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市場開放問題苦情処理推進会議第7回報告書(平成14年3月18日)
○ 所管省庁:厚生労働省
○ 問題提起内容
有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律において、厚生労働大臣は、保健衛生上の見地から、厚生労働省令で、家庭用品を指定し、その家庭用品について、有害物質の含有量、溶出量又は発散量に関し、必要な基準を定めることができることとされている(同法第4条第1項)。これを受け、同法施行規則において、出生後24月以内の乳幼児用繊維製品のうち、おしめ等11品目に含まれる有害物質「ホルムアルデヒド」の含有量について規制が設けられている(同法施行規則別表第1)。また、厚生労働大臣等は、家庭用品衛生監視員に工場、店舗等への立入検査等を行わせることができ、必要があると認めるときは、当該家庭用品の回収命令を発すること等ができる(同法第7条)。
カナダから乳幼児用肌着を輸入しているが、輸入時における所定の検査機関において製品試験を受け、上記基準を満たしているとの証明を受けたにも拘わらず、家庭用品衛生監視員による小売店への立入検査の際、基準以上のホルムアルデヒドが検出されたとの理由で当該小売店に回収命令が出され、その責任を負わされる形で当該小売店から損害賠償を請求された。
(1) 日本の乳幼児用繊維製品へのホルムアルデヒドの含有許容値は、検出してはならない、というものである。これを国際的に比較すると、大多数の国ではそのような基準を設けてはおらず、規制が存在するところ、例えば、オランダの規制(ベビー服のホルムアルデヒド含有許容基準は、特に「使用前に洗濯のこと」との表示がない場合には洗濯前120ppm以内。また、1回の洗濯後120ppm以内とする。:WTO告示G/TBT/Notif.99.515、1999年10月13日参照)と比較しても、日本の許容値は不当に厳しい。また、ホルムアルデヒドは水溶性なので、製品を洗濯すれば容易に洗い流せる。
ついては、1)諸外国の基準に照らして日本の基準を緩和すべきである。また、2)日本が採用している許容値を正当化する科学的根拠等を示してほしい。さらに、3)日本の規制により禁じられた最低基準のホルムアルデヒドがベビー服に含まれていた場合、それが原因となってどのような病気が発症したのか、実証データを示してほしい。
(2) 製品を日本に輸出する際には基準を満たすべく注意を払っており、その結果、輸入時における所定の検査機関による製品試験では基準を満たしていることが示されている。にもかかわらず、特定地域での保健所による立入検査の結果、基準以上のホルムアルデヒドが検出されたとの理由で、全国的な製品回収を余儀なくされた。この背景として、ホルムアルデヒドが自然界に存在するため、輸入時の検査では許容基準値以内であったものが、その後小売店で販売されるに至るまでの間の製品の保管管理状態により製品に吸収され(移染)、結果として小売店に対する立入検査において、許容基準値を超えてしまうことが考えられる。
ついては、1)輸入時における所定の検査機関で行われた試験結果と保健所による小売店への立入検査結果が異なることについての厚生労働省の解釈、2)試験方法について、24月以内とそれを超えるものを分け、両者の試験方法が異なる(例:前者ではテストに「ホルムアルデヒド標準液」が要求されていない)理由、及び 3)輸入時における所定の検査機関発行の証明書が効力を有しない理由、を示してほしい。また、4)小売店への立入検査で許容基準値を超えても、一律に全品回収命令を出すのではなく、製品の保管管理状態の検証による原因の所在の明確化、残りの製品を自主的に再検査し、問題がなければ販売することを認める等弾力的運用を行って欲しい。
(3) 保健所による立入検査を平成12年11月頃よりほぼ月1回の割合で受けている。これは平均的な検査回数と比較して多いと懸念されたため、厚生労働省及び保健所等に検査された製品の情報提供を要請したところ、適切な記録が保管されていないとのことだった。
ついては、立入検査が国内外の何れの製品に対しても平等に行われていることを裏付けるデータを示してほしい。
(再意見)
(1)について
厚生労働省は回答の中で、吸光度差が「0.05 以下」という現行の基準は、「およそ 15〜20ppm 以下」に相当するというが、この換算は恣意的であるように思われる。例えば、平成13年9月26日付けの(財)日本繊維製品品質技術センター(QTEC)のレポートでは、吸光度差0.05は約 15ppm以下に相当するとされている。これを踏まえると、日本の規制(15ppm以下)は、30ppm以下の基準を設けている諸外国に比べ、非常に厳しい規制であると言える。
厚生労働省は、検査方法がゼロ規制であるとの誤解を招いているとしているが、ゼロ規制であるという認識が非常に広範囲に知れ渡っているのが現状である。ガイドラインとして公布されている資料などからも窺える通り、自治体、関連省庁においてもこのことは同様であるように見受けられるので、そうではないことを確認して欲しい。
また、日本の基準の正当性について厚生労働省は、「動物実験」の結果を基準とし規制が設けられたとするが、更なる科学的な証拠、根拠として使われた具体的な調査や分析、特に0.05 ppm という基準がどのようにして決定されたかを示すものなど、詳細かつ具体的な説明をお願いしたい。
厚生労働省は、基準値の緩和について、信頼に足る実証データを要求しているが、逆に、厚生労働省は、30ppmの許容基準で日本あるいは他国で問題が生じたケースにつき、何らかの記録を保有しているのか。
(2)について
自主的に実施した実験結果によっても明らかな通り、通常の環境下においても空気中に存在するホルムアルデヒドの移染は避けられないが、検査方法に移染を見極める手段が欠如しているため、規制の公正な実施を困難にしている。
輸入時の試験は企業の自主的な品質管理の手段であり、法的効力を有しないとのことだが、そうであるならば、何らかの問題が生じた際、輸入業者が保健所から、輸入時点での検査機関からの証明書を提出するよう要請され、また、この検査証明書を所持していない場合には、管理不行き届きとの理由で、保健所への始末書の類を提出することが強要されるのはなぜか。
本規制の責任は国レベルにありながら、その実際の運用は、最近、特に地方自治体(地域の保健所)へ移管されたばかりであるため、一貫性を欠いている例が多々見受けられる。我々は、本規制が依然として不明確である上、正当な理由がないまま国際的に受容された基準を逸脱しており、しかもその運用は恣意的であると考える。メーカーや輸入業者側は、日本の基準に適合すべく「ゼロ・ホルムアルデヒド方針」を工場に導入するなど鋭意努力を重ねているが、やはり、問題の根元は、メーカーや輸入業者のやり方にあるのではなく、この規制自体にあると考える。
製品の供給者が日本の基準に適合できるように支援するために、我々は以下のとおり提案する。
1)信頼性のある方法で検査の可能な、国際的に受容された水準に合った基準設定をすること。
2)本規制の公正かつ平等な適用を図るため、保健所の職員を対象に必要な研修を施すことか、もしくは施行を従来通り国レベルの管轄とする。
○ 所管省庁における対処方針
(1)について
日本においては乳幼児用繊維製品のホルムアルデヒドの含有量について、アセチルアセトン法による測定で吸光度差が0.05以下でなければならないとする基準を定めている。この値については検体中のホルムアルデヒド含有量がおよそ15〜20ppm以下であることに相当するという実験データがある。諸外国の規制状況は一様ではないが、フィンランドやノルウェーにおける30ppmという基準と比較して著しく厳しいとは考えていない。ただし、ゼロ規制であるとの誤解をまねいている試験法については、諸外国に習い、ppmの単位で基準を示すようにするほか、移染(周囲に存在する化学物質が当該製品に付着し汚染してしまうこと)と樹脂加工品(製品そのものがホルムアルデヒドを発生する要因を有している)を科学的に区別し、別基準で取り扱えるようにするための見なおしを検討中である。
当該基準については、ホルムアルデヒドが慢性毒性を有し、また数ppmの低濃度で感作性を有することが動物実験で判明していることから、特に乳幼児の経皮、経口等の暴露量をできる限り低減し、化学物質に対する抵抗力の低い乳幼児期における感作を予防するという観点から設定したものである。
本規制は、基準に適合しない製品の販売等を防止し、抵抗力の弱い乳幼児のホルムアルデヒド暴露量を低減させることを目的としており、現行基準のもとでは、人において特定の病気が発生した例は承知していないが、今後も上記の基準設定の考え方を維持していくことによって、乳幼児に対する安全性を確保し、健康被害がおきないようにしていくことが重要と考えている。また、現行の基準より高いホルムアルデヒド含有量のもとでも、抵抗力の弱い乳幼児に対する安全性が同じ水準で確保されることを示す信頼に足る実証データが存在するのであれば、今後の規制のあり方について検討することを否定するものではない。
(2)について
現在のアセチルアセトン法で不検出と判定された検体は、吸光度差が0か0.01程度であることが多いが、基準の0.05をわずかに下回る値が測定されるものもあり、このような場合には、検体によってホルムアルデヒドの含有量に若干のバラツキがあることは避けられないと思われることから、不検出とされた検体と同一ロットの検体であっても、基準値を超えるものが出てくる可能性がある。個別のケースについては把握していないが、指摘のような試験結果が相違する原因の一つとして、このようなバラツキが考えられる。
また、試験法については、上記のように化学物質に対する抵抗力の低い乳幼児期における感作を予防するという観点から、24ヶ月以内の乳幼児用繊維製品についてのホルムアルデヒド含有量の基準は成人用のそれよりも低く設定しており、比較的少ない量のホルムアルデヒドが溶出しているかどうかを判定するのに適した吸光度差を基準とした方法をとっているところである。
なお、当法律で規制されるのは販売に供されている物品であるので、販売に供される以前の輸入時試験はあくまで企業の自主的な品質管理の手段であると認識しており、その試験結果は法的効力を有するものではない。
商品回収に係る保健所等の行政指導については、特にホルムアルデヒドの場合は製品そのものの品質ではなく、保管状態による移染が基準値超の原因となり得るため、試買試験検査で基準値を超過した場合でも、再度複数店舗より同一製品の試買又は収去による試験を行い、同一製品に起因する基準違反のおそれを総合的に判定することとする等の指針を示し、既に弾力的運用を図ってきているが、現在検討中の、移染を科学的に判定可能な試験法を導入すれば、このような運用がより一層進むものと考える。
(3)について
試買試験や行政指導の実務については基本的に法定受託事務として各自治体に委任されており、厚生労働省は規制基準、試験法及び処理基準等を定めている。
試買試験の結果については、厚生労働省では検査実施件数のみの報告を受けているところであり、対象製品の生産国等の個別統計は所有していない。なお、昨年度は5744件の検査が実施され71件(1.24%)が基準値超過と報告されているが、これらの違反品については生産国等の情報を含む報告を受けており、提供することは可能である。
(再対処方針)
再意見(1)について
先の回答にもあるとおり、日本においては乳幼児用繊維製品のホルムアルデヒドの含有量について、アセチルアセトン法による測定で吸光度差が0.05以下でなければならないとする基準を定めている。この値については、昨年より実施している試験法改定に向けた検討試験において、検体中のホルムアルデヒド含有量として12〜18ppmと言う換算値を得ている。先の回答にあるとおり、諸外国におけるホルムアルデヒド含有量についての規制状況は一様ではないが、フィンランドやノルウェーにおける30ppmという基準と比較して、著しく厳しいとは考えていない。
むしろ、問題は指摘にあるように、ゼロ規制であるとの認識が広範に広まってしまっていること、移染(周囲に存在する化学物質が当該製品に付着し汚染してしまうこと)と樹脂加工品(製品そのものがホルムアルデヒドを発生する要因を有している)を科学的に区別できないことにあると考えており、先の回答にもあるように、ppm単位で基準を示すようにするほか、移染と製品そのものにホルムアルデヒドを発生する要因を有しているものを科学的に区別し、別基準で取り扱えるようにするための見なおしを検討中である。
問題提起者は基準についてさらなる科学的証拠の提出を求めているが、ホルムアルデヒドが慢性毒性を有すること、乳幼児と比較して皮膚のバリアー機能が高く、抵抗力が強いと思われる健常成人に対しても数ppmでアレルギー反応を起こす可能性があることは、毒性学の分野では既に周知のことであると考えている。これに加え、基準設定に先立って実施された動物実験により、ホルムアルデヒドは数ppmで感作性を有することが判明しており、特に化学物質に対する抵抗力が弱い乳幼児における皮膚感作を防ぐという観点から、基準制定当時の水準でホルムアルデヒドの溶出が明らかに確認できる吸光度差0.05という値を基準として採用したものである。
また先の回答にあるとおり、現行基準のもとでは人において特定の病気が発生した例は承知していないが、本規制は基準に適合しない製品の販売等を防止し、乳幼児のホルムアルデヒド暴露量を低減させることを目的としているものであり、乳幼児に対する安全性を確保し、健康被害がおきないようにしていくために重要であると考えている。ただし、現行の基準より高いホルムアルデヒド含有量のもとでも、抵抗力の弱い乳幼児に対する安全性が同じ水準で確保されることを示す信頼に足る実証データが存在するのであれば、今後の規制のあり方について検討することを否定するものではない。
再意見(2)について
基準違反の疑いが生じた際に、輸入業者が保健所から輸入時点での検査結果(検査機関の証明書等)の提出を要請されることについては、原因究明の手段として行われているものである。自主検査を実施するのは製造・輸入業者等か外部検査機関かは問わないが、自主検査で違反が判明しているにもかかわらず販売を強行した場合はもちろん、検査を実施していない場合は、製品の安全性の確認を怠っているとされてもやむを得ないと思われることから、改善に向けた行政指導の一つとして始末書等の提出が求められているものである。
先の回答にもあるように諸外国におけるホルムアルデヒドの規制状況は一様ではないが、本基準値が諸外国に比べて著しく厳しいとは考えていない。ただし、これまでの回答にもあるように、移染を科学的に判定できないと言う問題点があることは認識しており、改良試験法の開発・導入を検討しているところである。また、各自治体における法律の運用については、監視指導についての指針を通知で明確に示しており、恣意的な運用は行っていない。
なお、改良試験法については、確立され次第、技術面を含め周知と普及に努めたい。
(現在の検討状況)
問題提起者において検討中。