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3.3  ワーク・ライフ・バランス施策の効果

<この節のポイント>

  • ワーク・ライフ・バランス施策の効果は、明確・直接的に企業業績の向上につながるものでも、その効果を計量することができるようなものでもないと考えられている。
  • 定性的な効果として最も多く挙げられたのは、「従業員満足度の向上」であった。それは、士気・モティベーション・モラルの向上、「働きやすい」「安心して働ける」「余裕をもって働ける」との声、会社に対する忠誠心の向上などである。
  • 「業務の改善」の効果としても、業務効率化やタイム・マネジメントの考え方の浸透、超過勤務手当の縮減、不良品率の低下といった点が挙げられた。
  • その他、優秀な人材や女性人材の定着、人材育成のコスト低減と高密度化、採用応募者の量・質の向上、企業イメージ・評価の向上といった効果が挙げられた。

ワーク・ライフ・バランス施策の効果について、企業インタビューにおいて概ね共通して聞かれたのは、それは明確・直接的に企業業績の向上につながるものではなく、ましてや効果を計量することができるようなものではないという見解であった。それでもほとんどの企業は、何らかの効果について定性的には(時には印象論として)言及した。それら効果は、概ね以下のように分類される。

  1. 優秀な人材・女性人材の定着
  2. 人材育成のコスト低減と高密度化
  3. 従業員満足度の向上
  4. 業務の改善
  5. 採用応募者の量・質の向上
  6. 企業イメージ・評価の向上

3.3.1 優秀な人材・女性人材の定着

まず、「優秀な人材の定着」「女性人材の定着」という効果を挙げる企業があった。これは、3.1.1の(1)でみた「優秀な人材の確保」という施策の狙いの核心である「優秀な人材の維持」と表裏をなすものである。ただ、わが国におけるワーク・ライフ・バランス施策の事実上の中心が「仕事と育児の両立支援」であることを考えれば、人材(特に女性人材)の定着はワーク・ライフ・バランス施策の利用が進んだことの同義反復に過ぎないともいえる。そのためか、この点をあえて「効果」としては挙げない企業も多く、挙げた企業は20社中6社と必ずしも多くはなかった。

ともあれ、ワーク・ライフ・バランス施策の中心的狙いである「優秀な人材の維持」は、一定の効果が上がっているといえよう。さらに、人材の定着がもたらすものとして「ノウハウの蓄積」といった一般論を挙げる企業もあったが(富士ゼロックス)、具体的な内容は示されなかった。また、ニッセイ基礎研究所の武石氏はインタビューで、人材の定着が進む企業は教育投資に積極的となるので人材の質の向上が進む、という好循環が期待できることを指摘した。

 

3.3.2 人材育成のコスト低減と高密度化

人材の定着から派生する効果として、イノスは、採用を減らせることによる新人育成コストの減少、新人1人あたりのOJTの高密度化を挙げた。同社はこれをワーク・ライフ・バランス施策の最大の効果としたが、他にこうした効果を特に挙げた企業はなかった。

事例

●採用を減らせることで新人育成のコストが低減、OJTが高密度化(イノス)

ワーク・ライフ・バランス施策の効果として最も大きいのは、従業員の平均勤続年数が延び、離職者が減少したために、採用しなければならない学生の数を減らすことができ、新人を育成するコストを抑えることができたことである。従来は全従業員数の1割程度を新人として採用していたが、その数を減らすことができた。

また、採用する人数が減ったため、一人ひとりの新人に先輩従業員が接する時間も長くなり、先輩から後輩へのOJTの密度が高くなったため、新人従業員の能力の伸びも速くなっているように感じられる。

 

3.3.3 従業員満足度の向上

ワーク・ライフ・バランス施策の効果として最も多く挙げられたのが、士気・モティベーション・モラルの向上、「働きやすい」「安心して働ける」「余裕をもって働ける」との声、会社に対する忠誠心の向上といった、従業員満足度の向上であった。これに分類される意見を挙げた企業は8社に上った。

もっとも、こうした効果は担当者の「実感」として挙げられたケースが多く、従業員アンケート調査などの結果にみられるとした企業は日本IBMやニチレイグループのみであった。

また日産自動車は、従業員満足度の向上に類する効果として、女性従業員の間でのマイノリティ感の解消やネットワークの形成という点を挙げた。

 

3.3.4 業務の改善

「業務の改善」の効果は、ワーク・ライフ・バランス施策の効果として挙げられた中でも、企業業績の向上に最も直結的なものであろう。これに分類される効果を挙げたのは6社であるが、そのうち半分は「業務改善への関心の高まり」(住友商事)、「働き方の見直しのきっかけ」(資生堂)、「タイム・マネジメントの考え方の浸透」(同)、「限られた時間の中で仕事をしようと努力することによる生産性向上」(河村電器産業)、「時間コスト意識の浸透」(大福信用金庫)といった比較的抽象的な意見であった。

しかし、次に挙げる二つの事例は、かなり具体的な業務改善の効果として注目される。特にカミテの事例は、(それがワーク・ライフ・バランス施策の効果かどうかを厳密に証明することはできないが)効果が定量的に観測される希有な例である。

また、休業に対して代替要員策を図ることにより、ジョブ・ローテーションの効果が生まれたり、若手に経験を積ませたりすることができるという効果を挙げる企業もあった(河村電器産業、カミテ)。

事例

●ワーク・ライフ・バランス施策導入後に不良品率が劇的に低下(カミテ)

一連のワーク・ライフ・バランス施策導入以前の不良品率は製品10万個あたり1,000個程度であったが、現在では同30個を下回っている。

不良品の防止には、従業員のやる気、従業員同士のコミュニケーションの良さが非常に重要であり、ワーク・ライフ・バランス施策が職場の雰囲気を改善し従業員の士気を高めたことが効果を上げたものと考えられる。

●業務引き継ぎの重要性認識が高まり、文書化が進展。それにより時間外労働も減少(イノス)

短時間勤務利用者などがいることにより、業務の引継ぎの重要性が認識されるようになり、文書化が進んだ。そのため、10年前と比較すると残業時間は短くなっているように思われる。

 

3.3.5 採用応募者の量・質の向上

3.1.1の(1)で、ワーク・ライフ・バランス施策に「採用上の目的」を事前的・意識的にもたせている企業は比較的少ないと述べたが、質問に対して採用上の効果を認めた企業は7社あった。

7社のうち2社(新生銀行、ニチレイグループ)は従業員1,000人超の大企業で、これらは何れも女性応募者の増加(及び質の向上)を指摘した。新生銀行では、新卒採用における女子学生の応募が2〜3割増えた。ニチレイグループでは、2000(平成12)年に20%以下だった新卒採用者に占める女性の割合が近年は40%弱にまで上昇した。

他の5社(福島印刷、イノス、太陽商工、ふくや、カミテ)は概ね従業員500人以下であり、これらは男女を限定することなく採用上の効果があったとした。こうした企業では、大企業に比べて、人材集めが一層の課題となっていることを感じさせる。具体的には次のような声が聞かれた。

事例

●会社説明会に集まる学生の量・質が向上(ふくや)

会社説明会への学生の参加状況が変わってきた。かつては1回あたり40〜50人しか集まらないこともあったが、近年は150〜200人集まるようになっている。また学生からの質問内容も変わってきており、なぜISOを取得しているのかといった理念に関する質問も出てきている。女性だけではなく、男性応募者の質も向上していると感じられる。

●新卒採用の応募者がより広い地域から集まるように(イノス)

新卒採用に応募してくる学生は、従来は熊本県の出身者か県内の大学に通う者がほとんどであったが、近年は他の地域から来る者も増えている。

 

3.3.6 企業イメージ・評価の向上

3.1.2でみたように、企業イメージ・評価の向上を狙ってワーク・ライフ・バランス施策を導入する企業はほとんどなかったが、実際効果があった企業も少なかった。太陽商工は取引先との、関西スーパーマーケットは自治体や社会との、WOWOWは投資家との関係において、企業イメージ・評価が向上したとした。

事例

●取組について取引先の賛同も得られ、企業イメージ・価値が向上(太陽商工)

ワーク・ライフ・バランス施策に対する取引先からの賛同も得られ、対外的な企業のイメージ・価値の向上にも役立っている。

●自治体との関わりが増え社会的認知度が向上(関西スーパーマーケット)

次世代育成支援に関連して、兵庫県、伊丹市など自治体との関わりをもつことが多くなり、社会的認知度が上がっているように思える。

●アナリスト・機関投資家が企業として戦略性があると評価(WOWOW)

アナリストや機関投資家は、ワーク・ライフ・バランス施策について、企業の潜在性を維持する取組であり、企業として戦略性があると評価してくれている。


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