1-(1) 食品表示規制の弾力的運用

市場開放問題苦情処理推進会議第6回報告書(平成12年3月16日)

1-(1) 食品表示規制の弾力的運用

○ 問題提起者：駐日ニュージーランド大使館

○ 所管省庁：農林水産省

○ 問題提起内容

新農業基本法の枠組みのなかでとられている最近の措置から見ると、食品表示が国内農産物の需要促進を図るためのものに思える。さらに、JAS法改正により、それまで9つの食品のみに義務付けられていた原産国表示義務が全生鮮食品に課されるようになった。

明らかに国内農産物の需要拡大を図る目的をもつ新農業基本法のもとで、こうした表示義務の拡大が行われ、また、新措置が実際上、国内農産物優先という差別に利用されかねないことを私たちは憂慮している。

1998年9月17日に首相に提出された食料・農業・農業基本問題調査会の答申、および98年12月の農水省の農政改革大綱は明らかに、国内生産増大と食料自給率引き上げを目指しており、これらの目標達成に消費者が寄与するよう求めている。これら2つの文書は、こうした枠組みにおいて、消費者に「日本型食生活」を採り入れるよう奨励し、消費者の「適切な商品選択」を可能にするために表示が拡大していくことを示している。

以上を背景に、新農基法のなかでとりわけ懸念される条項がある。

・第12条「消費者は、食料の消費生活の向上に積極的な役割を果たすものとする」
・第16条1項「国は、食料の安全性の確保及び品質の改善を図るとともに、消費者の合理的な選択に資するため、食品の表示の適正化その他必要な施策を講ずるものとする」
・第16条2項「国は、食料消費の改善及び農業資源の有効利用に資するため、健全な食生活に関する指針の策定、その他必要な措置を講ずるものとする」
「新たな酪農・乳業対策大綱骨子」（1999年3月）によれば、「ミルク」という言葉は、主に液状ミルクを原料にしている酪農品にしか使われないようである(第Ⅲ.4(1))。この措置の目的が「国内産ミルクの消費拡大」にあることは明白である。

以上を背景に、新食品表示制度が輸入品差別のために誤用される可能性があるとのニュージーランドの懸念を、日本当局は理解していただけると思う。

従って、私たちは下記の確認を求めたい。
1) 新食品表示制度が輸入品に対する実際上の差別につながらない。
2) 「ミルク」という言葉の限定を（上記の「新たな酪農・乳業対策大綱骨子」参照）、脱脂粉乳など輸入酪農品原料の使用に不利になるような形で用いない。
3) 原産国表示義務（実際上は輸入品が不利になりうる）の代わりに、生産者が生鮮食品の原産国／原産地の特定をすることが許可される。

○ 所管省庁における対処方針

(JAS法部分)
(1) JAS法改正の経緯

農林水産省では、97年9月に農林物資規格調査会に基本問題委員会を設置し、7回にわたる審議及びパブリックコメントを踏まえ、98年10月には報告書「食品等の表示・規制制度の見直しについて(取りまとめ)」を公表した。報告書では、消費者保護の観点から、消費者が必要とする全ての品目について表示基準を策定すること、生鮮食料品の原産地表示等につき、消費者・生産者のニーズを踏まえ対応すること、表示・規格の国際規格との整合化の推進等が述べられた。

また、昨年12月のOTO対策本部会合でも、農林物資規格調査会の報告書について、市場アクセスの一層の改善に向けて以下の措置を講じることが求められている。
1) 報告書の内容を着実に実施するため、規格の見直しや制度の運用改善を図るとともに、制度的な見直しが必要なものについては、直ちに対応を図るべきである。
2) 消費者等のニーズを踏まえ、水産物の原産地表示等に関するガイドラインのあり方を見直し、必要に応じて法制度に基づく措置としていくべきである。
本年7月に改正・公布されたJAS法は、農林物資規格調査会の報告及びOTO対策本部会合の決定を踏まえ、所要の規定の整備を図ったものである。

(2) 生鮮食品品質表示基準における原産地表示について

生鮮物への原産地表示については、現行基準ではブロッコリー、玉ねぎ等9品目に表示を義務付けているが、今回の改正では消費者の合理的な選択に資するため、原産地表示の対象を生鮮食品全体(農産食品、畜産食品、水産食品)に拡大し、この拡大にあたっては、輸入品だけでなく国産品についても原産地表示を義務付け消費者の商品選択に資することとしている。この原産地表示に基づき消費者がどのような商品選択を行うかは、外国を含む各産地間のこれまでの及び今後の品質向上努力や価格面での努力に依存するものであり、したがって何ら国産品のみを差別的に有利に取り扱おうとするものではない。

我が国は国際社会における最大の食料輸入国であり、現在でも多くの外国産品がその品質の優位性から、我が国市場において有利な地位を確保している。

(3) 今後の予定

なお、生鮮食品全体に原産地表示を義務付ける生鮮食品品質表示基準の制定にあたっては、2000年4月の告示に向け、パブリックコメントの募集、WTO通報など所要の手続きを行うことにより、透明性を確保していくこととしている。

(大綱部分)
(1) 「新たな酪農・乳業対策大綱」において、「消費者の的確な商品選択に資する観点から、原則として生乳を主な原料とするものに限って「牛乳」の文言を認める等、牛乳類の表示の改善を図り、これを契機として国産の牛乳類の消費の拡大を図る。」としているところ。

(2) ここでいう牛乳類とは、乳等省令で定義されている種類別「牛乳」、「加工乳」、「乳飲料」、「部分脱脂乳」及び「脱脂乳」を総称したものであり、輸入乳製品も右のいずれかに該当すれば牛乳類とされるとともに、輸入乳製品を原料として国内で製造される乳製品も右のいずれかに該当すれば牛乳類となる。

(3) 牛乳類の表示の適正化のためには、「乳飲料の表示に関する公正取引規約」の改正が必要であり、現在、その手続中である。この表示規則変更の目的は、消費者に適正な情報を提供し、消費者の誤認・混乱を解消することにより牛乳類全体の消費を拡大することであり、国産原材料使用製品の差別化のためではない。

(4) なお、今回の表示規則の改正により牛乳類全体の消費が拡大することが見込まれること、結果的にその原材料となる脱脂粉乳の需要も拡大すると予測している。従って我が国にとって脱脂粉乳の主要輸出国であるNZからも、引き続き堅調に輸入がなされるものと考えている。

(参考)
日本語で「milk」を意味する語は、「牛乳」、「ミルク」、「milk」及び「乳」がある。現在、種類別の「牛乳」、「加工乳」及び「乳飲料」については、小売パッケージにその旨を記載することになっている。一方で、商品名については、種類別の「牛乳」に加え、「加工乳」及び「乳飲料」に該当する製品でも、一定の成分規定を満たせば、生乳を使用していなくても「牛乳」の文言を使用することが可となっている。このことが現在消費者に混乱を招いている。今度の表示規則の変更に伴い、生乳の使用が50%未満の牛乳類（加工乳、乳飲料）の商品名として「牛乳」の文言は使用不可となり、「ミルク」、「milk」及び「乳」の文言については、引き続き使用可能となる。

(備考)
新食品表示制度、原産地表示義務について問題提起者は、当面この方針で了解。乳製品の表示についても、日・NZ酪農品需給情報交換会議において引き続き議論していくことで両国の見解は一致している。

なお、対処方針にある「乳飲料の表示に関する公正取引規約」は99年12月22日に改正されたところである。

フォローアップ(平成12年12月7日)

1-(1) 食品表示規制の弾力的運用

昨年12月28日に生鮮食品品質表示基準案に対するパブリックコメント、本年2月20日に当該案のWTO通報に対するコメントの受付期間を終了し、3月31日に生鮮食品品質表示基準を告示した。　
WTOのTBT委員会等においてニュージーランドから、原産地と品質の間には科学的・技術的な相関性はなく、当該制度の導入によって外国産品の差別化が行われる懸念があり、また、原産地表示義務化は生産者等に不要なコストを負担させるので、任意表示とすべき等とのコメントがあった。
これに対して当方から、原産地表示は消費者の関心に応え、正確な情報の提供により、その利益の保護を図るために必要な制度であって、商品の選択は消費者自身の選択のみに委ねられること、また、当該制度は国産品と外国産品と同等に課せられるものであること、外国産品については通関の際に申告する原産地を表示することとなっているので、本制度によって生産者等に従来と比較して過大な負担を課すものではないこと等の説明を行った。
その後、当方よりニュージーランド側に先方の今後の対応について確認したところ、ニュージーランド大使館から、TBT委員会でこれ以上は追求しないこととし、当面の間は新制度の実施に伴う商業上の影響をモニターしたいとの返答があった。