基礎資料2(8) 国際連合 CRPD/C/JPN/CO/1 (仮訳) 原文:英語 配布:一般 2022年10月7日 障害者の権利に関する委員会 第27会期 日本の第1回政府報告に関する総括所見 (※第27会期(2022年8月15日から9月6日)において委員会により採択された。) p1 I.序論 1.委員会は、2022年8月22日及び23日に開かれた第594回及び第595回会合(CRPD/C/SR.594及び595参照)において、日本の第1回政府報告(CRPD/C/JPN/1)を審査した。委員会は、2022年9月2日に開催された第611回会合において、本総括所見を採択した。 2.委員会は、委員会の報告ガイドラインに沿って準備された日本の第1回政府報告を歓迎し、委員会によって準備された事前質問事項(CRPD/C/JPN/Q/1)に対する回答(CRPD/C/JPN/RQ/1)に感謝の意を表する。また、委員会は文書で提供された追加情報を確認する。 3.委員会は、多様かつ複数の部門にまたがり、関係府省庁の代表から成る大規模なハイレベルの締約国の代表団との間で行われた、有意義かつ誠実な対話を評価する。また、委員会は障害者政策委員会委員長の参加に感謝する。 II.肯定的な側面 4.委員会は、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」の締結(同条約は、2019年から日本について効力を有する)等、締約国が2014年の障害者権利条約締結以降、同条約履行のために実施してきた措置を歓迎する。 5.委員会は、特に以下の採択を含む、障害者の権利の促進のためにとられた立法措置を評価とともに留意する。 (a)障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法(2022年) (b)公的及び民間事業者に対し、障害者への合理的配慮の提供を義務化した、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(2013年法律第65号)及び改正法(2021年法律第56号) (c)聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律(2020年法律第53号) p2 (d)旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(2019年) (e)施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)基準を促進した高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)の改正(2018年及び2020年) (f)視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(2019年) (g)ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の総合的かつ一体的な推進に関する法律(2018年) (h)障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(2018年法律第47号) (i)障害者の法定雇用義務の対象を拡大し、知的障害者及び身体障害者に加え、精神障害者を含め、かつ、合理的配慮の確保を義務化した障害者の雇用の促進等に関する法律(1960年法律第123号)及び改正(2013年) 6.委員会は、以下を含む、障害者の権利を促進するための公共政策枠組みの設置のためにとられた措置を歓迎する。 (a)裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領(2022年)(仮訳注:2016年の誤り。) (b)第4次障害者基本計画(2018年策定) (c)合理的配慮指針(2016年) (d)みんなの公共サイト運用ガイドライン (e)雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針(2015年策定) (f)本条約の実施状況の監視を担う機関である障害者政策委員会の設置 (g)都道府県及び市町村における障害者計画 III.主要分野における懸念及び勧告 A.一般原則及び義務(第1-4条) 7.委員会は、以下を懸念する。 (a)障害者への温情主義的アプローチの適用による障害に関連する国内法制及び政策と本条約に含まれる障害の人権モデルとの調和の欠如。 (b)より多くの支援を必要とする者及び知的障害者、精神障害者、感覚障害者の障害手当及び社会的包容形態からの排除を助長する法規制及び慣行に亘る障害の医学モデル(機能障害及び能力評価に基づく障害認定及び手帳制度を含む)の永続。 (c)「mentally incompetent(心神喪失)」、「mental derangement(精神錯乱)」、「insanity(心神喪失)」等の侮蔑的な用語及び「physicalor mental disorder(心身の故障)」に基づく欠格条項等の差別的な法規制。 (d)特に、「inclusion」、「inclusive」、「communication」、「accessibility」、「access」、「particular living arrangement」、「personal assistance」、「habilitation」等条約上の用語の不正確な和訳。 p3 (e)移動支援、個別の支援及び意思疎通支援を含む、地域社会における障害者への必要なサービス・支援の提供における地域及び地方自治体間の格差。 8.委員会は、締約国に対して以下を勧告する。 (a)障害者、特に知的障害者及び精神障害者を代表する団体との緊密な協議の確保等を通じ、障害者が他者と対等であり人権の主体であると認識し、全ての障害者関連の国内法制及び政策を本条約と調和させること。 (b)障害認定及び手帳制度を含め、障害の医学モデルの要素を排除するとともに、全ての障害者が、機能障害にかかわらず、社会における平等な機会及び社会に完全に包容され、参加するために必要となる支援を地域社会で享受できることを確保するため、法規制を見直すこと。 (c)国及び地方自治体の法令において、「physical or mental disorder(心身の故障)」に基づく欠格条項等の侮蔑的文言及び法規制を廃止すること。 (d)本条約の全ての用語が日本語に正確に訳されることを確保すること。 (e)移動支援、個別の支援及び意思疎通支援を含め、地域社会において障害者が必要とするサービス・支援の提供における地域及び地方自治体間の格差を取り除くために、必要な立法上及び予算上の措置を講じること。 9.委員会は、更に以下を懸念する。 (a)全国障害者協議会、地方自治体及び地方自治体間の委員会により実施された施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)に関する協議を含め、法律や公共政策に関する協議における障害者を代表する団体を通じた障害者の参加が不十分であること。 (b)主に社会における優生思想及び非障害者優先主義により2016年に相模原市津久井やまゆり園で発生した殺傷事件に対して、包括的な対応がなされていないこと。 (c)国や各地方自治体での司法及び裁判部門の専門家、政策決定者及び議員並びに教員、保健医療関係者、建築設計関係者、ソーシャルワーカー及びその他障害者に関わる専門家の間で、本条約において認められている権利の認識が限定的であること。 10.委員会は、本条約第4条3及び第33条3に関する一般的意見第7号(2018年)を想起しつつ、締約国に以下を勧告する。 (a)持続可能な開発目標(SDGs)の履行、監視及び報告において、障害のある自己権利擁護者、諸団体(知的障害者、精神障害者、自閉症の人々、障害のある女性、障害のあるLGBTIQ+の人々、地方在住者の障害者の団体)及びより多くの支援が必要な障害者に留意しつつ、公的意思決定の過程における代替的な意思疎通、施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)、合理的配慮等を通じ、国や各地方自治体における多様な障害者を代表する団体と積極的で、意義のある、効果的な協議を確保すること。 (b)優生思想及び非障害者優先主義に基づく考え方に対処する観点から、津久井やまゆり園事件を見直し、社会におけるこうした考え方の助長に対する法的責任を確保すること。 (c)障害者団体の緊密な関与により、司法及び裁判部門の専門家、政策決定者及び議員並びに教員、保健医療関係者、ソーシャルワーカー及びその他障害者に関わる専門家に対し、障害者の権利及び本条約上の締約国の義務に関する組織的な能力構築計画を提供すること。 p4 11.委員会は、締約国が、本条約の選択議定書を未だ批准していないことに留意する。また、委員会は本条約第23条4に関する締約国の解釈宣言に懸念をもって留意する。 12.委員会は、締約国が本条約の選択議定書を批准し、本条約第23条4に関する解釈宣言を撤回するよう奨励する。 B.個別の権利(第5-30条) 平等及び無差別(第5条) 13.委員会は、以下を懸念する。 (a)障害者差別解消法に、複合的かつ交差的な差別形態が含まれておらず、障害者の定義の範囲が限定的であること。 (b)あらゆる活動分野において、合理的配慮の拒否が、障害を理由とした差別形態の一つとして認識されていないこと。 (c)障害を理由とした差別の被害者のための、利用しやすい申立て・救済の仕組みが存在しないこと。 14.委員会は、一般的意見第6号(2018年)平等と無差別に則して、締約国に以下を勧告する。 (a)障害、性別、年齢、民族、宗教、ジェンダー自認、性的指向及びその他いかなる身分を理由とした、複合的かつ交差的な差別形態、及び合理的配慮の拒否を含め、本条約に合致し、障害に基づく差別を禁止するために、障害者差別解消法を見直すこと。 (b)私的及び公的領域を含むあらゆる活動分野で、全ての障害者に合理的配慮が提供されることを確保するために、必要な措置を講じること。 (c)障害を理由とした差別の被害者のために、司法及び行政手続を含む、利用しやすい効果的な仕組みを設置すること、及び被害者に包括的救済を提供すること、加害者に制裁を課すこと。 障害のある女子(第6条) 15.委員会は、以下を懸念する。 (a)第4次障害者基本計画のような障害に関連する法政策においてジェンダー平等を促進し、第5次男女共同参画基本計画を含め、ジェンダー平等の法政策における障害のある女性及び女児の権利を促進するための十分な措置の欠如。 (b)障害のある女性及び女児の自律的な力の育成のための、具体的措置の欠如。 16.一般的意見第3号(2016年)障害のある女性及び女児、及び持続可能な開発目標のターゲット5.1、5.2及び5.5を想起しつつ、委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)ジェンダー平等政策において、平等を確保し、障害のある女性及び女児に対する複合的かつ交差的な差別形態を防止するための効果的かつ具体的な措置を採用すること、及び障害に関する法政策にジェンダーの視点を主流化すること。 (b)障害のある女性及び女児の全ての人権と基本的自由が等しく保護されることを確保すること、及びそれら措置の設計及び実施において効果的な参加を行うことを含め、障害のある女性及び女児の自律的な力を育成するための措置を講じること。 p5 障害のある児童(第7条) 17.委員会は、以下を懸念をもって注目する。 (a)母子保健法で規定される早期発見及びリハビリテーションの制度が、(医学的検査に基づく)障害のある児童を社会的隔離へと導き、障害者を地域社会から疎遠にさせ、障害者を包容する生活の展望を妨げていること。 (b)児童福祉法を含む全ての関連法において、障害のある児童が聴取され、自己に影響を及ぼす全ての事項について、自由に自己の意見を表明する権利についての明確な認識が欠如していること。 (c)家庭、代替的ケア及びデイケア環境において、障害のある児童を含む児童への体罰が完全に禁止されておらず、障害のある児童に対する虐待及び暴力を予防し保護するための対策が不十分であること。 18.児童の権利委員会及び障害者権利委員会による障害のある児童に関する共同声明(2022年)に関連し、委員会は締約国に以下を勧告する。 (a)全ての障害のある児童の完全な社会包容の権利を認識するために既存の法律を見直し、他の児童と対等に、障害のある児童が幼少期から一般の保育制度を完全に享受することを確保するため、ユニバーサルデザイン及び合理的配慮(特に、代替的及び補助的な意思疎通の手段)を含む、全ての必要な措置を実施すること。 (b)司法及び行政手続をはじめとする手続において、障害のある児童が他の児童との平等を基礎として、自己に影響を及ぼす全ての事項について自由に自己の意見を聴取され、表明する権利と、自己の権利を実現するために障害及び年齢に適した支援と意思疎通を、利用しやすい形態で提供される権利を認識すること。 (c)あらゆる環境における、障害のある児童を含めた児童の体罰を完全にかつ明示的に禁止し、障害のある児童に対する虐待及び暴力の防止及び虐待及び暴力からの保護に係る措置を強化すること。 意識の向上(第8条) 19.委員会は以下を懸念する。 (a)社会及びメディアにおける、障害者の尊厳及び権利に関する意識を向上させるための努力及び予算配分が不十分であること。 (b)障害者、知的障害者及び精神障害者に対する差別的な優生思想に基づく態度、否定的な定型化された観念及び偏見。 (c)「心のバリアフリー」に関する教材のような、意識向上のための率先した取組の準備における障害者の参加及びそれら措置の評価が不十分であること。 20.委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)策定、実施及び定期的な評価に障害者の緊密な参加を確保しつつ、障害者に対する否定的な定型化された観念、偏見及び有害な慣習を排除するための国家戦略を採用すること。 (b)メディア、一般公衆及び障害者の家族のための障害者の権利に関する意識向上計画の策定と十分な資金調達を強化すること。 施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)(第9条) 21.委員会は、以下について懸念をもって留意する。 p6 (a)ユニバーサルデザインの基準を導入するとともに、あらゆる活動分野を網羅し、政府のあらゆる段階における施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保する義務を調和させるための戦略が限定的であること。 (b)特に大都市以外において、情報の利用の容易さ(アクセシビリティ)及び学校、公共交通機関、集合住宅及び小規模店舗の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保するための進捗が限定的であること。 (c)本条約における施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)基準及びユニバーサルデザインに関し、建築家、設計者及び技術者に対する意識向上及び研修が不十分であること。 22.一般的意見第2号(2014年)施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)を想起しつつ、委員会は締約国に以下を勧告する。 (a)障害者団体と緊密に協議しつつ、全ての政府の段階における施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)を調和させるとともに、ユニバーサルデザインの基準を導入し、特に、建物、交通機関、情報及び通信及びその他公衆に開放又は提供される施設・サービス(大都市以外のものを含む)の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保するために、行動計画及び戦略を実施すること。 (b)建築家、設計者、技術者、プログラマーのためのユニバーサルデザイン及び施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)基準に関する継続的な能力構築計画を強化すること。 生命に対する権利(第10条) 23.委員会は、以下に起因する障害者の死亡事例に関する報告について懸念する。 (a)緩和ケアを含む医療(治療)を開始しないこと又は継続することに関し、障害者の意思及び選好の考慮の欠如を含む、障害者の生命に対する権利の保障の欠如。 (b)機能障害に基づく非自発的入院事例における身体的拘束及び化学的拘束。 (c)委員会はまた、精神科病院における死亡に関し、統計の欠如及び独立した調査の欠如を懸念する。 24.委員会は、障害者団体及び独立した監視の仕組みを持つ団体と協議の上、以下を締約国に勧告する。 (a)緩和ケアを含む治療に関し、障害者の生命に対する権利を明示的に認識し、障害者による意思及び選好の表明を含むそれぞれの保障及びそのために必要な支援を確保すること。 (b)機能障害を理由とする障害者のいかなる形態の非自発的入院及び治療を防止し、地域社会に根ざしたサービスにおいて、障害者に対する必要な支援を確保すること。 (c)精神科病院における死亡事例の原因及び経緯に関して徹底的かつ独立した調査を実施すること。 危険な状況及び人道上の緊急事態(第11条) 25.委員会は、以下を懸念している。 (a)災害対策基本法において、合理的配慮の否定を含む、障害者のプライバシー及び無差別の権利の保護が限定的であること。 p7 (b)危険な状況や人道上の緊急事態における避難所や仮設住宅の利用の容易さ(アクセシビリティ)の欠如。 (c)地震や原子力発電所の災害に関するものを含む、防災や気候変動緩和に関する過程の計画、実施、監視、評価について障害者団体との不十分な協議。 (d)知的障害者に対する緊急警報制度の利用の容易さ(アクセシビリティ)の確保を含む、危険な状況、災害、人道上の緊急事態について、情報の利用の容易さが限定的であること。 (e)熊本地震、九州北部豪雨、西日本豪雨、北海道胆振東部地震における仙台防災枠組2015-2030の実施の欠如。 (f)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに対する情報、ワクチン、保健サービス、その他の経済・社会計画への利用する機会の欠如を含む、障害者を包容した対応の欠如、及び未だ施設に入居している障害者に対するパンデミックの過重な影響。 26.委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)防災・減災、危険な状況及び人道上の緊急事態に関して、合理的配慮を含め、障害者のプライバシー及び無差別の権利を強化するために災害対策基本法を改正すること。 (b)危険な状況及び人道上の緊急事態において、提供される避難所や仮設住宅等のサービスが、年齢やジェンダーを考慮した上で、障害者も含め利用しやすく、障害を包容するものであることを確保すること。 (c)安全かつ利用可能な集合場所、緊急時の避難所及び避難経路について確認し、地域社会が中心となり、個別の緊急時の計画や支援制度を策定すること、障害者とその家族を含む地域社会全体が災害予防や減災の計画づくりに関与することによって、強靱な地域社会を構築すること。 (d)危険な状況及び人道上の緊急事態において、全ての障害者及びその家族が、利用しやすい様式及び適当な機器において、必要な情報を得られるよう確保すること。 (e)仙台防災枠組2015-2030に従って、あらゆる段階の気候変動における防災に関する計画、戦略、及び政策が、障害者とともに策定することを確保すること。また、あらゆる危険な状況における障害者特定のニーズに明示的に対応すること。 (f)新型コロナウイルス感染症の負の影響に対応するためのワクチン、保健サービス、そのほかの経済・社会計画の均等な機会の確保を含め、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応やその復旧計画において、障害者の権利を主流化すること。また、緊急時に障害者の脱施設化の措置をとり、地域社会で生活するための適当な支援を提供すること。 法律の前にひとしく認められる権利(第12条) 27.委員会は、以下を懸念する。 (a)意思決定能力の評価に基づき、障害者、特に精神障害者、知的障害者の法的能力の制限を許容すること、並びに、民法の下での意思決定を代行する制度を永続することによって、障害者が法律の前にひとしく認められる権利を否定する法規定。 (b)2022年3月に閣議決定された、第二期成年後見制度利用促進基本計画。 (c)2017年の障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドラインにおける「the best interest of a person(本人の最善の利益)」という言葉の使用。 p8 28.一般的意見第1号(2014年)法律の前にひとしく認められることを想起しつつ、委員会は以下を締約国に勧告する。 (a)意思決定を代行する制度を廃止する観点から、全ての差別的な法規定及び政策を廃止し、全ての障害者が、法律の前にひとしく認められる権利を保障するために民法を改正すること。 (b)必要としうる支援の水準や形態にかかわらず、全ての障害者の自律、意思及び選好を尊重する支援を受けて意思決定をする仕組みを設置すること。 司法手続の利用の機会(第13条) 29.委員会は、以下を懸念している。 (a)意思決定を代行する制度の下に、訴訟能力の欠如を事由として施設入居障害者、知的障害者、精神障害者の、司法を利用する機会を制限する民事訴訟法及び刑事訴訟法の規定。 (b)障害者の効果的な参加を確保するための民事・刑事及び行政手続における、手続上の配慮及び年齢に適した配慮の欠如。障害者にとって利用しやすい情報及び通信の欠如。 (c)裁判所、司法及び行政施設が物理的に利用しにくいこと。 30.委員会は、障害者の権利に関する特別報告者によって作成された、障害者の司法を利用する機会に関する国際原則及びガイドライン(2020年)並びに持続可能な開発目標のターゲット16.3を想起し、締約国に以下を勧告する。 (a)障害者が司法手続に参加する権利を制限する法的規定の廃止。他の者との平等を基礎として、あらゆる役割において、司法手続に参加するための完全な能力を認識すること。 (b)障害者の全ての司法手続において、本人の機能障害にかかわらず、手続上の配慮及び年齢に適した配慮を保障すること。これには、配慮に要した訴訟費用の負担、情報通信機器、字幕、自閉症の人の参考人、点字、「イージーリード」及び手話を含む、手続に関する公式情報及び通信を利用する機会を含む。 (c)特に、ユニバーサルデザインにより、裁判所、司法及び行政施設への物理的な利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保し、障害者が、他の者との平等を基礎として、司法手続をひとしく利用する機会を保障すること。 身体の自由及び安全(第14条) 31.委員会は、以下を懸念する。 (a)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律により規定されている障害者の主観的又は客観的な障害又は危険性に基づく、障害者の精神科病院への非自発的入院及び非自発的治療を認める法令。 (b)入院に関して、事情を知らされた上での同意の定義が不明瞭であることも含め、障害者の事情を知らされた上での同意の権利を保護するための保障の欠如。 32.委員会は、本条約第14条に関する指針(2015年)及び障害者の権利に関する特別報告者によって発出された勧告(A/HRC/40/54/Add.1)を想起し、締約国に対して、以下のことを求める。 (a)障害者の非自発的入院は、自由の剥奪となる、機能障害を理由とする差別であり、自由の剥奪に相当するものと認識し、主観的又は客観的な障害又は危険性に基づく障害者の非自発的入院による自由の剥奪を認める全ての法規定を廃止すること。 p9 (b)主観的又は客観的な障害に基づく非合意の精神科治療を認める全ての法規定を廃止し、障害者が強制的な治療を強いられず、他の者との平等を基礎とした同一の範囲、質及び水準の保健を利用する機会を有することを確保する監視の仕組みを設置すること。 (c)障害の有無にかかわらず、全ての障害者が事情を知らされた上での自由な同意の権利を保護されるために、権利擁護、法的及びその他の必要な支援を含む保障を確保すること。 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由(第15条) 33.委員会は、以下を懸念をもって注目する。 (a)精神科病院における障害者の隔離、身体的及び化学的拘束、強制投薬、強制認知療法及び電気けいれん療法を含む強制的な治療。心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律を含む、これらの慣行を合法化する法律。 (b)精神科病院における強制治療及び虐待を防止し報告することを確保するための、精神医療審査会の対象範囲及び独立性の欠如。 (c)強制治療又は長期入院を受けた障害者の権利の侵害を調査するための独立した監視制度の欠如、また、精神科病院における苦情及び申立ての仕組みの欠如。 34.委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)精神障害者の強制治療を合法化し、虐待につながる全ての法規定を廃止するとともに、精神障害者に関して、あらゆる介入を人権規範及び本条約に基づく締約国の義務に基づくものにすることを確保すること。 (b)障害者団体と協力の上、精神医学環境における障害者へのあらゆる形態の強制治療又は虐待の防止及び報告のための、効果的な独立した監視の仕組みを設置すること。 (c)精神科病院における、残虐で非人道的また品位を傷つける取扱いを報告するために利用しやすい仕組み及び被害者への効果的な救済策を設け、加害者の起訴及び処罰を確保すること。 搾取、暴力及び虐待からの自由(第16条) 35.委員会は、以下を懸念する。 (a)障害のある児童及び女性、特に知的障害、精神障害又は感覚障害者及び施設に入居している者に対する、性的暴力及び家庭内暴力の報告並びにこれらの人々に対する性的暴力からの保護及び救済策の欠如。 (b)教育、医療、刑事司法の場における、障害のある児童及び女性を含む、障害者に対する暴力の防止、報告及び調査が排除されているという、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律の範囲及び有効性の欠如。 (c)被害者が利用しやすい支援サービス及び利用しやすい情報並びに居住施設における独立した報告制度を含む報告の仕組みの欠如。性的暴力に関連する司法手続における専門知識、利用の容易さ(アクセシビリティ)及び合理的配慮の欠如。 p10 (d)障害のある児童及びその他の人々に対する性犯罪に関する2020年に法務省により設置された、性犯罪に関する刑事法検討会における障害者団体からの代表者の不在。 36.2021年11月24日に発出された、持続可能な開発目標のターゲット5.1、5.2及び5.5、障害のある女性及び女児に対するジェンダーに基づく暴力排除のために行動することを呼びかける声明に沿って、委員会は以下を締約国に勧告する。 (a)障害のある女児及び女性に対する性的暴力及び家庭内暴力に関する事実調査を実施し、障害のある児童及び女性に対するあらゆる形態の暴力に対処するための措置を強化すること。被害者が利用可能な苦情及び救済の仕組みに関する利用しやすい情報を提供すること。また、そのような行為が迅速に捜査され、加害者が起訴及び処罰され、被害者に救済策が提供されることを確保すること。 (b)あらゆる環境における障害者に対する暴力の予防の範囲を拡大するため、また、障害者に対する暴力及び虐待の調査や、被害者に法的な救済を提供するための措置を確立するために、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律を見直すこと。 (c)居住施設におけるものも含め、被害者支援サービス、支援サービスに関する情報及び報告の仕組みの利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保するために、あらゆる段階における戦略を作成すること。また、司法手続における、障害の人権モデル、利用の容易さ(アクセシビリティ)及び合理的配慮に関連する司法府及び行政府の職員に対して、専門的な開発計画を提供すること。 (d)性犯罪に関する刑事法検討会への、障害者団体の代表者による意義のある参加を確保すること。 個人をそのままの状態で保護すること(第17条) 37.委員会は、以下を懸念をもって注目する。 (a)旧優生保護法(1948年〜1996年)に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律で提示された補償制度は、本人の同意なしに優生手術の対象となった障害者に対して低額補償を設けているが、障害のある被害者への情報を利用する機会のための支援を省いており、申請期間を5年としている。 (b)障害のある女性及び女児が、事情を知らされた上での自由な同意なく実施された避妊手術、子宮摘出及び中絶の報告。 38.委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)全ての被害者が明示的に謝罪され適当に補償されるよう、申請期限を制限せず、情報を利用する機会を確保するための補助的及び代替的な意思疎通の手段とともに、全ての事例の特定と、支援の提供を含む各個人全てに適当な補償を確保するために、障害者団体との緊密な協力の上で、旧優生保護法下での優生手術の被害者のための補償制度を見直すこと。 (b)障害のある女性への子宮摘出を含む強制不妊手術及び強制的な中絶を明示的に禁止すること、強制的な医療介入が有害な慣習であるという意識を向上させること、また、障害者の事情を知らされた上での同意があらゆる医療及び手術治療の前に行われるように確保すること。 移動の自由及び国籍についての権利(第18条) 39.委員会は、以下を懸念する。 (a)出入国管理及び難民認定法第5条は、精神・知的障害者の締約国への入国拒否を許容している。 p11 (b)能力を有する通訳者の人数を含め、出入国在留管理庁における合理的配慮及び情報の利用の容易さ(アクセシビリティ)の提供が不十分であること。 40.委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)知的障害者、精神障害者の締約国への入国拒否を許容している、出入国管理及び難民認定法第5条第2項を改正すること。(仮訳注:第5条第1項第2号の誤り。) (b)十分な人数の能力を有する通訳者を含め、出入国在留管理庁における、必要とされる場合の合理的配慮の提供及び情報の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保すること。 自立した生活及び地域社会への包容(第19条) 41.委員会は、以下を懸念をもって注目する。 (a)知的障害者、精神障害者、障害のある高齢者、身体障害者及びより多くの支援を必要とする障害者、特に地域社会の外にある施設で生活する障害者、並びに、家族及び地域生活を奪う様々な種類の施設における、障害のある児童の中で、特に、知的障害、精神障害もしくは感覚障害のある児童及び児童福祉法を通じた、より多くの支援を必要とする児童の施設入所の永続。 (b)公的及び民間の精神科病院における精神障害者及び認知症を有する者の施設入所の推進。特に、精神障害者の期限の定めのない入院の継続。 (c)保護者の下で、実家で生活している者、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の下でグループホームのような特定の施設形態に置かれる者も含め、障害者が居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会が限定的であること。 (d)居住施設や精神科病院にいる障害者の脱施設化及び他の者との平等を基礎とし、障害者の地域社会での自立した生活のための、自律と完全な社会的包容の権利の認識不足を含む国家戦略及び法的枠組みの欠如。 (e)利用しやすく負担しやすい費用の住居、在宅サービス、個別の支援及び地域社会におけるサービスを利用する機会を含む、障害者が地域社会で自立した生活を送るための支援の整備が不十分であること。 (f)障害の医学モデルに基づく地域社会における支援及びサービスの供与に関する評価形態。 42.自立した生活及び地域社会への包容に関する一般的意見第5号(2017年)及び脱施設化に関する指針(2022年)に関連して、委員会は締約国に以下を要請する。 (a)障害者を居住施設に入居させるための予算の割当を、他の者との平等を基礎として、障害者が地域社会で自立して生活するための整備や支援に再配分することにより、障害のある児童を含む障害者の施設入所を終わらせるために迅速な措置をとること。 (b)地域社会における精神保健支援とともにあらゆる期限の定めのない入院を終わらせるため、精神科病院に入院している精神障害者の全ての事例を見直し、事情を知らされた上での同意を確保し、自立した生活を促進すること。 (c)障害者が居住地及びどこで誰と地域社会において生活するかを選択する機会を確保し、グループホームを含む特定の生活施設で生活する義務を負わず、障害者が自分の生活について選択及び管理することを可能にすること。 p12 (d)障害者の自律と完全な社会包容の権利の承認、及び都道府県がその実施を確保する義務を含め、障害者の施設から他の者との平等を基礎とした地域社会での自立した生活への効果的な移行を目的として、障害者団体と協議しつつ、期限のある基準、人的・技術的資源及び財源を伴う法的枠組み及び国家戦略に着手すること。 (e)独立し、利用しやすく負担しやすい費用の、いかなる集合住宅の種類にも含まれない住居、個別の支援、利用者主導の予算及び地域社会におけるサービスを利用する機会を含む、障害者の地域社会で自立して生活するための支援の整備を強化すること。 (f)障害者にとっての社会における障壁の評価及び障害者の社会参加及び包容のための支援の評価を含む、障害の人権モデルに基づいた、地域社会における支援及びサービス提供を確保するため、既存の評価形態を見直すこと。 個人の移動を容易にすること(第20条) 43.委員会は、以下を懸念する。 (a)法的な制限が、地域生活支援サービスを、通勤や通学、又はより長い期間を目的に利用することを許容しないこと。 (b)特に大都市以外の地域に居住する障害者は、質の高い移動補助具、支援機器、支援技術及び人又は動物による支援及び仲介する者の利用する機会が不十分であること。 44.委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)全ての地域における障害者の移動が制限されないことを確保するために、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の下での制限を排除すること。 (b)地域での修理の促進、政府や税による補助金の提供、税金や関税の免除等を含め、必要な移動補助具、支援機器、支援技術が全ての障害者にとって負担しやすいことを確保するための努力を強化すること。 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会(第21条) 45.委員会は、以下を懸念する。 (a)盲聾者のように、より多くの支援を必要とする障害者を含む、全ての障害者に対する情報提供及び意思疎通の支援の不足。 (b)テレビジョン番組及びウェブサイトを含め、障害者が公共情報及び通信を利用する機会を得るために直面する障壁及び地方政府間の格差。 (c)日本手話の公用語としての法律上の承認の欠如、手話使用の研修の欠如、及びあらゆる活動分野における手話通訳の欠如。 46.委員会は、締約国に以下を勧告する。 (a)ウェブサイト、テレビジョン番組、その他メディア様式で公衆に提供される情報の利用の容易さ(アクセシビリティ)確保のために、あらゆる段階における法的拘束力のある情報及び通信の基準を開発整備すること。 (b)点字、盲聾通訳、手話、「イージーリード」、平易な言葉、音声解説、動画の書き起こし、字幕、触覚、補助的及び代替的な意思疎通手段のような、利用しやすい意思疎通様式の開発、推進、利用のための予算を十分に割り当てること。 (c)国として、日本手話が公用語であることを法律で認めること、あらゆる活動分野において手話を利用及び使用する機会を促進すること、有資格の手話通訳者の研修及び利用が可能であることを確保すること。 p13 プライバシーの尊重(第22条) 47.委員会は、民間及び公的部門におけるサービス提供者により、障害者の情報が本人の同意もしくは合理的目的がなく収集されている場合があること、また、マイナンバー法及び個人情報保護法を含め、既存の法律では障害者の秘密厳守及びプライバシーの保護が十分に確保されていないことを懸念する。 48.委員会は、データ主体の個人の自由かつ十分な情報に基づく同意もしくは法律によって規定される正当で無差別な基準に基づいて、明示的かつ特定の正当な目的のために収集され、それらの目的にそぐわない方法で加工されることなく、また、合法的であり、公正かつ透明性が保たれた方法で加工され、データ主体に対する効果的な救済の権利を確保することにより、締約国が障害者のデータ保護に関する法律を強化することを勧告する。 家庭及び家族の尊重(第23条) 49.委員会は、以下を懸念をもって留意する。 (a)精神障害を離婚事由と規定する差別的な民法(第770条)の条項。 (b)障害のある児童の家族からの分離、及び、障害に基づく特定の生活施設への入所措置。 50.委員会は、以下を締約国に勧告する。 (a)精神障害を離婚事由とする規定の民法第770条第1項4号を含め、障害者に対して差別的な条項を廃止すること。 (b)障害のある児童の家庭生活への権利を認めるとともに、障害を理由に家族が分離されることを予防するために、障害のある親を含め障害のある児童の親に対し、子育て責任を果たす上で、早期介入及び障害者を包容する支援を含む適当な支援を提供すること。また、近親の家族が障害のある児童を監護することができない場合には、地域社会の中で家庭的な環境により代替的な監護を提供するためのあらゆる努力を約束すること。 教育(第24条) 51.委員会は、以下を懸念する。 (a)医療に基づく評価を通じて、障害のある児童への分離された特別教育が永続していること。障害のある児童、特に知的障害、精神障害、又はより多くの支援を必要とする児童を、通常環境での教育を利用しにくくしていること。また、通常の学校に特別支援学級があること。 (b)障害のある児童を受け入れるには準備不足であるとの認識や実際に準備不足であることを理由に、障害のある児童が通常の学校への入学を拒否されること。また、特別学級の児童が授業時間の半分以上を通常の学級で過ごしてはならないとした、2022年に発出された政府の通知。 (c)障害のある生徒に対する合理的配慮の提供が不十分であること。 (d)通常教育の教員の障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する技術の欠如及び否定的な態度。 (e)聾児童に対する手話教育、盲聾児童に対する障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を含め、通常の学校における、代替的及び補助的な意思疎通の様式及び手段の欠如。 p14 (f)大学入学試験及び学習過程を含めた、高等教育における障害のある学生の障壁を扱った、国の包括的政策の欠如。 52.障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に対する権利に関する一般的意見第4号(2016年)及び持続可能な開発目標のターゲット4.5及び4(a)を想起して、委員会は以下を締約国に要請する。 (a)国の教育政策、法律及び行政上の取り決めの中で、分離特別教育を終わらせることを目的として、障害のある児童が障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を受ける権利があることを認識すること。また、特定の目標、期間及び十分な予算を伴い、全ての障害のある生徒にあらゆる教育段階において必要とされる合理的配慮及び個別の支援が提供されることを確保するために、質の高い障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する国家の行動計画を採択すること。 (b)全ての障害のある児童に対して通常の学校を利用する機会を確保すること。また、通常の学校が障害のある生徒に対しての通学拒否が認められないことを確保するための「非拒否」条項及び政策を策定すること、及び特別学級に関する政府の通知を撤回すること。 (c)全ての障害のある児童に対して、個別の教育要件を満たし、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を確保するために合理的配慮を保障すること。 (d)通常教育の教員及び教員以外の教職員に、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する研修を確保し、障害の人権モデルに関する意識を向上させること。 (e)点字、「イージーリード」、聾児童のための手話教育等、通常の教育環境における補助的及び代替的な意思疎通様式及び手段の利用を保障し、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)環境における聾文化を推進し、盲聾児童が、かかる教育を利用する機会を確保すること。 (f)大学入学試験及び学習過程を含め、高等教育における障害のある学生の障壁を扱った国の包括的政策を策定すること。 健康(第25条) 53.委員会は、以下を懸念をもって留意する。 (a)利用しにくい保健施設及び情報を含む保健サービスへの障害者、特に障害のある女性及び女児及び精神障害者、知的障害者が直面する障壁、合理的配慮の欠如、及び保健部門従事者が持つ障害者に関する偏見。 (b)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に規定される、精神科医療の一般医療からの分離及び地域社会に根ざした十分な保健サービス及び支援の欠如。 (c)全ての障害者、特に障害のある女性及び女児が、他の者との平等を基礎とした、質の高い年齢に適した性及び生殖にかかる保健サービス及び性教育を利用する機会を確保する措置が限定的であること。 (d)より多くの支援を必要とする者を含め、障害者への医療費補助が不十分であること。 54.本条約第25条と持続可能な開発目標のターゲット3.7及び3.8との関連性を考慮し、委員会は以下を締約国に勧告する。 (a)施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)基準の実施及び公的及び民間の保健提供者による合理的配慮の提供を確保することを含め、全ての障害者に質が高くジェンダーに配慮した保健サービスを確保すること。 p15 (b)保健サービスに関して、点字、手話及び「イージーリード」等、全ての障害者に利用しやすい様式で情報が提供されることを保障すること。 (c)保健の専門家の研修に障害の人権モデルを統合すること。全ての障害者がいかなる医療及び手術治療を受ける場合も、事情を知らされた上での自由な同意を得る権利を有していることを強調する。 (d)精神障害者団体との緊密な協議をし、非強制的で地域社会に基づく精神保健支援を策定し、精神保健を一般医療と区別する制度を廃止するための、必要な法的及び政策的対策を採用すること。 (e)質の高い、年齢に適した性及び生殖に関する保健サービス及び包括的な性教育が、全ての障害者、特に障害のある女性及び女児に対して、障害者を包容し、かつ利用しやすいことを確保すること。 (f)費用負担能力に基づいた医療費補助金の仕組みを設置し、これらの補助金を、より多くの支援を必要とする者を含めた全ての障害者に拡大すること。 ハビリテーション(適応のための技能の取得)及びリハビリテーション(第26条) 55.委員会は、以下を懸念をもって留意する。 (a)特に障害のある児童や、大都市以外の地域に居住する障害者を支援するための、包括的及び分野横断的なハビリテーション及びリハビリテーションのサービスが不足していること。 (b)ハビリテーション及びリハビリテーション計画における医学モデルの強調、及び障害の種類、性別、地域に基づく支援の違い。 56.委員会は、以下を締約国に勧告する。 (a)障害者が包括的及び分野横断的なハビリテーション及びリハビリテーションのサービス、計画及び技術を利用する機会を、地域社会及び全国で保障するための措置を講じること。 (b)障害の人権モデルを考慮したハビリテーション及びリハビリテーション制度を拡充すること、及び各自の必要性に基づいて、全ての障害者がこれらサービスを利用する機会を有することを確保すること。 労働及び雇用(第27条) 57.委員会は、以下を懸念する。 (a)低賃金で、開かれた労働市場への移行機会が限定的な作業所及び雇用に関連した福祉サービスにおける、障害者、特に知的障害者及び精神障害者の分離。 (b)利用しにくい職場、公的及び民間の両部門における不十分な支援や個別の配慮、限定的な移動支援及び雇用者への障害者の能力に関する情報提供等、障害者が直面する雇用における障壁。 (c)障害者の雇用の促進等に関する法律に規定される、障害者の雇用率制度に関する地方政府間及び民間部門間の格差、及び実施を確保するための透明性のある効果的な監視の仕組みの欠如。 (d)職場でより多くの支援を必要とする者への個別の支援サービスの利用に関する制限。 p16 58.委員会は、一般的意見第8号(2022年)を想起しつつ、持続可能な開発目標のターゲット8.5に沿って、以下を締約国に勧告する。 (a)障害者を包容する労働環境で、同一価値の労働についての同一報酬を伴う形で、作業所及び雇用に関連した福祉サービスから、民間及び公的部門における開かれた労働市場への障害者の移行の迅速化のための努力を強化すること。 (b)職場の建物環境が障害者に利用しやすくかつ調整されたものであることを確保し、個別の支援及び合理的配慮を尊重し適用することに関する訓練をあらゆる段階の雇用者に提供すること。 (c)障害者、特に知的障害者、精神障害者及び障害のある女性の、公的及び民間部門において、雇用を奨励し確保するために、積極的差別是正措置及び奨励措置を強化すること、及び適当な実施を確保するために効果的な監視の仕組みを設置すること。 (d)職場でより多くの支援を必要とする者に対する個別の支援の利用を制限する法規定を取り除くこと。 相当な生活水準及び社会的な保障(第28条) 59.委員会は、以下を懸念する。 (a)障害者及びその家族の相当な生活水準を利用する機会を確保するための、障害に関連する費用を負担するための規定を含む、社会的な保障形態が不十分であること。 (b)市民の平均所得に比べて、障害年金が著しく低額であること。 (c)民間及び公共住宅の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保する基準に関する限定的な進捗。 60.本条約第28条及び持続可能な開発目標のターゲット1.3の関連性を考慮し、委員会は以下を締約国に勧告する。 (a)障害者、特により多くの支援を必要とする者に対して、相当な生活水準を保障し、障害に関連する追加費用を負担するために、社会保障制度を強化すること。 (b)障害者団体と協議の上で、障害年金の額に関する規定を見直すこと。 (c)民間及び公共住宅に適用される法的拘束力のある利用の容易さ(アクセシビリティ)基準を定めること、及びその実施を確保すること。 政治的及び公的活動への参加(第29条) 61.委員会は、以下を懸念をもって留意する。 (a)投票の手続、設備及び資料の利用の容易さ(アクセシビリティ)が限定的であること、及び障害者の多様性に配慮した選挙関連情報が不足していること。 (b)特に障害のある女性が、政治的活動及び行政機関に参加すること及び役職に就き公的機能を果たすことへの障壁。 62.委員会は、以下を締約国に勧告する。 (a)投票の手続、設備及び資料が、適当かつ利用しやすいものであり、全ての障害者にとってその理解及び使用が容易であることを確保するため、政権放送及び選挙活動を含む選挙関連情報についての配慮を提供するとともに、公職選挙法を改正すること。 p17 (b)障害者、特に障害のある女性の政治的活動及び公共運営への参加の促進が確保され、支援技術及び新規技術の利用促進、及び個別の支援の提供により、効果的に役職に就き全ての公的機能を政府のあらゆる段階で果たすことができること。 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加(第30条) 63.委員会は、以下を懸念する。 (a)観光地及び娯楽施設の利用の容易さ(アクセシビリティ)の限定的な確保。 (b)テレビジョン番組、文化的活動及び電子出版物を利用する機会における障壁。 (c)特に聾者、難聴者又は盲聾者がスポーツの行事に参加することへの制限。 64.委員会は、以下を締約国に勧告する。 (a)小規模なものも含め、観光地及び娯楽施設の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保するための努力を強化すること。 (b)利用しやすい様式を通じて、テレビジョン番組及び文化的活動を利用する機会を提供するとともに、利用しやすさが確保された出版物の利用可能性を高めるために、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」を実施するための措置を強化すること。 (c)合理的配慮の提供を含め、全ての障害者がスポーツ活動を利用する機会を確保すること。 C.具体的義務(第31−第33条) 統計及び資料の収集(第31条) 65.委員会は、以下を懸念をもって留意する。 (a)あらゆる活動分野を対象とする、障害者に関する包括的で分類された資料の欠如。 (b)居住型施設及び精神科病院の障害者が、実施済みの調査においては見過ごされていること。 66.障害に関するワシントングループの短い一連の質問、及び経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)の障害者の包容及び自律的な力の育成に関する政策指標を想起しつつ、委員会は締約国に、年齢、性別、機能障害の形態、必要とする支援の形態、性的指向及びジェンダー自認、社会経済的地位、民族、居住施設及び精神科病院を含む居住地といった様々な要因により分類された、あらゆる活動分野における障害者の資料収集システムを開発することを勧告する。 国際協力(第32条) 67.国際協力機構の課題別指針「障害と開発」(2015年)に留意しつつ、委員会は国際協力事業において障害が完全には主流化されておらず、関連する戦略及び計画が、障害者団体との緊密な協議の上で障害の人権モデルに基づき策定されていないことを懸念する。 68.委員会は、以下を締約国に勧告する。 (a)障害者団体との緊密な協議及び積極的な関与の下、持続可能な開発のための2030アジェンダの実施及び監視のあらゆる段階において、障害者の権利を主流化すること。 p18 (b)アジア太平洋障害者の十年(2013−2022)及びアジア太平洋の障害者の権利を実現する仁川(インチョン)戦略の実施のための協力を強化すること。 国内における実施及び監視(第33条) 69.委員会は、以下を懸念する。 (a)締約国に人権の保護及び促進のための国内機構の地位に関する原則(パリ原則)に則した国内人権機構が存在しない。 (b)本条約に基づく監視の仕組みとして内閣府に設置された障害者政策委員会は、範囲が限られており、委員間において障害の多様性の代表性及びジェンダー衡平が不十分である。 70.委員会は、締約国が、独立した監視枠組みに関する指針及びその委員会の活動への参加を考慮すること、人権の保護に関する広範な権限、及び十分な人的、技術的及び財政的資源を伴うパリ原則に完全に沿った国内人権機構を設置すること、また、その枠組みのなかで本条約の実施を監視するために、独立性、委員の障害の多様性及びジェンダー衡平の代表性を保障しながら障害者政策委員会の公的能力を強化することを勧告する。 IV.フォローアップ 情報の周知 71.委員会は、本総括所見に含まれる全ての勧告の重要性を強調する。委員会は、早急な措置が求められるものとして、自立した生活及び地域社会への包容に関するパラ42、及び障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関するパラ52に含まれる勧告について、締約国の注意を喚起したい。 72.委員会は、本総括所見に含まれる勧告を実施するよう締約国に要請する。委員会は、政府関係者及び国会議員、関係省庁及び地方政府職員、教育、医療及び法律の専門家等の関連する専門家集団の構成員並びにメディアが総括所見を検討し、行動するために、締約国が、現代におけるソーシャル・コミュニケション戦略を利用して、本総括所見について伝達することを勧告する。 73.委員会は、締約国に対し、定期報告の準備において、市民社会団体、とりわけ障害者団体の関与を強く奨励する。 74.委員会は、締約国に対し、国語及び少数言語(手話を含む)及び利用しやすい様式(「イージーリード」を含む)で、非政府団体、障害者団体、障害者自身及び障害者の家族を含め、本総括所見を広く周知すること、並びに人権に関する政府のウェブサイトで入手可能にすることを要請する。 次回定期報告 75.委員会は、締約国に対し、第2回・第3回・第4回定期報告を2028年2月20日までに提出し、本総括所見の勧告の実施に関する情報を含めることを要請する。委員会はまた、締約国に対し、委員会の簡易報告手続き下での上記報告の提出の検討を要請する。同手続の下で、委員会は締約国の報告提出の締切の少なくとも1年前に事前質問事項を準備し同質問事項への回答が締約国による報告となる。