OTOデータベース HOME

市場開放問題苦情処理推進会議第7回報告書(平成14年3月18日)

8-(1) グルタルアルデヒドの変異原性試験方法の国際的整合化

○ 問題提起者:在日米国大使館

○ 所管省庁:厚生労働省

○ 問題提起内容

諸外国(米国、欧州等)及びOECDのガイドラインによると「変異原性試験」とは、in vitro 試験(試験管内で行う比較的単純な試験)、及び in vivo 試験(生体で行うより包括的試験)を併せて行い、両試験の結果を用いて総合的に判断し、さらにその度合いによってクラス分けをするような制度になっている。

一方、厚生労働省(旧労働省)の労働安全衛生法における変異原性試験のガイドラインでは、in vitro 試験のみで変異原性の有無を判定し、また、その度合いによるクラス分けもされていない。また、この試験により、変異原性があるとされた化学物質は、取り扱い注意物質として公表されている。その結果、本件の対象化学物質であるグルタルアルデヒドのように、諸外国(米国、欧州等)の変異原性試験では、陰性(変異原性なし)とされている化学物質でも、労働安全衛生法における変異原性試験のガイドラインにそった試験では、陽性(変異原性あり)として公表され、不当な差別を市場で受けている。

したがって、労働安全衛生法における変異原性試験のありかたについて、スクリーニングテストとの位置付け、及び上記の諸外国の制度との整合性を考え、現在の労働安全衛生法における変異原性試験結果に基づき「変異原性が認められる」とされた化学物質であっても、その後、国内外を問わず、in vivo 試験により「変異原性が認められない」という信頼できる試験結果が得られた場合は、「変異原性が認められる」とされる化学物質のリストから削除できる制度をつくるべきである。

(再意見)

1. 下記の2点から、変異原性のあるとしてリストされた物質を、より信頼性の高いデータが有用になった場合は、リストより削除するプロセスが必要と考える。

(1)厚生労働省の対処方針について、「OECD化学品テストガイドライン/p3503、遺伝毒性試験に関するOECDテストガイドラインの序論及び試験の選択と適用の手引き」に「・上記のように、 in vitro の試験に関するプロトコールは、試験の構成上妥協している点があるが、実際には、これらのプロトコールを使ってほとんどの化学物質について信頼できる結果を得ることができる」との内容があり、対処方針と同様の内容を示していると考えられるが、その後に「しかし、結果の解釈に関して、化学物質の構造が及ぼす影響に注意を払うことがその化学物質に関する試験のプロトコールが適正であることを決定するうえで重要な要因となる」との記載もあり、一律にすべての化学物質の変異原性を調べるプロトコールとして in vitro 試験のみでガイドライン化することはこの記述から考えると無理があると思われる。

(2)同書中、「6.実際に試験をどのように用いるか?」については「一般に用いられている変異原性試験の数がたくさんあるので、化学物質を試験する方法の用い方についていろいろな体系が発展してきた。これらは便宜上2群にわけられる。すなわち、連続的または段階的方法およびあらかじめ決めた組み合わせ法である。段階的方法は、論理的な試験の配列から成り立っており、通常2ないし3つの in vitro 試験で始まり、第2段階で in vitro そして/または in vivo の試験を行うが、いずれを選ぶかは、多くの場合、最初の試験の結果によって決定される。第2の方法は、事前に決められた、平行して行われる in vitro および in vivo の試験の組み合わせから成り立っている。これらの試験から得られた基礎資料はすべて総括的に考察される。いずれの場合でも変異原性試験の結果は、他の毒性試験や薬物動態学的研究から得られたデータを合わせ考察されなければならない」との記載があり、段階的に試験を実施し、総括的に考察されることとなっており、我々が今回提起した「「変異原性が認められる」とされた化学物質であっても、その後、国内外を問わず、in vivo 試験により、変異原性がないという、信頼できる試験結果が得られた場合は、「変異原性が認められる」とされる化学物質のリストから削除する制度をつくるべきである」といった段階を経て考察をする内容に合うものであり、我々の提起内容の方がOECDのガイドラインに沿ったものであると思われる。そのため、再度、制度の見直しをご検討いただきたい。

2. 厚生労働省からの回答中、「ヒトに対する発がん性がないことの確かな立証が得られない限りできないと考えている。」に関して、厚生労働省では多くの化学物質について、多くの動物で行われた、発がん性試験の結果についてどの様な位置付けをされているのか。

3. すべての変異原性のある物質としてリストされた化学物質のテスト結果の信頼性を高めるために、厚生労働省ではどの様な努力をされているのか。例えば、in vivo での試験の実施や発表されてきている信頼性の高い、有用な情報の入手とそのレビューはされているのか。さらに、既にさまざまな形(リストになっている等)で発表されている物質の評価について、そのリストから削除する等の措置は一切とられていないのか。

○ 所管省庁における対処方針

現行の有害性の調査制度では、がん原性の疑いのある物質を洗い出す(スクリーニング)ため、労働安全衛生法第57条の5に基づいて『微生物を用いる変異原性試験(生体外(in vitro))』と『ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(in vitro)』の2種類の試験を行い、変異原性の評価を行っている。厚生労働省では、多くのがん原性物質はこの2種類の試験で強度の変異原性が認められることに鑑み、2種類の試験で強度の変異原性が認められた物質については、その結果に基づき労働者の健康障害を予防するという見地から、当該物質の周知及び製造又は取り扱う場合の措置について指導を行うものである。

上記の2種類の試験方法の組み合わせについては、「毒性試験に関するOECDテストガイドラインの序論及び試験の選択と適用の手引」においても、ほとんどの潜在的な変異原物質や遺伝毒性を示す発がん物質を検出できる組み合わせとして支持されている旨の記載がある。

上記2つの試験によって変異原性が認められた化学物質について、これら以外の生体内(in vivo)の変異原性試験の結果をもってその取扱を変更することは、ヒトに対する発がん性がないことの確かな立証が得られない限りできないと考えている。

特に、このグルタルアルデヒドは、WHOのIARC(国際がん研究機構)やACGIH(米国産業衛生専門家会議)においても、ヒトに対する発がん性の評価が定まっていないところである。

(再対処方針)

1 労働安全衛生法第57条の5に基づいて実施している『微生物を用いる変異原性試験(生体外(in vitro))』と『ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(in vitro)』は、がん原性の疑いのある物質を洗い出す(スクリーニング)ために実施しているところであり、この2種類の試験で強度の変異原性が認められた物質については、労働者の健康障害を予防するという見地から、当該物質の周知及び製造又は取り扱う場合の措置について指導を行うものである。

上記のように、本制度は当該物質を取り扱うこととなる労働者の健康障害を防止するため、行政的な措置が必要か否かを判断するためにできるだけ多くのがん原性の疑いのある化学物質を調査することを目的とし、簡便な試験手法によりがん原性のスクリーニングを行っているものである。

また、上記の2種類の試験方法の組み合わせについては、「毒性試験に関するOECDテストガイドラインの序論及び試験の選択と適用の手引き」においても、ほとんどの潜在的な変異原物質や遺伝毒性を示す発がん物質を検出できる組み合わせとして支持されている旨の記載がある。

なお、変異原性試験の用い方については、問題提起者が引用した「遺伝毒性試験に関するOECDガイドライン序論および試験の選択と適用の手引き」の「6.実際に試験をどのように用いるか?」に記述があるが、がん原性の疑いのある物質を調査し、労働者への健康障害を予防するという観点からは、上記の2種類の in vitro の試験によって変異原性が認められた化学物質について、これら以外の生体内(in vivo)の変異原性試験の結果をもってその取扱を変更することは、ヒトに対する発がん性がないことの確かな立証が得られておらず、またWHOのIARC(国際がん研究機構)やACGIH(米国産業衛生専門家会議)において、ヒトに対する発がん性の評価が定まっていない状況においてはできないと考えている。

2 動物試験によりがん原性が認められた物質については、ヒトに対する発がん性のおそれが否定できないことから、専門家による意見を踏まえ、労働安全衛生法第28条の規定により、当該物質をがんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれがあるものとして定め、当該化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針を公表しているところである。

3 厚生労働省では、微生物を用いる変異原性試験及びほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験を行った物質を含め、専門家による意見を踏まえ、内外の文献等から有害性の高いと思われる物質について、動物を用いたがん原性試験、生殖発生毒性試験を実施しており、化学物質に関する有害性のデータの集積に努めるとともに、その結果に基づき化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針を定める等の措置を講じているところである。

(現在の検討状況)
問題提起者において検討中。