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市場開放問題苦情処理推進会議第7回報告書(平成14年3月18日) [本部決定]

1-(1) 植物検疫の透明化・合理化

○ 問題提起者:東京商工会議所

○ 所管省庁:農林水産省

○ 問題の背景

(1) 消毒命令等の理由の明示
 植物を輸入した者は、遅滞なく植物防疫所に届け出て検査(輸入検査)を受けなければならず(法第8条)、この輸入検査の結果、「検疫有害動植物」があった場合は、発見された検疫有害動植物の種類により、消毒又は廃棄の措置が命ぜられる。(法第9条)
 植物防疫法上、全ての有害動植物が消毒、廃棄等の措置対象となるものではなく、有害動植物のうち、1)国内に存在することが確認されていないもの、2)既に国内の一部に存在しており、かつ、国により発生予察事業その他防除に関し必要な措置がとられているもの、のいずれかに該当するものとして農林水産省令で定めるものが、「検疫有害動植物」として消毒等の対象となる。

(2) 消毒方法の改善
 消毒方法の基準については、輸入植物検疫規程により、検疫有害動植物に応じて、青酸ガス倉庫くん蒸や臭化メチル倉庫くん蒸等の方法が規定されている。
 くん蒸に使用される薬剤のうち臭化メチルは、オゾン層保護の観点からモントリオール議定書に基づき、不可欠なものとして合意された用途及び検疫用途を除き、2005年には廃止が決定されている薬剤である。

(3) 輸入検査及び消毒の実施方法の改善
ア 植物検疫協会は、輸入植物の検疫関連業務について委任を希望する輸入業者等から「植物防疫法に基づく検査申請手続、その他事務手続一切の業務」の委任を受け当該業務を行っている。
イ 植物防疫法に基づく検疫や防除に従事するものとして、植物防疫官が置かれている。(法第3条)
 この植物防疫官は、1)法第6条(輸出国の政府機関により発行された証明書の添付等)の規定に違反しないかどうか、2)輸入禁止品であるかどうか、3)検疫有害動植物があるかどうかの検査を行い、その結果、検疫有害動植物があった場合は、その植物等を消毒若しくは廃棄し、または、植物防疫官立会いの下、その植物等を消毒すべきこと等を命じなければならないとされている。(法第8条、第9条)
 なお、過去3年間の定員推移は、次のとおり。
 平成12年度末:782人、13年度末:783人、14年度末見込み:798人

○ 問題提起内容

(1) 消毒命令等の理由の明示
ア 理由の明示の徹底
 消毒命令等に当たり、その具体的理由(輸入植物に付着している検疫有害動植物名等)が輸入業者に伝わらないまま、消毒等が求められている。
 この点について、農林水産省は、「市場開放問題苦情処理推進会議第3回報告書(平成8年3月18日)」において、「輸入植物の検査の結果、消毒等所要の措置が必要な場合は、輸入者等から提出される輸入検査申請書に直接植物防疫官が理由(病害虫の名前を含む)を付し、輸入者若しくはその委任者に通知している。(略)本問題提起を踏まえ、輸入者への検査結果等情報の通知方法について、周知徹底を図っていく」としている。
 しかし、現状は平成7年度当時と変わっておらず、消毒命令等の理由の明示についての周知徹底が図られておらず、改善がみられない。
 したがって、農林水産省は、消毒命令等の理由を必ず明示し、不要な消毒等が行われないよう、所要の措置を講ずるべきである。

イ 「消毒(廃棄)命令書」の交付
 輸出国事業者に生産行程の改善を促したり、損害賠償請求を行うために、「消毒(廃棄)命令書」を必要とする輸入業者が存在する。
 しかし、この「消毒(廃棄)命令書」の交付を受けるためには、毎回、交付の要求をしなければならず、また、この命令書を仲介者を経て輸入業者が受けるには、数日以上の期間を要する場合があり、輸出国事業者に対する請求等に障害となっている。
 したがって、「消毒(廃棄)命令書」については、別途の申請を求めることなく、命令と同時に、全件について交付すべきである。

(2) 消毒方法の改善
 10万種もの膨大な種類の病害虫が存在すると言われているが、これらに対する植物検疫における消毒方法の基準は、臭化メチル又は青酸ガスによるくん蒸等、現在17種類となっている。
 しかし、この臭化メチル及び青酸ガスは、人体、物資、地球環境に与える影響が懸念されている薬剤であり、消費者からも、人体、物資、地球環境に与える影響の少ない方法で消毒等を行うことが求められているところ。
 農林水産省は、個々の病害虫に応じ、現行よりも人体、物資、地球環境に与える影響の少ない消毒方法を検討し、導入すべきである。

(3) 輸入検査及び消毒の実施方法の改善
ア 輸入検査開始時刻(目安)の通知
 輸入検査の開始時刻について、現在、個々の事業者毎の検査開始時刻(目安)は示されておらず、場合によっては長時間の待機を余儀なくされる状況。
 農林水産省は、事業者の利便性向上を図るため、予め個々の事業者毎の検査開始時刻の目安を示すべき。

イ 植物検疫協会による関与の排除
 植物検疫協会が存する港においては、ほとんどの輸入業者は、同協会と委任契約を締結し消毒等に係る事務を委任している。
 一方、非協会員が直接消毒(くん蒸)業者にくん蒸を依頼しても、くん蒸業者は同協会からの圧力を恐れくん蒸に応じないため、事実上、非協会員はくん蒸を受けられない例がある。
 景気低迷が続く中、中小企業にとっては、同協会に係る経費も負担となっており、また、支払った経費に見合う事務代行もないことから、農林水産省は、くん蒸の実施について、同協会による関与を廃止し、防疫所、くん蒸実施業者、処置希望者の3者のみで完結するような環境を整備すべきである。

ウ 植物防疫官等の業務の見直しによる全件即日検査の実施
 生鮮野菜類を中心とした輸入が急増している海港及び空港については、当該海港及び空港を担当する植物防疫所の検査処理能力(輸入の多い2か月の過去3年間の平均検査件数)を超える場合には、当日検査が行われず翌日以降の検査となる場合がある。
 しかし、特に生鮮品について翌日回しとなった場合の経済的損失は大きく、全件について即日検査をすべきである。
 これについて、農林水産省は、植物防疫官の体制が十分でないことを理由として挙げているが、行政のスリム化の中、植物防疫官の大幅な増員が見込めない以上、現在の植物防疫官等の業務を抜本的に見直し、増加する輸入量に対応する対処方策を至急確立すべきである。

○ 検討結果

(1) 消毒命令等の理由の明示
ア 理由の明示の徹底
 消毒命令等の理由の明示に関しては、平成7年度にも同様の問題提起が寄せられており、OTO対策本部決定において、所管省は、消毒命令等の理由の明示について「周知徹底」を図ることが決定されている。
 しかし、この平成7年度OTO対策本部決定に基づき、所管省が講じた措置内容は、検疫有害動植物名等消毒命令等の理由を、文書ではなく口頭で輸入業者等に通知するに止まっており、文書による通知を受けるためには、別途、「消毒(廃棄)命令書」の交付を要求しなければならない状況となっている。

 さらに、この「消毒(廃棄)命令書」様式には、検疫有害動植物名等消毒命令等の具体的理由を明示する欄は設けられておらず、所管省は、運用上、消毒方法の種類を記載する欄に併せて病害虫名を記載しているとするに止まっている。
 また、所管省は、消毒命令等の理由の通知については、複数の業務委任者が仲介するため、輸入業者まで確実に伝達されていない現状が見受けられるように思われるとしている。
 しかし、複数の仲介者の介在により、口頭での伝達が不確実であるならば、なおさら、全ての場合において口頭ではなく文書による通知を実施し、輸入業者まで確実に伝達されるよう所要の措置を講ずべきである。
 以上を踏まえ、所管省においては、消毒命令等の理由を明示するため、1)電算化を図ることにより検疫有害動植物名等を明記した文書の全件交付を実施できる体制を整備すべきであり、2)「消毒(廃棄)命令書」様式に検疫有害動植物名等消毒命令等の具体的理由を明示する欄を設け明確化を図るべきである。

イ 「消毒(廃棄)命令書」の交付
 所管省は、「消毒(廃棄)命令書」の交付を毎回必要としていない輸入業者等も多いとしているが、その交付を必要としている輸入業者等も存在し、その者の便宜を図るための措置を講ずる必要がある。
 以上を踏まえ、所管省においては、「消毒(廃棄)命令書」の交付を必要とする者の便宜を図るため、毎回交付を希望する輸入業者等を事前登録し、当該輸入業者等については、個別の交付要求がなくとも「消毒(廃棄)命令書」を自動的に交付する制度を導入すべきである。

(2) 消毒方法の改善
 所管省は、臭化メチルくん蒸等は、多種の病害虫に効果があり、大量の植物を、的確、容易かつ速やかに処理することが可能で他の代替剤も無いため、世界的に使用されているとし、また、そのため検疫用途の臭化メチルについては、モントリオール議定書の規制対象外とされているとしている。
 しかし、臭化メチルは、モントリオール議定書の規制対象外であったとしても、可能な場合には他の代替方法を採用することが望ましい。
 以上を踏まえ、所管省においては、消毒方法について、今後、更に新技術の開発に積極的に取り組み、対象植物等に与える影響の少ない消毒方法や、臭化メチルを用いない又は使用量の少ない消毒方法を確立し採用するよう努力すべきである。

(3) 輸入検査及び消毒の実施方法の改善
ア 輸入検査開始時刻(目安)の通知
 所管省は、植物防疫所も検査現場に行かなければ検査場所におけるコンテナの蔵置状況が具体的には分からず、輸入業者等毎の検査開始時刻を予め決めることは困難としているが、例えば、検査場所に到着次第コンテナの蔵置状況を確認することにより、検査開始時刻の目安を把握し輸入業者等に通知することは可能である。
 以上を踏まえ、所管省においては、輸入業者等の負担を軽減し、利便性の向上を図るため、輸入業者等毎の検査開始時刻の目安を輸入業者等の照会に対応して通知できる方策について検討すべきである。

イ 植物検疫協会による関与の排除
 所管省によれば、植物検疫協会は輸入関係者で構成される任意の団体であり、輸入業者と協会との委任契約等は民間の全く自由な経済行為で、国は関与しておらず、また、輸入業者とくん蒸業者間の民間契約に関しては、国は関与することはできないとしている。
 しかし、植物に有害な検疫有害動植物の海外からの侵入を防止することは国の責務であり、そのための消毒等が円滑に行われる環境を整備することも国の責務と考える。
所管省は、民間事業者間の自由な契約関係に配慮しつつ、消毒等が円滑に行われる環境整備について、国として取り組めることを積極的に検討すべきである。
 以上を踏まえ、所管省においては、植物検疫協会を介さないくん蒸を希望する者が制限を受けることなくくん蒸処置がなされるよう、くん蒸実施に当たっては植物検疫協会を介す必要がないことの周知徹底を図るべきである。

ウ 植物防疫官等の業務の見直しによる全件即日検査の実施
 生鮮農産物については、鮮度が重要であることから、迅速に輸入検査を実施し、輸入検査を翌日以降に繰り越さないことが求められている。
 しかし、生鮮野菜類等の輸入が特に増加する時期においては、輸入検査が即日実施できず、翌日以降に繰り越されている場合がある。
 この理由として所管省は、植物防疫所の検査処理能力には限界があることを挙げているが、輸入検査が翌日以降に繰り越される状況は、通年的なものではなく、生鮮野菜類の輸入が急増する毎年一定時期にみられることから、所管省は、この季節的に増加する輸入量に的確に対応するための措置を講じ、全件即日検査を実施するための対処方策を検討することが必要である。
 以上を踏まえ、所管省においては、植物防疫官の業務の効率化を図るとともに、例えば、植物防疫官の補助的業務の実施に、民間技術者や非常勤職員を活用する等季節的な輸入量の変動に応じ全件即日検査を実施するための対処方策を検討すべきである。


OTO対策本部決定(平成14年3月20日) [報告書]

1-(1) 植物検疫の透明化・合理化

植物検疫の透明化・合理化に関し、以下の対応を取る。

ア 消毒命令等の理由を明示するため、1)電算化を図ることにより検疫有害動植物名等を明記した文書の全件交付を実施できる体制を整備し、2)「消毒(廃棄)命令書」様式に検疫有害動植物名等消毒命令等の具体的理由を明示する欄を設け明確化を図る。

イ 「消毒(廃棄)命令書」の交付を必要とする者の便宜を図るため、毎回交付を希望する輸入業者等を事前登録し、当該輸入業者等については、個別の交付要求がなくとも「消毒(廃棄)命令書」を自動的に交付する制度を導入する。

ウ 消毒方法について、今後、更に新技術の開発に積極的に取り組み、対象植物等に与える影響の少ない消毒方法や、臭化メチルを用いない又は使用量の少ない消毒方法を確立し採用するよう努力する。

エ 輸入業者等の負担を軽減し、利便性の向上を図るため、輸入業者等毎の検査開始時刻の目安を輸入業者等の照会に対応して通知できる方策について検討する。

オ 植物検疫協会を介さないくん蒸を希望する者が制限を受けることなくくん蒸処置がなされるよう、くん蒸実施に当たっては植物検疫協会を介す必要がないことの周知徹底を図る。

カ 植物防疫官の業務の効率化を図るとともに、例えば、植物防疫官の補助的業務の実施に、民間技術者や非常勤職員を活用する等季節的な輸入量の変動に応じ全件即日検査を実施するための対処方策を検討する。