1.苦情の概要
苦情申立の趣旨
(1) 香川県港湾管理者による国連海洋法条約第24条の尊守および外国船舶無害通航妨害の停止を求める。
(2) 香川県港湾管理者による港湾法第13条第2項違反の確認および違反行為の停止を求める。
苦情申立の理由
平成13年3月に、関税法上の開港である高松港(香川県)において、中国福建省産川砂の輸出入会社およびその関連会社(香港)が、傭船した外国船舶を、当該港湾管理者に、その無害通航権(国連海洋法条約第17条)を否定され、沿岸国において航行妨害、入港妨害および接岸妨害を受けた。港湾管理者が、当該外国船舶に対して接岸妨害できる根拠として、砂の飛散等による周辺地域への悪影響と、他の荷役の妨害になる可能性があるからという説明を、香川県港湾管理者から受けた。
これに従い、同輸出入会社は、平成13年6月に、砂の飛散等の虞のないよう袋入川砂を輸出入するため、同港湾管理者に対し、港湾施設野積場の使用申請をしたが、不許可にされ、香川県知事に対して異議の申立をしたところ、弁明書が送達されてきたのであるが、その内容は、土砂の飛散等の虞があるとされていた。
当方の調査によると、平成13年10月に行われた土木学会第56回年次学術講演会では、筑波大学大学院の研究グループが、砂が飛散し始める摩擦風速は0.22m/s〜0.25m/s(風速4.0〜4.5m/s)であると発表しており、高松地方気象台の観測によると、高松市の平均風速は、2.5m/sであるので、周辺地域へ悪影響を及ぼし、他社荷役の妨害になるほど、堆積中の砂に飛散が起こりうるとは、到底考えられない。また、同港湾には、野積場もあり、常日頃から、ばら荷役および野積が行われているが、砂飛散による公害の確認はない。
また、袋入砂ならば、荷役中も砂の飛散等の虞がないことが明らかである。
沿岸国港湾管理者の裁量権は、国連海洋法条約をはじめとする国際法規を否定するものであってはならず(同条約第21条)、また、国内法規に反する条約等の制定は認められない(地方自治法第14条)ことから、本件港湾施設使用不許可処分は、中国福建省産川砂および、本件輸出入会社およびその関連会社(香港)に対する、港湾施設利用の不平等取扱いが行われている可能性が著しく高いので、調査の上、港湾法第13条第2項違反の確認を求める。違反が確認された場合は、早急に、香川県港湾管理者の不平等取扱い行為の停止(港湾法第47条)を求める。
平成13年3月に、高松港F地区埠頭において、本件輸出入会社ならびにその関連会社(香港)が、傭船した外国船に対して、香川県土木部、土木部港湾職員らにより、着岸阻止が行われた際、本件輸出入会社は、香川県土木部港湾課から、外国船舶の無害通航を妨害できる根拠として、平成5年3月29日付け四港B第364号香川県土木部長通達を示されたが、当方が調査した結果、香川県管理港湾の三本松港は日本国関税法上の「不開港」であり、「開港」の 高松港とは、公共施設の性格が異なる港湾施設であることが判明した。
貨物の輸出及び輸入並びに外国貿易船の入港及び出港その他の事情を勘案して政令で定める「開港」においては、国際海洋法条約第17条で保障されている無害通航権を有する外国船舶の港湾施設への立ち寄りが否定できない(国連海洋法条約第24条)ので、当該部長通達は、日本国関税法上の「開港」に適用できる規制ではなく、地方港湾に係る規制であると思われるので、本件についての調査も求める。
(平成15年2月19日 意見No.2)
(1) 高松港においては、海砂採取業者は、山砕石販売業者が、毎日陸揚げを行っている。周辺環境は工業地区、食堂、事務所など同地域内において砂業者が数社ある。香港と日本のクロスボーダー企業である本件輸出入会社に対してだけ、「砂飛散」を理由に、港湾の使用を不許可にすることは、不合理な差別であり、港湾法上問題が大きいと言える。
(2) 無害通航権妨害について
1)無害通航権妨害は、高知沖(領海上)である。2)瀬戸内海は内水ではないのに、日本国が「内水扱い」をしている。入り口の幅員が24海里以上の海は内水の定義には当てはまらない。
以上のことから、異議を唱える。
(平成15年2月19日 意見No.3)
国土交通省は、下記の質問について回答頂きたい。
(1) (高松港内にある砂採取販売業者リストを提示し)、リスト上の業者はすべて、高松港で砂の陸揚げを行っている。なぜ、本件輸出入会社の中国産川砂の陸揚げが、粉塵を理由に不許可処分とされているのか。
(2) 他の砂業者の規制は、高松市の一般粉塵の規制1)散水と2)コンクリート壁の設置だけであると聞いている。他の砂業者に対する規制はその2点だけであるのに、なぜ、香川県は、本件輸出入会社に対してだけは、それ以上の規制をかけているのか。他の業者と同等の扱いをすべきではないのか。
(平成15年3月31日 意見No.4)
本件輸出入会社は、常に、香川県の港湾施設利用における審査基準を満たしている。このことについては、市民団体の事務局長の調査によると、平成13年も7月3日に、突然、本件輸出入会社に対して、不平等な取扱いをし、港湾施設を恣意的に貸付ない目的のために、当時の香川県土木部長が新しい審査基準を急に挿入したということである。当時の土木部長が突然に基準を作成し、突然に挿入した審査基準は香川県港湾管理条例の趣旨に矛盾しており、条例に違反している。
(平成15年4月18日 意見No.5)
平成15年4月8日、本件輸出入会社の関連会社(香港)は、建設用花崗岩を輸出入するため、高松港F地区岸壁への係船、および港湾施設(野積場)の使用申請を行い、平成15年4月16日に香川県が受理した。その申請を受けて、香川県港湾管理者は、平成15年4月17日付で「港湾施設使用許可申請書の補充について」というファックスを本件輸出入会社の関連会社事務所宛てに送付してきた。その補充内容は10項目もあり、その中には傭船契約書などの複雑な資料の日本語訳を提出するよう書かれており、異常に短い提出期限(同日の午後3時(日本時間))とされていた。
また同日午後6時15分(日本時間)に、本件輸出入会社の関連会社宛てに、香川県から15高港収第K15号がファックスされ、不許可の理由は「申請書等を確認したところ、荷役の方法、荷役スケジュール、荷役の花崗岩の大きさ、形状、積荷の移動先が具体的かつ明確にされておらず、港湾の利用もしくは保全に著しく支障を与えないと判断できず、また付近に通行等に対する支障が生じないと判断できないこと。」とされていたのである。
故意に、性急な提出期限を切り、香川県はまたも本件輸出入会社に対して不許可処分を行ったのである。
2.担当省から以下のとおり回答。
(平成15年2月7日回答)
(1) 港湾法第13条第2項関係
香川県は、条例により、港湾施設を使用しようとする者は知事の許可を受けなければならないこととしているが、港湾法では、港湾管理者は係留施設を利用する船舶に対して必要な規制を行うことができることとしている。また、当該規制を行うに当たり内部規則を設けることは、不合理な差別をもたらすものでない限り、港湾法上問題のあるものではない。
今回申立にある輸出入会社の申請に対する不許可処分については、粉塵を理由とするものであり、周辺への影響等を考慮したもので合理的な理由であると判断される。
また、個々の岸壁の規制は、港湾管理者が自治事務としてそれぞれの状況に基づき合理的な範囲内で判断するものであり、他港において天然砂の取扱いを認めるということはありうることである。
以上のとおり、国土交通省としては、香川県の対応が苦情申立内容からは港湾法上問題があるものとは認められないことから、申立に対応することは不可能である。
(2) 国連海洋法条約関係
本件輸出入会社の苦情申立てには、香川県港湾管理者による国連海洋法条約第24条違反及び外国船舶無害通航妨害があったとされているが、そもそも国連海洋法条約第17条で定義されている「無害通航」とは、領海の航行を対象としたもの(第18条)である。高松港は内水にある港湾であるため、港湾管理者の措置は当該条約の外国船舶の無害通航権を否定するものではない。
(平成15年3月19日回答)
(1) 港湾法第13条第2項関係
苦情申立人は、香川県の行った行為が貿易障害であるとしているが、国土交通省としては、香川県の対応が港湾法上問題があるものか否かの観点から判断するのみであり、香川県の行った行為が港湾法上問題が認められないことから、申立に対応することはできない。
なお、当省にて香川県に対し調査を行った際、香川県より高松港において、香川県の定める港湾施設の許可基準等に適合した申請がなされた場合には、これを許可することは可能であるとの回答を得ているところである。
(2) 国連海洋法条約上の瀬戸内海の取扱
昭和52年6月、我が国は瀬戸内海が内水であることを明示し、在京各国公館及び国連を通じて各国に通報済みである。
(3) 高知沖合いの日本の領海の範囲
資料(海上保安庁資料)のとおり、高知県沖合いには国連海洋法条約第7条に規定する直線基線が設定され、また、同条約第8条の規定により直線基線の陸地側は内水となっている。したがって直線基線から12哩沖合いまでが我が国の領海である。
(平成15年4月17日回答)
国土交通省としては、香川県の対応が港湾法上問題があるものか否かの観点から判断している。香川県の行う規制が特定の者に対してではなく、すべての申請者に対して同様に適用されるのであれば、当該規制が港湾法第13条第2項に定める不平等な取扱いにあたるとは認められない。
(平成15年5月9日回答)
平成15年4月17日回答と同じ。
3.平成16年6月21日 第22回OTO推進会議苦情処理部会において、苦情の基礎を同じくするOTO番号658と併せ、扱いについて以下のとおり部会長により総括された。
(1) 本件苦情は、高松港F地区の港湾管理者である香川県が、粉塵等を理由に同地区における川砂の輸入に係る港湾施設の使用許可申請を全て不許可処分としていることが輸入障壁となっている、とするものである。
(2) 苦情申立者は、粉塵等のおそれはなく、また当該不許可処分は港湾法や国連海洋法条約に違反している等の主張を行っているが、国土交通省は、当該処分には合理的な理由があり、港湾法上の問題は認められない、また、国連海洋法条約との関係でも、外務省の解釈に照らし、同条約に抵触するものではないと考えられる、としている。
(3) 一方、香川県に使用許可申請を行った輸入業者は、本件苦情申立てと並行して、ほぼ同様の主張により、香川県の不許可処分は違法であるとの訴えを起こしたものの、高松地裁および同高裁において、当該処分は港湾法の趣旨に照らして違法ではなく、また国連海洋法条約にも反しない、等の判決言渡が既になされている。
(4) 香川県の不許可処分については、上述の通り既に裁判所において公益性の観点から正当性が与えられていることから、当該処分を輸入障壁であるとする本件苦情を審議することは、裁判所の法解釈を議論することにつながる。したがって、本件苦情を当部会で審議することは適当でない。
(5) また、苦情申立者は、香川県の処分について、違法性の有無を問う以前に、輸入障壁としてこれを排除すべき旨主張しているが、我が国として砂の輸入を制限しているものではなく、また高松港でも他の地区では砂の陸揚げが認められていることなどに鑑みれば、同港F地区で陸揚げを認めていないからといって、このことが直ちに輸入障壁であると解することはできない。
(6) OTOとしてはこれまで、苦情申立者に対して情報提供等の面で要望に応じてきたところであるが、上述の裁判所の判断に照らせば、本件苦情は、その論拠を失っているといえる。本件苦情については、経緯的に行政当局側の説明にも十分でなかった面があったのではないかとの受け取り方もあったものの、申立者の側で香川県の処分を輸入障壁とする論拠を明確に示していないことから、本件苦情は処理を進めることができない状態にある。個別苦情には処理中と処理済の2つの扱いしかないところ、本件は処理済とするのが相当である。
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