4-(2) 船舶及び船舶用エンジン・推進装置等の輸入検査制度の見直し

市場開放問題苦情処理推進会議第3回報告書(平成8年3月18日)

4-(2) 船舶及び船舶用エンジン・推進装置等の輸入検査制度の見直し

○ 問題提起者：東京商工会議所

○ 所管省庁：運輸省

○ 問題の背景

(1) 船舶検査の受検義務

我が国では、船舶の堪航性を保持し、人命の安全を確保することを目的に、船舶安全法において、船舶の構造及び設備の要件を定めるとともに、船舶所有者に対して船舶検査の受検を義務づけている。これにより、船舶を初めて航海に出すとき、又は船舶検査証書の有効期限が切れたときは定期検査を受けなければならない。検査の実施は、原則として総トン数20トン未満の船舶については日本小型船舶検査機構が、20トン以上の船舶については地方運輸局等が行っている。

(2) 型式承認制度等

船舶及びエンジン等の物件の製造者は、運輸大臣に対して船舶又は物件の型式承認を申請することができ、型式承認を得た製造者は、製造した船舶及び物件が型式に適合していることを証明する検定を受けることができる。

また、運輸大臣の認定を受けた事業場で型式承認を得ている船舶及び物件が製造され、それが型式に適合していることが当該事業場の検査主任者によって確認された場合、上記の検定に合格したものとみなされる。

船舶及び物件が型式の検定に合格した場合、その後最初に行われる定期検査等を省略することができる。

(3) 船級協会による検査

旅客船以外の船舶については、運輸大臣の認定を受けた日本の船級協会（(財)日本海事協会）の検査を受け、船級の登録を受けた場合には、船級を有する間一定の事項について国の検査に合格したものとみなされる。国は﨎日本海事協会に対して検査規程の認可、立入調査等の権限を有するほか、不正があった場合の罰則等を定めている。

(4) 外国試験データの活用

国の検査に際しては、検査の申請者が、外国試験機関が我が国の法令に基づく試験方法又はそれと同等以上の合理的な試験方法により行った試験データを提出した場合には、このデータを活用し、当該データに係る試験を免除している。具体的には以下の試験データを活用している。

1) 先進海運国政府の検査官の立ち会いにより行われた試験のデータ
2) 中立性等の点において試験業務を公正に実施できる等の条件を満たす公的試験機関であって、機関が存在する国の政府がそのデータを受け入れることとしているもの（Underwriter's Laboratory(米国) 等）の試験データ

(5) 国際的技術基準等

国際航海に従事する船舶については、国際海事機関（IMO）において、国際的な技術基準を検討しており、海上人命安全条約等の国際条約等の形で技術基準がとりまとめられている。海上人命安全条約等では、船舶の旗国の政府の職員が船舶の検査等を行うことを原則とする旨規定しているが、船舶の旗国の政府は認定する船級協会等の団体に検査を委任できることとなっている。しかしながら、船級協会等が検査を行った船舶に国際基準に適合していないものが見受けられ、このような船舶による海難が多く発生していることから、IMOでは、「旗国代行機関の承認に関するガイドライン」を策定し、平成8年1月に発効させる等検査業務を委任する団体の能力、主管庁による監督等の厳格化を締約国に求めている。

IMOでは、基準認証に係る相互承認についても検討されており、平成4年から救命設備の相互承認について議論されたが、時期尚早であるとの結論に達している。

長さ24メートル未満のヨット等プレジャーボート及びこれに搭載される船舶用エンジン、推進装置、艤装品等については、国際標準化機構（ISO）において国際的技術基準を策定中であり、現時点では国際基準はない。したがって、各国が独自に定めた技術基準により検査を行っている。

○ 問題提起内容

問題提起者からは、外国で認められている船舶及び船舶用エンジン、推進装置等は、我が国で再度検査することなく、又は簡略化した検査で済ませるべきであるとして、以下のような問題提起があった。

(1) 英国から英国の船級協会の検査を受けたヨット（ただし、船灯等の艤装品については英国以外の国の製品も搭載）を輸入し、使用に際して日本小型船舶検査機構の検査を受けたところ、船灯の日本製品への交換を余儀なくされた。外国の検査に合格して作られた船灯であり、日本での検査を不要とすべきである。（ただし、本件の船灯については、英国の船級協会の合格証の存在は確認されていない。）

(2) 船舶用中小型エンジンは、欧米先進国で実績のあるエンジンもその検査証やデータは採用されず、再度、材料試験、図面審査、耐久検査等が求められる。また、現行法規では現場の検査担当者の裁量に任されている部分があり、公平性、透明性の面で疑問である。先進国で製造され当該国家機関あるいは特定の試験機関の検査や認定を受けた機種は、その証明書があれば国内の認定事業場が製造し所定の検査を受けたものと同等に扱うべきである。（本件については、エンジンの型式等の具体的情報、検査証やデータの内容等については確認されていない。）

(3) 日本政府の設計検査済のエンジンであっても、日本政府（日本小型船舶検査機構を含む）の検査を工場において出荷前か輸入時に受けなければならないが、輸入時の検査の場合、メーカー以外でエンジンを部分開放するとメーカーの保証が受けられない。設計検査済のエンジンであれば、メーカーによる出荷検査のみで承認すべきである。もしメーカーによる検査では不十分というのであれば、少なくとも世界の主だった船級協会（米国のABS、ノルウェーのDNV、ドイツのGL等）の検査合格品については書類審査のみにすべきである。

また、海外の試験機関のデータについては、試験方法等を申請者が示さなければならず、負担が大きい。日本政府は、海外の試験機関と試験方法等をすり合わせ、外国試験データの活用を一層進めるべきである。

○ 検討結果

所管省によると、船舶については、1)国際的に統一された詳細な安全基準が現在ないこと、2)海上人命安全条約等において旗国自らが検査を行うことが義務づけられていること、3)外国政府との基準認証の相互承認は時期尚早であり、試験データの相互活用で十分であるとの結論がIMOにおいて得られていること等から、相互承認を行っている例は国際的にも見受けられないとのことである。

プレジャーボート、船舶用エンジン、推進装置等には国際的な技術基準がないにしても、プレジャーボートについては、ISOにおいて国際統一基準が検討されているほか、EUにおいて域内の相互承認についての取り組みが行われている。したがって、所管省においては、プレジャーボート、小型船舶用エンジン等に関し、以下の点につき前向きに取り組むべきである。

(1) プレジャーボートについては、ISOの基準策定に貢献するとともに、同基準が策定された場合には、国内基準を速やかにこれと整合のとれたものとすべきである。また、EU、米国等主要先進国の動向を踏まえて、これらの国の検査基準等に特に問題がないのであれば、その検査基準等を受け入れ、当該国の合格証明書等の書類審査及び現物の確認のみで、日本国内での使用が認められるよう検討し、平成10年度末を目途に結論を出すべきである。

(2) 所管省によると、日本小型船舶検査機構において、外国の公的試験機関等における試験データを受け入れることにより輸入の円滑化を図っているとのことであるが、海外試験機関の試験データの受入れを一層拡大するために、現在試験データを受け入れていない機関と検査方法等について積極的にすり合わせを行い、申請者の負担を減らすよう努力すべきである。主要な船級協会の試験データについては、平成8年1月に発効した「旗国代行機関の承認に関するガイドライン」の実効を確認しつつ、安全上支障のない範囲で受入対象とする方向で早急に検討し、平成10年末までに結論を出すべきである。

(3) 検査の合理化・簡素化を図る制度としては、型式承認制度、認定事業場制度等が既に整備されているが、外国企業への広報活動等によって、これらの制度の更なる活用を図り、かつ改善に努めるべきである。例えば、認定事業場制度においては、ISO9000シリーズを活用して認定を進めるなどの方策について、平成9年度末までに検討し結論を出すべきである。また、検査項目の削減、検査手続の簡素化等を技術の進歩等を踏まえて積極的に進めるべきである。

以上の措置を講じる際には、人命の安全、環境の保全等を損なわないよう十分配慮する必要がある。

OTO対策本部決定(平成8年3月26日)

4-(2) 船舶及び船舶用エンジン・推進装置等の輸入検査制度の見直し

プレジャーボート、小型船舶用エンジン等に関し、人命の安全、環境の保全等を損なわないよう十分配慮しつつ、以下の措置を講ずるものとする。

(1) プレジャーボートについては、ISOの基準策定に貢献するとともに、同基準が策定された場合には、国内基準を速やかにこれと整合のとれたものとする。また、EU、米国等主要先進国の動向を踏まえて、これらの国の検査基準等に特に問題がないのであれば、その検査基準等を受け入れ、当該国の合格証明書等の書類審査及び現物の確認のみで、日本国内での使用が認められるよう検討し、平成10年度末を目途に結論を出す。

(2) 日本小型船舶検査機構における海外試験機関の試験データの受入れを一層拡大するために、現在試験データを受け入れていない機関と検査方法等について積極的にすり合わせを行い、申請者の負担を減らすよう努力する。主要な船級協会の試験データについては、平成8年1月に発効した「旗国代行機関の承認に関するガイドライン」の実効を確認しつつ、安全上支障のない範囲で受入対象とする方向で早急に検討し、平成10年末までに結論を出す。

(3) 外国企業への広報活動等によって、型式承認制度、認定事業場制度等の更なる活用を図り、かつ改善に努める。例えば、認定事業場制度においては、ISO9000シリーズを活用して認定を進めるなどの方策について、平成9年度末までに検討し結論を出す。また、検査項目の削減、検査手続の簡素化等を技術の進歩等を踏まえて積極的に進める。

フォローアップ(平成9年5月12日)

4-(2) 船舶及び船舶用エンジン・推進装置等の輸入検査制度の見直し

(1) ISOにおけるプレージャーボートの技術基準策定に貢献するため、運輸省の指導のもと、日本小型船舶検査機構に設けられた調査検討委員会において調査・実験等を行うとともに、ISOの会議へ出席し、調査・実験結果の報告等を行った。現在、ISOにおけるプレジャーボートの復原性基準、構造基準等主要な安全基準は、素案の策定作業を進めているところであり、未策定の状態である。引き続き、調査検討委員会等による検討、ISOで実施される会議への出席等により、ISOにおける技術基準の策定に貢献するとともに、国際基準が策定された場合には、国内基準を速やかにこれと整合のとれたものとする。

また、EU、米国等主要先進国におけるISO基準の取り入れ状況を踏まえてこれらの国の検査基準等に特に問題がないのであれば、その検査基準等を受け入れ、当該国の合格証明書等の書類審査及び現物の確認のみで、日本国内での使用が認められるよう検討する。

(2) 海外の多数の試験機関と個別に船舶に搭載される多数の設備、機器について検査方法等のすり合わせを行うのは、必ずしも効率的でないことから、海外試験機関の試験データを申請者に負担をかけることなく活用することができるよう、国際海事機関（IMO）における国際的に標準化された試験データフォーマットの作成作業にかかる検討グループのメンバーとして作成作業等を行った。国際的に標準化された試験データフォーマットが作成された場合、標準フォーマットにより提出された試験データを受け入れ、これを活用する。

我が国に入港した外国船舶に対して立入検査（ポート・ステート・コントロール（PSC））を実施するとともに、アジア太平洋地域・欧州地域等におけるPSCの結果について情報交換を行ない、「旗国代行機関の承認に関するガイドライン」の実効の確認に努めた。これらの情報の蓄積等により安全上支障がないことが確認された船級協会については試験データの受け入れ対象とする方向で検討する。

(3) 海外関係者に対する各種説明会、舟艇輸入円滑化セミナー等を行い、我が国の検査制度等について広報活動を行った。その結果、平成8年度は海外製品8物件（平成8年度全承認物件の11%）が型式承認を取得した。

認定事業場制度においてISO9000シリーズを活用して認定を進めるため、認定事業場制度及びISO9000シリーズの認定における審査事項等について比較検討を行っており、さらに平成9年6月に検討会を発足させることとしている。検討会の結論を踏まえ、平成9年度末までにISO9000シリーズを活用して認定を進める等、認定事業場制度の更なる活用を図るための改善について結論を出す。また、平成8年10月運輸技術審議会に対して、船舶技術の進歩、船舶に関する国際規制の動向等を踏まえ、船舶の安全を図りつつ、船舶検査の受検者負担の軽減及び利便性の向上を図る観点から、船舶の定期的検査を見直すための諮問を行い、平成8年12月に定期検査の間隔と実施時期及び実施内容の見直しに加え、船舶検査の合理化を今後さらに一層推進していくべきとの答申を受けた。本答申等に基づき、内燃機関の製造認定事業場における完成検査の方法の合理化については平成9年度末までに中間検査における推進用機関及び発電機関の開放検査の合理化については平成9年度上半期に、それぞれ実施する他検査の合理化を積極的に進める。