特集 若者にとっての人とのつながり

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1 はじめに

人は,出生から乳幼児期,学童期,思春期を経て,青年期,成人期といった段階を社会と関わりながら過ごしていく。家族,近所の人たち,学校,部活・サークル,会社,結婚して築く家庭,共通の趣味を持つ仲間など,ライフサイクルの各段階に応じて,人は様々な集団に属したり離れたり,新たに形成したりしてその時期を過ごす。日常生活を送るとき,自分自身について考えるとき,新しい挑戦をするとき,何か困難を乗り越えようとするときなど,人生のあらゆる場面において,常に人は他者とつながり,助け合っており,他者とのつながりの中で生きていく。

とりわけ,進学・就職などのライフステージの移行時やそれに伴う環境の変化の中で様々な問題に直面する若者にとって,家庭,学校,地域等における「人とのつながりのありよう」は,若者自身が社会的な成長を遂げ自立していく上で大きな影響を与える要素と考えられる。

一方で,若者の中には,学校や職場などの集団の中での人間関係がうまく築けなかったり,維持できなかったりしたことをきっかけとして,不登校,ひきこもりなどの状況にある者や,目立った困難さを抱えているようには見えない若者であっても,周囲と十分なコミュニケーションが取れずに孤立し,または,心を開いて悩みなどを相談できる相手がいないなどといった状況にある者もおり,これらの者は,自分ひとりで悩みを抱え込む状況が続くことにより,様々な問題を複合的に抱えた状態に陥ることが懸念される。

そこで,今回の特集は,平成28(2016)年度に内閣府が行った「子供・若者の意識に関する調査」(平成28年12月に全国の15歳から29歳までの男女6000名を対象に実施したインターネット調査。)の結果をもとに,若者のつながりに関する現状とそこから見える課題を考察するとともに,若者を孤立から守り,その成長を支援するために参考となる取組を紹介する。

2 若者にとっての人とのつながりに関する意識調査の概要

本特集では,若者にとっての人とのつながりについて,

<1>ほっとできる,居心地の良い場所としての「居場所」の存在

<2>悩みを相談できるなど他者とのつながりの状態

の2つの視点を軸にすえて分析した。このことにより,若者の所属意識と他者とのつながりの状態の関係について分析が可能となった。本特集における居場所とつながりについての概念を図表1に示す。

図表1 居場所とつながり

図表1は,家庭,学校,職場,地域,インターネット空間において,それぞれの場における自分と他者とのつながりの有無を両者を結ぶ線で示し,その強さを線の太さで概念的に表わしたものである。

例えば,生徒・学生の場合,在籍する学校があり,多くの他の生徒・学生と学校生活を送っているが,ある生徒・学生にとって,学校がほっとできる,居心地の良い場所と感じられていれば,学校はその生徒・学生にとっての「居場所」になっていると整理した。

また,他の生徒・学生とのつながりの状態は様々であり,悩み事を含めてお互いに何でも話したりできる仲の良い生徒・学生もいれば,たまに声をかける程度の生徒・学生や一度も話したことのない生徒・学生もいるであろう。何でも悩みを相談できる,など相手との関わりを示す項目を肯定している場合は,その相手との「つながりが強い」と整理した1

以下では,居場所について,上記5つの場所に自分の部屋を加えた6つの場に分けてみていく。また,つながりの対象として,家族・親族,学校で出会った友人,職場・アルバイト関係の人,地域の人,インターネット上の人の5つに分けて分析を進める。なお,図表では,小数点以下第2位を四捨五入しているため,回答の合計が100.0%にならない場合がある。

(1)若者の居場所,他者とのつながりの状況

まず,若者がどのような場を居場所と感じているのか,また,どのような相手とつながりを感じているのか等をみていく。

ア 居場所の状況

居場所を,<1>自分の部屋,<2>家庭,<3>学校,<4>職場,<5>地域,<6>インターネット空間の6つの場に分け,それぞれ自分の居場所と思うかをたずねた質問に対する回答をみると,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」を合わせて,<1>自分の部屋が89.0%,<2>家庭が79.9%,<6>インターネット空間が62.1%と,それぞれ比較的高い割合を占めている。一方,<3>学校が49.2%,<4>職場が39.2%,<5>地域が58.5%となっている(図表2)。

図表2 居場所の有無

6つの場について,自分の居場所と思うかをたずねた質問に対し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」と回答した場の数をみると,居場所であると感じている場の数の平均は3.7で,居場所の数が3つ以上あると回答した者は,全体の約75%を占める(図表3)。

図表3 居場所と思う場の数

イ つながりの状況

つながりの対象を<1>家族・親族,<2>学校で出会った友人,<3>職場・アルバイト関係の人,<4>地域の人,<5>インターネット上の人の5つのカテゴリーに分け,若者がそれぞれのカテゴリーに示される相手とどのようにつながっていると感じているかを把握するため,「楽しく話せる時がある」,「何でも悩みを相談できる人がいる」,「困ったときは助けてくれる」,「他の人には言えない本音を話せることがある」,「強いつながりを感じている」という5つの他者との関わりを示す項目についてそれぞれ質問した。

その回答をみると,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」を合わせて,<1>家族・親族とは,「楽しく話せる時がある」と回答した者の割合は81.0%,「困ったときは助けてくれる」は78.4%,「強いつながりを感じている」は69.7%であった。また,<2>学校で出会った友人とは,「楽しく話せる時がある」と回答した者の割合は76.9%,「困ったときは助けてくれる」は65.0%,「強いつながりを感じている」は59.6%となっており,<1>家庭・親族と<2>学校で出会った友人との間に,楽しく話したり,悩みを相談したり,助け合ったり,本音を言ったりするなどのつながりの強さ(以下,単に「つながりの強さ」という。)を感じている若者の割合が大きいことがわかる。

一方で,<4>地域の人とは,「楽しく話せる時がある」と回答した者の割合は27.8%,「困ったときは助けてくれる」は26.4%,「強いつながりを感じている」は20.2%,<5>インターネット上の人とは,「楽しく話せる時がある」と回答した者の割合は37.5%,「困ったときは助けてくれる」は21.8%,「強いつながりを感じている」は21.8%となっており<4>地域の人と<5>インターネット上の人との間では,<1>家族・親族や<2>学校で出会った友人と比べてつながりの強さを感じている若者の割合はそれほど大きくないことがわかる。

なお,<3>職場・アルバイト関係の人とは,「楽しく話せる時がある」と回答した者の割合は58.7%,「困ったときは助けてくれる」は50.6%,「強いつながりを感じている」は31.3%であり,つながりの強さを感じている若者の割合は,<1>家庭・親族及び<2>学校で出会った友人と<4>地域の人及び<5>インターネット上の人の2つの間に位置している(図表4)。

図表4 対象別のつながりの強さ

さらに,5つのそれぞれのカテゴリーに示された相手との間で,「会話やメール等をたくさんしている」かをたずねた質問に対して「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」と回答した者を抽出し,それぞれのカテゴリーに示された相手とのつながりの強さに関する回答を組み合わせたところ(図表5),他者との関わりを示す項目の全てにおいて,図表4で示されている数値よりも高い数値を示している。特につながりの強さを感じる若者の割合がそれほど大きくなかった<4>地域の人,<5>インターネット上の人について,数値の上昇が著しい。

会話やメール等の普段のやりとりの多寡がつながりの強さを感じるかどうかに影響していることも考えられる。

図表5 対象別のつながりの強さ(普段のやりとりが多い間柄を抽出)

ウ インターネット上でのつながり

インターネット空間においては,相手とのつながりはフェイス・トゥ・フェイス(対面)の形をとらないため,他の居場所とは異なる特徴を示すことも考えられる。

インターネットの利用についての意識をたずねた質問への回答をみると,「場所を問わないので参加しやすい」や「情報発信・収集の手段として活用できる」等と答えた若者の割合が大きく,他者と関わる際にインターネットを利用することについて,手軽さや利便性を感じていると考えられる。

一方,「自分や相手の気持ちが伝わりづらい」,「自分の情報が悪用されそうで心配だ」等と答えた若者の割合が大きく,他者との意思疎通などコミュニケーションの質については,物足りなさや不安を感じている様子がうかがえる(図表6)。

図表6 他者と関わる際のインターネットの利用について
(単位:%)
  そう思う(計) そう思わない(計)
率直に話ができるので便利 61.3 38.7
自分や相手の気持ちが伝わりづらい 68.8 31.3
深く関わらなくてすむので参加しやすい 67.7 32.3
参加者同士の一体感や共感が薄れそう 48.3 51.7
場所を問わないので参加しやすい 71.9 28.1
自分の情報が悪用されそうで心配だ 62.8 37.2
情報発信・収集の手段として活用できる 70.7 29.3
(注)
  1. 「そう思う(計)」は,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」の合計。
  2. 「そう思わない(計)」は,「そう思わない」,「どちらかといえばそう思わない」の合計。
  3. 色付は6割以上の回答があった項目(ピンク:インターネットに対する肯定的な評価,青:インターネットに対する否定的な評価)。

以後の分析では,基本的にインターネット上のつながりを除いたつながりに着目して考察を行う。

エ 学校における居場所とつながり

現在学校に在籍している者のうち,学校が居場所となっていると思うかをたずねた質問に対し「そう思わない」と回答した者の割合は12.7%であった(図表7)。

図表7 居場所の有無(現在学校に在籍している者にとっての学校)

また,現在学校に在籍している者に対して,家族・親族,学校で出会った友人とのつながりをたずねた質問項目のうち,「何でも悩みを相談できる人がいる」についての回答を,学校を居場所と思うかどうかという認識別にみると,学校を居場所と思っていないと回答した者の方が,学校を居場所と思っている者に比べて,「そう思わない」と回答した者の割合が高くなっている(図表8)。

現在在籍している学校を居場所と感じていない者は,家族・親族,学校で出会った友人という身近な相手とのつながりについても希薄である傾向がうかがえるところであり,孤立化し退学にまで結びついてしまうことを含めて懸念される群であると考えられる。

図表8 居場所の認識別つながりの認識(現在学校に在籍している者にとっての家族・親族及び学校で出会った友人)

(2)居場所及びつながりの重要性

次に,居場所と感じている場の数やつながりが,生活の充実度や将来に対する意識にどのような影響を与えているのかをみていく。

ア 居場所及びつながりと生活の充実度

図表9は,6つの場について,それぞれ自分の居場所と思うかをたずねた質問に対し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」と回答した場の数別に,それぞれの回答者が現在の生活について「充実している」,「どちらかといえば充実している」と回答した者の割合を示している。これをみると,6つの場について,いずれも居場所になっていると思うと答えなかった者(居場所が0の者)で生活が充実している(「どちらかといえば充実している」の回答を含む)と回答した者の割合は25.3%,同様に,居場所になっていると思うと回答した場の数が1つの者については36.4%,2つの者については52.3%,3つの者については61.2%,4つの者については76.3%,5つの者については86.7%,6つの者については89.9%となっており,居場所であると感じている場の数が多くなるにつれ,生活が充実していると回答した者の割合が高くなっている(図表9)。

図表9 居場所の数と生活の充実度

学校で出会った友人,地域の人とのつながりをたずねた質問項目のうち,「何でも悩みを相談できる人がいる」に対し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」,「どちらかといえばそう思わない」,「そう思わない」と回答した者それぞれについて,現在の生活の充実度に関する質問の回答をみると,どちらのつながりにおいても,何でも悩みを相談できる人がいると感じている者の方が,いないと感じている者に比べて,「充実している」と回答した者の割合が高くなっている(図表10)。

図表10 つながりの認識別の生活の充実度

イ 居場所及びつながりと自己の将来像

居場所であると感じている場の数と自己の将来像についても,居場所であると感じている場の数が多くなるにつれ,生活の自立や社会への貢献,対人関係等について前向きな将来像を描く傾向の回答割合が高くなっている(図表11)。

図表11 居場所の数と自己の将来像(10年後)

学校で出会った友人,地域の人とのつながりをたずねた質問項目のうち,「何でも悩みを相談できる人がいる」に対し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」,「どちらかといえばそう思わない」,「そう思わない」と回答した者それぞれについて,「10年後なりたい自分に近づいている」かをたずねた質問の回答をみると,どちらのつながりにおいても,何でも悩みを相談できる人がいると感じている者の方が,いないと感じている者に比べて,なりたい自分に近づいていると回答した者の割合が高くなっている(図表12)。

図表12 つながりの認識別の将来像(10年後なりたい自分に近づいている)

(3)どのような若者が孤立しがちなのか

次に,つながりが比較的弱い状況にあると思われる若者の特徴についてみていくこととする。

ア 暮らし向きとの関係

6つの場について,それぞれ自分の居場所と思うかをたずねた質問に対し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」と回答した場の数を,現在の暮らし向きの認識別にみると,居場所であると感じている場の数は,現在の暮らし向きを良いと感じている者の方が,低いと感じている者に比べて多い(図表13)。

図表13 暮らし向き別の居場所の数

現在の暮らし向きをたずねた質問に対し,「良い」,「どちらかといえば良い」,「どちらかといえば低い」,「低い」と回答した者それぞれについて,家族・親族,学校で出会った友人,職場・アルバイト関係の人,地域の人とのつながりをたずねた質問項目のうち,「何でも悩みを相談できる人がいる」についての回答をみると,いずれのつながりにおいても,現在の暮らし向きを良いと感じている者の方が,低いと感じている者に比べて,「そう思う」と回答した者の割合が高くなっている(図表14)。

図表14 暮らし向き別のつながりの認識

現在の生活の充実度に関する質問の回答を,暮らし向きの認識別にみた場合にも,現在の暮らし向きを良いと感じている者の方が,低いと感じている者に比べて「充実している」と回答した者の割合が高くなっている(図表15)。

図表15 暮らし向き別の生活の充実度

イ 就学や就業との関係

就学・就業の状況別に,6つの場について,自分の居場所と思うかをたずねた質問に対し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」と回答した場の数の割合を比較してみると,無業者においては,6つの場について,いずれも居場所になっていると思うと答えなかった者(居場所の数が0)の割合は10.5%,居場所になっていると思うと回答した場の数が1つの者の割合は13.2%,2つの者の割合は22.3%,3つの者の割合は29.6%となっており,他の区分より高い割合となっている(図表16)。

図表16 就学・就業の状況別の居場所の数

また,就学・就業の状況別に職場・アルバイト関係の人,家族・親族,学校で出会った友人,地域の人とのつながりをたずねた質問項目のうち,「何でも悩みを相談できる人がいる」についての回答をみると,職場・アルバイト関係の人では,無業者で「そう思わない」と回答した者の割合は69.8%,非正規職員では35.3%,正規職員では23.2%と,無業者と正規職員の差が大きい。同様に,家族・親族,学校で出会った友人,地域の人では,いずれのつながりにおいても,無業者においては,「そう思わない」と回答した者の割合が他の区分より高くなっている(図表17)。

図表17 就学・就業の状況別のつながりの認識

さらに,現在の生活の充実度に関する質問の回答を就学・就業の状況別にみた場合にも,無業者においては,「充実してない」と回答した者の割合が他の区分より高くなっている(図表18)。

図表18 就学・就業の状況別の生活の充実度

ウ 他者との交流における自己認識との関係

他者と付き合う時に,「誰とでもすぐ仲良くなれる」,「その場に合った行動がとれる」かをたずねた質問の回答別に,6つの場について,自分の居場所と思うかをたずねた質問に対し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」と回答した場の数の割合を比較してみると,誰とでもすぐ仲良くなれる,または,その場に合った行動がとれると思っている者の方が,そう思っていない者に比べて,居場所であると感じている場の数が多い(図表19)。

図表19 他者との交流における自己認識別の居場所の数

3 孤立を防ぐ手立てについて

若者が成長し自立する過程では,誰もが悩みを抱えたりつまずきを覚えたりすることがあるが,その際に大事なのは,ひとりで問題を抱え込み困難な状態に陥ってしまうことを防ぐことである。そのためには,普段から,家庭の他にも自分がほっとできる居心地の良い場所を持つとともに,何かあった時に支えとなってくれる人との関わりを築いておくことが大切であると考えられる。

本特集では,若者の居場所及びつながりに着目し,居場所と思う場所やつながる対象者,つながりの強さと,生活に対する充実度や自分の将来像との関係を把握するとともに,孤立しがちな若者の特徴などを分析した。

現在の暮らし向きに対する認識が良くないと感じる群や無業者については,孤立化する可能性が他の群に比べて高いと考えられることから,経済的支援や就労支援に加えて,若者を孤立から守りその成長を支援する居場所とつながりを作り出す取組が求められる。また,現在学校に在籍しているが,周りとのつながりの強さをあまり感じていない者についても,孤立することから守り居場所とつながりを作り出す取組が重要である。これらの課題に対応するためには,行政が実施する各種の支援策だけでなくNPO法人等民間団体による,若者に寄り添い,若者をつないでいく,きめ細かな取組に期待されるところも大きいと考える。

最後に,社会の中で孤立化することが心配される環境にある若者に対し,ほっとできる居心地の良い場所を提供するとともに社会の様々な人と結び付ける取組について,3つの事例を紹介し本特集の結びとしたい。

(1)高校の学校図書館における若者の孤立化に対する予防的支援の取組~神奈川県立田奈高等学校「ぴっかりカフェ」~

神奈川県立田奈高等学校は,中学校までに持てる力を必ずしも十分に発揮することのできなかった生徒を積極的に受け入れる「クリエイティブスクール」として県より指定されており,特に,支援を必要としている生徒の立場に軸足をおいた教育に力を入れている。しかし,これまでは,中退や進路未決定のまま卒業し支援が途切れてしまう生徒が少なからずいることが課題となっていた。

このような困難を抱える生徒へきめ細かく対応するためには,<1>学校の先生を含めた周囲の大人が,生徒が抱える問題について,それが顕在化する前の段階で気づくこと,<2>親や先生以外の様々な大人が,困難を抱える生徒に対し,自らの経験を踏まえた助言を与える機会をなるべく多く持つことで,生徒の視野と人間関係の広がりを構築する一助となることが重要であるとの考えから,同校で外部相談員として活動していた現NPO法人パノラマの提案を受け,平成26(2014)年に同校内の図書館に生徒が気軽に立ち寄れる高校内カフェ,通称「ぴっかりカフェ」をオープンした。

現在,ぴっかりカフェは毎週1回,木曜日の昼休みと放課後に開かれているが,毎回,大勢の生徒でにぎわい,人気を博している。ぴっかりカフェを訪問した生徒は,飲み物やお菓子を片手に,本を読んだり,何気ない会話をしたり,楽器を演奏したりして,それぞれがくつろいだ時間を過ごしている。また,ぴっかりカフェには,年齢の近い大学生ボランティアや地域の市民ボランティアも参加しており,生徒は先生や親にはなかなか話せないことを相談して,アドバイスをもらったりすることもある。このように,ぴっかりカフェは,多様な価値観やロールモデルに出会えるとともに,生徒の目を外の世界に向けさせ,将来の展望を与える効果も持つ居場所として機能している。

また,学校にとっても,生徒が地域の人とつながることで,学校が地域で理解され,信頼できる存在となることを助けるものと期待している。

ぴっかりカフェの様子

【考察】

学校には進路や交友・生活上の悩みに関して相談を受け付ける相談室が設置されていることが多いが,生徒にとって必ずしも相談しやすいものとなっていない場合もあるのではないだろうか。また,生徒にとって学校が必ずしも居場所として認知されていない場合には,困難やつまずきに直面した生徒は中退等の形で比較的容易に学校から離れてしまうことも懸念される。

同校では,家庭を生徒にとっての第1の居場所,学校を第2の居場所,地域を第3の居場所と捉え,ぴっかりカフェを,第1,第2,第3のどの居場所でもない,学校と地域社会の間の「第2.5の居場所」と位置付けている。

この第2.5の居場所は,生徒を学校につなぎとめるとともに,学校の普段のカリキュラムでは得られない地域の人との触れ合いがあるなど,生徒の他者との関わりを拡大させ,学校外の社会の多様性を学ぶ場としての機能を有している。家庭,学校,地域社会以外の中間的な居場所を学校内に創出するこの取組は,若者の孤立を未然に防ぐ取組として有効であると考えられる。

(2)若者の居場所・出番づくりを地域で支える取組~NPO法人 With優(うぃずゆう)「会員制居酒屋 結(ゆい)」~

NPO法人「With優」は主に山形県置賜(おきたま)地域を活動の対象としており,学校に行けない・行かないことを選択した若者,今の社会の中で生きにくさを抱えた若者等の自立支援を中心に,地域のどんな人も自分らしく,いきいきと幸せに生きていけるような地域社会を目指して活動している。

同法人は,長い間仕事に就いていなかったり,自宅にいてなかなか社会に出られなくなっていたりする若者,高校等の学校に行きづらくなっていたり,行けなくなっていたりする若者を対象に,相談やジョブトレーニング,様々な自立支援プログラムを通して,就労支援,復学・転学支援を実施している。

家の外に居場所がなく,他人とコミュニケーションをとる機会が少ない者については,ますます社会から疎遠となってしまうことが懸念される。このような若者の就業支援のために,同法人は居酒屋での就労支援という形態を選択し,「会員制居酒屋 結」を立ち上げた。

結は,一度も就労経験のない若者やなかなか社会に一歩を踏み出せない若者が,就労に向けた訓練の機会を持つための場であり,この趣旨を理解し,応援してくれる人が会員になって利用する。居酒屋であれば,比較的容易に客とのコミュニケーションの機会が確保されるとともに,会話の中から社会生活を送るために必要なソーシャルスキルも学ぶことができる。また,コミュニケーションが苦手な若者については,まずはバックヤードで調理や皿洗いなどを担当するなど,当事者の状況に応じて,訓練の内容を調整することができる。特に,同店を訪れる客は事業の趣旨を理解した上で会員になる仕組みをとっているため,対人サービスで生じがちなお客様と従業員との間の問題を回避することができる。このような環境が,同店で訓練を受ける若者が安心して社会につながるための準備の場所として機能することにつながっていると考えられる。結での中間就労は,最も成長を感じることができる訓練だとして若者に人気があり,実績のあるプログラムになっている。平成25(2013)年2月の立ち上げからこれまでに結を巣立った若者は35名,また,平成29(2017)年3月時点の会員数は3,750名に上っている。

結の様子

【考察】

無業者である若者のうち,特に就労経験のない者については,社会体験の意味合いを持つ活動への参加など,雇用対策に限定されない幅広い支援が必要であると言われる。

この事例では,就労を目指す若者が地域の人との交流を通じて自信をつけ,自立に向けた準備を整えることができている。そこでは,就労支援トレーニングの機会を提供する者と提供される若者を集めた場の整備にとどまらず,自立を目指す若者を温かく見守り,地域社会の一員として育てていくコミュニティが徐々に形成されてきていると考えられる。

(3)地域の人々の集まりの場へと発展する子供食堂の取組~兵庫県尼崎市瓦宮(かわらのみや)「そのっこ夕やけ食堂」~

子供の貧困対策として,近年急速に子供食堂の設置が増加している。兵庫県尼崎市園田地区の社会福祉協議会やボランティアサークル,社会福祉法人,小学校PTAなどで構成された「園田地区子育て支援連絡会」が中心となって運営している子供食堂「そのっこ夕やけ食堂」もその一つである。

家庭の事情で食事がままならない子供の支援を目的として始まった「そのっこ夕やけ食堂」は,子供食堂=貧困というイメージにより,本当に支援が必要な子供(家庭)が利用を躊躇するのではないかとの思いから,「地域の誰もが参加できる食を通じた居場所」というコンセプトを打ち出し,学校なども含め地域の人々に周知をした上で取り組んでいる。

「そのっこ夕やけ食堂」は,一人暮らしの高齢者など大人の参加も可能であるため,貧困などの問題を抱えている子供に限らず,幅広い年齢層の地域の人々が集まる場となっている。現在,週1回の運営をしており,小・中学生で配膳などのお手伝いをする子供は無料,高校生以上の大人は300円である。回を重ねるごとに,食を通じた居場所を超えて,様々な機能を持つ地域の居場所としての役割を担うようになってきている。

具体的には,子供たちにとっては近隣の大学生から学習支援を受ける場であり,若い子育て中の親にとっては子育ての悩みを相談できる相手を見つけられる場であり,さらに,一人暮らしの高齢者には話し相手を見つけられる場となるなど,地域の人々がお互いに知り合い,助け合い,支え合うことのできる交流の場へと進化している。

そのっこ夕やけ食堂の様子

【考察】

学校やPTAなど教育関係者と福祉関係団体等が互いにうまく連携・協力した事例である。子供食堂が,子供への食事の提供の場にとどまらず,若者から高齢者までも含めた幅広い年齢層の人が集まる交流の場へと発展していく様子がうかがえる。その際,子供たちを配膳などのお手伝いに協力させることで,子供たちの社会性を育む視点を取り入れているなど,様々な世代をつなぎ,地域におけるネットワークの構築に貢献するよう,子供食堂の運営に工夫がなされている。このような子供食堂は,子供たちを支援し力づけるだけでなく,その地域で生活する様々な人々を緩やかにつなぎ,地域の人々を孤立から守る拠点となる可能性を持つ取組でもある。


1 居場所だと感じていない場でもつながりを感じる場合(例えば,学校におけるカウンセラーとの関係など)も考えられるが,本分析では,居場所とつながりに関する一般的な関係のみを対象とした。また,場所をまたぐつながり(例えば,地域の知り合いが外部講師として学校を訪れる場合など)も考えられるが,本分析では,各居場所は独立したものとして捉えることとした。
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