国際青年育成交流事業


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『スウェーデンにおける社会福祉基盤の実現』

島根県 松元 智子


 「世界で最も豊かな社会福祉国家」と謳われるスウェーデンを実際に肌で感じる機会を得ることができた。ストックホルム、スンズバル、カールスタッドという3都市をそれぞれ一週間ずつ滞在したが、どこもスウェーデンという国のやさしさが伝わってきた。

 日本は経済大国と言われながら福祉政策はかなり立ち遅れている。使用頻度の高い駅ですら、エレベーター、エスカレーター設備がなかったり、点字ブロックはあっても自転車が駐輪されていたりと、お年寄りや障害者、小さな子供連れの親への配慮は、設備レベル、人々の意識共に低いといわざるを得ない。一方、スウェーデンの福祉政策については、施設や個別施策の充実度を数的に検証しながら到達度を計る段階はもう既に終わっている。現在では、個人にどの程度拡大普及しているかを見ているのだ。社会的に高い地位にあたる人々への権力集中を排除し、社会的弱者や少数者の生活基盤を整備することが福祉社会の目標であるが、この公的扶助サービスによる生活の安定、充足の成功はどのようにして実現されてきたのか、その背景とこれからの課題について私は派遣期間中、日々考えさせられていた。

 スウェーデンにおけるこの高福祉の実現の基盤は何と言っても国民の高税負担である。こういった社会実現の背景には、政治政策への信頼にあることを忘れてはならない。日本では、税がどこへ消え去るか分からないその不透明さと政治不信、信頼の失墜こそが高福祉実現の困難さを極めていると言える。スウェーデンでは、国民の心に安心感を与える福祉の享受がその実績による深い信頼の基に成り立っているのだ。なぜこの政治政策を成功に導くことができたのか?この信頼の基の元は、ヤンテラグという国民の平等意識の存在であると考えられる。これらが中立政策や男女平等参画社会にみられるようなスウェーデン社会を構築していると言っても過言ではないと思った。
スウェーデン派遣団レポート写真3
 それならば、国民はこの重税に全く不満がないのかといえば、そうでもない。地方分権の進んだ国家であるからには、それなりの地方税がかかってくる。所得の約50パーセントは国の所得税、地方税、間接税に消えるらしい。加えて、消費税が25パーセントである。しかし、スウェーデンの地元青年に高税負担についてどのように考えているのか聞いてみると、ほぼ全員が口を揃えて「満足している」という。ヨーロッパ諸国で使用できるIDカード(日本でいう保険証をカードにしたようなもの)を見せてもらったが国境を越えたその取り組みもまた驚嘆させられるものであった。このような社会を羨ましく思うと同時に国民の平等意識の高さを思い知らされた。

 高税を不満に思う人ももちろんいた。教育の平等以外は過剰福祉に思うようだ。以前よりも高負担になったにも関わらずサービスの質の低下したという。失業率も増して国民の不安や失望もそれに比例しているらしい。スウェーデン政府が資金繰りに苦しむ姿も今は見られる。
 
 スウェーデンでは、個人だけでなく、企業負担金も年間給与の他に年間所得の約39パーセント相当を福祉負担金として準備しなければなれないなど負担が大きい。派遣中、二泊三日のホームステイがあり、第一日目にはホストマザーの職場を見せてもらえることとなった。彼女は公務員でスーパバイザ−として働いていて、被雇用者の心理、身体的側面を事業相談員としてアドバイスをするそうだ。ホストマザーのお話一つ一つが私にとって新鮮で興味深いものだった。なぜなら、職場における心身の健康について、企業監督の権限がかなり整備されているからである。例えば、長時間合わない椅子に座って仕事をしていると、肩や腰にかなりの負担がかかってしまい、職業病になる危険があるが、こうした問題に対応するために企業側は本人に合った机、椅子を提供しなければならない。実際、こうした職業病を無くすため、オフィスで立ったり座ったりして仕事が出来るように電動で上下を調節できる事務机が主流になってきているようだ。椅子もデザイン、色ともに実に豊富であり、座る姿勢、腰への負担が考えられている。こうした科学的な椅子が職場で使用できることは被雇用者にとってこの上ない仕事環境なのではないだろうか。大きさも充分なほどあり、形も様々。机の材料といえば、贅沢なほどに使ったスウェーデンの主幹産業の木材が中心で安らぐ。こうした就労環境では、仕事で出てくるアイデアも違ってくるかもしれないなどと思った。有名なあの「寝たきり老人ゼロ主義」は、「職業病ゼロ主義」を政策として拡張させているように思えた。

 このような福祉負担金を、もちろん保険という形ではあるが、企業側が出さなければならないそうだ。こうした高負担から、企業の国外脱出の流れもある。人件費の高いスウェーデンから人件費の安い他のEU諸国を目指して企業の流れを止めるには、福祉水準を下げてでも、母国でのコスト削減に力を入れなければならない。経営不振の企業からは福祉財源は調達できない現状もあるようである。EU加盟を理由に加盟国並みの福祉水準、給与水準に落とさざるを得ないこの現実に国際競争、経済成長と自国福祉のバランスの難しさを思った。

 高税負担は、国民の労働意識も左右していた。現在スウェーデンでは、労働時間が週当たり40時間であり、残業も少ない。下手に収入を上げてしまうと税率をあげてしまう事になりかねないからである。日本人にとっては羨ましい限りの楽園のように見えるかもしれない。有給休暇は職業によって違うが、最低でも6週間あり、しかもそれが完全消化されているという。有給休暇を返上で働くことは日本人にとっては会社のために尽くすという、ある意味美徳のようにとらえられるが、スウェーデン人にとって、それは休日を一緒に過ごす仲間たちへの裏切りになる。私達がスンズバルを訪れた時にも多くのサマーハウスが郊外に建ち並んでいるのが見られた。有給休暇にはこのサマーハウスでゆっくりと過ごし、クリスマス頃にも取って家族が集まるようである。しかし、これは経済不調に陥る原因の一つでもあるのだ。この長期有給休暇を少しでも短縮して職場復帰すれば、停滞も少しは回復しそうなものであるがスウェーデン人はそうは考えないようだ。彼らの労働・経営意欲の低下が課題である。
 スウェーデン派遣団レポート写真4
 自分の生活や、家族の生活を優先的にとらえるその考え方は、ミシガン大学の研究調査にも結果が新聞に出ていた。カナダ、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、スウェーデン、日本、中国の中で、「家庭での労働時間」が男女ともにスウェーデン人がトップであったという内容のものだ。家庭での家事・育児を夫婦がほぼ同じ時間ずつ負担しているのだが、それでも男女共にトップなのは、家庭で過ごす時間の多さに原因があると考えられる。私たちがファミリーセンターを訪れたときにも父親が多かったのはこの労働状況と意識の高さの違いであると思った。最小社会単位である家族を愛するその考え方は社会全体の平等福祉の考え方そのものを構成していた。 

 これは有名な話だが、スウェーデンのどこの町を見ていてもバリアフリーの整備が進んでいるのに気付く。地下鉄、駅、学校、図書館などの公共の建物では車椅子用のエレベーター、優先駐車場、優先座席‥走行障害となるようなものは特に見られなかった。それどころか、試合観戦場等の優先席はS席ともいえる場所に位置している。この社会整備の背景には、手をかけ、時間をかけ、膨大な額の資金投入によって作り上げられてきたことがあげられる。これは障害者やお年寄りのためのバリアフリーだけに言えることではない。スンズバルでの高校訪問では、シェルターを実際に見ることができた。万が一、有事の為の核シェルターまでもが地下に整備されている。約190年間も平和を保っているこのスウェーデンであるが、核シェルターの完備には圧倒される。使う機会などあるのか?と疑問を抱いてしまったくらいであるが、「平和にまさる福祉なし」というここまでの高レベルな社会資本への投資の完了は、日本にとって直面する課題であり、このフロンティア国家に学ばなければならないものが多いと思った。

 スウェーデンという国はヤンテラグが素となり、それが全ての社会構成要素をリンクさせている社会保障サービスの進んだ国であることがわかった。「競争社会」と「ヤンテラグ社会」をうまく融合させることはできるか?福祉重視政策は、経済効率を低下させ、経済成長を阻害するというこの難題を扶助サービスの低下ではない方向でぜひとも解決させてほしいものである。日本も経済競争を温存したまま高福祉実現に向けて、まずは政治政策への信頼回復を目指したい。

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