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2 調査データからみる各国の若年労働市場の現状

  1. 最近10年間の就労・就学状況の変化

     本節は,意識に関する分析の前段階として,仕事をめぐる客観的な状況に関する諸変数について,各国の基本的な特徴を示すことを目的とする。
     まず最初に,近年において若者の就労・就学状況がどのように変化したかをみよう。就労状況の選択肢に「パートタイムの仕事をしている」が登場した第5回調査(1993年)以降について,サンプル全体を対象とした国別の就労状況を図3−1に示した。この図からは,次のことが読みとれる。
     第一にフルタイム就労については,アメリカ以外の4か国で比率の減少がみられる。その減少幅は日本が13.5ポイントと最も大きい。2003年時点の比率ではドイツが44.7%で最も多く,韓国が22.5%で最も少ない。
     第二にパートタイム就労については,日本では特に前回調査から今回調査にかけて6.1%から10.8%へと増加したが,他国では維持ないしむしろ漸減している。アメリカでは特に前回調査と今回調査の間で約10ポイントの大きな減少がみられるが,これは今回調査において新しく「アルバイト学生」という選択肢が加えられたことにより,これまでの調査では「パートタイム就労」を選択していた層の中で同時に就学していた者が,「アルバイト学生」という選択肢に移動したことによるものと考えられる。2003年時点のパートタイム就労者比率は,日本,アメリカ,スウェーデンが10%前後で同水準であり,韓国とドイツはより少ない。
     第三に,学生比率(今回調査についてはアルバイト学生とアルバイトをしていない学生の合計比率)については,どの国でも増加している。前々回調査からの増加幅は,スウェーデンで21.4ポイント,韓国で18.2ポイントと大きい。これら2か国では前々回調査から今回調査までの10年の間で失業者の比率が大きく減少しており,失業者比率に食い込む形で学生比率が増大している。アメリカでも今回調査においてアルバイト学生を含む学生比率が前回調査より13.5ポイント増加しているが,これは上述した選択肢構成の変化によるものと思われる。「アルバイト学生」という選択肢の追加によって,「パートタイム就労」と「アルバイトなし学生」の比率がアメリカでのみかなり減少していることは,アメリカでは他国と比べて就労と就学の境界が特に曖昧であることを意味しているものと推測される。2003年時点の学生比率は韓国が64.5%と最も多いが,その一因は徴兵制により男性の高等教育修了年齢が高いことにある(次項参照)。
     第四に,今回新しく導入された選択肢である「アルバイト学生」は,アメリカとスウェーデンで25%前後と多く,ドイツで10.6%と少ない。日本と韓国は約20%で中程度である。
     以上を総合すると,同じ年齢層の若者を比較した場合に,最もフルタイム就労寄りであるのがドイツ,最もパートタイム就労寄りであるのがアメリカ,最も就学寄りであるのが韓国ということになる。スウェーデンと日本は中間的な位置づけにある。日本は10年前にはドイツと並んでフルタイム就労者の比率が多かったが,それが減少し,パートタイム就労の比率が増大することにより,国としての特徴が薄れて先進国の中でいわば標準的な存在へと変化したともいえよう。

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    図3-1国別調査年別 就労状況


  2. 各国の教育制度と若年労働市場の概要

     続いて,性別という軸を導入して各国の就労・就学状況の実態を検討しよう。今回調査における各国の就労状況を,性別に示したものが図3−2である。
     韓国以外の国では女性の方がフルタイム就労率が低く,特にドイツとスウェーデンでは男女の差が10ポイントを超えている。アメリカ,ドイツ,スウェーデンでは,女性のフルタイム就労が男性よりも少ない分,女性の学生比率(特にアルバイト学生)とパートタイム比率が高くなっている。しかし日本では,女性の学生比率(特にアルバイトなし学生)は男性より少なく(男性31.1%,女性23.4%),パートタイム就労(男性8.3%,女性13.6%)と無職(男性2.4%,女性10.2%)が多い。日本の無職女性の63.5%は既婚である。なお女性の中で既婚者が占める比率はアメリカの16.5%に次いで日本で11.8%と相対的に高く,また既婚女性の中で無職が占める割合は韓国の63.6%に次いで日本で55.0%と相対的に高い。すなわち,女性の既婚率と既婚女性の無職率がいずれも日本で相対的に高いことから,日本の女性で無職率が他国と比べても高くなっているといえる。また,韓国では男性の学生比率が71.6%と5か国の中で最大であるが,これは韓国において大学進学率が高いと同時に徴兵制により大学修了が遅れることを反映している。

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    図3-2 国別性別 就労状況(2003年)


     こうした男女の就労・就学状況は,対象者の年齢によってどのように異なっているのだろうか。年齢別に就労・就学状況をみることによって,時間の経過に伴う学校から労働市場への移行の進展を擬似パネル的に把握することができる。図3−3(1)〜(5)には,各国における年齢別の就労状況を性別に示した。この図から,年齢の推移に伴う就労状況の変化に関して,次のような各国の特徴がみいだされる。
     第一に,年齢の上昇にしたがって男女ともに学生比率が急速に減少してフルタイム就労率が上昇するのは,日本とアメリカである。特にこの両国の男性では,24歳時点で約4分の3がフルタイム就労に移行を遂げている。第二に,韓国では,加齢に伴う学生の減少とフルタイムの増加が女性のみに生じている。男性は24歳時点でも約半数が学生であり,フルタイム就労は33%にすぎない。第三に,ドイツでは,男女とも早い年齢(19歳頃)からほぼ40%を超える高いフルタイム就労率が観察される。同じことはスウェーデンの男性についてもいえる。しかしこの両国では年齢が上昇してもフルタイム就労の増加率は伸び悩み,24歳時点でも学生比率がかなり高い(特にスウェーデン女性)。
     各国のこうした特徴は,第1節の(a)で記述した各国の教育制度や労働市場の特徴を明瞭に反映している。ドイツやスウェーデンでは,早期に離学してフルタイムで就労する層と,20代半ば以降まで就学を継続する層とが二極分解していることがうかがえる。それに対してアメリカや日本では,移行に関する年齢規範が特に男性に関してかなり強固であるといえる。

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    図3-3a 性別年齢別 就労状況(日本)

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    図3-3b 性別年齢別 就労状況(韓国)

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    図3-3c 性別年齢別 就労状況(アメリカ)

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    図3-3d 性別年齢別 就労状況(スウェーデン)

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    図3-3e 性別年齢別 就労状況(ドイツ)
  3. 学歴別の就労状況

     ではこうした就労状況は,個人の最終学歴によってどのように異なっているだろうか。どの教育機関を修了したかに応じて,フルタイム就労機会へのアクセスには差異がみられるのか。
     この点を検討するため,各国の離学後の者について性別・最終学歴別の就労状況を示したものが図3−4a〜eである。サンプル数が少なすぎる学歴種別については省略している。
     総じて,修了した教育機関の学校段階が高いほどフルタイム就労比率が高くなっているが,いくつかの例外もみられる。そのひとつは,日本の男性に関して高校卒よりも専門学校卒の方がフルタイム就労率が低いことである。日本の新規高卒労働市場がきわめて厳しい状態にあることは本章の第1節(2)項アでも触れたが,男性に限れば,高卒後に専門学校に進学するよりはむしろ高卒時に就職した方がフルタイム就労に結びつきやすいことがうかがえる。しかし高卒後に大学に進学した場合は,高卒で就職するよりもフルタイム就労率は上昇する。日本の女性の場合,フルタイム就労率は修了した教育段階が上がるとともに上昇しているが,その大きな要因は,高卒女性のフルタイム就労率が41.6%ときわめて低いことにある。この値は,図3−4a〜eすべての中でもっとも低い。日本の新規高卒労働市場の縮小は,主に女子に関して生じていたことがここにあらわれている。
     教育段階の上昇に伴うフルタイム就労率の拡大という全般的傾向に対するもうひとつの例外は,韓国の女性において認められる。韓国の女性の場合,実業系高校ないし専門大学の修了者についてはフルタイム就労率が男性と比べても明らかに高いが,4年制大学卒になると一般系高校とほぼ同水準にまで低くなる。おそらくこれは,急速な大学進学率の上昇により,韓国の大卒女子の労働供給が労働需要に比して過剰になっていることを反映している。
     なお,アメリカでは高校修了というサンプルが離学者の中で少数にすぎなかったが,これは,近年のアメリカにおいて高校を修了しただけでは労働市場に参入するに十分な資格ではなくなっており,職業訓練を含む何らかの継続的な教育訓練を高卒後に経験することが一般的になっていることを意味しているものと考えられる。

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    図3-4a 性別学歴別 就労状況(日本,離学者)

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    図3-4b 性別学歴別 就労状況(韓国,離学者)

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    図3-4c 性別学歴別 就労状況(アメリカ,離学者)

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    図3-4d 性別学歴別 就労状況(スウェーデン,離学者)

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    図3-4e 性別学歴別 就労状況(ドイツ,離学者)

  4. 職種

     以上では,各国の若年者の様々な属性別に就労・就学状況をみてきた。本項では,就労状況よりももう一歩踏み込んだ労働関連変数として,職種について検討しよう。調査票においては,職種として11の選択肢が設けられているが,これは細かすぎるため,以降の分析では「専門職・自由業」「管理職」「自営業主」をまとめた「専門・管理」,「事務」,「販売」,「サービス」,そして「保安職」「農林漁業従事者」「熟練労働者」「未熟練労働者・単純労働者」「農林漁業・鉱工業を除く労務作業者」を合わせた「マニュアル」という5つの項目に分類し直したものを用いる。
     何らかの仕事に就いているサンプルを対象として,国別・就労状況別の職種構成を男女別に示したものが図3−5(1),(2)である。ここからは次のような諸特徴が指摘できる。第一に,男性の場合はいずれの国でもフルタイム就労者の方がパートタイム就労者よりも「マニュアル」の比率が高い。しかしドイツではその差はわずかであり,パートタイム就労者においても「マニュアル」の比率が50%を占めている点で他国と異なっている。ただし,先の図3−2にみられる通り,ドイツの特に男性におけるパートタイム就労比率がきわめて小さいことには留意が必要である。
     第二に,女性の場合,日本,韓国,ドイツの3か国ではフルタイム就労において「事務」が40%を超えて最も多いのに対し,パートタイム就労においては「販売」(及び日本と韓国では「サービス」)が多くなっている。アメリカの女性は,フルタイム就労者において「専門・管理」が多く「事務」が少ない点で,またスウェーデンの女性はフルタイム・パートタイム双方において「マニュアル」が30%以上と際立って多い点で,上記3か国と異なっている。
     第三に,アメリカにおいては女性のフルタイム就労者だけでなく,男性のフルタイム就労者・パートタイム就労者および女性のパートタイム就労者のすべてにおいて,「専門・管理」の比率が他国と比べて高い。その分,特にフルタイム就労者では男女とも「事務」の比率が少なく,これはアメリカのホワイトカラー職種の編成のされ方が特徴的であること,具体的には他国で「事務」に含まれるような経理,人事,広報などの職種も専門職と定義されていることをあらわしているものと考えられる。
     第四に,学生アルバイトの職種構成は,それぞれの国でパートタイム就労者の職種構成と一定の類似がみられる。その中で目立つのは,日本の学生アルバイトにおいて「販売」と「サービス」を合わせた比率が男女とも70%を超えて他国よりも明確に多いことである。他国の中では,ドイツの男性の学生アルバイトにおいて「専門・管理」の比率が36.2%ときわめて高いこと,スウェーデンではアルバイト学生に関しても「マニュアル」の比率が男女とも高いことが特徴的である。
     全体として,男女間の職種構成の相違はフルタイム就労者において男性で「マニュアル」が多く女性で「事務」が多いという形で明確であるが,パートタイム就労者では「マニュアル」と「事務」がいずれも少なく「販売」と「サービス」が主体となるという形で男女間の相違はより小さくなっている。多くの先進国では,パートタイム就労者がサービス経済化の重要な担い手となっていることが確認される。ただしスウェーデンでは女性のフルタイム就労者でも「マニュアル」に従事する者が多いという点で,フルタイム就労者内部の男女間の職種構成の相違が他国と比べて小さくなっている。スウェーデンに次いでドイツでも同様の特徴が認められる。「マニュアル」労働の比率の大きさ(スウェーデン,ドイツ)やフルタイム就労率の高さ(ドイツ)を,「後期近代」に至る以前の「近代」社会的性格の強さを表す指標とみなすならば,この両国は相対的にいまだ「近代」段階にあり,アメリカ,日本,韓国という他の3か国ではより「後期近代」社会への移行が相対的に進展しているといえよう。

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    図3-5a 就労状況別国別 職種(男性,有職者)

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    図3-5b 就労状況別国別 職種(女性,有職者)

     また,この職種構成を,各国のフルタイム就労者に限定して男女別に示したものが図3−6a,bである。いずれの国でも総じて,学歴種別が高度になるにしたがい「専門・管理」の比率が上昇し,男性では「マニュアル」,女性では「販売」および「サービス」が減少するという傾向がみられる。特に典型的なのはアメリカである。例外は,日本の女性ではむしろ専門学校卒に「専門・管理」が多く,短大・高専や大学以上では「事務」の比率が他のどの国・学歴種別と比べても際立って高いことである。また,ドイツでは同じ中等段階の教育機関であっても,基幹学校・実科学校・ギムナジウムの間で労働市場が男女ともかなり異なっていることが特徴的である。

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    図3-6a 国別学歴別 職種(フルタイム就労者,男性)

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    図3-6b 国別学歴別 職種(フルタイム就労者,女性)


  5. 入院経路と転職状況

     調査の中では,就労状況と職種以外にも,労働に関する客観的事実として,入職経路と転職回数をたずねている。前者は仕事への「入口」の形態,後者は仕事からの「出口」の量的水準を意味しており,各国の労働市場の特徴を知る上でいずれも重要な変数である。
     表3−1には,有職者を対象として,就労状況別・国別の入職経路を示した。この表よりまず明らかなのは,日本においてフルタイムの仕事については「学校の紹介」の,またパートタイムや学生アルバイトの仕事の場合は「広告」の比重が,それぞれ他国と比べて数倍と明らかに大きく,これら以外の入職ルートが他国よりも相対的に閉ざされていることである。たとえばフルタイムの仕事については,他国と比べて「職場を直接訪問して」や「友人や知人の紹介で」の比率が日本では低い。パートタイムや学生アルバイトでも「職場の直接訪問」は少なく,また「家族や親戚の紹介で」も他国の水準に及ばない。このように,仕事の形態に応じて入職ルートが特定のものに特化していることが,日本の労働市場の特徴である。
     他国の特徴をみると,フルタイムの仕事については韓国とアメリカで「友人や知人の紹介で」にある程度の集中がみられる。この2か国ではパートや学生アルバイトについても「友人や知人の紹介」が比較的多く,仕事へのアクセスにおいて友達や知り合いなどの「弱い紐帯(weak ties)」(グラノヴェター,1995=1998)の重要性が大きいことが特徴である。
     スウェーデンでは「職場を直接訪問して」「友人や知人の紹介で」「家族や親戚の紹介で」の三者が,ドイツでは「広告」と「職場を直接訪問して」の二者が,フルタイムへの仕事へのルートとしてそれぞれかなり拮抗している。スウェーデンではフルタイム以外の就労形態についても,「職場を直接訪問して」という最もオープンな経路が多くなっていることが目立つ。
     またアメリカでは,パートや学生アルバイトにおいてむしろフルタイムの仕事よりも「学校の紹介で」の比率が高くなっている。ドイツでも学生アルバイトに関して「学校の紹介で」がやや多い。これらは,学んでいる専門分野に合致した内容の臨時的・短期的な仕事経験の機会を,教育機関が斡旋していることによると思われる。


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    表3-1 就労状況別国別 入職経路(M.A.)

     表3−2は日本のフルタイム就労者について,性別,転職の有無,職種,学歴のそれぞれに応じた入職経路を示したものである。性別による差は大きくないが,転職経験の有無による差は大きい。転職経験がない者,すなわち現職が初職である者の場合,「学校の紹介」の比率は約半数に達している。転職経験がある者については,同比率は7.1%にまで低下し,それに代わって「広告」「友人や知人の紹介」「職業あっせん所」など多様な経路が利用されている。職種別ではサービスの場合に「学校の紹介」が例外的に低い。学歴別ではいずれの学歴でも「学校の紹介」が最も多いが,特に「短大・高専」でその比率が高くなっている。

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    表3-2 職種別学歴別 入職経路(日本・フルタイム就労,M.A.)

     転職の回数は,労働市場の流動性の指標となる。就労状況別国別に転職回数をみると(図3−7),フルタイム就労者については「転職経験なし」すなわちひとつの職場への定着者の比率が日本で最も多く,約3分の2に達している。ドイツでも同比率は約60%で高いが,日本の水準には及ばない。逆に労働市場が最も流動的なのはアメリカであり,スウェーデンがそれに続いている。
     それに対してパートタイム就労については,日本で定着性が特に高いわけではなく,アメリカやスウェーデンと大差がない程度にまで流動化している。これらの点から,日本ではフルタイム就労者の職場定着性を温存したままで,流動性の高いパートタイム就労者が増加するという形で労働市場の流動化が進んでいるといえる。他方でアメリカやスウェーデンではいずれの就労形態についても高い流動性が認められ,韓国とドイツは中間的である。

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    図3-7 就労状況別国別 転職回数


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