支援対象 :不登校、ひきこもり、発達障害などの小中高生
支援方法 :教育相談、スクーリング、個別指導など
スタッフ数 :常勤5名、非常勤15名
代表者 :白井 智子
| 全国20団体の活動事例 |
| NPO法人 トイボックススマイルファクトリー(大阪府) |
| 子どもの笑顔をつくる山の中の「がっこう」 |
支援対象 :不登校、ひきこもり、発達障害などの小中高生
支援方法 :教育相談、スクーリング、個別指導など
スタッフ数 :常勤5名、非常勤15名
代表者 :白井 智子
〒563-0029
大阪府池田市五月丘5-3-18
TEL : 072-751-1145 FAX :072-751-1058
E-mail :smile@smilefactory.jp
URL :http://www.smilefactory.jp/
平成15年9月 スマイルファクトリーを開設
平成19年4月 スマイルファクトリーハイスクールを開設
池田市内の小中学生…すべて無料
池田市内の高校生以上…ハイスクールに関する費用は有料。
池田市民以外…スクーリング月謝 18,000円(1か月/1家族あたり)、相談料(山の家) 30分 3,500円、相談料(家庭訪問)90分 12,000円(※距離・内容によって変わる。応相談。)
●教育相談・個別訪問事業
関西の自治体や教育機関、医療機関などと連携を取りながら、面談、電話、メールなどにより年間1万件以上の教育相談に対応。子どもの状態によっては家庭訪問によるサポートも行う。
●スクーリング
不登校やひきこもり、発達障害、自閉症などの子どもを対象として、毎週水曜〜土曜日(祝日を除く)の10時〜15時、池田市立「山の家」でスクーリングを実施。スマイルファクトリーへの出席日数が、在籍小中学校の校長の判断によって指導要録上の出席として認められている。
●スマイルファクトリーハイスクール
スマイルファクトリーの高等部。北海道芦別市に本部を置く星槎国際高校と提携し、水曜〜土曜日10時〜15時の「山の家」でのスクーリングを行うことで、高校の単位や卒業資格を取ることができる。単位取得はレポート提出、スクーリング出席、定期試験受験(年2回)により判定。
大阪府池田市の中心部にそびえる五月山。春には桜、新緑の季節にはツツジ、秋は紅葉に彩られ、いくつかある展望台からは遠く大阪湾や淡路島まで望むことができる、市のシンボル的存在だ。
その五月山の麓に「山の家」と呼ばれる施設がある。NPO法人「トイボックス」が運営する、不登校や発達障害などの困難を抱えた子どもたちのための教育施設「スマイルファクトリー」である。
現代表の白井智子さんが、池田市の倉田薫市長の要請を受け、「スマイルファクトリー」を開設したのは平成15年のこと。大学卒業後、松下政経塾に入塾し教育改革をテーマに研究を行った白井さん。平成11年、沖縄のフリースクールの立ち上げに参加し、「26歳の女性校長」として注目を集めたが、経営陣との運営方針の違いから3年余りで同校を退職。大阪で不登校児のための家庭教師をしていたところ、白井さんの著書を読んだ倉田市長からフリースクールの開校を勧められた。
しかし、白井さんはこのときすでにフリースクールの限界を感じていた。最大のネックは高額な学費。フリースクールの校長だったときも、不登校や非行に悩む保護者から、子どもを入学させたいが学費が高くて払えないという手紙がたびたび届いたという。「公教育と連携しないと、本当に困っている子どもを助けることはできないのではないか…。」そう考えた白井さんは、これまでにない新しい「がっこう」を提案する。小中学校との連携、学費の無償化、そして何よりも困難を抱えた子どもたちが「笑顔」を取り戻すための学校。倉田市長は白井さんの案を快く受け入れ、提案からわずか1年で本格稼働にこぎつけた。「行政としては異例のスピード。倉田市長のリーダーシップと、熱意ある人たちとのご縁があったからできた。」と白井さんは振り返る。
「スマイルファクトリー」の最大の特徴は、池田市教育委員会との連携及び各校長の判断により、在籍校に通わなくとも小中学校の出席日数に数えられ得るということだ。子どもたちは元の小中学校に籍を置いたまま「スマイルファクトリー」に「入学」し、ここでの出席日数が指導要録上、出席として認められている。池田市立外の学校に関しても各校の校長の判断によるが、基本的にスクール生全員に認められているという。
定員は約30名。市内の子どもが優先的に入学できるため、市外の子どもたちは多くが空き待ちの状態だ。「スマイルファクトリー」へ入学させるため、市外から引っ越してくる家族もあるという。スクーリング料も池田市民なら無料だ。
「スマイルファクトリー」に修学年限はない。子どもたちが学校に帰りたいと思った時が卒業だ。学校に戻らないという選択肢もある。ここで中学3年間を過ごし、義務教育を修了するわけだが、実際にはそれほど多くない。最初は「『山の家』にだけ通う。」と言っていた子どもも、学校で特定の授業だけを受けたり、中学校の職業体験にだけ参加したりというように、学校との接点を少しずつ増やし、やがて本籍校へ帰っていく。スクールに通い始めて数か月で学校に戻る子もいれば、2、3日で戻る子もいる。
「できることなら学校に戻れるようになることが理想だとは思っていますが、決して強制はしません。戻れる自信が付けば戻り、そうでなければいつまでもここにいていい。子どもたちが自信を取り戻し、自分で進路を選択できる力を付けることが重要なのです。」と白井さんは強調する。
平成19年4月からは通信制高校との提携により、「スマイルファクトリーハイスクール」も開設した。家庭科を軸としたスクーリングと、レポート提出や実習等を経て、高校の単位や卒業資格が取得できるようになり、小中高まで一貫してサポートする体制ができあがった。
スクーリングは水曜〜土曜日の10時から15時まで。午前中は主に個別学習、午後は体験的な共同授業が中心となる。白井さんいわく、不登校の二大原因は「学力」と「コミュニケーション能力」の不足にあり、プログラムもその2つに対応している。
午前中はそれぞれの学力に応じた教材で個別に勉強する。学習障害や発達障害を抱えた子どもは認知の仕方にも個人差があるため、教材選びには特に気を遣う。子どもたちと本屋に行って教材を探す「教材探しツアー」を行い、子ども一人一人に合った教材をセレクトすることもある。
午後は家庭科や理科、社会、体育、美術などの体験的な学びの時間だ。家庭科で裁縫や料理をしたり、社会科で地域の地図を作ったり。天気が良い日には五月山に上り、自生している植物を話題に理科の授業を行い、遠くに見える大阪城を題材に歴史の話をすることもある。
この時間で重要なのは、そこで得られる知識そのものではなく、コミュニケーション能力の育成である。自身も社会科や理科の授業を受け持つ教務主任の石本智一さんは次のように語る。
「ときには、小中高が合同で実験や実習に取り組むこともあります。仲のよい子と組ませたら積極的に取り組む子、年下をリードすることでやる気を高める子など様々ですが、いずれにせよ大切なのは集団で活動できるという自信を持たせること。小さな成功体験を積み重ねる中で、次の一歩を踏み出すきっかけをつかんでほしいと思います。」

今回お話をうかがった白井智子さんは、松下政経塾の16期生。
今でこそ子どもたちも落ち着き、穏やかにスクール生活を送るようになったが、開設当初はどの子も神経をとがらせ、ピリピリした雰囲気を漂わせていたという。「学校」「不登校」といった言葉も禁句で、勉強の時間になると逃げ出す子、掃除が嫌だという理由で来られなくなる子もいた。
子ども同士のトラブルも多かった。原因は些細なものがほとんどだが、中には被害妄想にとらわれて、必要以上に深く傷つく子どももいる。そういう場合は、スタッフが個別に子どもたちを呼んでトラブルの原因を整理し、解決への道筋をつけてあげると、やがては子どもたち同士で解決できるようになるという。
「ここの子どもたちの中には、友だちとトラブルになったら明日から『山の家』に行くのをやめようと考える子も少なくありません。きちんと話をして誤解を解けば、自分たちで乗り越えられるという体験を積むことが、子どもたちには必要なのです。」(白井さん)
こうして子どもたちの課題に一つ一つ対応していくうちに、徐々にトラブルは減り、「山の家」全体が落ち着いてきたという。「子どもたちが雰囲気を作り、山の家という場所そのものを成長させてくれているのかもしれません。」と白井さん。ここでは自分らしさを出しても恥をかかない、間違いも受け止めてもらえるという安心感が子どもの心を安定させ、落ち着いた雰囲気を醸し出しているのである。

小中学生合同の授業風景。家の掃除の仕方について学んでいる。和気あいあいとした雰囲気で、先生の質問にも活発に答えていた。
子どもたちが落ち着いてきたのは、学校との連携が密になってきたこととも無関係ではない。開設当初は、「スマイルファクトリー」の存在に懐疑的な学校も少なくなかった。教師の側からすると、自分たちがやってきたことを否定されているような気持ちがあったのかもしれない。最初のころは、新しい子どもが入ると白井さんが報告書を持って本籍校に赴き、「この子が通っているので出席を認めてください。」と頭を下げるのが常だった。
教師たちの態度が変わってきたのは、スクールを卒業した子どもたちが学校に戻り始めてからであった。見違えるような表情で戻ってきた子どもの姿が、教師たちの疑念を払拭したのである。それからは、教師が自ら定期的に「スマイルファクトリー」に足を運んで自分が受け持っていた子どもと接したり、3月になると「誰がクラスにいたら戻りやすいか」「どんな先生に受け持ってほしいか」などと聞き取りをしたりするようになった。「たとえ全ての要望が聞き入れられなくても、話を聞いてもらえるだけで、子どもにとっては大きな安心感につながる。」と白井さんは指摘する。
池田市教育委員会にいじめや不登校の問題を考える会議がある。以前は「いかに『山の家』から子どもを取り戻すか」という議論もあったが、今は「『山の家』等の施設にも行けない子どもをどうやってサポートするか」という論調に変わってきている。
その会議において最近、このようなことがあった。ある教師が「本校から一人、山の家に通っている。子どもが学校と疎遠になったようで寂しい。」と打ち明けたところ、別の教師が怒って次のように言った。「『山の家』に行き始めたということは、その子が初めて大人を信用できるようになったということです。そのチャンスを生かして、あなた自身が『山の家』に通い、その子と関係性を築けばいいじゃないですか。」
声を上げた教師は、自身も足繁く「スマイルファクトリー」に通っている一人だった。困難を抱える子どもたちだけでなく、池田市の学校関係者にとっても、「スマイルファクトリー」はなくてはならない存在になりつつある。

家庭科の実習で高校生が作った作品。熱心な先生に感化されて家庭科好きになる男子も多い。
「スマイルファクトリー」を「卒業」した子どもの多くは、今も元気に学校に通っている。大学に進学した後、ボランティアとして帰ってくる者もいる。中には、「将来『山の家』のような施設で働きたい」、あるいは「スクールソーシャルワーカーとして学校と施設をつなぐ仕事に就きたい」と語る者もいるという。学校に戻りたいという意欲だけでなく、将来の夢までも、「スマイルファクトリー」は子どもたちに与えているのだ。
「一度、教育で傷ついた自分が、再び教育の力で救われた。今度は自分自身が傷ついた子どもたちのために何かをしてあげたいと思うようになるのでしょう。普通に大学を出て就職した若者の中には、30歳を過ぎても何をしていいのかわからないという人が少なくありません。早い段階で自分の人生について深く考える機会を持てた子どもたちは、かえって幸せなのかもしれません。」と白井さんは語る。
失意の中でもがき苦しみながらも、真正面から自分の人生と向き合った経験は決して無駄にはならないのだ。
「スマイルファクトリー」の一日は、朝のミーティングに始まる。10時、来室した小中高生が集まり、その日の予定を確認した後、10時30分から1時間半にわたって、各自の学力に合わせた個別学習に取り組む。それが終わると昼食の時間。この時間も、子どもたちにとってはコミュニケーションの訓練の場だ。おしゃべりをしたりトランプを楽しんだり。ときには、ケンカになり麦茶の掛け合いが始まることもあるが、そういう場合は当事者だけを別室に呼んで諭す。
「ここではできる限り、他の子どもの前で叱らないようにしています。怒られた子は恥をかかされた気になってこちらの言うことに耳を貸さなくなります。中には関係ないのに自分が怒られているような気持ちになってしまう子もいるのです。」(石本さん)
午後は実習の時間。記者が訪れた日は、家庭科の授業を行っているというので見学した。小中学生の部屋では、掃除の仕方についての授業が行われていた。「窓ガラスを磨くときに最適なのは?」。先生の問い掛けに「なんでタオルはいけないの?」と、子どもたちが積極的に質問をぶつける。普通の学校のように決められた席に座り、黒板を凝視することもない。仲の良い者同士が自由に座り、リラックスした雰囲気で授業に臨んでいる。また、昨日休んだから今日の授業はわからないということもない。いつ授業を受けても発見や喜びがあるからこそ、子どもたちは安心して「スマイルファクトリー」に通うことができるのだ。

家庭科の授業で、保育実習の振り返りに取り組む高校生。真剣な表情から、最後まで書き切ろうと努力している様子がうかがわれた。
高校生の部屋に入ると、10名ほどの子どもたちが手元のプリントに取り組んでいた。先週、認定こども園で行った保育実習の振り返りをしているという。プリントには「子どもたちと触れ合う中で感じたことは?」「先生はどのように接していた?」などの項目が設けられており、それを一つ一つ埋めて考えを整理した上で、最後に原稿用紙に感想文を書いてゆく。
手が止まっている子どもには、家庭科の先生が「子ども園に入った瞬間に何が一番不安だった?」「子どもは好き?」などと質問を投げ掛けて、書き進めるための糸口を与える。原稿用紙のマス目を埋めないと気が済まない子、半分くらいであきらめてしまう子など様々だが、全ての子どもが真剣に課題と向き合っている様子が見て取れた。
前の週に行われた保育実習は、子どもたちがうまく園児と遊べるか、スタッフにとっても不安が大きかった。しかし、多くの子どもたちが積極的に園児と交わり、中には園児の人気者になって将来、幼稚園教諭や保育士を目指そうかと真剣に考え始めている者もいるという。
授業が終わると、小中高合同で帰りのミーティングが行われる。石本さんが「今日のMVPを発表しましょう。」と呼び掛けると、子どもたちが一斉に手をあげる。「○○ちゃんにシャーペンを貸してもらいました。」「○○君が午前中に理科を頑張っていました。」
誰かが頑張った、誰かに親切にしてもらった、各自が気付いた友達の良いところを発表し合うことで自己肯定感を高めるのがねらいだ。他人の良いところに気づいた人も称えられる。名前が出た人、発表した人、それぞれにポイントが与えられ、高得点の子どもは「今月のMVP」として表彰される。手作りの表彰状1枚だが、子どもたちは大切に持ち帰り家に飾っているという。
「ここの子どもたちは、大人から褒められた経験が少ない。子どもたちの良さを認め、それを伸ばしていける環境を作るだけで子どもたちは大きく変わるんです。」と白井さんは言う。
「今日親切にしてくれた人、それに気づいた人、頑張っていた人に拍手!」
子どもたちとスタッフの拍手とともに、「スマイルファクトリー」の一日は終わった。

帰りのミーティング風景。子どもたちが推薦する「今日のMVP」を黒板に書き出していく。黒板の右に立っているのが教務主任の石本さん。
[発達障害のA君・男性・10代前半の例]
かつて不登校の原因といえば、いじめや非行、怠学などが多かったが、近年は発達障害に起因する不登校が急速に増えているといわれている。しかしその一方、世間の認知度は低く、単なる怠けや甘え、努力不足ととられることも少なくない。以下のエピソードは、発達障害の子どもが「スマイルファクトリー」に来て生活を続ける中で障害に気づき、母親とともに解決に向けた一歩を踏み出すまでの話である。ただし、登場人物はスタッフや他の教育機関の体験を集約した架空のもので、特定のモデルはいない。
***
母親と初めて「スマイルファクトリー」に見学に来た中学生のA君。「古くて壊れそう。」「こんなところにいたら危ないぞ。」などと言いながら施設の中に入っていった。しかし、大勢の子どもがいることにうろたえたA君は、どうしたらいいのかわからなくなり、落ち着きなくウロウロし始めた。こだわりが極端に強く攻撃的、人と目を合わせられないという様子が発達障害の特徴を表している。
やがてA君は他のスタッフとともに施設内の見学へ行く。母親は別室でT先生と向き合い、どのようにA君を山の家に通わせるのか相談する。A君に発達障害の特徴があることを見てとったT先生は、「いきなり皆の中に入れると、傷ついて来所できなくなる可能性が高いと思います。慣れるまで個別対応で様子を見て、慣れてきたら集団に入っていくようにしましょう。」と方針を伝えた。その上で重ねて「発達障害とか何か言われたことはありますか?」と聞いた。一般論としてさりげなく質問するのが鉄則だ。「それは特にありません。」と母親。まだ、子どもの状態を正確に把握していないようだ。
しばらくA君は2階の部屋に登校し、先生とマンツーマンで勉強に取り組んでいたが、やがて本人の希望により通常のスクーリング生として通うことになった。さっそく仲間たちが話しかけてくる。「どこから来たん?」「趣味は何?」「野球。阪神以外はつまらない。」というA君に、続けて仲間の一人が「へぇ、野球が好きなんだ。この前もイチローがすごかった…」と言いかけると、途端にA君が色をなして怒り始めた。「阪神だよ。イチローは関係ないやろ。」
それを見ていたスタッフはすかさずフォローに入る。「イチローもすごいけど、阪神ももっと注目されていいよね」。発達障害の子はプライドが高い。いずれの子どもの顔もつぶさないよう細心の注意が必要だ。
個別学習の時間、A君が問題集の前で固まっている。先生が「ここはこうして…」と教えると、「そういう意味か。ほんまはわかっていたんやけど。」とA君。間違えた言い訳を繰り返すのは自分に自信がない証拠だ。スタッフは、「もっと間違えないとあかんねんで。」とあっさり流す。「間違えてもいいよ」ではなく「間違えなさい」と指示することで、苦手意識を克服するきっかけを本人につかませるのだ。
やがて課題提出の日が来る。なぜ課題を出さなければならないのか理解できないA君は、「恥をかくくらいなら出さない!」と言い張る。A君の答案を見た先生は「空欄は埋めてあるやん。すごいすごい。」と大げさにほめる。「うそやー。」と否定しながらもどことなく嬉しそうなA君。小さなことでも見つけてほめる、それが前向きなモチベーションにつながるのである。

徐々に「スマイルファクトリー」の生活に慣れていくA君。しかし、些細なことで友達と喧嘩するなど、落ち着きのなさは初めて来所したころと変わらない。そんなある日、母親から連絡があった。気になることがあるので先生と面談したいという。
個室でT先生と向き合った母親は、子どもの様子があまり変わらないことへの不安を語った。そろそろ、踏み込んだ話が必要だと感じていたT先生は、さりげなく「お子さんによって発達の度合いも違うので一概には言えませんが…」と前置きしたうえで、「こういうことを言われたとき、こんな反応が返ってくることはないですか?」と聞いてみた。「えっ、どうしてわかるんですか。」と驚く母親。先生は「気になるなら検査を受けてみるという選択肢もあります。」とさりげなく発達障害の検査を勧めた。スタッフはあくまで提案をするだけ。決定は保護者にゆだねるのが原則である。
「今まで考えたこともなくて…。」と言いながらも、意を決してA君に検査を受けさせたところ、果たして「広汎性発達障害」の診断が出る。子どもの状態を知りたがっていた母親は、原因が分かってむしろほっとしたようだった。
スタッフと母親は、A君に症状を告知するタイミングを相談した。告知といっても、症名を伝えるのではなく、「あなたは人に比べてここが優れているけれども、こういうところが弱いから今まで苦労してきたんだよ。」と、本人がショックを受けないような言い方で伝えるのである。外部のカウンセリング機関との連携も視野に入れながら、A君が将来、自立して生きていくためにどうすればいいのか、母親とスタッフの話し合いが続けられた。
やがて迎えた3月。多くの子どもたちが、学校に戻るきっかけをつかむ時期である。「スマイルファクトリー」で出席日数を満たし、本籍の中学校を卒業することになったA君も、外部の通信制高校へ進学するか、「スマイルファクトリーハイスクール」に進むかを、母親や先生と一緒に考え始めた…。
***
発達障害などの症状がない場合、多くの子どもは数か月で本籍校に戻るが、A君のように障害をもっている子は、小中と一貫して「スマイルファクトリー」で過ごす場合も少なくない。高校進学時は外部の進学先も視野に入れて指導するが、まだその段階に達していない子や、内部進学の意志が固い子どもは「スマイルファクトリーハイスクール」へ内部進学する。無理に卒業させることなく、小中高と一貫して通える場を保証することが、子どもや保護者の安心感につながっている。
