1.苦情の概要
(1) 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(平成11年法律第81号。以下「品確法」という。)に基づき、「日本住宅性能表示基準」及び「評価方法基準」(以下「住宅性能表示基準等」という。)が定められ、住宅性能表示制度がスタートした。
(2)
しかし、同制度の現状をみると、現行の住宅性能表示基準等は、既存技術に拘泥するものであり、新規に開発された技術(現行品確法の考え方を越えるものを含
む。以下同じ。)を円滑に評価・採用する制度となっておらず、米国等で開発された新技術の日本での普及を図る上で大きな障壁となっている。
(3) この問題は、具体的には、木造住宅の防蟻処理に係る基準について、以下のとおり顕在化している。
1)現在、木造住宅の防蟻処理に関し、住宅性能表示基準等においては、外壁の軸組等、土台、地盤について、「薬剤処理」又はべた基礎による措置等が規定さ
れているが、ベイト工法を用いて防蟻する方法(以下「ベイトシステム」という。)は、この中に含まれていない。また、国土交通省によれば、ベイトシステム
は、既規定工法と同等の措置としても認められないとのことである。
しかし、上記「薬剤処理」についてみると、1]現在のシロアリ防除のための薬剤処理は、農業分野での使用に比べ数十倍〜数百倍という高濃度
でなされることから、ヒトへの暴露を軽減するため、その使用を避ける傾向にあり、また、2]厚生労働省(シックハウス問題に関する検討会)により、シロア
リ防除剤としてのクロルピリホス及びフェノブカルブに指針値が策定されたことから、国土交通省では、これら指針値を基に、シックハウス対策としてクロルピ
リホスの建材への使用禁止等を検討するなど、シックハウス問題への対応のため、薬剤のヒトへの暴露を削減する方向にある。
一方、ベイトシステムは、建材を薬剤で直接処理することはなく、家屋周辺の地中(ケース内)に設置し、ヒト等への安全性が高い薬剤を極微量使用するに止ま
るものであることから、ヒト及び周辺環境へのリスクは、薬剤処理に比べ格段に少なく、アメリカ合衆国等のみならず、最近は、日本においてもその有用性が高
く評価されている。
このような状況の中、近年、アメリカ合衆国等においては、薬剤処理に替わり、よりヒト及び周辺環境に与える影響の少ないベイトシステムが主流となりつつある。
2)国土交通省は、ベイトシステムを住宅性能表示基準等において認めることができない理由として、現行品確法の考え方は新築時に住宅が有す
る性能を表示するものであり、他方、ベイトシステムは継続的なメンテナンスが必要な工法であるから、その趣旨に沿わないという点を挙げている。
3)しかし、ベイトシステムは、1]ヒト及び周辺環境へのリスクが少なくヒト等への安全性が高い工法であり、2]同工法のみの施工を希望す
るニーズも多く、また、3]最近の厚生労働省や国土交通省によるシックハウス対策(薬剤のヒトへの暴露の削減)にも沿ったものであり、さらに、4]同シス
テムにおいては、既に日本全国130法人以上による管理・バックアップ体制が整っており、保証契約等の工夫により、10年以上の継続的性能保持が可能であ
る。
(4)
以上を踏まえ、国土交通省は、本件制度について、1]新技術を迅速かつ的確に評価し、必要に応じ現行品確法の考え方を柔軟に変更(追加)すること等によ
り、新技術を円滑に採用するものに改めるべきであり、2]特に、現在直面する問題である木造住宅の防蟻処理に係る基準について、国土交通省は、現行品確法
の考え方に拘泥することなく、同法の考え方を柔軟に変更(追加)し、ベイトシステムも有効な防蟻処理として認め、同システムのみを施した住宅についても、
住宅性能表示基準等に適合した住宅として認められるよう必要な措置を講ずるべきである。
2.担当省から以下のとおり回答。 住宅性能表示制度は、消費者が安心して住宅の取得等を行うことができるようにする観点から、住
宅すなわち家屋又は家屋の部分の性能を評価し、表示する制度である。ベイトシステムは、シロアリの駆除を行うものであるとのことであるが、これは、家屋又
は家屋の部分を構成するものではなく、住宅そのものの性能とはいえない。また、ベイトシステムは、モニタリングなど特別な維持管理を行うことを前提として
おり、このような継続的な特別の措置の影響を受けるものについては、住宅そのものの性能とすることは不適切である。
以上のことから、ベイトシステムについて住宅性能表示制度に位置づけることは不適切である。
なお、住宅性能表示制度は、規制制度ではなく、すべての住宅に義務づけられるものでもない。住宅性能表示制度を利用するか否か、ベイトシステムを利用するか否かは、消費者等の選択に委ねられるものである。
3.担当省から以下のとおり回答。
住宅性能表示制度は、消費者が安心して住宅の取得等を行うことができるようにする観点から、住宅すなわち家屋又は家屋の部分の性能を客観的に評価し、表示する仕組みに加え、以下のような仕組みを有する制度である。
(1)指定住宅性能評価機関により評価され、住宅性能評価書に表示された内容が、住宅の請負契約及び売買契約の内容となることにより、住宅の建設工事の請負人及び住宅の売主の責任を明確化する。
(2)指定住宅性能評価機関により評価された住宅については、その取得契約に関する紛争処理を行う裁判外の機関を設け、住宅の取得契約に関する紛争を円滑かつ迅速に処理する。
本制度は(1)の仕組みを有するものであるため、住宅そのものではない特別の維持管理の条件等、住宅の建設工事の請負契約又は住宅の売買契約の内容となり
得ないものを評価基準に盛り込むことは不適当であり、引渡時における住宅そのものの性能と捉えられるもののみが評価項目となり得る。
また、仮に、メンテナンス等に係る契約等、住宅の建設工事の請負契約又は住宅の売買契約以外の契約事項についても上記の(1)及び(2)の
仕組みにおいて担保するとしても、住宅供給者、指定住宅紛争処理機関等に課される責任、業務等の負担が過大なものとなり、ひいては、任意の制度である本制
度の利用が阻害されるなど、本来の消費者保護の観点が担保されない不適当な制度となるものと考えられる。
ベイトシステムは、貴国からの再意見に「家屋の部材そのものではない」とあり、住宅そのものの性能でないことは、貴国も認めているところであり、また、本制度は上記のような仕組みを有するものであるため、ベイトシステムを住宅性能表示制度に位置づけることは不適切である。
4.平成15年9月25日 第20回OTO推進会議苦情処理部会において、以下のとおり部会長により総括された。
(1)本件申立の対象となっているベイトシステムは、アメリカでは近年急速に普及が進んでおり、また建築基準でも認められるようになっているとのことであり、信頼にたる有効な防蟻措置であると思われる。
(2)加えてベイトシステムは、防蟻の確実性を確保しつつ、従来の薬剤散布に比べて薬剤の使用量を極微量に抑えることができ、人や周辺環境にやさしい防蟻措置でもあるとのことである。
(3)このような特徴を有しているにもかかわらず、国土交通省からは、ベイトシステムが継続的なサービスの提供によって成り立っていることを理由に、住宅
の設計・建設段階において客観的に確認できないものであるから住宅性能表示制度で認めることはできないとの説明があった。
(4)しかしながら、住宅性能表示制度で評価されるか否かは、実際の住宅取引の場では非常に重要な意味を持ってきている。現状を防蟻措置のマーケットとい
う観点でみると、薬剤散布が有利に取り扱われているとの見方があり得る。また、消費者の立場にたてば、特に新築住宅の購入に際して事実上選択の機会を奪わ
れているとの苦情も当然生じ得る。
(5)本来の立法趣旨にかかわらず、結果的に、国が設けた制度により、事実上不公平な取り扱いを受けている製品や企業があり、また消費者も潜在的に不利益
を被っているということであれば、法律・制度が想定していない、あるいはなじまないからといって、対応しなくてよいということにはならない。
(6)例えば、アメリカでは保守管理条件等を定めることにより、ベイトシステムを建築基準で認めているとのことであるから、このような認定方法も参考とし
つつ、国土交通省は、現行制度の解釈で対応するか、あるいは新しい制度づくりを検討するか、いずれにせよ不公平感のある現状を解消する何らかの対応を検討
すべきである。
(7)国土交通省には、本日の議論を踏まえた上で、本件苦情への対応を再度検討していただき、3ヶ月後を目途に、検討の結果を苦情処理部会でご報告いただきたい。
5.第20回OTO推進会議苦情処理部会を受け、担当省から検討結果を回答(平成15年10月16日付)。
住宅性能表示制度において消費者に対し提供される住宅の性能に関する情報に係る客観的な確認方法について、消費者の保護の観点から引き続き適正を期すこと
が不可欠であるという前提の下で、今後、ベイトシステムを住宅の性能として適正に評価することが可能となれば、消費者にとっての情報提供の範囲が拡大する
ことを通じて消費者にとっても有益となり得るものと考えられ、それは住宅性能表示制度を定めている品確法の趣旨にも合致するものと考える。
消費者が建設又は購入をしようとする住宅に関し、住宅に関する一定の項目についていかなる水準の性能を有するかを中立公正な第三者機関が審査し、消費者に
対し、住宅の性能に関する客観的情報として提供するという住宅性能表示制度の性格上、消費者に対して提供される情報は消費者保護の観点から不確実な情報で
あってはならず、客観的に確認し得るものである必要がある。このため、設計図書に客観的に表現されること及び設計図書どおりに建設工事が的確になされたこ
とを第三者機関が現場検査により確認する現行の審査方法について省くこととする運用は困難であるが、ベイトシステムについて、通常の評価方法に準じて有効
な防蟻性能を有していること及び地盤の防蟻措置の方法として設計図書に位置づけた上で、建築工事の現場検査によって設計図書どおりに施工され防蟻措置が講
じられていることを確認することにより、住宅性能表示制度において評価を行うことが可能と解する。
なお、ベイトシステムに係る設計図書への記載方法や防蟻措置が講じられていることの客観的な確認方法等について検討が必要であり、この点については、今後、ベイトシステムの商品としての性質や米国での取扱いの実態等を踏まえた申立者からの具体的な提案をお願いしたい。
6.平成16年1月8日、上記5.を受けた苦情申立者提案書を踏まえ、担当省より以下のとおり回答。
苦情申立者より提案のあった内容のうち、ベイトシステムが1]設計図書等に位置付けられること、2]設計図書どおり施工されていることを現場検査により確
認されることが確実に実行でき、併せて有効な防蟻性能を有しているという条件が満足されれば、住宅性能表示制度において評価を行うことが可能となる。詳細
な事項については苦情申立者と調整する必要があるが、住宅性能表示制度におけるベイトシステムの評価に関する基本的骨格は以下のとおり。
(1)ベイトシステムの評価方法基準上の位置付けについて
公平・中立性を有する機関により、学識者等の審査を経て、地盤の防蟻措置として有効な防蟻性能があると確かめられた場合、当該ベイトシステムは、評価方法基準(平成13年国土交通省告示第1347号)第5の3−1(3)イ(1)d(iii)に該当するものとする。
(2)設計住宅性能評価における評価方法について
設計住宅性能評価においては以下の3点について設計評価申請添付図書において確認することにより評価を行う。
1] 地盤の防蟻措置としてベイトシステムを用いること
→ 設計内容説明書により確認。
2] 当該ベイトシステムが有効な防蟻性能を有すること
→ 公平・中立性を有する機関により確かめられた旨(審査機関等)を仕様書に記載し、審査書の写しを添付することにより確認。なお、審査書の写しにベイトシステム用のシロアリ検知装置の配置ルールが明記されていること。
3] ベイトシステム用のシロアリ検知装置が配置ルールに基づき配置されていること
→ 審査書の写し及び配置図により確認。
(3)建設住宅性能評価における評価方法について
建設住宅性能評価においては次の2点について現場検査において確認することにより評価を行う。現場検査を行う時期は評価方法基準に定める検査を行うべき時期のうち次の2点が確認できる時期であればいずれでも構わない。
1] ベイトシステム用のシロアリ検知装置として所定の装置が用いられていること
→ 地盤に埋設されているシロアリ検知装置が審査書の写しに記載されている装置であることを目視により確認。
2] ベイトシステム用のシロアリ検知装置が所定の位置に埋設されていること
→ シロアリ検知装置が配置図どおり設置されていることを目視により確認。
7.平成16年1月22日 第21回OTO推進会議苦情処理部会において、以下のとおり部会長により総括された。
(1)前回苦情処理部会における審議、ならびにその後の苦情申立者提案に基づき、国土交通省から、苦情申立者と詳細を相談の上、ベイトシステムを住宅性能
表示制度において評価することを運用面で認める方針が示されたことは、当部会として迅速かつ前向きな対応として評価する。
(2)国土交通省ならびに苦情申立者におかれては、今後お互いによく協力して意思疎通を図り、ベイトシステムを住宅性能表示制度で評価する上で必要となる検討を進めていただきたい。
(3)また、国土交通省におかれては、今回苦情処理部会で示された方針が早期に実現に至るよう、関係諸機関への連絡等、併せて必要な環境整備にも努めていただきたい。
(4)国土交通省は、適当な時期に随時、運用の実施状況について事務局を通じて当部会に報告されたい。
(5)なお、国土交通省は、品確法の運用において、今後も諸技術の変化に十分対応できるよう、努めていただきたい。
8.苦情処理部会後の担当省の対応等は以下のとおり。
苦情申立者の依頼により、公平・中立性を有する第三者機関である日本木材保存剤審査機関において、当該ベイトシステムの防蟻性能の有効性を判断するための審査基準を作成することとなったが、関係業界団体における既存の防蟻薬剤・工法認定業務との調整に多くの時間を要する状況となった。
国土交通省としては速かに苦情の処理を進めるため、苦情申立者の要望を踏まえ、国土交通大臣の「特別評価方法認定」制度において対応することとし、苦情申立者より、認定の前提となる指定試験機関における試験(審査)の申請が平成17年5月13日付でなされたところであり、現在審査中である。
なお、上記の対応により、処理終了とすることで苦情申立者の了解が得られた。
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