| 序説 男女共同参画社会の実現に向けて |
〜21世紀を豊かで活力あるものとするために〜
「女性は地球の主役であるばかりか,地球の将来は女性の肩にかかっている」。平成12年にニューヨークで行われた国連特別総会「女性2000年会議」の開会に際して,アナン国連事務総長はこのように述べている。
我が国においても,21世紀を豊かで活力のあるものとするには,男女共同参画が,最重要課題であり将来を展望する上で不可欠の視点である。
男女共同参画という言葉自体は新しく,法令に初めて登場するのは平成6年の総理府組織令の改正により男女共同参画室が設置された時であるが,日本における女性の政治的,経済的,社会的,そして文化面での参画は長い歴史をもっている。
前の千年紀の始まった頃,紫式部は中宮彰子に仕えながら,世界で最も古い小説といわれる源氏物語を書きついでいた。同僚の和泉式部は天才的歌人として豊かな感情をきらめく詞に凝縮していた。清少納言,赤染衛門など数多くの女性たちが仮名を駆使して随筆を,歴史書を,評論を著していた。こうした女性たちの文化面での活躍は,記紀万葉の時代から連綿と続いており,時代による変遷,盛衰はあっても,昭和平成の現在も大輪の花を咲かせている。
経済的にも女性たちは農業や手工業や商業の支え手,担い手として働きつづけ,娘たちは親の家を相続してそこで子どもを育てる時代が長く続いた。嫁入りや男性中心の家族制度が武士階層だけでなく広く国民に普及したのは比較的最近のことといわれる。
卑弥呼・臺与(とよ)から,推古・持統など数多くの女王,天皇も史上活躍し,実家を背景に,あるいは母親として政治に影響を与えた女性も少なくない。しかし,中世以降武士の力が強まるとともに儒教等の影響もあって,男尊女卑的な価値観が行きわたり,明治になっても継続強化された。
昭和21年には,婦人参政権が実現するとともに,日本国憲法は法の下の男女平等を宣言し,家族,教育等の法制上の平等が明記された。日本の社会や経済はその後,高度経済成長を経て世界第二の経済大国になり,生産面の効率は高まり,物質的に豊かな生活,便利な生活を楽しむ国民が飛躍的に増加した。平均寿命も女性は83.99歳,男性は77.10歳にまで伸び,教育水準も青年女子の半数近くが高等教育を受けるようになった。
しかしこの間,雇用者化が急速に進み,大都市部に人口が移動し,職場と家庭が離れ,男は仕事,女は家庭という性別的役割分担が拡大し専業主婦が国民的に広がった。終身雇用・年功を基本とするいわゆる「日本型雇用」は男性従業員から失業(解雇)の不安を除き,その能力と帰属意識を高める一方,企業内訓練経験を重視する雇用慣行の下で女性たちはともすれば二流の労働力とみなされ,責任ある地位や仕事につくことが困難だった。また,子育てや介護への親族や地域からの援助は乏しく,女性たちは孤立しがちでまた能力を発揮する機会も乏しかった。
しかし20世紀末のバブル崩壊後,国際化や情報革命など画期的な環境の変化が進む中で,協調性と忍耐力に富み与えられた業務を大過なく遂行するだけの均質的な社員では新たな地平を切り開くことが難しくなっている。一方,新しい企業が新しい分野のリスクにチャレンジすることなしに日本の雇用や生活水準を維持することはできなくなっている。
女性たちが今までの均質的な日本企業に乏しかった新しい人材として活躍し,また社会においても従来の常識にとらわれることなく,個性と創造力を発揮することが,豊かで活力に満ちた日本をつくる上で不可欠となっているのである。
単に少子化,高齢化が進む中で労働力人口が減るのを補うため女性の労働力を利用せざるを得ないというだけではなく,男性と異なる個性,創造力,価値観をもつ女性が社会で活躍することによって,我が国の経済社会がより幅広い視点や新しい多様な知恵を得ることが期待されている。
女性たちが新規分野に進出し,就業形態・勤務形態の多様化を進め,新しいライフスタイルを生み出すことにより,男性たちにも仕事だけではなく,家庭生活,社会生活,趣味などとの両立が可能な人生の選択肢が広がることになる。
しかし,現実の日本社会には男女共同参画とはほど遠い現実が随所にみられる。
例えば,UNDP(国連開発計画)が人類の進歩を測るために経済成長に係る指標として平均寿命や教育水準,1人当たり国民所得などから算定しているHDI(人間開発指数)によると,日本は2000(平成12)年で174か国中9位と高位にあるが,女性が積極的に経済や政治などの意思決定に参画しているかどうかを国会議員や管理・行政職のうち女性の占める割合や賃金の男女格差から算定したGEM(ジェンダーエンパワーメント指数)は70か国中41位となっている。これは,女性の能力の開発は進んでいるにもかかわらず,その能力を発揮する機会が十分には整っていないことを示している。
日本でも,男女共同参画社会基本法の制定を始め多くの努力が行われているが,1975(昭和50)年の国際婦人年以来,各国で日本以上のスピードで女性の社会進出が進み,地位向上を図る法制度が整備された結果,日本は国際的にみて立ち遅れているという現状が反映している。
男女雇用機会均等法施行後15年を経ても女子学生の就職は厳しく,非正規社員として働く女性が増加しており,民間企業で働く女性の約3分の2が年収300万円以下であり,管理職・行政職への進出は緩やかである。町村議会のうち約56%が女性議員ゼロであり,家庭内暴力,職場のセクシュアル・ハラスメントなど女性に対する暴力は個人の尊厳に関わる課題だが,根絶にはほど遠い。
こうした状況が,男性の方が優遇されていると答えた者の割合が女性で81.4%,男性で70.9%という世論調査の結果につながっているのであろう。
日本ではまだ女性は社会の対等な構成員としてあらゆる分野に参画しているとはいえない状況だからこそ,男女共同参画社会の形成のための努力を強力に推し進めなければならないのである。
U 男女共同参画基本計画の策定と推進体制の強化
(男女共同参画基本計画の策定)
平成12年12月12日,男女共同参画社会基本法第13条を受けて,「男女共同参画基本計画」が閣議決定された。この計画は,@男女共同参画社会基本法に基づく男女共同参画に係る初めての法定計画であること,A8年12月に男女共同参画参画推進本部が決定した国内行動計画「男女共同参画2000年プラン」に代わる新たな国内行動計画として位置付けられること,B13年1月からの中央省庁再編後の新たな体制を前提とした計画であることにおいて,大きな意義を有している。
(推進体制の強化)
平成13年1月6日,中央省庁等改革に伴い,内閣機能強化の一環として,内閣総理大臣を長とする内閣府が新たに設置された。内閣府は,内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けること,及び内閣総理大臣が政府全体の見地から管理することがふさわしい行政事務の円滑な遂行を図ることを任務とする機関であり,各省より一段高い立場から行政各部の施策の統一を図るための企画立案及び総合調整を行うことを主な所掌事務としており,国政上の重要課題への対応を担うこととされている。
とりわけ,男女共同参画社会の実現は21世紀の我が国社会の最重要課題であることから,この施策を推進していくために,各省庁にまたがる機能を政府としてとりまとめていく国内本部機構の整備・強化が必要であった。
このため男女共同参画会議が新設された。男女共同参画会議は,@男女共同参画基本計画に関する処理,A男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的な方針,基本的な政策及び重要事項を調査審議すること,B@,Aに関し調査審議し,必要があると認めるときは内閣総理大臣及び関係各大臣に対し意見を述べること,C政府が実施する男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況を監視し,及び政府の施策が男女共同参画社会の形成の促進に及ぼす影響を調査し,必要があると認めるときは,内閣総理大臣及び関係各大臣に対し意見を述べること(以下「施策の実施状況の監視及び影響調査」という。)を所掌事務としている。
また,従来の総理府男女共同参画室の機能強化を図り,内閣府に男女共同参画局が設けられた。男女共同参画局は,行政各部の施策の統一を図るために必要となる男女共同参画社会の形成の促進に関する事項の企画立案・総合調整,男女共同参画基本計画の推進等を所掌事務とし,男女共同参画会議の事務局としての機能も担うこととされている。