クロストーク02:経済財政諮問会議と政策のダイナミズム
クロストークに参加した職員
- 野村 裕(NOMURA Hiroshi) 大臣官房審議官(経済社会システム担当) (写真左)
- 新保 俊史(SHIMPO Toshifumi) 政策統括官(経済社会システム担当)付 参事官(総括担当)付参事官補佐 (写真右)
クロストークの内容
総理出席の下、政策を議論し、実現させる
・司会 内閣府の経済財政部局は経済財政諮問会議(以下「諮問会議」)の事務局を担っていますが、お二人が考える諮問会議の意義について教えてください。
・新保 諮問会議の特色は、内閣総理大臣を議長として恒常的に設置され、年間に十回から二十回にもわたる議論を行っていることです。内閣総理大臣が議長を務める会議は全府省規模でも珍しく、ここまで業務と密接した場で政策の大きな枠組みの議論がなされているのは魅力だと思います。
政府の会議や検討会の中には、一億総活躍社会や働き方改革など、その時々のテーマで短期の検討を行うものもありますが、諮問会議は長期スパンで議論をする役割を持っているところも特色の一つです。
・野村 諮問会議が設置された背景には、平成13年の中央省庁等再編の際に、バブル経済崩壊後の不良債権処理の難航の反省を経て、官邸主導でスピーディに意思決定を行う仕組みが構想されたという経緯があります。
内閣総理大臣が毎回1時間近く時間を割いて議論する諮問会議は日本の経済財政運営にとって非常に重要な役割を持っています。議論と同時に政策決定を行う枠組みでもあり、その事務局を内閣府職員が担うというのは誇らしく、やりがいのあることだと感じます。
・司会 お二人が関わっていた業務において、内閣総理大臣や官邸のイニシアチブによって後押しされた政策の事例はありますか。
・野村 課長時代の終わりに2014年の骨太方針で決定した、国力の維持のため、約50年先においても人口が1億人を下回らないように社会保障制度改革や少子化対策を推進すべきという方針は、当時の内閣のイニシアチブによるものでした。
特に、人口を政策の目標にすることについては様々な議論がありましたが、国力の維持のためにも人口目標を掲げるべきだという判断は、各省庁だけではできなかったことだと思います。
・新保 骨太方針は諮問会議の毎回の議論の積み重ねが結実したものであり、政府の1年を通じた予算編成プロセスの起点となる政策文書ですので、その内容は霞が関・永田町全体が注目し、与党会議や各省との折衝でも大量の質問や意見が交わされます。
私が携わった中では2015年の骨太方針が印象深いです。中長期の経済フレームについて、歳出削減幅ありきではない歳出改革の在り方を探り、財務省と脚注の一言一句に至るまでぎりぎりの調整を行い、「経済財政なくして財政健全化なし」という方針を打ち立てました。当時の調整結果が現在の「財政フレーム」にも通じており、自分が携わった業務の影響力を感じました。
あるべき政策の姿を議論するのが内閣府の「現場」
・司会 現場に近い業務をした方がやりがいがあるのではと考える読者もいると思いますが、お二人は大きな枠組みに携わる中でどのようなやりがいを感じていますか。
・新保 特定のフィールドを持ち、意見や課題を集約して立案していく面白さもあると思いますが、他方で、経済財政部局では関連しない分野がないというくらい多岐にわたるテーマに携わることになります。私自身は、広い視点で問題を見て、経済社会の将来像とその実現のために必要なことを考え、多くの利害関係者の意見を調整しつつも自分なりの「あるべき姿」を探ることにやりがいを感じています。
・野村 例えば、直近の身近かつ大きなテーマとして少子化対策の強化があり、これは諮問会議でも議論しています。幼稚園・保育園について、基礎自治体や文部科学省・厚生労働省が深い現場理解に基づいて議論しており、これも行政の大事な在り方だと思います。
一方、内閣府では、現在焦点になっている児童手当だけではなく、教育支援、住宅支援など総合的な視点から最適な政策をバランスよく形作るプロセスに関わっており、これもまた行政の大事な役割です。私自身は、様々なデータや情報、エビデンスにとことん向き合って、取り組むべき政策課題やその優先順位を議論する場も「現場」だと思っています。
「社会は変えられる」と信じて知恵を絞る
・司会 学生からの関心も高い少子化対策について、諮問会議でも議論しているのですね。
・新保 はい。事務局として、民間議員の問題意識を踏まえ、議論の下地となるデータ分析を行うことがあるのですが、直近で少子化対策を諮問会議で扱った際は、基本となる日本の将来の人口推計を様々な出生率シナリオの下で作成したほか、構造的な問題として民間議員の関心事項であった若年層の所得向上について、賃上げ継続が出生率に及ぼす効果の定量的試算を行いました。
・野村 先進諸国が少子化問題に苦しみつつも様々な対策を打ち、何とか出生率の回復を図っている中で、日本も「やればできる」「社会は変えられる」と信じて、社会全体で一致団結して知恵を絞っていかねばならないと思います。そのためには、各論的な手当や施設整備の議論にとどまらず、国の存亡に関わる事態であることを受け止めて皆で協力して全体的な議論をする必要があります。
内閣府は、予算、法律、業界といったしがらみが少ないからこそ、社会を変えていくことについて自由な議論がしやすい土壌があると思います。これまでの経験の中ではたとえば、郵政民営化に事務局として携わった際にも「社会は変えられる」ということを実感しました。また大臣秘書官として、諮問会議に向けて経済財政政策担当大臣と日銀総裁との間でゼロ金利解除について緊密なやり取りをする中で政策の方向性が大きく転換していく様子を目の当たりにする経験もさせていただきました。
・新保 私の2つ目のポストの子どもの貧困対策担当のように、社会の要請が高まりつつも霞が関でも位置づけが定まっていない政策を取り扱う新設の組織は内閣府に置かれることが多いです。そこでは、若手のうちからでも、有識者会議、交付金、内閣総理大臣表彰に至るまで一から自分たちでつくるというダイナミックな経験をすることがあります。
・野村 最近の事例では、新型コロナウイルス感染症の拡大期における新たな給付金制度の導入など、既存の枠組みでは拾い切ることができない政策のフロンティアは常に存在しており、これを担うのが内閣府の役目です。前例がないというのは難しく大変な仕事ではありますが、政策を作って社会をよくしたいという目的を共有する仲間と共にフロンティアの仕事をするのは、ほかでは得難い経験ですし、人生の財産になります。
・司会 最後に、読者に向けてアドバイスやエールがあればお願いします。
・新保 以前、上司から「前例は参考にするものではなく、創るものだ」と言われたことがあるのですが、新たな価値を創造するのが行政官の醍醐味だと思います。新しいキャンパスに絵を描くように、前例がない課題に取り組むことに面白さを感じられる人には内閣府をおすすめします。
・野村 内閣府では多くの新しい政策課題に取り組みますが、企画・立案におけるEBPMは不変の潮流となりました。EBPMというと多くの技術・手法の習得が必要なように受け取られるかもしれませんが、何よりもまず大切なのはエビデンス・ベースドな考え方に立脚して自分の考え方を表現することです。その姿勢があれば様々な局面にも柔軟に対応できますし、そこに面白さを見出せることと思います。
クロストークに参加した職員の経歴
経歴(野村 裕)
- 平成元年
- 採用
- 平成8年
- アジア経済研究所海外派遣員(シンガポール)
- 平成10年
- 経済企画庁調査局内国調査第1課課長補佐
- 平成12年
- 大蔵省主計局主計官補佐(文部科学第5係主査)
- 平成14年
-
政策統括官(経済社会システム担当)付
参事官(総括担当)付参事官補佐 - 平成15年
- 大臣官房総務課総括課長補佐
- 平成16年
- 内閣官房郵政民営化準備室企画官
- 平成17年
- 大臣秘書官
- 平成18年
-
政策統括官(経済社会システム担当)付
参事官(総括担当)付企画官 - 平成20年
- 国民生活局消費者安全課長
- 平成21年
- 消費者庁消費者安全課長
- 平成22年
- 大臣官房参事官
- 平成23年
- 大臣官房市民活動促進課長
- 平成24年
-
政策統括官(経済社会システム担当)付
参事官(企画担当) - 平成26年
-
政策統括官(経済社会システム担当)付
参事官(総括担当) - 平成28年
- 大臣官房人事課長
- 平成29年
- 内閣官房長官秘書官
- 平成30年
- 経済社会総合研究所総括政策研究官
- 令和元年
- 現職
経歴(新保 俊史)
- 平成26年
- 採用
政策統括官(経済社会システム担当)付
参事官(企画担当)付 - 平成28年
- 政策統括官(共生社会政策担当)付
参事官(子どもの貧困対策担当)付 - 平成29年
- 政策統括官(経済財政運営担当)付
参事官(経済対策・金融担当)付政策企画専門職 - 平成30年
- 政策統括官(経済財政運営担当)付
参事官(総括担当)付政策企画専門職 - 令和2年
- 内閣官房副長官補付
- 令和4年
- 現職