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市場開放問題苦情処理推進会議第5回報告書(平成10年3月17日) [フォローアップ]

8-(2) 労働分野における規制緩和

○ 問題提起者:在日米国商工会議所

○ 所管省庁:労働省

○ 問題提起内容

過度に規制された日本の労働環境は外資が望む人材の求人・採用を困難としていることから、対日投資の障害となっているため、以下の改善措置を講ずべきである。

(1) 労働諸法及び規制に関する新しい基盤の整備

1) 労働諸法及び規制は従業員と雇用者に等しく公正であるべきである。
2) 事務手続き等については公明・公正かつ窓口担当者の判断を必要としないものとすべきである。
3) 増え続け、複雑化する労働問題に関し、特別な裁判所を設けるか、労働問題の専門家を法廷に同席させるべきである。
4) 職業紹介等の労働省が行うサービスを民営化すべきである。
5) 日本企業が世界市場において競争できるようにするためにILO 条約の解釈をゆるめるべきである。

(2) 削除または改正すべき法律事項

1) 自由な年月で契約を可能とするために一年契約の制限を廃止すべきである。
2) すべての従業員が同時に昼食をとらなければならないとの規定。
3) 集団解雇の制限

(3) 労働諸法及び規制の緩和に含まれるべき事項

1) 女性の労働時間、残業時間等に関する制度を男性と同様にすべきである。
2) 有料職業紹介業及び人材派遣事業

1] 職業安定法の民間有料職業紹介業規制におけるネガティブリストには、違法活動に係るもの、社会的に保護されるべき者に関するものの他は含ませるべきではないので、原則としてネガティブリストは特定の業界や職業を含まないこととするべきである。
また、簡素化された許可制度、市場の需要・供給で決定される紹介手数料制度を設けるべきである。
2] 人材派遣業の対象業務の範 囲については、違法行為に係るものや社会的に保護されるべき者に関するものに限定したネガティブリストによって指定すべきである。
また、人材派遣業の通常業務への過度の監督をすべきでない。
3) 新技術導入に際し、従業員の契約期間に関する規則は臨機応変な対応を可能とすべきである。また、政府は従業員教育の支援や中小企業支援により対応すべきである。
4) 出向や転勤を規制等により妨げるべきではない。
5) 人事考課は雇用を決定する上で重要だという概念を法制化すべきである。

○ 所管省庁における対処方針

(1)
1) 労働諸法は、雇用者、従業員、国等の行うべき事項等を定めたものであり、従業員、雇用者のどちらか一方に過重な義務を課したり権利を認めているものではない。

2) 問題提起者の主張については、我が国の法制上、行政手続法及び行政不服審査法によって保護されている。すなわち、「申請に対する不承認処分を行う際には、原則として書面により理由を明示することが義務付けられている」(行政手続法第8条)、「申請に対する審査基準は公にしておかねばならない」(行政手続法第5条)と定められているので、労働基準監督署などの恣意的な判断により「不透明」に処分が決定されていることはない。また、処分に不服のある者は、行政不服審査法第5条に基づく審査請求を行うことができる。

3) 労働問題のみならず、現在の裁判では解決に時間を要しているとの指摘を受けているものがあることは承知しているが、裁判の改善に関しては司法の問題であり、回答できない。

4) 公共職業安定所の職業紹介は、憲法第27条に規定する勤労権を国民に対して保障するために、すべての国民が公平かつ無料で利用できるセーフティーネットとしての機能を担っている。これを国が維持することは、ILO第88号条約上の義務を履行するためにも不可欠である。

また、諸外国においても、国の機関が職業紹介及び関連するサービスを提供することが通例となっており、職業紹介をすべて民間に行わせている例はない。なお、平成9年10月に開催されたOECD労働大臣会合コミュニケにおいても、職業紹介及び関連するサービスの効率的な提供は、国家の機関の欠くべからざる一要素であると確認されたところである。

従って、今後も国は職業紹介及び関連するサービスを提供すべきであり、これを民営化すべきではないと考える。

5) 我が国においては、憲法第98条の「日本国政府が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」という規定により、条約を批准するに当たっては慎重に国内法制との整合性を確保した上で誠実にこれを履行するとの方針をとっており、ILO条約についても、こうした厳格な方針で対応しているところである。

(2)
1)
1] 労働基準法第14条により、長期の労働契約による人身拘束の弊害を防ぐために、期間の定めのないものを除き、原則として1年を超える期間を定める労働契約を締結することはできない。

2] しかし、創造的な事業活動を行うために、内外の特別の専門的能力を有する者を一定期間活用したいという企業側の必要性や、価値観の多様化により特定企業に縛られることなく特別の専門的能力を発揮し続けたいとする者の増加に対応するため、現行規定を見直す必要が生じてきているところである。

3] 平成9年3月に閣議決定した規制緩和推進計画においても、労働契約期間の上限について、労働契約等法制全般の在り方に関する検討を踏まえ、特に専門的能力を有する者や定年退職後の高齢者、一定期間を区切ったプロジェクト等に携わる者については、労働契約期間の上限を3年から5年程度に延長するとされたところである。

4] 労働契約期間の上限については、昨年12月の中央労働基準審議会の建議を踏まえ、次に掲げる内容を含む労働基準法の一部を改正する法律案を今国会に提出したところである。

労働契約期間の上限について、以下の場合は3年とする。

・新商品、新役務若しくは新技術の開発又は科学に関する研究に必要な高度の専門的な知識、技術又は経験を有する者が不足している事業場において当該者を確保する場合
・事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているものに必要な高度の専門的知識、技術又は経験を有する者が不足している事業場において当該者を新たに確保する場合
・60歳以上の労働者に係る場合

2) 「すべての従業員が同時に昼食をとらなければならない」との規定は存在しない。

3) 解雇は、合理的な理由を欠き社会通念上相当でないと解される場合は無効であるという判例法理が確立されており、また、企業が整理解雇を行う場合、

・人員削減の必要性
・人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性
・解雇対象者の選定の妥当性
・解雇手段の妥当性

の4つの要件を満たす必要があるという判例法理が確立している。この判例法理について、変更すべき特段の理由は見当たらないものと考える。

なお、労働基準法では

・解雇の際の予告手続とその適用除外(20条、21条)
・業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間とその後の30日間及び産前産後休暇とその後の30日間の解雇の禁止(19 条)

を規定している。

(3)
1) 女性労働者に対する時間外・休日労働及び深夜業の規制については、雇用の分野における男女の均等取扱いと女性の職域拡大を図る観点から、男女雇用機会均等法の改正と併せて、解消されることとなっている。これにより、平成11年4月から労働基準法の時間外労働等については、男女同一の枠組みとなる(「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律」1997年法律第92号 公布1997年6月18日施行1999年4月1日)。

2)
1]
・有料職業紹介事業の取扱職業については、平成7年12月の行政改革委員会における意見を尊重し、平成8年12月の中央職業安定審議会における建議を踏まえ、取扱職業の範囲を大幅に拡大し、平成9年4月からネガティブリスト化した。なお、更なる取扱職業の拡大について、平成9年3月の規制緩和推進計画等に基づき、平成9年6月のILO第 181号条約等を踏まえ、平成9年度中に中央職業安定審議会で検討を開始することとしている。
・有料職業紹介事業の許可に関しては、手続、関係書類の簡素化について紹介責任者の経験要件の緩和等を平成9年4月から実施した。
・有料職業紹介事業の紹介手数料については、平成7年12月の行政改革委員会における意見を尊重し、平成8年12月の中央職業安定審議会における建議を踏まえ、紹介手数料の徴収額について、承認を受けることにより自由に設定できること(従前は就職後6か月間に支払われた賃金の10.1%が上限)等の措置を平成9年4月から実施した。

2] 労働者派遣事業については、適用対象業務として11業務を追加した(従前の16業務と合わせて計26業務)(労働者派遣法施行令の改正により平成8年12月施行)。

また、平成9年3月の規制緩和推進計画等に基づき、対象業務の範囲のネガティブリスト化、派遣期間、労働者保護のための措置等を中心とした制度の全般的な見直しが中央職業安定審議会において平成9年1月より進められ、平成9年12月にその基本的方向が取りまとめられた。現在この基本的方向を具体化するために更なる検討が同審議会において進められている。

3) 解雇については、使用者による解雇が合理的な理由を欠き社会通念上相当でないと解される場合は無効である、という判例法理が確立している。この判例法理について、変更すべき特段の理由は見当たらないものと考える。

なお、労働基準法では、

・労働者が突然の解雇から受ける生活困窮を緩和するため、使用者に対し、原則として30日前の解雇予告かそれに代わる解雇予告手当の支給の義務づけ(20 条)
・業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間とその後の30日間及び産前産後休暇とその後の30日間の解雇の禁止(19 条)

を規定している。

4) 判例によると以下のとおり。

1] 出向を命じるには就業規則や労働協約上の根拠規定や採用の際の同意等の明示の根拠が必要であり、また、出向命令の業務上の必要性、人選の合理性等を勘案して出向命令が権利濫用と認められれば無効であるとされている。
2] 配転については、当該配転命令について業務上の必要性が存しない場合、または業務上の必要性が存する場合であっても他の不当な動機・目的をもってなされたものであること若しくは労働者に対し通常甘受すべき限度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情の存する場合でない限りは権利の濫用に当たらず、当該配転命令は有効であるとされている。こうした判例法理について、変更する特段の理由は見当たらないものと考える。
なお、労働関係法令上、出向や配転を制限する規定は存在しないものである。

5) 就業規則は、当該事業場における労働時間や賃金、解雇等に関する取扱いについて、事業主が労働者の過半数を代表する者の意見を聴いた上で定めるものであるが、労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則を作成し所轄の労働基準監督署に届け出る義務を課しているにすぎない。解雇や配転、異動等を認めるかどうか、また、どのような能力評価基準とするか等についてはそれぞれの事業場の労使の話合いに委ねられるべきものであり、法律で一律に規定することは不適切であると考える。


フォローアップ(平成11年11月16日) [報告書]

8-(2) 労働分野における規制緩和

(1)
1) 労働諸法は、雇用者、従業員、国等の行うべき事項等を定めたものであり、従業員、雇用者のどちらか一方に過重な義務を課したり権利を認めているものではない。
2) 問題提起者の主張については、我が国の法制上、行政手続法及び行政不服審査法によって保護されている。すなわち、「申請に対する不承認処分を行う際には、原則として書面により理由を明示することが義務付けられている」(行政手続法第8条)、「申請に対する審査基準は公にしておかねばならない」(行政手続法第5条)と定められているので、労働基準監督署などの恣意的な判断により「不透明」に処分が決定されていることはない。また、処分に不服のある者は、行政不服審査法第5条に基づく審査請求を行うことができる。
3) 労働問題のみならず、現在の裁判では解決に時間を要しているとの指摘を受けているものがあることは承知しているが、裁判の改善に関しては司法の問題であり、回答できない。
4) 公共職業安定所の職業紹介は、憲法第27条に規定する勤労権を国民に対して保障するために、すべての国民が公平かつ無料で利用できるセーフティーネットとしての機能を担っている。これを国が維持することは、ILO第88号条約上の義務を履行するためにも不可欠である。
また、諸外国においても、国の機関が職業紹介及び関連するサービスを提供することが通例となっており、職業紹介をすべて民間に行わせている例はない。なお、平成9年10月に開催されたOECD労働大臣会合コミュニケにおいても、職業紹介及び関連するサービスの効率的な提供は、国家の機関の欠くべからざる一要素であると確認されたところである。 従って、今後も国は職業紹介及び関連するサービスを提供すべきであり、これを民営化すべきではないと考える。
5) 我が国においては、憲法第98条の「日本国政府が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」という規定により、条約を批准するに当たっては慎重に国内法制との整合性を確保した上で誠実にこれを履行するとの方針をとっており、ILO条約についても、こうした厳格な方針で対応しているところである。

(2)
1) 有期労働契約の契約期間の上限については、平成10年9月30日に公布された労働基準法の一部を改正する法律により、次に掲げる一定のものについて上限の延長(1年から3年)がなされたところである(平成11年4月1日施行)。
1] 新商品、新役務若しくは新技術の開発又は科学に関する研究に必要な高度の専門的な知識、技術又は経験を有する者が不足している事業場において当該者を新たに確保する場合
2] 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているものに必要な高度の専門的知識、技術又は経験を有する者が不足している事業場において当該者を新たに確保する場合
3] 60歳以上の労働者に係る場合
ただし、これ以上の上限規制の緩和は、国会での審議や労働組合の意見等を踏まえると国民のコンセンサスが得られているとは判断できないため措置困難である。
2)「すべての従業員が同時に昼食をとらなければならない」との規定は存在しない。
3) 解雇は、合理的な理由を欠き社会通念上相当でないと解される場合は無効であるという判例法理が確立されており、また、企業が整理解雇を行う場合、
1] 人員削減の必要性、
2] 人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、
3] 解雇対象者の選定の妥当性、
4] 解雇手段の妥当性の4つの要件を満たす必要があるという判例法理が確立している。この判例法理について、変更すべき特段の理由は見当たらないものと考える。
なお、労働基準法では、
・解雇の際の予告手続とその適用除外(20条、21条) 、
・業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間とその後の30日間及び産前産後休暇とその後の30日間の解雇の禁止(19条)、
を規定している。

(3)
1) 女性労働者に対する時間外・休日労働及び深夜業の規制については、雇用の分野における男女の均等取扱いと女性の職域拡大を図る観点から、男女雇用機会均等法の改正と併せて、平成11年4月1日より解消された。これにより、労働基準法の時間外労働等については、母性保護措置等を除いて、男女同一の枠組みとなっている(「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律」1997年法律第92号 公布1997年6月18日 施行1999年4月1日)。
2)
1]
・更なる取扱職業の拡大については、取扱職業を原則自由化(港湾運送業務に就く職業、建設業務に就く職業については禁止)する職業安定法の改正案が平成11年6月30日に国会において成立したところであり、同法は同年12月1日に施行することとされたところである。
・有料職業紹介事業の許可に関しては、許可の有効期間の延長等を内容とする職業安定法の改正案が平成11年6月30日に国会において成立したところであり、同法は同年12月1日に施行することとされたところである。
・有料職業紹介事業の紹介手数料については、承認制を届出制に改めた上、上限額の範囲内での自由設定との選択制とすること等を内容とする職業安定法の改正案が平成11年6月30日に国会において成立したところであり、同法は同年12月1日に施行することとされたところである。
2] 労働者派遣事業の対象業務について、港湾運送業務、建設業務、警備業務等一定の業務を除き対象業務とする労働者派遣法の改正案が平成11年6月30日に国会において成立したところであり、同法は同年12月1日に施行することとされたところである。
3) 解雇については、使用者による解雇が合理的な理由を欠き社会通念上相当でないと解される場合は無効である、という判例法理が確立している。この判例法理について、変更すべき特段の理由は見当たらないものと考える。
なお、労働基準法では、
1] 労働者が突然の解雇から受ける生活困窮を緩和するため、使用者に対し、原則として30日前の解雇予告かそれに代わる解雇予告手当の支給の義務づけ(20条)、
2] 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間とその後の30日間及び産前産後休暇とその後の30日間の解雇の禁止(19条)、
を規定している。
4) 判例によると以下のとおり。
1] 出向を命じるには就業規則や労働協約上の根拠規定や採用の際の同意等の明示の根拠が必要であり、また、出向命令の業務上の必要性、人選の合理性等を勘案して出向命令が権利濫用と認められれば無効であるとされている。
2] 配転については、当該配転命令について業務上の必要性が存しない場合、または業務上の必要性が存する場合であっても他の不当な動機・目的をもってなされたものであること若しくは労働者に対し通常甘受すべき限度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情の存する場合でない限りは権利の濫用に当たらず、当該配転命令は有効であるとされている。こうした判例法理について、変更する特段の理由は見当たらないものと考える。
なお、労働関係法令上、出向や配転を制限する規定は存在しないものである。
5) 就業規則は、当該事業場における労働時間や賃金、解雇等に関する取扱いについて、事業主が労働者の過半数を代表する者の意見を聴いた上で定めるものであるが、労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則を作成し所轄の労働基準監督署に届け出る義務を課しているにすぎない。解雇や配転、異動等を認めるかどうか、また、どのような能力評価基準とするか等についてはそれぞれの事業場の労使の話合いに委ねられるべきものであり、法律で一律に規定することは不適切であると考える。