我が国における産学官連携の代表的な課題(企業現場の意見)

 

ヒアリング先: ライフサイエンス、情報通信、材料・ナノテクノロジー、機械分野
の企業10社。(◎:特に頻繁に聞かれた意見)

 

1.産学官連携のための大学改革

              学部の責任経営と研究センターの充実で世界のトップ大学を目指すべきであり、①教育、②研究に加え、③事業化(インキュベーション)もミッションに設定すべき。また、産業ニーズに応える学部の枠をこえたセンターの展開を行うべき。

              国家プロジェクトなどにおいて大学院学生の雇用を幅広く実施すべき。これも含め、研究費から学生の授業料、生活費等の支援を行うべき。

 

2.産学官連携制度等の整備

 (1)産学官連携に係る体制の整備

①専門家のリエゾンへの配置

          米国では、学部長を補佐する学外連携担当の上級副学部長や副学長、研究組織にも教授でない上級職員がいる。日本に事務所を設置し、代表者を常駐させている例もある。これに対し、日本の大学の窓口は研究内容についても契約についても専門性が低く、交渉にならない。日本においてもプロ意識を持った専門家をリエゾンオフィスにおくべき。

 

②TLO等の積極的な売り込み努力

          アメリカはリエゾンオフィス、TLO等からプッシュ型で研究成果の売り込みが来る。待っていても情報が入る。これに対し、日本のTLOの活動は、データベースを公開しているくらいで、新聞で初めて情報が入るような状況。米国と比較すれば横のつながりも悪く仕事が進みにくい。日本はTLO、大学の窓口は取組が始まってからの期間が短く未成熟。

          海外の主要大学においては、産学連携の契約の仕方、コンタクト・パーソン等の情報が多くウェブサイト等に掲載されているので、初めてアプローチする大学でも対応がしやすい。日本の大学窓口・TLOにおいても、基本的な情報の充実が不可欠。

 

 (2)共同研究や技術移転に関するルール整備

①特許等の実施に関するルール

          日本の大学では、技術移転の経験が少ないため、技術ライセンス料の相場感が磨かれていない。実施については別途契約となるが、大学側からどういう条件が提示されるかの予測が極めて困難。十数年前に廃止となった特許庁の通達(優れた成果:4%、通常の成果:3%、小さい成果:2%)が今でも実質的には生きている。双方の利益になるように現場の裁量が効かせられるようにすべき。

 

②大学における有形研究資産の活用に関するルール

          生物資源等、大学に存在する知的資産に関心がある。しかし、特許等権利として確立していない知的資産を取り扱うルールが確立しておらず、せっかくの資産の効率的な活用ができない。非独占的な実施権も含めて、大学の知的資産に関するルールの整備が急務。

 

③日本の特許制度

          海外では、特許の共有とは、各共有者がそれぞれ100%のオーナーシップを持っているとの考え方。つまり相手の同意がなく共有者は自由に実施、追加研究開発、売買可能。これに対し、日本の制度では、実施については他の共有者の同意を得なくても可能であるが、第三者へのライセンスの際には他の共有者の合意を必要とすること、収入の分配など契約書で決められる。日本も同様にすべき。

          日本では、国内特許についてアカデミック・ディスカウント(出願審査請求料及び特許料の軽減)の制度が存在。しかし、実際はこれにより国内出願のみが行われる誘因となり、国内でその技術を利用できない一方で、海外では情報が開示され自由にその技術を利用できることとなるため、国家としての競争力が低下する。海外への出願に対して国内のアカデミック・ディスカウントと同等の効果を経済的支援を行うことにより国費による国際特許取得を促進すべき。

 

 (3)共同研究等契約のフレキシビリティの確保

          通達の例が示すように、日本では一度前例ができると、それが金科玉条のようになる傾向がある。現場に裁量の余地を与えないと連携はなかなか進まない。

          発明の帰属については、大学等と企業が個別の委託・共同研究開発の位置付け・内容に応じてフレキシブルに契約できるようにする。これにより企業所有、大学所有、あるいは共有が可能。

          海外の大学と連携する場合、細かい情報を要求され諸条件は交渉で決まる。タフな交渉であったり弁護士との交渉になったりするが、それ自体は合理的な議論が可能。ところが日本の大学と研究協力を行う場合には、大学の内規や通達で二重、三重の縛りがあり研究内容に応じた契約ができない。また、研究成果に関しても、海外では独占的実施権を得たり場合によっては企業側に所有を認めたりすることが契約上担保できるが、国内では契約時にこうした交渉を行うことができず連携メリットが半減する。(素材系の企業においては成果の独占的実施のニーズが高い。これに対して機械、電機等の企業においては、実際には多数の特許を組み合わせて製品化することもあり、独占的実施のニーズの高くないケースも存在。特に、当該研究成果を積極的に同業他社と標準の形でシェアし、自身は先行者利得を享受する方がよいとするケースも複数存在。)

          海外の大学では最初の契約で研究成果の取扱い、投資額に応じた権利譲渡の条件まで開示されるため、企業にとっての投資判断及び収益見込みを十分に行うことが可能。これに対して、国内は委託研究等の成果の扱いが研究契約締結時には不明確で、終了後「別途契約」とされるので、専用実施権を得られるかどうかわからないのに加え、対価的なものも含め如何なる条件となるのかについて予測がたたない。自分たちが資金拠出しているにもかかわらず、TLOに移った特許を全くの第3者とライセンスを競わねばならない懸念がある。委託研究するより、TLOで出てくる成果のライセンスを待っていた方が安全。

          日本の大学との研究成果で、企業が専用実施権を付与するという形以外に、事業化を行う特定の企業に対する譲渡を進めるべき。海外では、不実施の場合の返納を前提とした譲渡契約が可能。

          大学の先生を兼業の形で招いて企業内に連携ラボを作った。時間外兼業なので、先生には月8時間程度来ていただくのがせいぜい。先生に対する報酬も、公務員の時給の上限により27,000円/時までとなっており競争的な報酬設定が不可能。また、学生もティーチングアシスタントと同様のアルバイト代しか払えない。勤務時間外扱いの制約、報酬に関する制約を見直し、それ自体に競争原理を入れるべき。

3.産業界における産学官連携への積極的な取組と人材流動化の促進

          人材交流の活性化として、教授の公募制、任期付任用の拡大、採用基準の見直し、教員の兼業や休職の柔軟化を実施すべき。

          産業界は、大学や研究所にあるシーズの積極的な発掘と産学連携の成功事例へ努力し、ニーズを積極的に発信、企業研究所への大学教員の積極的な受け入れ、インターンシップの受け入れ拡充、博士課程修了者の処遇改善を実施すべき。

          大学関連のベンチャー設立において、大手企業の貢献の仕方がある。すなわち、財務、マーケティング、マネージメント、技術が不可欠であるが企業にはこれらは備わっている。これらに加え当該企業の経営トップの強力な意思があれば、産学連携を契機にしたベンチャーは作れる。そのため国に望むことは、産官学連携ベンチャーの設立運動を財界トップに働きかけること(各社あたり1年に1社ずつのベンチャー設立)。

          大学教官が一定期間、企業で働いた後、大学にスムーズに戻れるシステムの構築も必要。

          大学と企業の交流が不足。企業が持つニーズを把握しながら大学の基礎技術の目標を明確にすることができれば、強い競争力を持つ独自技術の獲得が可能。そのためにはインキュベーションやベンチャーの試みだけでなく、大学教官や学生が企業に来て研究したり、企業が大学でプロジェクトを牽引したり、コンソーシアムを形成するなど、相互乗り入れして同一の目標を目指す環境をつくることが有効。

 

4.その他

          奨学寄附金については、社内での説明が通りにくくなっており、打ち切りの方向に向かっている。代わって、契約書もきちんと取り交わす共同研究や委託研究に切り替えていく。

          ライフサイエンス系の企業では、従来治験関係での接点にとどまってきたが、最近になってようやく国内大学との共同研究等に目を向け始めたところ。一方、海外の大学とは、それでも一つの研究室全体をカバーするスケールの委託研究に着手している。