祉サービス(日常生活自立支援事業)を利用することになりました。 生活支援員と必要なお金について1週間単位で相談し、一緒に銀行に行ってお金を下ろし、生活することになりました。買い物のレシートをノートに貼ることもアドバイスをうけ、お金を遣い過ぎることがなくなりました。また、お金がどれくらいあるのか心配なときは、支援員さんに聞けば分かるので安心とCさんは話しています。 p52 ■障害特性に応じた具体的対応例(その8) コミュニケーション支援機器を用いた就労訓練(発達障害1) 発達障害のAさんは、就労訓練サービスを利用しています。挨拶、作業の終了時、作業中に必要と思われる会話(「おはようございます」「さようなら」「仕事が終わりました」「袋を持ってきてください」「紐を取ってください」「トイレへ行ってきます」「いらっしゃいませ」「100円です」等)をVOCA(会話補助装置)に録音し、伝えたいメッセージのシンボル(絵・写真・文字)を押してコミュニケーションをとるようにしたことで作業に集中することができ、休みなく事業所へ通う事ができるようになりました。 個別の対応で理解が容易に(発達障害2) 発達障害のBさんは、利用者全体に向けた説明を聞いても、理解できないことがしばしばある方です。そのため、ルールや変更事項等が伝わらないことでトラブルになってしまうことも多々ありました。 そこで、Bさんには、全体での説明の他に個別に時間を取り、正面に座り文字やイラストにして直接伝えるようにしたら、様々な説明が理解できるようになり、トラブルが減るようになりました。 本人が安心して過ごすための事前説明(発達障害3) 発達障害のCさんは、就労継続支援事業を利用していますが、広い作業室の中で職員を見つけることが出来ない方でした。職員に連絡したくても連絡できず、作業の中で解らないことや聞きたいことがあってもそれが聞けず、不安や混乱が高まっていました。 そこで、来所時にあらかじめCさんに職員の場所を図で示したり、現地を確認する、ユニフォームの違いを伝えるなど、職員をみつけるための手がかりを知らせておくようにしたら、Cさんは安心して作業に集中できるようになりました。 苦手なことに対しては、事前のサポート(発達障害4) 発達障害のDさんは文字の読み書きが苦手であり、様々な手続きの際、書類の記入欄を間違えたり、誤字を書いてしまったりして、何回も書き直さなければなりませんでした。 そこで、Dさんの相談を受けている職員は、「記入欄に鉛筆で丸をつけたり付箋を貼って示す」「書類のモデルを作成して示す」「職員が鉛筆で下書きする」などを試したところ、書類作成を失敗する回数が少なくなりました。 p53 ■障害特性に応じた具体的対応例(その9) 自己コントロール力をつけるために(発達障害5) 自閉症スペクトラム(発達障害)のAさんはちょっとした思い込みや刺激が元で、トイレや空室に長時間(長い場合は10時間近く)急に籠もってしまうことが多くありました。 そこで、不適応を起こしそうになった場合(「起こす前」がポイント)に、事前に決めておいたルールに基づいて(例えば何色かのカードを用意し、イエローカードを見せたら事務室でクールダウンする、レッドカードであったら個別対応の部屋に行きたい等)自らがサインを出して対応方法を選択する経験を繰り返し積むことで、徐々にカードを使用せずに感情の自己コントロールができるようになってきました。約半年ほどで不適応を示すことがほとんどなくなり、生活が安定しました。 p54 ■障害特性に応じた具体的対応例(その10) 薬が効くまでの時間をもらえると(精神障害) Aさんは、精神障害当事者としての経験を活かして、福祉サービス事業所でピアサポーターとして活動しています。しかし、月に一度位は幻聴が出現することがあり、Aさんは活動に支障が出ることをとても心配していました。職員に相談すると、「普段はどうしているのですか?」と質問され、Aさんは頓服薬を飲んで1時間位静養すると治まってくると説明しました。すると、「ご自分で対処できるならそうして下さい」「症状があっても、工夫をしながら活動を続けられるといいですね」「他の利用者の励みになるのだから気にする必要はないと思います」と言われて、幻聴が出た時は頓服が効くまで静養できることになりました。その後、Aさんは、ピアサポーターとして自信を持ちながら、安心して活動を続けています。 p55 ■障害特性に応じた具体的対応例(その11) 介護老人保健施設での対応(高齢者1) 様々な障害があっても生活がしやすいように、点字ブロック、車いす用のトイレ、入所者用の居室階へ行くためのエレベーターの設置などを行いました。また、聴覚障害のある入所者とコミュニケーションを図れるよう部屋に筆談用の用具を置くなどの配慮を行っています。 特別養護老人ホームにおける対応(高齢者2) 特別養護老人ホームにおいて地域交流活動を行う際、ボランティアのAさん(視覚障害者)が資料や小道具を作ろうとしましたが、パソコンでの作業に手間取ってしまいました。そこで、施設は、職員や他のボランティアの人が共同して作成することに加え、施設で導入していた音声認識ソフトや点字付きキーボードを利用してもらうことによって、Aさんが作業しやすい環境を作るように働きかけました。 p56 ■障害特性に応じた具体的対応例(その12) 色素性乾皮症(XP)児の保育所における対応(難病) 遮光対策が必要な疾病である色素性乾皮症患児のAちゃんは、紫外線対策がなされていない保育所に入所することは困難です。 入所を希望する保育所と話し合った結果、UVカットシートを保育室等の窓ガラスに貼ること、紫外線を遮断するため窓は常時閉鎖しておくのでエアコンをとりつけること、日光に当たってしまった際の対応策などを保育所側に十分把握してもらったうえで、他の保育園児・保護者への説明も十分行うことで疾病に対する理解を得て、安心して保育所に通うことができるようになりました。 ■障害者総合支援法の対象となる疾病について 平成25年4月より、難病等が障害者総合支援法の対象となり130疾病を対象としていましたが、指定難病(医療費助成の対象となる難病)の検討を踏まえ、障害者総合支援法の対象となる疾病について順次見直しを行い、令和6年4月より、369疾病を対象としています。 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hani/index.html 対象となる方は、障害者手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)をお持ちでなくても、必要と認められた障害福祉サービス等(障害者・児は、障害福祉サービス・相談支援・補装具及び地域生活支援事業(障害児は、障害児通所支援と障害児入所支援も含む))が受けられます。 ※難病の特徴(症状の変化や進行、福祉ニーズ等)については、「難病患者等に対する認定マニュアル(令和3年12月)」を参照ください。 https://www.mhlw.go.jp/content/000869186.pdf p57 ■権利擁護に関連する法律(その1) 【障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)】 1.目的 障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、障害者に対する虐待の禁止、国等の責務、障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的としています。 2.障害者に対する虐待の禁止と早期発見の努力義務 何人も障害者を虐待してはならない旨を定め、障害者の虐待の防止に係る国等の責務や、障害者虐待の早期発見の努力義務を定めています。 3.「障害者虐待」の通報義務 「障害者虐待」を受けたと思われる障害者を発見した者に速やかな通報を義務付けています。 4.「障害者虐待」とは 以下の1から3の人たちが、(ア)から(オ)の5つの虐待行為を行った場合を「障害者虐待」としています。 1 養護者(障害者の世話をしている家族等) 2 障害者福祉施設従事者等(障害福祉サービスの職員等) 3 使用者(障害者を雇用している者等) 5つの行為(具体的要件は、虐待を行う主体ごとに微妙に異なる。) (ア)身体的虐待:障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること (イ)放棄・放置:障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置等による(ア)(ウ)(エ)の行為と同様の行為の放置等 (ウ)心理的虐待:障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと (エ)性的虐待:障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること (オ)経済的虐待:障害者から不当に財産上の利益を得ること 5.通報先 市町村・都道府県の部局等は、障害者虐待の通報や対応の窓口等となる「市町村障害者虐待防止センター」、「都道府県障害者権利擁護センター」の機能を果たしています。 6.学校、保育所、医療機関における虐待の防止 就学する障害者、保育所等に通う障害者及び医療機関を利用する障害者に対する虐待への対応について、その防止等のための措置の実施を学校の長、保育所等の長及び医療機関の管理者に義務付けています。 p58 ■権利擁護に関連する法律(その2) 【児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)】 児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする法律です。 ○「児童虐待」とは保護者がその監護する児童について行う次の行為をいいます。 1 身体的虐待:殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など 2 性的虐待:こどもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など 3 ネグレクト:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など 4 心理的虐待:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、こどもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)など 【高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)】 高齢者の虐待防止等に関する国等の責務、虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援の措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする法律です。 ○虐待防止施策には、1 養護者(家族等)による虐待に対するものと、2 養介護施設従事者等による虐待に対するものに大別されます。 ○虐待の類型には、1 身体的虐待、2 養護を著しく怠る(ネグレクト)、3 心理的虐待、4 性的虐待、5 経済的虐待があります。 詳細は、以下よりご覧ください。 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/boushi/index.html 【配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)】 配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的とする法律です。 ○配偶者:男性、女性を問いません。事実婚や元配偶者(※)も含まれます。 ※離婚前に暴力を受け、離婚後も引き続き暴力を受ける場合 ※生活の本拠をともにする交際相手、元生活の本拠をともにする交際相手も対象 ○暴力:身体的暴力のみならず、精神的・性的暴力(保護命令の申し立ては身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫のみ対象)も含まれます。 詳細は、以下よりご覧ください。 https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/index2.html p59 ■権利擁護に関連する法律(その3) 【精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)】 障害者基本法の基本的な理念にのっとり、精神障害者の権利の擁護を図りつつ、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者総合支援法と相まって精神障害者の社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、精神障害の発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることで、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする法律です。 精神保健福祉法の一部改正を含む障害者総合支援法等の一部を改正する法律が令和4年12月に公布され、主に以下の内容が新たに定められました。これらについては令和6年4月1日から施行されています。 ○医療保護入院の入院期間の法定化 ○精神科病院での虐待の通報制度の新設 ○入院者訪問支援事業の新設 詳細は、以下よりご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kaisei_seisin/index_00003.html p60 ■発達障害者支援法とは T.目的 親をはじめとする身近な人、保育所や学校などの担任、病院や福祉機関で支援に携わる者、行政機関の職員、その他様々な立場の国民全体が、発達障害の特性を理解し支援ができるようにするために ・早期発見・発達支援に関する国・地方公共団体の責務を明らかにしました。 ・発達障害のある人の自立や社会参加のために、様々な分野で支援の充実を図る必要性があることが示されました。 U.定義(発達障害とは) 自閉症やアスペルガー症候群などを含む広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などが代表的ですが、このほかにもトゥレット症候群、吃音症など様々なものがあります。 現時点では、確かな原因は明らかにはなっていませんが、様々な調査から、脳の機能が平均的な世の中の人とは違う発達の仕方をしているらしいということが徐々に分かってきています。 「発達障害」という名前から、「発達しない」「こどもの時期だけの障害」などというイメージが持たれることもありますが、これは誤解です。その人に合った支援があれば、自立や社会参加の可能性は高まります。また、発達障害の特性を踏まえた支援は、こどもの時期だけではなく成人期や老年期にも必要になります。 V.相談機関等(発達障害について相談したいとき) まずは、現在住んでいる地域の中にある様々なサービス機関(たとえば、市町村の役場、保育所、学校、医療機関、ハローワークなど)でも、発達障害に対する知識が年々高まってきています。 また、都道府県や政令市には、発達障害者支援センターが必ず置かれていますので、お住まいの地域の発達障害者支援センターに連絡をしたりホームページを確認したりするのも良いでしょう。 国においても、発達障害情報・支援センターのホームページを随時更新し、様々な情報を掲載しています。 (掲載先)http://www.rehab.go.jp/ddis/ W.普及啓発 発達障害については、日本だけではなく世界中で関心が高まりつつあります。たとえば、平成19年には国連総会において「4月2日を世界自閉症啓発デーと定める」決議、平成24年には「自閉症スペクトラム障害、発達障害及び関連する障害により影響を受けている個人、家族及び社会の社会経済的ニーズへの対応」に関する決議が採択されています。 日本国内でも、4月2日の世界自閉症啓発デーには様々な場所で建物を青くライトアップする取組や、4月2日から8日を発達障害啓発週間として様々な啓発イベントが行われるようになっています。 (掲載先)http://www.worldautismawarenessday.jp/htdocs/ p61 ■共生型サービスとは 共生型サービスは、介護保険サービス事業所が、障害福祉サービスを提供しやすくする、障害福祉サービス事業所が、介護保険サービスを提供しやすくすることを目的とした指定手続きの特例として、平成30年に設けられた制度です。地域の実情に合わせて限られた福祉人材を有効に活用しながら、同一の事業所において障害福祉サービスも介護保険サービスも提供できます。 これにより、例えば、生活介護事業所(障害福祉サービス)を利用していた方が65歳になったときも、継続して同じ場所のなじみの環境の下で、通所介護(介護保険サービス)を受けられます。 制度の詳細や、共生型サービスの立ち上げに必要な手続き等をまとめたガイドブックを厚生労働省HPに掲載していますので御参照ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398_00016.html ■介護予防・日常生活支援総合事業における共生の場 介護保険制度では、市町村の事業として、住民等の多様な主体が参画し、地域の支え合い体制を推進することで要支援者等の自立支援や介護予防につなげる介護予防・日常生活支援総合事業を実施することとしています。 介護予防・日常生活支援総合事業は、市町村が地域の実情に応じて独自のサービスを設けることとしており、市町村がこの事業を円滑に実施できるよう、設定されるであろうサービス内容の例などを記載したガイドラインをお示ししています。 その中で、高齢者のみならず障害者やこどもなど分け隔てなく自主的に集まり互いに支え合う場を作り出すことに対して、補助などを行い促進することができる共生型の通いの場を紹介しています。 障害者差別解消法は共生社会の実現を目的としており、共生型の通いの場は、同目的にも資するものであると考えられます。 p62 ■障害者差別解消支援地域協議会とは 障害者差別解消法では、国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事する者(以下「関係機関」)は、社会生活を円滑に営む上での困難を有する障害者に対する支援が効果的かつ円滑に実施されるよう、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「地域協議会」)を組織できるとされています。(法第17条第1項) 1 地域協議会とは <地域協議会の事務> 障害者差別に関する相談等に係る協議や地域における障害者差別を解消するための取組に関する提案に係る協議を行う ※個別事案ごとに差別か否かの判断を行うことまでは想定されていない ・事案の情報共有や構成機関への提言 ・地域における障害者差別解消の推進のための取組に関する協議・提案 ・事案の解決を後押しするための協議 など <対象となる障害者差別に係る事案> 一般私人による事案は地域協議会における情報共有の対象としないが、環境の整備に関する相談、制度等の運用に関する相談については情報共有の対象とする 2 地域協議会の組織 都道府県、市町村、特別区など地方公共団体が主導して組織する 詳細については、内閣府ホームページに掲載されています。  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/t-b2.html p63 ■関連ホームページ 障害者権利条約(外務省)  http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html 障害者差別解消法(内閣府) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html 障害者基本法(内閣府) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/wakugumi.html 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sabetsu_kaisho/index.html (作業者注・「障害者差別解消法 医療関係事業者向けガイドライン」(表紙)) 障害者差別解消法 医療関係事業者向けガイドライン 〜医療分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針〜(案) 令和6年○月 厚生労働大臣決定 はじめに 平成28年4月1日から「障害者差別解消法」が施行されています。 この法律は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項や、国の行政機関、地方公共団体等及び民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置などについて定めることによって、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につなげることを目的としています。 この対応指針は、「障害者差別解消法」の規定に基づき、医療分野における事業者が障害者に対し不当な差別的取扱いをしないこと、また必要かつ合理的な配慮を行うために必要な考え方などを記載しています。 日々の業務の参考にしていただき、障害者差別のない社会を目指しましょう。 目次 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過・・・p1 (2)対象となる障害者・・・p2 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針・・・p3 (4)医療分野における対応指針・・・p3 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い  1 不当な差別的取扱いの基本的考え方・・・p6 2 正当な理由の判断の視点・・・p6 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方・・・p7 2 過重な負担の基本的な考え方・・・p11 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例  (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例・・・p12 (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例・・・p13 (3)合理的配慮に該当すると考えられる例・・・p14 (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例・・・p17 (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例・・・p17 (6)障害特性に応じた対応について・・・p18 第4 事業者における相談体制の整備・・・p35 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備・・・p36 第6 国の行政機関における相談窓口・・・p37 第7 主務大臣による行政措置・・・p37 おわりに・・・p38 参考ページ・・・p39 (作業者注:目次ここまで) p1 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過 近年、障害者の権利擁護に向けた取組が国際的に進展し、平成18年に国連において、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)が採択されました。我が国は、平成19年に権利条約に署名し、以来、国内法の整備を始めとする取組を進めてきました。 権利条約は第2条において、「「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義し、その禁止について、締約国に全ての適当な措置を求めています。 我が国においては、平成16年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正において、障害者に対する差別の禁止が基本的理念として明示され、さらに、平成23年の同法改正の際には、権利条約の趣旨を踏まえ、同法第2条第2号において、社会的障壁について、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義されるとともに、基本原則として、同法第4条第1項に、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」こと、また、同条第2項に、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」ことが規定されました。   p2 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定されました。我が国は、法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ、平成26年1月に権利条約を締結しました。また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、相談体制の充実や情報の収集・提供の確保など障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化する措置を講ずることを内容とする改正法が公布されました(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号))。 (2)対象となる障害者 対象となる障害者・障害児(以下「障害者」という。)は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものです。 これは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるというモデル(いわゆる「社会モデル」)の考え方を踏まえているものです。したがって、法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限りません。 また、特に女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより、さらに複合的に困難な状況に置かれている場合があること、障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意する必要があります。 p3 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 法第6条第1項の規定に基づき、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27年2月24日閣議決定、令和5年3月14日変更。以下「基本方針」という。)が策定されました。 基本方針は、障害を理由とする差別の解消の推進は、雇用、教育、医療、公共交通等、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野に関連し、各府省の所掌に横断的にまたがる施策であるため、政府として、施策の総合的かつ一体的な推進を図るとともに、行政機関間や分野間における取組のばらつきを防ぐため、施策の基本的な方向等を示したものです。 (4)医療分野における対応指針 障害者基本法第1条に規定されるように、障害者施策は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるという理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指して講じられる必要があります。 そのうえで、法第11条第1項の規定に基づき、主務大臣は、基本方針に即して、事業者が法第8条に規定する事項に関し、適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めることとされています。 本指針は、上に述べた法の目的を達成するため、特に医療分野に関わる事業者の対応指針を定めたものです。 本指針において定める措置については、「望まれます」と記載されている内容等法的義務ではないものも含まれますが、法の目的を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟な対応を積極的に行うことが期待されるものです。 なお、事業者は、障害を理由とする差別を解消するための取組を行うに当たり、法、基本方針及び本指針に示す項目のほか、各事業に関連する法令等の規定を順守しなければなりません。 p4 また、医療分野のサービスの提供に当たっては、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図ることが求められることから、事業者は、日頃から、障害に関する理解や障害者の人権・権利擁護に関する認識を深めるとともに、より高い意識と行動規範をもって障害を理由とする差別を解消するための取組を進めていくことが期待されます。 本指針の対象となる医療関係事業者の範囲は、医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2に規定する医療提供施設(介護老人保健施設等を除く。)の運営事業や、その他の医療分野に関わる事業を行う事業者です。 「本指針の対象となる医療関係事業者」 ・病院 ・診療所 ・助産所 ・調剤を実施する薬局 など なお、基本方針において、「事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含み、国、独立行政法人等、地方公共団体及び公営企業型以外の地方独立行政法人を除く。)であり、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者である。したがって、例えば、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となる。」と規定されています。 p5 (注)事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされており、同法に基づき別途定められた「障害者差別禁止指針(「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第 116 号))」及び「合理的配慮指針(「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成27年厚生労働省告示第117号))」を参照してください。 p6 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い 1 不当な差別的取扱いの基本的考え方 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、サービス等の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付するなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止しています。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当します。 また、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではないことに留意する必要があります。 したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たりません。 不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことです。 2 正当な理由の判断の視点 不当な差別的取扱いであるのかどうかの判断には、その取扱いを行う正当な理由の有無が重要となります。正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合です。 p7 正当な理由に相当するか否かについて、事業者は、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際、事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められます。 なお、「客観的に判断する」とは、主観的な判断に委ねられるのではなく、その主張が客観的な事実によって裏付けられ、第三者の立場から見ても納得を得られるような「客観性」が必要とされるものです。 また、「正当な理由」を根拠に、不当な差別的取扱いを禁止する法の趣旨が形骸化されるべきではなく、抽象的に事故の危惧がある、危険が想定されるといった理由によりサービスを提供しないといったことは適切ではありません。 ※後述の第3 「障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」では、正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例及び正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例の具体例を示しています。 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方 <合理的配慮とは> 権利条約第2条において、合理的配慮は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。 p8 法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)をしなければなりません。 これまで事業者による合理的配慮の提供は努力義務とされていましたが、令和3年の法改正により、義務へと改められました。事業者におきましては、合理的配慮の提供の義務化を契機として、本指針に基づき、合理的配慮の必要性につき一層認識を深めることが求められます。 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や技術の進展、社会情勢等の変化に応じて変わり得るものであること、また、障害の状態等が変化することもあるため、特に障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜見直しを行うことが重要です。 合理的配慮は、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があります。その提供に当たってはこれらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ、2 「過重な負担の基本的な考え方」に掲げた要素も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要があります。 p9 建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要です。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられます。 ※後述の第3 「障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」では、合理的配慮に当たり得る配慮の例の具体例を示しています。 <意思の表明> 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられます。 また、障害者からの意思の表明のみでなく、障害の特性等により本人からの意思の表明が困難な場合には、障害者の家族、支援者・介助者、法定代理人等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。 なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、支援者・介助者等を伴っていないことなどにより、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白であるときには、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提供するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望まれます。 p10 <環境の整備との関係> 法第5条においては、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うため、施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者・支援者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等といった環境の整備を事業者の努力義務としています。環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待されます。また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規程の整備等のソフト面の対応も含まれることが重要です。 障害を理由とする差別の解消のための取組は、法や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)(いわゆるバリアフリー法)等、不特定多数の障害者を対象とした措置を規定する法令に基づく環境の整備に係る施策や取組と合理的配慮の提供を両輪として進められることが重要です。 環境の整備は、不特定多数の障害者向けに措置を行うものですが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置です。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなります。 なお、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことは有効です。また環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することとなります。 p11 2 過重な負担の基本的な考え方 過重な負担については、事業者において、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、過重な負担に当たると判断した場合、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際には前述のとおり、事業者と障害者の双方が、お互いに立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められます。 *事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か) 当該措置を講ずることによるサービス提供への影響、その他の事業への影響の程度。  *実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) 事業所の立地状況や施設の所有形態等の制約にも応じた、当該措置を講ずるための機器や技術、人材の確保、設備の整備等の実現可能性の程度。 *費用・負担の程度 当該措置を講ずることによる費用・負担の程度。複数の障害者から合理的配慮に関する要望があった場合、それらの複数の障害者に係る必要性や負担を勘案して判断することとなります。 *事務・事業規模 当該事業所の規模に応じた負担の程度。 *財務状況 当該事業所の財務状況に応じた負担の程度。 p12 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例 事業者が医療分野のサービスを提供するに際して、次のような取扱いをすることは「不当な差別的取扱い」となるおそれがあります。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではありません。また、客観的にみて正当な理由が存在する場合(第2(1)2 参照)は、不当な差別的取扱いに該当しない場合があることにご留意ください。 ○サービスの提供を拒否すること ・サービス提供の場面における障害者本人や第三者の安全性などについて具体的に考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由に施設利用を拒否すること ・医療機関や薬局において、人的体制、設備体制が整っており、対応可能であるにもかかわらず、障害があることを理由に診療・入院・調剤等を拒否すること。特に、緊急の対応を要する場面も想定されることに十分留意が必要です。 ・正当な理由なく、医療機関や薬局内に、身体障害者補助犬を同伴することを拒否すること ※身体障害者補助犬については【参考ページ】「身体障害者補助犬とは」参照 ○サービスの提供を制限すること(場所・時間帯などの制限) ・正当な理由なく、診察などを後回しにすること、サービス提供時間を変更又は限定すること ・正当な理由なく、診察室や病室の制限を行うこと ・医療の提供に際して必要な情報提供を行わないこと p13 ○サービスの提供に際し条件を付すこと(障害のない者には付さない条件を付すこと) ・正当な理由なく、保護者や支援者・介助者の同伴を診察・治療・調剤等の条件とすること ○サービスの提供に当たって、他の者とは異なる取扱いをすること ・正当な理由なく、本人(本人の意思を確認することが困難な場合は家族等)の意思に反した医療の提供を行うこと又は意思に沿った医療の提供を行わないこと ・正当な理由なく、病院や施設が行う行事等への参加や共用設備の利用を制限すること ・本人を無視して、支援者・介助者や付添者のみに話しかけること ・大人の患者に対して、幼児の言葉で接すること ・わずらわしそうな態度や、患者を傷つけるような言葉をかけること ・診療等に当たって患者の身体への丁寧な扱いを怠ること (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例 正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意が必要です。 ○手続を行うため、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認すること。(障害者本人の損害発生防止の観点) p14 (3)合理的配慮に該当すると考えられる例 事業者は、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合には、次のような合理的配慮を提供することが求められています。合理的配慮を提供する際には、障害者の性別、年齢、状態等に十分に配慮することが必要です。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではなく、掲載した例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意してください。また、事業者に強制する性格のものではなく、ここに記載された事例であっても、事業者の事業規模等によっては過重な負担となる可能性があるため、事業者においては、法、基本方針及び本指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待されます。 なお、合理的配慮の提供に当たっては、個々の障害特性等をアセスメントし、個別の支援計画(看護計画等)に位置づけるなどの取組も望まれます。 ○基準・手順の柔軟な変更 ・障害の特性に応じて施設のルール、慣行を柔軟に変更すること(診察等で待つ場合、患者が待ちやすい近くの場所で待っていただく、順番が来たら電話で呼び込むなど)。 ○物理的環境への配慮 ・施設内の段差にスロープを渡すこと ・エレベーターがない施設の上下階に移動する際、マンパワーで移動をサポートすること ○補助器具・サービスの提供 <情報提供等についての配慮や工夫> ・説明文書の点字版、拡大文字版、テキストデータ、音声データ(コード化したものを含む。)の提供や必要に応じて代読・代筆を行うこと p15 ・身振り、手話、要約筆記、筆談、図解、ふりがな付文書を使用するなど、本人が希望する方法で分かりやすい説明を行うこと ・文書を読み上げたり、口頭による丁寧な説明を行うこと ・電子メール、ホームページ、ファックスなど多様な媒体で情報提供、予約受付、案内を行うこと <建物や設備についての配慮や工夫> ・電光表示板、磁気誘導ループなどの補聴装置の設置、点字サイン付き手すりの設置、音声ガイドの設置を行うこと ・色の組み合わせによる見にくさを解消するため、標示物や案内図等の配色を工夫すること ・トイレ、病室など部屋の種類や、その方向を示す絵記号や色別の表示などを設けること ・パニック等を起こした際に静かに休憩できる場所を設けること ・障害者に配慮したナースコールの設置を行うこと(息でナースコールができるマルチケアコール、機能障害者用押しボタンなど) <職員などとのコミュニケーションや情報のやりとり、サービス提供についての配慮や工夫> ・個人情報の保護に配慮した上で、施設内放送を文字化したり、電光表示板で表示したりすること ・筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字、コミュニケーションボードの活用、触覚による意思伝達などによる多様なコミュニケーション、振り仮名や写真、イラストなど分かりやすい表現を使って説明するなどの配慮を行うこと ・必要に応じて、手話通訳や要約筆記者を配置すること ・声がよく聞こえるように、また、口の動きや表情を読めるようにマスクを外して話をすること ・ICT(コンピューター等の情報通信技術)を活用したコミュニケーション機器(データを点字に変換して表示する、音声を文字変換する、表示された絵などを選択することができる機器など)を設置すること p16 ・白衣に強く反応し、診察を拒否するという場合には、必要に応じて通常の服に着替えて対応すること ・特別なコミュニケーション支援が必要な障害児者の入院にあたっては、医療機関は院内感染対策に配慮しつつ、可能な限り支援者が付き添えるよう配慮すること ※関連通知等は【参考ページ】「関連ホームページ、通知及び事務連絡」参照 <職員同士での連絡手段の工夫> ・外見上、障害者であると分かりづらい患者(聴覚障害の方など)の受付票にその旨が分かる連絡カードを添付するなど、スタッフ間の連絡体制を工夫すること ・診療の予約時などに、患者から申出があった自身の障害特性などの情報を、スタッフ間で事前に共有すること ※第2(2)1 合理的配慮の基本的な考え方<環境の整備との関係>においても触れましたが、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前の改善措置については、合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めることとされています。 <バリアフリーに関する環境の整備の例> ・施設内の段差を解消すること、スロープを設置すること ・トイレや浴室をバリアフリー化・オストメイト対応にすること ・床をすべりにくくすること p17 ・階段や表示を見やすく明瞭にすること ・車椅子で利用しやすい高さにカウンターを改善すること <合理的配慮を的確に行うための環境の整備の例> ・代筆を求められた場合に対応できるよう、あらかじめ適切な代筆の仕方について職員研修を行うこと ・オンラインでの手続が必要な場合に、ウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求められた場合に、電話や電子メールでの対応を行うとともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行うこと (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例 事業者が医療サービスを提供するにあたり、次のような取扱いをすることは「合理的配慮の提供義務違反」に該当するおそれがあります。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではありません。また、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについても、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断する必要があることにご留意ください。 ○筆記が困難であるためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること ○電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例 合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、合理的配慮の提供義務に反しない場合であっても、過重な負担に当たると判断した場合等、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、建設的対話を通じて理解を得るよう努めることが望まれます。 p18 ○事業者において、事業の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること(例えば、医療機関において、診療を終えた障害者から、自宅までの送迎を求められた場合に、当該医療機関では当該業務の一環として行っていないことから送迎はできないが、タクシー等の連絡先をお伝えすること) (6)障害特性に応じた対応について 障害者と接する際には、それぞれの障害特性に応じた対応が求められます。以下に、代表的な障害特性と対応時に配慮すべき事項について簡単にまとめています。なお、障害の程度や状態等、具体的場面に応じて柔軟に対応することに留意する必要があります。 視覚障害(視力障害・視野障害)  【主な特性】 ・視力障害:視覚的な情報を全く得られない又はほとんど得られない人と、文字の拡大や視覚補助具等を使用し保有する視力を活用できる人に大きく分けられる(全盲、弱視といわれることもある) *視力をほとんど活用できない人の場合、音声、触覚、嗅覚など、視覚以外の情報を手がかりに周囲の状況を把握している *文字の読みとりは、点字に加えて最近では画面上の文字情報を読み上げるソフトを用いてパソコンで行うこともある(点字の読み書きができる人ばかりではない) *視力をある程度活用できる人の場合は、補助具を使用したり文字を拡大したり近づいて見るなどの様々な工夫をして情報を得ている p19 ・視野障害:目を動かさないで見ることのできる範囲が狭くなる 「求心性視野狭窄(さく)」 見える部分が中心だけになって段々と周囲が見えなくなる・遠くは見えるが足元が見えず、つまずきやすくなる 「中心暗転」 周囲はぼんやり見えるが真ん中が見えない・文字等、見ようとする部分が見えなくなる 視力障害、視野障害の状況によって、明るさの変化への対応が困難なため、移動などに困難さを生じる場合も多い 【主な対応】 ・音声や点字表示など、視覚情報を代替する配慮 ・中途受障の人では白杖を用いた歩行や点字の触読が困難な人も多いため留意が必要 ・声をかける時には前から近づき「○○さん、こんにちは。△△です。」など自ら名乗る ・説明する時には「それ」「あれ」「こっち」「このくらいの」などと指差し表現や指示代名詞で表現せず、「あなたの正面」「○○くらいの大きさ」などと具体的に説明 ・普段から通路(点字ブロックの上など)に通行の妨げになるものを置かない、日頃視覚障害者が使用しているものの位置を変えないなど周囲の協力が不可欠 ・主に弱視の場合、室内における照明の状況に応じて、窓を背にして座ってもらうなどの配慮が必要 聴覚障害 【主な特性】 ・聴覚障害は外見上分かりにくい障害であり、その人が抱えている困難も他の人からは気づかれにくい側面がある p20 ・聴覚障害者は補聴器や人工内耳を装用するほか、コミュニケーション方法には手話、筆談、口話など様々な方法があるが、どれか一つで十分ということではなく、多くの聴覚障害者は話す相手や場面によって複数の手段を組み合わせるなど使い分けている ・補聴器や人工内耳を装用している場合、スピーカーを通じる等、残響や反響のある音は、聞き取りにあまり効果が得られにくい ・聴覚の活用による言葉の習得に課題があることにより、聴覚障害者の国語力は様々であるため、筆談の場合は、相手の状況にあわせる 【主な対応】 ・手話や文字表示、手話通訳や要約筆記者の配置など、目で見て分かる情報を提示したりコミュニケーションをとる配慮 ・補聴器や人工内耳を装用し、残響や反響のある音を聞き取ることが困難な場合には、代替する対応への配慮(磁気誘導ループの利用など) ・音声だけで話すことは極力避け、視覚的なより具体的な情報も併用 ・スマートフォンなどのアプリに音声を文字に変換できるものがあり、これらを使用すると筆談を補うことができる 盲ろう(視覚と聴覚の重複障害) 【主な特性】 ・視覚と聴覚の重複障害の人を「盲ろう」と呼んでいるが、障害の状態や程度によって様々なタイプに分けられる(視覚障害、聴覚障害の項も参照のこと) <見え方と聴こえ方の組み合わせによるもの> 1 全く見えず聴こえない状態の「全盲ろう」 2 見えにくく聴こえない状態の「弱視ろう」 3 全く見えず聴こえにくい状態の「盲難聴」 4 見えにくく聴こえにくい状態の「弱視難聴」 p21 <各障害の発症経緯によるもの> 1 盲(視覚障害)から聴覚障害を伴った「盲ベース盲ろう」 2 ろう(聴覚障害)から視覚障害を伴った「ろうベース盲ろう」 3 先天的、あるいは乳幼児期に視覚と聴覚の障害を発症する「先天性盲ろう」 4 成人期以後に視覚と聴覚の障害が発症する「成人期盲ろう」  ・盲ろう者がそれぞれ使用するコミュニケーション手段は、障害の状態や程度、盲ろうになるまでの経緯、あるいは生育歴、他の障害との重複の仕方によって異なり、介助方法も異なる ・テレビやラジオを楽しんだり本や雑誌を読むことなどもできず、家族といてもほとんど会話がないため、孤独な生活を強いられることが多い 【主な対応】 ・盲ろう者関係機関に相談し、対応に関する助言を受ける ・障害の状態や程度に応じ視覚障害や聴覚障害の人と同じ対応が可能な場合があるが、同様な対応が困難な場合が多く、手書き文字や触手話、指点字などの代替する対応や移動の際にも配慮する ・言葉の通訳に加えて、視覚的・聴覚的情報についても意識的に伝える (例)状況説明として、人に関する情報(人数、性別等)や環境に関する情報(部屋の大きさや机の配置、その場の雰囲気等)など 肢体不自由 ○車椅子を使用されている場合 【主な特性】 ・脊髄損傷(対麻痺又は四肢麻痺、排泄障害、知覚障害、体温調節障害など) ・脳性麻痺(不随意運動、手足の緊張、言語障害、知的障害重複の場合もある) ・脳血管障害(片麻痺、運動失調) ・病気等による筋力低下や関節損傷などで歩行が困難な場合もある p22 ・ベッドへの移乗、着替え、洗面、トイレ、入浴など、日常の様々な場面で援助が必要な人の割合が高い ・車椅子使用者にとっては、段差や坂道が移動の大きな妨げになる ・手動車椅子の使用が困難な場合は、電動車椅子を使用する場合もある ・障害が重複する場合には、呼吸器を使用する場合もある 【主な対応】 ・段差をなくす、車椅子移動時の幅・走行面の斜度、車椅子用トイレ、施設のドアを引き戸や自動ドアにするなどの配慮 ・机アプローチ時に車椅子が入れる高さや作業を容易にする手の届く範囲の考慮 ・ドア、エレベーターの中のスイッチなどの機器操作のための配慮 ・目線をあわせて会話する ・脊髄損傷者は体温調整障害を伴うことがあるため、部屋の温度管理に配慮 ○杖などを使用されている場合 【主な特性】 ・脳血管障害(歩行可能な片麻痺、運動失調) ・麻痺の程度が軽いため、杖や装具歩行が可能な場合や、切断者などで義足を使用して歩行可能な場合は、日常生活動作は自立している人が多い ・失語症や高次脳機能障害がある場合もある ・長距離の歩行が困難であったり、階段、段差、エスカレーターや人ごみでの移動が困難な場合もあり、配慮が必要 【主な対応】 ・上下階に移動するときのエレベーター設置・手すりの設置 ・滑りやすい床など転びやすいので、雨天時などの対応 ・トイレでの杖おきの設置や靴の履き替えが必要な場合に椅子を用意するなどの配慮 p23 ○上肢に障害がある場合 【主な特性】 ・上肢(肩から関節を含む手指)に欠損がある、あるいは可動域に制限が生じる変形障害、動作に制限が生まれる運動機能障害等に分類 ・身体のバランスを上手くとることが難しいため、歩行が困難になる場合もある ・両上肢に障害がある場合は、配慮すべき場面が多くなり、支援が必要となることがある ・物を掴んだり持ち上げたりといった行為が難しい場合もある 【主な対応】 ・片手に荷物をもったときのドアや鍵の開閉の補助や、買物等で会計をする際に荷物を置くスペースや置台を設置する等の対応 ・機器操作や瓶やペットボトル等の蓋開けの配慮 ・食事面では、箸やスプーンの使用が難しいときは、使い慣れた補助具を持参してもらったり、食形態も一口サイズにカットする等の配慮や、食事用トレーの持ち運びが難しいため下膳の補助やワゴンを用意する等の配慮 構音障害 【主な特性】 ・話す言葉自体を聞き取ることが困難な状態 ・話す運動機能の障害、聴覚障害、咽頭摘出などの原因がある 【主な対応】 ・しっかりと話を聞く ・会話補助装置などを使ってコミュニケーションをとることも考慮する ・食事面では、嚥(えん)下・咀しゃく等の状態に応じた食形態や調理方法に配慮する 失語症 【主な特性】 p24 ・聞くことの障害 音は聞こえるが「ことば」の理解に障害があり「話」の内容が分からない 単語や簡単な文なら分かる人でも早口や長い話になると分からなくなる ・話すことの障害 伝えたいことをうまく言葉や文章にできない 発話がぎこちない、いいよどみが多くなったり、誤った言葉で話したりする ・読むことの障害 文字を読んでも理解が難しい ・書くことの障害 書き間違いが多い、また「てにをは」などをうまく使えない、文を書くことが難しい 【主な対応】 ・表情が分かるよう、顔を見ながら、ゆっくりと短いことばや文章で、分かりやすく話しかける ・一度でうまく伝わらない時は、繰り返して言ったり、別のことばに言い換えたり、漢字や絵で書いたり、写真・実物・ジェスチャーで示したりすると理解しやすい ・「はい」「いいえ」で答えられるように問いかけると理解しやすい ・話し言葉以外の手段(カレンダー、地図、時計など身近にあるもの)を用いると、コミュニケーションの助けとなる ※「失語症のある人の雇用支援のために」(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者 職業総合センター)より一部引用 高次脳機能障害 交通事故や脳血管障害などの病気により、脳にダメージを受けることで生じる認知や行動に生じる障害。身体的には障害が残らないことも多く、外見では分かりにくいため「見えない障害」とも言われている。 p25 【主な特性】 ・以下の症状が現れる場合がある 記憶障害: すぐに忘れてしまったり、新しい出来事を覚えることが苦手なため、何度も同じことを繰り返したり質問したりする 注意障害: 集中力が続かなかったり、ぼんやりしていてしまい、何かをするとミスが多く見られる 二つのことを同時にしようとすると混乱する 主に左側で、食べ物を残したり、障害物に気が付かないことがある 遂行機能障害: 自分で計画を立てて物事を実行したり、効率よく順序立てられない 社会的行動障害: ささいなことでイライラしてしまい、興奮しやすい こだわりが強く表れたり、欲しいものを我慢できない 思い通りにならないと大声を出したり、時に暴力をふるったりする 病識欠如: 上記のような症状があるという認識が乏しく、できるつもりで行動してトラブルになる ・失語症を伴う場合がある(失語症の項を参照) ・片麻痺や運動失調等の運動障害や眼や耳の損傷による感覚障害を持つ場合がある 【主な対応】 ・本障害に詳しいリハビリテーション専門医や専門職、高次脳機能障害支援拠点機関、家族会などに相談する ・記憶障害 手がかりがあると思い出しやすいので、手帳やメモ、アラームを利用したり、ルートマップを持ち歩いてもらうなどする 自分でメモを取ってもらい、双方で確認する 残存する受傷前の知識や経験を活用する(例えば、過去に記憶している自宅周囲では迷わず行動できるなど) p26 ・注意障害 短時間なら集中できる場合もあるので、こまめに休憩を取るなどする ひとつずつ順番にやる 左側に危険なものを置かない ・遂行機能障害 手順書を利用する 段取りを決めて目につくところに掲示する スケジュール表を見ながら行動したり、チェックリストで確認する ・社会的行動障害 感情をコントロールできない状態にあるときは、上手に話題や場所を変えてクールダウンを図る 予め行動のルールを決めておく 内部障害 【主な特性】 ・心臓機能、呼吸器機能、腎臓機能、膀胱・直腸機能、小腸機能、肝機能、HIVによる免疫機能等の障害により日常生活に支障がある ・疲れやすく長時間の立位や作業が困難な場合がある 【主な対応】 ・ペースメーカーは外部からの電気や磁力に影響をうけることがあるので注意すべき機器や場所などの知識をもつ ・排泄に関し、人工肛門の場合、パウチ洗浄等特殊な設備が必要となることへの配慮 ・人工透析が必要な人については、通院への配慮 ・呼吸器機能障害のある方は、慢性的な呼吸困難、息切れ、咳等の症状があることを理解し、息苦しくならないよう、楽な姿勢でゆっくり話をしてもらうよう配慮 ・常時酸素吸入が必要な方は、携帯用酸素ボンベが必要な場合があることを理解 p27 重症心身障害・その他医療的ケアが必要な者 【主な特性】 ・自分で体を動かすことができない重度の肢体不自由と、年齢に相応した知的発達が見られない重度の知的障害が重複している ・殆ど寝たままで自力では起き上がれない状態が多い ・移動、食事、着替え、洗面、トイレ、入浴などが自力ではできないため、日常の様々な場面で介助者による援助が必要 ・常に医学的管理下でなければ、呼吸することも栄養を摂ることも困難な人もいる ・重度の肢体不自由や重度の知的障害はないが、人工呼吸器を装着するなど医療的ケアが必要な人もいる 【主な対応】 ・人工呼吸器などを装着して専用の車椅子で移動する人もいるため、電車やバスの乗降時等において、周囲の人が手伝って車椅子を持ち上げるなどの配慮が必要 ・体温調整がうまくできないことも多いので、急な温度変化を避ける配慮が必要 知的障害 【主な特性】 ・概ね18歳頃までの心身の発達期に現れた知的機能の障害により、生活上の適応に困難が生じる ・「考えたり、理解したり、読んだり、書いたり、計算したり、話したり」する等の知的な機能に発達の遅れが生じる ・金銭管理、会話、買い物、家事などの社会生活への適応に状態に応じた援助が必要 ・主な原因として、ダウン症候群などの染色体異常、または先天性代謝異常によるものや、脳症や外傷性脳損傷などの脳の疾患があるが、原因が特定できない場合もある p28 ・てんかんを合併する場合もある ・ダウン症候群の場合の特性として、筋肉の低緊張、多くの場合、知的な発達の遅れがみられること、また、心臓に疾患を伴う場合がある 【主な対応】 ・言葉による説明などを理解しにくいため、ゆっくり、ていねいに、分かりやすく話すことが必要 ・文書は、漢字を少なくしてルビを振る、文書を分かりやすい表現に直すなどの配慮で理解しやすくなる場合があるが、一人ひとりの障害の特性により異なる ・写真、絵、ピクトグラムなど分かりやすい情報提供を工夫する ・説明が分からないときに提示するカードを用意したり、本人をよく知る支援者が同席するなど、理解しやすくなる環境を工夫する 発達障害 ○自閉症、アスペルガー症候群を含む広汎性発達障害(自閉症スペクトラム) 【主な特性】 ・コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手な部分もある ・特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりする ・感覚の過敏さを持ち合わせている場合もある ・強い関心や感覚の鋭さを活かして社会の中で活躍している 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・肯定的、具体的、視覚的な伝え方の工夫(「○○をしましょう」といったシンプルな伝え方、その人の興味関心に沿った内容や図・イラストなどを使って説明するなど) p29 ・感覚過敏がある場合は、音や肌触り、室温など感覚面の調整を行う(イヤーマフを活用する、大声で説明せずホワイトボードで内容を伝える、人とぶつからないように居場所を衝立などで区切る、クーラー等の設備のある部屋を利用できるように配慮するなど) ○学習障害(限局性学習障害) 【主な特性】 ・「話す」「理解」は普通にできるのに、「読む」「書く」「計算する」ことが、努力しているのに極端に苦手 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・得意な部分を積極的に使って情報を理解し、表現できるようにする(ICTを活用する際は、文字を大きくしたり行間を空けるなど、読みやすくなるように工夫する) ○注意欠陥多動性障害(注意欠如・多動性障害) 【主な特性】 ・年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性がある ・多動性-衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もある ・また、いろいろなことに関心を持ったりエネルギッシュに仕事に取り組む場合もある 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・短く、はっきりとした言い方で伝える p30 ・待合室における気の散りにくい座席の位置の工夫、分かりやすいルール提示などの配慮 ・ストレスケア(傷つき体験への寄り添い、適応行動が出来たことへのこまめな評価) ○その他の発達障害 【主な特性】 ・体の動かし方の不器用さ、我慢していても声が出たり体が動いてしまったりするチック、一般的に吃音と言われるような話し方なども、発達障害に含まれる 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・叱ったり拒否的な態度を取ったり、笑ったり、ひやかしたりしない ・日常的な行動の一つとして受け止め、時間をかけて待つ、苦手なことに無理に取組まず出来ることで活躍する環境を作るなど、楽に過ごせる方法を一緒に考える 精神障害 ・精神障害の原因となる精神疾患は様々であり、原因となる精神疾患によって、その障害特性や制限の度合いは異なる ・精神疾患の中には、長期にわたり、日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態が続くものがある ・代表的な精神疾患として、統合失調症や気分障害等がある ・障害の特性もさまざまであるため、積極的に医療機関と連携を図ったり、専門家の意見を聴くなど、関係機関と協力しながら対応する p31 ○統合失調症 【主な特性】 ・発症の原因はよく分かっていないが、100人に1人弱かかる、比較的一般的な病気である ・「幻覚」や「妄想」が特徴的な症状だが、その他にも様々な生活のしづらさが障害として表れることが知られている ・陽性症状 幻覚: 実態がなく他人には認識できないが、本人には感じ取れる感覚のこと なかでも、自分の悪口やうわさ、指図する声等が聞こえる幻聴が多い 妄想:明らかに誤った内容を信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのこと。誰かにいやがらせをされているという被害妄想、周囲のことが何でも自分に関係しているように思える関係妄想などがある ・陰性症状 意欲が低下し、以前からの趣味や楽しみにしていたことに興味を示さなくなる 疲れやすく集中力が保てず、人づきあいを避け引きこもりがちになる 入浴や着替えなど清潔を保つことが苦手となる など ・認知や行動の障害 考えがまとまりにくく何が言いたいのか分からなくなる  相手の話の内容がつかめず、周囲にうまく合わせることができない など 【主な対応】 ・統合失調症は脳の病気であることを理解し、病気について正しい知識を学ぶ必要がある ・薬物療法が主な治療となるため、内服を続けるために配慮する ・社会との接点を保つことも治療となるため、本人が病気と付き合いながら、他人と交流したり、仕事に就くことを見守る ・一方で、ストレスや環境の変化に弱いことを理解し、配慮した対応を心掛ける ・一度に多くの情報が入ると混乱するので、伝える情報は紙に書くなどして整理してゆっくり具体的に伝えることを心掛ける p32 ・症状が強い時には無理をさせず、しっかりと休養をとったり、速やかに主治医を受診することなどを促す ○気分障害 【主な特性】 ・気分の波が主な症状としてあらわれる病気。うつ状態のみを認める時はうつ病と呼び、うつ状態と躁状態を繰り返す場合には、双極性障害(躁うつ病)と呼ぶ ・うつ状態では気持ちが強く落ち込み、何事にもやる気が出ない、疲れやすい、考えが働かない、自分が価値のない人間のように思える、死ぬことばかり考えてしまい実行に移そうとするなどの症状がでる ・躁状態では気持ちが過剰に高揚し、普段ならあり得ないような浪費をしたり、ほとんど眠らずに働き続けたりする。その一方で、ちょっとした事にも敏感に反応し、他人に対して怒りっぽくなったり、自分は何でも出来ると思い込んで人の話を聞かなくなったりする 【主な対応】 ・専門家の診察の上で、家族や本人、周囲の人が病気について理解する ・薬物療法が主な治療となるため、内服を続けるために配慮する ・うつ状態の時は無理をさせず、しっかりと休養をとれるよう配慮する ・躁状態の時は、金銭の管理、安全の管理などに気を付け、対応が難しい時には専門家に相談する ・自分を傷つけてしまったり、自殺に至ることもあるため、自殺などを疑わせるような言動があった場合には、本人の安全に配慮した上で、速やかに専門家に相談するよう本人や家族等に促す p33 ○依存症(アルコール) 【主な特性】 ・飲むことが良くない状況やタイミング等をわかっているにもかかわらず、飲酒したいという強い欲求をコントロールできず、過剰に飲酒したり、昼夜問わず飲酒したりすることで身体的、社会生活上の様々な問題が生じる ・体がアルコールに慣れることで、アルコールが体から抜けると、発汗、頻脈、手の震え、不安、イライラなどの離脱症状が出る ・一念発起して断酒しようとしても、離脱症状の不快感や、日常生活での不安感から逃れるために、また飲んでしまう 【主な対応】 ・本人に病識がなく(場合によっては家族も)、アルコール依存症は治療を必要とする病気であるということを、本人・家族・周囲が理解する ・周囲の対応が結果的に本人の飲酒につながってしまう可能性があるため、家族も同伴の上で、アルコール依存症の専門家に相談する ・一度断酒しても、再度飲酒してしまうことが多いため、根気強く本人を見守る ○認知症 【主な特性】 ・認知症とは、単一の病名ではなく、種々の原因となる疾患により記憶障害など認知機能が低下し、生活に支障が出ている状態である ・原因となる主な疾患として、 アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症等がある ・認知機能の障害の他に、行動・心理症状(BPSD)と呼ばれる症状(徘徊(はいかい)、不穏、興奮、幻覚、妄想など)がある 【主な対応】 ・認知症は誰もがなりうるものであり、家族や身近な人が認知症になることなどを含め、多くの人にとって身近なものであることを理解する p34 ・認知症の人を個性、想い、人生の歴史等を持つ主体として尊重し、各々の意思や価値観に共感し、できないことではなく、できることやできる可能性があることに目を向けて、本人が有する力を最大限に活かしながら、地域社会の中で本人のなじみの暮らし方やなじみの関係が継続できるよう、伴走者として支援していく ・早期に気付いて適切に対応していくことができるよう、小さな異常を感じたときに速やかに適切な機関に相談できるようにする ・BPSDについては、BPSDには何らかの意味があり、その人からのメッセージとして聴くことが重要であり、BPSDの要因として、さまざまな身体症状、孤立・不安、不適切な環境・ケア、睡眠や生活リズムの乱れなどにも目を向ける ・症状が変化した等の場合には、速やかに主治医を受診し、必要に応じて専門機関に相談することなどを促す てんかん 【主な特性】 ・何らかの原因で、一時的に脳の一部が過剰に興奮することにより、発作がおきる ・発作には、けいれんを伴うもの、突然意識を失うもの、意識はあるが認知の変化を伴うものなど、様々なタイプのものがある 【主な対応】 ・誰もがかかる可能性がある病気であり、専門家の指導の下に内服治療を行うことで、多くの者が一般的な生活が送れることを理解する ・発作が起こっていないほとんどの時間は普通の生活が可能なので、発作がコントロールされている場合は、過剰に活動を制限しない ・内服を適切に続けることが重要である。また、発作が起こってしまった場合には、本人の安全を確保した上で専門機関に相談する p35 難病 【主な特性】 ・神経筋疾病、骨関節疾病、感覚器疾病など様々な疾病により多彩な障害を生じる ・常に医療的対応を必要とすることが多い ・病態や障害が進行する場合が多い 【主な対応】 ・専門の医師に相談する ・それぞれの難病の特性が異なり、その特性に合わせた対応が必要 ・進行する場合、病態・障害の変化に対応が必要 ・排泄の問題、疲れやすさ、状態の変動などに留意が必要 ・薬の効き具合による日内変化などに留意が必要 ・体調がすぐれない時に休憩できる場所を確保する 第4 事業者における相談体制の整備 障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に応じることが必要です。そのためには、法で定められた国や地方公共団体における相談及び紛争の防止等のための体制整備のみならず、障害者にサービス提供を行う事業者において、直接、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に応じるための体制の整備や事業主や管理職を含むすべての職員の研修・啓発を行うことが望まれます。 なお、相談窓口等を設置(既存の苦情解決体制や相談窓口を活用することも考えられます)する際には、ホームページ等を活用し、相談窓口等に関する情報の周知を図り、利用しやすいものとするよう努めるとともに、対面のほか、電話(電話リレーサービスの対応を含む)、ファックス、電子メールなどの多様な手段を相談者の障害特性に応じて可能な範囲で用意しておくことが重要です。また、相談等に対応する際には、障害者の性別・年齢・状態などに配慮することが重要です。例えば、女性の相談員を配置することも考えられます。実際の相談事例については、相談者のプライバシーに配慮しつつ順次蓄積・公表し、以後の合理的配慮の提供等に活用することが望まれます。あわせて、地方自治体の相談窓口や障害者差別解消支援地域協議会、障害当事者団体、医療、教育、労働関係機関などとも連携して、差別解消に向けた取組を着実に進めていくことが望まれます。 p36 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 障害者差別は、障害に関する知識・理解の不足、意識の偏りなどにより引き起こされることが大きいと考えられることから、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重する共生社会を目指すことの意義を職員が理解することが重要です。 また、こうした理念が真に理解されることが、障害者差別や、障害者が時に感じる大人の障害者に対する子ども扱い、障害者に対する命令的、威圧的、強制的な発言などの解消にもつながるものと考えられます。 このため、事業者においては、研修等を通じて、法の趣旨の普及を図るとともに、事業所の地域の取組のなかで近隣住民への理解を促していくことが重要です。研修等の実施に当たっては、内閣府が障害者の差別解消に向けた理解促進のためのポータルサイトにおいて提供している、事業者が障害者に対応する際に参考となる対応例等、行政機関が作成し提供する周知・啓発資料等を活用することも考えられます。また、障害者から話を聞く機会を設けることも有効です。 加えて、事業者の内部規則やマニュアル等について、障害者へのサービス提供等を制限するような内容が含まれていないかについて点検することや、個別の相談事案等への対応を契機として、必要な制度の改正等を検討するなど、障害を理由とする差別の解消の推進に資するよう、制度等を整備することが重要です。 p37 なお、障害者差別の理解には、障害者虐待防止に関する理解も極めて重要になってくることから、併せて研修を行うことが望まれます。 第6 国の行政機関における相談窓口 法第14条において、「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする」と規定されています。 相談に際しては、福祉事業所などの地域の自治体の様々な相談窓口や各都道府県において組織される障害者差別解消支援地域協議会などもご活用ください。 厚生労働省における医療関係の担当窓口は以下のとおりです。 (1)医療機関関係 医政局総務課 (2)薬局関係 医薬局総務課 第7 主務大臣による行政措置 事業者における障害者差別解消に向けた取組は、本指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待されています。しかし、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされています。(法第12条) p38 おわりに 障害者差別解消法の理念を実現していくには、国民一人ひとりの障害に対する理解と適切な配慮が不可欠であり、差別と解される事例についても、お互いの意思疎通不足や理解の不足が起因していると思われることも見受けられます。法に定められたから義務としてやるという姿勢ではなく、事業者や障害者が歩み寄り理解を深めていくことが、差別解消の第一歩につながると考えられます。 本指針は、そうした事業者の取組に資するよう、今後も、より具体的な事例、特に好事例をお示しできるよう随時見直しを図るなど努めてまいります。 事業者のみなさまの法に関するより深い理解と、障害者差別解消に向けた取組を積極的に進めて頂きますようお願いします。 p39 【参考ページ】 ■障害者差別解消法関係の経緯 平成16年6月4日 障害者基本法改正 ※施策の基本的理念として差別の禁止を規定 平成18年12月13日 第61回国連総会において障害者権利条約を採択 平成19年9月28日 日本による障害者権利条約への署名 平成23年8月5日 障害者基本法改正 ※障害者権利条約の考え方を踏まえ、合理的配慮の概念を規定 平成25年4月26日 障害者差別解消法案閣議決定、国会提出 平成25年6月26日 障害者差別解消法 公布・一部施行 平成26年1月20日 障害者の権利に関する条約締結 平成27年2月24日 障害者差別解消法「基本方針」閣議決定 平成28年4月1日 障害者差別解消法施行 令和3年6月4日 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 公布 令和5年3月14日 障害者差別解消法「基本方針」の変更の閣議決定 p40 ■障害者権利条約とは 障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定めた条約です。 2006(平成18)年12月13日に国連総会において採択され、2008(平成20)年5月3日に発効しました。我が国は2007(平成19)年9月28日に条約に署名し、2014(平成26)年1月20日に批准書を寄託しました。また、同年2月19日に同条約は我が国について効力を発生しました。 この条約の主な内容としては、以下のとおりです。 (1)一般原則 障害者の尊厳、自律及び自立の尊重、無差別、社会への完全かつ効果的な参加及び包容等 (2)一般的義務 合理的配慮の実施を怠ることを含め、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること等 (3)障害者の権利実現のための措置 身体の自由、拷問の禁止、表現の自由等の自由権的権利及び教育・労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置等を規定。社会権的権利の実現については漸進的に達成することを許容 (4)条約の実施のための仕組み 条約の実施及び監視のための国内の枠組みの設置。障害者の権利に関する委員会における各締約国からの報告の検討 p41 ■本指針に関する障害者差別解消法の参照条文 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (目的) 第1条 この法律は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。 第6条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。 2から6 (略) (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第8条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (事業者のための対応指針) 第11条 主務大臣は、基本方針に即して、第8条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めるものとする。 2 (略) (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) 第12条 主務大臣は、第8条の規定の施行に関し、特に必要があると認める時は、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。 p42 ■国の「基本方針」に定められた「対応指針」に関する規定 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定) 第4 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 2 対応指針 (1)対応指針の位置付け及び作成・変更手続 主務大臣は、個別の場面における事業者の適切な対応・判断に資するための対応指針を作成するものとされている。作成・変更に当たっては、障害者や事業者等を構成員に含む会議の開催、障害者団体や事業者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成等の後は、対応指針を公表しなければならない。 対応指針は、事業者の適切な判断に資するために作成されるものであり、盛り込まれる合理的配慮の具体例は、事業者に強制する性格のものではなく、また、それだけに限られるものではない。事業者においては、対応指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待される。 また、対応指針は事業者に加え、障害者が相談を行う際や、国や地方公共団体における相談機関等が相談対応を行う際等にも、相談事案に係る所管府省庁の確認のため参照され得るものであることから、対応指針においては、各主務大臣が所掌する分野及び当該分野に対応する相談窓口を分かりやすく示すことが求められる。 (2)対応指針の記載事項 対応指針の記載事項としては、以下のものが考えられる。なお、具体例を記載する際には、障害特性や年齢、性別、具体的な場面等を考慮したものとなるよう留意することとする。 ○趣旨 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例 ○事業者における相談体制の整備 ○事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 ○国の行政機関(主務大臣)における所掌する分野ごとの相談窓口 p43 ■身体障害者補助犬とは         「身体障害者補助犬」は、目や耳や手足に障害のある方の生活をお手伝いする、「盲導犬」・「聴導犬」・「介助犬」のことです。                                     身体障害者補助犬法に基づき認定された犬で、特別な訓練を受けています。 補助犬の種類 ○盲導犬 目の見えない人、見えにくい人が街なかを安全に歩けるようにサポートします。障害物を避けたり、立ち止まって曲がり角を教えたりします。ハーネス(胴輪)をつけています。 ○介助犬 手や足に障害のある人の日常の生活動作をサポートします。物を拾って渡したり、指示したものを持ってきたり、着脱衣の介助などを行ないます。「介助犬」と書かれた表示をつけています。 ○聴導犬 音が聞こえない、聞こえにくい人に、生活の中の必要な音を知らせます。玄関のチャイム音・FAX着信音・赤ちゃんの泣き声などを聞き分けて教えます。「聴導犬」と書かれた表示をつけています。 補助犬の同伴については、「身体障害者補助犬法」で、人が立ち入ることのできるさまざまな場所で受け入れるよう義務づけられています。「犬だから」という理由で受け入れを拒否しないでください。 補助犬の同伴を受け入れる義務がある場所 ・国や地方公共団体などが管理する公共施設・公共交通機関(電車、バス、タクシーなど) ・不特定かつ多数の人が利用する民間施設−商業施設、飲食店、病院、ホテルなど ・事務所(職場)−国や地方公共団体などの事務所−従業員40人、令和8年7月1日以降は37.5人以上の民間企業 補助犬の同伴を受け入れる努力をする必要がある場所 ・事務所(職場)−従業員40人、令和8年7月1日以降は37.5人未満の民間企業 ・民間住宅 補助犬の受け入れ施設の方へ ●補助犬は、ユーザーの指示に従い待機することができるので、特別な設備は必要ありません。 ●補助犬の同伴を受け入れる際に他のお客様から苦情がある場合は、「身体障害者補助犬法」で受け入れ義務があること、補助犬の行動や健康の管理はユーザーが責任をもって行なっていることを説明し、理解を求めてください。 ●補助犬が通路をふさいだり、周りのにおいを嗅ぎ回ったり、その他、何か困った行動をしている場合は、そのことを補助犬ユーザーにはっきり伝えてください。 ●補助犬を同伴していても、補助犬ユーザーへの援助が必要な場合があります。補助犬ユーザーが困っている様子を見かけたら、まずは声をかけたり、筆談をしたりコミュニケーションをとってください。 ●特に補助犬ユーザーの受け入れを円滑にするために、医療機関に考慮していただきたいことを、次のホームページに掲載しておりますので、こちらも併せてご確認ください。 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/syakai/hojyoken/html/a08.html p44 ■障害者に関係するマークの一例 「令和5年版 障害者白書」(内閣府)より 【障害者のための国際シンボルマーク】 所管:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 【盲人のための国際シンボルマーク】 所管:社会福祉法人日本盲人福祉委員会 【身体障害者標識(身体障害者マーク)】 所管:警察庁 【聴覚障害者標識(聴覚障害者マーク)】 所管:警察庁 【ほじょ犬マーク】 所管:厚生労働省 【耳マーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【ヒアリングループマーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【オストメイト用設備/オストメイト】 所管:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 【ハート・プラスマーク】 所管:特定非営利活動法人ハート・プラスの会 【「白杖SOSシグナル」普及啓発シンボルマーク】 所管:岐阜市 【ヘルプマーク】 所管:東京都 【手話マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 【筆談マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 p45 ■コミュニケーション支援用絵記号の例 「R5年版 障害者白書」(内閣府)より 【絵記号の例】 わたし あなた 感謝する 助ける 【絵記号による意思伝達の例】 朝起きたら顔を洗って歯を磨いてください。 p46 ■障害特性に応じた具体的対応例(その1) 自分のタイミングで移動したい(視覚障害) 全盲の視覚障害者Aさんは、地域の医療機関を受診する際、内科への案内看板等が見えず単独で行くことができませんでした。しかし医療機関入り口付近にガイドボランティアが配置され、手助けが必要な人に一声かけてくれるようになったことから、付き添いがなくても一人で通うことができるようになりました。 また併せて、エレベーターや階段の手すりにも点字シールを表示することになり、ガイドボランティアと離れていても、自分のタイミングで移動することが可能になり、御本人の気持ちもとても自由になりました。 ■障害特性に応じた具体的対応例(その2) 呼び出し方法の改善(聴覚障害) 聴覚障害者(発語可能・4級)のBさんは受診申込みのため、受付を済ませ呼び出しを待っていましたがなかなか呼ばれませんでした。受付に、呼ばれていないことを申し出ると、「名前を呼びましたが、返事がありませんでした」とのことでした。音声による通常の呼び出ししか行われなかったためです。 その後、事務局は対応を検討し、聴覚障害のある方には、文字情報などでも呼び出しを伝え、手続きに関するやりとりに関しても筆談等で対応することとしました。 ■障害特性に応じた具体的対応例(その3) 建物の段差が障壁に(肢体不自由) 車椅子を使用している身体障害者(1級)Aさんが、医療機関に入ろうとすると大きな段差があり立ち往生してしまいました。 スタッフに協力をお願いしてみると、段差を車椅子で乗り越える手伝いを申し出てくれました。介助のお陰で、無事に医療機関に入ることができました。 p47 ■障害特性や特性ごとの配慮事項等 ※障害特性や特性ごとの配慮事項等を知るには、例えば、以下のようなホームページがあります。 【内閣府】障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト https://shougaisha-sabetukaishou.go.jp/ 【国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター】こころの情報サイト https://kokoro.ncnp.go.jp/ 【青森県】障害を知るためのガイドブック https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/syofuku/kyouseishakai.html 【群馬県障害者社会参加推進協議会】障害のある方へのマナーブック https://www.pref.gunma.jp/page/2785.html 【千葉県】障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン https://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/shougai-kurashi/jouhouhoshou/ 【八王子市】みんなちがってみんないい(障害のある人を理解するためのガイドブック) https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/005/014/009/p021337.html 【武蔵野市】心のバリアフリーハンドブック https://www.city.musashino.lg.jp/kenko_fukushi/shogaisha_fukushi/event_shougaifukushi/1006542.html 【厚木市】この街でともに・・・〜障害のある人を理解するためのガイドブック〜 https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/shogaifukushika/9/12/1889.html 【富山県】障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちづくりのためのアドバイス事例集(障害のある人が「困った」事例から) https://www.pref.toyama.jp/1209/kurashi/kenkou/shougaisha/jigyousha/kj00011743.html 【大阪府】障がい者が必要とする社会的障壁の除去のための配慮や工夫の事例について http://www.pref.osaka.lg.jp/keikakusuishin/go-hai/ 【島根県・鳥取県】障がいを知り、共に生きる〜まず、知ることからはじめましょう〜 http://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/syougai/ippan/aisupport/supporter.data/H26panhu.pdf http://www.pref.tottori.lg.jp/aisupport/ 【熊本県】障害のある人もない人も共に生きる熊本づくりのために(パンフレット) http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_3020.html 【沖縄県】心のバリアフリー2(各種冊子) http://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kodomo/shogaifukushi/keikaku/jorei/bf2.html 【名古屋市】こんなときどうする?-障害のある人を理解し、配慮のある接し方をするためのガイドブック- http://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/22-2-0-0-0-0-0-0-0-0.html 【福岡市】ユニバーサルデザインに配慮した印刷物作成の手引き http://www.city.fukuoka.lg.jp/shisei/kouhou-hodo/kankoubutsu-video/ud.html p48 ■障害者差別解消支援地域協議会とは 障害者差別解消法では、国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事する者(以下「関係機関」という。)は、社会生活を円滑に営む上での困難を有する障害者に対する支援が効果的かつ円滑に実施されるよう、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「地域協議会」という。)を組織できるとされています。(法第17条第1項) 1 地域協議会とは <地域協議会の事務> 障害者差別に関する相談等に係る協議や地域における障害者差別を解消するための取組に関する提案に係る協議を行う ※個別事案ごとに差別か否かの判断を行うことまでは想定されていない ・事案の情報共有や構成機関への提言 ・地域における障害者差別解消の推進のための取組に関する協議・提案 ・事案の解決を後押しするための協議 など <対象となる障害者差別に係る事案> 一般私人による事案は地域協議会における情報共有の対象としないが、環境の整備に関する相談、制度等の運用に関する相談については情報共有の対象とする 2 地域協議会の組織 都道府県、市町村、特別区など地方公共団体が主導して組織する 詳細については、内閣府ホームページに掲載されています。  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/t-b2.html p49 ■障害者総合支援法の対象となる疾病について 平成25年4月より、難病等が障害者総合支援法の対象となり130疾病を対象としていましたが、指定難病(医療費助成の対象となる難病)の検討を踏まえ、障害者総合支援法の対象となる疾病について順次見直しを行い、令和6年4月より369疾病を対象としています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hani/index.html 対象となる方は、障害者手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)をお持ちでなくても、必要と認められた障害福祉サービス等(障害者・児は、障害福祉サービス・相談支援・補装具及び地域生活支援事業(障害児は、障害児通所支援と障害児入所支援も含む。))が受けられます。 *難病の特徴(症状の変化や進行、福祉ニーズ等)については、「難病患者等に対する認定マニュアル(令和3年12月)」を参照ください。 https://www.mhlw.go.jp/content/000869186.pdf p50 ■権利擁護に関連する法律(その1) 【障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)】 1.目的 障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、障害者に対する虐待の禁止、国等の責務、障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的としています。 2.障害者に対する虐待の禁止と早期発見の努力義務 何人も障害者を虐待してはならない旨を定め、障害者の虐待の防止に係る国等の責務や、障害者虐待の早期発見の努力義務を定めています。 3.「障害者虐待」の通報義務 「障害者虐待」を受けたと思われる障害者を発見した者に速やかな通報を義務付けています。 4.「障害者虐待」とは 以下の1から3の人たちが、(ア)から(オ)の5つのいずれかの虐待行為を行った場合を「障害者虐待」としています。 1 養護者(障害者の世話をしている家族等) 2 障害者福祉施設従事者等(障害福祉サービスの職員等) 3 使用者(障害者を雇用している者等) 5つの行為(具体的要件は、虐待を行う主体ごとに微妙に異なる。) (ア)身体的虐待:障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること (イ)放棄・放置:障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置等による(ア)(ウ)(エ)の行為と同様の行為の放置等 (ウ)心理的虐待:障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと (エ)性的虐待:障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること (オ)経済的虐待:障害者から不当に財産上の利益を得ること 5.通報先 市町村・都道府県の部局等は、障害者虐待の通報や対応の窓口等となる「市町村障害者虐待防止センター」、「都道府県障害者権利擁護センター」の機能を果たしています。 6.学校、保育所、医療機関における虐待の防止 就学する障害者、保育所等に通う障害者及び医療機関を利用する障害者に対する虐待への対応について、その防止等のための措置の実施を学校の長、保育所等の長及び医療機関の管理者に義務付けています。 p51 ■権利擁護に関連する法律(その2) 【児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)】 児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする法律です。 ○「児童虐待」とは保護者がその監護する児童について行う次の行為をいいます。 1 身体的虐待:殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など 2 性的虐待:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など 3 ネグレクト:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など 4 心理的虐待:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など 【高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)】 高齢者の虐待防止等に関する国等の責務、虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援の措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする法律です。 ○虐待防止施策には、1 養護者(家族等)による虐待に対するものと、2 養介護施設従事者等による虐待に対するものに大別されます。 ○虐待の類型には、1 身体的虐待、2 養護を著しく怠る(ネグレクト)、3 心理的虐待、4 性的虐待、5 経済的虐待があります。 詳細は、以下よりご覧ください。 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/boushi/index.html  【配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)】 配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的とする法律です。 ○配偶者:男性、女性を問いません。事実婚や元配偶者(※)も含まれます。 ※離婚前に暴力を受け、離婚後も引き続き暴力を受ける場合 ※生活の本拠をともにする交際相手、元生活の本拠をともにする交際相手も対象 ○暴力:身体的暴力のみならず、精神的・性的暴力(保護命令の申し立ては身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫のみ対象)も含まれます。 詳細は、以下よりご覧ください。 https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/index2.html p52 ■権利擁護に関連する法律(その3) 【精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)】 障害者基本法の基本的な理念にのっとり、精神障害者の権利の擁護を図りつつ、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者総合支援法と相まって精神障害者の社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、精神障害の発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることで、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする法律です。 精神保健福祉法の一部改正を含む障害者総合支援法等の一部を改正する法律が令和4年12月に公布され、主に以下の内容が新たに定められました。これらについては令和6年4月1日から施行されています。 ○医療保護入院の入院期間の法定化 ○精神科病院での虐待の通報制度の新設 ○ 入院者訪問支援事業の新設 詳細は、以下よりご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kaisei_seisin/index_00003.html p53 ■発達障害者支援法とは T.目的 親をはじめとする身近な人、保育所や学校などの担任、病院や福祉機関で支援に携わる者、行政機関の職員、その他様々な立場の国民全体が、発達障害の特性を理解し支援ができるようにするために ・早期発見・発達支援に関する国・地方公共団体の責務を明らかにしました。 ・発達障害のある人の自立や社会参加のために、様々な分野で支援の充実を図る必要性があることが示されました。 U.定義(発達障害とは) 自閉症やアスペルガー症候群などを含む広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などが代表的ですが、このほかにもトゥレット症候群、吃音症など様々なものがあります。 現時点では、確かな原因は明らかにはなっていませんが、様々な調査から、脳の機能が平均的な世の中の人とは違う発達の仕方をしているらしいということが徐々に分かってきています。 「発達障害」という名前から、「発達しない」「子どもの時期だけの障害」などというイメージが持たれることもありますが、これは誤解です。その人に合った支援があれば、自立や社会参加の可能性は高まります。また、発達障害の特性を踏まえた支援は、子どもの時期だけではなく成人期や老年期にも必要になります。 V.相談機関等(発達障害について相談したいとき) まずは、現在住んでいる地域の中にある様々なサービス機関(たとえば、市町村の役場、保育所、学校、医療機関、ハローワークなど)でも、発達障害に対する知識が年々高まってきています。 また、都道府県や政令市には、発達障害者支援センターが必ず置かれていますので、お住まいの地域の発達障害者支援センターに連絡をしたりホームページを確認したりするのも良いでしょう。 国においても、発達障害情報・支援センターのホームページを随時更新し、様々な情報を掲載しています。 (掲載先)http://www.rehab.go.jp/ddis/ W.普及啓発 発達障害については、日本だけではなく世界中で関心が高まりつつあります。たとえば、平成19年には国連総会において「4月2日を世界自閉症啓発デーと定める」決議、平成24年には「自閉症スペクトラム障害、発達障害及び関連する障害により影響を受けている個人、家族及び社会の社会経済的ニーズへの対応」に関する決議が採択されています。 日本国内でも、4月2日の世界自閉症啓発デーには様々な場所で建物を青くライトアップする取組や、4月2日から8日を発達障害啓発週間として様々な啓発イベントが行われるようになっています。  (掲載先)http://www.worldautismawarenessday.jp/htdocs/ p54 ■関連ホームページ、通知及び事務連絡 ○ホームページ 障害者権利条約(外務省)  http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html 障害者差別解消法(内閣府) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html 障害者基本法(内閣府) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/wakugumi.html 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sabetsu_kaisho/index.html ○通知及び事務連絡 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/001177644.pdf (作業者注・「障害者差別解消法 衛生事業者向けガイドライン」(表紙)) 障害者差別解消法 衛生事業者向けガイドライン 〜衛生分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針〜(案) 令和○年○月 厚生労働大臣決定 はじめに 「障害者差別解消法」は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項や、国の行政機関、地方公共団体等及び民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置などについて定めることによって、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につなげることを目的としています。 この対応指針は、「障害者差別解消法」の規定に基づき、衛生分野における事業者が障害者に対し不当な差別的取扱いをしないこと、また必要かつ合理的な配慮を行うために必要な考え方などを記載しています。 日々の業務の参考にしていただき、障害者差別のない社会を目指しましょう。 ※この対応指針は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号)の施行の日(令和6年4月1日)から適用します。 目次 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過・・・p1 (2)対象となる障害者・・・p3 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針・・・p3 (4)衛生分野における対応指針・・・p4 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い 1 不当な差別的取扱いの基本的考え方・・・p8 2 正当な理由の判断の視点・・・p8 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方・・・p9 2 過重な負担の基本的な考え方・・・p13 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例・・・p14 (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例・・・p16 (3)合理的配慮に該当すると考えられる例・・・p17 (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例・・・p21 (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例・・・p22 (6)障害特性に応じた対応について・・・p23 第4 事業者における相談体制の整備・・・p44 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備・・・p45 第6 行政機関における相談窓口・・・p46 第7 主務大臣による行政措置・・・p47 おわりに・・・p47 別冊「旅館業の施設における障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」・・・p48 参考資料・・・p55 (作業者注:目次ここまで) p1 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過 近年、障害者の権利擁護に向けた取組が国際的に進展し、平成18年に国連において、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)が採択されました。我が国は、平成19年に権利条約に署名し、以来、国内法の整備を始めとする取組を進めてきました。 権利条約は第2条において、「「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義し、その禁止について、締約国に全ての適当な措置を求めています。 我が国においては、平成16年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正において、障害者に対する差別の禁止が基本的理念として明示され、さらに、平成23年の同法改正の際には、権利条約の趣旨を踏まえ、同法第2条第2号において、社会的障壁について、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義されるとともに、基本原則として、同法第4条第1項に、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」こと、また、同条第2項に、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」ことが規定されました。 p2 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定されました。我が国は、法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ、平成26年1月に権利条約を締結しました。また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、相談体制の充実や事例の収集・提供の確保など障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化する措置を講ずることを内容とする障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号。以下「改正法」という。)が公布されました。 ■障害者差別解消法関係の経緯 平成16年6月4日 障害者基本法改正 ※施策の基本的理念として差別の禁止を規定 平成18年12月13日 第61回国連総会において障害者権利条約を採択 平成19年9月28日 日本による障害者権利条約への署名 平成23年8月5日 障害者基本法改正 ※障害者権利条約の考え方を踏まえ、合理的配慮の概念を規定 平成25年4月26日 障害者差別解消法案閣議決定、国会提出 平成25年6月26日 障害者差別解消法 公布・一部施行 平成26年1月20日 障害者の権利に関する条約締結 平成27年2月24日 障害者差別解消法「基本方針」閣議決定 平成28年4月1日 障害者差別解消法施行 令和3年6月4日 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 公布 令和5年3月14日 障害者差別解消法「基本方針」の変更 閣議決定 令和6年4月1日 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 施行 p3 (2)対象となる障害者 対象となる障害者・障害児(以下「障害者」という。)は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。以下同じ。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものです。 これは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるというモデル(いわゆる「社会モデル」)の考え方を踏まえているものです。したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限りません。 また、特に女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより、さらに複合的に困難な状況に置かれている場合があること、障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意する必要があります。 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 法第6条第1項の規定に基づき、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(令和5年3月14日閣議決定。以下「基本方針」という。)が策定されました。 基本方針は、障害を理由とする差別の解消の推進は、雇用、教育、医療、公共交通等、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野に関連し、各府省の所掌に横断的にまたがる施策であるため、政府として、施策の総合的かつ一体的な推進を図るとともに、行政機関間や分野間における取組のばらつきを防ぐため、施策の基本的な方向等を示したものです。 p4 (4)衛生分野における対応指針 法第11条第1項の規定に基づき、主務大臣は、基本方針に即して、事業者が法第8条に規定する事項に関し、適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めることとされています。 本指針は、上に述べた法の目的を達成するため、特に衛生分野に関わる事業者の対応指針を定めたものです。 本指針において定める措置については、「望まれます」と記載されている内容等法的義務ではないものも含まれますが、法の目的を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟な対応を積極的に行うことが期待されるものです。 本指針の対象となる衛生事業者の範囲は、生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(昭和32年法律第164号)第2条第1項各号に掲げる営業を営む者です。 ※本指針の対象となる衛生事業一覧 ・食品衛生法(昭和22年法律第233号)の規定により許可を受けて営む営業のうち飲食店営業、喫茶店営業、食肉販売業及び氷雪販売業 ・理容業(理容師法(昭和22年法律第234号)の規定により届出をして理容所を開設することをいう。) ・美容業(美容師法(昭和32年法律第163号)の規定により届出をして美容所を開設することをいう。) ・興行場法(昭和23年法律第137号)に規定する興行場営業のうち映画、演劇又は演芸に係るもの ・旅館業法(昭和23年法律第138号)に規定する旅館業 ・公衆浴場法(昭和23年法律第139号)に規定する浴場業 ・クリーニング業法(昭和25年法律第207号)に規定するクリーニング業 事業者は、障害を理由とする差別を解消するための取組を行うに当たり、法、基本方針及び本指針に示す項目のほか、各事業に関連する法令等の規定を遵守しなければなりません。 p5 また、生活衛生関係営業に係る事業者については、当該業種に係る営業の振興に必要な事項に関する指針(振興指針)における障害者等への配慮に係る記載事項についても留意する必要があります。 なお、基本方針において、「事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含み、国、独立行政法人等、地方公共団体及び公営企業型以外の地方独立行政法人を除く。)であり、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者である。したがって、例えば、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となり、また対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別も問わない。」と規定されています。 (注)事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされており、同法に基づき別途定められた「障害者差別禁止指針(「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第116号))」及び「合理的配慮指針(「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成27年厚生労働省告示第117号))」を参照してください。 p6 ■本指針に関する障害者差別解消法の参照条文 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (目的) 第1条 この法律は、障害者基本法の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。 第6条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針を定めなければならない。 2から6 (略) (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第8条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (事業者のための対応指針) 第11条 主務大臣は、基本方針に即して、第8条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針を定めるものとする。 2 (略) (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) 第12条 主務大臣は、第8条の規定の施行に関し、特に必要があると認める時は、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。 p7 ■国の「基本方針」に定められた「対応指針」に関する規定 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定) 第4 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 2 対応指針 (1)対応指針の位置付け及び作成・変更手続 主務大臣は、個別の場面における事業者の適切な対応・判断に資するための対応指針を作成するものとされている。作成・変更に当たっては、障害者や事業者等を構成員に含む会議の開催、障害者団体や事業者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成等の後は、対応指針を公表しなければならない。 対応指針は、事業者の適切な判断に資するために作成されるものであり、盛り込まれる合理的配慮の具体例は、事業者に強制する性格のものではなく、また、それだけに限られるものではない。事業者においては、対応指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待される。 また、対応指針は事業者に加え、障害者が相談を行う際や、国や地方公共団体における相談機関等が相談対応を行う際等にも、相談事案に係る所管府省庁の確認のため参照され得るものであることから、対応指針においては、各主務大臣が所掌する分野及び当該分野に対応する相談窓口を分かりやすく示すことが求められる。 (2)対応指針の記載事項 対応指針の記載事項としては、以下のものが考えられる。なお、具体例を記載する際には、障害特性や年齢、性別、具体的な場面等を考慮したものとなるよう留意することとする。 ○趣旨 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例 ○事業者における相談体制の整備 ○事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 ○国の行政機関(主務大臣)における所掌する分野ごとの相談窓口 ■生活衛生関係営業における振興指針について 生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(昭和32年法律第164号) (振興指針) 第56条の2 厚生労働大臣は、業種を指定して、当該業種に係る営業の振興に必要な事項に関する指針(以下「振興指針」という)を定めることができる。 2 振興指針には、次に掲げる事項について定めるものとする。 一、 目標年度における衛生施設の水準、役務の内容又は商品の品質、経営内容その他の振興の目標及び役務又は商品の供給の見通しに関する事項 二、 施設の整備、技術の開発、経営管理の近代化、事業の共同化、役務又は商品の提供方法の改善、従事者の技能の改善向上、取引関係の改善その他の振興の目標の達成に必要な事項 三、 従業員の福祉の向上、環境の保全その他の振興に際し配慮すべき事項 3 振興指針は、公衆衛生の向上及び増進を図り、あわせて利用者又は消費者の利益に資するものでなければならない。 p8 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い 1 不当な差別的取扱いの基本的考え方 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、サービス等の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付するなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止しています。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当します。 また、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではないことに留意する必要があります。 したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たりません。 不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことです。 2 正当な理由の判断の視点 不当な差別的取扱いであるのかどうかの判断には、その取扱いを行う正当な理由の有無が重要となります。正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合です。 p9 正当な理由に相当するか否かについて、事業者は、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止など)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際、事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められます。 なお、「客観的に判断する」とは、主観的な判断に委ねられるのではなく、その主張が客観的な事実によって裏付けられ、第三者の立場から見ても納得を得られるような「客観性」が必要とされるものです。  また、「正当な理由」を根拠に、不当な差別的取扱いを禁止する法の趣旨が形骸化されるべきではなく、抽象的に事故の危惧がある、危険が想定されるといった理由によりサービスを提供しないといったことは適切ではありません。 ※後述の第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例では、正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例及び正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例の具体例を示しています。 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方 <合理的配慮とは> 権利条約第2条において、合理的配慮は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。 p10 改正法による改正後の法においては、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)を義務付けています。 これまで事業者による合理的配慮の提供は努力義務とされていましたが、令和3年の法改正により、法的義務へと改められました。事業者においては、合理的配慮の提供の義務化を契機として、本対応指針に基づき、合理的配慮の必要性につき一層認識を深めることが求められます。  合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものであること、また、障害の状態等が変化することもあるため、特に、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜、見直しを行うことが重要です。加えて、合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意する必要があります。 合理的配慮は、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があります。その提供に当たってはこれらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ、第2(2)2 「過重な負担の基本的な考え方」に掲げた要素も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要があります。 p11 建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要です。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられます。 ※後述の第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例では、合理的配慮に当たり得る配慮の例の具体例を示しています。 <意思の表明> 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられます。 また、障害者からの意思の表明のみでなく、障害の特性により本人からの意思の表明が困難な場合には、障害者の家族、支援者・介助者、法定代理人等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。 p12 なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、支援者・介助者等を伴っていないことなどにより、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白であるときには、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提供するために自主的に取り組むことが望まれます。 <環境の整備との関係> 法第5条においては、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として事業者の努力義務としています。 環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待されます。また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規定の整備等の対応も含まれることが重要です。 障害を理由とする差別の解消のための取組は、法やいわゆるバリアフリー法等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づく環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進められることが重要です。 環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものですが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置です。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなります。 p13 一方で、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことは有効です。また環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することとなります。 なお、環境の整備のうち、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に関する環境の整備については、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(令和4年法律第50号)第5条において、「事業者は、その事業活動を行うに当たっては、障害者がその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにするよう努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に協力するよう努めなければならない」と規定されています。 2 過重な負担の基本的な考え方 過重な負担については、事業者において、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、過重な負担に当たると判断した場合、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際には前述のとおり、事業者と障害者の双方が、お互いに立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められます。 なお、過重な負担に当たると判断した場合であっても、法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、サービス等の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付するなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止していることに留意することが必要です。 p14 *事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か) 当該措置を講ずることによるサービス提供への影響、その他の事業への影響の程度。 *実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) 事業所の立地状況や施設の所有形態等の制約にも応じた、当該措置を講ずるための機器や技術、人材の確保、設備の整備等の実現可能性の程度。 *費用・負担の程度 当該措置を講ずることによる費用・負担の程度。複数の障害者から合理的配慮に関する要望があった場合、それらの複数の障害者に係る必要性や負担を勘案して判断することとなります。 *事務・事業規模 当該事業所の規模に応じた負担の程度。 *財務状況 当該事業所の財務状況に応じた負担の程度。 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 旅館業における(1)から(4)までに該当する具体例については、以下(1)から(4)までに記載するもののほか、別冊「旅館業の施設における障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」を参照してください。 (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例 事業者が衛生サービスを提供するに際して、次のような取扱いをすることは「不当な差別的取扱い」となるおそれがあります。  ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではありません。また、客観的にみて正当な理由が存在する場合(第2(1)2 参照)は、不当な差別的取扱いに該当しない場合があることにご留意ください。 p15 ○サービスの利用を拒否すること ・人的体制、設備体制が整っており、対応可能であるにもかかわらず、医療的ケアの必要な障害者、重度の障害者の衛生サービスの利用を拒否すること ・身体障害者補助犬の同伴を拒否すること ・障害の種類や程度、サービス提供の場面における本人や第三者の安全性などについて考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由に施設利用を拒否すること ○サービスの利用を制限すること(場所・時間帯などの制限) ・正当な理由なく、対応を後回しにすること、サービス提供時間を変更又は限定すること ・正当な理由なく、他の者とは別室での対応を行うなど、サービス提供場所を限定すること ・サービスの利用に必要な情報提供を行わないこと ○サービスの利用に際し条件を付すこと(障害のない者には付さない条件を付すこと) ・保護者や支援者・介助者の同伴をサービスの利用条件とすること ・サービスの利用に当たって、他の利用者と異なる手順を課すこと(仮利用期間を設ける、他の利用者の同意を求めるなど) ○サービスの利用・提供に当たって、他の者とは異なる取扱いをすること ・正当な理由なく、行事、娯楽等への参加を制限すること ・正当な理由なく、年齢相当のクラスに所属させないこと ・本人を無視して、支援者・介助者や付添者のみに話しかけること ・障害があることを理由として、障害者に対して、言葉遣いや接客の態度など一律に接遇の質を下げること p16 〈具体的な事例〉 1 車椅子ユーザーの友人とカフェに行った際、店員からは店内が狭いから、テーブルの高さが車椅子に合わないから、他のお客さんがいて危ないから、等の理由で店内にすら入れてもらえなかった。 2 映画館でチケットを購入する際、本人(障害者)が話しているにもかかわらず、受付のスタッフは本人の存在を無視して、介助者とのみ会話をされた。 3 電動車椅子で飲食店に入店したところ、車椅子を店内に入れることを断られたので、普通の席に座り、車椅子は店の外に出しておこうとしたが、「車椅子を通路におかれては迷惑」と言われ、入店を諦めた。 4 飲食店の利用において、予約は障害のない者が行い、聴覚障害のある者が店を利用しようとしたところ断られた。 (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例 正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意が必要です。 ○手続を行うため、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認すること(障害者本人の損害発生防止の観点) p17 ○客から障害者である他の客に関する申出があった場合に、その障害の特性について説明し、不安を払拭するような声かけを行うこと ○実習を伴う講座において、実習に必要な作業の遂行上具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害者に対し、当該実習とは別の実習を設定すること ○飲食店において、車椅子の利用者が畳敷きの個室を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行うこと (3)合理的配慮に該当すると考えられる例 事業者は、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合には、次のような合理的配慮を提供することが求められています。合理的配慮を提供する際には、障害者の性別、年齢、状態等に十分に配慮することが必要です。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、あらゆる事業者が必ずしも実施するものではないこと、以下の事例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意してください。また、事業者に強制する性格のものではなく、ここに記載された事例であっても、具体的な場面や状況によりその実施に伴う負担は異なり、事業者の事業規模や人員体制等によっては過重な負担となる可能性があるため、事業者においては、法、基本方針及び本指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待されます。合理的配慮の提供と建設的対話は基本的に一体不可分であり、建設的対話を通じて必要かつ合理的な範囲で柔軟に社会的障壁の除去を行うことが求められることに留意してください。 ○基準・手順の柔軟な変更 ・障害の特性に応じた休憩時間・座席等の調整や必要なデジタル機器の使用などのルール、慣行を柔軟に変更すること p18 ・周囲の者の理解を得た上で、手続順を入れ替えること ・立って列に並んで順番を待っている場合に、周囲の者の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで別室や席を準備すること ・スクリーンや板書、手話通訳者等がよく見えるように、スクリーンや手話通訳者等に近い席を確保すること ・他人との接触、多人数の中にいることによる緊張により、不随意の発声や吃音等がある場合において、当該障害者が了承した場合には、障害の特性や施設の状況に応じて別室を準備すること ○物理的環境への配慮 ・施設内の段差にスロープを渡すこと ・エレベータがない施設の上下階に移動する際、マンパワーで移動をサポートすること ・場所を1階に移す、トイレに近い場所にする等の配慮をすること ・理容師法第6条の2ただし書、美容師法第7条ただし書、「理容師法施行令第4条第1号及び美容師法施行令第4条第1号に基づく出張理容・出張美容の対象について」(平成28年3月24日付け生食衛発0324第1号厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部生活衛生課長通知)等の趣旨を踏まえ、理容所又は美容所への来店が難しい場合には、出張による理容又は美容サービスを提案すること ・店舗内の移動に困難さを感じる場合に、声かけや手助けを行い、移動をサポートすること ・会計を席で行うこと ・高い所に陳列された商品を取って渡す ・店内の単独移動や商品の場所の特定が困難な障害者に対し、店内移動と買物の支援を行うこと p19 ○補助器具・サービスの提供 <情報提供・利用手続きについての配慮や工夫> ・説明文書の点字版、拡大文字版、テキストデータ、音声データ(コード化したものを含む。)の提供や必要に応じて代読・代筆を行うこと ・手話、要約筆記、筆談、図解、ふりがな付文書や写真、イラスト、コミュニケーションボードの使用、触覚により意思伝達する(手のひらに指で文字を書く等)など、本人が希望する方法でわかりやすい説明を行うこと ・文書を読み上げたり、口頭による丁寧な説明を行うこと ・電子メール、ホームページ、ファックスなど多様な媒体で情報提供、利用受付を行うこと <建物や設備についての配慮や工夫> ・電光表示板、磁気誘導ループなどの補聴装置の設置、点字サイン付き手すりの設置、音声ガイドの設置を行うこと ・色の組み合わせによる見にくさを解消するため、標示物や案内図等の配色を工夫すること ・トイレ、作業室など部屋の種類や、その方向を示す絵記号や色別の表示などを設けること ・パニック等を起こした際に静かに休憩できる場所を設けること <従業員などとのコミュニケーションや情報のやりとり、サービス提供についての配慮や工夫> ・館内放送を文字化したり、電光表示板で表示したりすること ・筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字、触覚による意思伝達(手のひらに指で文字を書く等)など多様な意思疎通の配慮を行うこと ・振り仮名や写真、イラストなど分かりやすい表現を使って説明すること ・必要に応じて、手話通訳や要約筆記者を配置すること ・口話が読めるようマスクを外して話をすること ・ICT(コンピューター等の情報通信技術)を活用したコミュニケーション機器(データを点字に変換して表示する、音声を文字変換する、表示された絵などを選択することができる機器など)を設置すること p20 ・部屋でフロントのスタッフに緊急に連絡したいとき、メールで連絡ができるようにすること ・緊急時の呼び出し方法として、振動呼び出し機を用意し、必要に応じて貸し出せるようにし、又はテレビなどのモニターにより、緊急事態である旨を表示できるようにすること ・タッチパネル操作の機器以外にも代替手段を用意しておくこと ※第2(2)1 合理的配慮の基本的な考え方<環境の整備との関係>においても触れましたが、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前の改善措置については、合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めることとされています。 <バリアフリーに関する環境の整備の例> ・施設内の段差を解消すること、スロープを設置すること ・車椅子等が通りやすいよう、スペースや導線を確保すること ・トイレや浴室をバリアフリー化・オストメイト対応にすること ・トイレの中の「流す」、「非常呼び出し」のボタンを触ってわかるようにすること ・床をすべりにくくすること ・階段や表示を見やすく明瞭にすること ・車椅子で利用しやすい高さにカウンターを改善すること ・非接触式エレベーターなど新たな利用環境の説明に関し、障害の特性に応じた説明をわかりやすく行うこと(エレベーターの開閉や階数のボタンに点字をつけること等) <その他の環境の整備の例> ・代筆や車椅子の補助等を求められた場合に対応できるよう、あらかじめ適切な対応について検討し、職員研修を行うこと ・オンラインでの手続が必要な場合に、ウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求められた場合に、電話や電子メールでの対応を行うとともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行うこと p21 (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例 合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例については、下記のとおりです。これらの例についても、掲載されている例はあくまでも例示であり、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについても、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要です。 ○試験を受ける際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること ○イベント会場内の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること ○電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、自社マニュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること ○介助を必要とする障害者から、講座の受講に当たり介助者の同席を求める申出があった場合に、当該講座が受講者本人のみの参加をルールとしていることを理由として、受講者である障害者本人の個別事情や講座の実施状況等を確認することなく、一律に介助者の同席を断ること ○自由席での開催を予定しているセミナーにおいて、弱視の障害者からスクリーンや板書等がよく見える席でのセミナー受講を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ること p22 (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例 合理的配慮の提供義務違反に反しないと考えられる例については、下記のとおりです。これらの例についても、掲載されている例はあくまでも例示であり、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについても、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要です。 ○事業者において、事業の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること ○抽選販売を行っている限定商品について、抽選申込みの手続を行うことが困難であることを理由に、当該商品をあらかじめ別途確保しておくよう求められた場合に、当該対応を断ること ○オンライン講座の配信のみを行っている事業者が、オンラインでの集団受講では内容の理解が難しいことを理由に対面での個別指導を求められた場合に、当該対応はその事業の目的・内容とは異なるものであり、対面での個別指導を可能とする人的体制・設備も有していないため、当該対応を断ること ○小売店において、混雑時に視覚障害者から店員に対し、店内を付き添って買物の補助を求められた場合に、混雑時のため付添いはできないが、店員が買物リストを書き留めて商品を準備することができる旨を提案すること (6)障害特性に応じた対応について 障害者と接する際には、それぞれの障害特性に応じた対応が求められます。以下に、代表的な障害特性と対応時に配慮すべき事項について簡単にまとめています。なお、障害の程度や状態等、具体的場面に応じて柔軟に対応することに留意する必要があります。 p23 このほか、障害児については、成人の障害者とは異なる支援の必要性があります。子どもは成長、発達の途上にあり、乳幼児期の段階から、個々の子どもの発 達の段階に応じて一人ひとりの個性と能力に応じた丁寧に配慮された支援を行う発達支援が必要です。また、子どもを養育する家族を含めた丁寧かつ早い段階からの家族支援が必要です。特に、保護者が子どもの障害を知った時の気持ちを出発点とし、障害を理解する態度を持つようになるまでの過程においては、関係者の十分な配慮と支援が必要です。 ※以下の【主な対応】は、あくまで望ましい配慮について例示したものであり、必ずしも法に基づく「合理的な配慮」として実施が義務付けられるものではなく、また、実施しないことがそのまま不当な差別に当たるということではありません。 視覚障害(視力障害・視野障害)  【主な特性】 ・視力障害:視覚的な情報を全く得られない又はほとんど得られない人と、文字の拡大や視覚補助具等を使用し保有する視力を活用できる人に大きく分けられる(全盲、弱視といわれることもある) *視力をほとんど活用できない人の場合、音声、触覚、嗅覚など、視覚以外の情報を手がかりに周囲の状況を把握している *文字の読みとりは、点字に加えて最近では画面上の文字情報を読み上げるソフトを用いてパソコン等で行うこともある(点字の読み書きができる人ばかりではない) *視力をある程度活用できる人の場合は、補助具を使用したり文字を拡大したり近づいて見るなどの様々な工夫をして情報を得ている ・視野障害:目を動かさないで見ることのできる範囲が狭くなる 「求心性視野狭窄」 見える部分が中心だけになって段々と周囲が見えなくなる・遠くは見えるが足元が見えず、つまづきやすくなる 「中心暗転」 周囲はぼんやり見えるが真ん中が見えない・文字等、見ようとする部分が見えなくなる p24 ・視力障害、視野障害の状況によって、明るさの変化への対応が困難なため、移動などに困難さを生じる場合も多い 【主な対応】 ・音声や点字表示など、視覚情報を代替する配慮 ・中途受障の人では白杖を用いた歩行や点字の触読が困難な人も多いため留意が必要 ・声をかける時には前から近づき「○○さん、こんにちは。△△です。」など自ら名乗る ・説明する時には「それ」「あれ」「こっち」「このくらいの」などと指差し表現や指示代名詞で表現せず、「あなたの正面」「○○くらいの大きさ」などと具体的に説明 ・普段から通路(点字ブロックの上等)に通行の妨げになるものを置かない、日頃視覚障害者が使用しているものの位置を本人に知らせた上で変えるなど周囲の協力が不可欠 ・主に弱視の場合、室内における照明の状況に応じて、窓を背にして座ってもらうなどの配慮が必要 聴覚・言語障害(ろうあ・難聴) 【主な特性】 ・聴覚障害は外見上わかりにくい障害であり、その人が抱えている困難も他の人からは気づかれにくい側面がある ・聴覚障害者は補聴器や人工内耳を装用するほか、コミュニケーション方法には手話、筆談、口話など様々な方法があるが、どれか一つで十分ということではなく、多くの聴覚障害者は話す相手や場面によって複数の手段を組み合わせるなど使い分けている ・補聴器や人工内耳を装用している場合、スピーカーを通じる等、残響や反響のある音は、聞き取りにあまり効果が得られにくい ・聴覚の活用による言葉の習得に課題があることにより、聴覚障害者の国語力は様々であるため、筆談の場合は、相手の国語力にあわせる p25 【主な対応】 ・手話や文字表示、手話通訳や要約筆記者の配慮など、目で見てわかる情報を提示したり、コミュニケーションをとる配慮 ・補聴器や人工内耳を装用し、残響や反響のある音を聞き取ることが困難な場合には、代替する対応への配慮(磁気誘導ループの利用など) ・音声だけで話すことは極力避け、視覚的なより具体的な情報も併用 ・スマートフォンなどのアプリとして音声を文字に変換できるものがあり、これらを使用すると筆談を補うことができる 視覚と聴覚の重複障害(盲ろう) 【主な特性】 ・視覚と聴覚の重複障害の方を「盲ろう」と呼んでいるが、障害の状態や程度によって様々なタイプに分けられる(視覚障害、聴覚障害の項も参照のこと) <見え方と聴こえ方の組み合わせによるもの> 1 全く見えず聴こえない状態の「全盲ろう」 2 見えにくく聴こえない状態の「弱視ろう」 3 全く見えず聴こえにくい状態の「盲難聴」 4 見えにくく聴こえにくい状態の「弱視難聴」  <各障害の発症経緯によるもの> 1 盲(視覚障害)から聴覚障害を伴った「盲ベース盲ろう」 2 ろう(聴覚障害)から視覚障害を伴った「ろうベース盲ろう」 3 先天的、あるいは乳幼児期に視覚と聴覚の障害を発症する「先天性盲ろう」 4 成人期以後に視覚と聴覚の障害が発症する「成人期盲ろう」 p26 ・盲ろう者がそれぞれ使用するコミュニケーション手段は、障害の状態や程度、盲ろうになるまでの経緯、あるいは生育歴、他の障害との重複の仕方によって異なり、介助方法も異なる ・テレビやラジオを楽しんだり本や雑誌を読むことなどもできず、家族といてもほとんど会話がないため、孤独な生活を強いられることが多い 【主な対応】 ・盲ろう者関係機関に相談し、対応に関する助言を受ける ・障害の状態や程度に応じ視覚障害や聴覚障害の人と同じ対応が可能な場合があるが、同様な対応が困難な場合が多く、手書き文字や触手話、指点字などの代替する対応や移動の際にも配慮する ・言葉の通訳に加えて、視覚的・聴覚的情報についても意識的に伝える (例)状況説明として、人に関する情報(人数、性別等)や環境に関する情報(部屋の大きさや机の配置、その場の雰囲気等)など 肢体不自由者 ○車椅子を使用されている場合 【主な特性】 ・脊髄損傷(対麻痺又は四肢麻痺、排泄障害、知覚障害、体温調節障害など) ・脳性麻痺(不随意運動、手足の緊張、言語障害、知的障害重複の場合もある) ・脳血管障害(片麻痺、運動失調) ・病気等による筋力低下や関節損傷などで歩行が困難な場合もある ・ベッドへの移乗、着替え、洗面、トイレ、入浴など、日常の様々な場面で援助が必要な人の割合が高い ・車椅子使用者にとっては、段差や坂道が移動の大きな妨げになる ・手動車椅子の使用が困難な場合は、電動車椅子を使用する場合もある ・障害が重複する場合には、呼吸器を使用する場合もある p27 【主な対応】 ・段差をなくす、車椅子移動時の幅・走行面の斜度、車椅子用トイレ、店舗のドアを引き戸や自動ドアにするなどの配慮 ・机アプローチ時に車椅子が入れる高さや作業を容易にする手の届く範囲の考慮 ・ドア、エレベータの中のスイッチなどの機器操作のための配慮 ・目線をあわせて会話する ・脊髄損傷者は体温調節障害があるため、部屋の温度管理に配慮 ○杖などを使用されている場合 【主な特性】 ・脳血管障害(歩行可能な片麻痺、運動失調) ・麻痺の程度が軽いため、杖や装具歩行が可能な場合や、切断者などで義足を使用して歩行可能な場合は、日常生活動作は自立している人が多い ・失語症や高次脳機能障害がある場合もある ・長距離の歩行が困難であったり、階段、段差、エスカレーターや人ごみでの移動が困難な場合もあり、配慮が必要 【主な対応】 ・上下階に移動するときのエレベータ設置・手すりの設置 ・滑りやすい床など転びやすいので、雨天時などの対応 ・トイレでの杖おきの設置や靴の履き替えが必要な場合に椅子を用意するなどの配慮 ・上肢の障害があれば、片手や筋力低下した状態で作業ができる配慮 構音障害 【主な特性】 ・話す言葉自体を聞き取ることが困難な状態 ・話す運動機能の障害、聴覚障害、咽頭摘出などの要因がある p28 【主な対応】 ・しっかりと話を聞く ・会話補助装置などを使ってコミュニケーションをとることも考慮する 失語症 【主な特性】 ・聞くことの障害 音は聞こえるが「ことば」の理解に障害があり「話」の内容が分からない 単語や簡単な文なら分かる人でも早口や長い話になると分からなくなる ・話すことの障害 伝えたいことをうまく言葉や文章にできない 発話がぎこちない、いいよどみが多くなったり、誤った言葉で話したりする ・読むことの障害 文字を読んでも理解が難しい ・書くことの障害 書き間違いが多い、また「てにをは」などをうまく使えない、文を書くことが難しい 【主な対応】 ・表情がわかるよう、顔を見ながら、ゆっくりと短いことばや文章で、わかりやすく話しかける ・一度でうまく伝わらない時は、繰り返して言ったり、別のことばに言い換えたり、漢字や絵で書いたり、写真・実物・ジェスチャーで示したりすると理解しやすい ・「はい」「いいえ」で答えられるように問いかけると理解しやすい ・話し言葉以外の手段(カレンダー、地図、時計など身近にあるもの)を用いると、コミュニケーションの助けとなる ※「失語症のある人の雇用支援のために」(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター)より一部引用 p29 高次脳機能障害 交通事故や脳血管障害などの病気により、脳にダメージを受けることで生じる認知や行動に生じる障害。身体的には障害が残らないことも多く、外見ではわかりにくいため「見えない障害」とも言われている。 【主な特性】 ・以下の症状が現れる場合がある 記憶障害: すぐに忘れてしまったり、新しい出来事を覚えることが苦手なため、何度も同じことを繰り返したり質問したりする 注意障害: 集中力が続かなかったり、ぼんやりしていてしまい、何かをするとミスが多く見られる 二つのことを同時にしようとすると混乱する 遂行機能障害: 自分で計画を立てて物事を実行したり、効率よく順序立てられない 社会的行動障害: ささいなことでイライラしてしまい、興奮しやすい こだわりが強く表れたり、欲しいものを我慢できない 思い通りにならないと大声を出したり、時に暴力をふるったりする 病識欠如:上記のような症状があるという認識が乏しく、できるつもりで行動してトラブルになる ・失語症を伴う場合がある(失語症の項を参照) ・片麻痺や運動失調等の運動障害や眼や耳の損傷による感覚障害を持つ場合がある 【主な対応】 ・本障害に詳しいリハビリテーション専門医や専門職、高次脳機能障害支援拠点機関、家族会等に相談する p30 ・記憶障害 手がかりがあると思い出しやすいので、手帳やメモ、アラームを利用したり、ルートマップを持ち歩くなどする 自分でメモを取ってもらい、双方で確認する    残存する受傷前の知識や経験を活用する(例えば、過去に記憶している自宅周囲では迷わず行動できるなど) ・注意障害 短時間なら集中できる場合もあるので、こまめに休憩を取るなどする ひとつずつ順番にやる ・遂行機能障害 手順書を利用する 段取りを決めて目につくところに掲示する スケジュール表を見ながら行動したり、チェックリストで確認する ・社会的行動障害 感情をコントロールできない状態にあるときは、上手に話題や場所を変えてクールダウンを図る 予め行動のルールを決めておく 内部障害 【主な特性】 ・心臓機能、呼吸器機能、腎臓機能、膀胱・直腸機能、小腸機能、肝機能、HIVによる免疫機能等の障害により日常生活に支障がある ・疲れやすく長時間の立位や作業が困難な場合がある 【主な対応】 ・常に医療的対応を必要とすることが多い ・ペースメーカーは外部からの電気や磁力に影響をうけることがあるので注意すべき機器や場所などの知識をもつ ・排泄に関し人工肛門の場合、パウチ洗浄等特殊な設備が必要となることへの配慮 p31 ・人工透析が必要な人については、通院の配慮 ・呼吸器機能障害のある方は、慢性的な呼吸困難、息切れ、咳等の症状があることを理解し、息苦しくならないよう、楽な姿勢でゆっくり話をしてもらうよう配慮 ・常時酸素吸入が必要な方は、携帯用酸素ボンベが必要な場合があることを理解 重症心身障害・その他医療的ケアが必要な者 【主な特性】 ・自分で体を動かすことができない重度の肢体不自由と、年齢に相応した知的発達が見られない重度の知的障害が重複している ・殆ど寝たままで自力では起き上がれない状態が多い ・移動、食事、着替え、洗面、トイレ、入浴などが自力ではできないため、日常の様々な場面で介助者による援助が必要 ・常に医学的管理下でなければ、呼吸することも栄養を摂ることも困難な人もいる ・重度の肢体不自由や重度の知的障害はないが、人工呼吸器を装着するなど医療的ケアが必要な人もいる 【主な対応】 ・人工呼吸器などを装着して専用の車椅子で移動する人もいるため、電車やバスの乗降時等において、周囲の人が手伝って車椅子を持ち上げるなどの配慮が必要 ・体温調整がうまくできないことも多いので、急な温度変化を避ける配慮が必要 知的障害 【主な特性】 ・概ね18歳頃までの心身の発達期に現れた知的機能の障害により、生活上の適応に困難が生じる ・「考えたり、理解したり、読んだり、書いたり、計算したり、話したり」する等の知的な機能に発達の遅れが生じる ・金銭管理、会話、買い物、家事などの社会生活への適応の状態に応じた援助が必要 p32 ・主な原因として、ダウン症候群などの染色体異常、または先天性代謝異常によるものや、脳症や外傷性脳損傷などの脳の疾患があるが、原因が特定できない場合もある ・てんかんを合併する場合もある ・ダウン症候群の場合の特性として、筋肉の低緊張、多くの場合、知的な発達の遅れがみられること、また、心臓に疾患を伴う場合がある 【主な対応】 ・言葉による説明などを理解しにくいため、ゆっくり、ていねいに、わかりやすく話すことが必要 ・文書は、漢字を少なくしてルビを振る、文書をわかりやすい表現に直すなどの配慮で理解しやすくなる場合があるが、一人ひとりの障害の特性により異なる ・写真、絵、ピクトグラムなどわかりやすい情報提供を工夫する ・説明が分からないときに提示するカードを用意したり、本人をよく知る支援者が同席するなど、理解しやすくなる環境を工夫する 発達障害 ○自閉症、アスペルガー症候群を含む広汎性発達障害(自閉症スペクトラム) 【主な特性】 ・コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手な部分もある ・特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりする ・感覚の過敏さを持ち合わせている場合もある ・強い関心や感覚の鋭さを社会の中で活かすことがある 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・肯定的、具体的、視覚的な伝え方の工夫(「○○をしましょう」といったシンプルな伝え方、その人の興味関心に沿った内容や図・イラストなどを使って説明するなど) p33 ・スモールステップによる支援(手順を示す、モデルを見せる、体験練習をする、新しく挑戦する部分は少しずつにする) ・感覚過敏がある場合は、音や肌触り、室温などの感覚面の調整を行う(イヤーマフを活用する、大声で説明せずホワイトボードで内容を伝える、人とぶつからないように居場所を衝立などで区切る、クーラー等の設備のある部屋を利用できるように配慮するなど) ○学習障害(限局性学習障害) 【主な特性】 ・「話す」「理解」は普通にできるのに、「読む」「書く」「計算する」ことが、努力しているのに極端に苦手 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・得意な部分を積極的に使って情報を理解し、表現できるようにする(ICTを活用する際は、文字を大きくしたり行間を空けるなど、読みやすくなるように工夫する) ・苦手な部分について、課題の量・質を適切に加減する、柔軟な評価をする ○注意欠陥多動性障害(注意欠如・多動性障害) 【主な特性】 ・年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性・衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性がある ・多動性・衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もある ・また、いろいろなことに関心を持ったりエネルギッシュに仕事に取り組む場合もある p34 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・短く、はっきりとした言い方で伝える ・気の散りにくい座席の位置の工夫、分かりやすいルール提示などの配慮 ・ストレスケア(傷つき体験への寄り添い、適応行動ができたことへのこまめな評価) ○その他の発達障害 【主な特性】 ・体の動かし方の不器用さ、我慢していても声が出たり体が動いてしまったりするチック、一般的に「どもる」と言われるような話し方なども、発達障害に含まれる 【主な対応】 ・本人をよく知る専門家や家族にサポートのコツを聞く ・叱ったり拒否的な態度を取ったり、笑ったり、ひやかしたりしない ・日常的な行動の一つとして受け止め、時間をかけて待つ、苦手なことに無理に取り組まずできることで活躍する環境を作るなど、楽に過ごせる方法を一緒に考える 精神障害 【主な特性】 ・精神障害の原因となる精神疾患は様々であり、原因となる精神疾患によって、その障害特性や制限の度合いは異なる ・精神疾患の中には、長期にわたり、日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態が続くものがある p35 ・代表的な精神疾患として、統合失調症等がある ・障害の特性もさまざまであるため、積極的に医療機関と連携を図ったり、専門家の意見を聴くなど関係機関と協力しながら対応する ○統合失調症 【主な特性】 ・発症の原因はよく分かっていないが100人に1人弱かかる、一般的な病気である ・「幻覚」や「妄想」が特徴的な症状だが、その他にも様々な生活のしづらさが障害として表れることが知られている ・陽性症状 幻覚: 実態がなく他人には認識ができないが、本人には感じ取れる感覚のこと なかでも、自分の悪口やうわさ、指図する声等が聞こえる幻聴が多い 妄想: 明らかに誤った内容を信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのこと 誰かにいやがらせをされているという被害的妄想、周囲のことが何でも自分に関係しているように思える関係妄想などがある ・陰性症状 意欲が低下し、以前からの趣味や楽しみにしていたことに興味を示さなくなる 疲れやすく集中力が保てず、人付き合いを避け引きこもるようになる 入浴や着替えなど清潔を保つことが苦手となる など ・認知や行動の障害:考えがまとまりにくく何が言いたいのかわからなくなる 相手の話の内容がつかめず、周囲にうまく合わせることができない など ・感情の障害:感情の動きが少なくなる 他人の感情や表情についての理解が苦手になる その場にふさわしい感情表現ができなくなる など p36 【主な対応】 ・統合失調症は脳の病気であることを理解し、病気について正しい知識を学ぶ必要がある ・薬物療法が主な治療となるため、内服を続けるために配慮する ・社会との接点を保つことも治療となるため、本人が病気と付き合いながら、他人と交流したり、仕事に就くことを見守る ・一方で、ストレスや環境の変化に弱いことを理解し、配慮した対応を心掛ける ・一度に多くの情報が入ると混乱するので、伝える情報は紙に書くなどして整理してゆっくり具体的に伝えることを心掛ける ・症状が強い時には無理をさせず、しっかりと休養をとったり、速やかに主治医を受診することなどを促す ○気分障害 【主な特性】 ・気分の波が主な症状としてあらわれる病気。うつ状態のみを認める時はうつ病と呼び、うつ状態と躁状態を繰り返す場合には、双極性障害(躁うつ病)と呼ぶ ・うつ状態では気持ちが強く落ち込み、何事にもやる気が出ない、疲れやすい、考えが働かない、自分が価値のない人間のように思える、死ぬことばかり考えてしまい実行に移そうとするなどの症状がでる ・躁状態では気持ちが過剰に高揚し、普段ならあり得ないような浪費をしたり、ほとんど眠らずに働き続けたりする。その一方で、ちょっとした事にも敏感に反応し、他人に対して怒りっぽくなったり、自分は何でもできると思い込んで人の話を聞かなくなったりする 【主な対応】 ・専門家の診察の上で、家族や本人、周囲の人が病気について理解する ・薬物療法が主な治療となるため、内服を続けるために配慮する p37 ・うつ状態の時は無理をさせず、しっかりと休養をとれるよう配慮する ・躁状態の時は、金銭の管理、安全の管理などに気を付け、対応が難しい時には専門家に相談する <躁うつ病(気分障害)の場合> ・自分を傷つけてしまったり、自殺に至ることもあるため、自殺などを疑わせるような言動があった場合には、本人の安全に配慮した上で、速やかに専門家に相談するよう本人や家族等に促す ○依存症(アルコール) 【主な特性】 ・飲酒したいという強い欲求がコントロールができず、過剰に飲酒したり、昼夜問わず飲酒したりすることで身体的、社会生活上の様々な問題が生じる ・体がアルコールに慣れることで、アルコールが体から抜けると、発汗、頻脈、手の震え、不安、イライラなどの離脱症状が出る ・一念発起して断酒しようとしても、離脱症状の不快感や、日常生活での不安感から逃れるために、また飲んでしまう 【主な対応】 ・本人に病識がなく(場合によっては家族も)、アルコール依存症は治療を必要とする病気であるということを、本人・家族・周囲が理解する ・周囲の対応が結果的に本人の飲酒につながってしまう可能性があるため、家族も同伴の上で、アルコール依存症の専門家に相談する ・一度断酒しても、再度飲酒してしまうことが多いため、根気強く本人を見守る ○てんかん 【主な特性】 ・何らかの原因で、一時的に脳の一部が過剰に興奮することにより、発作がおきる p38 ・発作には、けいれんを伴うもの、突然意識を失うもの、意識はあるが認知の変化を伴うものなど、様々なタイプのものがある 【主な対応】 ・誰もがかかる可能性がある病気であり、専門家の指導の下に内服治療を行うことで、多くの者が一般的な生活が送れることを理解する ・発作が起こっていないほとんどの時間は普通の生活が可能なので、発作がコントロールされている場合は、過剰に活動を制限しない ・内服を適切に続けることが重要である。また、発作が起こってしまった場合には、本人の安全を確保した上で専門機関に相談する ○認知症 【主な特性】 ・認知症は、単一の病名ではなく、種々の原因となる疾患により記憶障害など認知機能が低下し、生活に支障が出ている状態(生活障害)を表している ・原因となる主な疾患としては、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症等がある ・認知機能の障害の他に、行動・心理症状(BPSD)と呼ばれる症状(不眠、幻覚、妄想など)がみられる場合がある ・認知症の多くは、発症後10年前後から20年以上の長い経過をたどる。突然多様な症状や生活障害がでるのではなく、初期は外見上、気づかれにくく、徐々に症状とそれに伴う生活障害が重度化していく ・認知症は、原因疾患のみではなく、環境による影響を大きく受け、その人が置かれた環境(人の関わりも含む。)によって状態像が大きく変動する ・認知症は、65歳以上の高齢者のみではなく、65歳未満の人でもなりうる(若年性認知症) p39 【主な対応】 ・認知症は誰もがなりうるものであり、家族や身近な人が認知症になることなどを含め、多くの人にとって身近なものであることを理解する ・認知症の人を各々の価値観や個性、想い、人生の歴史等を持つ主体として尊重し、各々の意思や価値観に共感し、できないことではなく、できることに目を向けて、本人が有する力を最大限に活かしながら、地域社会の中で本人のなじみの暮らし方やなじみの関係が継続できるよう、まずは見守り、必要なことのみを支援していく ・早期に気付いて適切に対応していくことができるよう、小さな異常を感じたときに速やかに適切な機関に相談できるようにする ・本人が安心・安定した言動をとれるために、ストレスをかけないよう、本人自身に笑顔で向き合い、ゆっくり、分かりやすい簡潔な説明や対応に努める ・本人がスムーズにできない場合でも、急がせず、一呼吸待つ ・言葉のみではなく、必要に応じてボディーランゲージを使ったり、筆記や図なども用いる ・既存の説明文や記入用紙、館内や室内の説明文等が、簡潔で読みやすく、分かりやすいかを、点検し、改善をする ・本人に渡す説明文等で、本人に特に分かってほしい点を、マーカー等で色付けしたり印をつけて渡すなどの工夫が望ましい ・ロビーや廊下、室内、食堂、浴室等の環境や備品等に分かりやすい表示や説明があるか、物品がシンプルで扱いやすいか等、本人の視点に立って点検・改善を図る ・BPSDは、身体の病気が隠れている場合があることに注意するほか、慣れない環境やなじみのない人の関わり、睡眠や生活リズムの乱れ、身体症状、孤立、不安によって引き起こされ増幅されやすいため、まずは周囲が落ち着いて対応し、本人が静かに落ち着きを取り戻せるようにする ・症状が変化した等の場合には、本人の家族や支援者等の連絡先が分かり、かつ、本人の同意がある場合には、そうした者と連絡・相談をしながら、速やかに主治医を受診し、必要に応じて専門機関に相談することなどを促す p40 難病 【主な特性】 ・神経筋疾病、骨関節疾病、感覚器疾病など様々な疾病により多彩な障害を生じる ・常に医療的対応を必要とすることが多い ・病態や障害が進行する場合が多い 【主な対応】 ・専門の医師に相談する ・それぞれの難病の特性が異なり、その特性に合わせた対応が必要 ・進行する場合、病態・障害の変化に対応が必要 ・排泄の問題、疲れやすさ、状態の変動などに留意が必要 ・薬の効き具合による日内変化等に留意が必要 ・体調がすぐれない時に休憩できる場所を確保する p41 ■障害特性に応じた具体的対応例(その1) アンケートも多様な方法で(視覚障害1) アンケートを取る際に、印刷物だけを配布していました。すると、視覚障害の方から、電子データでほしいと要望がありました。電子データであればパソコンの読み上げソフトを利用して回答できるからとのことでした。 紙媒体という画一的な方法ではなく、テキストデータでアンケートを送信し、メールで回答を受け取るという方法をとることで、視覚障害の方にもアンケートに答えてもらえるようになりました。 飲食店の配慮(視覚障害2) 視覚障害のあるAさんは、食事をするため外出しましたが、一般の飲食店では視覚障害の方がスタッフの手助けなく注文を行うことや配膳された食事の位置などを把握することは困難でした。 しかし、飲食店によっては、点字メニューを準備しており、また、料理が配膳された際に、店員が料理内容や食事の位置を具体的に説明してくれる店舗もあるため、外食する自由を楽しめるようになりました。 飲食店の配慮(視覚障害3) 視覚障害者のBさんが飲食店に入店したところ、会計等が一部無人化されているお店でした。 機械の扱いが難しく対応に困っていましたが、何かあった際には店員を呼べるよう、分かりやすい場所に呼び出しボタンがあったので、店員を呼んで手伝ってもらい、問題なくお店を利用することができました。 理容店、美容店における配慮(視覚障害4) 視覚障害者のCさんが理容店や美容店に髪を切りに行った際、理容師、美容師が次に何をするのか細かく声をかけてくれたので安心してサービスを受けることができました。カットの仕上がりを確認する時も、頭を触って長さ等を確認させてもらい、満足のいく髪型にすることができました。 旅館・ホテルでのコミュニケーションツール等について(聴覚障害1) 聴覚障害者のCさんは、宿泊の際、旅館・ホテルの受付で対応に困ることがよくありました。しかし、最近では手話のできるスタッフが配置されていたり、連絡用の貸し出しFAXが配置されていたりするため、スムーズに宿泊手続を行うことができ、快適に宿泊することができました。 また、部屋のテレビが字幕対応のものだったことから、退屈することがなく、楽しんで過ごすことができました。 映画館での配慮(肢体不自由1) 肢体不自由者のAさん映画館を訪れましたが、介助者は観ないということなのでAさん一人で観ることになりました。しかし、ケガの後遺症で介助者がいないと一人でエレベーターに乗れないため、係員に「介助者がいないと2階のシアタールームに行けない」と相談したところ、シアタールームに入る時と帰る時に介助者が出入りしても構わないと言ってくれ、障害者本人のチケット代だけで映画を観ることができました。 p42 ■障害特性に応じた具体的対応例(その2) 会計時等の気配り(聴覚障害2) 聴覚障害者のAさんは、飲食店等を利用した際に、席への誘導、メニューの選択や支払いの時などに、口頭で説明を受けても聞こえず困ることがありました。しかし、飲食店によっては、身振り手振りで誘導してくれたり、オススメメニューを指で示してくれたり、ホワイトボードにより筆談ができるように準備されているなどの配慮がされており、困ることが少なくなりました。 建物の段差が障壁に(肢体不自由2) 車椅子を使用している身体障害者(1級)Aさんが、外出中、建物に入ろうとすると大きな段差があり立ち往生してしまいました。 スタッフに協力をお願いしてみると、段差を車椅子で乗り越える手伝いを申し出てくれました。介助のお陰で、無事に建物に入ることができました。 オストメイトへの配慮(肢体不自由3) 病気のためストマを活用することになったBさん。これまで外出先のトイレにおいてストマの処理を適切に行うことに困難を感じていましたが、最近では、旅館や公衆浴場でも多目的トイレが設置されてきており、トイレを安心して利用することができるようになりました。 映画の楽しみ方(肢体不自由4) 事故に遭い車椅子を利用しているCさんは昔から映画館をよく利用していましたが、車椅子のため座席に着席することに困難を感じていました。 しかし、最近は座席をとりはずすことにより車椅子用のスペースを確保することができる映画館もあり、不自由に感じることは少なくなりました。 入浴の自由について(肢体不自由5) 事故に遭い車椅子を利用しているAさんは、外出先で入浴する際、浴槽の高さまで足をあげることに困難を感じていました。先日、家族で旅館に宿泊することになりましたが、車椅子利用者に配慮した浴場となっているか事前に確認したところ、イスに座ると浴場の高さまで上昇するリフトが設置され、車椅子利用者への配慮がなされているとのことでした。このため、Aさんは、安心して入浴を楽しむことができました。 理容店、美容店での配慮(肢体不自由6) 足が不自由で車椅子を利用しているBさんは、理容店や美容店でカットしてもらう際に、理美容専用の椅子に移動することに困難さを感じていましたが、理美容専用の椅子への移動を手伝ってもらった上でカットしてもらったり、車椅子のままカットしてもらえたりしたので、安心してお店を利用することができました。 p43 ■障害特性に応じた具体的対応例(その3) 話すことの障害(失語症) 失語症(発語がうまくできない)のAさんが、買い物に行きましたが、自分の欲しいものを探すことができませんでした。店員にどこにあるのか尋ねようとしましたが、欲しいものをうまく伝えられず、時間が経過するばかりでした。 店員は、Aさんが言葉をうまく話せないことがわかったため、「食べ物」、「飲み物」、「日用品」等と的を徐々に絞って確認していく方法をとったところ、Aさんの欲しいものが判明し購入することができました。 飲食店のメニュー選び(知的障害) 外食をしようとしたDさんは、飲食店等で料理を選ぶことが苦手でした。メニューが字だけで書かれている場合、内容を把握することがなかなか難しいからです。 しかし、Dさんが利用した飲食店では、ほとんどのメニューに写真が活用されており、また、店員が分かりやすく説明をしてくれたため、好きな料理を選ぶことができました。 苦手なことに対しては、事前のサポート(発達障害1) 発達障害のCさんは文字の読み書きが苦手であり、様々な手続きの際、書類の記入欄を間違えたり、誤字を書いてしまったりして、何回も書き直さなければなりませんでした。 そこで、Cさんの相談を受けている職員は、「記入欄に鉛筆で丸をつけたり付箋を貼って示す」「書類のモデルを作成して示す」「職員が鉛筆で下書きする」などを試したところ、書類作成を失敗する回数が少なくなりました。 障害特性に配慮した対応(発達障害2) 発達障害のAさんは音に敏感であるため、理容室や美容室に行った際、バリカンの音が苦手でしたが、それを伝えたところハサミのみでカットをしてもらうことができ、安心してお店を利用することができました。 高齢者、障害者へのサービスの充実等について(高齢者)  Cさん(高齢者)は、加齢によりデイサービスを利用していましたが、在宅時や施設利用時にケア理容師の講習を受けた資格者による出張理容サービスを活用することによって、充実したサービスを受けることができました。 会計時のサポート(視覚障害、知的障害) Bさんは障害の特性上、支払額の確認やおつりの確認に困難さを感じていましたが、店員がBさんに「○円お預かりしました」、「これが5千円札1枚です。これが千円札3枚です。」というように、額面や枚数を伝えながらやりとりしてくれたため、不安なく、会計を済ますことができました。 p44 第4 事業者における相談体制の整備 障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に応じることが必要です。そのためには、法で定められた国や地方公共団体における相談及び紛争の防止等のための体制整備のみならず、障害者にサービス提供を行う事業者において、直接、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に応じるための体制の整備や事業者や管理職を含む全ての職員の研修・啓発を行うことが望まれます。 なお、事業所において相談窓口等を設置(事業所における既存の苦情解決体制や相談窓口を活用することも考えられます。)する際には、ホームページ等を活用し、相談窓口等に関する情報の周知を図り、利用しやすいものとするよう努めるとともに、対面のほか、電話(電話リレーサービス制度の対応を含む。)、ファックス、電子メールなどの多用な手段を相談者の障害特性に応じて可能な範囲で用意しておくことが重要です。また、相談等に対応する際には、障害者の性別・年齢・状態等に配慮することが重要です。実際の相談事例については、相談者のプライバシーに配慮しつつ順次蓄積し、以後の合理的配慮の提供等に活用することが望まれます。あわせて、地方自治体の相談窓口や障害者差別解消支援地域協議会、障害当事者団体、医療、教育、労働関係機関などとも連携して、差別解消に向けた取組を着実に進めていくことが望まれます。 p45 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 障害者差別は、障害に関する知識・理解の不足、意識の偏りなどにより引き起こされることが大きいと考えられることから、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重する共生社会を目指すことの意義を職員が理解することが重要です。 また、こうした理念が真に理解されることが、障害者差別や、障害者が時に感じる大人の障害者に対する子ども扱い、障害者に対する命令的、威圧的、強制的な発言などの解消にも繋がるものと考えられます。 このため、事業者においては、障害者に対して性別や年齢等にも配慮しながら適切に対応し、また、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に対応するため、研修等を通じて、法の趣旨の普及を図るとともに、事業所の地域の取組のなかで近隣住民への理解を促していくことが重要です。研修等の実施に当たっては、内閣府が障害者の差別解消に向けた理解促進のためのポータルサイトにおいて提供している、事業者が障害者に対応する際に参考となる対応例等、行政機関が作成し提供する周知・啓発資料等を活用することも考えられます。また、障害者から話を聞く機会を設けることも有効です。 加えて、事業者の内部規則やマニュアル等について、障害者へのサービス提供等を制限するような内容が含まれていないかについて点検することや、個別の相談事案等への対応を契機として、必要な制度の改正等を検討するなど、障害を理由とする差別の解消の推進に資するよう、制度等を整備することが重要です。 なお、障害者差別の理解には、障害者虐待防止に関する理解も極めて重要になってくることから、併せて研修を行うことが望まれます。 p46 第6 行政機関における相談窓口 法第14条において、「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう人材の育成及び確保のための措置その他の必要な体制の整備を図るものとする」と規定されているほか、基本方針において、「相談対応等に際しては、地域における障害を理由とする差別の解消を促進し、共生社会の実現に資する観点から、まず相談者にとって一番身近な市区町村が基本的な窓口の役割を果たすことが求められる。都道府県は、市区町村への助言や広域的・専門的な事案についての支援・連携を行うとともに、必要に応じて一次的な相談窓口等の役割を担うことが考えられる。また、国においては各府省庁が所掌する分野に応じて相談対応等を行うとともに、市区町村や都道府県のみでは対応が困難な事案について、適切な支援等を行う役割を担うことが考えられる」とされています。 このように行政機関が相談窓口の役割を果たすことが求められており、これらを踏まえ、ご相談いただく際は、まず一番身近な自治体の相談窓口(障害者施策の担当部署、福祉事務所等)にご相談ください。厚生労働省における生活衛生関係営業分野の担当窓口は健康・生活衛生局生活衛生課です。 なお、ご相談先が分からないときは、障害者差別解消地域協議会をご活用いただくことが考えられるほか、内閣府において、障害者差別解消法に関する質問に回答すること及び障害を理由とする差別等に関する相談を自治体・各府省庁等の適切な相談窓口に円滑につなげるための調整・取次を行うことを目的に、令和5年10月16日から令和7年3月下旬まで、試行的に「つなぐ窓口」を設置しているため、ご活用ください。 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_tsunagu.html p47 第7 主務大臣による行政措置 事業者における障害者差別解消に向けた取組は、本指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待されています。しかし、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされています。(法第12条) おわりに 障害者差別解消法の理念を実現していくには、国民一人ひとりの障害に対する理解と適切な配慮が不可欠であり、差別と解される事例についても、お互いの意思疎通不足や理解の不足が起因していると思われることも見受けられます。法に定められたからということで身構えるのではなく、事業者や障害者が歩み寄り理解を深めていくことが、差別解消の第一歩につながると考えられます。 本指針は、そうした事業者の取組に資するよう、今後も、より具体的な事例、特に好事例をお示しできるよう努めてまいります。 事業者のみなさまの本法に関するより深い理解と、障害者差別解消に向けた取組を積極的に進めて頂きますようお願いします。 p48 別冊 旅館業の施設における障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 p49 第1 はじめに 衛生事業者一般に関わる障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例は、本文第3に記載したとおりであるが、とりわけ旅館業に関しては、令和3年8月27日から令和4年7月14日までの間に開催された「旅館業法の見直しに係る検討会」のほか、生活衛生関係営業等の事業活動の継続に資する環境の整備を図るための旅館業法等の一部を改正する法律(令和5年法律第52号)による改正後の旅館業法(昭和23年法律第138号)第3条の5第2項、第4条の2及び第5条等に関して、政省令及び指針の策定に向けた検討を行うために令和5年7月28日から同年10月10日までの間に開催された「改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会」による検討及び意見聴取の過程等においても様々な事例の集積が行われたところである。本別冊は、これらを踏まえ、旅館業の施設に特有な不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例について、本文第3とは別にとりまとめることとしたものである。 第2 旅館業の施設における障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例 旅館業の営業者が衛生サービスを提供するに際して、次のような取扱いをすることは「不当な差別的取扱い」となるおそれがあります。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これに限られるものではありません。また、客観的にみて正当な理由が存在する場合は、不当な差別的取扱いに該当しない場合があることにご留意ください。 ○盲導犬同伴の受け入れについて宿泊施設に確認したところ、「旅館で畳である」ことを理由に宿泊を断られた ○聴覚障害者個人やその団体が宿泊の申込みをしたところ、付き添いの有無などを聞かれ、「聴覚障害者のみ」と告げると、個々の障害や状況等を確認しないまま、「安全が確保できない」と断られた p50 ○聴覚障害者の団体がホテル宿泊の申込みに際して、障害のない者を含むよう条件を付けられた ○盲ろう者が多く参加する行事で使用するため宿泊施設を予約しようとしたら、個々の障害や状況等を確認しないまま、宿泊施設内は階段や段差が多いため危ないという理由で利用を断られた ○インターネットの宿泊サイトで、「車椅子・杖をご利用の方については大浴場の利用はご遠慮ください」との記載があった ○緊急事態が起きた時、非常ベルや館内放送があっても気づかないので、危険であるとの理由で、聴覚障害者が宿泊を断られた ○チェックイン時に知的・行動障害があることを伝えたところ、大浴場の利用時間を(利用客が少ないと思われる)深夜に指定され、入浴時間や就寝時間に大きな影響を受けた ○ホテルの予約を取ろうとした際、人工呼吸器の持ち込みを希望したが、「過去にそういう対応をしたことがない」という理由から宿泊を断られた ○精神障害者手帳を提示した女性が、ホテル側に事前に精神障害者である旨を連絡していたにもかかわらず、チェックイン時に「安全上の理由」で宿泊を断られた。女性は、障害者差別解消法に基づき、ホテル側に対して合理的な配慮を求める訴えを提起したが「ホテル側は客室内で発生する可能性のある事故やトラブルを防止するために必要な措置を講じた」と受け入れられなかった ○乳がんの患者が大浴場などでの入浴に際して、胸を覆う肌着「入浴着」を着用して入浴することを拒否された p51 (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例 正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意が必要です。 ○合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者の状況等を確認すること ○車椅子の利用者が畳敷きの個室の利用を希望した際に、敷物を敷く等、施設・設備を保護するための対応を行うこと ○知的障害者の中には、食事がビュッフェ方式の場合、会場が大人数になることで不安定になってしまう人もいることから、食べる分量を客室に持ち帰って食べられるような配慮など必要な配慮を、宿泊予約時やチェックイン時に聞き取ること ○車椅子等を使用して宿泊する場合、著しい段差が存在し、スタッフが補助を行っても施設内の移動が困難等の理由により、宿泊可能な部屋や他の宿泊施設を紹介する ○ホテルのスタッフの本来の業務に付随するものではないため、食事・化粧室の利用等の長時間にわたる介助が必要な宿泊者に対して、付き添いの方の同伴を求める (3)合理的配慮に該当すると考えられる例 旅館業の営業者は、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合には、次のような合理的配慮を提供することが求められています。合理的配慮を提供する際には、障害者の性別、年齢、状態等に十分に配慮することが必要です。 p52 ここに記載する事例はあくまで例示であり、あらゆる事業者が必ずしも実施するものではないこと、以下の事例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意してください。また、旅館業の営業者に強制する性格のものではなく、ここに記載された事例であっても、具体的場面や状況によりその実施に伴う負担は異なり、旅館業の営業者の事業規模や人員体制等によっては過重な負担となる可能性があるため、旅館業の営業者においては、法、基本方針及び本指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待されます。合理的配慮の提供と建設的対話は基本的に一体不可分であり、建設的対話を通じて必要かつ合理的な範囲で柔軟に社会的障壁の除去を行うことが求められることに留意してください。 <建物や設備についての配慮や工夫> ・聴覚障害者や盲ろう者が視覚・触感的にわかるよう、フロントに説明書(イラストや点字、QRコード等)を置き、壁に看板(イラストや点字、QRコード等)を張り付け、フロントや部屋に呼び出しや緊急ベル(音声と光、振動)を設置し、又はコミュニケーション支援ボード(点字、QRコード)を置くこと ・無人フロントや受付スタッフが不在の場合において、入口やフロントに説明書きや案内を表示し、電話や電話以外の連絡システムで対応できるよう工夫をし、また呼び出しボタン等の位置が分かるように案内すること ・車椅子利用者が窪みを通れるよう、雑誌や電話帳を重ねたり、外に出てレンガやブロックを探したりして、対応すること。また、障害の特性に応じて、移動のしやすさを考慮し、ベッドやテーブルなどの位置を変える等すること ・障害者が宿泊する際、バリアフリールーム等にシャワーを利用する時に使用するシャワーチェアその他の必要なアメニティや備品を置いておく又は貸し出すこと ・聴覚障害者への緊急時の連絡方法としてスマートフォンや「振動呼び出し機」、強い発光機能付きの機器などを利用すること、またフロント近くの客室を用意すること p53 ・バイキング形式での食事において、トレーで食器を運ぶことが難しい場合に、キャスターを用意すること ・客室のテレビを字幕表示に対応するものとすること ・宿泊者にオストメイトや「入浴着」を着用した方の大浴場での入浴に理解をいただけるよう、オストメイトや「入浴着」に関する説明やポスターを脱衣場等に掲載すること ・視覚障害者の方の同行者に対して、その視覚障害者が宿泊する客室の鍵を追加で共有するなどの配慮を行うこと <従業員などとのコミュニケーションや情報のやりとり、サービス提供についての配慮や工夫> ・施設の構造、客室の位置、客室内の構造、アメニティの場所などがわかるように説明書きを準備し、又は誘導しながら案内すること ・朝食バイキングで障害者が困っている場合に声をかけて手伝いをすること ・認知症の方に対して、後ろから声をかけるのではなく、前から声をかけること ・レストランにおいて発達障害のために偏食がある子どもに対し、料理内容の工夫等を行うこと ・障害により大部屋での食事が難しいとの申し出があったときに、部屋食への切り替えや大部屋でのパーテーションでの間仕切りをすること ・レストランにおいて車椅子に座ったまま食事することを認めること ・客室にある高価な置物等を不注意で壊してしまうかもしれないので片付けておいてほしいとの申し出に応じること ・障害があるとの申し出があった際に、客室での布団敷き等で客室を訪ねることがある場合には、あらかじめ何時に何人程度で訪ねる旨を伝達すること p54 ・宿泊施設の予約サイトにおいて、車椅子利用者が宿泊できるかどうか、客室がユニバーサルルームかどうか、騒音の状況を表示すること ・電話やメールやSNS、筆談や音声認識、電話リレーサービス、文字だけでなくイラストも用いるなど、障害の特性に応じた、予約時や問い合わせ時の連絡手段、宿泊施設のコミュニケーション手段を確保すること ・観光案内や施設等の障害者割引などの関係情報の積極的な提供を行うこと (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例 合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例については、下記のとおりです。これらの例についても、掲載されている例はあくまでも例示であり、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについても、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要です。 ○宿泊施設において、肢体不自由の障害者から客室内のトイレの入口の段差解消のために、椅子貸出しの申出があった場合に、具体的な検討をしないまま貸し出しを断り、別の階の障害者用トイレの使用を求められた ○知的・行動障害の特性として、床を強く踏み鳴らしてしまう行動もあることから、階下の宿泊客に迷惑とならないよう1階の部屋に変更することを希望したところ、空室があるにもかかわらず、また入室前にもかかわらず、変更を断られた ○車椅子利用者が、スタッフに施設内での移動やベッドへの移乗の際の一時的な手伝いをお願いしたところ、一律に、対応していないと断られた p55 参考資料 p56 ■障害者権利条約とは  障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定めた条約です。 2006(平成18)年12月13日に国連総会において採択され、2008(平成20)年5月3日に発効しました。我が国は2007(平成19)年9月28日に条約に署名し、2014(平成26)年1月20日に批准書を寄託しました。また、同年2月19日に同条約は我が国について効力を発生しました。 この条約の主な内容としては、以下のとおりです。 (1)一般原則 障害者の尊厳、自律及び自立の尊重、無差別、社会への完全かつ効果的な参加及び包容等 (2)一般的義務 合理的配慮の実施を怠ることを含め、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること等 (3)障害者の権利実現のための措置 身体の自由、拷問の禁止、表現の自由等の自由権的権利及び教育・労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置等を規定。社会権的権利の実現については漸進的に達成することを許容 (4)条約の実施のための仕組み 条約の実施及び監視のための国内の枠組みの設置。障害者の権利に関する委員会における各締約国からの報告の検討 ■障害者総合支援法の対象となる疾病について 平成25年4月より、難病等が障害者総合支援法の対象となり130疾病を対象としていましたが、指定難病(医療費助成の対象となる難病)の検討を踏まえ、令和6年4月より、障害者総合支援法の対象疾病が369疾病に拡大されました。 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hani/index.html 対象となる方は、障害者手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)をお持ちでなくても、必要と認められた障害福祉サービス等(障害者・児は、障害福祉サービス・相談支援・補装具及び地域生活支援事業(障害児は、障害児通所支援と障害児入所支援も含む。))が受けられます。 ※難病の特徴(症状の変化や進行、福祉ニーズ等)については、「難病患者等に対する認定マニュアル(令和3年12月)を参照ください https://www.mhlw.go.jp/content/000869186.pdf p57 ■障害者に関するマーク「R5年版 障害者白書」(内閣府)より 【障害者のための国際シンボルマーク】 所管:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 【身体障害者標識】 所管:警察庁 【聴覚障害者標識】 所管:警察庁 【盲人のための国際シンボルマーク】 所管:社会福祉法人日本盲人福祉委員会 【耳マーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【ヒアリングループマーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【ほじょ犬マーク】 所管:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 【オストメイト用設備/オストメイト】 所管:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 【ハート・プラスマーク】 所管:特定非営利活動法人ハート・プラスの会 【「白杖SOSシグナル」普及啓発シンボルマーク】 所管:岐阜市福祉部福祉事務所障がい福祉課 【ヘルプマーク】 所管:東京都福祉局障害者施策推進部企画課社会参加推進担当 【手話マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 【筆談マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 p58 ■コミュニケーション支援用絵記号の例 「R5年版 障害者白書」(内閣府)より 【絵記号の例】 わたし あなた 感謝する 助ける 【絵記号による意思伝達の例】 朝起きたら顔を洗って歯を磨いてください。 p59 ■身体障害者補助犬とは 「身体障害者補助犬」は、目や耳や手足に障害のある方の生活をお手伝いする、「盲導犬」・「聴導犬」・「介助犬」のことです。 身体障害者補助犬法に基づき認定された犬で、特別な訓練を受けています。 補助犬の種類 ○盲導犬 目の見えない人、見えにくい人が街なかを安全に歩けるようにサポートします。障害物を避けたり、立ち止まって曲がり角を教えたりします。ハーネス(胴輪)をつけています。 ○介助犬 手や足に障害のある人の日常の生活動作をサポートします。物を拾って渡したり、指示したものを持ってきたり、着脱衣の介助などを行ないます。“介助犬”と書かれた表示をつけています。 ○聴導犬 音が聞こえない、聞こえにくい人に、生活の中の必要な音を知らせます。玄関のチャイム音・FAX着信音・赤ちゃんの泣き声などを聞き分けて教えます。“聴導犬”と書かれた表示をつけています。 補助犬の同伴については、「身体障害者補助犬法」で、人が立ち入ることのできるさまざまな場所で受け入れるように義務づけられています。「犬だから」という理由で受け入れを拒否しないでください。 補助犬の同伴を受け入れる義務がある場所 ・国や地方公共団体などが管理する公共施設・公共交通機関(電車、バス、タクシーなど) ・不特定かつ多数の人が利用する民間施設−商業施設、飲食店、病院、ホテルなど ・事務所(職場)−国や地方公共団体などの事務所−従業員43.5人以上の民間企業 補助犬の同伴を受け入れる努力をする必要がある場所 ・事務所(職場)−従業員43.5人未満の民間企業 ・民間住宅 補助犬の受け入れ施設の方へ ●補助犬は、ユーザーの指示に従い待機することができるので、特別な設備は必要ありません。 ●補助犬の同伴を受け入れる際に他のお客様から苦情がある場合は、「身体障害者補助犬法」で受け入れ義務があること、補助犬の行動や健康の管理はユーザーが責任をもって行なっていることを説明し、理解を求めてください。 ●補助犬が通路をふさいだり、周りのにおいを嗅ぎ回ったり、その他、何か困った行動をしている場合は、そのことを補助犬ユーザーにはっきり伝えてください。 ●補助犬を同伴していても、補助犬ユーザーへの援助が必要な場合があります。補助犬ユーザーが困っている様子を見かけたら、まずは声をかけたり、筆談をしたりコミュニケーションをとってください。 p60 ■障害特性や特性ごとの配慮事項等を知る  ※障害特性や特性ごとの配慮事項等を知るには、例えば、以下のようなホームページがあります。 【内閣府】障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト https://shougaisha-sabetukaishou.go.jp/ 【青森県】障害を知るためのガイドブック https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/syofuku/kyouseishakai.html 【群馬県障害者社会参加推進協議会】障害のある方へのマナーブック https://www.normanet.ne.jp/~gunmasin/ 【千葉県】障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン https://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/shougai-kurashi/jouhouhoshou/ 【八王子市】みんなちがってみんないい(障害のある人を理解するためのガイドブック) https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/005/014/009/p021337.html 【厚木市】この街でともに・・・〜障がいのある人を理解するためのガイドブック〜 https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/shogaifukushika/9/12/1889.html 【富山県】障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちづくりのためのアドバイス事例集(障害のある人が「困った」事例から) http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1209/kj00011743.html 【大阪府】障がい者が必要とする社会的障壁の除去のための配慮や工夫の事例について http://www.pref.osaka.lg.jp/keikakusuishin/go-hai/ 【島根県・鳥取県】障がいを知り、共に生きる〜まず、知ることからはじめましょう〜 http://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/syougai/ippan/aisupport/supporter.data/H26panhu.pdf http://www.pref.tottori.lg.jp/aisupport/ 【熊本県】障がいのある人もない人も共に生きる熊本づくりのために(パンフレット) http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_3020.html 【沖縄県】心のバリアフリー2(各種冊子) http://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kodomo/shogaifukushi/keikaku/jorei/bf2.html 【名古屋市】こんなときどうする?‐障害のある人を理解し、配慮のある接し方をするためのガイドブック‐ http://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/22-2-0-0-0-0-0-0-0-0.html 【福岡市】ユニバーサルデザインに配慮した印刷物作成の手引き http://www.city.fukuoka.lg.jp/shisei/kouhou-hodo/kankoubutsu-video/ud.html p61 ■権利擁護に関連する法律(その1) 【障害者虐待の防止、障害者の擁護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)】 1.目的 障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、障害者に対する虐待の禁止、国等の責務、障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的としています。 2.障害者に対する虐待の禁止と早期発見の努力義務 何人も障害者を虐待してはならない旨を定め、障害者の虐待の防止に係る国等の責務や、障害者虐待の早期発見の努力義務を定めています。 3.「障害者虐待」の通報義務 「障害者虐待」を受けたと思われる障害者を発見した者に速やかな通報を義務付けています。 4.「障害者虐待」とは 1から3の人たちが、(ア)から(オ)の5つの虐待行為を行った場合を「障害者虐待」としています。 1 養護者(障害者の世話をしている家族等) 2 障害者福祉施設従事者等(障害福祉サービスの職員等) 3 使用者(障害者を雇用している者等) 5つの行為(具体的要件は、虐待を行う主体ごとに微妙に異なる。) (ア)身体的虐待:障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること (イ)放棄・放置:障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置等による(ア)(ウ)(エ)の行為と同様の行為の放置等 (ウ)心理的虐待:障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと (エ)性的虐待 :障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること (オ)経済的虐待:障害者から不当に財産上の利益を得ること 5.通報先 市町村・都道府県の部局等は、障害者虐待の通報や対応の窓口等となる「市町村障害者虐待防止センター」、「都道府県障害者権利擁護センター」の機能を果たしています。 6.学校、保育所、医療機関における虐待の防止 就学する障害者、保育所等に通う障害者及び医療機関を利用する障害者に対する虐待への対応について、その防止等のための措置の実施を学校の長、保育所等の長及び医療機関の管理者に義務付けています。 p62 ■権利擁護に関連する法律(その2) 【児童虐待の防止等に関する法律】 児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする法律です。 ○「児童虐待」とは保護者がその監護する児童について行う次の行為をいいます。 1 身体的虐待:殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など 2 性的虐待:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など 3 ネグレクト:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など 4 心理的虐待:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など 【高齢者虐待防止法】 高齢者の虐待防止等に関する国等の責務、虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援の措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする法律です。 ○虐待防止施策には、1 養護者(家族等)による虐待に対するものと、2 養介護施設従事者等による虐待に対するものに大別されます。 ○虐待の類型には、1 身体的虐待、2 養護を著しく怠る(ネグレクト)、3 心理的虐待、4 性的虐待、5 経済的虐待があります。 詳細は、以下よりご覧ください。 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/boushi/index.html 【配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)】 配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的とする法律です。 ○配偶者:男性、女性を問いません。事実婚や元配偶者(※)も含まれます。 ※離婚前に暴力を受け、離婚後も引き続き暴力を受ける場合 ※生活の本拠をともにする交際相手、元生活の本拠をともにする交際相手も対象 ○暴力:身体的暴力のみならず、精神的・性的暴力(保護命令の申し立ては身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫のみ対象)も含まれます。 詳細は、以下よりご覧ください。 https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/index2.html p63 ■発達障害者支援法とは T.目的 親をはじめとする身近な人、保育所や学校などの担任、病院や福祉機関で支援に携わる者、行政機関の職員、その他様々な立場の国民全体が、発達障害の特性を理解し支援ができるようにするために ・早期発見・発達支援に関する国・地方公共団体の責務を明らかにしました。 ・発達障害のある人の自立や社会参加のために、様々な分野で支援の充実を図る必要性があることが示されました。 U.定義(発達障害とは) 自閉症やアスペルガー症候群などを含む広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などが代表的ですが、このほかにもトゥレット症候群、吃音症など様々なものがあります。 現時点では、確かな原因は明らかにはなっていませんが、様々な調査から、脳の機能が平均的な世の中の人とは違う発達の仕方をしているらしいということが徐々に分かってきています。 「発達障害」という名前から、「発達しない」「子どもの時期だけの障害」などというイメージが持たれることもありますが、これは誤解です。その人に合った支援があれば、自立や社会参加の可能性は高まります。また、発達障害の特性を踏まえた支援は、子どもの時期だけではなく成人期や老年期にも必要になります。 V.相談機関等(発達障害について相談したいとき) まずは、現在住んでいる地域の中にある様々なサービス機関(たとえば、市町村の役場、保育所、学校、医療機関、ハローワークなど)でも、発達障害に対する知識が年々高まってきています。 また、都道府県や政令市には、発達障害者支援センターが必ず置かれていますので、お住まいの地域の発達障害者支援センターに連絡をしたりホームページを確認したりするのも良いでしょう。 国においても、発達障害情報・支援センターのホームページを随時更新し、様々な情報を掲載しています。 (掲載先)http://www.rehab.go.jp/ddis/ W.普及啓発 発達障害については、日本だけではなく世界中で関心が高まりつつあります。たとえば、平成19年には国連総会において「4月2日を世界自閉症啓発デーと定める」決議、平成24年には「自閉症スペクトラム障害、発達障害及び関連する障害によって受けている個人や、家族、社会が必要とする社会・経済的ニーズへの対応」に関する決議が採択されています。 日本国内でも、4月2日の世界自閉症啓発デーには様々な場所で建物を青くライトアップする取組や、4月2日から8日を発達障害啓発週間として様々な啓発イベントが行われることになっています。 (掲載先)http://www.worldautismawarenessday.jp/htdocs/ p64 ■関連ホームページ 障害者権利条約(外務省) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html 障害者差別解消法(内閣府) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html 障害者基本法(内閣府) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/wakugumi.html バリアフリー・ユニバーサルデザイン(国土交通省) https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/index.html 障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策の推進(内閣府) https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jouhousyutoku.html 聴覚障害者等の電話利用の円滑化(総務省) https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/telephonerelay/index.html 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sabetsu_kaisho/index.html (作業者注・「障害者差別解消法 社会保険労務士の業務を行う事業者向けガイドライン」(表紙)) 障害者差別解消法 社会保険労務士の業務を行う事業者向けガイドライン 〜社会保険労務士の業務を行う事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針〜(案) 令和6年○月 厚生労働大臣決定 はじめに 平成28年4月1日から「障害者差別解消法」が施行されています。 この法律は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項や、国の行政機関、地方公共団体等及び民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置などについて定めることによって、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につなげることを目的としています。 この対応指針は、「障害者差別解消法」の規定に基づき、社会保険労務士の業務を行う事業者が障害者に対し不当な差別的取扱いをしないこと、また必要かつ合理的な配慮を行うために必要な考え方などを記載しています。 日々の業務の参考にしていただき、障害者差別のない社会を目指しましょう。 ※この対応指針は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第 56 号)の施行の日(令和6年4月1日)から適用します。 目次 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過・・・p1 (2)対象となる障害者・・・p2 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針・・・p2 (4)社会保険労務士の業務を行う事業者への対応指針・・・p2 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い 1 不当な差別的取扱いの基本的な考え方・・・p4 2 正当な理由の判断の視点・・・p4 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方・・・p5 2 過重な負担の基本的な考え方・・・p7 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例・・・p9 (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例・・・p9 (3)合理的配慮に該当すると考えられる例・・・p9 (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例・・・p11 (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例・・・p12 第4 事業者における相談体制の整備・・・p12 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備・・・p12 第6 国の行政機関における相談窓口・・・p13 第7 主務大臣による行政措置・・・p13 おわりに・・・p14 (作業者注:目次ここまで) p1 第1 趣旨 (1)障害者差別解消法制定の背景及び経過 近年、障害者の権利擁護に向けた取組が国際的に進展し、平成18年に国連において、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)が採択されました。我が国は、平成19年に権利条約に署名し、以来、国内法の整備を始めとする取組を進めてきました。 権利条約は第2条において、「「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義し、その禁止について、締約国にすべての適当な措置を求めています。 我が国においては、平成16年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正において、障害者に対する差別の禁止が基本的理念として明示され、さらに、平成23年の同法改正の際には、権利条約の趣旨を踏まえ、同法第2条第2号において、社会的障壁について、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義されるとともに、基本原則として、同法第4条第1項に、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」こと、また、同条第2項に、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」ことが規定されました。 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、すべての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定されました。我が国は、法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ、平成26年1月に権利条約を締結しました。 また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、相談体制の充実や情報の収集・提供の確保など障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化する措置を講ずることを内容とする改正法が公布されました(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号))。 p2 (2)対象となる障害者 対象となる障害者・障害児(以下「障害者」という。)は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものです。 これは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるというモデル(いわゆる「社会モデル」)の考え方を踏まえているものです。 したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限りません。 また、特に女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより、さらに複合的に困難な状況に置かれている場合があること、障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意する必要があります。 (3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 法第6条第1項の規定に基づき、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27年2月24日閣議決定、令和5年3月14日変更。以下「基本方針」という。)が策定されました。 基本方針は、障害を理由とする差別の解消の推進は、雇用、教育、医療、公共交通等、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野に関連し、各府省の所掌に横断的にまたがる施策であるため、政府として、施策の総合的かつ一体的な推進を図るとともに、行政機関間や分野間における取組のばらつきを防ぐため、施策の基本的な方向等を示したものです。 (4)社会保険労務士の業務を行う事業者への対応指針 障害者基本法第1条に規定されるように、障害者施策は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるという理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指して講じられる必要があります。 p3 そのうえで、法第11条第1項の規定に基づき、主務大臣は、基本方針に即して、事業者が法第8条に規定する事項に関し、適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めることとされています。 本指針は、上に述べた法の目的を達成するため、特に社会保険労務士の業務を行う事業者の対応指針を定めたものです。 本指針において定める措置については、「望まれます」と記載している内容等法的義務ではないものも含まれますが、法の目的を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟な対応を積極的に行うことが期待されるものです。 なお、事業者は、障害を理由とする差別を解消するための取組を行うに当たり、法、基本方針及び本指針に示す項目のほか、各事業に関連する法令等の規定を遵守しなければなりません。 本指針の対象となる事業者の範囲は、社会保険労務士法(昭和43年法律第89号)第2条及び第2条の2に規定する社会保険労務士の業務を行う事業者です。 なお、基本方針において、「事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含み、国、独立行政法人等、地方公共団体及び公営企業型以外の地方独立行政法人を除く。)であり、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者である。したがって、例えば、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となり、また、対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別も問わない。」と規定されています。 (注)事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされており、同法に基づき別途定められた「障害者差別禁止指針(「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第116号))」及び「合理的配慮指針(「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成27年厚生労働省告示第117号))」を参照してください。 p4 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 (1)不当な差別的取扱い 1 不当な差別的取扱いの基本的な考え方 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、役務の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付するなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止しています。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当します。 また、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではないことに留意する必要があります。 したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たりません。 不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことです。 2 正当な理由の判断の視点 不当な差別的取扱いであるのかどうかの判断には、その取扱いを行う正当な理由の有無が重要となります。正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、役務の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合です。 正当な理由に相当するか否かについて、事業者は、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止など)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際、事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められます。 なお、「客観的に判断する」とは、主観的な判断に委ねられるのではなく、その主張が客観的な事実によって裏付けられ、第三者の立場から見ても納得を得られるような「客観性」が必要とされるものです。 p5 また、「正当な理由」を根拠に、不当な差別的取扱いを禁止する法の趣旨が形骸化されるべきではなく、抽象的に事故の危惧がある、危険が想定されるといった理由により役務の提供を行わないといったことは適切ではありません。 ※後述の「第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」では、「正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例」及び「正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例」の具体例を示しています。 (2)合理的配慮 1 合理的配慮の基本的な考え方 <合理的配慮とは> 権利条約第2条において、合理的配慮は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。 法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)を行うことを求めています。 これまで事業者による合理的配慮の提供は努力義務とされていましたが、令和3年の法改正により、法的義務へと改められました。事業者におきましては、合理的配慮の提供の義務化を契機として、本指針に基づき、合理的配慮の必要性につき一層認識を深めることが求められます。 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わりうるものであること、また、障害の状態等が変化することもあるため、特に障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜見直しを行うことが重要です。加えて、合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意する必要があります。 p6 合理的配慮は、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があります。その提供に当たってはこれらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ、「2 過重な負担の基本的な考え方」に掲げた要素も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要があります。 建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要です。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられます。 ※後述の「第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」では、「合理的配慮に該当すると考えられる例」の具体例を示しています。 <意思の表明> 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられます。 また、障害の特性等により本人からの意思の表明が困難な場合には、障害者からの意思の表明のみでなく、障害者の家族、支援者・介助者、法定代理人等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。 なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、支援者・介助者等を伴っていないことなどにより、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白であるときには、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提供するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望まれます。 p7 <環境の整備との関係> 法第5条においては、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として事業者の努力義務としています。 環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待されています。また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、内部規則やマニュアルの整備等のソフト面の対応も含まれることが重要です。 障害を理由とする差別の解消のための取組は、法や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)(いわゆるバリアフリー法)等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づくこのような環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進められることが重要です。 環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものですが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置です。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなります。 なお、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことは有効です。また環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することとなります。 2 過重な負担の基本的な考え方 過重な負担については、事業者において、具体的な検討をせずに過重な負担の意味を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、過重な負担に当たると判断した場合、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際には前述のとおり、事業者と障害者の双方が、お互いに立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められます。 p8 *事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か) *実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) *費用・負担の程度 *事務・事業規模 *財務状況 p9 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 (1)正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例 社会保険労務士の業務を行う事業者がその役務を提供するに際して、次のような取扱いをすることは「不当な差別的取扱い」となるおそれがあります。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではありません。また、客観的にみて正当な理由が存在する場合(第2(1)2 参照)は、不当な差別的取扱いに該当しない場合があることにご留意ください。 ○役務の提供を拒否すること ・役務提供の場面における障害者本人や第三者の安全性などについて具体的に考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由として事務所の利用を拒否すること ・身体障害者補助犬の同伴を拒否すること、また、身体障害者補助犬の同伴を理由に役務の提供を拒否すること ○役務の内容を制限すること(場所・時間帯などの制限) ・正当な理由なく、対応を後回しにすること ○役務の提供に際し条件を付すこと(障害のない者には付さない条件を付すこと) ・家族や支援者・介助者の同伴を役務の提供の条件とすること ○役務の提供に当たって、他の者とは異なる取扱いをすること ・障害者本人に対して見下したような言葉遣いや、年齢不相応な幼児言葉で接するなど本人の尊厳を軽視した態度で接すること (2)正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例 正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意が必要です。 ○車椅子の利用者が畳敷きの個室の利用を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行うこと(事業者の損害発生の防止の観点) ○手続を行うため、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認すること(障害者本人の損害発生防止の観点) (3)合理的配慮に該当すると考えられる例 事業者は、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合には、合理的配慮を提供することが求められています。合理的配慮を提供する際には、障害者の性別、年齢、状態等に十分に配慮することが必要です。また、障害者と接する際には、それぞれの障害特性に応じた対応が求められます。 p10 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではなく、記載した例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意してください。また、事業者に強制する性格のものではなく、ここに記載された事例であっても、事業者の事業規模等によっては過重な負担となる可能性があるため、事業者においては、法、基本方針及び本指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待されます。 ■障害特性に応じた具体的対応例 自分のタイミングで移動したい(視覚障害) 全盲の視覚障害者Aさんは、労働相談のため社会保険労務士事務所を訪問する際、案内看板が見えず単独で行くことができませんでした。しかし、労働相談の予約を取る際に、事務所の入り口付近に職員を配置しておいてほしい旨伝えたところ、快く引き受けていただき、職員の方が事務所の外で待ってくれており、声をかけていただいたので、付き添いがいなくとも一人で通うことができました。 講演会等での配慮(聴覚障害) 聴覚障害者(2級)のBさんは、ある社会保険労務士事務所が開催する講演会に参加することとなりました。Bさんは補聴器を付けていましたが、講演会の事務局に聴覚障害があるため配慮してほしいと事前に伝えたところ、当日は、手話通訳者や要約筆記者に対応してもらえるよう配慮していただきました。 建物の段差が障壁に(肢体不自由) 車椅子を使用している身体障害者(1級)Cさんが、外出中、社会保険労務士事務所の建物に入ろうとすると大きな段差があり立ち往生してしまいました。事務所に協力をお願いしてみると、事務所のスタッフが段差を車椅子で乗り越える手伝いを申し出てくれました。介助のお陰で、無事に建物に入ることができました。 苦手なことに対しては、事前のサポート(発達障害1) 発達障害のDさんは文字の読み書きが苦手であり、様々な手続きの際、書類の記入欄を間違えたり、誤字を書いてしまったりして、何回も書き直さなければなりませんでした。そこで、Dさんの相談を受けている社会保険労務士事務所の職員が、「記入欄に鉛筆で丸をつけたり付箋を貼って示す」「書類のモデルを作成して示す」などを試してくれ、Dさんは書類作成を失敗する回数が少なくなりました。 p11 相談対応での配慮(発達障害2) 発達障害のEさんは吃音症で、会話の際に単語の一部を何度も繰り返したり、つかえてすぐに返事ができないことがあります。本来は電話をかけることは苦手なのですが、職場の悩みについてどうしても相談することが必要になったので、社会保険労務士事務所に電話をかけました。 その際、相談を受けた社会保険労務士事務所の職員は、Eさんの吃音症に気づき、時間がかかっても話を急がせることなく、不快感を示すこともなく、話す内容を丁寧に聞いてくれました。 そして、Eさんは、いろいろな場面で時に言われることのある「性格に問題がある」「それでは仕事にならない」という誤解や無理解からくる言葉をかけられなかったので、安心して相談をすることができました。 トイレへの誘導(視覚障害) 視覚障害者Fさんは、社会保険関係手続の相談に訪れた社会保険労務士事務所で、トイレの個室への案内を求めたところ、希望に沿って同性の職員が同行し、歩行速度を合わせて個室まで案内してくれました。 運用の柔軟な変更(肢体不自由) Gさんは、社会保険労務士法人が開催するセミナーに申し込もうとした際、ウェブサイトからの参加申込手続を案内されました。その際、肢体不自由により手続が困難である旨伝えたところ、電話での申込受付を快く引き受けてもらえ、希望するセミナーに参加することができました。 (4)合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例 社会保険労務士の業務を行う事業者がその役務を提供するに際して、次のような取扱いをすることは、「合理的配慮の提供義務違反」に該当するおそれがあります。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これらに限られるものではありません。また、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについても前述(第2(2)参照)の観点等を踏まえて判断する必要があることにご留意ください。 ○筆記が困難であるためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の活用を認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること ○電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、事務所の規定上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること p12 (5)合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例 合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例は以下のとおりです。なお、記載されている内容はあくまで例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、合理的配慮の提供義務に反しない場合であっても、過重な負担に当たると判断した場合等、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、建設的対話を通じて理解を得るよう努めることが望まれます。 ○事業者において、事業の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点) 第4 事業者における相談体制の整備 障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に応じることが必要です。そのためには、法で定められた国や地方公共団体における相談及び紛争の防止等のための体制整備のみならず、障害者に役務の提供を行う事業者において、直接、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に応じるための体制の整備や事業主や管理職を含むすべての職員の研修・啓発を行うことが望まれます。 社会保険労務士の業務を行う事業者においても、より充実した相談体制の整備(対面のほか、電話(電話リレーサービスの対応を含む。)・ファックス・電子メール等多様な相談方法を相談者の障害特性に応じて可能な範囲で用意しておくことや、例えば、女性の相談員を配置することも考えられます。)や相談窓口の分かりやすい周知をはじめ、日頃から、障害に関する理解や人権意識の向上・障害者の権利擁護に向けた職員の研修に積極的に取り組むことが重要です。 なお、実際の相談事例や対応については、相談者のプライバシーに配慮しつつ順次蓄積・公表し、その後の合理的配慮の提供等に活かしていくことが望まれます。 第5 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 障害者差別は、障害に関する知識・理解の不足、意識の偏りなどにより引き起こされることが大きいと考えられることから、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重する共生社会を目指すことの意義を職員が理解することが重要です。 また、こうした理念が真に理解されることが、障害者差別や、障害者が時に感じる大人の障害者に対するこども扱い、障害者に対する命令的、威圧的、強制的な発言などの解消にもつながるものと考えられます。 p13 このため、事業者においては、研修等を通じて、法の趣旨の普及を図るとともに、事業所の地域の取組のなかで近隣住民への理解を促していくことが重要です。研修等の実施に当たっては、内閣府が障害者の差別解消に向けた理解促進のためのポータルサイトにおいて提供している、事業者が障害者に対応する際に参考となる対応例等、行政機関が作成し提供する周知・啓発資料等を活用することも考えられます。また、障害者から話を聞く機会を設けることも有効です。 加えて、事業者の内部規則やマニュアル等について、障害者への役務の提供等を制限するような内容が含まれていないかについて点検することや、個別の相談事案等への対応を契機として、必要な制度の改正等を検討するなど、障害を理由とする差別の解消の推進に資するよう、制度等を整備することが重要です。 なお、障害者差別の理解には、障害者虐待防止に関する理解も極めて重要になってくることから、併せて研修を行うことが望まれます。 第6 国の行政機関における相談窓口 法第14条において、「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう人材の育成及び確保のための措置その他の必要な体制の整備を図るものとする」と規定されています。 相談に際しては、福祉事務所などの地域の自治体の様々な相談窓口や各都道府県において組織される障害者差別解消支援地域協議会などもご活用ください。 なお、厚生労働省における社会保険労務士関係の担当窓口は、労働基準局監督課社会保険労務士係です。 第7 主務大臣による行政措置 事業者における障害者差別解消に向けた取組は、本指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待されています。しかし、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされています。(法第12条) p14 おわりに 法の理念を実現していくには、国民一人ひとりの障害に対する理解と適切な配慮が不可欠であり、差別と解される事例についても、お互いの意思疎通不足や理解の不足に起因していると思われることも見受けられます。法に定められたから義務として行うという姿勢ではなく、事業者や障害者が歩み寄り理解を深めていくことが、差別解消の第一歩につながると考えられます。 本指針は、そうした事業者の取組に資するよう、今後も、より具体的な事例、特に好事例をお示しできるよう随時見直しを図るなど努めてまいります。 事業者のみなさまの法に関するより深い理解とともに、障害者差別解消に向けた取組を積極的に進めていただくようお願いします。 p15 【参考ページ】 ■障害者差別解消法関係の経緯 平成16年6月4日 障害者基本法改正 ※施策の基本的理念として差別の禁止を規定 平成18年12月13日 第61回国連総会において障害者権利条約を採択 平成19年9月28日 日本による障害者権利条約への署名 平成23年8月5日 障害者基本法改正 ※障害者権利条約の考え方を踏まえ、合理的配慮の概念を規定 平成25年4月26日 障害者差別解消法案閣議決定、国会提出 平成25年6月26日 障害者差別解消法 公布・一部施行 平成26年1月20日 障害者の権利に関する条約締結 平成27年2月24日 障害者差別解消法「基本方針」閣議決定 平成28年4月1日 障害者差別解消法施行 令和3年6月4日 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 公布 令和5年3月14日 障害者差別解消法「基本方針」の変更の閣議決定 p16 ■障害者権利条約とは 障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定めた条約です。 2006(平成18)年12月13日に国連総会において採択され、2008(平成20)年5月3日に発効しました。我が国は2007(平成19)年9月28日に条約に署名し、2014(平成26)年1月20日に批准書を寄託しました。また、同年2月19日に同条約は我が国について効力を発生しました。 この条約の主な内容としては、以下のとおりです。 (1)一般原則 障害者の尊厳、自律及び自立の尊重、無差別、社会への完全かつ効果的な参加及び包容等 (2)一般的義務 合理的配慮の実施を怠ることを含め、障害に基づくいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること等 (3)障害者の権利実現のための措置 身体の自由、拷問の禁止、表現の自由等の自由権的権利及び教育・労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置等を規定。社会権的権利の実現については漸進的に達成することを許容 (4)条約の実施のための仕組み 条約の実施及び監視のための国内の枠組みの設置。障害者の権利に関する委員会における各締約国からの報告の検討 p17 ■本指針に関する障害者差別解消法の参照条文 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (目的) 第1条 この法律は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。 第6条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。 2から6 (略) (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第8条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (事業者のための対応指針) 第11条 主務大臣は、基本方針に即して、第8条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めるものとする。 2 (略) (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) 第12条 主務大臣は、第8条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。 p18 ■国の「基本方針」に定められた「対応指針」に関する規定 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定) 第4 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 2 対応指針 (1)対応指針の位置付け及び作成・変更手続 主務大臣は、個別の場面における事業者の適切な対応・判断に資するための対応指針を作成するものとされている。作成・変更に当たっては、障害者や事業者等を構成員に含む会議の開催、障害者団体や事業者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成等の後は、対応指針を公表しなければならない。 対応指針は事業者の適切な判断に資するために作成されるものであり、盛り込まれる合理的配慮の具体例は、事業者に強制する性格のものではなく、また、それだけに限られるものではない。事業者においては、対応指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待される。 また、対応指針は事業者に加え、障害者が相談を行う際や、国や地方公共団体における相談機関等が相談対応を行う際等にも、相談事案に係る所管府省庁の確認のため参照され得るものであることから、対応指針においては、各主務大臣が所掌する分野及び当該分野に対応する相談窓口を分かりやすく示すことが求められる。 (2)対応指針の記載事項 対応指針の記載事項としては、以下のものが考えられる。なお、具体例を記載する際には、障害特性や年齢、性別、具体的な場面等を考慮したものとなるよう留意することとする。 ○趣旨 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 ○障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例 ○事業者における相談体制の整備 ○事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 ○国の行政機関(主務大臣)における所掌する分野ごとの相談窓口 p19 ■身体障害者補助犬とは         「身体障害者補助犬」は、目や手足や耳に障害のある方の生活をお手伝いする、「盲導犬」・「介助犬」・「聴導犬」のことです。 身体障害者補助犬法に基づき認定された犬で、特別な訓練を受けています。 補助犬の種類 ○盲導犬 目の見えない人、見えにくい人が街なかを安全に歩けるようにサポートします。障害物を避けたり、立ち止まって曲がり角を教えたりします。ハーネス(胴輪)をつけています。 ○介助犬 手や足に障害のある人の日常の生活動作をサポートします。物を拾って渡したり、指示したものを持ってきたり、着脱衣の介助などを行います。「介助犬」と書かれた表示をつけています。 ○聴導犬 音が聞こえない、聞こえにくい人に、生活の中の必要な音を知らせます。玄関のチャイム音・FAX着信音・赤ちゃんの泣き声などを聞き分けて教えます。「聴導犬」と書かれた表示をつけています。 補助犬の同伴については、「身体障害者補助犬法」で、人が立ち入ることのできるさまざまな場所で受け入れるよう義務づけられています。「犬だから」という理由で受け入れを拒否しないでください。 補助犬の同伴を受け入れる義務がある場所 ・国や地方公共団体などが管理する公共施設・公共交通機関(電車、バス、タクシーなど) ・不特定かつ多数の人が利用する民間施設−商業施設、飲食店、病院、ホテルなど ・事務所(職場)−国や地方公共団体などの事務所−従業員40人以上、令和8年7月1日以降は37.5人以上の民間企業 補助犬の同伴を受け入れる努力をする必要がある場所 ・事務所(職場)−従業員40人未満、令和8年7月1日以降は37.5人未満の民間企業 ・民間住宅 補助犬の受け入れ施設の方へ ●補助犬は、ユーザーの指示に従い待機することができるので、特別な設備は必要ありません。 ●補助犬の同伴を受け入れる際に他のお客様から苦情がある場合は、「身体障害者補助犬法」で受け入れ義務があること、補助犬の行動や健康の管理はユーザーが責任をもって行っていることを説明し、理解を求めてください。 ●補助犬が通路をふさいだり、周りのにおいを嗅ぎ回ったり、その他、何か困った行動をしている場合は、そのことを補助犬ユーザーにはっきり伝えてください。 ●補助犬を同伴していても、補助犬ユーザーへの援助が必要な場合があります。補助犬ユーザーが困っている様子を見かけたら、まずは声をかけたり、筆談をしたりコミュニケーションをとってください。 p20 ■障害者に関係するマークの一例 「令和5年版 障害者白書」(内閣府)より 【障害者のための国際シンボルマーク】 所管:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 【盲人のための国際シンボルマーク】 所管:社会福祉法人日本盲人福祉委員会 【身体障害者標識(身体障害者マーク)】 所管:警察庁 【聴覚障害者標識(聴覚障害者マーク)】 所管:警察庁 【ほじょ犬マーク】 所管:厚生労働省 【耳マーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【ヒアリングループマーク】 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 【オストメイト用設備/オストメイト】 所管:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 【ハート・プラスマーク】 所管:特定非営利活動法人ハート・プラスの会 【「白杖SOSシグナル」普及啓発シンボルマーク】 所管:岐阜市 【ヘルプマーク】 所管:東京都 【手話マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 【筆談マーク】 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 p21 ■コミュニケーション支援用絵記号の例 「令和5年版 障害者白書」(内閣府)より 【絵記号の例】 わたし あなた 感謝する 助ける 【絵記号による意思伝達の例】 朝起きたら、顔を洗って歯を磨いてください。 p22 ■障害特性や特性ごとの配慮事項等 ※障害特性や特性ごとの配慮事項等を知るには、例えば、以下のようなホームページがあります。 【内閣府】障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト https://shougaisha-sabetukaishou.go.jp/ 【国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター】こころの情報サイト https://kokoro.ncnp.go.jp/ 【青森県】障害を知るためのガイドブック https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/syofuku/kyouseishakai.html 【群馬県障害者社会参加推進協議会】障害のある人へのマナーブック https://www.normanet.ne.jp/~gunmasin/pdf/R5manner06.pdf 【千葉県】障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン https://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/shougai-kurashi/jouhouhoshou/ 【八王子市】みんなちがってみんないい(障害のある人を理解するためのガイドブック) https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/005/014/009/p021337.html 【武蔵野市】心のバリアフリーハンドブック https://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/542/handbook_kaitei.pdf 【厚木市】この街でともに・・・〜障がいのある人を理解するためのガイドブック〜 https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/shogaifukushika/9/12/1889.html 【富山県】障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちづくりのためのアドバイス事例集(障害のある人が「困った」事例から) https://www.pref.toyama.jp/1209/kurashi/kenkou/shougaisha/jigyousha/kj00011743.html 【大阪府】障がい者が必要とする社会的障壁の除去のための配慮や工夫の事例について https://www.pref.osaka.lg.jp/keikakusuishin/go-hai/ 【島根県・鳥取県】障がいを知り、共に生きる〜まず、知ることからはじめましょう〜 https://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/syougai/ippan/aisupport/supporter.html https://www.pref.tottori.lg.jp/155276.htm 【熊本県】障がいのある人もない人も共に生きる熊本づくりのために(パンフレット) https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/39/1926.html 【沖縄県】心のバリアフリー2(各種冊子) https://www.pref.okinawa.lg.jp/kyoiku/shogaifukushi/1007759/1007763.html 【名古屋市】こんなときどうする?‐障害のある人を理解し、配慮のある接し方をするためのガイドブック‐ https://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/22-2-0-0-0-0-0-0-0-0.html 【福岡市】ユニバーサルデザインに配慮した印刷物作成の手引き https://www.city.fukuoka.lg.jp/shisei/kouhou-hodo/kankoubutsu-video/ud.html p23 ■障害者差別解消支援地域協議会とは 障害者差別解消法では、国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事する者(以下「関係機関」)は、社会生活を円滑に営む上での困難を有する障害者に対する支援が効果的かつ円滑に実施されるよう、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「地域協議会」)を組織できるとされています。(法第17条第1項) 1 地域協議会とは <地域協議会の事務> 障害者差別に関する相談等に係る協議や地域における障害者差別を解消するための取組に関する提案に係る協議を行う ※個別事案ごとに差別か否かの判断を行うことまでは想定されていない ・事案の情報共有や構成機関への提言 ・地域における障害者差別解消の推進のための取組に関する協議・提案 ・事案の解決を後押しするための協議 など <対象となる障害者差別に係る事案> 一般私人による事案は地域協議会における情報共有の対象としないが、環境の整備に関する相談、制度等の運用に関する相談については情報共有の対象とする 2 地域協議会の組織 都道府県、市町村、特別区など地方公共団体が主導して組織する 詳細については、内閣府ホームページに掲載されています。  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/t-b2.html ■関連ホームページ 障害者権利条約(外務省)  https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html 障害者差別解消法(内閣府) https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html 障害者基本法(内閣府) https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/wakugumi.html 厚生労働省における障害を理由とする差別の解消の推進 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sabetsu_kaisho/index.html