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市場開放問題苦情処理推進会議第7回報告書(平成14年3月18日)

1-(7) 検疫有害動植物に係る日本の非検疫有害動植物リスト方策について

○ 問題提起者:在日ニュージーランド大使館

○ 所管省庁:農林水産省

○ 問題提起内容

1.植物防疫法第5条の2においては、まん延した場合に有用な植物に損害を与えるおそれがある有害動物又は有害植物であって、1)国内に存在することが確認されていないもの、又は、2)既に国内の一部に存在しており、かつ、国により発生予察事業その他防除に関し必要な措置がとられているものとして農林水産省令で定めるものを「検疫有害動植物」としている。

しかし、上記を受けた植物防疫法施行規則第5条の2においては、当該検疫有害動植物のリストを掲上するのではなく、「次に掲げるもの以外の有害動物又は有害植物とする」として、検疫の対象とならない(安全性が確認された)非検疫有害動植物63種類を限定的にリスト化し、それ以外の動植物は全て検疫の対象とするという方策を取っているところ。

2.当該方策を取っていることについて、農林水産省は、1)日本は有数の植物輸入国であり、仮に、検疫有害動植物をリスト化しようとすると、10万種以上の病害虫をリスト化しなければならず、かつ、未知の有害動植物をリスト化することは困難な反面、未知の有害動植物についても、安全性が確認されない以上は我が国への侵入を阻止する必要があること、2)検疫有害動植物をリスト化しているニュージーランドにおいても、新たな種類の農産物の輸入希望があった場合には、当該農産物に付着する有害動植物のPRA(危険度の解析)が終了するまでは、当該農産物の輸入を認めないという措置を取っており、当該国の事情を踏まえた最善の有害動植物侵入防止策という観点から議論するべき問題であり、リストの策定方法のみを取り上げて議論することは適当ではないとしている。

3.しかし、上記非検疫有害動植物をリスト化するという方策の結果、検疫動植物をリスト化した場合には検疫対象とはされないはずの、1)既に広く日本に分布しており発生予察事業等の措置もとられていない病害虫や、2)FAO(国際連合食糧農業機関)の基準によれば検疫有害動植物に当たらない病害虫が、検疫の対象とされている状況。

具体的には、Asynonychus cervinus (Boheman), Tetranychus urticae (Koch), Heliothripshaemorrhoidalis (Bouche), Tuckerellaflabellifera (Miller), Hemiberlesialataniae (Signoret), Tyrophagusputrescontiae (Schrank), Limothripscerealum (Haliday) の7種については、日本においても検疫の対象とすべきではない病害虫であるにもかかわらず、上記リスト化の結果、検疫の対象とされてしまっている。

また、当該非検疫有害動植物のリスト化により検疫を行っているのは、主要農産物輸入国では、日本1か国のみであり、日本は国際標準に準拠していない状況となっており、更に、本件問題は、ニュージーランドのみならず、他の対日農産物輸出国においても同様の問題となっている。

4.したがって、農林水産省は、検疫有害動植物について、現在の非検疫有害動植物をリスト化しそれ以外の動植物を全て検疫の対象とする方策を改め、国際標準に準拠し「検疫有害動植物リスト」を策定することとするとともに、当該措置までの間においては、直ちに上記7種の病害虫を検疫の対象としない措置を講ずる必要がある。

(再意見)

1.農林水産省からの回答1.で、農林水産省は、「非検疫有害等植物としてリスト化されている63種類以外の動植物は全て植物検疫の対象とする」とのニュージーランド側の指摘は正確ではないとしています。ニュージーランドは、「植物を加害しないものを輸入植物検疫の対象としていない」という、農林水産省の主張には同意します。しかし私共が懸念するのは、植物を加害する可能性はあるものの、日本では検疫有害動植物ではないものについてです。なぜなら、例えばそれらは既に日本で発生しているものであり、FAOで定義されている検疫有害動植物(quarantine pest)ではないからです。従ってニュージーランドは、「有用な植物を害し、日本の農業生産に悪影響を及ぼす有害動植物のみが植物検疫制度の対象となる」その有害動植物をリスト化されるよう、再度要請したいと思います。

2.農林水産省からの回答2.では、「我が国は、輸入禁止及び栽培地検査対象の病害虫の付着するおそれのある植物以外の植物類は、輸入検査を受け検査に合格すれば(不合格となっても消毒すれば)すべて輸入が可能であるという極めて透明性のある制度を採用している」と主張されていますが、私共の提起した問題に対処していません。私共が問題としているのは、日本のくん蒸・消毒の制度が科学的に正当でない政策に基づくものであり、そのため、既に日本に存在する有害動植物が付着している場合でさえ、その輸入品がくん蒸される結果となっているという点です。

3.農林水産省からの回答3.では、私共の2001年6月29日付けの問題提起書(2)で「最近ICPMが『公的防除(official control)』の国際基準定義を採択したことから考えて、農林水産省が日本の植物検疫政策を早急に国際慣行に合致させることが可能になると、私共は期待する」とした要請に対して、農林水産省は回答していません。私共は、昨年5月に国際的に合意された「公的防除(official control)」の新定義を日本が採用、導入されることを確認したいと思います。

4.農林水産省からの回答は、私共が(2001年6月29日付けの問題提起書(3)、2000年7月12日付けの問題提起書(1)の日本の非検疫有害動植物リストについてで)提起した、1996年植物防疫法第5条の2で定められている「有害動植物」を指定する省令を発令するという要件を、植物防疫法施行規則が満たしていないという私共の懸念について答えていません。農林水産省からの回答1.で、農林水産省が非検疫有害動植物リストにある63種類以外の動植物には、害を及ぼす動植物と害を及ぼさないものがあるとの認識を示しているのは、63種類の有害でない動植物のみをリスト化している現行の日本の制度が、「有害動植物」を指定するという法的要件を満たしていないことを自ら証明することになります。従って私共は、農林水産省が、植物防疫法第5条の2で規定されている通り、「有害動植物」を指定するという日本の法律要件を導入されることを要望します。

5.農林水産省の回答4.について、ニュージーランドは1年以上前に(2001年1月)、更に基本的な政策変更に取り組む暫定的な措置として、7つの有害動植物の検疫ステータスの明確化を要請しました。残念ながら農林水産省からいまだ回答を頂いておりませんが、これらの有害動植物について調査中であるとの報告を歓迎しております。日本に存在しているのか、いないのかについて農林水産省から回答を下さいますようお願い致します。

○ 所管省庁における対処方針

1.「検疫有害動植物について、植物防疫法施行規則第5条の2において非検疫有害動植物63種類を限定的にリスト化し、それ以外の動植物はすべて検疫の対象とする」とのNZ側の指摘は正確ではなく、我が国の植物検疫制度では、有用な植物を害し、我が国の農業生産に影響を及ぼす有害動植物のみを輸入植物検疫の対象としているところであり、植物を加害しないものまでを輸入植物検疫の対象としていない。

2.「現行の非検疫有害動植物をリストとして提示する方法から検疫有害動植物を提示する方式に改めるべきである」とのNZ側の指摘については、NZとは輸入検疫制度に相違があることからリストの作り方についても相違があると認識している。すなわち、NZは新たな農産物は元々輸入禁止されており、それについての輸入希望があった場合に当該国の当該植物に付着する病害虫のPRA(危険度解析)を行いそれが終了するまで輸入検疫措置を決定しない(それまで輸入禁止のまま)と承知している。この制度の下では、PRAの終わった病害虫のうち危険な物を順次検疫有害動植物リストに追加する一方、PRAの終わっていない病害虫の輸入を認めないことで検疫上の安全を確保している。一方、我が国は、輸入禁止及び栽培地検査対象の病害虫の付着するおそれのある植物以外の植物類は、輸入検査を受け検査に合格すれば(不合格となっても消毒すれば)すべて輸入が可能であるというきわめて透明性のある制度を採用している。

3.「検疫有害動植物リスト」を策定するべきとのNZ側の指摘については、我が国としては、国内農業に重大な影響を及ぼす可能性のある未知の病害虫を含む10万種以上ともいわれる有害動植物の国内への侵入・定着を回避するためには、検疫有害動植物を非検疫有害動植物リストの挙げられている有害動植物以外のものとして示すことがより効果的であると考えていることから、この方式を採用しているものである。したがって本件については、それぞれの国の事情を踏まえて最も効果的な検疫有害動植物の侵入の防止策をとるべきであり、リストの作り方だけを取り上げて議論することは適当ではない。

なお、国際基準は、リストの作り方まで定めておらず、我が国の「検疫有害動植物リスト」の策定方法が国際的に定められた方法に反するとのNZの主張は誤りである。

4.また、非検疫有害動植物の追加については、今後とも、有害動植物の危険度の評価を進め、我が国の国内農業生産に影響を及ぼさない有害動植物については、順次非検疫有害動 植物に追加し、有害動植物の危険度に応じた植物検疫を実施していくこととしており、NZ側が検疫の対象としない措置を講ずる必要があるとしている7種の病害虫についても、現在、その取扱いについて検討中である。現時点で結論は得られていないが、7種の病害虫の中には例えば我が国未発生の有害動物が含まれている等我が国としては慎重な検討が必要との立場である。

(再対処方針)

1.NZ再意見の1について

(1) 我が国が植物類を加害しないものを輸入検疫の対象としていないことについて、NZの同意が得られたものと考えます。

(2) NZの指摘される「有用な植物を害し、日本の農業生産に悪影響を及ぼす有害動植物のみが植物検疫制度の対象となる。その有害動植物をリスト化するよう再度要請したい」との点については、同じ主張を繰り返されているものと理解されます。また、この点に関する貴国からの同じ趣旨の質問はNZの再意見2及び再意見4でも表現を変えて繰り返されています。我が国としては、前回の我が国からの回答中2及び3で説明したところですが、改めて、一括して本文の「2について」及び「4について」で説明します。

2.NZの再意見2について

(1) NZの指摘される「我が国は、輸入禁止及び栽培地検査対象の病害虫の付着するおそれのある植物以外の植物類は、輸入検疫を受け検査に合格すれば(不合格となっても消毒すれば)すべて輸入が可能であるというきわめて透明性のある制度を採用しているとしているのはNZの提起した問題に対処していない」との点については、次のとおり説明します。

我が国が非検疫有害動植物リストを指定している方式は、我が国の輸入検疫制度と農産物の輸入実態に即した現実的な措置であり、NZとは輸入検疫制度に相違があることから、リストの作り方にも相違があるものと認識しています。我が国の場合、輸入禁止及び栽培地検査対象の病害虫の付着するおそれのある植物以外の植物類は、輸入検査を受け、検疫有害動植物の付着が認められなければ、合格(有害動植物の付着により不合格の場合、消毒すれば合格)として輸入可能です。この輸入検査制度の下で、現在、世界から多種多様、大量の植物類が輸入されております。一方、世界には10万種もの膨大な種類の病害虫が存在すると言われており、それに対して現在の輸入検査制度による実態を前提として、検疫有害動植物リストを作成することは、現実には不可能です。仮りに少種類づつ順次、検疫有害動植物のリストを作成するとするならば、その過程で、大多数の未判定(検疫有害動植物リストに指定されていない)の病害虫は検疫対象とできず、大量の農産物の輸入の中で、我が国への病害虫の侵入及びまん延、被害を防止するという植物検疫の適正な実施を期することができないことを意味します。このため、そのような方式は、我が国にとっては現実性がなく、制度として採用できません。ただし、もし、NZのように農産物の輸入を禁止した上であれば、輸入要請があった段階で初めて各国ごと、国別にその対象病害虫を調査及び評価を実施し、その結果に基づき輸入条件等を付した上で輸入検査を開始(解禁)することができるため、検疫有害動植物リスト方式は有効といえます。しかし、現在、大量の農産物が輸入されている日本の現状の下では、NZのような方式をとることは、不可能であり、従って、世界の病害虫の中で、日本に発生し、かつ、発生予察事業その他防除の対象とならない病害虫の中からその重要度、被害程度、防除状況、同定診断技術等を調査しつつ、国内農業生産上、問題としなくてよいものから順次、非検疫有害動植物リストに追加する方式とすることが植物検疫の目的を損なわず、かつ、輸入実態に支障を来さない現実的な方法であるとして採用されているところです。

(2) NZの指摘される「日本のくん蒸・消毒制度が科学的に正当でない政策に基づくものであり、そのために既に日本に存在する有害動植物が付着している場合でさえ、その輸入品がくん蒸される結果となっている」について、次のとおり説明します。

我が国の輸入検疫におけるくん蒸・消毒について、対象となる病害虫は、上記で述べた「検疫有害動植物」です。これらは、我が国の農業生産上重大な被害を及ぼすものであり、それらの検疫有害動植物の我が国への侵入・まん延の危険性を防止するために効果的な消毒を行うことは、正当な科学的根拠に基づくものであり、必要不可欠なものです。我が国では、検疫有害動植物が付着したままの農産物を消毒も行わずにそのまま輸入を認めることはとうてい国民に受け入れられないことを理解願いたい。

3.NZの再意見3について

NZの指摘する「昨年5月に国際的に合意された公的防除の新定義を日本が採用導入されることを確認したい」との点については、次のとおり説明します。

昨年4月にIPPC植物検疫措置に関する暫定委員会(ICPM)において採択された「公的防除」の国際基準については、今後の我が国の植物検疫制度のあり方を考える場合の基盤の1つとなるべきものと考えています。一方、我が国は世界最大の農産物の輸入国であり、大量の農産物に付着して病害虫が侵入するリスクが非常に高いという状況を考慮する必要があります。例えば、国内では発生予察事業対象の病害虫について、国を中心とした防除指導の下、懸命に防除努力をしています。これに対して、海外から輸入される農作物に付着する大量の病害虫を防除対象としなければ、我が国の農業生産の場面の防除の努力が無駄になります。我が国における植物検疫制度及び公的防除のあり方については、このような観点からも考慮する必要があると考えています。

4.NZの再意見4について

NZの指摘される「有害動植物を指定する省令を発令するという要件を、植物防疫法施行規則が満たしていない」との点及び「農林水産省が非検疫有害動植物リストにある63種類以外の動植物には害を及ぼす動植物と害を及ぼさないものがあるとの認識を示しているのは、63種類の有害でない動植物のみをリスト化している現行の日本の制度が「有害動植物」を指定するという法的要件を満たしていない」との点については次のとおり説明します。

検疫有害動植物は植物防疫法第5条の2に基づき、植物防疫法施行規則第5条の2で、「次に掲げるもの以外の有害動物又は有害植物とする」として、有害動植物63種類の非検疫有害動植物が掲げられています。このように、非検疫有害動植物を指定する方式となった理由は上記2で既に詳細に説明したとおりです。我が国の現行の検疫有害動植物に関する法及び省令による規定は、植物防疫法及び同法施行規則の改正(平成8年)に際しての法令制定上の諸審議及び手続き(国会審議、法制局審査、学識者の検討、公聴会等)を踏まえて定められたものであり、我が国の法制上のことであり、法的要件を満たしていないとは考えていません。

5.NZの再意見5について

NZから指摘されている「7種の有害動植物の検疫ステータスの明確化の要請」については、現在、その取扱いについて検討中です。現時点で最終的な結論は得られていませんが、7種の病害虫の中には我が国未発生の有害動物が含まれている等慎重な検討が必要と考えています。検討結果については、現時点では明示できる段階にありませんが、検討が終了次第、従来と同様NZ大使館を経由してNZ植物検疫機関に回報したいと考えています。

(現在の検討状況)
問題提起者において検討中。