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3 各国の職業意識の構造

  1. 各国の職業意識の構造

     先の第2節では,仕事に関する各国の客観的な現状を検討してきた。そこでの諸知見を念頭に置きつつ,本節では仕事について若者が抱いている様々な意識に関する分析に進むことにする。
     まず最初にみておきたいのは,若者にとって仕事をみつけたり働いたりすることがどれほど悩ましい課題となっているかということである。調査の中では,こうした点について,次の二つの質問から知ることができる。そのひとつは,自国の問題点について多肢選択でたずねる形の質問に含まれている「就職が難しく,失業も多い」という選択肢への回答結果であり,もうひとつは,自分自身の悩みや心配事について多肢選択でたずねる形の質問に含まれている「就職のこと」および「仕事のこと」という選択肢への回答である。表3−3にはこれらの質問への回答結果を,過去3回の調査年別と,今回調査の性別および就労状況別に示した。
     まず自国の問題点として「就職が難しく,失業も多い」ことをあげる者の比率についてみると,第一に注目されるのは,日本における顕著な増加である。1993年の前々回調査では日本での比率は12.3%と他国に比べてきわめて少なかったのに対し,1998年の前回調査では40.3%,今回調査では64.6%と大きく増加し,ドイツに次いで高い水準に達している。このような増加は,ドイツと韓国でも前々回調査と前回調査の間に生じているが,前回調査と今回調査の間ではむしろ減少傾向にあり,日本のような増加パターンは特異である。これは,近年における日本の若年労働市場の厳しさが,若者の意識に直接に反映しているといえる。こうした認識は,いずれの国でも男性よりも女性に多く,また失業中の者や無職の者で強く感じられている。
     また,自分自身の悩みとして「就職のこと」をあげる者の比率をみると,アメリカ,スウェーデン,ドイツの3か国では過去3回の調査の間で減少傾向がみられるのに対し,日本と韓国では増加しており,今回調査時点では対象国中の上位を占めている。ドイツでは,先の自国の問題点としての就職の難しさや失業の多さについてはきわめて高率の回答であったが,自分自身の悩みとして就職をあげる比率は他国よりも際立って低い。これはおそらく,ドイツの労働市場が相対的に若年に有利であることによるものと推測される。就職について悩んでいる者の比率は韓国では男性に,スウェーデンでは女性に多いが,それ以外の国では性別の差は大きくない。また就労状況別では,学生や失業者で高い比率となっている。
     他方で自分の悩みとして「仕事のこと」をあげる比率は,上の二つの指標ほどは日本でも増加しておらず,むしろアメリカで増加傾向にある。ただし日本では前々回調査時点においてもこの項目の選択率が他国よりも高かったため,今回調査ではアメリカと並んで最も多くなっている。仕事の悩みについては男性よりも女性でやや多い国が多い。また就労状況別でみると,スウェーデンとドイツではフルタイム就労者よりもパートタイム就労者に多いが,それ以外の3か国ではむしろフルタイム就労者で高率となっており,特に日本のフルタイム就労者では46.7%と他国よりも目立って多い。このことから,日本では若者が仕事に就くことが難しくなっているだけでなく,仮に仕事に就けたとしても,多くの困難や問題に直面しがちであることがうかがえる。

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    表3-3 国別・調査年別・性別・就労状況別 自国の就職問題と仕事関係の悩み

     では続いて,若者が仕事を選ぶ際にどのような条件を重視しているかについて検討しよう。調査では,11の項目について多肢選択で重視条件をたずねている。その結果を就労状況別・国別に示したものが表3−4である。この表からは,日本のいずれの就労形態の者についても,「社会的意義」「安定性」「将来性」「専門性」「能力向上」など多くの項目に関して,仕事選択の条件として重視する者の比率が他国と比べて明らかに低いということが読み取れる。上にあげた以外の「収入」や「労働時間」などの項目についても日本では総じて選択比率が低水準であり,他国の水準に匹敵しているのは「仕事内容」と「通勤の便」程度である。日本に次いで韓国でも,各項目の選択比率は相対的に小さいものが多い。こうした回答結果は,この両国において若年労働市場がきわめて厳しい状況にあり,仕事を選択する余裕がないことを反映していると解釈できる。
     対照的にアメリカでは,いずれの就労形態についても,上で例示した諸項目を選択する比率が目立って高く,仕事選択に関してきわめて「強気」の姿勢が若者の間にみいだされる。この点でアメリカに準じているのはスウェーデンであるが,スウェーデンでは特に「職場の雰囲気」と「自分を生かす」という2項目に関して,他国よりも際立って高い選択率を示していることが独特である。ドイツは中間的である。

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    表3-4 就労状況別国別 仕事を選ぶ際に重視すること

     表3−4に示した11の項目数は数が多いため,変数を集約するために主成分分析を行った。固有値が1を超える2つの主成分について,バリマックス回転後の各項目の因子負荷量を示したものが表3−5である。第1主成分では「能力向上」「専門性」「自分を生かす」などの項目の因子負荷量が高いため,この主成分を「能力向上」と名づけた。また第2主成分は「労働時間」「通勤の便」「収入」などの項目の因子負荷量が高いため,「労働条件」と名づけた。今回の調査サンプルにおける仕事選択条件は,主にこれら「能力向上」と「労働条件」という2つの要素から構成されているといえる。前者は自分にとっての仕事自体の意味を長期的観点から問う要素であり,後者は即物的な経済的・肉体的便益を問題にする要素である。

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    表3-5 仕事を選択する際に重視することに関する成分分析結果

     これら2つの要素を重視する度合いは,国や若者の属性によってどのように異なっているのだろうか。図3−8は,国別就労状況別に各要素の因子得点の平均値を計算し,2要素を2軸とする座標平面状にプロットしたものである。ここから興味深い各国の特徴を読み取ることができる。アメリカとスウェーデンは第1象限(「能力向上」と「労働条件」のいずれも重視)にかなり集中しており,失業者や無業者が第2象限(「労働条件」は重視するが「能力向上」は重視しない)にはみ出している。この両国は仕事選択に関して積極的な姿勢を特徴とすることが確認される。
     ドイツはアルバイトなし学生(第4象限,「労働条件」は重視しないが「能力向上」は重視する)とパート(負のx軸上,「能力向上」を重視しない)を別として原点付近に集まっており,調査対象サンプルの中では平均的な位置づけにある。
     韓国は第3象限(「能力向上」と「労働条件」のいずれも重視しない)に集中しており,消極的な仕事選択姿勢を特徴とする。
     このように,日本以外の国では就労形態別のプロットが何らかの位置に集中する傾向がみられる。それに対して日本では,第1象限を除く3つの象限に各就労形態を表すプロットが分散している。すなわち,アルバイトなし学生はドイツと同じ第4象限に,パート,学生アルバイト,無職,失業者は第2象限に,そしてフルタイム就労者は第3象限に位置している。さらに日本固有の特徴は,他国ではフルタイム就労者が少なくとも「労働条件」に関しては他の就労形態群よりも相対的に重視する位置にあるのに対し,日本ではむしろ他の属性の者よりも「労働条件」を重視していないことである。この結果を言い換えれば,日本では「学生」は「能力向上」を期待して仕事を選び,非正規形態の就労者は「労働条件」を重視して仕事を選んでいるのに対し,フルタイム就労者はいずれの条件をも重視していない,ないし重視することができていない,ということである。これは,日本のフルタイム就労者の従事している仕事の質の低さや過酷さを表しているとも解釈できるし,あるいは,日本ではそれだけの犠牲を払っても非正規ではなくフルタイムの仕事に就くことのメリットがあるという解釈も可能である。いずれにしても,現在の就労形態によって仕事選択に関する意識に大きな乖離が存在しているということが,日本の大きな特徴であるといえる。

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    図3-8 国別就労状況別仕事選択の重視条件

     また図3−9は,対象者をフルタイム就労者に限定した上で,図3−8と同じ座標平面上に国別・性別の散布図を描いたものである。この図からも,やはり各国の特徴が読み取れる。アメリカとスウェーデンは,いずれも第1象限に集中するとともに,それぞれ女性の方が男性よりもいずれかの条件を重視する度合いが高いという点でも共通している。すなわち,アメリカでは男性よりも女性の方が「労働条件」を重視し,スウェーデンでは男性よりも女性の方が「能力向上」を重視しており,この両国では女性の方がむしろ積極的な職業への姿勢をみせている。それに対してドイツでは,男女とも図中の原点近くに位置し,女性の方が2つの要素のいずれについても消極的であることが,上の2か国とは異なっている。これら欧米諸国と明確な対照をなすのがアジアの2か国である。日本と韓国は、いずれも男性が第3象限に,女性が第2象限に位置しており,男性に対して女性は左上,すなわち「能力向上」は重視しないが「労働条件」は重視するという位置にある。先の図3−8でみた通り,日韓両国ではパートタイム就労者が第2象限に位置していた。ここから,この2か国では,フルタイム就労者であっても女性はパートタイム就労者と近似する職業選択意識を抱いていることを特徴とするといえる。他の3か国ではそうした現象は見いだされず,フルタイムで働く女性はパートタイム就労者とは明確に異なる位置にある。こうした結果は,日韓というアジアの2か国において,職業上のジェンダー格差が強く,女性のフルタイム就労者とパートタイム就労者の間の断層が小さいことを意味していると推測される。

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    図3-9 国別性別 仕事選択の重視条件(フルタイム就労者)


  2. 転職観と昇進観

     この調査では,仕事に関する意識として,転職に対する考え方と,昇進・昇給の決定条件に関する考え方を,継続的にたずねている。前者では「つらくても転職せず,一生一つの職場で働き続けるべきである」と「不満がなくても,自分の才能を生かすためには,積極的に転職する方がよい」を両極とする4つの選択肢が,後者では「勤続年数のみによって決まる」と「勤務成績のみによって決まる」を両極とする4つの選択肢が設けられている。前者については転職に積極的であるほど流動的な外部労働市場を支持していることを意味し,また後者については勤続年数よりも勤務成績による昇進・昇給を重視するほど個人の市場能力に基づく競争社会を支持していることを意味する。こうした流動性や個人の能力に基づく競争的市場の重視は,本章の冒頭で述べた「後期近代」社会の特徴と重なる。
     では,これらの変数は,国や個人によってどれほど異なっているのか。図3−10は,これら2つの質問への回答結果に対して,上にあげた選択肢順に−3点,−1点,1点,3点というスコアを与え,各国内部の就労形態別の平均値を散布図に描いたものである。
     図3−10では,スウェーデンがx軸に近い第1象限に,ドイツとアメリカがy軸に近い第1象限にそれぞれ集中している。すなわち,スウェーデンは流動的外部労働市場に,ドイツとアメリカは個々人の市場能力に各々の比重を置きつつも,いずれも後期近代社会的な労働市場のあり方を支持しているということになる。アメリカとドイツの間ではドイツの方がいっそうy軸寄りであり,ドイツでは内部労働市場を前提とした上でその中での個々人の業績に基づく競争が重視されている。この点は,図3−7においてドイツの転職回数が少なかったことと符合している。
     そしてここでもアジアの2か国は上記欧米諸国とは異なる特徴をみせている。日本と韓国はいずれも,パートタイム就労者を右上の端に置いた形で,第1象限から第3象限まで斜めに分布している。両者の相違は,日本のフルタイム就労者が第2象限に位置しているのに対し,韓国のフルタイム就労者は(ぎりぎりではあるが)第4象限に位置しているということである。すなわちこの両国は他の欧米3か国と比べていまだ後期近代的意識への転換が進んでいないという点で共通しているが,その上で韓国は相対的に外部労働市場寄り,日本は内部労働市場を維持した上での業績競争寄りの進路をたどっていると解釈されうる。そして双方の国において,パートタイム就労者が後期近代的な意識に対して最も強い親和性を示している。先の図3−5では各国のパートタイム就労者においてサービス職種の比重が大きいことをみたが,こうしたサービス化も後期近代社会の特徴のひとつであるということが,パートタイム就労者の後期近代社会的性格の強さをもたらしていると推測される。

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    図3-10 国別就労状況別 転職と昇進に関する考え方


     また図3−11は,各国のフルタイム就労者を性別にプロットしている。フルタイム就労者に限定すると,この図で用いた2つの指標に関してはそれほど男女差が大きくない。特に欧米の3か国では,女性の方が男性よりも転職に対してやや肯定的ではあるものの,男女の位置づけは近似している。他方でアジアの2か国については,やはり女性の方が転職に肯定的であると同時に,個人主義的な能力主義には消極的な意識を示している。仕事選択条件に関する先の図3−9では,日韓のフルタイム就労女性はパートタイム就労と近い位置にあったが,いったん仕事に就いたのちに業績と勤続のいずれが評価されることを望むかという点では,この2か国のフルタイム就労女性とパートタイム就労者は逆の方向を支持している。これは,日本と韓国ではフルタイム就労者の職場内性別職域分離が顕著であり,男性と同等の業績基準を当てはめられた場合に,職場内での昇進や昇給が女性に不利になりすぎるということを反映していると考えられる。

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    図3-11 国別性別 転職と昇進に関する考え方(フルタイム就労者)
  3. 仕事満足度

     本節の最後に,もっとも包括的・総合的な仕事に関する意識変数としての,仕事に対する満足度について検討しておきたい。調査票では,有職者に対し,職場生活に関する満足度を「満足」「やや満足」「やや不満」「不満」の4段階でたずねている。この質問への回答結果に対して,満足度が高いほうから順に4点〜1点を当てはめたものを,仕事満足度スコアとする。図3−12は,この仕事満足度スコアと,先に図3−7で示した転職回数(転職経験がない者は「0」とする)とを両軸とする座標平面上に,各国の就労形態別の散布図を描いたものである。両指標の全体平均値をそれぞれx軸・y軸とするならば,この図の第1象限は流動性も満足度も高い「流動・満足」型,第2象限は流動性は高いが満足度は低い「流動・不満」型,第3象限は流動性も満足度も低い「定着・不満」型,第4象限は流動性は低いが満足度は高い「定着・満足」型と呼ぶことができる(2)。
     まず各国のフルタイム就労者の位置に注目するならば,アメリカとスウェーデンは「流動・満足」型,韓国は(ぎりぎりではあるが)「流動・不満」型,日本は「定着・不満」型,ドイツは「定着・満足」型となる。こうした位置づけには,5年前の前回調査の分析結果との間で変化がみられない(本田,1999)。日本のフルタイム就労者は調査対象国の中でもっとも仕事満足度が低い。また,ここから派生する日本のもうひとつの特徴は,フルタイム就労者とパートタイム就労者の間で仕事満足度に差がみられないことである。他の4か国ではいずれもフルタイム就労者と比べてパートタイム就労者の仕事満足度がかなり低く,特にスウェーデンとドイツではそれが顕著である。なおアメリカとスウェーデンではフルタイムとパートタイムの間で転職回数には差がないが,韓国とドイツではパートタイム就労者の方が転職回数が多い。日本のフルタイムとパートタイムは,転職回数の点では調査対象国中で最大の差があるが,満足度の点ではほぼまったく差がない。このように,職場に定着しつつ仕事への満足度が低い点で,日本のフルタイム就労者はきわめて特異であるということが,今回調査でも確認された。このようなフルタイム就労の仕事への強い不満感が,日本においてパートタイムなどの非正規就労が増加しているひとつの重要な要因となっていると考えられる。
     なお,ここで用いている2つの指標について性別にみると,日本のフルタイム就労者の中で性別による違いは観察されなかった。他国でも,アメリカとスウェーデンでは女性の方が仕事満足度がやや高く,ドイツと韓国では男女間にほとんど相違はみられなかった。

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    図3-12 国別就労状況別 仕事満足度と転職回数(有職者)


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