2001.5.11.
日本経済研究センター 八代尚宏
依然として総論賛成・各論反対の段階で、望ましい方向には向かっているものの、世界的な「スピードの時代」には欧米諸国との格差はむしろ拡大ではないか。
規制緩和が表面的なものに終わる「意味のない規制緩和」が増える一方で、「細部に宿る規制」の多くは残存している。
これは従来の制度改革が、各省庁の審議会等で利害関係者の合意形成を通じて進められる実態を反映している。
市場競争を阻害する規制の撤廃・緩和と市場原則を強化するための規制強化(競争法、情報公開、第三者評価)を原則とすべき。同時に社会的セーフティネット・機会均等原則・被害者救済のための司法機能の強化も必要。
これまでの財政主体の雇用創出策に代わる新産業創出・雇用機会拡大に結びつく分野を重点とした「戦略的規制改革」を最優先すること。
閣議決定された規制緩和三ヵ年計画に関し、多くの項目が実施時期を明確にしないまま「検討」とされているが、これを「遅くとも1年以内の実施を前提とした検討」に置き換えるべき。
もっとも改革が遅れている社会的規制に重点を置くことは妥当。しかし、現在改革が進行中の情報通信・金融分野等にもある程度の戦力投入は必要ではないか?
社会的規制の内、時間的な制約から医療・福祉、雇用・労働、都市・住宅等に重点を置く方針には理解。但し、その場合にも関連した教育・環境等の分野を含めることが必要。
とくに高等教育の規制改革は成人労働者の教育訓練と一体的に考えるべき。
具体的な政策検討の依頼だけでは、各省庁の審議会に依存することになり、利益関係者による調整プロセスを避けられない。むしろ総合規制改革会議の方で、専門家の協力を得て法改正の原案を作成し、それに基づいた勧告ができないか?
規制改革委員会では、各省庁の審議会等における政策決定プロセスへの働きかけを主としたが、それを迂回した直接的な手段、例えば、現在進行中の公務員制度改革方式を参考にすることが必要。
すでに出来上がった法律・規制だけを対象とするのではなく、各省庁が準備中の法案に関しても重要なものは閣議決定前に協議する仕組みを設けることが必要。また、すでに閣議決定され国会で審議予定の法案に関しても、一定の意見を述べることを検討する必要はないか。
規制改革委員会での議論の蓄積を無駄にせず、「制度的知識」の継続性を維持することが必要。
各省庁の規制の論理を明らかにする「論点公開」は作業に不可欠なプロセス。体系的に行わなくとも、個別作業部会ごとに継続する必要があるのではないか。
事務局が原案を作り、それを委員がチェックするだけの旧経済審議会方式ではなく、委員が主体となって原案を作成する規制改革委員会の伝統を維持すべき。
そのためには、個々の専門分野に精通し、法案作成能力を持つような専門委員の人選がカギ。委員と専門委員は、ジェネラリストとスペシャリストの機能をそれぞれ分担することが必要。
専門委員の人選は、作業部会の担当委員が事務局と相談して行うことを明確にすべき。
構造改革にともなって予想される失業者の増加に備えるためには、労働市場の機能強化が必要不可欠。
その際、雇用機会の拡大・労働市場のミスマッチ解消、セーフティネットの強化のための規制改革に重点を置く。
緊急性の観点から、法改正を必要としないものを優先し、法律の見直しが将来予定されているものについても、必要性の高いものについてはこれを前倒しすること。
現在は別個の体系となっている高等教育と職業訓練との相互乗り入れを図ること。学生への奨学金制度と労働者への教育訓練給付制度の整合・一体化。
期間の定めのない契約と1年以内の有期契約だけでは選択肢に乏しく雇用機会を制約。98年の労基法改正で3年を上限とする有期労働契約が認められたものの、適用要件が厳格なため、現実には活用されていない。このため、以下の改革が必要。
対象労働者の範囲の拡大、契約期間の延長(60歳以上の高齢者については5年契約を認める)(規制改革委員会12年「見解」)
対象労働者の具体的範囲は大臣告示で定められているので、その見直しに限定すれば、法改正までは必要としない。契約期間の3年から5年への延長には法改正が必要。
新規高卒者を対象とした文書募集の規制緩和(11年「第2次見解」)は、通達の見直しで可能。
他方、99年の職安法改正でも労働者の募集に係る規制の多くは手つかずの状態にあり、先進国には例をみない委託募集に係る許可制の廃止等、その大幅な見直しが必要。
職業紹介等の人材ビジネスの健全な発展は、労働市場のミスマッチ防止に有効なだけでなく、それ自体が雇用の吸収先として有望な分野であるが、労基法をはじめとしてこれを「中間搾取」と見る考え方が残存。少なくとも、以下の改革は急務。
企業間取引(対求人企業)における価格規制(手数料規制)の撤廃
基本的なマッチングサービスを除く、職業紹介と関わる付加的なサービスについては、求職者からの手数料規制を緩和(無料原則の例外の拡大:12年「見解」)。省令改正で可。
長期的には、職業紹介、委託募集、労働者派遣、労働者供給等の類似の事業に関する規制を一本化し、人材ビジネスの健全な発展を目指す法改正。
これまでの社会保険は常用労働者をもっぱら念頭に置き、雇用期間の短い短期間労働者を視野に入れず。当面、以下の改革が必要。
短期間労働者に対する社会保険・雇用保険の適用拡大(12年「見解」)。
短期間労働者にマッチした社会保険制度の創設。
失業給付を過去の勤続年数と結びつけた年金類似の制度でなくリスクに応じた保険へ。
労働者派遣をはじめとする人材ビジネスの成長は、近年のアメリカにおける低失業率の維持(雇用機会の拡大)に大きく貢献したとされているが、わが国ではこれまで常用雇用に代替する「悪い働き方」として労働者派遣を規制してきたことが問題。
派遣期間の制限緩和は、規制改革委員会の12年「見解」でも最重要課題の一つとして位置づけ。雇用機会の拡大を図る即効性のある対策としても、法改正を前倒しして行うことが必要(改正派遣法は、施行後3年が経過した時点[2002年12月以降]の見直しを予定)。
派遣事業の対象業務の規制緩和。先進国の場合、広い範囲にわたる「物の製造」の業務について派遣事業を禁止している国はほとんどなく、早急な解禁が必要(12年「見解」)。改正派遣法もこれを「当分の間」禁止しているに過ぎない。なお、高齢者について例外を認めることは、省令改正でも可能。