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オ スウェーデン
(ア)労働政策の動向
 スウェーデンでは,長年にわたり「積極的労働市場政策」をとってきている。国民に能力向上と労働を求める「労働と能力の理念(Work and Competence Concept)」を重要な原則として,失業対策においては,失業者に失業保険による手当てを支給するよりも,積極的な就職のあっせんや教育訓練等による就職機会の拡大を図ることが優先的,かつ重要であると考えられている。
 2005年における平均失業者数は24万1,000人,平均失業率は5.4%であり,2004年とほぼ変化がない。6か月(25歳以下の若者の場合は100日)以上継続して失業している長期失業者の数は,2004年から2005年にかけて月平均で2,000人減少し,57,000人となった。2年以上失業している,又は労働市場政策プログラムに参加している人々は,前年よりも2,000人多い37,000人であった。
 スウェーデンでは,1990年代から若年失業率(15〜24歳)が急激に高まり,1993年には22.7%にまで達していた。その後,積極的な労働市場政策が講じられたことにより若年失業率は低下傾向にあるものの,2004年時点での若年失業率は17.0%と,労働者全体の5.5%に対して高い水準にある。

図 2 − 52 スウェーデンにおける失業率(年代別)(CSVデータ)


図 2 − 52 スウェーデンにおける失業率(年代別 )
(出所)OECD(2006)「OECD Employment Outlook−Boosting Jobs and Incomes」より作成

(イ)若者に対する就業支援政策について
a 行政機構
 連邦政府労働省による管轄である。支援の実施主体は地方自治体(日本における市町村に当たる。)<注34>となる。
b 制度の概要
 スウェーデンの「積極的労働市場政策」には,大きく分けて<1>20歳未満を対象とした地方自治体若者プログラム,<2>20〜24歳を対象とした若者保障プログラムがある。
 これらのプログラムは,25歳未満の若者が適切な教育,実務体験,雇用創出措置等を提供されないまま100日以上失業しているべきではないという考え方に基づき,上記<1>は1995年に,<2>は1998 年に導入された。
(a)地方自治体若者プログラム
 地方自治体若者プログラムは,20歳未満の若者就職促進のための事業を国が自治体に委ねるもので,自治体は若者の雇用対策について地方労働委員会と協定を結び,職業技能の付与等の教育訓練を中心とした事業を行う。自治体は,それぞれの地域の実状に合わせた工夫を凝らして事業を実施し,国からは必要な経費の補助を受けている。プログラムの参加者には手当てが支給される。若者がスウェーデン国内でなく国外に出て,企業で働きながらOJTを受ける場合,そのための奨励金が受けられる。
(b)若者保障プログラム
 若者保障プログラムは,1998年に導入されたもので,20〜24歳の若者が対象である。若者に労働への参加を確保し,就業意欲を失わせないようにするためのものである。対象となる若者が職業安定所に求職登録してから100日以内に就職できないままで,学校に入学したり,ほかの適切な労働市場対策プログラムに参加できず,正規の労働も教育訓練も受けられない場合は,地方自治体が進学か雇用のいずれかを保障するという方針に基づくものである。若者が進路を開けずに,この制度を適用する条件が整ったときには,地方自治体は,期間12か月とするプログラムを作成し,その若者に提供しなければならないことになっている。若者に対してフルタイムで働く場と機会を保障するもので,地方自治体自身が雇用して責任を負うこともある。
 また,地方自治体の責任を重視しているのが特徴であり,すべての地方自治体は国との間で協定を結び,その実施の対価として国から財政援助を受ける。地方自治体に対しては,国から若者1名につき,1日当たり150スウェーデン・クローナ(約2,525円)が支払われる。また参加した若者には活動手当て,又は開発手当てが支給される。
 さらに,参加者本人の意思を尊重しつつ個別プログラムを作成することとしており,プログラムの作成には対象となる若者自身が参加する。いずれのプログラムも地方自治体と地域の職業紹介センター,地方企業のパートナーシップの下に実施されている。
 2002年の参加者数は両プログラム合計で約8,600 人であり,同年の若年失業者数42,000人の約20%を占める。
 若者保障プログラムは,2007年6月末にて終了し,7月からは就職保障プログラム(job guarantee programme)に移行されることが発表されている。連邦政府における若者保障プログラムの全体予算は1年で約900万スウェーデン・クローナ(約1億5,282万円)<注35>であったが,就職保障プログラムにおける2007年から2009年の予算は3年間の合計で2,000万スウェーデン・クローナ(約3億3,960万円)と削減されることになる。
表 2 − 14 スウェーデンにおける若者就労支援プログラム
  1998.1〜2001.7 2001.8〜2007.6 2007.7〜
20〜24歳 発達保障プログラム 若者保障プログラム 就職保障プログラム
20歳未満 地方自治体若者プログラム

 各地方自治体(日本における市町村)における「労働市場部」(地方自治体によって名称は異なる。)が実際の支援を実施している。労働市場部では,若者,障害者,高齢者,移民などを対象としたすべての雇用に関する相談を受け付けており,職業支援やカウンセリング担当など様々な職種がチームを組んで対応している。スウェーデンの相談員は常勤で勤務することが多く,ボランティアの相談員はほとんど存在しない。
 スケルフティア自治体市場労働部では,若者保障プログラムを担当するカウンセラーは4人でそのアシスタントが2人いるが,すべて常勤である。他の若者職業関連プログラムを担当するカウンセラー及びアシスタント合計で20人のチームであり,このチーム(及び自治体組織全体)で働いているボランティアはいない。
 ハディンゲ自治体社会労働部の社会福祉及び労働市場部門の全職員数は,900人で,子ども,若者,身体及び精神障害者,老人,低所得者,移民などを対象とした社会福祉,また移民を含む各年齢層の失業者に次の就職へ向けてのカウンセリング,トレーニングのアドバイス,インターンシップ,仕事のあっせんなど活動範囲は非常に広い。労働市場部門の職員数は50名である。そのうち若者保障プログラムを担当するカウンセラーは6人で,現在はすべて常勤だが,パートタイムのカウンセラーが雇用されることもある。若者のトレーニングにも利用されるアクティビティー・センターも所有・運営する。
 エスキルスティナ自治体社会福祉労働市場部の職員数は20名である。
(ウ)相談業務について
a 対象者の概要
 地方自治体若者プログラムにおける対象者は20歳未満,「若者保障プログラム」は20〜24歳で,求職活動を始めてから100日以内に就職あっせん所が仕事をあっせんできないままで,かつ,学校に入学したり,ほかの適切な労働市場対策プログラムに参加できないでおり,正規の労働も教育訓練も受けられない場合に支援対象となる。男女比や学歴等の属性は様々であり,地域や年度によって異なるが,移民など特別なサポートを必要とする対象者が比較的多い。
 スケルフティア自治体市場労働部における支援対象者の属性(性別,学歴等)は当該年度によって異なるが,単に社会性の欠ける者から,家族問題を抱える者,薬物依存者,犯罪経験者,妊婦,移民など様々なケースがある。病気や障害を持つ者がこのプログラムの相談対象となる場合もある。
 ハディンゲ自治体社会労働部における支援対象者の属性は男女比,学歴などは様々である。家族問題,薬物依存,犯罪経験,身体障害,精神障害,最近移住したばかりで特別なサポートが必要等,相談対象者が当部のサポートを必要とする理由は様々である。移民の割合が若干高い。また,支援対象者によっては精神的に問題を抱えていることも多いため,医学的に問題があると判断された場合には,ほかの適したプログラムを勧めることもある。
b 関係機関との連携について
 各地方自治体とも,対象者に教育や職業訓練等の機会を提供してくれる企業,職業訓練所等に対しては積極的に連携をとっている。また必要とみなされる地方自治体,連邦政府の社会保障機関,公立医療機関,労働市場サービス部などと連携をとっている。
(エ)相談員について
a 相談員の素養
 スウェーデンにおいて相談を担当するカウンセラーは公募にて採用される。資格などを特に要求することはないが,大学等で社会福祉,心理学等を専攻していること,ビジネス経験,就労支援分野における経験があること,ネットワーク等を持っていること等が採用時の基準となる。
 スケルフティア自治体市場労働部では,カウンセラーは通常,公募にてフルタイム・ベースで採用されるが,一般的に大学で社会保障,又はガイダンス,心理療法など心理学系を専攻し,既に若年層へのガイダンスを提供した経験と,この分野での個人ネットワークやコンタクト網を広く持っている人材が採用される。経験年数などの正式規定はない。
 ハディンゲ自治体社会労働部においても,カウンセラー職員は公募にて採用されるが,大学で社会福祉,教育,臨床心理学,児童心理学などを専攻した者,又はこの分野での職務経験,多くのコンタクトを持つ者が優先される。若者の行動を改善させるという点でも,体力という点でも,ある程度若いことは重視される。
 エスキルスティナ自治体社会福祉労働市場部でも,カウンセラーは公募で採用される。公募審査に当たり,持っていなくてはならない正式な資格などはなく,大学で社会福祉,心理学等を専攻していればプラスであるが,それだけではなく,ビジネス経験,コンタクトの多さ,社会福祉分野での経験などが採用の基準となっている。
b 相談員の職務形態
 カウンセラーは基本的に公務員として雇用される。週40時間の勤務となっており,フレックス制度を導入している地方自治体が多い。給与は経験にもよるが,月給20,000〜24,000スウェーデン・クローナ(約339,600円〜407,520円)程度であり,これは小学校教員の給与と同等であり,中位的な給与水準である。
c 相談員の職務内容
 基本的には20〜24歳の若者を対象に1対1のサポートを提供する。相談業務のステップは以下のとおりである。
(a)  個人のニーズや特性を見極めるため,まずは相談対象者の生活環境,教育,これまでどのような問題に直面してきたか,今後どのような職に就きたいかなど,その後のカウンセラーのサポート体制を検討するために必要な事実をすべて洗い出す。
(b)  どのような処置やアドバイスが必要かケースの検討を行い決定する。
(c)  相談対象者に1週間程度のセミナーにて,基本的なスキルについての講義を行う。その後,地元企業や教育訓練所等の受入機関と連携をとりながら,個別に必要な外部のトレーニングや企業を紹介し,インターンシップやパートタイムの仕事をあっせんする。あっせん後は,継続的にカウンセリングなどを実施し,支援対象者が問題なく就労等に従事できるよう支援する。
d 相談員の育成・養成
 体系化された研修プログラムはなく,各地方自治体が基本的なカウンセリング手法,必要となる法律知識,支援の手法等についての研修をOJTベースで行っている。ハディンゲ自治体では,「ライフ・コーチング」<注37>について,外部機関を利用して研修を受講している。この講座については効果的であったため,連邦政府でも「ライフ・コーチング」を取り入れる動きが出てきている。
 スケルフティア自治体市場労働部ではカウンセラー職員の研修・養成プログラムはOJTベースで,当部の最高責任者が毎年1〜2週間のセミナーを実施し,カウンセラーの育成に大きく貢献している。
 ハディンゲ自治体社会労働部においては,経験の長いカウンセラーが年に2〜3日研究を実施しているが,それ以外に,自治体の予算で「ライフ・コーチング」に関して外部のコンサルティング会社に研修を依頼している。2〜3日のクラスルーム設定での講義の後,各カウンセラーのペースに合わせたアサインメントが配布される。この研修は現場で非常に効果を上げており,連邦政府も同じような研修を実施する予定となっている。
 エスキルスティナ自治体社会福祉労働市場部においては,カウンセラーの研修プログラムとして,最初のイントロダクションに関して,地方自治体の成人学級を担当している組織の職業カウンセラーに講義を依頼している。
(オ)今後の課題
 相談にかかわる課題としては,支援プログラムに参加している若者が途中でプログラムをやめてしまい,最終的な就労に結び付かない事例があること,また就労機会の提供をする企業が不足していることなどが挙げられる。
 スケルフティア自治体市場労働部においては,相談対象者の職業体験の受入れを引き受けてくれる企業が常に不足していることが大きな課題である。
 エスキルスティナ自治体社会福祉労働市場部における一番の問題は,プログラムを中途でやめてしまい,お金がなくなると戻って来る相談対象者にどう対処するかということである。予算などの問題もあり,個人カウンセリングの部分が少なく,同じ解決方法を大部分の若者に勧めるという方法に限界があると考えられる。中途でやめてしまう若者をより良くサポートするため,その原因について詳細に調べ,それに基づいた解決策が求められている。
 また,連邦政府と地方自治体との連携や,補助金の大幅な削減についても,活動の阻害要因となっており,今後改善が求められる事項である。
 ハディンゲ自治体社会労働部においては,連邦政府と地方自治体政府との連携が不足しているために,同じようなサービスを二重に提供したり,相談対象者が,手当てを受け取るだけのために連邦政府と地方自治体政府の間を行ったり来たりするなどの問題が発生している。今後は連邦政府と地方自治体政府がより多くの情報を交換し合い,連携を強めることが課題となっている。
 また,各地方自治体において,現在の若者保障プログラムが2007年6月末に終了となり,新制度への移行が実施されることによって,補助金の削減等が行われ,これまでの取組が蓄積されないことについての不安を抱えている。

図 2 − 53 スウェーデンの政府機構・所掌事務

図 2 − 53 スウェーデンの政府機構・所掌事務
(出所)財務総合研究所(2006)「主要諸外国における国と地方の財政役割の状況」報告書

表 2 − 15 ヒアリング対象の地方自治体概要
自治体 人口
(2006年12月末時点)
特徴
スケルフティア自治体 71,966人  スウェーデン北部の自治体である。若者保障プログラムに関して活発に活動しているが,NGOのUrkraftと提携して効果を上げている。Urkraftは失業者に職業訓練を施すとともにパン屋,リサイクリング市場,レストラン,テレビ局などを運営している。
ハディンゲ自治体 90,182人  ストックホルム市郊外にあり,大学やメディカルセンターを抱える自治体である。
 公営住宅がある地域では失業率が高いところもある。
 国立のジョブセンターでは移民,難民など弱者の対応にまで手が回らず,同自治体が主導権を取らざるを得なくなった。
 そのため,若者保障プログラムの分野で独自に新規の手法を開発している。
エスキルスティナ自治体 92,250人  ストックホルムから西へ100kmのところにある旧工業地帯に位置する自治体である。
 産業構造の変化に伴う労働市場の変質により生じる社会的影響を最小限にするための施策に力を注いでいる。労働市場と家族・家庭問題はこの自治体の新戦略の核と考えられている。



<注34> スウェーデンの国・県・市町村の所掌事務については表2-15を参照。
<注35> 1スウェーデン・クローナ=16.98円(2007年2月28日時点)。本報告書ではこの換算レートを使用する。
<注36> スケルフティア自治体(SKELLEFTE?),ハディンゲ自治体(HUDDINGE),エスキルスティナ自治体
<注37> ライフコーチングとは,カウンセリング等によって相談者が自分自身で答えを見付け,人生目標を実現できるよう,生活の全領域にわたって,援助することである((出所)カーリィ・マーチン著,石井朝子訳(2005)「ライフコーチング・ハンドブック」チーム医療)。

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