6-(2) 職業紹介事業の見直し

市場開放問題苦情処理推進会議第3回報告書(平成8年3月18日)

6-(2) 職業紹介事業の見直し

○ 問題提起者：駐日フランス大使館、在日米国商工会議所

○ 所管省庁：労働省

○ 問題の背景

(1) 有料職業紹介事業については職業安定法に基づき、以下の規制が行われている。

1) 職業紹介事業の公共性等の観点から、特別の技術を必要とするものとして29職業について行うことができるとされている。
2) また、労働者保護等の観点及び我が国が批准しているILO第96号条約にかんがみ、受付手数料については540円の上限を、紹介手数料については、求人者から徴収できることとして、紹介した労働者の賃金の6か月分の10.1%の上限を定めている。
3) 有料職業紹介事業を行おうとする者は、その取り扱う職業の範囲等を明示して、事業所ごとの許可（有効期間はILO第96号条約に鑑み1年）を要し、許可の際には、一定年数（当該職種の実務若しくは職種の紹介あわせて10年）以上の経験を有する責任者の選任、一定面積（20㎡＋（取扱職業-1）×6.6㎡）以上の事業スペースの確保等が義務づけられる。労働者派遣事業を併せて行おうとする場合には、事業所内の設備、組織の区分等が必要とされている。財務状況については、許可の有効期間と合わせ、1年に1回調べるものとしている。許可/不許可についての結果は、行政手続法に基づき80日の標準処理期間が定められており、不許可の場合の理由は通知の中に明示している。

(2) 有料職業紹介事業の在り方については、行政改革委員会において審議が行われ、昨年12月に報告書がまとめられた。また、現在、中央職業安定審議会において審議が行われている。

(3) 有料職業紹介事業の諸外国における制度の現状は、米国では43州で許可制（対象業務は自由）、35州で料金規制、フランスでは国営が原則で芸術家と家政婦のみ許可されており、ドイツでは許可制、対象職業は自由となっている。

○ 問題提起内容

問題提起者からは、現在の複雑な規制体系はビジネス環境に適合していないので、民間職業紹介事業の発展と外資系企業の日本人従業員確保の観点から、以下の規制緩和が必要との問題提起があった。

(1) 職業の専門職化、職務範囲の専門化が著しい状況の今日、有料職業紹介事業の現在の取扱職業範囲では実状に合わず、また、それを常に最新のものにしていくのは無理なので、有料職業紹介事業の取扱職業範囲については原則自由化、または取り扱えない職業を指定するネガティブリスト方式にすべきである。

(2) 許可制については現行の事業所ごとではなく企業ごとに改め、その有効期間は1年から5年に延長し、財務状態・会社状況の考査は更新時期のみとすべきである。許可を得るのに必要な全ての情報は、要請により労働省が速やかに供給すべきである。また、申請書類を簡素化し、許可/不許可の結果は3週間以内に書面で通知するとともに、不許可の場合はその理由も通知すべきである。

小規模な事業所にとって、許可申請のための提出用の書類や事務所内部の配置に関する規制等はかなりの負担で企業の発展を阻んでいるので、規則は簡略化すべきである。

(3) 同一の事業者が労働者派遣事業と職業紹介事業を併せて行おうとする場合には、それぞれの事業を行なう事業所を区分し、従業員も両事業に同時に従事できない等の規制がされているが、非効率的であり、費用等もかさむことからこれらの規制は廃止すべきである。

(4) 一定年数以上の経験を有する者の雇用の義務づけ及びその者の活動を経験職業のみに限ることについては非現実的である。すなわち、指定職業の実務経験によって職業紹介者としてその職業を担当する資格が得られるという前提は誤りであり、必要な技術は、人事関連分野の能力と経験のある人であれば一般的に理解し、また学習できるもので、現在の制度では測れるものではない。よって、このような規制は廃止すべきである。

(5) 事業所のフロアースペースについて最低限のスペースを義務づける規制は緩和すべき。特に、労働者派遣事業と職業紹介事業を兼業する際には、それぞれが義務づけられているスペースを確保しなければならず、広いスペースが必要となるため負担となる。

(6) 有料職業紹介事業において、現行法で定められている紹介手数料では紹介企業側の負担が大き過ぎる。紹介手数料は市場原理により決定されるべきであり、求人企業側は自由競争市場の中で自由に紹介企業を選択すべきである。

以上により、職業紹介事業は複雑かつ厳しく規制されていることから、これら種々の規制はなくし、自由経済の中で労働者は自己実現の為に可能な限りの選択権を与えられるべきである。

○ 検討結果

有料職業紹介事業制度は労働者の保護及び労働力の需給の調整の観点から制定・運用される制度であることを踏まえつつ、本件は外国の企業が日本に進出する等の対日直接投資を促進するという観点から、重要な問題である。

まず、許可の有効期間の更新に関してはできる限り簡素にするとともに、許可に要する従業員の履歴書の省略等の関係書類の簡素化を平成7年度内に実施し、その後も引き続き簡素化に努めるべきである。ILO第96号条約改定の議論の動向を注視しつつ、現在中央職業安定審議会において行われている有料職業紹介事業に係る検討の中で、現行のILO第96号条約の下、以下について前向きの対応を図るべきである。

(1) 取扱職業の範囲については、ネガティブリスト方式の採用も含めて、最大限拡大すべきである。

(2) 手数料については、現行のILO条約に基づく規制の中でできる限り市場メカニズムを活用する工夫をすべきである。

(3) 許可に関しては広範な規制が行われているが、以下のような見直しを行うべきである。

1) 事業所ごとの許可に係る規制については、緩和の方向で対応すべきである。
2) 兼業に係る規制及び事業所のスペースに係る規制については、大幅緩和すべきである。
3) 職務経験年数に係る規制については、過剰な規制と思われるので、大幅緩和すべきである。

OTO対策本部決定(平成8年3月26日)

6-(2) 職業紹介事業の見直し

許可の有効期間の更新に関してはできる限り簡素にするとともに、関係書類の簡素化を平成7年度内に実施し、その後も引き続き簡素化に努める。

また、取扱職業の範囲を民間が扱うことが不適切な職業以外は扱えることとする方式も含め最大限拡大すること並びに手数料、事業所ごとの許可、労働者派遣事業との兼業、事業所のスペース及び職務経験年数に係る規制を大幅緩和することについては、現在中央職業安定審議会において行われている有料職業紹介事業の在り方の検討の中で、現行のILO第96号条約の下、前向きの対応を図る。

フォローアップ(平成9年5月12日)

6-(2) 職業紹介事業の見直し

(1)
1) 許可の有効期間の更新手続について、以下の措置を講じた（職業安定局長通達により平成9年4月1日実施）。
・3年ごとの更新以外の更新において、更新手続に係るすべての添付書類を省略すること。
・職業紹介事業計画及び収支決算に関する書類の提出を要しないこと。

2) 許可に係る関係書類の簡素化について、次の措置等を講じた（職業安定局長通達により平成8年4月1日実施）。
・従業員の履歴書の提出を要しないこと。
・収支予算書の提出を要しないこと。

(2)
1) 取扱職業の範囲
平成8年12月24日の中央職業安定審議会における建議を踏まえ、職業安定法施行規則の改正により、取扱職業の範囲を大幅に拡大し、（参考）に掲げる職業以外を取り扱えることとして、ネガティブリスト化した（平成9年4月1日施行）。

なお、更なる取扱職業の拡大について、ネガティブリスト化の施行状況、平成9年6月のILO第96号条約の改定の結果等を踏まえ、方針を決定の上、法改正とともに改定条約の批准を行い、その具体化を図ることとしており、労働者派遣事業制度の見直しの基本的方向の決定に引き続き平成9年度中に検討を開始することとしている。

2) 手数料
平成8年12月24日の中央職業安定審議会における建議を踏まえ、職業安定法施行規則の改正により、紹介手数料の徴収額について、平成9年4月1日より、承認を受けることにより自由に設定できること（従前は就職後6ヶ月間に支払われた賃金の10.1％が上限）等の措置を講じた。

3) 許可に関する規制緩和
・手続、関係書類の簡素化
業安定法施行規則等の改正により、複数の事業所を有する事業主に係る手続について、代表者の氏名等事業主全体に共通する事項についての変更があった場合には統括事業所からのみ変更許可・届出の手続を行えば足りることとした (平成9年4月1日施行) 。
・派遣事業との兼業
労働者派遣事業を兼業する場合、それぞれの事業のための専用入口を必要としないこととすることにより、一の事務室内で両事業を行うことを可能とした (職業安定局長通達により平成9年4月1日実施) 。
・事務所のスペース
事業所の面積を取扱職業の範囲にかかわらず「20㎡以上」（従前は取扱職業が1増えるごとにさらに 6.6㎡ずつ加算）とした (職業安定局長通達により平成9年4月1日実施) 。
・紹介責任者
紹介責任者の経験要件等については、職業紹介事業に3年以上（従前は10年以上）従事した経験又は取り扱おうとする職業に3年以上（従前は10年以上) 従事した経験を必要なものとした (職業安定局長通達により平成9年4月1日実施) 。

（参考）
1] サービスの職業
2] 保安の職業
3] 農林漁業の職業
4] 運輸・通信の職業
5] 技能工、採掘・製造・建設の職業及び労務の職業
(注1)事務的職業及び販売の職業については、新規学校卒業後1年未満の者は除く。
(注2)従前の29業種は取扱職業とする。