内閣府ホーム

共生社会政策ホーム > 障害者施策トップ > もっと詳しく > 障害者施策に関する調査等 > 平成23年度 障害者差別禁止制度に関する国際調査 > (関連資料)障害のあるアメリカ人法の影響:ADAの目標達成進捗状況の評価(抄) I. 機会均等


目次へ前ページへ次ページへ


(関連資料)

障害のあるアメリカ人法の影響:
ADAの目標達成進捗状況の評価(抄)

全米障害者評議会
2007年7月26日

概要

1990年7月26日にジョージ・H・W・ブッシュ大統領が障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act: ADA)に署名してから16年が経過し、同法は障害のある者に有意義な成果をもたらしている。障害のある者の多数がADAにより生活の改善がもたらされたと評価している。消費者としての障害のあるアメリカ人は職場、州、地方政府、彼らの住む地域社会が提供する物品およびサービスを格段に容易に利用できるようになった。視覚その他の機能に障害のある者に向けた介助動物の受け入れはかつてなかった水準に進んだ。また、支援技術を比較的安価で導入できるようになったことから視聴覚機能に障害のある者が情報やコミュニケーションという障壁を克服してあらゆる形態で地域社会に参加するようになった。運動機能に障害のある者による交通機関へのアクセス、職場や官公庁への交通も大幅に改善された。労働者としての障害のある者は配慮を受けることが増え、障害を理由とする解雇が減少した。

しかし、ADAの主要規定、特に雇用に関する規定を理解していない多数の障害のある者、雇用主、事業体が依然として存在する。ADAは公民権法の1つであり、障害のある者の機会均等を義務付け、障害を理由とする差別禁止のための明確で、一貫性があり、強制執行可能な、対象範囲が広い法律である。ADA第I編は雇用における差別を禁止している。ただし、障害のある者がアクセス可能な住宅、職場への交通、リハビリテーション・サービス、職業訓練、職業のあっせん、または何らかの形式の積極的な差別禁止については定めていない。障害のある者が独立して生活する上で最も重要となる種類のサービスを提供する唯一の医療保険であるメディケイドについて被雇用者である障害のある者には加入資格がないなど、社会保障における労働阻害要因についても対象としていないほか、障害のある者が必要とする種類の保険の提供を雇用主に義務付けていない。ADAは既存の交通機関に障害のある者がアクセスできるように要求してはいるが、公共交通機関がない職場や住宅への障害のある者の交通については規定していない。第I編の影響を判断するには、障害のある者の雇用差別がどの程度減少したかを調査しなければならない。就業への他のすべての障壁が取り除かれている場合を除き、障害のある者の雇用率のみをもって第I編の成功の指標とすることはできない。

ADAが実施されたにもかかわらず障害のある者に対する差別がなくならないことに障害のあるアメリカ人の多くが不満を感じている。ADAが完全に実施されていない、あるいは障壁の中心は周囲の態度であるという報告が障害のある者から寄せられている。また、障害のある者の権利とADAに対して逆行する動きもある。アクセスについての対応が全米で一貫していないことが障害のある者の日常生活に困難をもたらしており、特に地方での公共交通機関へのアクセスが重大な問題のまま未解決である。いったん就職すると配慮は受けやすくなるが、視覚障害のある者の雇用がADA制定前に比較して著しく増加した様子はなく、以前より就職が困難になっているという意見もある。

ADAの4大目標、すなわち、機会均等、完全な参加、自立生活、経済的自足の達成度については、進展はみられるものの完全な達成にはほど遠い。物理的手段および通信手段におけるアクセス、アクセス可能な交通機関、教育、職場における配慮の改善によりADA施行前に比較して障害のある者が自己の権利を追求する機会が増加し、実際にこれらの機会が活用されるようになった。地域社会への参加は、アクセス向上により受動的に増加し、事業所、雇用主、政府による障害のある者の参加への働きかけにより能動的に増えた。ADA制定後、障害のある者が自立した生活を送るための選択肢が改善され、特に最高裁判所の重要判例であるオルムステッド対L.C.事件では、地域への統合が義務付けられた。その一方で、旧態依然たる政府の制限、予算順位設定、医療関係者の態度が進歩の足かせとなっている。経済的自足はもっとも達成度が低い目標であると考えられる。多数の障害のあるアメリカ人が生活の質の向上を実現しているが、障害のある者の一部は市民としての権利を奪われたままの状態にある。

本文書が報告する回顧的調査および検討は、ADAが過去16年間に障害のあるアメリカ人にもたらした影響を記述するものである。具体的には以下の通りである。

▲ページトップへ

前記の所見に基づき、本報告書では下記を勧告する。

機会均等‐交通機関

機会均等‐歩道と車道歩道段差解消傾斜板

機会均等‐公共施設

機会均等‐電気通信のアクセシビリティ

完全な参加‐州政府および地方自治体のサービス

完全な参加 投票

地域への統合

▲ページトップへ

経済的自足

ADA制定から16年が経過し、多くのことが達成されたが、本報告書で指摘しているように、特に雇用、交通機関、保険ケア、教育の分野がまだまだ不十分である。

連邦最高裁判所の判決によりADAの適用範囲が狭められたことへの対処として2006年復活法案が9月29日に提出された。これについては後述する。同法案は「障害を理由とする」差別を禁止するものであり、ADAの適用対象であることの立証がされなくてもADAが規定する差別を禁止できるようにするものである。本法案が通過すれば取り残されていた分野での進捗が促進され、障害のある者の社会参加が進むと期待される。



序文

ADAは正義を完全に実現していないと批判する人たちに言いたい。それでは権利章典や十戒はどうなんだと。これらは完全なる正義を実現したのか。正義は約束の地に到達できるまで、すべての者が永遠に追求しなければならない課題なのだ。

-ジャスティン・ダート・ジュニア(ADAの父)

2006年の今日、
メリー・シムズはバスに乗って職場へ向かっている。
ジョン・ウィザースプーンは20年ぶりに大学時代の同級生と電話で話している。
リサ・ラビノビッツは新しくできたレストランに試しに寄ってみている。
ジェレミー・モントークは経済学の授業でノートを取っている。
シルビア・マシアスは地域センターで講座の講師をしている。
ビリー・ウィルキンセンは地域野球チームに入っている。

1990年障害のあるアメリカ人法(ADA)の制定以前であれば、盲人であるメリー・シムズはバスで通勤できなかったであろう。彼女の住む州に差別禁止法がなければ盲導犬の同伴が認められていなかったからだ。ADAが義務付けているTRSがなければ、耳が聞こえないジョン・ウィザースプーンは電話はできなかったはずだ。リサ・ラビノビッツは車いすを使用しており、車いすを受け入れるレストランでなければ行くことができなかった。ジェレミー・モントークには学習障害があり、以前であれば大学に通うために必要な配慮が受けられなかった。シルビア・マシアスは差別が怖くて、自分の障害を公表し地域社会で精神障害のある者の指導員になるなど考えることもとてもできなかっただろう。そして知的障害を持つビリー・ウィルキンソンは野球チームに入れてもらえなかったはずだ。

ADA制定前は、障害のある者に向けた雇用およびリハビリテーション制度は医学上の見地を基準とした固定観念に基づく古いものであった。この制度は南北戦争年金制度から続く制度であり、障害とは労働できないことという定義を基礎としており、障害のある者への対応は医師の仕事とされていた。医学モデルでは障害とは雇用および社会全般への完全な参加ができない疾患であるとされる。多数の障害のある者が入所を余儀なくされ、住居や治療を医師、リハビリテーション専門家、精神科医、ソーシャル・ワーカーが決定していた。この医学モデルは障害のある者が押し込められた物理的、社会的環境、すなわち障害のない者向けの環境を問題にしていなかったため、障害のある者の分離や経済的貧困が助長されることとなった。

これに対して1970年代の政府方針に影響を与えた、障害のある者の公民権モデルは、アフリカ系アメリカ人や女性と同様の闘争から生まれた、平等な法的保護を受ける権利を有する少数グループとして障害のある者を取り扱うものであった。この公民権モデルは障害者を差別する法律および慣行に重点を置き、政府は、障害者の完全な社会参加を阻んでいる法的、物理的、経済的、社会的障壁を取り除き、平等を確保しなければならないと主張した。公民権モデルの下では障害は個人の欠点ではなく社会文化の一部である。障害のある者を取り込む運動により連邦と州の法律が障害のある者による、投票や航空機での移動のアクセシビリティ、教育や住宅へのアクセスを含めて規定するようになり、1990年のADA制定に至ったのである。ADAで連邦議会は障害者の少数者としての地位を明確に認め、次のように述べている。

歴史的に、社会は障害のある者を分離および隔離する傾向があり、若干の改善はあったものの、障害のある者に対するかかる差別は重大かつ広範な社会問題として続いてきた…(さらに)障害のある者は故意の不平等な取扱による制限と限定の対象となり分離孤立させられた少数者であり、我々の社会での政治的な力が弱い立場に置かれてきた…

これらの誤りの是正のため、ADAの起草者たちは「障害のある者に関する米国の適切な目標は、障害のある者の機会均等、完全な参加、自立生活および経済的自足を確保することである」と規定した。ADA制定から16年、完全平等への長い道のりはまだ半ばである。進展はあるが、国家統計や今回の調査時に寄せられた一般からのコメントから分かるように、雇用、交通機関、保険ケア、教育といった分野にはまだまだ問題がある。

全米障害者評議会(National Council on Disability:NCD)はこのADA影響評価プロジェクトの実施にあたり、ADAの影響に関する既存の情報を検討し、ADA関係者の意見を集め、ADAの普及度および知識を評価してADAが高く掲げた目標の実現度を判断した。重要な所見の1つは、驚くべきことに、ADAに関する継続的かつ体系的なデータ収集を行っているところが存在しないということであった。そのため、ADAの多くの面について十分な知見が得られなかった。

ADAの影響に関する調査はどれも、ADAの実施が完了していないとの認識に立っていなければならない。ADAの実施要件は、当該施設の建設時期、特定のアクセシビリティ要件の技術的実施可能性、対象事業体の性質、規模、資源、改善費用などの要因により、様々な時点および程度が設定されている。例えば、新築施設にはADAのアクセシビリティ要件が適用される。公共の既存施設の改装または改良の場合には「実現可能な最大限の範囲で」、アクセスおよびアクセス可能なもの「となるような形」で、かつ費用が「不均衡」とならない程度で実施しなければならない。ADAが定める一般的アクセシビリティ規定は建物のすべての部分をアクセス可能にするよう要求するものではなく、すべてのホテル客室、駐車場、浴室、シャワー/トイレ等のアクセシビリティは求められておらず、合理的な数についてのみ義務付けられる。改装しない既存施設について、 ADAは過度の負担または経費が生じない「容易に実現可能な」アクセシビリティのみを要求している。また、交通施設については「主要駅」のみについてアクセス可能にすることが要求され、特定交通機関は車両を完全にアクセス可能にするまでADA施行から22年の猶予が認められている。このように、実施状況の調査は可能であるものの、ADAの影響を完全に評価するには法律が完全に実施されすべての事業体が遵守するまで待たなければならない。

調査方法のまとめ

今回の調査ではADA施行後16年間の影響について、同法の4大目標、すなわち機会均等、 完全な参加、自立生活、経済的自足の観点から情報を収集し整理した。NCDはピーター・ブランクを委員長とするブルーリボン委員会を設置して、今回の調査における前記4つの目標それぞれを定義した。

これら中核分野それぞれを評価するため、(i)環境調査(公表されている文書および各種の重要情報源が提供した文書)、(ii)9のフォーカスグループと5つの公開討論会、(iii)24人のインタビュー、(iv)討論会広報によりNCDが受け取った112通の電子メール、(v)487の地方および州の組織からのコメント要請、の5つの方法によりデータを収集した。

プロジェクト・スタッフは1994年、1998年、2000年、2004年に実施された障害のあるアメリカ人に関する全米障害協会/ハリス世論調査および1986年の国際障害評議会/ハリス世論調査の結果も独自に入手して分析した。

本プロジェクトの調査方法の詳細は附属書B参照のこと。

ADA遵守状況のデータ収集は困難であった。その主な理由はデータの体系的追跡または記録が行われていないことにある。例えば、ADA第I編は障害のある労働者および求職者の身元の開示および追跡を禁止している。事業グループは民間事業所のADA遵守を追跡していない。道路修理の一部として都市部では歩道改良や車道歩道段差解消傾斜板の設置が行われたが、車道歩道段差解消傾斜板の正確な設置個数を把握することは困難である。移行計画の採択および進捗状況に関する記録は分散して保管されていることが多い。「障害」、「アクセシビリティ」その他の重要要素の基準が調査機関によって異なることも少なくない。従って、障害のある者の状態に関する1つの調査結果を他の調査結果とそのまま比較することはできない。異なった定義に基づいていることが少なくないからである。

オリジナル・データの作成は本プロジェクトの範囲を超えている。プロジェクト研究者はADAの影響に関する既存の調査、データ集、入手可能な情報に基づいて広範な調査および分析を行った。プロジェクトチームはまた、全国のADA関係者の調査を行い、これらの者の集団的専門知識を取得した。本報告書に記載されている所見は、現時点においてADAの影響についてプロジェクトチームが把握し得る最善の内容を記載したものである。ただし、重要な所見の1つは、ADAに関する継続的かつ体系的なデータ収集がほとんど行われておらず、その結果、ADAの効果に対する認識に大きな開きがあるという驚くべき実情である。本報告書には、今後、ADAに関する情報収集を強化して公開するための勧告も含まれている。

▲ページトップへ

ADAの全般的考え方

公開討論会、フォーカスグループに参加した障害のある者および情報提供を要請した障害のある者の大半は生活が大きく改善されたと回答しており、参加者の1人は下記のように記述している。

望んでいた結果のすべてが得られたか?答えはノーである。アメリカはすべての障害のある者がアクセス可能かつ参加可能な国になったか?ノーである。障害のある者のすべてが就職できているか?ノーである。仕事、公的支援、公共サービスが障害のある者への差別なしに行われているか?ノーである。

しかし、…地域社会に参加し、ショッピングにでかけ、外食し、映画を観に行き、公共交通機関に乗り、通学し、働いている障害のある者が増えたことは間違いない。障害のある者たちは自宅や施設から社会へと進出し始めた。確かに期待したペースには及ばず、障壁も多く、人々の態度、金融、建物など多くの問題点が残っている。しかし、少しずつ着実な前進は見られるのである。

こういう状況はADAがなくても起きたのかもしれない。 しかしADAがあったこそだからと私は思っている。…ADAにより人々が障害について考え、障害について語るようになったからだ。障害がオープンな事柄になり、検討し、分析し、考慮し、取り込むべきことになった。「どっちみち障害のある者はここには来ないから」アクセス可能である必要はないと依然として主張している者であっても、見下した態度でADAを無視して知らぬ顔をしていられる人間は多くない。

ADAはこれまでもそしてこれからも私や他の障害のある者の生活に深い影響力を持つものであると信じている。今後15年間にはこれまでのようなわずかずつではなく障壁が一気に崩れ去り、障害のある者たちがこの公民権に関する重要な法律のおかげで歴史に名を残せるようになることを望んでいる。

障害のあるアメリカ人を対象とした2000年の全米障害協会/ハリス世論調査では、障害のある者の60%以上が公共施設が利用できるようになり、それぞれの生活の質、公共機関の態度に大きな改善が見られたと回答している(表A参照)。

表A:生活の質が向上したと回答した障害のある者の割合 - 2000年

公共施設の利用
75%
生活の質
63%
公共機関の態度
63%
メディアの取扱い
59%
公共交通機関
60%
障害のある者の広告への起用
56%
就労機会
44%

2004年のN.O.D./ハリス世論調査によれば、障害のある者と障害のない者の過半数がADAを知っていた。これに比べ、1986年に実施された国際障害者センターの障害のあるアメリカ人に対する調査で1973年リハビリテーション法第504条を知っていたのは31%であった。

ただし、2004年 N.O.D./ハリス世論調査に回答した障害のあるアメリカ人の大半は、ADAにより自分の生活の質が改善されたとは考えていなかった。調査対象者のうちADAにより生活が改善されたと回答したのは30%であり、64%が変化なし、5%が変化の原因が同法にあるかどうかわからないと回答した。これは1986年に実施されたADAの前身である諸法に関する調査で肯定的回答が多かったことと対照的である。同調査では障害のある者の68%が1973年リハビリテーション法、障害者教育法、その他の障害に関する連邦法が「非常に役に立った」または「いくらか役に立った」と回答しており、「あまり役に立っていない」または「ほとんど役に立っていない」との回答はわずか24%であった。

現在認識されている影響力の程度は、障害のある者のADAに対する期待の高さと実施の遅れ、雇用が進まないことの反映であると考えられる。あるいは、それだけ社会の現状が進んでいるというかもしれない。1986年調査と比較して、2004年の若年回答者はADAの制定以前の状況を知らないわけである。本プロジェクトの研究者の報告によれば、一部の障害のある者は障害者教育法、リハビリテーション法、あるいは社会保障、メディケア、メディケイドに関する法律などの要件と混同しており、これらの成果をADAの成果とし、あるいはその逆の認識をしている場合もある。

I. 機会均等

連邦議会は、ADAの制定にあたり、障害のある者は歴史的に地域社会の物品とサービスへのアクセスから排除あるいは制限されており、故意に不平等な取扱いをされてきたことを知った。本プロジェクトにおける機会均等とは、障害のある者が、交通機関および企業や政府が提供する物品とサービスに確実にアクセス可能な機会の平等を意味する。

A. 交通機関

1. 公共交通機関

多数の障害のある者にとって公共交通機関は不可欠である。障害のある者の多くは障害のため、あるいは自動車を障害のある者がアクセスできるように改造する費用がないため、自家用車を持つことができない。信頼できる公共交通機関へのアクセスができなければ、障害のある者の社会的経済的機会の享受、自立した生活、地域社会への参加は著しく制限される。

障害のある者の証言により、その障害の種類を問わず、公共交通機関にアクセスできるようにすることが最大問題であることが明らかになった。公共交通機関へのアクセスの改善は広く報告されているが、聴覚に障害のある者は交通案内標識がないと述べ、視覚に障害のある者は音声による案内がないと指摘し、脳に障害のある者や認知機能に障害のある者は明瞭で利用できる情報がないと言い、運動機能に障害のある者は物理的にアクセスできない経験がある。

2005年6月、NCDは「米国の交通機関における障害のある者の現状」という包括的な報告書を発行した。NCDはその交通機関報告書の中で、連邦機関および交通機関への勧告に加えて、ロサンゼルスの公開討論会での、障害がありよく旅行する人からの発言を引用している。

私は体験学習でロサンゼルスとベーカーズフィールドの間、1万8000マイルを旅行したことがあります。ADAと運輸省の規定がなかったら一人での移動は不可能でした。少なくとも5つか6つの郡を頻繁に訪問し、自分の独立性を高めることができました。アクセス・システムと補助的交通機関システムについてよく知っていたのでこれらのシステムが役に立ちました。これは(障害のある者にとって)必要なことです。ADAをよく知り、自分の権利を行使することをお薦めします。

2004年N.O.D./ハリス世論調査では障害のある者の31%が公共交通機関へのアクセスが不十分と述べており、過半数がそれが大きな問題であると回答している。ちなみに1986年の米国障害のある者に関するICD/ハリス世論調査では49%が交通機関へのアクセスの欠如が思うように社会に参加できない重大な原因であるとしていた。

コメントおよび証言を提出した障害のある者のほとんどが、ADAは公共交通機関に良好な影響をもたらしたとしており、例えば「ADAができて私の生活の質は大きく向上し…ほとんど人の手を借りずに旅行したり公共交通機関を利用することができるようになりました…すべてはADAと呼ばれる素晴らしい法律のおかげです。」というコメントがある。大半の障害のある者が、まだ取り残されている部分が多くあること、および都市と地方では差があることを指摘している。あるコメンテーターは、南部、中西部の北部、中西部の中央部の諸州は北東部および西部の諸州に比較して交通機関のADA遵守が遅れていると述べている。別の障害のある者は、地域によっては、ADA成立後に交通機関へのアクセスが減少した地域があり、その理由は過去に存在していた補助的交通機関のサービス地域がADAが義務付ける地域よりも広かったことにあるとしている。

多くの障害のある者、特に地方部の障害のある者は、公営交通機関がないあるいはあってもアクセスできないという理由で地域の交通システムを利用できないでいる。

経済研究局 (Economic Research Service:ERS) によれば、地方での公共交通機関不足は引き続き障害のある者にとっての問題である。ERSの報告書「地方交通機関概説」によれば、1990年代には連邦政府が重点的に助成したため地方部の公共交通機関が増加した。しかし連邦政府の交通機関助成金のうち地方に配分されたのはわずか10%である。ERSの調査では、全米の地方郡の60%で公共交通機関が運行されていたが、これらの交通機関が提供するサービスは限定的であった。ERSの同報告書は、2000年の地方公共交通機関利用者のうち障害のある者は23%であったと述べている。

NCDの2005年版交通機関報告書には、地方在住の障害のある者は共同体生活のあらゆる面で参加に制約があり、医療機関への交通手段がないという理由で施設への入所を余儀なくされている障害のある者も存在するとの記述がある。

a.列車

i. ADAの要件

ADAは1993年7月26日までに主要なライトレールおよび通勤用鉄道の駅をアクセス可能にするよう義務付けた。ただしADAは改修に多額の費用が必要な駅については2020年7月26日までの猶予を連邦交通局に認めた。

駅のアクセシビリティに加えて、ADAは1990年以降に購入、リース、再製を行う客車についてもアクセス可能とするよう要求している。ADAは、1995年7月までに、2車両以上の列車のライトレールおよび通勤用鉄道の車両のうち少なくとも1両はアクセス可能にすることを義務付けた。ADA第II編では、すべての都市間鉄道(アムトラックなど)の駅は2010年7月26日までに障害のある者がアクセス可能なようにするよう定められた。駅のアクセシビリティのほか、1990年以降に購入、リース、再製を行う車両はアクセス可能でなければならず、1995年7月29日までに1列車につき少なくとも1車両はアクセス可能でなければならないこととされた。

ii. 関連データ

NCDの2005年交通機関調査では、固定した交通経路を有する輸送機関の多くがADAを遵守していなかった。同調査によれば、旧来の鉄道はアクセス可能な駅が少なく、乗客用エレベーターが運転休止中であることもよくあった。他のデータでは、ADA制定後鉄道のアクセシビリティが改善されている。

(a)ライトレールおよび通勤用鉄道

交通統計局(Bureau of Transportation Statistics:BTS)の報告では、1993年現在ではすべての鉄道(通常、ライト、通勤)の駅の22%(2,452駅中553駅)がアクセス可能であった。またBTSの報告によれば、2004年には、14の通常鉄道、19の通勤用鉄道、26のライトレールの全駅(通常、ライト、通勤)の74%(2,882駅中1,666駅)がアクセス可能であった(図A参照)。


図 A: 鉄道駅のアクセシビリティ 1993~2004


2004年末現在、19地域の通勤用鉄道の全駅の58%がアクセス可能である(1,153駅中666駅)。9地域では全駅がアクセス可能である(カリフォルニア州サンノゼ、サンディエゴ、ロサンゼルス、ニューヘイブン、マイアミ、ダラス、フォートワース、シアトル、ワシントンDC)。残りの地域の駅は29%から80%アクセス可能であった(図B参照)。

図B: 通勤用鉄道駅のアクセシビリティ 1993~2004

ライトレールについては、BTSの報告によれば、2004年には26の交通機関の全駅の82%がアクセス可能であった(706駅中572駅)。19の交通機関の駅は98%から100%アクセス可能であったが、残りの交通機関は2%から86%であった(図C参照)。

図C: ライトレール駅のアクセシビリティ 1993~2004

アクセス可能な列車車両は著しく増加したとみられ、一列車一車両のルールが遵守されていることを示している。米国公共交通機関協会が2006年に実施した調査では、通勤用車両の78%、ライトレール車両の89%がアクセス可能であった(図D参照)。

図D: アクセス可能な鉄道車両 1994~2006

▲ページトップへ

(b)アムトラック

2005年現在、アムトラックの報告では91駅の66 %が障害のある者が物理的にアクセス可能である。アムトラックの計画では、新規の駅の建築と既存の駅の改修により、2010年までに全米の駅がADAに完全に適合する。すべてのアムトラックの列車には障害のある者が利用できる座席とトイレを備えた客車が少なくとも1両備えられる。夜行列車にはアクセス可能な座席とトイレを備えた客車1両および各寝台車にアクセス可能なベッドルームがなければならない。これには、アクセス可能な座席には車いすを使用する乗客用のスペース、補助座席、車いす保管場所が含まれる。

b. バス

i. ADAの要件

ADAは、1992年より前に設置されたバスの駅その他の交通施設について、物理的改良その他により障害のある者のアクセシビリティを義務付けている。新規建設施設または改修施設はアクセス可能でなければならない。指定期限までにすべてのバス交通施設はアクセス可能でなければならないという義務付けがないため、アクセス可能なバス交通施設の達成に向けた追跡と評価が困難になっている。

ADAは、1990年8月25日より後に購入しまたはリースしたバスをアクセス可能にすることを義務付けているが、運輸省はこれを免除することができる。 ADAはまた、公共機関による交通機関は視聴覚に障害のある者にもアクセス可能であることを義務付けている。バス・サービスは停留所の名前または場所を音声でアナウンスすることで(「音声案内」)視覚障害のある者向けとし、停留所の視覚情報を提供することで聾者向けとして、かかる要件に適合することができる。

ii. 関連データ

連邦交通局によれば、1991年から2003年にかけてバス運行システムが新規に67台増加し、請求応答システムは同期間に新規に111台増加した。米国の公共交通機関が運行するすべてのバスの63%は1996年までにリフトまたは傾斜路を装備済みである。連邦交通局は2007年までにすべてのバス車両をアクセス可能にすること(リフトまたは車いす用傾斜路を備えること)を目標にしている。2004年までに95%のバスのアクセシビリティの実現という中間目標を達成した。

連邦交通局の2003年全米交通の概要および動向報告書によれば、B型(定員25~35名)のバスのアクセシビリティは1993年の54%から2003年は97.7%に上昇し、C型(定員35名超)バスのアクセシビリティは1993年の50.3%から2003年は99.2%になった。連節バス(定員が多く、中央部が曲がるバス)のアクセシビリティは1993年の38%から2003年は96.4%となった。

BTSによれば、バスのアクセシビリティは1993年から大幅に改善された。2004年末の時点で、全バスの98.1%がアクセス可能である(68,789台中67,454台)。同様に、米国公共交通協会の調査では、2006年現在、バスの97%がアクセス可能である。しかしながら、2005年末の時点で、DOJはミシガン州デトロイト市に対し、アクセス可能なバスの提供および保守を怠ったとして法的措置を取っている。デトロイト市は、同意判決に基づき、各バスの保守およびサービス記録簿の作成を含め、車いすリフトが故障しているバスの特定、運行停止、修理を迅速に行う制度を定めることに合意した。デトロイト市はまた、運転手および整備士を対象に、車いすリフトの配備と障害のある者への支援について再訓練することに同意した。さらに同市は、アクセス可能なサービスに不具合が発生したときは直ちに代替を用意すること、苦情を受け付ける制度を施行すること、ADA調整担当者を置くこと、ADAをどの程度遵守しているか評価するための独立監査を置くことに同意した。

バスのアクセシビリティはバスを地方部よりも頻繁に交換する都市部のほうが深刻であろう。BTSと米国公共交通協会の調査は都市部に重点を置いているようである。ERSによれば長距離バスが運行されている地方の数は1982年から大きく減少し続けている。

バスへの物理的アクセシビリティはアクセシビリティの要素の1つにすぎない。2005年NCD交通機関調査によれば、固定経路をもった交通機関の多くが、アクセス可能なバスであるにもかかわらずADAに適合していないと認定されている。NCD交通機関調査で障害のある者から寄せられた意見は公開討論会で挙げられた意見と同じであった。例えば、一部の交通機関ではバス停留所のアナウンスがなく、バスの車いすリフトが故障しており、バス内での車いすの固定装置が不備であるというものであった。

c. 補助的交通機関

i. ADAの要件

ADAにより、通勤用ではなく一般向けの固定経路運行サービスを行っている公共機関は、適用対象者に出発地から目的地までの補助的交通機関サービスを提供することを義務付けている。この補助的交通機関サービスは固定経路運行サービスと同等でなければならない。

ii. 関連データ

NCDの2003年進捗状況報告書で指摘したところによれば、障害のある者は、酷暑や極寒の中での長時間待ちや誰もいない停留所で待つときの危険を避けるためといった自身の健康や安全を理由に固定経路交通機関を避けて補助的交通機関を利用することが少なくない。しかしNCDによれば、補助的交通機関を利用する障害のある者は長時間待ち、運行の遅延、欠便(車両が来ない)などを経験することが頻繁にあり、就労、医療、約束がある用事について補助的交通機関に依存することは難しい。NCDは、運輸省は公平と効果の維持に努めなければならないとし、特に、交通管轄官庁は補助的交通機関への需要の高まりに応じてその利用者適格指標を厳格化する必要があると指摘している。

ロサンゼルス郡は米国で最も補助的交通機関が発達している地域の1つである。法律制定後の同郡の2005年の調査では、乗客の89%が予約乗車時間から20分以内に乗車できていた。他の11地域の補助的交通機関と比較してみると、これらの地域では84%から99%が「時間通り」に(予約時間から30分以内に)乗車していた。この調査では、乗車できなかったのは乗客の1%であった。ロサンゼルス補助的交通機関の2004~05年報告書はクレーム率が乗客1000人あたり6.59件であるとしている。

連邦交通局は多数の補助的交通機関の遵守状況を調査し、その方針およびサービスの不備を継続的に監視している。この遵守状況調査により、ADA遵守に関する連邦交通局の規定が利用者の期待と合致していないことが判明した。例えば、連邦交通局は予約乗車時間から30分以内に乗車できれば「時間通り」としている。乗車時間の遅れの許容時間を1時間とすると、利用者は予約時間から1時半待たされることもあり得る。このような遅れがあるため、仕事のスケジュールや約束ごとがある場合に障害のある者が補助的交通機関に依存することが困難になっている。

2. 民営交通機関

a. 民間の高速道路運行バス(Over-the-Road bus)サービス

1999年、グレイハウンド社はアクセス可能なバスの増便を開始し、グレイハウンド社の運転手およびその他の従業員がリフトその他の乗車補助装置を使用してアクセス可能なバス・サービスを提供するための訓練および障害の認識向上教育を始めた。1999年のDOJとの和解により、グレイハウンド社は2000年4月1日までに、乗客から48時間前までに通知があった場合には、ごく限定的な場合を除き、乗車地から目的地までのリフト付きバス運行を保証することに合意した。グレイハウンド社のすべての高速道路運行バスは2012年10月28日までにアクセス可能とすることが義務付けられている。

b. タクシー

i. ADAの要件

ADAはタクシー運行上の差別を禁止している。タクシーは障害のある者の利用を拒否してはならず、追加料金を徴収してはならない。ただし乗用車を車いすでアクセス可能にすることは義務付けられていない。タクシー運行者が乗用車でない新規車両(バンなど)の購入またはリースを行う場合はアクセス可能なものとしなければならない。ただし運行者が同等性を実証した場合はこの限りではない。タクシー運行者が乗用車以外を購入する義務はない。

ii. 関連データ

米国地域交通協会の報告書によれば、一部の地方自治体は民営タクシーのアクセシビリティ向上の努力を行っている。例として、シカゴ市は所有タクシー15台につきアクセス可能なタクシーを少なくとも1台は備えることを義務付ける条例を制定した。所有台数が100台を超える場合はアクセス可能なタクシーを少なくとも2台備えていなければならないほか、100台ごとに追加で1台を備えていなければならない。シカゴの6,000台のタクシーのうちアクセス可能であるのは41台である。シカゴ市はアクセス可能な車両の中央配備システムも開始した。ロサンゼルスではタクシー会社の所有車両の2%がアクセス可能でなければならず、その結果1,931台のタクシーのうち127台がアクセス可能である。ラスベガスでは所有車両のうち2台がアクセス可能でなければならず、その結果、1,100台中28台がアクセス可能なタクシーとなる。

地域交通協会によれば、大都市でも障害のある者がアクセスできるタクシーがないところがある。例えば、フィラデルフィア (1,600台)、ダラス(1,900台)、デトロイト(1,320台)、シアトル(850台)である。2004年のある新聞記事はニューヨーク州にはアクセス可能なタクシーはほとんどないと報じている。同記事によれば、ニューヨーク市の12,000台のタクシーのうち車いす利用者がアクセスできるタクシーはわずか5台であった。地域交通協会は、ラスベガス、サンディエゴ、ボストン、サンフランシスコ、ロサンゼルスでは市当局とタクシー会社の努力により、アクセス可能なタクシーが2.5%から6.6%に増加したとしている。

障害のある者を差別したとして訴えられているタクシー会社もある。訴訟の多くはタクシーが介助動物を連れた視覚障害のある者を差別したと主張している。その他、車いすを利用する者が乗車を拒否されたという主張もある。

▲ページトップへ

B. 歩道および車道歩道段差解消傾斜板

障害のある者がアクセスできる建物であっても、建物に通じる歩道にアクセスできなければ意味がない。公共交通機関を利用する運動機能に障害のある者は駅、バス停留所、あるいは降車場所から目的地までさらに移動しなければならない場合が少なくなく、歩道にアクセスできなければ、できるはずの移動ができなくなる。アクセスできない歩道があることで多くの人が補助的交通機関の利用を余儀なくされている。

1. 歩道

a. ADAの要件

ADAは、州および地方自治体のすべてのプログラム、サービス、活動を障害のある者がアクセスできるようにすることを義務付けている。この考え方は一般に「プログラム・アクセス」と呼ばれる。また、新築または改修された施設は完全にアクセスできるようにしなければならない。既存施設へのプログラム・アクセスは1995年1月26日が期限とされている。しかし一部の都市は歩道は都市のプログラム、サービス、または活動の一部には含まれないと主張している。2002年、第9巡回控訴裁判所はバーデン対サクラメント市事件の上訴を棄却し、市はアクセス可能な歩道の提供に真剣に取り組み始めた。

b. 関連データ

NCDの2005年交通機関報告書では、街路、歩道その他の基幹施設を含めた公共通行権は依然としてアクセスできず、ADAに適合していない。当方の環境調査においては、歩道がどの程度アクセス可能かについての報告書は存在しなかった。

2. 車道歩道段差解消傾斜板

a. ADAの要件

ADA規則第II編は州および地方自治体に対し、その移行計画の中に、1995年1月26日までまたは「いかなる場合も可能な限り迅速に」、すべての既存の縁石に車道歩道段差解消傾斜板を取り付ける計画を盛り込むことを義務付けている。新規に建設または改修される街路および歩道についても、アクセス可能な車道歩道段差解消傾斜板を設置しなければならない。

1993年、第3巡回控訴裁判所は、障害のある者がアクセスできる車道歩道段差解消傾斜板を設置しなければならない改修とは何かについて判示した。この判決によれば、街路の再舗装工事は、隣接歩道に車道歩道段差解消傾斜板を設置しなければならない改修に含まれる。

b. 関連データ

2002年、ロサンゼルス市はADAに基づく移行計画を完了して22,500枚の車道歩道段差解消傾斜板を設置済みであり、その平均費用は1,100ドルであったと発表した。同じ会議の席上、テネシー州メンフィス市の土木部長は、過去3年間で同市は3,000枚を超える車道歩道段差解消傾斜板を設置し、今後も年1,000枚ずつ設置してゆくと述べた。小都市も歩道へのアクセシビリティの強化に動いている。例えばカリフォルニア州カルバー市は2003年までに縁石の96%に車道歩道段差解消傾斜板を設置済みであり、残りの50箇所は2005年までに設置する予定である。DOJは138の地方自治体と145件以上の「市民アクセス・プロジェクト」契約を締結し、アクセス可能な建物、プログラム、サービスを確実に提供している。これには車道歩道段差解消傾斜板も含まれている。

一方、東部身体麻痺退役軍人協会(Eastern Paralyzed Veterans of America:EPVA)は障害差別禁止規則に基いてニューヨーク州を提訴した。

1994年の時点で同市が街路の縁石の3分の2に車道歩道段差解消傾斜板を設置しておらず、移行計画もないことが提訴の理由である。EPVAの提訴から5ヶ月後に同市はようやく「移行計画」を定めたが、車道歩道段差解消傾斜板未設置の同市の106,000ヶ所の縁石への設置計画は含まれていなかった。2002年9月、ニューヨーク市は和解に応じ、2億1800万ドルを投じて158,738ヶ所の縁石すべてを車いすでアクセス可能にすることに合意した。この和解に従い、同市は車道歩道段差解消傾斜板が未設置であった残りの61,074 縁石すべてに2億1786万2000ドルかけて車道歩道段差解消傾斜板を設置することを約束した(クイーンズ27,747、 スタテン島13,008、ブルックリン10,710、ブロンクス7,007、マンハッタン2,602)。一方、一部の都市は車道歩道段差解消傾斜板の設置義務付けに反対している。最近では2005年秋、ニュージャージー州リバーサイド市が、被雇用者の数が50名未満であることを理由に、車道歩道段差解消傾斜板の設置義務はないと主張した。シカゴ市は2005年、車道歩道段差解消傾斜板がアクセス可能になっていないとして訴えられた。カリフォルニア州サクラメント市は歩道と車道歩道段差解消傾斜板を利用できないとして訴えられ、2004年に、最長30年にわたり年間交通予算の20%を歩道と車道歩道段差解消傾斜板に配分することで合意した。ホノルル市郡は、車道歩道段差解消傾斜板を設置する移行計画を適時に実施しなかったとして2度訴えられ、最終的に2001年に和解し、2007年までに車道歩道段差解消傾斜板7,600枚を設置することで合意した。

2005年に実施されたサンフランシスコの歩道調査では、6,726箇所の交差点の13,430の縁石に車道歩道段差解消傾斜板の設置が必要とされ、その費用は2億1000万ドルと見積もられた。同市は毎年650枚の車道歩道段差解消傾斜板を設置することにしている。

多数の車道歩道段差解消傾斜板が民間デベロッパーによりその建設プロジェクトの一部として設定されているようである。例えばサンフランシスコでは、市当局が年間約450枚の車道歩道段差解消傾斜板を設置しているのに対し、民間デベロッパーによる設置は年間75~90枚である。

前記の訴訟および都市調査報告から、ADAが定める車道歩道段差解消傾斜板設置期限が守られておらず、今後も完全設置には時間を要することが分かる。訴訟および強制和解はADAを確実に遵守するための強力な手段になると考えられる。

C. 公共施設

1. 運動機能に障害のある者の物理的アクセシビリティ

a. ADAの要件

ADAによる公共施設の物理的アクセシビリティの要件は当該施設の建設時期により異なる。ADA第III編の発効日より前に存在した施設は、容易に実現可能な範囲において物理的アクセシビリティに対する障壁を除去しなければならない。「容易に実現可能な」とは、当該施設の所有者にとって障壁の撤去が不当に困難ではなく、不当に多額の費用を要する場合でないことをいう。

ADA発効後に建設された施設はADAアクセシビリティガイドラインに沿って障害のある者が完全にアクセスできるよう設計・建設されなければならない。既存施設を改修する場合はADAアクセシビリティガイドラインに適合しなければならない。また、主要機能施設を改修する場合は、改修部分への経路を利用できるように整備することが義務付けられ、その費用は元の施設の改修費用に比例して負担しなければならない。比例とは改修費用の最大20%を意味する。

b. 関連データ

ADA制定前の公共施設および商業施設のアクセシビリティを測定した体系的データは存在せず、法律はかかる情報の把握について定めていない。しかし、全米障害協会/ハリス世論調査によれば、障害のある者はレストラン、劇場、店舗、博物館などの公共施設でアクセスが改善されたと感じている。公共施設へのアクセスが改善されたかという質問に対し、1994年、1998年、2000年の回答者の75%以上が改善されたと回答している。これと軌を一にして、定期的に外食する障害のある者の割合は1986年の34%から2004年は57%に増加している。

ADAの直接の影響を受ける各種事業を代表する業界組合、例えば全米レストラン協会、アメリカホテル宿泊所協会、米国商工会議所その他に質問したところ、過去15年間に運動機能に障害のある者がよりアクセスしやすいように施設を改装した会員企業数を答えられるところはなかった。例えば、国際建物所有者管理者協会(Building Owners and Managers Association:BOMA)は次のように回答している。「BOMAは貴機関からの要請に応じて提示できる数値データがあればよかったのにと思っています。しかしこの種のデータは、当方が知る限りにおいて、入手不能です。建物に組み込まれている膨大な設計からすれば、わずかな改修にもどれだけの費用がかかるかということに基づきADAに対応した改修の総額を推定することも不可能です。」

事業所による第III編遵守の支援の最前線にいるメンバーを擁する米国建築協会 (American Institute of Architects:AIA)の広報担当者は、米国の民間機関が所有しまたは運用する、障害のある者がアクセスできる建物の数をAIAは把握していないと述べている。

米国監査院(Government Accountability Office:GAO、旧米国会計検査院(General Accounting Office))は前回の1994年の調査で、事業所、州、地方自治体が障害のある者に提供する物品およびサービスへのアクセスがADAにより改善されたかどうかの調査を行った。GAOが対象としたのは4つの事項、すなわち、ADA制定の15ヶ月間のアクセシビリティの変化、依然として存在する一般的障壁、前記15ヶ月間における所有者と管理者の認識度、かかる期間における障壁除去の性質、である。GAOは、障害のある者のアクセシビリティおよび管理者と所有者のADAの認識は相当にかつ着実に高まったことを確認した。大きな障壁が残っているところもあるが、障壁除去の努力は必ずしもADAアクセシビリティ規定に適合していなかった。所有者および管理者の半数はADAへの適合度を高めるための変更を実施しておらず、近々かかる変更を実施する計画もなかった。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の障害統計センターによれば、1993年には12,728の小規模事業所が障害のある者のアクセス向上措置の実施を理由に税控除を申請した。2002年の会計検査院の事業所税優遇措置報告書によれば、1999年には約7,199社(686社に1社)および取引関係のある個人18,633人(1,570人に1人)が障害のある者のアクセスに関する措置による税控除を申請した。税控除総額は5,900万ドルである。この調査は、障害関連の税優遇制度が十分に活用されていないとの結論を出した。人的資源管理協会の2003年調査では、調査対象事業所の77%がアクセシビリティに関する税優遇制度を利用していなかった。

ADAが義務付けるアクセシビリティ実現のために訴訟という手段を使用することについては多数の記事があるが、その多くは障害のある者の弁護士や支援者の下記の「悪質な」行為を指摘するものである。

公共施設に関する訴訟および不服申立の件数に関する総合的調査は実施されていないが、当方の環境調査では、DOJは捜査を行い、多数のレストラン、映画館、その他のチェーン施設との和解を行っている。DOJと和解したレストランにはピザ・ハット、マクドナルド、バーガーキングがある。映画館にはリーガル、シネマーク、シューバートがあり、AMCはDOJとの裁判が係属中である。

ADA第III編の物理的アクセス要件への全国遵守データはほとんどない。大規模事業所、全国チェーン、新規事業所は遵守のために相当の努力を行っているが、その理由はアクセシビリティ要件が地方の建築基準法に組み込まれていること、および公共施設並びに民間施設の取締当局が注視していることにある。その結果、障害のある者の社会活動、事業活動への参加の自由度が向上し、かかる自由の活用も増えている。小規模事業所には遵守への圧力が低いようである。小規模事業所に遵守させる手段として訴訟は効果的ではないと考えられる。

ADAに基づく取締に対する事業主の側からの訴訟提起があるということは、障害のある者と事業主の間で期待にずれがあることを示している。障害のある者はADA制定によるアクセシビリティに大きく期待しているが、事業主は、クレームがなくても継続的にアクセシビリティを改善しなければならないことに驚いている。ADA施行後年月が経過しており、支援技術も普及してきたにかかわらず、事業主は既存の事業所に義務付けられたアクセシビリティの範囲に混乱している。例えば米国ホテル宿泊所協会(American Hotel and Lodging Association)は、その会員が直面する複雑さについて下記のように指摘している。

法律の遵守には大きな障壁がある。ADAは他の法律や規則と異なり細かな事項まで対象にしているが、きわめてあいまいである。例えば、当協会の会員が知っているように、OSHA規則では、圧縮空気をクリーニングに使用できるのは圧力が1平方インチあたり30ポンド以下であり、かつ有効な破片保護および身体防護具を使用する場合のみである。当協会の会員の知識では、1990年ホテル・モーテル防火安全法(Hotel & Motel Fire Safety Act)の規定によれば、5階建てでありかつ他州からの旅行者を受け入れる場合には有線式火災検知器およびスプリンクラーを完備していなければならない。これらの条項は明確で有用であるが、かかる明確性がADAの大半に欠落している。当協会の会員はADA遵守のための明確な内容が分からないことにかねてから不満を抱いている。ホテル会社がホテルを新たに開業する場合には建築家を雇用し、地域の都市計画委員会から建築許可を取得し、地域の当局から営業許可を取得することになる。これらの委員会や政府機関はそれぞれの職務を遂行するが、ADAの遵守についてはどこも確認しない。ADAを遵守していることの認定証を発行する機関はないのである。

▲ページトップへ

2. 視覚、聴覚、言語に障害のある者のアクセシビリティ

a. ADAの要件

ADA第III編は公共施設に対し、視覚、聴覚、言語に障害のある者が障害のない者とコミュニケーションをとれるようにすることを義務付けている。そのため、点字、拡大文字、録音されたテキスト、手話通訳者、クローズドキャプション(表示・非表示の切り替え可能な字幕)、文書化、補聴機器、TTY機器などの補助的支援やサービスが提供されている。ホテルはTTYやクローズドキャプション付きテレビなどを提供しなければならない。さらに、事業者は介助動物使用者を排除したり追加料金を徴収してはならない。

b.関連データ

DOJのウェブサイトによれば、事業者が聾者へ手話通訳者を提供しないことが多い。DOJは、病院および医療機関に対し、聴覚に障害のある者または難聴者向けの手話通訳者その他の補助を提供するよう求める和解を少なくとも11件抱えている。通訳者を配置しなかったことによる病院に対する民事訴訟も頻発している。

DOJのウェブサイトはまた、多数のホテルがクローズドキャプション付きテレビ、TTY、アクセス可能な客室通知装置の提供義務に違反していると指摘している。DOJは聴覚に障害のある者のアクセスを含め、少なくとも16のホテルおよびモーテルと和解している。

DOJは、介助動物を使用する盲人のアクセスに関して、レストラン、タクシー会社その他の公共施設に対する多数のクレームを調査し解決した。

D.電気通信のアクセシビリティ

1. ADAの要件

ADA第IV編は2つの条項で構成される。1つは連邦政府が助成しまたは提供する公共サービス・アナウンスメントにクローズドキャプションを付けること、もう1つはTRS導入の全国規模の義務付けである。TRSは「聴覚機能に障害または言語機能に障害を持つ個人に対して、聴覚機能に障害または言語機能に障害のない者が有線または無線による音声通信サービスを用いて通信する能力と機能的に同等であるような方法により、聴覚を有する個人とのあいだで、有線または無線による通信を行う能力を提供する」ことを求めている。

最近のインターネット・プロトコール(IP)リレーサービスはTTYではなくインターネットを通じてTRSにアクセスすることができる。発信者が聾者である場合はコンピューターとインターネットを使用してメッセージを入力してリレー・オペレーターにメッセージを送信し、オペレーターが受信者を呼び出して送信内容を音声で伝える。VRSは手話を使用する者がコンピューターに接続されたビデオ装置を通じて手話でリレー・センターに通信する。発信者はビデオを通じてリレー通訳者に手話でメッセージを伝達し、リレー通訳者が受信者を電話で呼び出して内容を音声で伝える。コンピューターまたはインターネットにアクセスできない場合、聾者は数カ所のアクセス・センターを利用することができる。このサービスは特に、手話通訳者がいない地方在住者に有益である。VRSは、すべての電気通信事業者に義務付けられている拠出金から資金を得ており、この拠出金は全米電気通信事業者協会(National Exchange Carrier Association, Inc:NECA)が管理する基金に送られる。FCCがVRS提供者への適切な助成額を決定する。

これらの新サービスにADAが適用されるかはまだ決まっていない。ADAはFCCが技術発展を阻害しないよう求めているため、一部の障害者団体はVRS技術の開発および実施基準制定のためFCCがVRSに関する規則を定めるよう求めている。

2. 関連データ

 ADAは、電気通信の側面では、聴覚に障害のある者によるコミュニケーションの改善をもたらした。リレーサービスは現在では広く利用されている。TRSはすべての州で提供されており、言語および/または聴覚に障害のある者は週7日、1日24時間このサービスへアクセスできる。リレーサービスの電話番号は77-1-1または現地で指定された番号である。

 新技術の発達よりリレーサービスの利用者が増加した。しかし、事業者が直ちにこの技術を理解して採用したわけではない。

表B: 種類別リレーサービス2003~2004

 
2003年の分数
2004年の分数
従来型TRS
134,320,610
133,909,527
IPリレー
43,559,603
63,080,942
VRS
2,788,532
11,031,032
合計
180,668,745
208,021,501


目次へ前ページへ次ページへ


共生社会政策ホーム > 障害者施策トップ > もっと詳しく > 障害者施策に関する調査等 > 平成23年度 障害者差別禁止制度に関する国際調査 > (関連資料)障害のあるアメリカ人法の影響:ADAの目標達成進捗状況の評価(抄) I. 機会均等


▲ページトップへ