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第1章 障害者差別解消法基本方針

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」という。)に基づく「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」が、平成27年2月24日に閣議決定された。この章では、第1節において、障害者差別解消法の概要について説明した後、第2節において、基本方針の内容について説明し、第3節において今後の差別解消法の施行に向けた取組について説明する。

第1節 障害者差別解消法について

1 経緯

平成18年、障害者の人権や基本的自由の共有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利の実現のための措置等を規定した障害者に関する初めての国際条約である「障害者の権利に関する条約」、いわゆる「障害者権利条約」が採択され、平成20年に発効した。障害者権利条約は、合理的配慮の否定を含めた障害に基づくあらゆる形態の差別の禁止について、適切な措置を求めており、我が国においては、平成23年の障害者基本法の改正の際、同法第4条に「基本原則」として、障害者権利条約の差別の禁止に係る規定の趣旨を取り込む形で、「差別の禁止」が規定された。障害者差別解消法は、同規定を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に成立した。(法律の概要は図表1)

図表1 障害者差別解消法の概要

2 概要

(1) 対象分野

この法律は、雇用、教育、医療、公共交通など障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野を対象にしている。なお、雇用分野についての差別の解消の具体的な措置(本法第7条から第12条に該当する部分)に関しては、障害者雇用促進法の関係規定に委ねることとされている。

(2) 障害を理由とする差別の禁止

この法律では、障害を理由とする差別を「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」の二つの類型に整理している。

「不当な差別的取扱い」とは、例えば、障害があるということだけで、正当な理由なく、商品やサービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為であり、このような行為は、国の行政機関や地方公共団体、事業者の別を問わず禁止される。

また、障害のある人やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施が負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)を行うことが求められる。合理的配慮の典型的な例としては、車いすの人が乗り物に乗る時に手助けをすることや、窓口で障害のある人の障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談、読み上げなど)で対応することなどが挙げられる。こうした配慮を行わないことで、障害のある人の権利利益が侵害される場合には、障害を理由とする差別に当たる。

ただし、合理的配慮に関しては、一律に義務付けるのではなく、行政機関等には率先した取組を行うべき主体として義務を課す一方で、事業者に関しては努力義務にとどめている。これは、この法律の対象範囲が幅広く、障害のある人と事業者との関係は具体的な場面によって様々であり、それによって求められる配慮も多種多様であることを踏まえたものである。

(3) 対応要領、対応指針による差別の内容の具体化と実効性の担保

具体的に、どのようなことが「不当な差別的取扱い」に当たるのか、どのようなことが「合理的配慮」として求められるのか、という点については、個々の場面の状況ごとに判断されるものであり、あらかじめ法律で列挙することは困難である。そこで、障害者差別の禁止について適切に対応し、障害者差別の解消のための自主的な取組を促すために、不当な差別的取扱いの具体例や合理的配慮の好事例等を、今後、対応要領や対応指針において示すことにしている。

ア 行政機関等による取組

国及び地方公共団体などの行政機関等においては、自らの職員が適切に対応できるようにするための「対応要領」をそれぞれ自ら定め、それに基づく取組を行うことにしている。仮に行政機関等の職員において本法に違反する行為があった場合には、例えば行政機関等の内部における服務規律確保のための仕組みや行政相談等の仕組みにより、是正が図られることになる。

イ 事業者による取組

事業者において、障害を理由とする差別を解消するための取組が適切に行われるようにするための仕組みとして、この法律では、各事業分野を所管する大臣(以下「主務大臣」という。)が「対応指針」を作成し、事業者の自主的な取組を促すこととしている。また、特に必要があると認められる場合は、主務大臣が、事業者に対し、報告を求めたり、助言・指導、勧告を行うことができることとされている。

(4) 国や地方公共団体による支援措置

ア 相談や紛争解決体制の整備等

障害のある人からの相談や紛争解決に関しては、既に、その内容に応じて、例えば行政相談委員による行政相談やあっせん、法務局・地方法務局・人権擁護委員による人権相談や人権侵犯事件としての調査救済等、様々な制度により対応している。そのため、この法律では、新しい組織を設けることはせず、基本的には、既にある機関などを活用し、その体制の充実を図ることにしている。

イ 障害者差別解消支援地域協議会

また、地域において障害を理由とする差別に関する相談や紛争の防止・解決を推進するためのネットワークを構築する観点から、国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野に従事する者は、地方公共団体の区域において障害者差別解消地域支援協議会(以下「協議会」という。)を組織することができることとされている。

協議会には、国及び地方公共団体の機関のほか、NPO法人や学識経験者等、その他必要と認める者を構成員に加えることができる。このように様々な主体が連携し、関係する機関などのネットワークが構成されることによって、いわゆる「たらいまわし」が生じることのない体制の構築や、地域全体として相談・紛争解決機能の向上が図られることが期待されている。なお、協議会の事務に従事する者又は事務に従事していた者に対しては、秘密保持義務が課される。

ウ 普及啓発等

このほか、国及び地方公共団体が、差別の解消について必要な啓発活動を行うほか、国は、国内外における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うこととしている。

(5) 施行期日

この法律に基づき差別の解消に向けた取組が円滑に行われるためには、あらかじめ、関係者の意見を十分に踏まえた上で、基本方針や対応要領、対応指針を適切に定めるとともに、国民に対し、本法の趣旨と合わせて、それらの内容を十分に周知しておくことが不可欠であることから、この法律の施行日は、平成28年4月1日とされている。

第2節 基本方針について

1 経緯

障害者差別の解消の推進は、雇用、教育、医療、公共交通などの障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野に関連し、各府省の施策に横断的にまたがるものである。政府は、障害者差別解消法第6条第1項の規定に基づき、障害者差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、施策の基本的な方向などを示すものとして「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)を策定することとされている。(基本方針の概要は図表2)

図表2 基本方針の概要

基本方針案の検討に当たっては、障害者政策委員会において、障害者団体、事業者等の関係者からのヒアリングが実施されるとともに、当事者団体等30団体、事業者等25団体からの意見を参照して審議が行われた。その後、30日間のパブリックコメントを行った上で、平成27年2月24日、閣議決定した。

2 概要

(1) 対象範囲

障害者差別解消法の対象となる「障害者」の定義は、障害者基本法における「障害者」の定義「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と同じであり、基本方針においても、その定義を明記の上、いわゆる障害者手帳の所持者に限られないことも明記している。

また、特に女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより、更に複合的に困難な状況に置かれている場合があること、障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意することについて明記している。

(2) 合理的配慮

ア 合理的配慮の基本的な考え方

合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、以下の「イ 過重な負担の基本的な考え方」に掲げた要素を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされるものである。さらに、合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。

基本方針では、合理的配慮の現時点における一例として、以下のものを挙げている。

  • 車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境への配慮
  • 筆談、読み上げ、手話などによるコミュニケーション、分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮
  • 障害の特性に応じた休憩時間の調整などのルール・慣行の柔軟な変更

なお、意思の表明に当たっては、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達などの必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられるものとされている。

また、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、後述する環境の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。

イ 過重な負担の基本的な考え方

過重な負担については、個別の事案ごとに具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。基本方針においては、過重な負担の判断の際に考慮に入れる要素として、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況が挙げられている。

(3) 対応要領、対応指針の記載事項

基本方針では、対応要領、対応指針の記載事項として次のものを挙げている。

  • 趣旨
  • 不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方
  • 不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例
  • 相談体制の整備
  • 行政機関等における研修・啓発【※対応要領のみ】、事業者における研修・啓発【※対応指針のみ】
  • 国の行政機関(主務大臣)における相談窓口【※対応指針のみ】

(4) その他重要事項

ア 環境の整備

不特定多数の障害者を主な対象とするバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するための人的支援、情報アクセシビリティの向上等は、個別の場面において個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めることが重要である。環境の整備には、これらのハード面のみならず、研修等のソフト面の対応も含まれる。

イ 差別の解消に係る施策の推進に関する重要事項
  • 情報の収集、整理及び提供

    国内の具体例・裁判例等の収集・整理、国際的な動向や情報の集積を図り、障害者白書や内閣府ホームページ等を通じて広く国民に提供する。

  • 基本方針、対応要領、対応指針の見直し等

    不当な差別的取扱い・合理的配慮の具体例の集積等を踏まえ、必要に応じて、基本方針、対応要領及び対応指針を見直し、適時、充実を図る。

    障害者差別解消法の施行後3年を経過した時点における施行状況の検討の際には、基本方針についても併せて所要の検討を行う。

第3節 障害者差別解消法施行に向けての取組状況について

(1) 対応要領・対応指針に関する取組

平成28年4月の障害者差別解消法の円滑な施行に向けて、国の行政機関の長及び独立行政法人等は、職員の取組に資するための対応要領を、また、主務大臣は、事業者の取組に資するための対応指針を、本基本方針に即して作成することになる。作成後は、障害者差別解消法、基本方針と併せて、広く国民に周知していく予定である。

(2) 障害者差別解消支援地域協議会に関する取組

障害者差別解消法では任意の組織とされている「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「協議会」という。)は、地域の事情に応じて対応がなされるものであることから、平成25年度から、内閣府の「障害者差別解消支援地域協議会在り方検討会」(以下「在り方検討会」という。)において、設置を促進するための取組(「障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業」。以下「体制整備事業」という。)を進めている。

具体的には、平成25年度に「障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業の実施に係る同協議会の設置・運営暫定指針」を整備し、平成26年度から、障害者差別解消に関する条例を既に制定又は制定に向けた取組を進めている地方公共団体と協力して、障害者差別の解消に資する取組を実施し、在り方検討会において、その効果や影響を検証し、設置・運営マニュアル(指針)等の作成に向けて取り組んでいる。

平成26年度は、岩手県、千葉県、さいたま市、浦安市の4地方公共団体の協力の下、各地域においてモデル会議を開催し、前年度に整備した暫定指針を踏まえ、「地方障害者差別解消支援地域協議会の在り方検討会」を組織し、相談体制の整備や機関連携の課題等、障害者差別の解消の推進に資する取組に関する協議を実施した。

また、体制整備事業の「中間報告会」を、モデル会議を開催している各地方公共団体において開催し、協議内容を、当該地方公共団体の障害者差別の解消の推進を担う関係機関と共有するとともに、「最終報告会」を3月に開催し、全国の地方公共団体及び関係団体に対してモデル会議の成果を報告した。これにより、各地方公共団体の区域における協議会の迅速な設置及び円滑な運営に資することが期待される。

平成27年度も、更に参加する地方公共団体を増やし、継続して行うことを予定しており、上半期を目途に設置・運営マニュアル(指針)等を取りまとめることを予定している。

図表3 障害者差別解消支援地域協議会について

(3) 障害者差別解消法の啓発活動

障害者差別の解消を効果的に推進するためには、国民各層の関心を高め、その理解と協力の下に進めることが重要であることから、法第15条において、国及び地方公共団体において、必要な啓発活動を行うこととされている。

内閣府においては、法施行に先立ち、平成25年度以降、啓発活動を実施している。具体的には、本法の趣旨や内容について広く周知を図るためのリーフレットの作成や共生社会地域フォーラムを開催している。

ア 周知リーフレットの配布

障害者差別解消法の内容を国民各層へ幅広く周知するため、周知リーフレットを作成、配布した。また、法の概要を知的障害のある人などにも分かりやすく伝えることを目的として、難しい言葉を分かりやすくしたほか、イラストや図を用いた「わかりやすい版」も作成、配布した。

※リーフレット等は内閣府ホームページ参照。

イ 障害を理由とする差別の解消に向けた地域フォーラム等の開催

障害者差別解消法の施行に向けて、地方公共団体との連携の下、地域の障害のある人や関係者の意見を広く聴取し、障害者差別解消法の円滑な施行に資するとともに、各地域における障害者差別の解消に向けた取組の促進と気運の醸成を目的として「地域フォーラム」等を開催した。

■ 図表4 「障害を理由とする差別の解消に向けた地域フォーラム」等開催実績
○平成25年度
開催時期 平成25年12月から平成26年3月まで
開催地 沖縄県、千葉県、長崎県、愛媛県、広島県、仙台市、北海道、新潟市、静岡市、大阪府(※開催順)の全国10か所
○平成26年度
開催時期 平成27年1月から平成27年3月まで
開催地 浦安市、さいたま市、鹿児島県、名古屋市、岩手県、茨城県、山梨県、東京都(※開催順)の全国8か所

(主な内容)

  • 障害者政策委員会委員による基調講演(障害者差別解消法基本方針案について)
  • 開催地から推薦された障害のある人等を交えたパネルディスカッション

*なお、平成26年度の浦安市、さいたま市、岩手県、東京都については、障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業報告会として開催(千葉県と浦安市合同の中間報告会、さいたま市の中間報告会、岩手県の中間報告会、全体の最終報告会)。

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