少子化対策

「働き方の改革」分科会における議論の整理(中間報告案)

1 問題の所在

平成18年末に公表された「日本の将来推計人口」では、今後、我が国は、一層の少子化・高齢化が進行し、特に、出生数は、2030年には約70万人、2055年には50万人弱となることなど、本格的な人口減少社会になるとの見通しが示された。このような状況を視野に入れ、本格的な少子化に対処するため、労働者個人やその家族のニーズに対応した働き方について検討・議論を行い、「働き方の改革」の方向性や支援のあり方についてとりまとめた。

(労働者を取り巻く環境の変化)

バブル景気崩壊後の長期にわたる景気低迷や国内外における競争の激化、技術革新の進展等を背景として、企業の雇用管理や人材育成にも様々な変化が生じている。

(若年非正規労働者の増加と家族形成の困難性)

この間の企業における本格的な人件費削減への取組の影響もあり、企業は中核業務に少数精鋭の人材を当てるとともに、その他の業務については、非正規労働者の積極的活用を進めてきた。非正規労働者の増加は若年層の意識の変化によるところも大きいと考えられるが、結果としてやむなく非正規労働者となっている若年者も多く、彼らの経済基盤は弱く、将来への見通しが立ちにくい状況の中で、特に男性において、結婚や家族形成が困難となっている面がある。

(男性正規労働者を中心とした長時間労働)

非正規労働者の増加の下で正規労働者への負荷は一層大きくなっている。常用労働者のうち、特に子育て世代の男性において週60時間以上の長時間労働者の割合が近年高止まりしており、現状、その割合は2割強となっている。こうしたことの背景には、これまでのわが国の雇用慣行や上司や同僚の意識を含めた職場風土の影響も内在していると考えられる。

(ワーク・ライフ・コンフリクトの増大)

このような状況の中で、いわゆるワーク・ライフ・コンフリクト(労働者がその仕事と生活の調和を図るにあたり、希望を満たすことができないという葛藤)が生じ、高まっている。

  • 若年非正規労働者の増加の下で、仕事により経済的基盤を確保することが難しく、雇用やキャリアの将来を描きにくいことが、若年層の結婚・出生行動に影響を及ぼしている。
  • 正規労働者においては、過密な労働が求められる中で、仕事以外でやりたいことややらなくてはならないことに十分に取り組めない状況が生じている。例えば、未就学児を持つ父親に聞くと、希望としては、仕事と同じように家事や育児を重視したいが、現実は仕事を優先せざるを得ない状況がある。
  • こうした中で、子育てと仕事のどちらかをあきらめざるをえない状況も生じている。例えば、出産を契機に離職する女性労働者の割合は7割にのぼっているが、実際の継続就業率は、職場の雰囲気が子育てとの両立支援や個人の生活時間確保に協力的かどうかで大きく異なっている。
  • 上でみたように、わが国の企業における働き方はやや図式的に言えば、「過密な労働が求められる正規労働者の働き方」か「経済的基盤の確保が難しい非正規労働者の働き方」かという二者択一であり、また相互の行き来の難しい構図になっているが、仕事と生活に関わるニーズが、人によっても、また個人のライフステージによっても多様化する中で、労働者にとっての希望と現実の乖離が大きくなっている。
  • こうした状況は、企業にとっても、人口減少社会で人材を確保し、有効に活用していく上で制約要因となっており、仕事の進め方や内容を見直し、時間当たり生産性を向上させていく必要性が高まっている。

(ワーク・ライフ・コンフリクトの社会全体への影響)

このようにワーク・ライフ・コンフリクトは個人や家族の結婚・出生行動に大きな影響を及ぼし、今後の少子化の加速や将来の労働力人口の一層の減少につながりかねない。労働力人口減少の加速は、企業の長期的な経営活動にとって大きな制約要因であり、また、社会保障等における現役世代の負担の増大など、社会システムの持続可能性にも大きな影響を及ぼす。

さらに、上でみたように、わが国の企業における働き方は、人々の仕事と生活に関わる多様なニーズを必ずしも満たすものとなってはいない。人口減少社会が到来する中で、こうした多様なニーズを満たし、できるだけ多くの人が自分のニーズに合わせ就業参加できる仕組みを作っていかなければ、企業の経営活動の継続、ひいては社会の持続可能性にも影響を与えかねない。

このため、以上のようなワーク・ライフ・コンフリクトを取り除き、ワーク・ライフ・バランスを実現することは、持続可能な社会を構築するために不可欠である。こうした外部性を考えると、その実現に向けて個別の労使のみならず、社会全体で取り組んでいくことが必要である。

2 目指すべき「働き方の改革」

(1)ワーク・ライフ・バランスの考え方

  • ワーク・ライフ・バランスとは、労働者が仕事上の責任を果たしつつ、結婚や育児をはじめとする家族形成のほか、介護やキャリア形成、地域活動への参加等、個人や家族のライフステージに応じた多様な希望の実現を可能とすることである。このワーク・ライフ・バランスを実現することにより、安心して子どもを育てることができるようにするなど、将来の社会を担い、支える国民を応援する社会環境の整備を図ることが重要である。このようなワーク・ライフ・バランスの実現には、企業と労働者の双方が協調して「働き方の改革」を推進することが必要不可欠である。
  • また、こうしたワーク・ライフ・バランスの実現に向けた「働き方の改革」は、労働者が自己実現を図る環境を整えることを通じて、仕事におけるモチベーションを高めるとともに、効率的な仕事の進め方等労使の自主的な取組みによる生産性の向上を一層図ることで、労働者のみならず、企業にとってメリットのあるものとしなければならない。

分科会においては、

  • せっかく教育投資した女性社員が出産を機にやめてしまうことが多かったが、ファミリーフレンドリー施策で、仕事を行っていく上での選択肢が増えたことにより、女性の勤続年数が長くなった。
  • 時間や場所の制約から解放した多様な働き方を進めることにより、社員の満足度を高め、事業の成長に結びつくという考え方でワーク・フレキシビリティー施策を実施している。
  • 経営トップの強いリーダーシップの下で、IT技術の活用等により、情報の共有化、業務の効率化を進め、定時で仕事が終わる組織への転換を図った。

などの事例が報告された。

(2)「働き方の改革」の方向性

ワーク・ライフ・バランスを実現するための「働き方の改革」の方向性として、「どのような暮らしを実現させるか」という観点から、以下のようなことがイメージされる。

  • 若年者の結婚や家族形成が可能となるよう、就業による経済的自立を図れるようにする。
  • 長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進等により、労働者の健康保持を図るとともに、どのようなライフスタイルであっても、家事や育児を含め、普通に日常生活を送れ、希望する労働者が家族と共に触れ合い、絆を深めることができるような時間を確保できるようにする。
  • 若年期、子育て期、子育て後及び高齢期といった個人や家族のライフステージごとに変化するニーズに応じて、個人が家族との協力の中で、柔軟な働き方や労働時間を変化させるなど、多様な働き方を選択できるようにする。
  • 年次有給休暇やまとまった休暇の取得により、豊かでゆとりある生活を実現するとともに、個人が中長期的な観点から、職業キャリア形成や地域活動、社会貢献など、自らの生涯にわたるキャリアを切り拓くことができるようにする。
  • 仕事の進め方や働き方の見直しを進めることにより、企業にとっても生産性の向上など経営上プラスになるようにする。

3 「働き方の改革」としての支援施策

「働き方の改革」としての支援施策の検討に当たっては、以下の視点を重視した。

  • ワーク・ライフ・バランスを推進するに当たっては、労使間の協調のみならず、上司や同僚など個別労働者間での理解を含め、互いの考え方を尊重しつつ、メリハリのある働き方を進める職場風土の形成や意識改革が必要であり、これらを推進するための国民運動が不可欠であること
  • ワーク・ライフ・バランス推進のための施策の検討に当たっては、個別政策の方向性の整理のみならず、それが成果を上げるための政策運用の仕組みまで視野に入れた戦略が重要であり、「ワーク・ライフ・バランス憲章」及び政府において「働き方の改革を推進する行動指針」を策定することが必要であること
  • 相乗的に各政策の有効性を高めるため、府省間、および自治体との連携を強め、それぞれの持つ資源やネットワークを活用していく必要があること

(1)家族形成を可能とする経済的自立に向けた支援

若年者が結婚し、安心して家族を形成するためには、就業により安定的な収入を得られることが必要不可欠である。また、雇用管理や処遇について、各々の労働者が納得をしながら、職業能力を発揮し、生産性を高めることが重要である。支援施策の考え方として以下のようなものが考えられる。

  1. 青少年が職業生活を見据え、主体的に進路を選択し、社会的に自立できるように、学校教育段階における職業意識の醸成や就業能力の向上等キャリア教育等の推進を図ること
  2. 企業によるトライアル雇用を含むフリーター等の常用就職支援、企業がフリーター等非正規労働者を正規労働者に転換する制度の導入に対する支援やこれらの者に対する職業能力の開発の支援を行うこと
  3. 正規労働者と非正規労働者の均衡処遇の在り方について検討し、多様な働き方における、働きに応じた公正処遇の実現を図ること

(2)「働き方の改革」に向けた取組の支援

ワーク・ライフ・バランスを推進していくためには、労使の自主的な取組が基本であり、政府の役割は、こうした取組を支援するため、社会全体のワーク・ライフ・バランスの実現に向けた基盤整備を図っていくことである。このような観点から、支援施策の方向性として以下のようなものが考えられる。

  1. 長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得の促進等を支援すること
  2. 短時間勤務制度の普及促進やテレワークの推進に向けた環境整備を図ることにより、労働者が育児等と両立させながら、継続して働きやすい環境を整えるとともに、子育て後の女性の再就職支援の推進等を図るなど、労働者のライフステージに応じた柔軟な働き方の普及促進・環境整備を行うこと
  3. 企業を取り巻く環境や雇用管理のあり方が変化する中で、労働者が生涯にわたり自律的にキャリア形成を行い、安定した経済基盤を保持できるような社会的な支援体制等について検討すること
  4. ワーク・ライフ・バランスを積極的に進める企業に対して社会的評価を付与する仕組みを推進すること等により、中小企業も含めたワーク・ライフ・バランスの自主的取組を支援すること。また、そのような取組を行う企業のインセンティブとなるよう、そうした評価を考慮に入れた入札参加制度の推進等を図ること
  5. 社会全体でワーク・ライフ・バランスを推進するため、政労使等で構成されたワーク・ライフ・バランスの推進会議の開催等を行い、職場における労働者間の意識改革を含め、国民的運動を推進すること

(3)地域における「働き方の改革」を具体的に推進する体制の構築

地域によっては労働時間の短縮とともに、安定した雇用機会の創出を進めていくなど、地域によってワーク・ライフ・バランスに対するニーズは異なることから、この推進に際しては、地域の労使団体の積極的な参画・協働を基本として、これに国や地方自治体の資源やネットワーク等を活用することが重要である。支援施策の方向性として以下のような

ものが考えられる。

  1. 地域の労使団体を中心とし、それに国及び地方自治体を加えた推進体制の整備を図り、その下で、地域の実情に応じた普及、展開を図ること
  2. このような推進体制の下で、地域において社会奉仕活動を行う団体等への働きかけを通じた中小企業経営者への動機付けを行うこと

(4)「働き方の改革」の推進に向けた社会の仕組みの見直し

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、企業や労働者の努力等により「働き方の改革」を進めるに当たり、そうした「働き方の改革」を可能とする社会的条件を整備することも必要である。支援施策の方向性として以下のようなものが考えられる。

  1. 働き方の多様化や個人・家族の様々なニーズに対応した子育て等支援サービスの地域における確立・充実を図るとともに、事業主による子育て支援サービスの提供を支援すること
  2. 企業がワーク・ライフ・バランスを推進する際、取引関係や消費者の理解が鍵となることが考えられることから、企業間において計画的な発注、納期の促進等を図るとともに、消費者も、サービスを提供する労働者の働き方について配慮する社会的気運の醸成を図ること
  3. 税や社会保障制度などにおいても、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、多様な働き方に対して中立的な制度のあり方について検討していく必要がある。

以上のような施策を含め、国民の働き方についての意識や企業の行動を変えていくためには、関係府省や自治体が一体となって、総合的かつ体系的な施策の展開を図っていく必要がある。このため、「ワーク・ライフ・バランス憲章」及び政府において「働き方の改革を推進する行動指針」を策定することが必要である。

4 まとめ

今回、当分科会では、労働者個人やその家族のライフステージごとに生じるニーズへの対応を容易とするワーク・ライフ・バランスの推進に資する「働き方の改革」について、その目指すべき方向性や支援施策等を五回にわたり、検討・議論を行い、議論の整理(中間報告)としてとりまとめた。

今後、この「働き方の改革」を進めることにより、労働者個人やその家族がライフステージごとに希望する暮らしを実現し、将来の社会を担い、支えることになる子どもたちを安心して育てることができるよう、社会全体での環境整備が必要である。

このため、政府においては、この「働き方の改革」分科会における議論の整理(中間報告)に盛り込まれた支援施策等の提言のうち、予算措置や法制度の見直しが必要な措置については早急に検討に着手すべきである。

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