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2 生活満足の諸相とその構造

  1. 生活満足度の国際比較

     表1−1は,調査対象国の青年たちが生活の諸側面(7項目)についてどの程度満足しているかを,国別の肯定反応率(回答選択肢1ないし2を選んだものの割合)で示したものである。また,図1−1は,「満足」(ないし「好き」「幸せ」)と答えた者の割合を図示したものである。この図・表より,以下の諸点を確認することができる。

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    表1-1国別の生活諸側面での満足度


    図1-1国別の生活諸側面での満足度 -「満足」の割合-


     第一に,調査対象となったどの国でも,肯定反応率は,自国社会に対する満足度など一部を除いて,8,9割以上に達している。特に友人関係についてはどの国でもおよそ95%以上に達している。また,幸せかどうかについても,韓国(87.7%)がやや低いものの,他の4か国では95%前後に達している。
     第二に,とはいえ,生活諸側面(諸項目)についての満足度は,国によってかなりの違いがある。特に,自国社会に対する満足度の差は顕著で,最高のアメリカと最低のドイツ・日本との間には,「満足」の割合で30ポイント以上,肯定反応率で40ポイント以上もの差がある。また,学校生活,職場生活に対する満足度と幸せ感の差もかなり大きく,最高と最低の国の間には,「満足」の割合で24〜28ポイント,肯定反応率でも,幸せ感以外は,15ポイント前後の差がある。
     第三に,アメリカとスウェーデンは,どの項目も総じて高く,韓国は大半の項目で相対的に低く,ドイツと日本はその中間に位置し,項目による違いが目立つ。
     以上のように,今回調査対象となった5か国では,青年たちの大半は生活の諸側面に概ね満足しているといえるが,項目によっては国によってかなり顕著な違いがみられる。その背景については第3節以降で検討するが,その前に,5年前(1998年)に実施した第6回調査の結果との関連で,今回対象となった5か国の特徴を確認しておこう(『第6回世界青年意識調査細分析報告書』所収の拙稿「第1章 変動社会における青少年の生活と意識」参照)。
     前回調査の対象国は今回の対象国を含む11か国であったが,それら11か国のうち,ブラジルを除く10か国は,上記と同様の項目に基づいて,以下の4つのグループに分類された。ブラジルについては,第5回調査までの結果と比べて回答結果の違いが非常に大きく,その原因を特定することができなかったので,この分類からは除外した(ブラジルは,第5回調査では,タイ,フィリピンと同じグループに分類された)。
     第1グループ:タイとフィリピン〜どの項目でも満足度水準が非常に高い社会(発展途上国,伝統的・共同体的・相互扶助的要素が残っている社会)
     第2グループ:イギリス,スウェーデン,アメリカ〜第1グループほどではないが,どの項目でも総じて満足度水準が高い社会(欧米先進国)
     第3グループ:フランス,ドイツ,日本〜満足度水準が比較的高い側面とそうでない側面が混在している社会。(ただし,日本をこのグループに含めるべきか,それとも次の第4グループに含めるべきかは微妙なところである。)
     第4グループ:韓国,ロシア〜総じて満足度水準の低い社会(体制変換や急激な経済発展などに伴って社会生活の諸側面で歪みやアンバランスが目立つ社会)
     上述のように,今回調査の対象5か国の傾向は,この第6回調査の分類結果と整合的である。すなわち,前回調査で第1グループに分類されたタイとフィリピンは,今回の調査では対象から外れたので,今回対象となった5か国は,第1グループを除く3つのグループに分類され,どのグループに属するかも前回の調査結果と基本的に同じである。この結果は,生活満足度の構造における国別の違いには,前回調査から今回調査までの,この5年間で,基本的に大きな変化がなかったことを示唆している。

  2. 生活満足度の経年変化

     次に,それらの諸側面の満足度が時代の変化に伴ってどのように変化してきたかをみておこう。図1−2a〜図1−2eと表1−2a〜表1−2eは,図1−1及び表1−1で検討した7項目について,1978年の第2回調査から今回調査までの国別の経年変化を示したものである。
     図1−2aと表1−2aより明らかなように,日本の場合,自国社会を除いて,どの項目でも,趨勢としては上昇してきたが,この5年間は,横ばいないしやや低下の傾向にあるといえる。友人関係の満足度は,この質問項目の入った第2回調査(1977年)以来概ね上昇を続け,前回と今回の調査では,70%台に達している。自国社会を除く,その他の項目でも90年代に上昇しているが,職場生活,学校生活,地域社会では,前回から今回にかけてやや低下している。これは,近年の経済不況や職場環境・仕事の再編などを反映したものと考えられる。他方,自国社会については,88年調査までは上昇傾向にあったが,その後は低下傾向に転じ,前回・今回とも,肯定反応率(「満足」と「やや満足」の合計)でも,35%に留まっている。これは,一つには,バブル経済崩壊以降の経済不況を反映したものであると考えられるが,それだけでなく,年金問題や高齢者介護の問題,有事法制の改革や自衛隊のイラク派兵などの混迷した状況を反映しているとも考えられる。

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    表1-2a日本における生活諸側面での満足度に関する経年変化


    図1-2a日本における生活諸側面での満足度に関する経年変化

     韓国の場合(図1−2b及び表1−2b),友人関係,家庭生活,地域社会の満足度が98年調査以降,それ以前に比べてやや上昇しているのに対して,学校生活の満足度は今回調査で約10ポイント低下している。また,自国社会については,83年調査では53.0%であったが,88年調査では17.2%に急落した後,徐々に上昇し,今回調査では約40%にまで回復している。88年の急落は,80年の光州事件(学生運動が市民を巻き込み騒乱状態になり,軍による鎮圧で多数の死傷者が出た事件)の余波と政治腐敗や地域間の対立などが問題化する中で政治の民主化を求める運動が高揚してきたことと,急速な経済発展が進み始める中で貧富の差や発展のアンバランスが顕在化し始めたことなどによると考えられる。

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    表1-2b韓国における生活諸側面での満足度に関する経年変化


    図1-2b韓国における生活諸側面での満足度に関する経年変化

     アメリカの場合(図1−2c及び表1−2c),83年には自国社会について,また,93年には,友人関係と地域社会を除くすべての項目で,満足度の著しい低下がみられるが,83年は,80年に勃発したイラン・イラク戦争へのアメリカの介入や経済不況(財政・貿易赤字の拡大と失業率の上昇)等が問題化していた時期であり,93年は,経済は回復し始めていたものの,90年の湾岸戦争によって拡大した財政赤字の削減と増税の政策や,92年のロサンゼルス暴動(人種差別・対立),93年2月のマンハッタン爆破テロ事件(世界貿易センタービル地下駐車場での爆弾テロで死者7人,負傷者700人以上),テキサス州ウェーコでのブランチ・デヴィディアン事件(狂信的な武装宗教集団の自爆事件で信者87人死亡)などがあり,社会不安や社会の在り方に対する批判的関心が強まっていたからだと考えられる。

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    表1-2cアメリカにおける生活諸側面での満足度に関する経年変化


    図1-2c アメリカにおける生活諸側面での満足度に関する経年変化


     スウェーデンの場合(図1−2d及び表1−2d),93年調査から98年まで,家庭生活,地域社会,学校生活の満足度がかなり低下し,また,自国社会については,88年調査までは上昇してきたが,93年調査で一旦低下し,その後再び上昇している。これらの変動が何に起因するのかは定かでないが,他の4か国との比較では,総じてどの側面でも満足度の水準が高い点に特徴があるといえる。そうした中で,学校生活の満足度が,自国社会以外の他の側面に比べてやや低いことは,注目に値する。というのも,日本では,こうした学校生活満足度が低いといった調査結果を根拠にして,日本の学校教育の在り方を根本的に変えるべきだとする議論がしばしばみられるが,スウェーデンでも学校生活満足度は低く,日本の場合と大差ないということは,そうした議論を安易に受け入れることに警鐘を鳴らすものだともいえるからである。

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    表1-2d スウェーデンにおける生活諸側面での満足度に関する経年変化


    図1-2d スウェーデンにおける生活諸側面での満足度に関する経年変化


     ドイツの場合(図1−2e及び表1−2e),ほとんどの側面で満足度は比較的安定的に推移してきたのに対して,自国社会に対する満足度が93年調査から急落し,地域社会の満足度は98年調査から急上昇した点に特徴がある。自国社会に対する満足度の急落は,ベルリンの壁崩壊に続く東西ドイツの統合とそれに伴う経済・社会の混乱などを反映したものと考えられる

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    表1-2e ドイツにおける生活諸側面での満足度に関する経年変化


    図1-2e ドイツにおける生活諸側面での満足度に関する経年変化


     最後に,特にまとめの図表を再掲することはしないが,「幸せだ」と感じているかどうか(幸せ感)について確認しておこう。各国別の経年変化をみても明らかなように,幸せ感の水準には国によってかなり大きな差があるものの,経年変化ではある種の安定性ないし一貫性があるように見受けられる。すなわち,スウェーデンとアメリカでは,多少の変動はあるものの,それぞれ,60%前後と55%前後で推移しているのに対して,日本は,90年代を通じて上昇し,近年は50%〜45%の水準にあり,ドイツは,東西ドイツの統一後やや低下したが,その後は上昇し,40%台に達している。他方,韓国は,30%前後の水準で推移している。

  3. 幸せ感の規定要因

     前項では,社会生活の諸側面での満足度について検討したが,その構造の一つの側面として,幸せ感が社会生活の諸側面での満足度によってどの程度規定されているかを検討しよう。表1−3は,日本の場合について,学職別に,幸せ感を従属変数,それ以外の6項目を独立変数として,重回帰分析を行った結果を示したものである。なお,分析結果については,ステップ・ワイズ法で変数を投入し,統計的に有意な最大モデル(独立変数の数のもっとも多いモデル)の場合を示してある。

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    表1-3 日本における幸せの規定要因


     日本では,在学者の場合,地域社会の規定力がもっとも強く(β=0.307),次いで,学校生活と家庭生活のβ値が統計的に有意な値となっており,それら3変数で,幸せ感の分散の約30%が説明される(R2=0.295)。他方,就業者の場合,家庭生活の規定力がもっとも強く(β=0.390),次いで,地域社会,友人関係が統計的に有意な値となっており,それら3変数で,幸せ感の分散の約28%が説明される(R2=0.275)。つまり,在学者の場合,地域社会,学校生活,家庭生活の順で,それらの満足度が高いほど,幸せ感も高い傾向があるということであり,他方,就業者の場合,家庭生活,地域社会,友人関係の順で,それらの満足度が高いほど,幸せ感も高い傾向があるということである。
     表1−4aと表1−4bは,日本の場合と同様の方法で,韓国,アメリカ,スウェーデン,ドイツについても,幸せ感の規定要因を分析し,その結果を日本の場合を含めて,要約したものである。それらの表より,次の諸傾向を確認することができる。

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    表1-4a国別の幸せ感の規定要因-フルタイムの就業者を対象として-


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    表1-4b 国別の幸せ感の規定要因-在学者を対象として-

     就業者の場合:(1)職場生活(韓国,アメリカ,ドイツで1位,スウェーデンで2位)と家庭生活(日本で1位,韓国,アメリカ,スウェーデンで2位)の満足度が,幸せ感を最も大きく規定する傾向がある。(2)それに加えて,友人関係の満足度も,幸せ感を左右する傾向があるが(日本,アメリカ,ドイツで3位),スウェーデンでは,家庭生活・職業生活以上に友人関係の規定力が大きい。(3)日本は,地域社会の満足度が2位になっている点に特徴があり,ドイツは,学校生活が2位,地域社会が4位であるのに対し,家庭生活の規定力が小さいという点で特徴的である。(4)自国社会の満足度と幸せ感の間には,どの国でも統計的に有意な関連はない。
     在学者の場合:(1)学校生活が幸せ感を左右する傾向は調査対象5か国すべてでみられるが,その重要度には,国によってかなりのばらつきがある(日本とドイツで2位,韓国とスウェーデンで3位,アメリカでは4位)。(2)家庭生活ないし友人関係の満足度が,幸せ感を最も大きく規定する傾向がある(家庭生活は韓国とアメリカで1位,スウェーデンで2位,友人関係はドイツ,スウェーデンで1位,アメリカで2位)。(3)日本は,地域社会の満足度の規定力が最も大きい点で特徴的である。(4)自国社会の満足度は,唯一アメリカで幸せ感を左右する傾向があるものの,他の4か国では,そうした傾向はみられない。

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