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少子化対策

平成17年度 少子化社会対策に関する先進的取組事例研究報告書―概要(HTML版)

平成18年3月
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)

<目次>

1 調査研究の概要

2 わが国におけるワーク・ライフ・バランス施策の全体像
2.3.1 育児休業・介護休業
2.3.2 勤務時間のフレキシビリティ
2.3.3 勤務場所のフレキシビリティ
2.3.4 休暇関係
2.3.5 長時間勤務の抑制(働き方の見直し)
2.3.6 再雇用制度
2.3.7 経済的支援
2.3.8 情報提供・相談
2.3.9 事業所内保育施設
2.3.10 その他

3 ワーク・ライフ・バランス施策先進事例の分析~導入目的、推進ノウハウ、効果~
3.1.1 人材力の向上
3.1.2 企業イメージの向上
3.2.1 ワーク・ライフ・バランス施策推進に対する「経営意思」の周知徹底
3.2.2 ワーク・ライフ・バランス施策に関する従業員側のイニシアティブ
3.2.3 ワーク・ライフ・バランス施策と整合的な人事評価制度
3.3.1 優秀な人材・女性人材の定着
3.3.2 人材育成のコスト低減と高密度化
3.3.3 従業員満足度の向上
3.3.4 業務の改善
3.3.5 採用応募者の量・質の向上
3.3.6 企業イメージ・評価の向上
3.4.1 大企業 vs 中小企業
3.4.2 「B TO C」 企業 VS 「B TO B」 企業
3.4.3 「成果主義」 VS 非「成果主義」

1 調査研究の概要

1.1 調査研究の背景と目的

少子化対策の重要な課題である「働き方の見直し」のためには、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)に向けた、企業の自主的かつ積極的な取組が不可欠である。

ワーク・ライフ・バランスに関する諸外国の先進的取組事例の調査をみると、ワーク・ライフ・バランス施策によって、従業員の生活の質が向上すると同時に、企業業績にも効果(メリット)があったと報告されている。また、こうした先進的取組事例についての成功要因を分析し、他の企業に情報提供を行うことにより、ワーク・ライフ・バランスに向けた企業の取組を推進することとしている。

わが国において、ワーク・ライフ・バランスに対する企業などの取組が十分に進まない背景には、具体的な方策についての情報が不足していること、取組による企業にとっての効果(メリット)が明らかになっていないことなどがあると考えられる。

内閣府では、みずほ情報総研株式会社に委託して、仕事と子育ての両立支援に結びつくワーク・ライフ・バランスに関して先進的な取組事例を収集し、特徴や傾向、取組の成功要因などの分析を行った。具体的な調査内容は以下の通りである。

  1. ワーク・ライフ・バランスに関する企業などによる先進的取組事例の情報を収集し、その取組内容について整理することで、わが国におけるワーク・ライフ・バランスへの取組内容のバリエーションを探る。
  2. 詳細な情報が得られた先進的な事例について、ワーク・ライフ・バランス施策の導入の経緯、施策の運用と活用の実態、施策導入による効果、取組成功のポイントなどを分析する。
  3. ワーク・ライフ・バランスへの取組を進めようとする企業などの示唆となるように、ワーク・ライフ・バランス施策のメニューやその効果、成功ポイントを整理する。

1.2 調査研究の方法と対象

1.2.1 国内事例文献調査

下記の方法により新聞・雑誌記事の検索を行った。

(1)検索期間

検索期間は、2000(平成12)年1月~2005(平成17)年11月の5年11ヶ月とした。

(2)検索方法

検索においては、下記の情報検索サービスを利用した。

新聞:日経テレコン21(日本経済新聞、日経産業新聞、日経流通新聞、日経金融新聞)、G-search(北海道新聞、山形新聞、河北新報、下野新聞、東京新聞、中日新聞、中国新聞、西日本新聞、静岡新聞、北國・富山新聞、京都新聞、神戸新聞、愛媛新聞、高知新聞、熊本日日新聞、南日本新聞、琉球新報)

雑誌:国立国会図書館 蔵書検索・申込システム(NDL-OPAC

1.2.2 国内企業インタビュー調査

わが国の企業におけるワーク・ライフ・バランス施策の先進事例を集めるため、前述の文献調査より先進的に取り組んでいると思われた20社に対しインタビュー調査を実施した。

(従業員の少ない順)

企業名 従業員数 事業内容 ワーク・ライフ・バランス施策に関する特徴
株式会社 カミテ 30名 プレス金型設計・製作等 男性の育児休業の利用あり。事業所内保育施設の設置。
株式会社 太陽商工 56名 建設 短時間勤務制度の導入。子どもの学校行事参加のための時間休の承認。結婚・出産退社した従業員の請負契約による在宅勤務の実施。
拓新産業 株式会社 70名 建機リース 週休2日制度の完全実施。有給休暇の完全消化推奨。柔軟な育児短時間勤務の設定。
株式会社 イノス 103名 情報サービス 1990年代初めより育児による短時間勤務を制度化。また従業員のニーズに応じて在宅勤務も制度化。
大福信用金庫 113名 金融 女性の登用促進のためのリーダー会議の開催。
株式会社 WOWOW 237名 衛星による放送事業(有料放送を含む) 妊婦の特別有給休暇、看護有給休暇の設定。全従業員を対象としたフルタイム・フレックス制の導入。
福島印刷 株式会社 370名
(派遣・パート含む)
ビジネスフォーム印刷 契約・パート社員への育児休業の適用。短時間勤務を3パターンより選択可能。半日単位での有給休暇を年20回取得可能。
エスアイアイ・マイクロテクノ 株式会社 422名 精密機械部品・製品製造 1980年代後半に多くの従業員が妊娠・出産の時期を迎え、それに対応する形で育児休業を制度化。
株式会社 ふくや 583名
(準社員・パート含む)
食品製造・販売 育児のための勤務体系を7パターンから選択可能。子どものための行事に業務時間内で参加可能。地域の役職参加のための手当あり。
河村電器産業 株式会社 1,054名 電気・電子機器製造・販売 法定を超える育児休業期間の設定。短時間勤務制度の設定。
株式会社 関西スーパーマーケット 1,137名 流通(スーパーマーケット) 3パターンから選択できる育児・介護短時間勤務制度の設定。男性の利用もあり。
株式会社 新生銀行 2,152名 金融 事業所内保育施設の設置。法定を超える育児休業期間の設定。
ミツカングループ 2,939名
(派遣・パート含む)
食品製造 育児休業期間中に雇用保険に上乗せしての経済的支援の実施。職種によりフレックスタイムを適用。
株式会社 資生堂 3,126名 化粧品製造・販売 法定を超える育児・介護休業期間の設定。短時間勤務制度も法定の期間を超えて設定。事業所内保育施設を設置。
住友商事 株式会社 4,643名 総合商社 法定を超える育児休業制度の設定。ワーク&ライフ・バランスポリシーの制定。カウンセリングセンターの設置。
ニチレイグループ 5,575名 食品製造等 女性従業員の登用からはじめ、OG社員の派遣制度、在宅勤務制度(トライアル実施)、長時間労働の見直し、ワーク・ライフ・バランスセンターの設置を実施。
株式会社 高島屋
(注:高島屋の「高」の漢字は、高である。)
7,477名 流通(百貨店) 育児休業、再雇用制度を1980年代より導入。90年代初めより各種の時短・時差勤務制度を実施。
富士ゼロックス 株式会社 14,413名 情報通信機器製造販売 男性の育児休業取得あり。法定を超える介護休業期間の設定。休業開始前の面談の実施。短時間勤務制度の導入。育児のための深夜業及び時間外労働制限制度の導入。
日本IBM 株式会社 19,145名 情報サービス 法定を超える育児休業制度の設定。育児・介護を理由とした短時間勤務のほかに全従業員が対象となるフレックスタイム制度、在宅勤務制度あり。イントラネット上での情報提供サービスを実施。
日産自動車 株式会社 32,117名 自動車製造 法定を超える育児・介護休業期間の設定。フレックスタイムと短時間勤務の設定。事業所内保育施設を設置。

1.2.3 海外事例文献調査

ワーク・ライフ・バランスへの取組においては欧米諸国がわが国に先行しており、本調査研究でいう「成功」事例とされるものも少なからず見出されている。そこで、米国、英国、ドイツの事例についても文献調査を行い、わが国におけるワーク・ライフ・バランス施策推進のための有用な示唆を得ることとした。

1.2.4 有識者インタビュー調査

下表の有識者に対してインタビューを行い、以上の文献調査、企業インタビュー調査、海外事例調査を実施、とりまとめるにあたっての助言を得た。なお、P&Gの北尾氏・柴山氏へのインタビュー内容の一部は、同社に関する企業情報としても活用した。

(順不同)


氏名(敬称略) 所属・役職
大沢 真知子 日本女子大学 人間社会学部 教授
北尾 真理子
柴山 純
P&Gファー・イースト・インク 
ヒューマン・リソーシズ ダイバーシティ担当マネージャー
エクスターナルリレーションズ 
ダイバーシティ担当シニアスーパーバイザー
榊原 智子 読売新聞東京本社 編集局生活情報部 記者
武石 恵美子 ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員
パク・ジョアン・スックチャ 有限会社アパショナータ代表 ワーク・ライフ・コンサルタント

2 わが国における ワーク・ライフ・バランス施策の全体像

2.1 ワーク・ライフ・バランス施策の定義と類型

「ワーク・ライフ・バランス」(work-life balance)とは直訳すると「仕事と生活の調和」となり、それに関する施策とは、労働者が仕事一辺倒ではなく、それ以外の生活とうまくバランスがとれるようにするための施策をいう。従来「ファミリー・フレンドリー」施策という言葉がよく聞かれていたが、これはどちらかというと、家族を支援するというところに重点が置かれ、子育て支援が中心の概念であった。しかし近年、ファミリー・フレンドリーではなくワーク・ライフ・バランスという言葉が用いられるようになったのは、仕事とのバランスは家庭生活にだけ限定されるものではなく、性別や年齢に関係なく、家族への支援を必要とする人もそうでない人も対象となるような施策が必要である、という考え方が広まってきたからである。現在のところ、ワーク・ライフ・バランスに厳密な定義はないが、英国の貿易産業省では、「働き方を調整することによって、全ての人が仕事と仕事以外の生活について、充実感をもち、与えられた責任を果たせるようなリズムを見つけること」と定義している。

図表2‐1 ワーク・ライフ・バランス施策の類型

休業制度 育児休業
介護休業
休職者の復帰支援
休暇制度 看護休暇
配偶者出産休暇
年次有給休暇の積立制度
働く時間の見直し 勤務時間のフレキシビリティ(フレックスタイム制度/就業時間の繰り上げ・繰り下げ)
短時間勤務制度
長時間勤務の見直し
働く場所の見直し 勤務場所のフレキシビリティ(在宅勤務制度/サテライトオフィス制度)
転勤の限定
その他 経済的支援
事業所内保育施設
再雇用制度
情報提供・相談窓口の設置

2.2 ワーク・ライフ・バランス施策類型ごとの導入状況

2003(平成15)年7月に次世代育成支援対策推進法が制定され、各企業に行動計画の策定が義務付けられたが、同法が施行された2005(平成17)年には、そのワーク・ライフ・バランス施策について新聞・雑誌で採り上げられる企業が急増した。

図表2‐2 新聞・雑誌上でワーク・ライフ・バランス施策が採り上げられた企業数

(注)同一企業が同一年内に複数回取り上げられた場合は1社と計数。
(資料)みずほ情報総研作成。

図表2‐3 各種ワーク・ライフ・バランス施策の導入状況

(注)グラフは、各施策について記事の中で採り上げられた企業の実数。
(資料)みずほ情報総研作成。

2.3 各ワーク・ライフ・バランス施策の詳細

インタビューを行った企業から得られた情報をもとに、一部に文献情報も加えて、ワーク・ライフ・バランス施策それぞれの具体的な制度内容や運用実態についてまとめる。

2.3.1 育児休業・介護休業

<この項のポイント>

  • 育児休業・介護休業ともに法定を超える期間設定や利用要件の緩和などがなされるとともに、復職支援についても面談、資料送付、情報技術(IT)を利用したコミュニケーション・学習支援など様々な工夫がなされている。
  • 男性の育児休業取得を促進するために、短期の育児休業の設定、奨励金の支給、利用要件の緩和(配偶者要件の撤廃)などを行い、中には男性の利用が進んだ企業がある。男性の取得者の意見を社内広報などに採り上げることで、制度利用に関する職場内の認識が進んだことを挙げる企業もあった。
  • 育児・介護とも休業中は「ノーワーク・ノーペイ」原則を採る企業が多いが、人事評価・処遇において休業が不利に働かないように休業期間を評価の対象外とし、本人の能力を客観的に評価しようとする企業が多くみられた。
2.3.1.1 育児休業(制度内容・利用状況)

(1)制度内容(期間・利用要件)

◆法定を超える期間設定の状況

育児休業期間について、法定(原則として子が1歳に達するまで、保育所に入所を希望しているが入所できない場合など一定の要件を満たせば1歳6ヶ月まで利用可能)を超える期間設定をしている企業についてその状況をみると、対象児の年齢上限が満1歳に達した後の3月末/4月末、満2歳、満3歳などのパターンで設定されていた。期間の設定については、従業員の要望や法制度の改正動向に合わせて、徐々に延長してきた傾向が見受けられる。

男性も育児休業を取得しやすくするために、取得期間が2週間以内の短期の場合は有給としたことで利用が進んだ企業もある(資生堂)。

◆利用要件の緩和

育児休業について、女性に対する制度といった従来の概念を超えて、男女に関わらずワーク・ライフ・バランスを支援する観点から、配偶者が常時子どもを養育できる状態にある場合であっても育児休業制度を利用できるようにするなど、利用要件を緩和している企業もある(住友商事、富士ゼロックス)。

(2)利用状況

◆男女の利用状況

育児休業の利用はほとんどが女性であるが、男性も一部の企業で利用している(富士ゼロックス、ミツカングループ、日産自動車、日本IBM)。男性の利用が進んでいる企業では、取得者の声が社内広報や外部マスコミに採り上げられたことで、制度利用に関する職場内の認識が進んだと指摘している。男性の取得者がある企業では、取得は主に技術開発職や研究職など比較的裁量性がある職務につく従業員に集中する傾向がみられた(富士ゼロックス)。

◆取得のしやすさ、周囲の反応など

育児休業については制度の周知やその利用への理解が広まってきており、何れの企業においても「職場内の理解がある」「取得しやすい雰囲気である」などの回答を得た。取得者自身にも当然のように取得できる制度と意識されているという回答が多かった。

その一方で、部署によっては休職者の職場復帰に対する理解がないなどのため、休業取得者に対する考え方などに関する管理職研修や制度周知の必要性を指摘する意見もあった。

2.3.1.2 介護休業(制度内容・利用状況)

(1)制度内容(期間・利用要件)

◆法定を超える期間設定をしている企業

介護休業制度について、インタビューを行った企業20社の中では、法定(対象家族1人につき、要介護状態に至るごとに1回、通算93日まで利用可能)を超える制度を導入している企業が多く、期間を延長して要介護者1人1回につき1年までというものが最も多かった。また、延長を可能としたり回数制限をなくしたりするなどの取組がみられた。

◆利用要件の緩和

介護休業制度の利用について、法定では「同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること」という条件があるが、入社1年に満たない従業員も申請できるようにしている企業がある(ミツカングループ)。

対象とする要介護者の範囲について、法定では適用除外となっている同居・扶養していない祖父母を対象に含める企業がある(資生堂、日産自動車)。

(2)利用状況

法定超の制度を導入している企業でも、利用実績は数件にとどまっている状況であるが、利用者層は育児休業と異なり男性の比率が高い。介護を必要とする年代であることもあり、管理職の取得者が多いことも特徴である。

2.3.1.3 育児休業・介護休業の運用状況

(1)休業期間中の所得保障について

◆休業中は無給の場合がほとんど

育児休業中の所得保障については、いわゆる「ノーワーク・ノーペイ」原則をとっている場合がほとんどであった。

◆経済的補填の具体的内容

一部の企業では、雇用保険からの休業給付金に上乗せした経済的補填が行われていた(ミツカングループ、資生堂)。次世代育成支援の観点から、家族手当などを組み替えて育児休業制度の法定超の期間における経済的補填に充てることについて検討しているとする企業もある(河村電器産業)。

(2)人事評価・処遇への影響

休業による人事評価・処遇への影響は、各々の企業が採用する人事評価の考え方及び体系に拠る部分が大きい。具体的な手法は様々であったが、一般的には、年功賃金制から能力・成果主義へと企業における評価のあり方が転換しつつある中、育児・介護休業についても取得が評価上マイナスに働くのではなく、取得如何に関わらず本人の能力を客観的に評価して処遇に反映させていこうとする企業が多くみられた。

◆業績評価・給与評定への影響

育児・介護休業期間は業績評価の対象から外し、休職以前と復帰後の実働している期間で以って業績を評価し、給与評定に反映させている企業が多かった(エスアイアイ・マイクロテクノ、資生堂)。すなわち、休業の取得によって、業績評価とそれに連動する給与評定が下がることはない仕組みとされている場合が多い。

◆昇格への影響

昇格のしくみは企業により様々であるが、今回インタビューをした企業の中には、休業による勤続年数の減少を昇格に対しマイナスに影響させないような工夫がみられた。完全な能力主義であるため、休業そのものが直接的に人事評定に影響することはないとする企業もある(日産自動車)。

一方で、昇格には一定の勤続年数が必要としているような企業の場合には、休業期間は算入されないため、休業の取得が昇格に影響する状況もあった。

◆復職後の人事評価を重要視し、具体的な取組をする企業も

休業から復職後の人事評価をしっかりとやらないと、利用者自身や周囲から不平不満が出るとして、復職後の人事評価を重視し、評定者研修で休業からの復帰者の評価について特に採り上げている企業もあった(エスアイアイ・マイクロテクノ)。

(3)復職の状況・復職支援

◆原則として原職復帰の場合が多いが、個別事情を勘案

多くの企業で原職復帰が原則とされていたが、従業員側の意向や企業側の事情を考慮して利用者と相談の上で必要に応じて異動もありうる、という形が一般的であった。本人が配置転換を希望する場合は対応するようにしている企業が多い。

◆復職支援

休業前・復職前の人事部や上司との面談や、休業期間中の職場の情報伝達など、休業前から復帰までを通じた復職支援を行う企業が数社あった。面談以外の具体的方策としては、資料の送付、インターネットを活用したコミュニケーション・学習支援ツールの提供、イントラネットのアクセス許可などがあった。

(4)代替要員・業務量調整

◆判断は各部署に委ねられる場合が多い

休業取得者が出ることによる代替要員の確保や業務量の調整については、多くの企業において各部署に判断を委ねつつ、各現場の状況や要望を優先してケースバイケースで対応されていた。各部署から対応策について本部に提案してもらい、それに可能な限り対応する形を採っているとする企業もあった(河村電器産業)。

管理職が制度を取得する場合は、部署の体制を維持するために休業取得前に人事異動を行い(降格ではない)、代替要員を管理職として配置する企業がある(高島屋)。その一方で、管理職が休業する場合でも、休業期間中その職を解くことなく、その間の当該部署の管理は他の課長や当該部署の部長が兼任する形で対応している企業もあった(日産自動車)。

◆代替要員の確保や業務量調整の具体的方策

先に述べたように、多くの企業が休業取得者については原職復帰を原則としていることもあって、代替要員を置く場合も正規従業員を充てる場合は少なく、多くが派遣社員や契約社員で一時的な対応を図っていた。

しかし、秘書や銀行事務業務など一定の定数が必要となる職務や、マネジャー職などの管理業務については、正規従業員による代替を行う場合(但し原則とはしていない)もあった(富士ゼロックス、大福信用金庫、高島屋)。正規従業員で代替する場合も、休業者の職場復帰は本人のキャリア維持を考慮して行い、原職復帰となる場合は通常の人事異動の中で定員超過とならないように配慮した人事が行われていた(高島屋)。

業務量調整については、部署内で業務のシェアを調整するなどの方策が主であった。また、組織変更が頻繁に行われているため、それにより必要に応じてマンパワーが調整できているとする企業もあった(日本IBM)。

2.3.2 勤務時間のフレキシビリティ

<この項のポイント>

  • 勤務時間のフレキシビリティを図る制度として、「短時間勤務」、「時差勤務(就業時間の繰り上げ・繰り下げ)」、「フレックスタイム制」、「裁量労働制」などが導入されていた。
  • 制度の利用要件として育児・介護事由を挙げる企業が多いが、事由を限定せず多様な事由で活用できる制度として位置付ける企業もある。
  • 短時間勤務制度利用の場合、給与は時間短縮分を圧縮する場合が多いが、昇給・昇格については能力評価のため「影響はない」とする企業が多かった。
  • 短時間勤務制度などの利用者への対応や業務量の調整などには「管理職のマネジメントが重要」との意見があり、管理職を対象としたマネジメント研修を実施する企業もあった。

(1)制度内容(類型・内容・利用要件)

◆制度の類型

勤務時間のフレキシビリティを図る制度の類型は、「短時間勤務」「時差勤務(就業時間の繰り上げ・繰り下げ)」「フレックスタイム制」「裁量労働制」などであった。

◆「短時間勤務」制度の制度内容や利用者について

「短時間勤務」については、勤務時間の短縮幅を2~3時間程度、30分単位に設定する場合が多いが、時間短縮のパターンを処遇と連動させて複数設定し、従業員が選択できる形を採る企業がある(高島屋、富士ゼロックス)。中には、パターンを設定せずに個人の判断に任せ、1日あたりの勤務時間が短縮できるだけでなく、1週間の勤務日数を短くする「短日勤務」の制度をもつ企業(イノス)や、1日当たり勤務時間を減らす替わりに勤務日数を増やして(休日を減らして)総労働時間は不変とすることを選択できるようにしている企業(高島屋)もある。また、妊娠中に出勤時刻を30分または1時間遅くして勤務したり、時間短縮したりできる制度もみられる(高島屋、太陽商工)。

利用できる期間は、育児の場合は子が3歳まで、小学校就学まで、小学校3年生または4年生に上がるまで、中学校入学までなど多様な設定がみられる。介護の場合は、1回1年以内、通算3年までなどの設定がみられる(資生堂)。

◆育児・介護理由が主だが、理由を限定しない企業も

短時間勤務制度の利用事由については、育児を事由とする場合が最も多く、併せて介護も同等の扱いをする企業が多くあった。このように育児・介護に限定したケースが多数であるが、事由を限らずに多様な理由で活用できる制度としている企業(福島印刷)や、業務上必要となる資格取得などの理由でも例外的に認めるなどケースバイケースで判断するとする企業(日本IBM、太陽商工)もある。

◆対象者の状況・要望に応じたきめ細かな制度の設定

特に短時間勤務制度については、対象者の状況や要望に応じて企業として対応可能な範囲で制度内容をきめ細かに設定している企業があった。具体的には、時間短縮幅のパターンを当初の2パターンから5パターンに増やした企業(高島屋)や、分割取得のパターンの拡大や利用要件の緩和、月度精算型の導入など従業員ニーズに応じて細かな制度の見直しを行った企業(富士ゼロックス)などがある。また、勤務時間によっては、正規従業員ではなくパート従業員になってもらい、再度正規従業員に戻ることを選択できる仕組みを設けている企業(ふくや)もある。

◆短時間勤務以外の制度~「フレックスタイム制」「裁量労働制」など

「フレックスタイム制」「裁量労働制」については、技術職、研究開発職など業務の裁量の幅が多い部署に限定している場合(ミツカングループ、日本IBM〔裁量労働制のみ〕)がある一方、「フレックスタイム制」について管理職を除く全従業員を対象としている場合(資生堂)もある。時間管理はするがコアタイムがなく、月次繰越もできるフルフレックス制を導入することで保育所のお迎えなどに対応しやすくしている企業(WOWOW)もある。

裁量労働制については、現在既に導入しているのは一部の企業・職種に留まった。ホワイトカラーについて一定の要件の下に労働時間規制の適用を除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」(注釈1) の新設を待望する意見も一部企業から聞かれた。

(2)利用状況

◆男女の利用状況

勤務時間のフレキシビリティを高めるための制度の利用について、利用者を女性に限定しているわけではないが、実態としては育児を事由とする場合の利用者はほとんどの企業で「全て女性」と報告された。一方、男性の取得例がある企業もある(高島屋、富士ゼロックス)。介護を事由とする場合は、男性の方が取得件数が多くなっている場合もあった(富士ゼロックス)。

◆部署・職務・雇用形態別の利用状況

部署・職務などによって取得の多寡に違いはないとする企業(エスアイアイ・マイクロテクノ)もあるが、管理職である場合や、残業が多かったり勤務時間が通常でなかったり安定しなかったりする部署に属している場合は、取得が難しいとの指摘が一部の企業からあった。制度利用を希望する従業員で従来の部署では制度利用が困難な場合、本人の希望を踏まえて異動をさせることによって対応している企業もあった(河村電器産業)。

◆取得のしやすさ、周囲の反応など

休業ではないため代替者を置くことにはならないので、休業よりもむしろ取得に制約がある傾向が見受けられた。部署や職務内容によっては取得が難しい状況がある。しかし一方で、取得の先行事例が出ることによって、取得しやすい雰囲気となっている企業も複数あった。

企業としては、子育てと仕事を両立しようとしている従業員が与えられた時間内でいい仕事をしたいと考えて業務の効率化に寄与しているという肯定的な見方もみられた。また、他の従業員も定時退社しやすい環境がつくり出されているという意見もあった。

(3)人事評価・処遇への影響

◆給与は時間短縮分を圧縮するケースがほとんど

短時間勤務制度を利用する従業員の給与は、短縮した時間分の給与を圧縮するケースがほとんどであった。圧縮比は時間短縮の時間比とする場合が多かったが、福利厚生サービスなどのベネフィットは変えられないことを勘案して給与圧縮比をより多くするケースもあった(日本IBM)。

一方、成果主義を採っており半年ごとに基本給を見直すが、その改定幅が通常15%上下の範囲であるところを、育児休業からの復職後に時間外勤務の免除や短時間勤務を利用する従業員については、安定した賃金形態とするために改定幅を2~3%程度上下の範囲に抑える方向で検討している企業もある(WOWOW)。

◆昇級・昇格への影響

短時間勤務などの制度利用による昇級・昇格への影響については、「影響はない」とする企業が比較的多かった。職務要件に規定された能力を満たしていれば上位職階への登用を行うため勤務時間は関係ないとする企業(日本IBM)、処遇の圧縮は時間比で給与で調節するが、人事評定は時間比に応じて目標設定も圧縮することにより、その目標への達否を基準として行うため、昇級・昇格には影響しないとする企業(富士ゼロックス)などがあった。

◆利用者の納得と周囲の理解のため処遇調整が重要

勤務時間のフレキシビリティを図る制度を実施している企業からは、制度の利用者自身が納得してモラルを維持して働き続け、また周囲からも「制度利用者だけが楽をしている」といった見方ではなく理解を得るために、制度利用時の処遇の調整を重視する意見が聞かれた。

(4)代替要員・業務量調整

短時間勤務制度などの利用者への対応ならびに部署内での配慮・対応は、管理職のマネジメントに任されるため、管理職のマネジメント力強化が重要であるとの指摘がしばしばあった。管理職を対象とする研修におけるワーク・ライフ・バランスの視点を入れたマネジメント研修の実施(資生堂)、短時間勤務制度などの利用者の管理や人事考課に関する内容の管理職研修への盛り込み(高島屋、富士ゼロックス)などの取組がみられる。

2.3.3 勤務場所のフレキシビリティ

<この項のポイント>

  • 勤務場所のフレキシビリティを図る制度として、導入企業は少ないものの「在宅勤務」、「勤務地の限定(転勤の制限)」、「サテライトオフィス」などがみられた。
  • 勤務場所のフレキシビリティを図る制度は、顧客や取引先と対面で対応する必要性が低い情報サービス産業などで制度の導入が図られている傾向がみられた。
  • 在宅勤務の場合、仕事と生活の切り分け、他の従業員とのコミュニケーション不足が課題として指摘されたが、ガイドライン作成や出社時のコミュニケーションの充実などにより対応が図られていた。

(1)制度概要と運用の実態

勤務場所のフレキシビリティを図るための制度の類型は、「在宅勤務」「勤務地の限定(転勤の制限)」「サテライトオフィス」などであった。このほか、顧客が集中している場所に情報機器を設置し、それらを活用して仕事ができるような仕組みを整えている企業もある(日本IBM:「オンデマンド・ワークスタイル」)。

制度の利用要件に関し、「在宅勤務」については育児・介護に事由を限定している場合が多いが、当初は育児・介護に事由を限定していたものを事由や職種・職階を問わず全従業員(一部を除く)に対象を拡大した企業もある(日本IBM)。また、部分的に在宅とする場合と完全在宅とする場合の二つの制度を選択できる形にしている企業もある(ニチレイグループ:トライアル実施中)。

在宅勤務の運用は、インターネットを経由して会社のイントラネットにアクセスして仕事をする。イントラネットにアクセスして上司と連絡をとったり、就業時間を会社に報告したりしている。

なお「勤務地の限定(転勤の制限)」について明確に制度化している企業は少なかったが、制度化はしていないが育児などの事情に個別に配慮しているとする企業(関西スーパーマーケット)、一部の職種を除いて地域採用に近い形を採っているため転居を伴う異動が実態としてほとんどないとする企業(河村電器産業)もあった。

(2)人事評価・処遇への影響

給与は、事務所で勤務する場合に比べて後輩への指導などの業務量の軽減があるため、減らしているとする企業がある。昇給・昇格は上司の評価によるが、在宅の場合は通常勤務の者と比較して100%同じ条件下で評価することは難しいとのことであった(以上、イノス)。

(3)効果と課題

在宅勤務やサテライトオフィスなど勤務場所のフレキシビリティを図るための制度を導入し、本格的に運用している企業は限られていた。運用にあたっての課題としては、在宅勤務の場合どうしても仕事と生活の切り分けが難しく、長時間勤務になってしまうこともあるので、その点については過度にならないよう注意しているといった意見などがあった(イノス)。こういった問題に対応するために、在宅勤務制度に関する労働安全衛生上のガイドラインなどを整備している企業もある(日本IBM)。

2.3.4 休暇関係

<この項のポイント>

  • 「医療休暇」、「家族看護・介護休暇」、「半日休暇」など法定の有給休暇以外に家族の事情などにより柔軟に休暇を取得できるように支援する様々な休暇制度が多くの企業で設けられていた。
  • 運用については、無給の場合と、積立休暇を活用して有給化している場合の双方がある。

休暇関係については、インタビュー対象とした企業の多くで法定の有給休暇や産前産後休暇以外に、様々な休暇制度が設けられていた。有効期限が切れた有給休暇を積み立てて様々な事由で利用できる積立休暇制度のほか、医療、家族看護・介護、妊婦や児童の健検診、出産などを事由として取得できる特別な休暇制度が設けられていた。また、「半日休暇制度」や「アニバーサリー休暇制度」など、休暇取得を促進するための制度もみられる。

子どもの学校行事などによる時間休の取得や遅刻・早退を制度化はしていないが部門長の裁量の下に認めているとする企業(太陽商工)や、業界としては異例の週休完全2日制を徹底して有給休暇取得を積極的に促進している企業(拓新産業)もある。

2.3.5 長時間勤務の抑制(働き方の見直し)

<この項のポイント>

  • 長時間勤務の抑制(働き方の見直し)を目指す取組として、「残業(ないし休日出勤)の原則全面禁止」、「業務効率化のための研修」、「業務フロー見直し」などがみられた。
  • 残業時間を重要管理項目として扱い、毎月の部署の報告項目に組み込むことで、残業削減に取り組む企業もある。
  • 取組を進める企業で共通して指摘されたのは、長時間労働や残業は「コスト」や「リスク」であるという観点から削減すべきものであり、その意識を管理職をはじめとした従業員に浸透させていくことの重要性であった。

(1)制度・取組の概要

長時間勤務の抑制や働き方の見直しについて企業として取組が最も多かったのは、育児・介護などの事由がある場合の時間外労働や深夜業の制限(法定通りの場合と、適用要件の拡大など法定超の取組をしている場合がある)、定時退社日の設定(「ノー残業デー」)などであった。

上記以外で効果を狙った取組としては、残業(ないし休日出勤)の原則全面禁止(トリンプ、新日鉄ソリューションズ)、業務効率化のための研修実施や業務フローの見直し(大福信用金庫)または事務のIT化(新生銀行)などがみられる。残業実績をモニタリングして無駄な残業の抑制を図ろうとする企業もある(ミツカングループ)。全社横断的なプロジェクトチームや委員会を立ち上げ各部門で長時間勤務の抑制を実現化していってもらうような取組(ニチレイグループ、資生堂)や、従業員を対象とした時間の効率的な活用に関する研修の実施(住友商事)も一部にみられている。

(2)取組の効果と課題

長時間勤務の抑制(働き方の見直し)のための取組の成果として、企業では、従業員の在社時間が減少し、早期の帰宅が定着してきている。これにより従業員の間で仕事を効率的に進めることについて意識が芽生え、無駄を省いた効率的な業務の推進が図られ、企業としても残業のための超過コストを支払わなくてよいなどメリットがあるという見方があった。加えて、従業員自身についても仕事以外の時間を十分にもてるようになって、多様な価値の体得や家庭生活が安定することによる仕事への好影響があるという意見であった。

こういった取組を進める企業で共通して指摘されていたのは、長時間労働や残業は「コスト」や「リスク」であるという観点から削減すべきものであるということについて、管理職をはじめ従業員に意識を徹底していくことの重要性であった。部署の業務をマネジメントする管理職の立場にある従業員の意識改革が特に重要との指摘も一部にあった。

2.3.6 再雇用制度

<この項のポイント>

  • 家庭の事情でいったん退職した従業員について再雇用する制度を設けている企業があった。出産・育児による女性のキャリア中断への対応のほか、配偶者が転勤する従業員についてのワーク・ライフ・バランスを長期的に図るという意味合いがあるようであった。

インタビュー調査では、家庭の事情など何らかの理由によっていったん退職した従業員を再雇用する制度を設けている企業が数例みられた(高島屋、ニチレイグループ、関西スーパーマーケット、日産自動車)。

この制度は、出産・育児による主に女性のキャリア中断への対応という意味合いがあるほかに、配偶者が転勤する従業員についてそのワーク・ライフ・バランスを長期的に図るという意味合いも含まれているようであった。また、知識・技能の習得に一定程度の期間がかかる業務の場合、せっかく育てた人材であるので再度働く意向があれば有効に活用することは、企業にとってもメリットであるとの考え方が聞かれた。

2.3.7 経済的支援

<この項のポイント>

  • 経済的支援は福利厚生メニューの一つとして扱われる場合が多いが、いわゆるワーク・ライフ・バランスや子育て支援の観点から子どもの成長に合わせた祝い金などの支給に独自に取り組む企業もあった。
  • また自己啓発を支援するために、通信教育の受講や資格取得の費用を助成する制度や、地域活動への参画に対して手当を支給する制度をもつ企業もあった。

ワーク・ライフ・バランスに関わる経済的支援として多くみられたものは、保育料・ベビーシッター費用の補助、介護ヘルパー・介護機器費用などの助成、共済会などによる休業中の所得補償や家族事情による緊急的な支出に対する融資などであった。これらの支援は、大企業の場合は、福利厚生のためのカフェテリアプランに組み込まれるなど、選択可能な福利厚生メニューの一つとして扱われている傾向にある。

いわゆるワーク・ライフ・バランスや子育て支援という観点で独自に行われていた取組としては、前述したミツカングループの育児休業期間中の一部給与の支給、出産祝い金(コンビなど)、子どもの成長に合わせた祝い金(三洋電機)などがあった。企業によってはかつて実施していた祝い金などの措置を、従業員属性に左右されない処遇という観点から取りやめた企業もあるが、一方で次世代育成支援の観点から取組を継続、または新規に始める企業もある。

また、従業員の自己啓発を支援するために、通信教育の受講や資格取得の費用を助成する制度をもつ企業もある(太陽商工、高島屋)。なお、自己啓発の意味を込めて、PTA会長など地域活動の中で指導的役割を担う人に対して、手当を出している企業もある(ふくや)。

2.3.8 情報提供・相談

<この項のポイント>

  • 従業員がワーク・ライフ・バランスを図ることを支援するために、各種の情報提供や相談・カウンセリング窓口を設置した企業があった。
  • 従業員にワーク・ライフ・バランスに関する企業の考え方や施策などを浸透させるため、意識改革や情報周知を重視した各種啓発活動もみられた。
  • 中小企業については、小規模の良さを活かして社長と従業員、従業員同士が懇親を深める場を様々に設け、相談しやすい雰囲気づくりに努めている事例があった。

従業員がワーク・ライフ・バランスを図るために役に立つ情報を提供したり、相談に応じたりする支援を行っている企業がある。具体的には、情報誌やイントラネットを活用した保育・介護サービス情報の提供(富士ゼロックス)、相談センターやカウンセリングセンターの設置(住友商事、ニチレイグループ)、利用者のニーズに応じてサービスを紹介するシステムの提供(日本IBM)などが実施されていた。

育児休業などからの復職支援の仕組みとして、資生堂が運営している「wiwiw」のような休業中のコミュニケーション・学習支援ツールも、情報提供・相談のツールとして捉えることができる。

ワーク・ライフ・バランスに関する企業の考え、取組、具体的な施策などについて紹介し、従業員に意識・情報の浸透を図るために、両立支援や次世代育成支援行動計画に関するガイドブックやリーフレットを作成して全従業員に配布したり、イントラネットに啓発のためのページを掲載したりする取組も、意識改革・情報周知のために重要として実施されていた。

中小企業には、制度としての相談や情報提供の仕組みはないが、小規模の良さを活かして社長と従業員や従業員同士の懇親の場を様々に設けるなどの工夫をして、社長や上司と相談しやすい雰囲気づくりに努めている事例もあった(太陽商工)。

2.3.9 事業所内保育施設

<この項のポイント>

  • 大企業や地方を中心に事業所内保育施設の設置事例がみられた。
  • 効果として、利便性の高い保育サービスを提供することで女性従業員の活躍の場を一層広げられることや、乳児期に母乳を与えることが可能となることなどが挙げられた。

ワーク・ライフ・バランス施策の一環として事業所内保育施設が設置されることがあるが、文献調査では主に大企業や地方で設置が多く、業種では病院など院内保育が多い傾向がみられた。事業所内保育施設を設置することの効果としては、従業員のニーズにあった利便性の高い保育サービスを提供することで特に女性従業員の活躍の場をより一層広げられること、乳児期に母乳を与えることも事業所内保育施設なら可能であることなどが挙げられた。

2.3.10 その他

その他、次のような取組がみられた。

  • ファミリーデーの設定、家族による工場見学など、家族の職場見学によるワーク・ライフ・バランスを促すカルチャーの醸成(日産自動車、新生銀行:検討中)。
  • 企業グループとしてのワーク・ライフ・バランスに資する施策の導入に関する資金投資(日本IBM)。

3 ワーク・ライフ・バランス施策先進事例の分析~導入目的、推進ノウハウ、効果~

3.1 ワーク・ライフ・バランス施策導入の目的・狙い

<この節のポイント>

  • 企業がワーク・ライフ・バランス施策を導入する目的・狙いのほとんどは、「より優秀な人材の確保」と「現有する人材の質の向上」からなる「人材力の向上」であった。
  • 「より優秀な人材の確保」という狙いにおいては、「経験を積んだ優秀な女性人材を維持する」という考え方が最も一般的であった。
  • 「現有する人材の質の向上」という狙いにおいては、「働きやすい職場づくり」によって従業員の能力を最大限に引き出すという考え方と、人材の「多様性」(ダイバーシティ)を導入して組織力を向上しようという考え方があった。

本調査研究で行った企業インタビューをまとめると、ワーク・ライフ・バランス施策を導入した経営上の目的は、ほとんどが「人材力の向上」と分類できるものであり、加えて「企業イメージの向上」を挙げるところもわずかにあった。

3.1.1 人材力の向上

企業が人材力を高めるということは、すなわち「より優秀な人材を、より多く擁する」ということである。そのための方法は、「より優秀な人材の確保」と「現有する人材の質の向上」に分けられ、ワーク・ライフ・バランス施策は、こうした方法において同時・多面的に機能し得るものである。ただ、どの面を意識・強調するかは企業によって異なる。

(1)優秀な人材の確保

「より優秀な人材の確保」とは、より優秀な人材を採用し、さらに働き続けてもらう(維持)ことである。これに該当すると思われる目的を挙げた企業は、インタビューした20社のうち15社であった。このうち14社が「人材の維持」に該当する目的を、6社は「人材の採用」に該当する目的を挙げた(両方を挙げた企業は5社)。

◆「経験を積んだ優秀な女性人材を維持する」という目的が最も一般的

最も多くの企業が挙げる「人材の維持」という目的の中でも前面に出てくることが多いのが、「女性人材の維持」という目的である。わが国において男性従業員が家庭責任を理由に退職することはほとんどなく、現実として夫婦が共働きか否かに関わらず育児の大半を女性が担っていることを踏まえれば、女性の雇用維持を目的とすることは企業として率直で現実的な考え方だと言えよう。

出産・育児などの家庭責任を理由に退職する女性が多いという現実を前提に、女性従業員の雇用維持が特に必要な理由としては、次のような点が挙げられた。

  1. 採用人数も仕事内容も男女で差がない。(福島印刷、WOWOW)
  2. 人材育成には時間もコストもかかっており、経験を積み生産性の上がった人材を雇用し続ける方が、新人を採用し育成するより合理的である。(河村電器産業、イノス)
  3. 女性従業員の能力は高く、戦力として重要である。(ふくや)

◆包括的な女性活用・男女共同参画プロジェクトの一環として女性人材維持を図る例も

女性人材の維持を主目的とするワーク・ライフ・バランス施策を、より包括的な女性人材活用ないし男女共同参画の取組・プロジェクトの一環に位置付けて推進している例もあった。

2001(平成13)年から3年間にわたって「男女共同参画プロジェクト」を推進していた高島屋は、1990年代以降の不況期における採用縮小と女性従業員の退職の減少、また今後における団塊世代の男性従業員の大量退職により、女性従業員の重要性が量的にも質的にも一層高まるという構造的変化の認識を踏まえて、女性人材の維持を図っているという点で、とりわけ興味深い。

◆女性に限らず優秀な人材を維持するためのワーク・ライフ・バランス施策

他方、特に女性には焦点を当てずに、優秀な人材維持という目的を挙げる企業も少数ながらあった。インタビューした企業の中では太陽商工とカミテであり、従業員が数十人と小規模であることが共通している。これらの企業では、1人の従業員のもつ価値や交換コストが大きく、男女問わず人材維持が重要となっていることが表れているものと考えられる。

◆「採用上の目的」を事前的・意識的にもっていた企業は比較的少ない

以上のような「優秀な人材の維持」とともに、「優秀な人材の採用」も、優秀な人材の確保に資するものである。しかし、ワーク・ライフ・バランス施策を導入する際に、採用上の目的を事前的・意識的にもっていたとする企業は、中小企業を中心として6社と比較的少ない(採用上の効果が出ていると事後的に認識している企業の方がわずかに多い)。

(2)現有する人材の質の向上

企業の「人材力の向上」(より優秀な人材を、より多く擁すること)を図る第二の方法は、「現有する人材の質の向上」である。これに該当すると思われる目的を挙げた企業は20社のうち9社で、第一の方法「より優秀な人材の確保」の14社よりは少ないが、全体の半数近くに上った。

◆「働きやすい職場づくり」により従業員の能力を最大限に引き出し、さらに成長を図る

これらの企業のうち3分の2は、ワーク・ライフ・バランス施策の狙いとして、おおよそ次のようなものを挙げた。

  1. 従業員にとって働きやすい環境、明るく楽しい職場を提供する。
  2. 従業員にやる気をもっていきいきと働いてもらう。
  3. 従業員の士気・モティベーションを上げる。
  4. 従業員個人の保有能力を最大限に発揮してもらう。
  5. 従業員個人に自己を律しながら成長してもらう。

比較的シンプルで素朴な狙いとは言えるが、やる気をもっていきいきと働き、士気・モティベーションが高い従業員こそ、もてる能力を最大限に発揮し、さらに成長していくことで、全社的な人材の質の向上に寄与する可能性の高いことは、いかなる企業においても異論のないところであろう。実際、こうした狙いを挙げた企業には、大企業から中小企業まであり、外資系企業も含まれ、業種も様々であった。

◆「多様性」による組織力の向上

以上は、基本的に従業員一人ひとりの能力の最大化によって全社的な人材の質の向上を図ろうという考え方といえるが、これに対し、ワーク・ライフ・バランス施策によって人材の「多様性」(ダイバーシティ)を導入し、それによって組織・チームとしての会社の力や質を高めようという考え方もあった。

このような考え方を挙げたのは、全インタビュー企業20社のうち4社で、全てが大企業、また外資系企業も含まれた。外資系企業に「多様性」重視の考え方が多いのは、これら企業の「多国籍性」が強く、様々な国民・民族を雇用し活用しながらグローバル・マーケットで競争していかなければならないことの必然の帰結と考えられる。

「多様性」重視の考え方は、個々の従業員の能力や質だけに着目するのではなく、多様で異質な考え方をもつ人材が協働することを重視し、そこでは均質な人々だけでは思いつかなかったような発想や工夫が生まれ、それが組織全体としての質と競争力を高めるとするものである。また日産自動車は、顧客・市場自体が多様であるので、そのニーズに応えていくためには会社自体も多様でなければならないという点を指摘した。

(3)人材力の向上と経営戦略

以上で見てきたように、各社のワーク・ライフ・バランス施策は様々な考え方で「人材力の向上」を目指すものであったが、「人材力の向上」と企業の「経営戦略」はどのように結びついているのだろうか。「企業は人なり」というように、企業経営において人材が重要であることは言を俟たないが、特に、今日の経営戦略における人材力向上の意味、そのためのワーク・ライフ・バランス施策の意義について説明があった事例としては、次のようなものがあった。

  1. 製造拠点の海外移転が進む中、国内製造業が目指さなければならない質の高いモノづくりには、優秀な「多能工」のチームが必要。(カミテ)
  2. 人の生み出す知恵が競争力に直結。自社ならではの知識、情報、プロセスを付加価値として、差別化を図る。(福島印刷)
  3. 持続的成長を目指す上で「人材」がボトルネックとなりうる。(住友商事)

3.1.2 企業イメージの向上

今日の企業経営において、消費者のイメージや投資家の評価は重要である。しかし、こうしたイメージ・評価の向上を狙ってワーク・ライフ・バランス施策を導入した例は、インタビューを行った企業の中では、資生堂のみであった。同社の場合、商品・顧客の特性とワーク・ライフ・バランス施策による企業イメージ向上とが密接な関係にあることは、言うまでもないことである。

もっとも、ワーク・ライフ・バランス施策は本来、「女性」や「子育て」といった特定のキーワードに対応するものではなく、より広範に従業員の働き方全般に関するものであるので、もとより企業イメージの向上に直結することは少ないといえる。

3.2 ワーク・ライフ・バランス施策推進のノウハウ

<この節のポイント>

  • ワーク・ライフ・バランス施策を成功させるには、それを経営戦略の一環として推進していく意思を、経営者が従業員に周知徹底することが重要である。そのためには、経営者の意思表明に加え、施策推進組織を設置することによって意思を明確化することも有効である。
  • トップダウンによるワーク・ライフ・バランス施策推進においても利用者・現場の声を汲むことは不可欠であり、そのためには従業員によるプロジェクトチームを組織したり定期的な従業員アンケートを行ったりという方法がある。
  • ワーク・ライフ・バランス施策利用者に対する人事評価においては「ペナルティ性」を排除することが重要であり、従業員の能力とそれがもたらす成果を評価基準とする「成果主義」がより整合的である。

3.2.1 ワーク・ライフ・バランス施策推進に対する「経営意思」の周知徹底

3.1で見てきたように、ワーク・ライフ・バランス施策は、基本的には「人材力の向上」、副次的には「企業イメージの向上」といった、企業経営上の目的で導入されている。ワーク・ライフ・バランス施策を導入し、推進していくために最も重要なのは、それが(単なる福利厚生施策ではなく)企業の経営戦略に関わるものであること、それを経営上の目的のために推進していく意思のあることを、経営責任者が全従業員に対して明確に表明し周知徹底することである。

(1)経営者による直接の意思表明

◆中小企業では経営陣と従業員の物理的な直接対話も

意思表明の最もシンプルなやり方は、経営者が従業員に対して直接語ることである。中小企業では、経営者が従業員と直接接して意思を伝えているところがある。

  1. 経営計画の作成に従業員が参画、ワーク・ライフ・バランス的な理念を盛り込み、社長と従業員とで読み合わせ。(拓新産業)
  2. マネージャー以上の従業員と経営陣との会合でワーク・ライフ・バランス施策に関する会社の方針・考え方を伝達。(福島印刷)
  3. 社長との懇話会や食事会を開催。(太陽商工)

◆大企業でもブックレットや経営計画などで経営者が直接的な意思表明を図っている

以上のような経営者と従業員との直接対話は中小企業ならではであり、大企業では当然物理的にそのようなことは不可能である。しかし、電子メールでの意思表明、専用のブックレット、経営計画への記載などを通じて、できるだけ直接的に経営者から従業員に対して意思表明をしている例は、下記の通り少なくない。こうした取組は、ワーク・ライフ・バランス施策を経営意思において推進する以上、最低限必要なことであろう。

  1. 社長が全従業員にメールで直接意思表明。(新生銀行)
  2. 社長の巻頭言を掲載したアクションプラン(次世代育成支援行動計画)を全従業員に配布。(資生堂:一部再掲)
  3. 社長以下の多様性推進担当責任者のメッセージを掲載したブックレットを全従業員に配布。(P&G)
  4. 社長の巻頭言を掲載したガイドブックを全従業員に配布。(イノス)
  5. 中期経営計画の成長戦略の文脈の中にワーク・ライフ・バランス施策を位置付け。「ワーク&ライフ・バランスポリシー」も策定。(住友商事)
  6. 社長の経営刷新の提言、企業の共有価値の声明の中で「多様性の尊重」を明記。(富士ゼロックス)

(2)組織設置による経営意思の明確化

以上のような経営者の意思表明はすなわち「言葉」であるが、それに加え、ワーク・ライフ・バランス施策の推進する「組織」を設置することで、経営者が「本気」であることを示している事例もある。

資生堂は、副社長が委員長、執行役員などが委員を務める「CSR委員会」にワーク・ライフ・バランス施策推進を監督させ、その下に部門長級からなる「男女共同参画部会」と「女性活用コミュニティ」を設置することで、ワーク・ライフ・バランス施策を経営陣の決定として全社的に推進していく意思を、組織設計を通じて明確に示している。

また日産自動車も、CEOの指示により多様性推進を議論する部門横断チーム(クロス・ファンクショナル・チーム)を組織、さらに同チームの提言に基づいて社内多様性の推進を担当する常設部署「ダイバーシティ・ディベロップメント・オフィス」(DDO)を設置し、CEO、COOの意思と監督の下に多様性推進(その中にワーク・ライフ・バランス施策が含まれる)を図っている。

このように、組織設置により経営者の意思を表すことは、特に、組織が大きく、経営者と従業員の距離が遠い大企業においては、有効と思われる。

(3)管理職へのワーク・ライフ・バランス施策推進の徹底

経営者の意思が明確に示され、またそれを体現するような組織整備が行われたとしても、実際にワーク・ライフ・バランス施策が活用される現場を直接司っているのは、各部署の管理職である。管理職にワーク・ライフ・バランス施策推進の経営方針が徹底されなければ、従業員は施策を実際には利用しづらく、活用は進まない。

管理職層に対して、ワーク・ライフ・バランスに関する研修を行っている企業(資生堂、新生銀行、高島屋、富士ゼロックス)、または、行おうとしている企業(WOWOW、河村電器産業、福島印刷)は多い。

日本IBMでは、経営陣や中間管理職の評価に(ワーク・ライフ・バランス施策に関することに限定されるものではないが)従業員による評価を加味するようになっている。また河村電器産業では、今後、有給休暇取得率を上司の評価点としていくことも検討している。

以上のように、管理職研修を通じて、ワーク・ライフ・バランス施策の推進が経営方針であることを徹底し、さらには人事評価を通じて、施策の活用に努めなければ経営方針への不服従でありマイナス評価に値するとまで意思表示することが、ワーク・ライフ・バランス施策を実質化するためには必要不可欠である。このような管理職への徹底こそ、経営者がワーク・ライフ・バランス施策の推進に「本気」であることを、何よりも明確に示すことになると思われる。

3.2.2 ワーク・ライフ・バランス施策に関する従業員側のイニシアティブ

以上でみてきたワーク・ライフ・バランス施策推進に対する経営意思の周知徹底は、すなわちトップダウンで施策を進めるためのノウハウである。実際、先進企業のほとんどにおいてワーク・ライフ・バランス施策はトップダウンで推進されており、従業員側からのボトムアップでイニシアティブがとられた例は少ない。

◆従業員のプロジェクトチームを組織しての下からのインプットは有効

例外として、上述した日産自動車の「クロス・ファンクショナル・チーム」の例と、富士ゼロックスの「ビジョン21」など節目ごとに若手従業員中心の委員会を組織し提言を募集した例が挙げられる。何れにおいても、委員会組織の設置自体はトップダウンによるものであるが、議論する内容は委員会側に大方任されており、そこでの議論からワーク・ライフ・バランス施策につながる提言がなされた。このような取組・仕組みは、下からのイニシアティブやインプットを促し、ワーク・ライフ・バランス施策を利用者感覚・現場感覚で活用しやすいものにする上で、また施策の推進において経営側と従業員側に一体感を醸成する上で、非常に有効と考えられる。

◆トップダウン型の施策推進においても利用者・現場の声を汲むことは不可欠

大半を占めるトップダウン型のワーク・ライフ・バランス施策推進企業においても、労働組合との協議を行い、要望を積極的に取り入れている企業は多い。ワーク・ライフ・バランス施策の設計に利用者・現場の声が反映されていないと、管理職に方針が徹底されていない場合と同様、施策は「絵に描いた餅」となり実際に使うことは難しくなってしまうからである。こうした点で、施策の細かい運用については利用者と現場管理職に任せているとする企業も多い。但し、現場に任せる場合は、それが施策の利用を実質的に阻害することにならないよう、管理職の教育を徹底しておく必要があろう。

比較的最近にワーク・ライフ・バランス施策の推進を始めた住友商事は、制度整備より意識改革・浸透を優先させ、具体的な制度設計については現場の実態を踏まえて実施することにしているということである。

◆定期的な従業員アンケートは特に大企業で有意義

従業員側の要望のインプットないしフィードバックの方法としてはアンケート調査も考えられるが、これを行っている企業は少ない。施策導入に先立って調査を行ったとしたのは資生堂、新生銀行、WOWOWであり、ワーク・ライフ・バランス施策に限らず包括的な従業員満足度調査を行っているのは日本IBM、ニチレイグループ、P&Gであった。

労働組合などの他のチャネルで要望の聴取ができている場合は、特にアンケート式の調査にこだわる必要はないであろう。ただ、経営者と従業員との距離が遠い大企業においては、組合などのチャネルを通じたインプットやフィードバックにも限界があり、全従業員対象の定期的アンケート調査は有意義であると思われる。こうした調査は、ワーク・ライフ・バランス施策を含めて会社・経営者の従業員に対する考えを周知し、それに対する評価を把握する機会にもなり得る。経営側が従業員に直接アンケートすることで、従業員側は「会社は自分たちのことを気にかけている」と感じることができ、ワーク・ライフ・バランス施策の目的と同じく従業員のモティベーションや忠誠心を向上させる効果も期待できるのである。

3.2.3 ワーク・ライフ・バランス施策と整合的な人事評価制度

ワーク・ライフ・バランス施策の活用を進める際に、従業員側にとって利用の障壁として挙げられるのは、休業制度や短時間勤務制度を利用した場合の「人事評価」への影響である。

◆休業や短時間勤務を理由としたマイナスの人事評価には「ペナルティ」性がある

2.3でみたように、給与に関しては、休業中は無給、短時間勤務の場合は短縮分に比例して減給という企業がほとんどで、「ノーワーク・ノーペイ」が原則である。しかし、人事評価も休業取得や短時間勤務を理由に下がるとすれば、その利用者は通常勤務者と比べて、給与と人事評価で「二重」にマイナスの処遇を受けることになる。「ノーワーク」であることは「ノーペイ」(給与面でのマイナス)に既に反映されている。となれば、人事評価でのマイナスは「重複」であり、「ノーワーク」であること以外の理由に因ることになるのである。すなわち、人事評価でのマイナスは、単なる「マイナス」ではなく「ペナルティ」としての性格を帯びていることになる。

◆給与と人事評価の「二重のマイナス」、人事評価の「ペナルティ」性を排す工夫

このようなペナルティ性のある人事評価は、ワーク・ライフ・バランス施策の利用を当然阻害しよう。インタビューした企業では、こうした問題を認識し、ペナルティ性によって施策の活用を阻害せず、かつ利用者と非利用者の間に不公平感を生じさせないよう(こうした不公平感も制度活用を阻害する)工夫をしているところが少なくなかった。

特に富士ゼロックスは、休業よりも難しいと考えられる短時間勤務の人事評価において厳密に公平なルールを導入しており、注目される。同社の短時間勤務者の評価は、短時間勤務であることの会社にとってのマイナスは既に給与に反映されているのであるから、人事評価では勤務時間の短さは考慮せず、役割に基づく目標達成率のみを基準とするというものである。これは、上述した給与と人事評価での「二重のマイナス」を排し、人事評価がペナルティ性を帯びないようにする仕組みといえる。

◆ワーク・ライフ・バランス施策に整合的な人事評価制度は「成果主義」

休業の取得と昇給・昇格の時期とは関係がないという企業がある一方で、一定の昇給・昇格に必要な勤続年数に休業期間は計上しないというルールをもつ企業も比較的多くあった。この非計上ルールは、従業員の側もある程度受け入れる傾向にあると思われる。しかしこうしたルールも、それがペナルティ的であるかは意見の分かれるところであろうが、施策の利用を阻害する面があることは否定できない。P&Gの北尾氏・柴山氏は、インタビューで次のように指摘した。

個人の最大限の能力を発揮するための人材マネジメントシステムの一環として、「自らが達成した成果に基づいて評価される」ことは極めて重要である。性別、勤続年数や休業の取得など、個人の業績以外の要素を評価基準とすることは、ワーク・ライフ・バランス施策の利用に対して阻害要因となるとともに、従業員の業績達成に対する意欲を制限することに直接的につながる。

企業経営においては、言うまでもなく、能力と意欲が高い人材を最大限に活用することが重要である。したがって人事評価制度は、会社に最も貢献できる従業員を基準に、そうした者の意欲を阻害しないように設計されていることが望ましい。貢献度は評価すればよいのであり、処遇はそれに応じて決めればよいのである。

ワーク・ライフ・バランス施策とより整合的である人事評価は、やはり、勤務時間や勤続年数といった時間的要素ではなく、あくまでも従業員の能力とそれがもたらす成果を基準とする「成果主義」であると考えられる。

3.3 ワーク・ライフ・バランス施策の効果

<この節のポイント>

  • ワーク・ライフ・バランス施策の効果は、明確・直接的に企業業績の向上につながるものでも、その効果を計量することができるようなものでもないと考えられている。
  • 定性的な効果として最も多く挙げられたのは、「従業員満足度の向上」であった。それは、士気・モティベーション・モラルの向上、「働きやすい」「安心して働ける」「余裕をもって働ける」との声、会社に対する忠誠心の向上などである。
  • 「業務の改善」の効果としても、業務効率化やタイム・マネジメントの考え方の浸透、超過勤務手当の縮減、不良品率の低下といった点が挙げられた。
  • その他、優秀な人材や女性人材の定着、人材育成のコスト低減と高密度化、採用応募者の量・質の向上、企業イメージ・評価の向上といった効果が挙げられた。

ワーク・ライフ・バランス施策の効果について、企業インタビューにおいて概ね共通して聞かれたのは、それは明確・直接的に企業業績の向上につながるものではなく、ましてや効果を計量することができるようなものではないという見解であった。それでもほとんどの企業は、何らかの効果について定性的には(時には印象論として)言及した。

3.3.1 優秀な人材・女性人材の定着

まず、「優秀な人材の定着」「女性人材の定着」という効果を挙げる企業があった。これは、3.1.1の(1)でみた「優秀な人材の確保」という施策の狙いの核心である「優秀な人材の維持」と表裏をなすものである。人材の定着がもたらすものとして「ノウハウの蓄積」といった一般論を挙げる企業もあったが(富士ゼロックス)、具体的な内容は示されなかった。また、ニッセイ基礎研究所の武石氏はインタビューで、人材の定着が進む企業は教育投資に積極的となるので人材の質の向上が進む、という好循環が期待できることを指摘した。

3.3.2 人材育成のコスト低減と高密度化

人材の定着から派生する効果として、イノスは、採用を減らせることによる新人育成コストの減少、新人1人あたりのOJTの高密度化を挙げた。同社はこれをワーク・ライフ・バランス施策の最大の効果としたが、他にこうした効果を特に挙げた企業はなかった。

3.3.3 従業員満足度の向上

ワーク・ライフ・バランス施策の効果として最も多く挙げられたのが、士気・モティベーション・モラルの向上、「働きやすい」「安心して働ける」「余裕をもって働ける」との声、会社に対する忠誠心の向上といった、従業員満足度の向上であった。これに分類される意見を挙げた企業は8社に上った。

もっとも、こうした効果は担当者の「実感」として挙げられたケースが多く、従業員アンケート調査などの結果にみられるとした企業は日本IBMやニチレイグループのみであった。

また日産自動車は、「従業員満足度の向上」に類する効果として、女性従業員の間でのマイノリティ感の解消やネットワークの形成という点を挙げた。

3.3.4 業務の改善

「業務の改善」の効果は、ワーク・ライフ・バランス施策の効果として挙げられた中でも、企業業績の向上に最も直結的なものであろう。これに分類される効果を挙げたのは6社であるが、そのうち半分は「業務改善への関心の高まり」(住友商事)、「働き方の見直しのきっかけ」(資生堂)、「タイム・マネジメントの考え方の浸透」(同)、「限られた時間の中で仕事をしようと努力することによる生産性向上」(河村電器産業)、「時間コスト意識の浸透」(大福信用金庫)といった比較的抽象的な意見であった。

しかし、「ワーク・ライフ・バランス施策導入後に不良品率が劇的に低下」とするカミテの事例は、(それがワーク・ライフ・バランス施策の効果かどうかを厳密に証明することはできないが)効果が定量的に観測される希有な例である。

また、休業に対して代替要員策を図ることにより、ジョブ・ローテーションの効果が生まれたり、若手に経験を積ませたりすることができるという効果を挙げる企業もあった(河村電器産業、カミテ)。

3.3.5 採用応募者の量・質の向上

3.1.1の(1)で、ワーク・ライフ・バランス施策に「採用上の目的」を事前的・意識的にもたせている企業は比較的少ないと述べたが、質問に対して採用上の効果を認めた企業は7社あった。

7社のうち2社(新生銀行、ニチレイグループ)は従業員1,000人超の大企業で、これらは何れも女性応募者の増加(及び質の向上)を指摘した。

他の5社(福島印刷、イノス、太陽商工、ふくや、カミテ)は概ね従業員500人以下であり、これらは男女を限定することなく採用上の効果があったとした。こうした企業では、大企業に比べて、人材集めが一層の課題となっていることを感じさせる。

3.3.6 企業イメージ・評価の向上

3.1.2でみたように、企業イメージ・評価の向上を狙ってワーク・ライフ・バランス施策を導入する企業はほとんどなかったが、実際効果があった企業も少なかった。太陽商工は取引先との、関西スーパーマーケットは自治体や社会との、WOWOWは投資家との関係において、企業イメージ・評価が向上したとした。

3.4 ワーク・ライフ・バランス施策成功のポイント ‐ 企業類型別整理

<この節のポイント>

  • ワーク・ライフ・バランス施策の導入において、中小企業では「人材確保」の目的意識や経営者・従業員の直接対話による意思周知が、大企業では「ダイバーシティ・マネジメント」という目的や組織設計・管理職評価方法・従業員アンケートによる意思徹底が、それぞれ重要となる。
  • 一般消費者を主な顧客とする 「B to C」 企業の場合は「女性活用」のアピールによるイメージ向上が、企業を主な顧客とする 「B to B」 企業の場合は性中立的な人材確保やダイバーシティ・マネジメントが、それぞれ施策推進の鍵となる。
  • 「成果主義」の企業は、その人事評価制度を有効たらしめるためにワーク・ライフ・バランス施策を推進すべきであり、非「成果主義」の企業は、ワーク・ライフ・バランス施策と成果主義的人事評価制度を総合的な人材マネジメント改革の一環として推進することが望ましい。

以上3では、1. ワーク・ライフ・バランス施策を導入する企業経営上の目的・狙い、2. 施策を推進するノウハウ、3. 施策がもたらす効果 ‐ の3項目について、企業インタビューの内容を分析してきた。これらの分析を踏まえて以下では、ワーク・ライフ・バランス施策の導入・推進を成功させるポイントと考えられるものを、次のような会社類型による比較軸にそって再整理する。

  1. 大企業 vs 中小企業
  2. 「B to C」 企業(一般消費者が主顧客の企業)vs 「B to B」 企業(企業が主顧客の企業)
  3. 「成果主義」的人事評価制度 vs 非「成果主義」的人事評価制度

3.4.1 大企業vs中小企業

(1)ワーク・ライフ・バランス施策導入の目的・狙い

ワーク・ライフ・バランス施策を導入する企業経営上の目的・狙いの中心が「人材力の向上」にあること、「人材力の向上」が企業経営の根幹に関わる重要性をもっていることは、大企業も中小企業も変わりはない。

◆中小企業は「人材確保」の目的を明確に意識すべき

しかし、人材力の向上を図る二つの方法の一つである「優秀な人材の確保」=「優秀な人材の採用及び維持」は、中小企業において、より重要な目的となる。従業員が少ない企業では、優秀な人材の採用や維持に成功した場合のプラスも、それに失敗した場合のマイナスも、大企業に比べて大きい。また、採用においてプラスとなる知名度も、中小企業は必ずしも高くない。

したがって、中小企業においては特に、ワーク・ライフ・バランス施策が人材確保の有効な手段であることを明確に意識して、そのアピールや運用を図っていくことが望ましい。

◆大企業は「ダイバーシティ・マネジメント」と結びつけて

人材力の向上を図るもう一つの方法である「現有する人材の質の向上」のうち、働きやすい職場環境によって個々の従業員の能力を最大限に引き出し、さらに成長を図るという面は、企業規模に関わらず必要である。

しかし、人材の多様性による組織力の向上という狙いは、大企業により相応しいものといえる。なぜなら、大企業は事業が幅広く多岐にわたっており、独創的で差別化可能な製品やサービスを発想していくには、多様な人材の知恵を総合することが不可欠と考えられるからである。したがって大企業においては、ワーク・ライフ・バランス施策を「ダイバーシティ・マネジメント」(多様な人材を活かす戦略)と結びつけることも有効と思われる。

(2)ワーク・ライフ・バランス施策推進のノウハウ

ワーク・ライフ・バランス施策を導入し、かつ実際に活用を促していく上で重要なことは、第一に施策推進の経営意思の周知徹底、第二に従業員からのインプットであった。

◆中小企業は「小規模の利」を活かして経営者と従業員が直接対話を

これら2点はすなわち経営者と従業員のコミュニケーションの問題であり、この点において中小企業は本来的に有利な状況にある。中小企業は「小規模の利」を活かして、経営者の意思表明、従業員からのインプットを、直接対話によって徹底することが望ましい。

◆大企業は組織設計、管理職評価方法、従業員アンケートなどを通じた工夫が必要

これに対し大企業では工夫が必要である。まず経営者の意思表明のためには、1. ワーク・ライフ・バランス施策推進の枠組みを経営レベルでの意思決定機構の中に置く、2. 管轄する常設部署を新設する、3. 必要なら人事評価も利用して管理職への周知徹底を図る ‐ といった、経営意思が目に見えるような工夫が求められる。また従業員からのインプットのためには、プロジェクトチームの組織、従業員アンケートの定期実施といった方法が有効であろう。

3.4.2 「B to C」 企業 vs 「B to B」 企業

(1)ワーク・ライフ・バランス施策導入の目的・狙い

◆ 「B to C」 企業では「女性活用」という狙いが受け容れられやすい

一般消費者を主な顧客とする 「B to C」 企業の場合、顧客の半数を占める(家庭においては購買の決定権を握っていることが多い)女性にアピールするような企業イメージづくりが、より重要となる。したがって「B to C」 企業は、「女性活用」を前面に出したワーク・ライフ・バランス施策推進が相対的に受け容れられやすい状況にあるといえる。

◆ 「B to B」 企業は性中立的な人材確保やダイバーシティ・マネジメントを前面に

一方、企業を主な顧客とする 「B to B」 企業では状況は異なり、「女性活用」をあまりに前面化すると「逆差別」として社内の反発も招きかねない。このような企業では、(性中立的な)人材確保やダイバーシティ・マネジメントをワーク・ライフ・バランス施策推進の目的とした方が、社内の理解を得やすいと思われる。こうした人材力向上策は、主商品が一般消費者向けであるか否かに関わらず、今日の企業にとっては非常に重要である。

(2)ワーク・ライフ・バランス施策の効果

◆ 「B to C」 企業はイメージ向上効果の積極的アピールを

「B to C」 企業の場合、消費者イメージの向上がワーク・ライフ・バランス施策の効果として期待できる。こうした効果は「イメージがイメージを生む」ような相乗作用も期待できるので、それを社内外へ積極的にアピールし、そこからまた施策推進のためのフィードバックを得ることが望ましい。

◆ 「B to B」 企業では社内で効果の捕捉を

一方、「B to B」 企業における施策の効果は、取引先の評価という場合もあろうが、概ね社内で観測されるものとなる。中小企業の場合は従業員との対話、大企業の場合は従業員満足度調査などによって、効果の捕捉、それによる施策推進の社内的説得力の向上に努めることが必要である。

3.4.3 「成果主義」 vs 非「成果主義」

ワーク・ライフ・バランス施策の先進企業では、「成果主義」的な要素を多く取り入れた人事評価制度を採っているところが多い。成果主義とは、人事評価において、評価対象者の「保有能力」(それはしばしば経験年数に応じて伸びるとみなされる)や仕事の「過程」(例えば投入時間や努力)よりも、仕事の結果としての「成果」を重視する考え方である。こうした考え方は、個々の従業員が成果を問われる仕事の内容を明確化し、その仕事のやり方については各自に任せるという、より自由で独立した社風を醸成する。こうした社風においてこそ、柔軟・多様な働き方を個々の従業員の要望に応じて積極的に認めようというワーク・ライフ・バランス施策が受容されやすいのは、自明である。ゆえに、3.2.3で指摘したように、成果主義的な人事表評価制度はワーク・ライフ・バランス施策とより整合的と考えられるのである。

◆「成果主義」の企業こそワーク・ライフ・バランス施策を推進すべき

もっとも、1990年代前半から多くの企業が導入した成果主義については、近年、「短期的な成功ばかりを追求し長期的なチャレンジをしなくなる」「部下や後輩を育てようとしなくなる」「仲間と協力して仕事をしなくなる」「一人ひとりが自由に意見を言わなくなる」といった批判的意見も多い。こうした成果主義の問題を克服する視点としては、次のような指摘がある(注釈2)。

  1. わが国の成果主義はそもそも、年功賃金制の問題(企業への貢献度とあまりに無関係な処遇、従業員の高齢化に伴って増大する人件費)を克服するために導入されたもので、総合的な人材マネジメント改革による企業の活性化という意図を欠いていた。
  2. 成果主義は、「裁量範囲の増大」や「仕事分担の明確化」といった「働き方の変化」、さらに「能力育成の機会」をもたらす補完的な施策を伴う場合、労働意欲を向上させる効果があるということが、諸研究により示唆されている。

上記1. が欠落を指摘する「総合的な人材マネジメント改革による企業の活性化」は、主に「人材力の向上」という企業経営上の目的をもつワーク・ライフ・バランス施策が正に目指しているものである。

また、ワーク・ライフ・バランス施策は、上記2. が挙げるような「働き方の変化」や「能力育成の機会」をもたらす。ワーク・ライフ・バランス施策は、仕事を行う時間や場所について「裁量範囲の増大」を図るものであるし、それぞれ多様な働き方をする従業員で業務を進めていくには「仕事分担の明確化」が欠かせない。そして、仕事以外の時間を拡大することで、家庭責任や地域活動や自己研鑽への注力を促進し、広い意味で自らの能力を育み伸ばす機会を従業員に与えるのである(注釈3)。

このように、成果主義がワーク・ライフ・バランス施策にとって整合的であるだけでなく、ワーク・ライフ・バランス施策が成果主義にとって、従業員の意欲向上や企業の活性化を促進するという点で有効なのだといえる。換言すれば、成果主義の人事評価制度をもつ企業がワーク・ライフ・バランス施策を推進しやすいだけではなく、そのような企業こそワーク・ライフ・バランス施策を推進すべきなのである。成果主義とワーク・ライフ・バランス施策は、「相互補強関係」とでもいうべき関係にある。

◆非「成果主義」企業は総合的な人材マネジメント改革の一環として推進を

一方、人事評価制度が成果主義的でない企業がワーク・ライフ・バランス施策を推進しようとするなら、本項冒頭で述べたような理由により、制度を成果主義の方向に変えていく方が望ましい。その場合、ワーク・ライフ・バランス施策を推進しようという企業は、成果主義の導入にも納得していなければならない。

上述のように、成果主義に問題が多々あることは否定できないが、年功賃金制の問題が看過できないこともまた確かである。年功賃金制と表裏を成す終身雇用制が信頼を失いつつある中、勤め続ければ(生産性の上昇率を超えて)上がっていく給与が人材を企業に惹き付け繋ぎ止める効果(注釈4)も弱まっており、優秀な人材の確保のためには、従業員が挙げる成果に対して、よりリアルタイムに(将来の昇給ではなく今の給与で)応えなければならなくなっている。さらに、「ポスト産業資本主義」の今日においてビジネスに求められる創意工夫に溢れた人材は、金銭的なインセンティブのみならず、「より自由な職場環境」を求める傾向にある(注釈5)。

つまり、成果主義もワーク・ライフ・バランス施策も、目指すところは同じく、優秀な人材の確保による全社的な人材力の向上、それによる企業の活性化と業績向上なのである。したがって、ワーク・ライフ・バランス施策推進のために成果主義を導入する企業は、各々をバラバラに進めるのではなく、何れもを総合的な人材マネジメント改革の一環として、その企業経営上の目的を明らかにした上で取り組んでいくことが重要である。そうすることで、先に成果主義を導入した企業が直面してきた問題も超克しつつ、ワーク・ライフ・バランス施策を進めることができると考えられる。


(注釈1)日本経済団体連合会「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」別ウインドウで開きます参照。裁量性が高い業務を行い、労働時間の長さと成果が一般的に比例しない頭脳労働に従事するホワイトカラーに対し、労働基準法における労働時間など規制の適用除外制度の適用を求める内容。

(注釈2)守島基博「成果主義は企業を活性化するか」、『日本労働研究雑誌』525号、2004年4月。

(注釈3)守島は、成果主義の人事評価を受ける労働者は企業内で能力を開発する機会を求めることを指摘しているが、ここで述べたように、企業外での活動によって得られる知識・経験の深化・多様化や精神の安定を通じて労働者が企業への貢献を高めるという契機もあろう。前述のように、コンサルタントのパク氏も、ワーク・ライフ・バランス施策によって確保できる会社以外の時間において自己研鑽に努めることが現代の労働者には不可欠だと指摘している。

(注釈4)年功賃金制は、勤続に応じた各従業員の賃金の伸びを、その生産性の伸びよりも急なものとすることで、若いうちは企業に対して「貸し」があり、加齢とともにそれを取り返せるという状況を作り出し、それによって従業員に同じ企業で長く働くインセンティブを与える制度である。

(注釈5)ポスト産業資本主義と、そこで求められる企業組織デザインについては、岩井克人『会社はこれからどうなるのか』平凡社、2003年、特に304-307頁を参照。


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