総合規制改革会議人材(労働)WGメモ

2001年6月18日、於総合規制改革会議事務室
「第三回総合規制改革会議への発言メモ案」
清家篤(慶應義塾大学)

〔1〕雇用・労働市場規制の根拠

  1. 原則は市場決定(雇い主の都合と労働者の都合を市場で調整する)

  2. 労働市場機能の担保(市場均衡成立の条件)

    →完全競争(売り手と買い手の競争上の地歩の均等化:辻村(1977))

    →完全情報(現在情報、将来予見可能性)

  3. 具体的ルール(どんな社会にも雇用・労働市場規制は存在)

    →集団的労使関係(交渉上の地歩の均等化)

    →最低労働基準(交渉上の地歩の差によるコーナーソリューション防止)

    →安全衛生(情報不完全下で完全にリスクを織り込んだ契約困難)

    →長期雇用保障の担保(将来予測不完全下でのホールドアップ問題解決)

    →公的職業紹介(情報探索資源の供与、投資費用の貸与でも可)

    →差別禁止(情報の不完全性による統計上の差別防止)

    →紛争処理(市場決定不成立の場合の制度的決定、決定の履行担保)

〔2〕環境変化

  1. 交渉上の地歩問題が小さい労働者、情報の不完全性少ない労働者の増加

    →新しい労働者像(プロフェッショナル等:稲上・菅野・諏訪・清家(1995))

  2. 雇用保障のありかたの変化(高齢化と競争構造の変化による)

    →「一社雇用保障」から「労働市場を通じた雇用保障」へ

〔3〕検討課題

  1. 労働市場機能の強化(とくに労働市場を通じた雇用保障のために)

    →職業紹介規制の緩和(とくにまだ残っている料金規制など)

    →能力開発プログラムの充実(とくに能力開発資金の貸し付け、税控除等)

    →採用における年齢制限撤廃(少なくとも定年の法定下限である60歳まで)

  2. 個別の雇用制度にかんする規制緩和(とくに新しいタイプの労働者像に対応して)

    →有期雇用契約の拡大(とくに適用範囲拡大、認定の緩和)

    →労働者派遣の拡大(とくに派遣期間の制限緩和、職種の一層の拡大)

    →裁量労働制の拡大(とくに適用範囲の拡大、適用手続きの簡素化)

    →明示的雇用調整ルールの構築(解雇規制の成文法化、解雇履歴の情報開示等)

  3. 社会保険制度等の無差別適用(雇用形態等によらない適用)

〔4〕現時点での当方の考えかた

  1. 労働市場機能の強化についてはすみやかな規制改革を行う

    →雇用における年齢差別禁止ルールは緊急課題

  2. 個別の雇用制度にかんする規制改革は労使のニーズに対応し、優先順位をつけて

    →原則は労使自治(企業側の都合と労働側の都合の均衡点)

    →労働者間、雇用主間のトレードオフの優先順位(新しい労働者像について)

  3. 社会保障制度等の無差別適用はすみやかに

    →雇用保険、年金保険、医療保険の原則無差別適用

〔5〕作業手順

  1. 実態、問題、ニーズの把握(主としてヒアリング等による)

  2. 分析(科学的根拠にもとづく提言)

    →経済学、法律学等の観点からできるだけ客観的な根拠示す(例:八代編(2000))

〔6〕検討のポイント

  1. 現行の規制の理論的な根拠と、その趣旨に沿った機能を果たしているかの立証

    →これは規制をおこなっている担当官庁の説明責任

  2. 環境変化に応じた規制改革の必要度の確認

    →交渉力格差、情報不完全性の問題は新しい労働者像でどの程度小さくなったか

    →Insider/Outsiderの利害のトレードオフのウエイトづけ

  3. 最終的には国民に選択肢を提示する

引用文献

内閣府 総合規制改革会議