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全国20団体の活動事例
NPO法人 淡路プラッツ(大阪府)
  スモールステップの積み重ねで若者を社会参加へと導く  

支援対象 :ひきこもり、ニート、不登校

支援方法 :通所

スタッフ数 :常勤5名、非常勤3名

代表者 :田中 俊英

住所 :〒533-0021

大阪府大阪市東淀川区下新庄1-2-1

TEL :06-6324-7633  FAX :同

E-mail :awajiplatz@gmail.com

URL :http://www4.ocn.ne.jp/~awjplatz/

NPO法人 淡路プラッツ

沿革

平成 4年 6月 「地球の子ども舎」オープン、「親の会」スタート

平成 4年10月 「子どもの居場所」ができる

平成 6年 1月 「地球の子ども舎」から「淡路プラッツ」に名称を変更

平成14年11月 NPO法人の認証を取得

平成16年 大阪市から「ほっとスペース事業(サテライト)」を受託

平成17年 「トライアルジョブ」スタート

平成21年 大阪府から「ニートによるひきこもり雇用支援事業」を受託

「淡路プラッツ」の主な活動

●居場所
遊び、音楽、スポーツ、アート、旅行、料理等の活動を通じて、ひきこもりの若者が様々な生活体験を積む。また、就労体験プログラムを通じて、就労に対するイメージを広げる。

●カウンセリング
臨床心理士やキャリアコンサルタント等のカウンセラーが、本人や保護者を対象に、メンタルカウンセリングやキャリアコンサルティングを行う。

●親の会&保護者会
保護者向けの会は2つある。1つは子どもがメンバーになっている方を対象とした「保護者会」。もう1つは、誰でも参加できる「親の会」。

●保護者向け講座
「スモールステップ講座」「発達障害と自立」など、ひきこもりの若者たちの状態を知り、支援の仕方を学ぶための講座。

●受託事業
大阪府の委託を受けて「ニートによるひきこもり雇用支援事業」、大阪市からの委託を受けて、不登校の子どもを対象にした通所ルーム「サテライト」を運営。

●就労支援
1回2時間、計8回の就労実習プログラム「トライアルジョブ」を実施。

団体の成り立ち

不登校の子どもの支援からひきこもりの若者支援へ

「淡路プラッツ」は、大阪市の北東部に位置する東淀川区の淡路という街にある。3階建ての民家を借りていて、3階が面談ルーム、2階がひきこもりの若者たちの居場所になっている。現在この施設に通っているひきこもりの若者たちは、男性10名、女性3名の計13名だ。

そして1階は、「ニートによるひきこもり雇用支援事業」(ニートの若者を雇い入れて事務作業等を経験してもらう事業)に使われている。この事業は、ひきこもりは脱したものの、まだニートの状態にある若者を対象としたもので、勤務期間中は社会保険が付き、給与も支払われる。働く経験を積むことで、仕事をする上で必要となる基本的なスキルやマナー、そして自信を得て、実際の就労に向けたステップにしてもらうというのが事業のねらいだ。

このように今ではひきこもり・ニートの支援団体としての色合いが強くなっている「淡路プラッツ」だが、平成4年に設立された当初は、不登校の子どもたちの居場所や、その親の交流の場としてスタートした。

なお現在でも「淡路プラッツ」では不登校の子どもたちへの支援を行っている。大阪市では不登校の子どもを対象とした通所施設を市内各所に設置しているが、そのうちの2館については「淡路プラッツ」が市からの委託を受けて運営している。ただやはり現在の本体活動の中心は、ひきこもり・ニートの若者たちの社会参加支援だ。

「淡路プラッツ」が、不登校の子どもの支援からひきこもりの若者の支援に比重を移すようになったのは、統括リーダーの石田貴裕さんによれば「時代の流れ」だという。不登校の子どもたちがそのままひきこもりになるわけではないが、なかにはうまく社会参加ができないまま歳を重ねていく層も存在するのが実情だ。そうした層への支援を手がけているうちに、支援の対象が変わっていったというのだ。

支援のスタイル・方法

社会参加への階段を少しずつ登らせていく

ひきこもりの若者を支援している団体の多くのスタッフが口にするのが、「ずっと自宅にひきこもっていた若者が社会参加できるようになるまでには、長い目で見守っていく必要がある」ということ。石田さんも、やはり同じ考えの持ち主だ。

「ひきこもりの子どもを持つ親御さんは、『早く家を出て自立してほしい』と思っているものですが、親御さんの期待どおりにいきなりすぐに就職というのは、やはりハードルが高すぎて難しいですね。そこで『淡路プラッツ』では、ひきこもりの若者がある程度外出ができるようになった段階から、あと少しで社会参加を果たせるという段階に至るまで、少しずつ社会参加への階段を登ってもらうことを大切にしています。」

石田さんは「淡路プラッツ」での活動とは別に、地域若者サポートステーションで開かれるコミュニケーション講座の講師を務めることがあるという。サポートステーションは、ニート(若年無業)の若者を対象に就業支援を行っている機関だが、そこに集まってくる若者の中には、就業するのはまだかなり厳しいと思えるケースが少なくないそうだ。そういう若者は、サポートステーションに通ってくるだけで精神的に限界に近い状態。緊張感でガチガチになっており、人と挨拶を交わしたり、人の目を見ながら話したりといった基本的なコミュニケーションもうまくできなかったりする。

「彼らと接していると、綱渡りのような毎日を送っていることがわかります。彼らにとって社会は、激流のような場所に見えるみたいです。だから本当は家にひきこもっていたいのだけど、親からは『あんたも早く家を出ろ』という有言無言のプレッシャーがかかってきます。親から見放されたら彼らの暮らしは成り立ちませんから、サポートステーションのような就業支援機関を訪ねるわけですが、でも本当のところは働くための心の準備はまだ何もできていないんですよね。」(石田さん)

悩ましいのは、そんな彼らでもたまたまバイトが決まったり、正社員として雇用されたりすることがあることだという。大切なのは仕事が決まることではなく、その決まった仕事を続けられることだが、まだ働く準備ができていない彼らが仕事を続けるのは至難だ。結局職場に行けなくなり、その挫折感から以前ひきこもっていたよりも、さらにひきこもりの状態が重くなってしまう。そしてそのときの苦い経験から、もう決して社会には出ようとしなくなる。石田さんはそんなケースをこれまで何度も目にしてきたという。

「だからひきこもりの若者に対しては、いきなり高いハードルを課すのではなく、スモールステップの積み重ねで少しずつ前に進んでいこう、と言うようにしています。」と、石田さんは話す。

居場所

「淡路プラッツ」の2階にあるメンバーたちの居場所。楽器類が充実しているのが特徴。メンバーはこの部屋で思い思いの時間を過ごす。

面談やセミナーなど親への支援にも力を注ぐ

若者たちが登っていく社会参加への階段、その1歩目は本人がいないところからスタートする。

「子どもがひきこもりで困っている。」という電話が親からかかってくると、「淡路プラッツ」ではまずは親だけで施設に来てもらうようにしているという。「本人も連れて行きたい。」と言われても、断っているのだそうだ。

一口に「ひきこもり」といっても、その状態は様々だ。あと一押しで社会参加ができそうな段階に来ている若者については、「淡路プラッツ」よりも地域若者サポートステーションの方が適しているし、精神障害が考えられるときには医療的な対応を優先させたほうがいい場合もある。

「ですからまずは親御さんに来ていただいて、子どもの状態について教えてもらうようにしているのです。そしてうちよりも他の施設のほうが適していると判断したときには、紹介をしたり、一緒に探したりしています。結果的に『淡路プラッツ』を利用することになるご家族は、10件に1件くらいですね。」(石田さん)

そして「淡路プラッツ」として支援していくことが決まった場合には、親との面談をその後も定期的に続けていく。子どもがひきこもりから抜け出すためには、親がカギを握ると考えているからだ。

「淡路プラッツ」は通所型施設なので、若者が施設の中にいるのは10時から18時までの時間に過ぎない。しかもひきこもりの若者のほとんどは昼夜逆転生活を送っているので、実際に施設にやってくるのは午後をだいぶ回ってから。つまり圧倒的多くの時間を、彼らは施設ではなく家庭で過ごしている。更には完全にひきこもっていて、施設にはとても通えないという若者になると、親が唯一の接点になる。親と本人との関係性が非常に重要になるわけだ。

そこで淡路プラッツでは面談以外にも、親向けのセミナーや、ひきこもりの子どもを持つ親同士の交流の場である「親の会」を開くなど、親の支援にも力を注いでいる。

「ひきこもりの子どもを持つ親御さんは、親戚や親しい人にも相談できずに孤立している場合が多く、みなさん疲れ切っています。けれども『親の会』には、同じ悩みを抱えている方ばかりが参加していますから、そこで気持ちを吐き出して少しでも楽になってもらえればと思っているんです。またセミナーは、ひきこもりに対する考え方や、親や家族がひきこもりの子どもとどのように接していけばいいかをテーマに開催しています。」(石田さん)

ひきこもりの若者の心の中は、「社会に出なくてはいけない」という思いと、「このままひきこもっていたい」という思いの狭間で揺れ動いている。だから社会参加を果たせるようになるまでの道のりも、一歩前進したり一歩後退したりの連続だ。「外に出る。」と言い出したかと思えば、「やっぱりやめた。」と言い出したりする。

石田さんは「大切なのは、そうした子どもの葛藤に親御さんが一喜一憂しないこと」だと話す。ひきこもりから抜け出すまでには相当な時間がかかるということについて、親が覚悟を決めて子どもと向き合えるようになると、子どもの側も心の状態が安定し、結果的に社会参加が早くなるという。そのために淡路プラッツでは、まずは親への支援を重視しているわけだ。

「本人に来てもらうのはそれからのことです。早いケースだと親御さんが最初に面談に来てから2〜3回目ぐらいの時期に本人も来所しますが、子どもが完全に自宅にひきこもっているような状態だと、来所するまでに2、3年かかることもあります。」(石田さん)

子どもがメンバーとして施設に通うようになってからも、親との面談は続けられる。

「親御さんに『今、お子さんは施設ではこんな状態なので、家ではこういうことに配慮してください。』といった話をすることで、プラッツと家庭で協力体制を築いて、一緒に子どもの自立を後押ししようとしているのです。」(石田さん)

統括リーダーを務める石田貴裕さん

統括リーダーを務める石田貴裕さん。他の支援団体での活動を経て、5年前より「淡路プラッツ」で活動をするようになる。

面談ルーム

「淡路プラッツ」の3階にある面談ルーム。ひきこもりの子どもを持つ親や、本人と面談をする部屋として使われている。

スタッフと信頼関係を築き徐々に居場所に慣れさせる

こうして親との面談を経て、ひきこもりの若者本人が通所してくるようになるわけだが、ここでも「淡路プラッツ」はスモールステップの階段を設定している。

長い間誰とも会わずに自宅にひきこもっていた若者にとっては、居場所に通ってくるというだけでも緊張感で一杯になるものだ。何しろ居場所に行けば、ほかのメンバーやスタッフと顔を合わせなくてはいけないわけだから…。

そのため「淡路プラッツ」では、まずは若者にメンバーではなくプレメンバーとして登録してもらうようにしている。

プレメンバーが通うのは、2階の居場所ではなく、3階の面談ルームだ。面談ルームにはスタッフがいて、そこで2人で雑談をしながら、少しずつ若者の緊張感を解きほぐすとともに、信頼関係を築いていく。そしてころ合いを見つつ、スタッフのほうから「ちょっと2階の居場所に行ってみる?」と若者を誘う。そして1時間ばかりほかの若者たちと話したら、また3階の面談ルームに戻るといったことを繰り返しながら、少しずつ居場所に慣れてもらう。

このプレメンバーの期間を3か月ほど経験した上で、若者はメンバーとして正式に登録されることになる。

施設の中にあるキッチン

施設の中にあるキッチン。「淡路プラッツ」では、メンバーに生活体験を積ませるために料理も重視している。

社会参加への敷居を下げる遊びを通じた生活体験

石田さんはメンバーについても、「第一段階と第二段階にステップを分けて接するようにしている」と話す。

「メンバーに対しては、まずは遊びの中で生活体験を積ませることを重視しています。これが第一段階です。そして生活体験を積んで、ある程度コミュニケーションもできるようになったメンバーについては、社会参加や就労を意識した活動に取り組ませていきます。これが第二段階です。」

まず第一段階だが、ひきこもりの若者たちは、一般の若者であれば当然経験しているような社会体験や生活体験が、すっぽりと欠落していたりする。そしてこの社会体験や生活体験の乏しさが、「自分は社会に出てもうまくやっていけそうにない」という自信の無さにつながり、社会参加へのハードルをより高いものにしている。そこで、遊びを通じてメンバーに様々な体験を積ませるのだ。

たとえば居酒屋。「淡路プラッツ」では月に1回「飲みニュケーショントレーニング」と称して、居酒屋で飲み会を開いている。この飲み会の幹事役には、メンバーが順繰りに指名されることになる。メンバーの中には幹事役どころか、仲間たちと居酒屋で飲んだ経験さえない若者も少なくない。そんな若者が幹事として自分で居酒屋を探して予約を取り、注文や会計まで担当しなくてはいけないわけだから、ものすごいプレッシャーになる。でもそのプレッシャーを乗り越えたときに得る自信はとても大きい。

「いろんな挑戦をさせていますが、もちろんプレッシャーを乗り越えられないときもありますよ。たとえば『ボーリングをやりたい』と言い出しながら、言った張本人がイベント当日に来ないといったことはよくあることです。『行きたい』と発言したことで責任が生じ、その責任の重さに耐えかねて来られなくなってしまうのです。そんなときには『いつか行けるようになれたらいいね』と話し掛けながら、数か月後に同じ若者がまた何かに挑戦するような機会を設定します。そういうことを何度も繰り返しつつ、少しずつ壁を突破させるのです。」

石田さんはメンバーに「とにかく失敗をさせたい」と言う。彼らは何事も完璧にこなさくてはいけないと考えがちで、そのことが彼らを生きづらくさせている。例えばみんなでカラオケに行くときでも、事前に歌詞やメロディを完全に覚えてから臨もうとする。だから石田さんは、率先してみんなの前で失敗してみせるという。うろ覚えの曲を選曲して、歌えなかったときには「ごめん、歌えなかった。」と素直に謝る。そうすることで「失敗なんてたいしたことじゃないでしょう。」ということをメンバーに示すのだ。

「世の中に完璧な人なんていないし、順風満帆な人生を歩んでいる人もいないのに、彼らはそれを目指そうとするのですね。『こうあるべきだ』という意識がとても強いんです。けれども自分はとてもそんな完璧な人間にはなれそうにないということで、自分が設定した壁の高さに立ちすくんで、何もできなくなっています。」

不完全なままでも人は社会の中で生きていけるし、生き方だって一通りではない。石田さんはそれを若者たちに身をもって示したいと言う。

「僕自身、一時期は音楽で食べていこうと考えていましたから、そういう意味では真っ当な道から外れた生き方をしています(笑)。でもちゃんと社会のなかで生きている。スタッフには、『こんなふうに生きてもいいんだよ』とか『こんな生き方もあるよ』というモデルをメンバーに示す役割も求められていると思いますね。」

整理整頓された調理器具

料理は整理整頓が大切。フライパンや鍋といった調理器具を置く場所もちゃんと決められている。

ドタキャンOKの就労体験トライアルジョブ

「淡路プラッツ」には、一種の通過儀礼が存在する。遊びを通じてある程度の生活体験を積み、第一段階はそろそろ卒業してもいいだろうと判断したメンバーを、懇意にしている北海道や三重県の農場に連れ出し、旅行を兼ねた農業体験をさせるのだ。

農場の人たちから指示を受けながら行う初めての農作業。人と関わりながら作業をするというのがどういうものなのかを体感する。そして夜には他人と一緒に風呂に入り、同じ部屋で布団を敷いて寝るという体験が待っている。初めての体験の連続に、緊張と興奮で夜眠れなくなってしまうメンバーも多いという。ただし2日目には、ハードな労働のおかげで、すっかり疲れ切って熟睡するのだが…。

この旅行の前に、石田さんたちスタッフは、「もう君もうちに来て3年が経つけど、そろそろ遊びはいいんじゃないかな。この先のことはどう考えている?」というふうにメンバーに話しかける。メンバーのほうもある程度は覚悟を決めていて、「そういう話が来るころだと思っていました。そうですよね。そろそろ社会に出ることを意識しなくてはいけない時期ですよね。」という答えが返ってくる場合がほとんだ。ここから第二段階がスタートする。

淡路プラッツでは、第二段階のメンバーに対しては「トライアルジョブ」というプログラムを導入している。石田さんによれば「世のなかにある就労体験のなかでも、もっとも敷居が低いものを目指した」という。

就労体験先は、銭湯や映画館など。メンバーはこれらの職場で週1回、1日2時間、計8回の就労体験をする。

メンバーが就労体験をするというときに、彼らにとって精神的な大きな負担となるのが職場での人間関係づくりだ。そこで最初のうちはスタッフも就労体験先に同行し、事業所の従業員とメンバーとの関係を取り持つ。そして人間関係づくりを進めながら少しずつ事業所にいる時間を減らしていき、最終的にはメンバーが一人で通えるようにする。

石田さんが「世の中で最も敷居が低い就労体験」だと言う一番の理由は、何とメンバーの「ドタキャン」を受入れ先に許してもらっているということだ。

「メンバーは、その日になって急に休んでもいいということにしてもらったんです。これが協力してくれる職場を見つける上で一番のネックになりました。でも必ず職場に行かなくてはいけないということにすると、メンバーはそれをプレッシャーに感じ、かえって挫折の要因となってしまいます。ドタキャンOKにすることで、できるだけメンバーの不安感と緊張感を取り払った状態で就労体験をさせたいと考えたのです。しかしそれでも最初のうちは、緊張感のあまり前の晩から眠れないままに職場にやってくるメンバーも少なくないですけどね。」

メンバーによっては、この「トライアルジョブ」を3回、4回と繰り返す。回数を重ねるに従って、メンバーに課す課題も少しずつ難度を上げていく。例えば最初の就労体験は、銭湯の脱衣所の掃除といったあまり他者との関わりを必要としないものから始め、次第にチラシ配り等のコミュニケーションが必要になるものへと仕事内容をチェンジしていく。「トライアルジョブ」についても、スモールステップの積み重ねで少しずつハードルを上げていくのだ。

「トライアルジョブ」を通じて働くイメージをつかんでもらったら、いよいよメンバーを地域若者サポートステーションへとつないだり、1階で行われているニートの就労支援事業に送り込んだりする段階になる。

サポートステーションにも就労体験メニューが用意されているが、こちらはもちろんドタキャンは許されないし、1日の就労時間も7〜8時間と長くなるので、それまでの「ジョブトレーニング」よりは内容がずっとハードになる。また1階で行われている就労支援事業についても、給与が支払われるわけだから、責任の重さは「ジョブトレーニング」とはまったく異なる。

「メンバーをサポートステーションにつないだ場合、彼らは『淡路プラッツ』とサポートステーションに掛け持ちで通う形になります。メンバーにとって、サポートステーションは就労を意識して様々な支援プログラムを受講する場、そして『淡路プラッツ』は息抜きの場という感じですかね。『就職活動ってやっぱりしんどいです。』と愚痴をこぼすメンバーを、スタッフが心理面でサポートしていきます。」

ここまでくれば、メンバーが社会参加を果たせるようになるまで、もうあと一歩。「淡路プラッツ」からの卒業も近い。

掲示板

居場所に設置されている掲示板。メンバーを活動に誘う、「●●に一緒に行きませんか」といった類の紙がたくさん貼られている。

「ニートによるひきこもり雇用支援事業」の事務所

大阪府から委託を受けて運営している「ニートによるひきこもり雇用支援事業」の事務所。「淡路プラッツ」の1階にある。

今後の支援について

仕事への夢を持たせるよりともかく体験させること

石田さんは最近、ひきこもりの若者たちへの職業支援の在り方について、ある誤解をしていたことに気付いたという。

これまで石田さんは、ひきこもりの若者たちから「仕事をしなければいけない」という焦りは伝わってきても、「仕事をしたい」という積極的な気持ちはほとんど伝わってこないことが気掛かりだった。

彼らは仕事に対して「しなければいけないが、つらいものである」というイメージを抱いているようだった。そんな若者たちに対して石田さんは、「何とか彼らに、仕事に対する夢を抱かせることはできないものだろうか」と考えていた。やりたい仕事やなりたい職業があったほうが、目標ができ、頑張る意欲が湧いてくるからだ。

しかし最近になって石田さんは、「夢を持たせること」よりも「ともかく就労体験をさせてみること」のほうが大切であると考えるようになった。

淡路プラッツの1階で行われているニート向けの就労支援事業にメンバーを送り込むと、彼らは与えられた仕事に黙々と取り組む。この仕事は自分に合っているとか合っていないとか、好きとか嫌いといった判断軸はなく、ただ「働かなくてはいけない」という思いから、彼らは働いている。

ところが仕事が終わって、同僚から「ありがとう。君のおかげで助かったよ。」と言われた瞬間に、彼らの仕事に対する考え方は大きく転換する。仕事を通じて誰かの役に立ったことを実感した彼らは、そこで初めて「仕事って楽しいものなんだ。やりがいがあるものなんだな。」ということを発見するのだ。

最初は義務感から仕事を始めていたメンバーが、やがて「仕事をしてみて良かったです。実になりました。」と、生き生きと報告してくる姿を見て、石田さんはそのことに気付いたという。

「私たちは、若者たちになりたい職業ややりたい仕事についての夢を見つけさせて、その夢を実現するために頑張らせるといったスタイルの職業支援や職業教育を行いがちです。でも夢や希望は無理に抱かせなくても、働く中で見つけていくことが十分に可能なんですよね。」

だから石田さんは、社会参加の一歩手前にいる若者たちに対しては、ともかく仕事を体験させてやりたいと考えている。体験を通じて「自分にも仕事ができそうだ」という自信を得るとともに、「仕事って結構面白いものだ」という実感を、就業を前にした若者たちに味わわせてやりたいと思っている。

ホワイトボード

ニート向け就労支援事業の事務所内にあるホワイトボード。若者たちは決められたスケジュールに沿って行動していく。

メンバーによる木彫りの作品

かつて在籍していたメンバーによる木彫りの作品。好きなこと、得意なことを見つけるのは、メンバーにとって大きな自信になる。

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