クロストーク03:官邸直下の「知恵の場」を担う緊張感
クロストークに参加した職員
- 林 伴子(HAYASHI Tomoko) 経済社会総合研究所次長 (写真左)
- 中澤 信吾(NAKAZAWA Shingo) 経済社会総合研究所総括政策研究官 (写真右)
クロストークの内容
「総合調整」とは
・司会 内閣府の霞が関における位置づけ、役割、特徴についてお考えをお聞かせください。
・林 内閣府設置法に定められた所掌事務の多くは、各省にまたがる重要な政策課題について「企画・立案」「総合調整」を行うことです。企画・立案、総合調整業務として政策パッケージをつくるときには、ベースとなる大きな考え方があり、その前提にはデータに基づく真摯な分析が必要です。それがなくただ関係施策を取りまとめるだけでは、単なる「ホッチキス」になってしまいます。
私は、長年経済財政政策に携わっていましたが、社会政策においてもこうした考え方が必要だと思い、男女共同参画局長として「女性版骨太の方針2022」を策定したときもデータに基づく議論を、各省の局長級幹部や専門家とともに公開の場で徹底的に行いました。例えば、令和4年の男女共同参画白書では、社会の実態が「もはや昭和ではない」ことを分析しました。家族の姿や女性の人生の実態が昭和の時代から大きく変わり多様化したことをデータで示し、政策・制度の見直しの必要性を明らかにした上で、「女性版骨太の方針2022」で「女性の経済的自立」を第一の柱に据え、企業及び各省・地方自治体の男女間賃金格差の開示義務化を決定しました。
具体的には、現在、3組に1組の夫婦が離婚し、50歳男性の3割以上が未婚又は離婚のため独身であるなど、家族の姿は昭和の時代から様変わりしています。現在の日本の制度・慣行は、昭和の家族像を想定したものが多いですが、実際にはそうではない人が多くなっており、行政へのニーズも変化しています。典型例がひとり親で、貧困率が48%と国際的にみても高く、その背景には男女間賃金格差もあります。このように政策立案のベースとなるファクトを関係省庁にぶつけ政策を前に進めていく、こうしたプロセスが「総合調整」です。「知恵の場」である内閣府は、官邸の直下で課題をあぶり出し、問題提起をする重要な役割を担っています。
・中澤 内閣府の役割として特徴的なのは、総合的・横断的・俯瞰的な視点から政策立案に取り組んでいることです。男女共同参画、直近で大きな議論になっている少子化対策(※令和5年4月こども家庭庁に移管)といった大きな枠組みの政策を固有の分野として担当することもありますし、経済財政諮問会議等の場で、マクロ経済や財政健全化、社会保障、防衛といった幅広い分野に対して経済財政の観点から問題提起をしていくという役割も果たします。
政策立案においては、出生率や経済成長などのアウトカム目標を掲げ、その達成のためにアウトプット目標、さらにそれを実現させる個別施策と、大きな体系の下でPDCAを回していくのが近年の潮流です。そのためには、施策と目標間の因果推論やそのためのデータ分析などEBPMの手法が不可欠であり、内閣府の取り組む分析に対するニーズの高まりを感じています。
歴史の検証に堪えうる景気判断
・林 マクロ経済政策は財政政策、金融政策(日銀)、為替政策(財務省)の3つですが、財政政策のスタンスは、月例経済報告をはじめとした景気判断をベースにして内閣府が検討し、具体的な予算を財務省が作成するという役割分担をしています。月例経済報告は、毎月総理官邸で内閣府から総理、関係閣僚、日銀総裁、与党幹部に説明し、日本や海外の景気の現状と先行き、リスクについて認識を共有するものであり、政府のマクロ経済政策の判断のすべての前提となっています。先行き景気後退となれば内閣府が経済対策を策定し、財務省は補正予算を組みます。霞が関に「省益」という言葉はありますが、「府益」はありません。内閣府は、国益のためにあくまで中立的な立場で判断します。我々の示した判断が正しかったかどうかは、歴史の検証にさらされるものです。
・中澤 景気判断以外にも、中長期の政策運営のための材料提供・政策判断も内閣府の重要な役割です。現在私が担当している「中長期の経済財政に関する試算」は、政府の財政健全化目標である2025年度プライマリーバランス黒字化に向けた進捗状況等を示す役割を担っており、目標達成に向けた中長期の政策の検討にあたって不可欠な要素になっています。
また、こうした定常的に必要不可欠な業務に加え、リーマンショックやコロナ禍の発生のような緊急事態発生時には、その時点でどうにかしてタイムリーに政策判断に必要な情報を集めてくる必要が出てきます。リーマンショック時には、林次長がすぐさま米国に出張し関係者から状況聴取してきたのは有名な話ですね。コロナ禍では、テレワークの状況、地方移住への関心の高まり、家庭内の家事分担やマスク着用状況など人々の生活様式がどのように変化しているのかについて、発生直後にすぐさま調査を実施し、それを元に必要な政策が作られていくといったこともありました。この時は、他の機関に先んじて調査していたため、大々的にマスコミにも報じられました。
・林 毎朝登庁する際、内閣府の向かいにある総理公邸の屋上のみみずくの彫刻が見えます。みみずくは知恵の象徴です。誤りのない判断を官邸の議論の俎上にあげる内閣府の役割を改めて意識し、気が引き締まります。政策に直結し、後世からも検証を受ける判断をする責任と緊張感がある点は、民間エコノミストとは異なる内閣府ならではだと思います。
内閣府に求める人材
・司会 内閣府は、マクロ経済政策をはじめ、男女共同参画や少子化対策など幅広い分野で重要な役割を果たしており、その前提となるファクトの分析が重要であるというお話でした。自分にはまだ高度な分析能力がないと不安に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、内閣府ではどのような人材を求めているのでしょうか。
・中澤 内閣府では政策決定に関係する各種分析に携わることが求められ、そのためには統計的な知識、因果推論の能力が必要です。しかし、それらは全員が採用時から備えているものではありません。
そこで、内閣府では、昨年から特定の担当部署職員に対して、政策に関するデータの因果関係の分析の仕方や分析の読み解き方を習得する「EBPM研修」を行っています。その他にも、職員が受講できる様々な研修プログラムを設けていますし、令和4年度からは最新の経済学の知見を深める観点から、世界最先端のアメリカ経済学会(AEA)総会に若手職員を派遣するプログラムも開始しました。
このように、基礎から始めて、職員として働きながら研修を活用して能力を伸ばしていくこともできますので、臆さずに内閣府の門を叩いていただければと思います。
・林 私からは求める人材像について2点お話したいと思います。
1点目として、「知的な粘り」を持って自分の頭で考える人です。国の政策の企画・立案、総合調整をしていく立場として、山のようにある統計を見て、様々な分析手法を試し、いくつものグラフを描いてその背景を議論し、政策に結び付けていけるよう考え方を整理し、各省と議論していく、そうした知的な粘り強さが必要です。
2点目として、自分の考えを言語化して伝える力を持つ人を歓迎します。多様な意見を活発に交わすなかから化学反応が起こって新しいアイディアが生まれ、政策のイノベーションが進みます。忖度するだけ、もやもやしているだけでは、何も生まれません。政策立案力がなければ、国家公務員、ひいては日本政府の国際競争力も低下します。厳しい国際環境の中で各国と議論し、国益のために主張を通すことも難しくなります。我々の仕事相手は、国会議員や役人だけでなく、外国政府・国際機関、企業、報道関係者、学者、NPO等多岐にわたります。相手に応じてわかりやすく説明し説得していく、そういう言語能力も大切だと思います。
クロストークに参加した職員の経歴
経歴(林 伴子)
- 昭和62年
- 採用
- 平成5年
- 留学(英・ロンドン大学(LSE))
- 平成7年
- 経済企画庁調整局国際経済第2課課長補佐
- 平成9年
- 経済企画庁調整局調整課課長補佐
- 平成10年
- 経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部一等書記官
- 平成13年
- 国際協力銀行開発金融研究所副主任研究員
- 平成15年
- 経済社会総合研究所主任研究官
- 平成16年
-
併任 政策統括官(経済社会システム担当)付
参事官(総括担当)付企画官 - 平成17年
- 政策統括官(経済財政運営担当)付参事官(国際経済担当)
- 平成18年
- 歳出・歳入一体改革補佐室参事官
- 平成20年
- 政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(海外担当)
- 平成23年
-
政策統括官(経済財政運営担当)付
参事官(経済対策・金融担当) - 平成25年
- 政策統括官(経済社会システム担当)付参事官(総括担当)
- 平成26年
- 内閣官房内閣参事官(内閣官房副長官補付(内政総括担当))
- 平成28年
- 大臣官房審議官(経済財政分析担当)
- 令和元年
- 大臣官房政策立案総括審議官
- 令和2年
- 男女共同参画局長
- 令和4年
- 現職
経歴(中澤 信吾)
- 平成6年
- 採用
- 平成10年
- 留学(米・コロンビア大学)
- 平成13年
-
政策統括官(経済財政分析担当)付
参事官(分析総括担当)付参事官補佐 - 平成14年
-
大臣官房政策評価官付政策評価官補佐(政策評価担当)
同 国民生活局物価調整課課長補佐 - 平成16年
- 経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部一等書記官
- 平成19年
- 内閣府本府計量分析室
- 平成22年
- 副大臣秘書官
- 平成23年
-
政策統括官(経済社会システム担当)付
参事官(企画担当)付参事官補佐 - 平成24年
- 同 企画官
- 平成26年
- 大臣秘書官
- 平成28年
- 政策統括官(経済社会システム担当)付参事官(企画担当)
- 平成30年
- 在アメリカ合衆国日本国大使館参事官
- 令和2年
- 政策統括官(経済社会システム担当)付参事官(総括担当)
- 令和4年
- 現職