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第2章 「子ども・家庭間題はどこまで深刻か」


駒澤大学文学部助教授 伊藤 茂樹

要旨


本章では,近年特に憂慮されている,家庭での子どもの生活と親の子育てのあり方について,一般に言われている問題がどこまで,どのように広がっているのか,あるいはいないのかについて,いくつかの側面を取り上げて分析を行った。

まず,子どもの生活時間,特に夜更かしと睡眠不足について。夜更かし化は大都市での傾向であり,しかし,それは睡眠不足にはつながっていないことが見出された。確かに,中には睡眠不足の子がいることは事実であるが,テレビやファミコンなどのメディアへの耽溺によって多くの子どもの睡眠が削られ,また,それによってイライラしたりキレやすくなっているといったイメージはあまり一般的とは言えない。

また,メディアへの接触は,確かに子どもの生活や内面の様々な側面と関連が大きく,長時間接触している子どもは,逸脱的な行動が多かったり,集中力不足やカッとなりやすいといった傾向もある。しかし,これらは,メディア接触が原因かというと必ずしもそうは言えない。メディア接触時間の長い子どもは学校での成績が良くなく,成績を統制するとメディア接触と上記の傾向との相関はあまりなくなる。むしろ,メディアに親しむことと学校生活や学業へのコミットは相反するものであり,前者にコミットする子どもの特徴として上記のような諸傾向があらわれるのだと考えられる。

次に,若い母親の子育てのあり方について。34歳以下の年齢層の母親は,体罰が多かったり子どもを思い通りにさせたいなどの傾向が目立つが,これらは若い母親や最近の母親の傾向というよりは,若いうち(20代前半)に子どもを産んだ母親の傾向であることが示唆された。

また,体罰や厳しい叱責を行う母親は,子どもとのコミュニケーションや子育てに関して様々な不安を抱え,迷っている。しかし,子どもの側はさほど体罰を受けているとは思っていないし,それによって傷ついている様子も顕著には見られない。ただし,体罰を受けていると思っている子どもはその内面において他の子どもと異なる特徴を示し,むしろ母親の行為や認知よりも,子どもがそれをどう感じるかの方が子どもの姿に影響することがわかる。

全般に,一般に言われている子どもや家庭の問題現象は,一部で確かに起こってはいるものの,それが過度に一般化されて伝えられていることがある程度確認できた。



子どもの行動や意識,生活,家庭での子育て,親子のコミュニケーションなどについて,現代ほど様々な問題が指摘され憂慮されている時代はない。しかしまた,こうした問題現象は,全体の一部に生じているものがことさらに一般化されて伝えられている観も否めない。

そこで本章では,子どもの生活実態と親の子育て,両者のコミュニケーションなどの,主として行動レベルでの質問項目を中心に,言われている問題現象がどの程度広がっているのか,また広がっているとすればどのような層や部分に見られるのか,さらに,それらは量的な広がりとは別に,どのような質の問題を潜在させているのかといったことについて検討,考察していく。


1 夜更かしと睡眠不足

(1) 夜更かしの一般化?

子どもの就寝時刻が遅くなり,生活が「夜型」になっているといったことは既に定説のようになっている。そしてこれを裏づけるようなデータとして,例えば「東京都子ども基本調査」などがある。継続しているこの調査によると,表3−2−1のように中学2年生で就寝が12時以降,小学5年生で10時半以降の「夜更かし」の子どもは今や半数前後を占め,しかもその割合は増えてきている。


表3−2−1 「東京都子ども基本調査」における夜更かし化と今回データ  <CSVデータ>

中2就寝時刻12時以降
(%)
  1986 1989 1992 1995 1998 今回全国 今回大都市
男子 45.4 44.3 41.1 44.5 48.2 15.9 30.9
女子 36.0 42.3 46.4 50.5 55.6 22.1 44.4

小5就寝時刻10時半以降
(%)
  1986 1989 1992 1995 1998 今回全国 今回大都市
男子 33.4 22.5 51.6 61.2 59.1 22.0 25.0
女子 39.2 24.3 53.8 58.1 60.6 25.7 28.6

しかし,これを今回調査の結果と比較すると,大きく異なっている。全国的に見ると上記のような夜更かしの子どもは2割前後の少数派に過ぎない。大都市の子どもだけを取り出してみても,中2では全国に比べて夜更かしの割合が多くなるが,小5ではほとんど違わない。

つまり,夜型への移行という傾向は,大都市や特に東京の子どもの傾向であり,全国的にはさほど進んでいるわけではないと考えられる。また,平均を見ると(表3−2−2)大都市の子どもは郡部の子どもに比べて就寝時刻が14分遅いが,起床時刻も同じく14分遅く,その結果睡眠時間は変わらない。10万以上・未満の都市は中間に位置し,結果的に睡眠時間は地域によらずほぼ同じである。


表3−2−2 就寝時刻,起床時刻,睡眠時間(平均)  <CSVデータ>

    就寝時刻 起床時刻 睡眠時間
大都市 小学生 22:08 6:55 8:48
中学生 23:09 6:58 7:49
10万以上 小学生 21:58 6:46 8:48
中学生 23:10 6:48 7:38
10万未満 小学生 21:52 6:40 8:48
中学生 22:53 6:43 7:50
郡部 小学生 21:52 6:41 8:48
中学生 22:55 6:45 7:50

また,平均とは別に睡眠時問の短い子ども(小学生:8時間以下,中学生:7時間以下)の比率を比較してみると,小学生では大都市で27.6%とやや多いが(10%水準有意),中学生では10万以上の都市で多い(33.4%:5%水準有意)と逆転している。したがって大都市の子どもの夜更かしが睡眠不足に結びつくかといえぱ,小学生ではその傾向が他の地域よりやや強いものの,睡眠時間の平均は変わらないわけであり,はっきりした傾向性としては指摘できない。つまり,大都市で夜型化の進行はある程度確認できるが,それが睡眠不足につながっているとはあまり言えないことになる。


(2) 大都市における夜更かし化

ではなぜ都会の子どもは夜更かしなのだろうか。

今回調査で質問している項目の中で,夜更かしを促す可能性のあることがらは,行動時間(テレビやビデオ・ファミコン,友達との遊び,家での勉強),塾や習いごと(日数),自分専用の持ち物(テレビ,電話,携帯電話やPHS,個室)である。

まず,これらの要因が夜更かしにつながるのかどうか,全体で小・中学生別にみてみると,表3−2−3のようになる。


表3−2−3 夜更かしを促す要因(就寝時刻の平均)  <CSVデータ>

生活時間   ほとんどしない 30分くらい 1時間くらい 2時間くらい 3時間くらい
テレビやビデオ,ファミコンなど 小学生 21:48 21:45 21:51 22:03 22:11
中学生 23:03 22:52 23:01 23:01 23:11
友達と遊ぶ 小学生 21:56 21:54 21:57 21:59 21:58
中学生 23:01 22:49 23:04 23:01 23:14
家で勉強 小学生 21:59 21:52 22:04 21:52 22:11
中学生 23:03 22:57 22:58 23:17 23:16
             
塾や習いごと   0日 1〜2日 3日〜    
  小学生 21:56 21:56 21:58    
中学生 22:54 23:01 23:15    
             
持ち物   持っていない 持っている      
テレビ 小学生 21:57 22:00      
中学生 23:03 23:02      
電話機 小学生 21:57 22:02      
中学生 23:02 23:21      
携帯電話・PHS 小学生 21:57 22:00      
中学生 23:01 23:33      
個室 小学生 21:57 21:57      
中学生 22:56 23:05      

テレビを見たり友達と遊んだり勉強したりといった行動は,おおむね3時聞以上になると夜更かしにつながることがわかる。しかし,テレビなどを自分専用で持っていることほあまり夜更かしとは関連せず,結びつくのは中学生で電話や携帯電話を持っている場合だけである。塾や習いごとについても小学生では影響せず,中学生で週3日以上行っている場合に限られる。

ではこうした行動は,大都市の子どもにより多く見られるのだろうか(表3−2−4)。


表3−2−4 都市規模による生活の違い  <CSVデータ>

生活時間の平均(分)   大都市 10万以上 10万未満 郡部
テレビやビデオ,ファミコンなど 小学生 92.9 79.8 84.8 85.3
中学生 94.8 84.1 87.4 94.9
友達と遊ぶ 小学生 76.5 72.9 61.8 71.5
中学生 53.3 40.8 46.9 54.5
家で勉強 小学生 29.7 32.3 28.4 32.6
中学生 45.0 48.2 42.8 42.9
           
塾や習いごとの日数平均(日)   大都市 10万以上 10万未満 郡部
  小学生 2.2 2.1 2.0 2.1
中学生 2.0 2.0 1.9 1.9
           
持ち物(%)   大都市 10万以上 10万未満 郡部
テレビ 小学生 16.2 15.0 12.1 13.3
中学生 24.4 22.6 26.1 30.3
電話機 小学生 1.1 1.4 2.9 1.5
中学生 2.1 6.1 3.3 4.2
携帯電話・PHS 小学生 3.2 1.7 0.5 0.0
中学生 7.8 5.6 4.9 3.1
個室 小学生 48.6 56.5 53.4 58.5
中学生 60.6 69.8 79.2 85.4

就寝時刻の差が最も大きい大都市と郡部を比較した場合,小学生のテレビなどを見る時間は大都市の方が7.6分長いが,中学生ではほぼ同じである。その他の生活時間と塾や習いごとについてはむしろ大都市と郡部の数値ほ似通っている。また,持ち物の中で夜更かしに影響する電話機や携帯電話(中学生)は,携帯電話のみ大都市ほど所持率が高いが,有意差ではない。つまり,これらの状況の違いが大都市の子どもの夜更かし傾向に直接結びついているとは言えそうにない。

以上を考えると,夜更かし傾向は確かに大都市で見られ,特に小学生ではテレビやファミコンなどに費やす時間もひとつの原因であると推測はできる。しかしそれがそのまま睡眠不足につながるかといえば,大都市の小学生の一部を除いて,必ずしもそうとは言えない。大都市の子どもは寝るのが遅いのと同じ程度,起きるのも遅いのである。

こうした傾向は,よく言われるようなテレビやファミコンなどへの耽溺や個室への引きこもり,あるいは通塾をはじめ勉強時間が長くなることによって夜更かしになり,睡眠時間が削られているというよりは,大都市で全体的に広がっている夜型の生活パターンが子どもにも少しずつ浸透しつつあるということではなかろうか。

今回調査では質問項目に含まれていないため推測しかできないが,例えば大都市では通勤時間が長く親の帰宅が遅くなるため,家族の食事の時刻や就寝時刻が遅めにシフトする。また,商店や外食をする店,娯楽施設なども遅くまで開いている。これらによって,子どもの生活時間も遅い方にシフトするわけである。しかし,大都市では小・中学生の通学時間は短めであり,そのぶん朝は少し遅くまで寝て就寝の遅さをカバーできるのではなかろうか。


(3) 夜更かしの子どもの生活

上でみたように,夜更かしや睡眠不足の子どもが全体的に増えているとは必ずしも言えないことがわかったが,夜更かしで睡眠不足の子どもが一部にいることもまた確かである。こういった子どもはどのような家庭に多く,また生活面でどのような特徴を示しているであろうか。

就寝時刻と睡眠時間の間には非常に強い負の相関があるので(相関係数:−0.89),睡眠時間で見ていく。ここでは睡眠時間が小学生で8時間以下,中学生で7時間以下の者を睡眠不足の群とし,他項目との関連をクロス集計によって見ていく。

まず,睡眠不足を招く要因としては,テレビなどを見る時間や勉強時間の長さがあることは先に見たとおりである。親や家庭のあり方では(表3−2−5),「子どもの寝る時刻を決めている」場合に睡眠不足が少ないのは当然であろう。他に有意差があるのは,子どもの勉強をみてあげることが多い家庭では睡眠不足が少ないが,子育てや親子関係に関する他の項目では相関は見られず,これらが直接睡眠不足につながるとはあまり言えない。


表3−2−5 子育てのあり方と睡眠不足の比率  <CSVデータ>

  あてはまる   あてはまらない
子どもの寝る時刻を決めている 17.0 << 33.7
お子さんの勉強をみてあげることが多い 21.5 26.4
「あてはまる」「まああてはまる」の合計
<<:1%水準有意 <:5%水準有意。以下の表でも同じ。

睡眠不足の子どもは生活面において問題が多く,情緒的にもイライラしたり「キレ」やすいといったことが言われる。実際こうした傾向を示しているだろうか(表3−2−6)。


表3−2−6 睡眠不足と子どもの生活,性格  <CSVデータ>

  睡眠不足   非・睡眠不足
授業中いねむりする 18.7 >> 8.8
授業中おしゃべりを続ける 12.6 >> 8.0
親に逆らったり口答えする 46.5 >> 39.1
学校をずる休み* 12.5 >> 6.0
夜遅くまで街や盛り場で遊ぶ* 10.1 >> 5.3
腹が立つと顔に出てしまう 46.4 >> 38.8
小さなことでイライラする 41.0 >> 33.6
自分の長所・短所を考える 40.3 >> 34.1
「よくある」「ときどきある」の合計
*「よくある」「ときどきある」「1〜2回したことがある」

いくつかの項目では有意差がみられる。睡眠不足の子どもに授業中の居眠りが多くなるのは予想されるとおりであるし,おしゃべりやずる休み,夜遅くまでの遊びといった逸脱行動もやや多く見られる。

またイライラするとか怒りがすぐに顔に出るといった点で,情緒的な問題もある程度はうかがえる。

しかし,これ以外の項目では睡眠不足の子どもとそうでない子どもとの間に差がないというのもまた事実である。他の多くの逸脱行動や,「ものごとに集中できない」,「ひどく怒ったり乱暴をしてしまう」といった性格特性については,睡眠不足との関連は特に見出せない。

よく言われるように,睡眠不足に代表される不規則な生活パターンは,心身の健康な成長を妨げることはあるし,逆にメディアへの耽溺や逸脱的な行動の結果として睡眠時間が削られることもあるのは否定できない。しかし,実際睡眠が不足している子どもは,今回データを見る限りさほど多くはない。また,ある種の子育てのあり方がそのまま睡眠不足につながるというわけでもない。今の子どもは個室でテレビやファミコンに夢中になるあまり,多くが睡眠不足で,そのためイライラしたり「キレ」やすい,といった安易な一般化には慎重になるべきであろう。


2 メディアへの耽溺

(1) テレビの所有と子どもの生活

子どもの生活で次に取り上げるのは,前項とも関連するが,メディアへの接触や耽溺によって子どもは「孤立」し,家族や友人との関係が希薄化したり,社会性が乏しくなっているといった定説である。

ここでは,自分専用のテレビの所有と,テレビやビデオを見たりファミコンなどのゲームをした時間を指標として用いる(個室への引きこもりもこうした文脈で語られることが多いが,自分専用の部屋を持っているのは全体で65.0%と既に多数派であるので,ここでは用いない)。

まず,自分のテレビを持っている子ども(全体で20.1%)と持っていない子どもの生活やパーソナリティを比較すると(表3−2−7),様々な項目で差異が生じている。家庭生活では,テレビを持っている子どもは家族と出かけたり家の手伝いをすることが少ない一方,親がほしいものを買ってくれることが多く,コミュニケーションや対話よりモノを介した親子関係がうかがえる。ただし,両親との会話や意思の疎通については特に差はなく,これらを欠きがちであるとは言えない。


表3−2−7 テレビの所有/視聴と生活・性格  <CSVデータ>

  自分のテレビない   自分のテレビある テレビ等3時間未満   テレビ等3時間以上 相関
成績上位 成績中位 成績下位
休日に家族と買い物や遊びに出かける 70.0 >> 60.6            
家の手伝いをする 55.5 >> 48.4 55.0 51.4      
友達と繁華街に出かける 34.0 << 44.1            
親は自分の話をよく聞いてくれる       88.1 >> 82.8 **    
親はほしいものをたいてい買ってくれる 33.6 << 49.9            
親とニュースや本の話をよくする       43.0 37.4      
学校の授業がよくわかる 84.7 79.4 84.9 >> 78.9      
先生は自分達の話をよく聞いてくれる       80.4 >> 76.7     **
学校の行事に熱心に参加する       89.5 >> 82.4 **   **
成績「上の方」「やや上の方」 27.7   26.0 29.1 >> 21.3      
成績「まん中くらい」 48.9 >> 41.2 47.8   45.6      
成績「やや下の方」「下の方」 19.5 << 29.7 19.5 << 30.1      
進学希望「中学」「高校」       31.1 37.4      
同「大学」       41.3 34.8      
友達グループ「2人」「3〜5人」 55.5 >> 43.7            
同「6〜9人」「10人以上」 38.2 << 47.2            
塾やおけいこごと「ない」 28.8 << 35.5 28.2 << 37.2   **  
テレビ等の時間(平均:分) 84.4 96.1            
友達と遊んだ時間(平均:分) 57.1 65.6 57.1 65.1      
家で勉強した時間(平均:分) 39.2 35.9 40.5 31.5 **    
授業中,いねむりする 9.8 << 17.1            
掃除当番などクラスの仕事をさぼる 10.8 << 16.8            
先生にさからったり口答えする       5.4 8.8      
先生に注意されてもおしゃべり続ける       7.6 << 15.1 **   **
ゴミを道にすてる 14.9 << 20.6 14.7 << 21.0 **    
親にさからったり,口答えする 39.0 << 48.1 38.4 << 50.3 **   **
学校をずる休みする※ 7.2 9.5 6.5 << 12.1     **
ものごとに集中できない       47.9 54.9      
腹が立つとつい手を出してしまう       27.1 << 38.7 **   **
腹が立つとすぐ顔に出てしまう       38.9 << 47.5     **
自分に自信がある       49.6 >> 44.3   **  
私はやる気がある       69.0 >> 62.2      
いつも頑張っている       73.0 >> 66.2     **
※「よくある」「ときどきある」「1〜2回したことある」
*:1%水準有意 *:5%水準有意

友人関係については,テレビを持っている子は仲のよい友達グループの規模が大きい傾向が見える。「2人」及び「3〜5人」は43.7%(持っていない子では55.5%),逆に「6〜9人」及び「10人以上」が47.2%(同じく38.2%)と交友の範囲の広さが一見うかがえる。しかし,テレビを持っているのは男子24.5%,女子15.6%と差があり,友達グループの規模も男子の方が大きいため,性別で三重クロスしてみると,男子にはこの傾向が依然見出せる(6人以上:持っている子は51.9%,持っていない子は44.7%)。女子でも持っている子の方がやや友人が多いものの(6人以上は32.3%と38.2%),有意差とはなっていない。また,友達と遊んだ時間も持っている子の方が長いほか(男女合わせた平均で65.6分と57.1分),友達と繁華街に出かける子も多く,テレビを持つことが必ずしも個室への引きこもりに結びつくわけではないことを示している。

行動面では,やや逸脱的な傾向がうかがえる。授業中の居眠りやクラスの仕事をさぼる,ゴミを道に捨てるといった行動が多いほか,親への口答えも多い。大きな逸脱ではないが,ややわがままな傾向があると言えよう。

学業面での差も見出せる。成績上位(「上の方」,「やや上の方」)の割合は変わらないが,テレビを持っている子は中位(「まん中くらい」)が少なく,下位(「やや下の方」,「下の方」)が多く,下の方に偏っている。大きな差ではないが勉強時間も短いほか,「学校の授業がよくわかる」という子もやや少ない。ただし,こうした学業面での差は,次に見るテレビ等の視聴時間ほど顕著ではなく,テレビを持っていることがそのまま学業面での遅れにつながるわけではないことも確かである。


(2) テレビ等の視聴時間と子どもの生活

では,テレビ等を見た時間の長短による違いはどうであろうか。「テレビやビデオを見たり,ファミコンなどのゲームをした」時間が「3時聞くらい」の群(全体で20.7%。男子:19.0%,女子:22.5%)とそれ未満の群に分けると,こちらの方がテレビ所有の有無よりも差異は顕著である。

まず,友達の多さについては差異は見出せないが,友達と遊んだ時間はやはりテレビを長時間見た群の方が長い。これはテレビやファミコンといった遊びは,一般にはひとり遊びと見られがちだが実際にはそうとは限らず,友達と一緒にする場合が少なくないことにもよると思われる。

逸脱的な傾向もやはり見られ,「先生に注意されてもおしゃべりを続ける」,「学校をずる休みする」といった行動も多い。ただし,授業中の居眠りは特に多くない。

これら以上に差が目立つのは,いくつかの性格特性である。「ものごとに集中できない」,「腹が立つとつい手を出してしまう」,「腹が立つとすぐ顔に出てしまう」といった項目は,テレビの有無では差がなかったが,テレビを長時間見ている子はそうでない子に比べてこうした傾向が強い(ただし「小さなことでイライラすることが多い」については,若干の差はあるが有意差は見られない)。逆に「自分に自信がある」,「私はやる気がある」,「いつも頑張っている」子は少なく,自己イメージはややネガティブである。

そして最も顕著なのは,学業面での遅れや意欲の低さである。まず成績は,中位は視聴が短い群とほぼ同じであるが,上位は少なく,下位が多い。家での勉強時間は9分短いほか,希望する学歴は「中学」,「高校」が多く,「大学」は少ない。学業面だけでなく,学校へのコミットメントが低めで,学校行事に熱心に参加する者や,先生が話を聞いてくれると思っている者もやや少ない。また,塾やおけいこごとに通っていない者が多い。


(3) メディアは「原因」か?

以上を見ると,自分のテレビを持っていることが直接問題につながるとほあまり言えないし,テレビ等のメディアへの接触は必ずしもひとり遊びや「孤立」を意味しないことがわかる。しかし,こうしたメディアに長時間接触する子どもたちは,やはり内面に問題を抱えたり,勉学や学校生活への意欲が低いという傾向はなにがしか見出せるようである。

しかし,これらはメディア接触が直接の原因なのであろうか。

ここでテレビ等の視聴と相関関係を示している項目の多くは,学校での成績とも相関する(=成績下位の子によく見られる)ものである。そしてテレビ等の視聴と成績は相関する(=成績下位の子はテレビ等の視聴時間が長い)。そこで,これらの項目とテレビ等視聴時間の相関を,成績を統制したうえでクロス集計してみた。

その結果相関が見られた21の項目のうち,8つの項目では上・中・下位のすべてで相関が消失したほか,7つの項目では3つのうち1つの成績層でのみ相関が見られた。また,3つすべての成績層で相関が見られた項目はひとつもない。成績層別に見ると,上位と下位ではそれぞれ7つ,8つの項目で相関が残ったが,中位層では2つの項目でしか相関は残らなかった。

2つの成績層で相関が残ったのは,「学校の行事に熱心に参加する」,「先生に注意されてもおしゃべりを続ける」,「親にさからったり,口答えする」,「腹が立つとつい手を出してしまう」の4項目である(いずれも上位と下位)。テレビ等を長時間見るような生活は,学校や教師,親などの権威を受け入れないような姿勢と結びつく傾向がうかがえる。これは,テレビをはじめとするメディアは,学校や親が提示するメッセージや規範とは別種の世界,ロジックを子どもに伝えていることと関連していると思われる。こういった点でメディアは子どもに影響し得るし,まず何よりも学業へのコミットや成績の低さと結びつくことは言うまでもない。しかし,これら以外の性格特性や内面の問題との関わりは,それほど明らかとは言えないようである。


3 若い母親と体罰

最近の親,特に若い母親は自分自身が未熟で,そのため子どもをうまく叱れなかったり甘やかしたり,モノばかり与えたり,逆に厳しい体罰や虐待に走る,といったイメージが流布している。あるいは勉強させるばかりで生活や道徳面でのしつけがなっていない,といったこともしばしば語られる。これらは,実態として果たしてどのくらい正しいのだろうか。また親子関係は実際にどのような問題を抱えているのだろうか。

そこで本節では,親子関係や子育ての現代的なあり方について,若い母親の傾向性と,厳しい叱責や体罰に注目して検討する。


(1) 若い母親の識別と傾向性

今回の保護者のデータの属性別集計を見ると,34歳以下の母親は,他の年齢層の母親とは一見異なった傾向を示している。例えば,「お子さんの勉強をみてあげることが多い」,「子どもの寝る時刻を決めている」,「休日に家族と買い物や遊びに出かける」など,子どもとの関わりが密である一方,「子どもをひどく叱ったり,たたく」,「場合によっては,体罰を与えることもある」,「できるだけ学校で子どもの面倒をみてほしい」など,一般にほあまり望ましくないとされる傾向も見え(巻末集計表参照),若い母親,あるいは「最近の」母親は変わってきているかのような印象を受ける。

しかし,これらが本当に最近の若い母親の特徴を示しているのかといえば,データの性質上一概にそうは言えない。

まず,上に挙げた項目の中には,子どもの年齢に左右されると思われるものが少なくない。子どもの勉強を見てやるのは主に子どもが小さいうちである。そして若い母親の子どもは一般に低年齢である。つまり,若い母親の傾向と見えるのは,低い年齢の子どもを持つ母親の傾向でもあるわけであり,これらをできる限り分離してデータを見る必要がある。

また,もともと今回の調査対象は小学校4年生から中学校3年生までの子どもを持つ母親に限られているため,データから見出せるのは,特定の年齢,世代の母親のものというより,年齢(世代)と子どもの年齢を組み合わせた傾向性と見なければならない。

そこで,子どもの年齢(小・中学校別)を統制して三重クロス集計をすると,小学生の母親で,母親の年齢による有意差が残ったのは表3−2−8に挙げた項目である。


表3−2−8 小学生の子どもを持つ若い母親の特徴  <CSVデータ>

  〜34歳 35〜39歳 40〜44歳 45〜49歳 50歳〜
子どもの寝る時刻を決めている 81.4 78.1 67.7 67.0 62.0
子どもの教育やしつけについて,夫婦で意見が違うことが多い 43.3 33.9 35.8 42.9 51.7
子どもをひどく叱ったり,たたく 57.5 43.9 31.5 20.6 34.4
子どもの前で夫婦喧嘩をする 31.0 23.3 24.8 37.5 31.0
どの学校まで進ませたいか 高校 29.2 18.8 16.0 12.5 13.8
どの学校まで進ませたいか 大学 36.3 47.3 52.2 61.6 51.7
できるだけ学校で子どもの面倒を見てほしい* 49.5 40.4 41.1 35.7 34.5
子どもを,よその子どもと比べて見てしまう 56.6 52.3 45.8 46.4 41.4
子どもは親の思い通りにさせたい 21.3 16.9 12.9 16.1 10.3
場合によっては,体罰を与えることもある 49.5 41.8 35.0 31.2 34.5
*のみ10%水準有意。他は1%水準有意

この中で,「子どもの寝る時刻を決めている」,「子どもをひどく叱ったり,たたく」,「場合によっては,体罰を与えることもある」については,小・中学校の別だけでなく学年を統制した三重クロス集計も行ったが,小学校の各学年で34歳以下の母親は最も多くこれらを行っており,子どもの年齢が小さいことのみによるのではなく,この年齢層の母親にはこうした傾向が強いことが確認できた。

つまり,34歳以下の若い母親は,体罰や厳しい叱責をすることが有意に多く,子どもをよその子と比べたり,思い通りにしたいといった傾向も強い。また,学校に子どもの面倒を見ることを期待している一方で,子どもに希望する学歴は高くない。

こうした傾向が34歳以下という年齢の特徴なのか,現在34歳以下である世代の特徴なのかについては,現在34歳以下で他の年齢の子どもを持つ母親や,過去に34歳以下で小4〜中3の子どもを持っていた母親との比較ができないため,今回のデータからは何とも言えない。しかし,これ以外に考えられるのは,今回調査対象となった34歳以下の母親は,比較的若い時期(25歳まで)に子どもを産んだ母親だということである。そこで上の年齢層でこのように若い時期に子どもを産んだ母親と比較してみる。

まず,調査対象の子どもの学年(=小4〜中3)から,各年齢層の母親が調査対象の子どもを出産した年齢は以下のようになる。

1 34歳以下:〜25歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

2 35〜39歳:21〜30歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

3 40〜44歳;26〜35歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

4 45〜49歳:31〜40歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

5 50歳以上:36歳〜のときに調査対象の子どもを産んだ母親

もちろん,若い時期(〜25歳)に子どもを産んだ母親はすべての年齢層にいるはずである。しかし,今回のデータで識別できるのはそのうちごく一部,ひとつ上の年齢層である35〜39歳の母親の一部である。この年齢層は,子どもの学年によって以下のように分けられる。

子どもが小4:26〜30歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

子どもが小5:25〜29歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

子どもが小6:24〜28歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

子どもが中1:23〜27歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

子どもが中2:22〜26歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

子どもが中3:21〜25歳のときに調査対象の子どもを産んだ母親

したがって,25歳までに子どもを産んだことが確認できるのは,34歳以下の母親(137人…1))に加えて,35〜39歳で子どもが中3の母親(50人…2))である。上記の9項目について,この2つの集団を比較してみると(表3−2−9),表に挙げた6つの項目では有意差が見られず,同じ傾向を持っている可能性が示唆された。「できるだけ学校で子どもの面倒を見てほしい」,「子どもを,よその子どもと比べて見てしまう」についてほ数値自体はやや離れているが,「子どもの前で夫婦喧嘩をする」,「子どもを親の思い通りにさせたい」といった項目では数値も近く,共通の傾向であることがわかる。


表3−2−9 若い時期に子どもを産んだ母親の特徴  <CSVデータ>

  1) 34歳以下 2) 35〜39歳で子どもが中3
子どもの前で夫婦喧嘩をする 30.6 28.0
どの学校まで進ませたいか 高校 32.1 30.0
どの学校まで進ませたいか 大学 34.3 40.0
できるだけ学校で子どもの面倒を見てほしい 46.7 40.0
子どもを,よその子どもと比ぺて見てしまう 54.0 44.0
子どもは親の思い通りにさせたい 18.3 18.0

また,1)と2)の間では異なるものも,2)と中学3年生を持つ他の年齢層の母親3)(297人)を比較してみると,表3−2−10のようになる。


表3−2−10 中3の子を持つ母親の年齢による差異  <CSVデータ>

  2) 35〜39歳で子どもが中3   3) その他年齢層で子どもが中3
子どもの教育やしつけについて,夫婦で意見が違うことが多い 26.0 37.1
子どもをひどく叱ったり,たたく 30.0 22.5
どの学校まで進ませたいか 高校 30.0 18.5
どの学校まで進ませたいか 大学 40.0 46.5
できるだけ学校で子どもの面倒を見てほしい 40.0 34.7
子どもは親の思い通りにさせたい 18.0 13.5
場合によっては,体罰を与えることもある 30.0 21.9

 この結果,ひどく叱ったり体罰を与える傾向がある点や,高学歴志向が少ない点は,中3の子を持っ他の年齢層の母親と異なっており,したがって若い時期に子どもを産んだ母親の傾向であることがある程度推測できる。

以上に見たように,若い母親の特徴と見られる傾向性は,子どもの年齢が低いことによるものが多いが,中には,むしろ早い時期に子どもを産んだ母親の特徴と考えられるものもあることがわかった。これは,体罰など子どもに対して厳しく接したり,子どもを思い通りにさせたいと思ったり,また,高学歴をあまり希望しないなどの傾向がある一方,学校に子どもの面倒を見ることを希望するといった点である。

こうした傾向性をどう評価するかについては様々な見方ができよう。教師の側には,親の態度や教育力が低下していることを憂う声が多く,上に見られるような傾向性はそこで言われる内容と重なる部分もある。しかし,これらが若い時期に子どもを産んだ母親に顕著だとすれば,晩婚化が進む現在では,ごく一部の母親の問題だということにもなる。また,上記以外の項目では特にこれといった差異があるわけではないことも事実である。さらに検証するには,十分な世代間比較や通時的な比較が必要であろう。


(2) 体罰と厳しい叱責

1) 母親の認知と特徴

次に,現代の母親をはじめとする家庭でのしつけや養育上の問題点としてしばしば指摘される傾向のうち,体罰や厳しい叱責を取り上げ,いくつかの側面から検討していく。母性の喪失や虐待の増加といったことがしきりと言われるが,これらはどの程度一般化しており,またそれは子どもにどのような影響を及ぼしているのであろうか。

今回調査では「子どもをひどく叱ったり,たたく」及び「場合によっては,体罰を与えることもある」という2つの項目を質問しているが,それぞれ「よくある」,「時々ある」と「あてはまる」,「まああてはまる」を合わせて30.8%,30.7%と割合はほぼ同じであり,相関係数も.4638と高い。

先に見たように,34歳以下の母親で割合が高いが,これはまず子どもの年齢が低いほど体罰や叱責が多いことが影響している(表3−2−11)。


表3−2−11 体罰や叱責,学年別  <CSVデータ>

  小4 小5 小6 中1 中2 中3
<母親>            
子どもをひどく叱ったり,たたく 47.9 37.5 29.8 28.5 22.6 23.7
場合によっては,体罰を与えることもある 45.5 37.6 34.5 29.1 21.5 23.1
<子ども>            
親から体罰を受けることがある 33.5 24.2 15.1 16.4 9.1 7.5

さらに,若い時期に子どもを産んだ母親にこの傾向が強いことも上記のように示唆された。他に属性別では,中学卒の母親が「ひどく叱ったり,たたく」ことがやや多い(40.4%)。

これらの回答をする母親は,どのように子育てをし,子どもとの間にどのような関係を築いているのだろうか。たたいたり体罰を与えることは,やはり望ましくない子育てや望ましくない親子関係の指標なのだろうか。

まず,母親の側から見た子育てのあり方や親子関係,母親の教育意識との関連を見てみると,表3−2−12の項目で,「ひどく叱ったり,たたく」ことと関連が見出された。


表3−2−12 体罰・叱責をする母親  <CSVデータ>

  する母親   しない母親 相関・小学生 相関・中学生
お子さんの仲のよい友達をよく知っている※ 67.8 73.9   **
お子さんの勉強をみてあげることが多い 51.4 >> 41.7    
子どもの寝る時刻を決めている 61.1 >> 55.2    
子どもの教育やしつけについて,夫婦で意見が違うことが多い 41.7 34.5   *
家族で旅行に行く 68.7 63.5    
家族で食事に出かける※※ 35.1 28.5    
休日に家族と買い物や遊びに出かける 83.0 >> 75.6 **  
子どもの前で夫婦喧嘩をする 38.1 >> 19.0 ** **
どの学校まで進ませたいか 高校 23.1 >> 17.7 * *
どの学校まで進ませたいか 大学 45.3 << 51.5 * *
学校の指導や方針に疑問を感じることが多い 46.1 39.2 ** *
子どもを,よその子どもと比べて見てしまう 58.3 >> 42.2 ** **
子どもが何を考えているかわからないと感じる 45.6 >> 33.1 ** **
子どもとの関係はうまくいっていると思う※ 43.3 << 52.8 ** **
子どもはうまく育っていると思う※ 29.5 << 40.3 **  
子どもをうまく叱れない 47.1 >> 29.4 ** **
子育てに関して,途方に暮れることがある 36.8 >> 21.6 ** **
子どもの話をよく聞くようにしている※ 48.4 << 60.0 ** *
子どもとよく話をしている※ 50.3 << 58.5 **  
子どもは親の思い通りにさせたい 19.3 >> 11.7 ** **
子どもの友達づきあいに口をはさむことが多い 28.1 >> 16.9 ** **
※「あてはまる」のみ
※※「よくある」のみ
**:1%水準有意 *:5%水準有意

しかし,これらの中には,子どもの年齢と関連している項目もあり,叱責やたたくことも子どもの年齢が低いほど多く見られるので,子どもの年齢を統制してみる必要がある。そこで小・中学の別を統制して関連を見たところ,有意差は表3−2−12の右欄に示したようになる。

これらを見ると,厳しく叱責したりたたいたりする母親は,子どもとのコミュニケーションがうまくとれなかったり子育てがうまくいかないといった思いを抱いていることがわかる。一方で,子どもに干渉しようとしたり思い通りにさせようとしたり,また学校も十分に信頼することができず,子どもの教育やしつけ,コミュニケーションに関して不安や焦り,困惑している様子が見られる。

厳しく叱責したりたたいたりするのは,こうした感情の表れでもあり,同時にこうした接し方をしてしまうことによって,これではいけないという思いも強まるものと考えられる。


2) 子どもの認知と特徴

さて,一方で子どもの側は体罰をどう見ているであろうか。まず指摘しなければならないのは,表3−2−11に明らかなように,体罰があるかどうかについて,母親の側の認知とはズレがあるということである。

同じ「体罰」という言葉を使った質問を比較すると,子どもの側の認知は全体で母親の半分強,中2,中3では約1/3に過ぎない。子どもへの質問では「親から」という言葉で父親も含めて訊いているにもかかわらず,である。相関係数は,「体罰を与えることもある」とでは.2698,「ひどく叱ったり,たたく」とでは.3164と確かに高いが,それでも母親が「体罰を与えることがある」(「あてはまる」)と答えている子どものうち,「体罰を受けることがない」と答えている子どもが36.2%もおり,「あてはまる」,「まああてはまる」を合わせた34.2%よりも若干多いのである(なお,母親が体罰を与えないと答えているうち,体罰を受けると答えている子どもは9.5%…「あてはまる」,「まああてはまる」)。

つまり,子どもの方は母親が意識しているほど「体罰を受けている」とは認知しておらず,また,たたかれたりしてもそれによって傷ついたり恨みに思うといったことも,さほど多くはないと推測される。もちろん,よく言われるように体罰や虐待によってトラウマを抱えてしまう子どもがいることは事実である。しかし,それがどのくらい一般的なことなのか,どの程度広がっている現象なのかは,慎重に判断する必要がある。

以上を踏まえた上で,では厳しい叱責や体罰を受ける子どもはどのような傾向を示しているのかを見ていく。ここではまず,量的に少なく,「本当に」体罰を受けている可能性が高い,子どもの側の認知を独立変数とする。

表3−2−13に示したように多くの項目で相関が見られるが,これらの中には学年によって数値が大きく異なるものがあり,体罰を受けるのも学年が低いほど多いため,学年を統制する必要がある。ここでも小・中学校の別を統制してみると,相関は右欄に示したようになる。


表3−2−13 体罰を認知する子どもの特徴  <CSVデータ>

  認知あり   認知なし 相関・小学生 相関・中学生
自分の部屋を持っている 40.9 >> 33.6    
自分の部屋や机のまわりを自分で片づける 48.8 << 61.2   *
朝食をほとんど毎日食べる 80.6 85.9   *
学年の違う子どもといっしょに遊ぶ 64.2 >> 49.8   *
友達と繋華街に出かける 29.8 << 37.6    
親から「○○ちゃんはできるのに」などと,友達を引き合いに出して言われる 42.2 >> 27.8 ** **
親は自分のことをわかってくれている 71.7 << 80.3 **  
親に叱られて納得いかないことがある 69.5 >> 59.9 ** **
親は自分の話をよく聞いてくれる※ 84.0 << 87.6 **  
親から「勉強しなさい」とよく言われる 80.6 >> 68.8 ** **
親から「男の子(女の子)だから○○しなさい」と言われる 46.6 >> 34.2 **  
親の書うことは正しい※ 32.9 >> 27.7    
親は私を思い通りにしたいと思っている 40.9 >> 26.3 ** **
親は私の友達づきあいにロをほさむことが多い 35.5 >> 20.2 ** **
親から「人に迷惑をかけないように」と言われる 88.8 >> 76.8 ** **
親から「だらしなくするな」と言われる 75.4 >> 63.7 ** **
先生は自分達の話をよく聞いてくれる※ 52.8 >> 41.6    
騒がしくて授業ができない 36.5 27.7 *  
進学希望 高校 40.4 >> 28.6    
進学希望 大学 32.6 << 41.7    
クラスの子をいじめる※※ 18.7 >> 8.5 ** *
親にさからったり,口答えする 45.9 >> 40.0 ** **
ひどく怒ったり,乱暴してしまうことがある 39.1 >> 23.4 ** **
腹が立つとつい手を出してしまう 43.0 >> 26.6 ** **
自分のやったことが良かったか,悪かったかあまり考えない 37.0 >> 32.8    
自分に自信がある 56.5 >> 46.6 **  
自分がだめな人間だと思うことがよくある 33.2 >> 25.8 **  
自分はやる気がある※※※ 11.1 >> 5.8 ** *
※「あてはまる」のみ
※※「よくある」「ときどきある」「1〜2回したことがある」
※※※「あてはまらない」
**:1%水準有意
*:5%水準有意

年齢を統制しても子どもの側の体罰の認知と相関しているのは,まず親から子どもへの働きかけに関する項目である。体罰を受けている子の親は,これ以外にも子どもに対して様々に統制を及ぼしている。これはしつけが厳しいとか,きちんとしつけているといった側面を含む一方,子どもの側からすれば,理不尽に感じたりうるさく思ったり,反抗することにもなる。そして体罰を受けることがこうした思いにつながるのは,中学生より小学生で顕著なようである。

もうひとつ相関が見られるのは,子どもの内面や情緒面についてである。体罰を受けている子どもは自分もカッとなったり乱暴する傾向があり,こうした傾向が体罰をはじめとする親の養育態度によって「連鎖」する可能性が示唆される。また,体罰を受けている子は他の子をいじめることも多い。

また,子どものセルフ・エスティームとも相関を示す。しかし,この相関にほ特徴があり,体罰を受けている子どもは「自分に自信がある」ことと,「自分はだめな人間だと思うことがよくある」ことのいずれも,体罰を受けていない子どもより多い(特に小学生)。この2つの項目は,回答者全体では有意な負の相関を示す。しかし,体罰や厳しい叱責を受けている子どもの場合には,これらを受けることでセルフ・エスティームが下がる側面と,先に見たように,親に反抗したり他者に対して高圧的に振る舞うことが自信にもつながるという両方の側面があるということであろうか。


3) 母親の認知と子どもの特徴

次に,母親の側の認知と子どもの側の回答との関連を見てみる(表3−2−14)。相関が見られる項目は,子どもの認知の場合とかなり重なるが,セルフ・エスティームについては相関は見られなくなる。


表3−2−14 母親の体罰・叱責認知と子ども  <CSVデータ>

  認知あり   認知なし 小学生 中学生
自分の部屋を持っている 39.2 >> 32.9    
学年の違う子どもといっしょに遊ぶ 61.2 >> 48.9   **
友達と繋華街に出かける 30.0 << 37.4    
親から「○○ちゃんはできるのに」などと,友達を引き合いに出して言われる 36.8 >> 27.6 * **
親に叱られて納得いかないことがある 65.9 >> 59.5 * **
親は自分の話をよく聞いてくれる※ 48.2 52.4    
親から「勉強しなさい」とよく言われる 78.6 >> 68.1 ** **
親から「男の子(女の子)だから○○しなさい」と言われる 41.4 34.7    
親はほしいものをたいてい買ってくれる 33.3 38.9    
親とニュースや本の話をよくする 38.5 44.0    
親の言うことは正しい※ 32.3 27.0    
親は私を思い通りにしたいと思っている 31.2 >> 26.6    
親は私の友達づきあいに口をはさむことが多い 35.5 >> 20.2    
親から体罰を受けることがある 32.7 >> 10.3 ** **
親から「人に迷惑をかけないように」と言われる 86.1 >> 75.6 ** **
親から「だらしなくするな」と言われる 69.7 >> 64.9 * *
先生は自分達の話をよく聞いてくれる※ 49.5 >> 41.4    
進学希望 高校 35.3 >> 29.2    
進学希望 大学 37.1 << 40.8    
授業中,いねむりする※※ 22.6 << 26.1    
クラスの子をいじめる※※ 18.7 >> 8.5 * *
親にさからったり,口答えする 45.1 >> 38.7    
ひどく怒ったり,乱暴してしまうことがある 33.7 >> 22.6 ** **
腹が立つとつい手を出してしまう 37.4 >> 26.0 **  
いつも頑張っている 68.2 73.6   *
※「あてはまる」のみ
※※「よくある」「ときどきある」「1〜2回したことがある」
**:1%水準有意
*:5%水準有意

また,ここでも,小・中学生の別を統制してみるど相関が残る項目はさらに少なくなり,母親の側の体罰や叱責の認知と子どもの行動や内面はさほどストレートには結びつかないことがわかる。そうしたなかで相関が残るのは,親からの厳しい働きかけと,いじめをはじめ,乱暴な性格や行動である。

以上を考えると,親からの体罰や厳しい叱責は,他者に対する厳しい態度や攻撃,乱暴でカッとなるパーソナリティなどへと「連鎖」するという通説的な理解は,ある程度検証されたと言えよう。

しかし,子どものセルフ・エスティームとの関連については,慎重な検討が必要である。子どもの体罰の認知とセルフ・エスティームの間には相関が見られたが,母親の認知と子どものセルフ・エスティームの間には相関は見出せない。つまり,体罰を受けていると感じている子どもは,他の子どもに比べてセルフ・エスティームに特徴があるが,体罰や厳しい叱責をしていると認知している母親の子どもには,セルフ・エスティームに関してこれといって特徴は見られないということである。

これは,体罰や叱責が直接子どものセルフ・エスティームを左右するのではなく,体罰を受けているという子どもの側の認知がある種のセルフ・エスティームと関連する,ということではなかろうか。

いじめなどと同じく,体罰はする側からされる側への客観的な行為であると同時に,される側の認知や感じ方によって大きく左右される,主観的な現象でもある。いつもたたかれていてもほとんど何も感じない子どももいれば,たまにたたかれたことで大きく傷つく子どももいる(これは親の側も同様である)。そのとき,体罰の実際の頻度や程度がどうであれ,自分は体罰を受けている,と子どもが認知すれば,親の側の認知がどうであれ,セルフ・エスティームに大きく影響するのである。たたかれている,と感じている子どもは,自分はダメな子どもだから,親に愛されていないからたたかれるのだ,と思ったり,逆に,たたかれて自分は強くなったのだ,と納得したりする。いずれにせよ,たたかれているということがその子の中では大きな意味を持つわけである。

昨今,親の厳しさや「父性」の欠如が叫ばれたり,一方で虐待の増加やそれによるトラウマなどもしばしば言われるようになり,親たちは自分たちの子育てや子どもへの接し方に不安を感じざるを得ないような状況にある。しかし,当然のことではあるが,家庭での体罰や厳しい叱責は,一律に良いとかやってはならないなどと規定してしまえるものではない。それがどのような意味を持つのか,長期的に見て子どもにどのような影響を及ぼすのかは,上に見たような親と子の関係性や,きょうだいなども含めた家族,さらには学校や地域も含めて子どもが置かれている環境によって左右されるのである。


4 まとめ

以上で取り上げたのは,現在子どもや子育てに関して様々に憂慮されている傾向や変化のうちのごく一部であるが,データを検証すると,それらがどの程度一般化,深刻化しているのか,疑問符がつく部分が多い。もちろん問題が存在していないというのではない。どのような部分にそれが特に生じているのか,どの程度変化してきたのか,データに基づいた慎重な検討が必要であり,少数の事例からの安易な一般化やいたずらにセンセーショナルな言説は,当の子どもや親たちを惑わしたり不安に陥れたり,また逆にそんなに一般化しているのなら,ということで逸脱行動を学習させ,実際に増やしてしまうことにもなりかねない。

ただし,今回のデータの特徴として考慮しておかなければならないのは,調査方法の影響である。調査員が自宅を訪問して面接法で行った今回の調査は,まず家庭で質問に応じられる親と子が対象となっているわけであり,崩壊に近いような家庭や,子どもが遅くまで出歩いているようなケースは調査不能となっている可能性が高い。その意味で,有効サンプルは良い環境の家庭にある程度偏っている可能性は否定できない。

さらに,自宅での面接調査であるため,親,子どもともにいわゆるタテマエ的,優等生的な回答にシフトする可能性も考えられる。これをできるだけ排除するために,面接は原則として調査員との一対一で行うほか,答えにくいと予想される質問項目は読み上げずに調査票を示し,番号で答えてもらうといった配慮は最大限行っているが,それでもなにがしかの気がねは排除しきれないであろう。

これら2つの要因によって,全体的に回答が「健全」な方向にシフトしている可能性は否定しきれない。

しかしまた,この種の調査に一般的な学校を通した調査ではなく,厳密なサンプリングを行った全国調査であるため信頼性が高まっていることも確かである。今後は,同種の質問,方法を用いた通時的な比較によって変化の方向と程度を正確に測定し,冷静な議論の材料とすることが必要であろう。



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