2001年9月18日
内閣府 総合規制改革会議
議長 宮内義彦 様
日本労働組合総連合会
会長 鷲尾悦也
私たち、働く者の生活は、失業率が今年7月には史上最悪の5%台に達し、家計の可処分所得が97年以来4年連続で減少するなど、危機的ともいえる状況に落ちこんでいます。また、企業の人員削減計画があいついで発表されるなど、景気の先行きは一層深刻な事態の到来が予想されます。
いま必要なことは、生活・雇用の危機を一日も早く克服し、勤労国民の元気が出る、そして努力が報われる日本社会を創り上げることです。そのためには、国民の生活不安、雇用不安の解決に全力をあげ、経済の活性化、雇用の創出や生活・雇用の安心を高めることがきわめて重要と考えます。
連合は、雇用の創出や地域の活性化と失業や地域経済の停滞を解決するための戦略的な規制改革を行うとともに、環境保全、災害防止、安全・健康、公正労働条件の維持、格差是正など社会の質に関する規制制度は維持・強化する必要があると提言してきました。
貴会議が7月24日に示した「重点6分野に関する中間とりまとめ」と、3月30日に閣議決定された「規制改革推進3か年計画」について、下記のとおり意見を申し上げます。
記
規制改革の検討にあたっては、公正市場ルールと社会的公正の確立をはかりながら、雇用の創出、地域の活性化などを目標にして、「情報通信」「環境」「住宅・土地」「医療」「介護」「教育」等の分野の規制制度を優先的に見直すなど、戦略的に規制改革を進める必要があります。
規制行政のあり方を事前規制型・許認可型・裁量型から事後チェック型に転換すること、市場を「公正な競争」の場とするため、明確かつ透明なルールに整備することが重要です。そのため、公正取引委員会を内閣府に移管し独立性を高め、ルールと監視・検査体制を強化する必要があります。
そして、安全・健康の確保、公正な雇用・労働契約・均等待遇などの公正労働基準、有害物質に対する環境保全の強化など社会的公正にかかわる制度・ルールを社会的に確立することが重要です。
本「中間とりまとめ」は、「我が国の経済成長に貢献する新しい産業やイノベーションを開花させていく」ために、「生活者向けサービス分野」である6分野の抜本的なシステム改革の提言を行うとしています。しかし、人材(労働)分野で提起されている派遣労働、有期労働契約、裁量労働制の規制緩和の前倒し検討、ホワイトカラー職の労働基準法の対象除外の検討などは、不安定雇用の拡大や労働条件の切り下げを促し、公正労働基準を悪化させるものであり、認めることはできません。公正労働基準を確立しながら新たな雇用機会を創出するための規制改革を進めるべきと考えます。
医療分野については改革が遅れ、医療費負担が増大する一方で、医療サービスへの信頼は低下しています。そのような中で、徹底的な情報公開とIT(情報技術)化、診療報酬制度「包括・定額払い」の拡大、薬価の「205円ルール」の廃止、レセプト審査・支払を保険者が直接行えるようにすること等の提言には賛成であり、積極的に進めるべきと考えます。しかし、特定療養費制度の拡大については、医療における格差を拡大し、国民の公平性を阻害するおそれがあり、賛成できません。
医療に関する徹底的な情報公開とIT化の推進について、病歴など個人情報の保護を前提として、積極的に進めるべきであり、貴会議の意見に賛成である。平成3年9月27日厚生省令第51号の附則第2条に定める「磁気テープ等を用いた費用請求の特例」は電子的請求を極めて限定しており、直ちに廃止する。
診療報酬制度について、現行の「出来高払い方式」は医療費の無駄・非効率を生んでおり「包括・定額払い」に転換すべきである。現在、中医協で「急性期入院医療の定額払い方式の試行」が行われているが、試行に参加する医療機関は、10の国立病院等と56の民間病院に過ぎない。大学病院、国公立病院、特定機能病院など公的性格を有するすべての医療機関に参加を求める措置を講ずる。
公的医療保険の対象範囲について、特定療養費制度を拡充することについては、公的医療保険の範囲を縮小することになり、医療サービスの内容に所得によって格差を生じさせ、国民の医療に対する不安を高めるものであり反対である。 現行の特定療養費制度である「差額ベッド」などは、院内掲示、書面による本人同意、領収書の発行などが条件となっている。これらの条件についても、患者が医療機関を選択できるよう、院外掲示も行う。また、書面での本人同意などの条件についても、その実効性を確保するための条件を、より厳格にすべきであり、現行特定療養費制度の問題点について改善を検討すべきである。
診療報酬、薬価、医療材料価格の決定方法などの見直しについて、薬価における不透明な「205円ルール」は直ちに廃止すべきであり、貴会議の意見に賛成である。
保険者機能の強化について、レセプトの審査・支払を保険者が直接行うことについては、社会保険診療報酬支払基金の審査委員会による審査の不透明さが従来より指摘されており、その改善を行うため、保険者が第一次審査を行うことに賛成である。保険者と医療機関との費用契約については、現行法でも行えるようになっており、保険者機能の強化という観点から積極的に進める。
医療機関経営に株式会社方式を認める規制の見直しについては、事業継続性の不確実さ、競争激化による医療費増加のおそれが強く、反対である。また、保険で得た収益を株主に配当することも望ましくない。現在は、医療機関の理事長は医師でなければならないとされているが、病院経営と医療管理の分離によって医療機関の運営の効率化をはかることには賛成である。
医療分野における労働者派遣については、病院ではチーム医療が中心であり、医師や看護士の連携が重要であること、医療事故への対応、患者のプライバシー保護などの観点から、医師・看護士などの派遣規制を撤廃することは反対である。同時に、現在派遣が認められた補助的業務について、使用者責任の確立および管理実態の把握を行う。
提案されている具体的施策のほかに、以下の制度についての検討を要望する。
保険医の定年制および、医師国家資格の更新制を導入すること。
初診料における時間外・休日加算の基準を明確化すること。
施設介護における多様な経営主体の対等な競争のあり方については、介護施設に指定されている介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の3施設、さらに医療保険適用の療養型病床群について、その機能・役割、利用区分の明確化など、利用者の視点に立って検討する。
公設民営の促進については、介護施設への入居待機者を解消するため、事業の継続性・安定性の確保を前提に、自治体による施設建設の運営委託、施設・用地の貸し付け、さらに、民間が建設した施設を自治体が借り上げ、運営を民間委託するなど、公設民営とPFI法の活用などを進める。
施設介護事業に関する情報公開、第三者評価の推進については、その推進をはかる必要がある。さらに、利用者の権利擁護をはかるため、施設の調査、勧告等ができる「福祉オンブズマン」の設置をはかる。
保育サービスの供給不足解消は喫緊の課題である。都市部での待機児童、過疎地域での統廃合問題、休日保育や病児保育の必要性など、多様な保育ニーズに対応しつつ、保育サービスの供給の促進をはかる必要がある。その際、サービスの質的向上、継続的・安定的供給を重視し、現行の認可基準は維持・徹底する。
待機児童の多い地域における定員基準の弾力化については、保育の質を確保するため、現行の弾力化基準(年度当初定員+15%、年度途中定員+25%)を守り、これを緩和することには反対である。一定の設備にかかわる設置基準等の見直しについても、保育の質を維持することを前提条件とする必要がある。
公立保育所の民間への運営委託については、保育所運営の安定性、継続性を条件にして、委託企業を選定すべきである。また、民間企業が効率的な経営を追求するあまり、保育の質低下を招くことがないよう、その運営管理を定期的に監督する措置を講ずる。
認可外保育施設については、実態すら把握されていない現状があり、まず都道府県への届け出を義務づける。その上で、認可外保育施設への助成はあくまでも保育所の最低基準に近づけるための施策として行うべきである。認可保育所とのダブルスタンダードを固定化するものとして認可外保育施設に助成を行うことは反対である。指導監督基準以下の認可外保育施設に対しては営業を認めない「ライセンス方式」の導入については、当該施設の利用者が保育施設を利用し得る条件を整えて行う必要がある。
今後、在宅も含めた多様な保育サービスの拡充をはかることは、保護者の多様なニーズに対応するものとして、賛成である。利用者への直接補助については、保育の質が確保され、かつ選択肢たり得る保育サービスの十分な供給体制が確立するまでは行うべきではない。保育サービスにおける競争インセンティブとして「利用者の獲得」を誘導することは、サービス供給の競争を招き、かえって保育の質を低下させる懸念がある。
保育所に関する情報公開の推進は、賛成である。保育所の第三者評価についても、保育の質向上の観点から促進する。
保育所と幼稚園の融合については、小学校就学前の子どもたちのより良い保育環境の確保という観点から、賛成である。融合にあたっては、現在の保育所・幼稚園の機能と役割を生かしながら、施設の共用化、保育士と幼稚園教諭との連携・交流、合同研修、幼保の子どもたち・保護者の相互交流を強化し、資格の統一化などを進めるべきである。幼稚園の預かり保育拡充にも賛成である。
学童保育の拡充には賛成である。制度の拡充にあたっては、国および地方自治体の責任を明確にすべきである。その上で、児童館や学校の空き教室利用など、地域の実情に応じて工夫し、地域の様々な人材を活用することで、時間の延長、対象年齢を小学校6年生までとするなど、早急に施策を拡充・実施する必要がある。指導員の採用試験の実施にあたっては、現行の指導員の雇用を継続できる措置をとる必要がある。
子どもが健やかに安心して育つ環境の整備は、国・自治体の責任である。「子育ての孤立化」を防止し、子育て不安を解消するためには、保育所が地域において中核的役割を果たすことが必要である。そのため、児童福祉法で定める保育所の入所要件である「保育に欠ける」は、保護者が「保育を希望する」とし、保護者が保育を希望する時にはいつでも利用可能な制度とする。
職業紹介の規制について、求職者からの受付手数料徴収は、ILO181号条約7条1項は「求職者からの手数料は原則禁止」を定めており、求職者に手数料を課すことには反対である。また、求職者からの紹介手数料(成功報酬)を「とくに一定以上の収入を得られる経営管理者層・プロフェッショナル等」から徴収することについては、現行制度の例外規定(芸能家、モデルの職種)の考えを厳守し、その拡大については慎重に行う。
求人企業からの職業紹介手数料の現行上限指導の廃止について、この規制は、中間搾取、虚偽・不正確な求人情報提供、差別的紹介などのおそれを排除するための一環として設けられたものであり、これらの弊害を除去する条件が整うまでは、現行の上限規制の廃止を行うべきではない。
地方公共団体が職業紹介について検討する場合には、その機能、役割、国の機関との連携について十二分に検討を行う必要がある。
学校以外の無料職業紹介事業を許可制から届出制に変更することについては、現在、様々な法人、個人が参入しており、その事業運営に必要な要件について確認する許可申請の現行制度は重要であり、3年後の見直し作業まで、維持する。
派遣期間の1年制限の延長、および物の製造にかかわる業務の派遣禁止の撤廃については、3年後の見直し作業の中で十分な議論をすべきである。派遣業務は臨時的・一時的な労働力の需給調整役として位置づけられるべきであり、派遣業務を常用雇用の代替として加速させないよう現行法の厳正な運用と監督が必要である。また、物の製造については、現在でも請負契約派遣をしている事例も少なくなく、まず、製造業の各事業所のアウトソーシング化の実態把握と厳格な指導監督を行う必要がある。
紹介予定派遣の派遣労働者特定を目的とする行為の禁止について、運用と法制度の見直しは、紹介予定派遣の施行が2000年12月であり、いまだ1年も経過していない状況の中、直ちに見直すことは問題である。新卒紹介派遣の実施状況等も判断すると、少なくとも施行1年後の2002年4月経過後から、状況把握に取り組み、職業紹介事業、派遣事業全体の見直しの枠組み中で検討する。
3年までの派遣が認められている26の専門業務の範囲を拡大することについては、1年制限の派遣職種がネガティブリスト化されていることから、慎重に検討を行う。
有期労働契約期間の上限については、原則1年、特別の専門職などを3年とする現行規定を維持すべきである。上限を5年に延長することは、不安定雇用労働者を増加させるものである。また、労働契約期間の延長は、期間中における退職の自由を制限し、労働者を過度に拘束するおそれがある。有期労働契約の拡大には反対である(現行制度でも、労働者の退職の自由を前提に、3年等の雇用保障を行うことは認められている)。
裁量労働制については、労働基準法において、2000年4月の施行後3年である2002年に企画業務型裁量労働制の見直しを行うことが規定されている。同制度については、労働者保護に関する問題点の把握が不十分であることから、施行状況の十分な把握を行い、労働者保護を強めるべきである。対象の拡大や制度要件の緩和を行うことには反対である。
労働基準法については、労働時間、労働契約等に関する労働者保護が不十分であり、ワークルールの基本法として、その強化に向けた改正が必要である。「中間とりまとめ」に示されている方向は、これに逆行するもので賛成できない。とくに、ホワイトカラーイグザンプションは、過労死などの集中するホワイトカラー職を労働基準法の保護対象から除外しようとするもので、認められない。解雇については、最高裁等で確立している解雇権濫用法理や整理解雇四原則を法制化すべきであり、一部で主張されている、これを切り下げる形の立法は絶対に認められない。
多様な就労形態の労働者の雇用保険・社会保険等の適用について
雇用保険の適用については、すでに90万円の年収要件の撤廃、労働時間を1週当たり20時間以上に引き下げるなど措置されているが、その適用への指導を徹底する。特に、ホームヘルパーについて、移動時間、報告書作成時間を労働時間とする厚生労働省(2001年4月通知)の指導を介護事業者などに徹底する。
社会保険の適用拡大については、適用基準である労働時間・日数要件「4分の3以上」を「2分の1以上」に引き下げる。また、被扶養者認定の収入要件である「年収130万円未満」を「年収65万円未満」に引き下げる。
登録型派遣労働者の社会保険の適用については、雇用契約が短期、断続的である場合でも、契約更新や派遣先見込みなどを考慮した適用基準の弾力的な運用が必要である。
私学教員等をはじめとした雇用保険法の未適用事業所の多い分野に対する適用促進に向けた行政機関の連携や関係業界への働きかけなど取り組みの強化が必要である。
企業年金や退職金制度の設計・運用については、労使自治の課題であり自主的な労使の取り組みが優先されるべきである。その上で、企業年金のポータビリティの拡大や退職金に関わる制度・枠組み等のあり方を検討する際には、その前提として退職一時金と企業年金を包括する退職給付保護制度において法的な受給権保護をはかる必要がある。
大学の改革にあたっては、「入りやすく出にくい大学」をめざすなど、大学入試制度の抜本的な改革等が必要である。また、私立大学に在籍する学生が全大学生の約7割を占めているという実態や諸外国に比べて私費負担が多い実態等を踏まえ、奨学金制度を改善するとともに教育全般に対する公的支出を拡大すべきである。
国立大学の独立行政法人化にあたっては、大学が自主性・主体性が発揮できるよう財政措置をとるとともに、大学経営を担える人材育成を重視すべきである。
奨学金制度については、保護者の所得や本人の学業成績を条件とすることなく、希望に応じて無利子奨学金が貸与できるよう日本育英会および自治体の奨学金制度を改善すべきである。また、無償の奨学金制度も検討すべきである。
大学の評価にあたっては、第三者による横断的な大学評価機関を設置し、評価基準を公開して公正・公平な評価を行うとともに、評価結果は公開すべきである。また、大学教員に対する評価を行う場合は、学生の評価が反映できる仕組みにすべきである。
学生が学習に専念できるよう、企業の早期採用内定活動を制限する指導を強めるべきである。
社会人のキャリアアップを支援し、大学・大学院等での学習機会が拡大できるよう、企業に対して労働時間の短縮、有給教育休暇制度や教育休暇制度等を導入する指導を強めるべきである。
コミュニティスクールについては、公教育のあり方と公的支援措置、子どもの学習権の保証、保護者や地域住民との意見交換・学校運営への参加と情報公開の徹底等について中央教育審議会で多面的な検討を行うべきである。また、不登校の受け皿となっているフリースクールについても一定の要件を満たすものについては公的支援を行うべきである。
私立の小・中学校の設置基準については、都道府県の教育委員会が統一的な基準を設定するなど、学校の設立にあたっての「公立・私立学校の共通ルール」づくりを進めるべきである。
「地域学校協議会」については、現行制度化されている学校評議員制度との関係を整理するとともに、設置する場合は教職員、保護者、地域住民、児童・生徒を構成員に加えるべきである。また、委員相互の議論を大切にして多様な意見が反映できるよう、全体の議論の場を重視するとともに、会議は原則として公開すべきである。
公立学校にかかわる責任の明確化をはかるためには、教育委員会の学校管理を弾力化して校長を中心とした権限を強化し、学校の自主性・主体性を高めることが必要であり、校長任期の長期化や現行の学校評議員制度の定着・改善等を進めべきである。教員人事権を個々の学校に委譲する場合、費用負担のあり方や教員の採用・任命のあり方等を含めたトータル的な検討が必要である。教員人事権を個々の学校に委譲した場合、人事が偏り停滞することも考えられることから、現状どおり市町村教育委員会人事を原則とすべきである。
学校評価の導入にあたっては、多様な価値基準で評価するとともに特色ある学校づくりを実践すべきである。また、教員の評価システムの導入については、第151通常国会で改正された地教行法による、指導が不適切な教員の配置転換等との関連性も考えられることから、当該労働組合と十分協議すべきである。
学区の弾力化にあたって、学校の情報を公開するとともに、通学区域は地域住民が参画して決定し、市町村の条例で定めるべきである。また、弾力化を通じて、特色ある学校づくりと保護者の学校運営への参加に結びつけるべきである。
150万人といわれる現行のフリーターに対して、職業能力を高めるための情報・機会や就職情報の提供を充実すべきである。
循環型社会の構築に向けたリデュース・リユース・リサイクルの推進については、製造事業者・排出事業者の責任、国民の責務を徹底することは当然であり、さらに廃棄物の減量の観点からデポジット制導入と、容器包装リサイクル法の対象であるスチール缶、アルミ缶、ガラス瓶(無色・茶・その他の3種類)、飲料用紙パック、ペットボトル、「ペットボトル以外」のプラスチック容器、段ボール、「紙パック・段ボール以外」の紙製容器等の分別収集体制をすべての自治体で整備し、国民がリサイクルしやすい環境を整える必要がある。
廃棄物の定義・区分については、現行リサイクルと廃棄物処理に関する法律で別々に規定されており、現場が混乱している状況を踏まえ、早急に見直し・法律の整備を行うとともに、総合的かつ一元的な実施体系を確立する必要がある。一般廃棄物・産業廃棄物の区分の見直しとあわせて、医療系廃棄物を従来の処理区分から分離し、適正処理のための法改正を含めた抜本的な見直しも必要である。また、廃棄物処理に係る業、施設許可の見直しについては、産業廃棄物の不法投棄が後を絶たないことから、十分な管理体制の整備などを定めた現行の許可基準を緩和すべきではない。
地球温暖化問題における温室効果ガスの発生削減するための仕組みについては、単に充実させるだけでなく、現行の施策で効果があったもの、予想していた以上に効果が出なかったものなどを早急に評価・分析し、その評価に基づいて今後必要とされる追加施策を検討すべきである。また、経済的負担を課す措置については、総合資源エネルギー調査会、産業構造審議会、中央環境審議会の3つの審議会が同時に検討を行っており、議論が重複している部分や省間による考え方に違いがあることから、これらの調整を早急に行い、政府として一本化した議論を行う必要がある。
天然ガスの利用促進にあたり、ガスパイプラインの埋設深度の規制については、管種、圧力、材質等の違いを勘案し、技術的な裏づけのもと、現実的な基準を検討すべきだが、安全確保を最優先とする。また、埋設深度を変更する場合、他の目的の道路工事などでガスパイプライン折損がないよう、工事事業者に対する措置等をあわせて検討すべきである。
不動産の媒介契約のあり方については、公平性を高めるため、両手仲介および仲介手数料は、国土交通大臣の定める報酬額の上限を引き下げるべきである。
借地借家法の改正前に契約された居住用建物の賃貸借契約については、更新および合意終了等の際に、定期借家権への切り替えを認めるべきではない。
居住用建物の賃貸借の在り方の見直しにあたっては、住まい手が選択の幅を拡大できる長期安定的な定期借家権が必要との観点を踏まえ、存続期間が15年未満の定期建物賃貸借契約については正当事由制度により存続保護の対象とするように検討を行う。
借地借家法の正当事由制度については、解約申し入れの個別事案ごとに貸主と賃借人の必要性を判断する制度は合理的であり、個別の事案に対して示された裁判所の判断を重視して規定の明確化をはかるべきである。
現行短期賃貸借制度の廃止の検討については、正当な賃貸借関係を保護する制度は必要であり、慎重に検討すべきである。
建築基準法の集団規定については、市民にとって規制が理解しやすい規制の検討を優先すべきであり、性能規定への移行を最優先すべきでない。
また、街区単位・地区単位で緩和や規制を柔軟に判断できるような制度等の仕組みの検討については、隣接して行われる複数の土地所有者等による建築行為等を街区単位・地区単位で調整する仕組みをはじめに検討すべきである。
容積率規制制度の合理化にあたっては、中心市街地が空洞化するような非効率的な土地利用を防止するなど、建設投資を適切に誘導する観点を重視し、基盤整備済み市街地のビルドアップを促進するため、未整備の市街地の指定容積率を維持・引き下げるよう見直しを進めるべきである。
指導要綱行政の見直しについて、国は、法律の不備を自治体が指導要綱行政で補ってきたという点を率直に認めて、負担金や施設提供義務などの法制化を検討すべきである。
ピークロードプライシングの導入による交通渋滞・通勤混雑の緩和については、現行有料道路制度の在り方、料金水準についてまず検討を行うべきである。
区分所有法の建替え要件の見直しについては、区分所有者の合意のみとするのではなく、「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由がある場合」とすべきである。
放送コンテンツの高速インターネットによる配信を普及・促進するため、著作権者および著作隣接権者の権利を保護しつつ、放送事業者が保有する放送コンテンツを通信事業者が配信する際の著作権法上の権利処理の簡素化を進める。
行政の情報化にあたっては、政府、独立行政法人、地方自治体等の保有する個人情報の保護制度を確立することが前提となる。そのため、「個人情報保護法案」について、(1)表現の自由を保障しつつ「基本原則」を充実強化する。また、現行の「行政機関個人情報保護法」について、(2)マニュアル情報を保護対象に含める、(3)第三者提供の予定および実績を公示する、(4)保有機関の長は、求めに応じて原則として訂正に応ずる、(5)苦情処理に係る第三者機関を設置するよう、本年秋の臨時国会で法律改正を行うことが必要である。
NHKのBSデジタル放送の在り方について、NHKは民主主義の発展および文化の普及という公的・社会的な役割を担っており、BS放送の普及にも大きな役割を果たしてきたという点を踏まえなければならない。BSデジタル時代においても引き続きNHKが公共放送の役割を果たすため、スクランブル化の実施については慎重な検討を要する。同時に、NHKと民間放送事業者の共存、競争による、新規参入者の効率的な事業展開、多様なサービスの供給、放送の健全な発達を促すべきである。
地上放送のデジタル化の推進については、視聴者への周知徹底に努め、テレビ等の買い換えの必要性について、視聴者に理解を得る必要がある。また、予定した移行期限より数年前の段階で、視聴者への普及の度合いを検証し、視聴者の不利益とならないよう必要な措置を講ずるべきである。
IT(情報技術)化に対応した人材を育成するため、労働者や失業者が職業能力の向上のためIT教育訓練を受ける際に、受講料の補助や賃金保障を行う必要がある。また、民間企業、NPO、大学、専門学校、各種学校等に公的な認定を行い、公共職業訓練機関等とあわせて教育訓練の場として活用すべきである。
循環型社会の形成を推進するため、2003年度策定予定の循環型社会形成推進基本計画については、前倒しで計画を策定すべきである。また、推進基本計画では、製品ごとのリサイクル可能率、回収率、リサイクル率などの目標値の設定と、管理システムの構築を盛り込んだ内容とすべきである。
廃棄物処理業者に関する情報開示については、過去の不法投棄等にともなう処分歴や立ち入り調査の結果などの情報を開示し、事業者が優良事業者選択をしやすいようにすべきである。また、不法投棄防止のため保険・基金制度を創設し、廃棄物処理業者に加入を義務づけることが必要である。
本年4月の家電リサイクル法施行にともなう回収ルートの共同事業化については、独占禁止法に抵触するため、各社は独自ルートを持たざるを得ず、その結果回収価格が割高になった。資源循環に向けた関連業種による共同行為については、循環型社会を早急に構築する必要があることから、独占禁止法から除外し、業界を超えた連携施策や体制整備等を推進する必要がある。
公正な経済取引と透明な市場を確立するため、公正取引委員会を内閣府に移管し、人員を拡充し、体制を強化する。また、優越的地位の濫用など独占禁止法違反行為に対する罰則や、下請代金支払遅延等防止法への役務を含めた下請事業者の利益保護等の機能を強化する。
既存の事業者と新規参入者との条件の格差が大きい公益事業分野などの規制産業に関し、公正取引委員会と事業所管省庁は、消費者利益の増大や利便の向上をはかるために、有効かつ公正な競争を促進する一層の協力を強めるべきである。
独占禁止法違反に係る「警告」および「注意」の発出についてその法令上の権限を明確にし、独禁法の実効性を高め、カルテル行為、中小企業に対する優越的地位の濫用および不当廉売に係る事案等について積極的に発動する。また、「注意」に関しては個別事案の内容に即して可能な限り具体的に公表する。
大規模会社の株式保有総額を制限する基準(独占禁止法第9条の2)の廃止や緩和の見直しは、事業支配力の過度な集中を防止し、一般消費者の利益を確保するなどの独禁法の趣旨にのっとり、これを行うべきではない。
金融会社が他の国内会社の株式を5%超(保険会社は10%超)保有することを原則禁止する規制(独占禁止法第11条)の緩和は、金融会社による事業会社の支配力を強め、公正かつ自由な競争を阻害するおそれがあることから行うべきではない。
企業統治(コーポレート・ガバナンス)のあり方について
企業の監査機能強化をはかる中で、株主のみならず、労働組合や従業員などの関係者の利益の確保や意見反映がなされるよう、現行の監査役会を置く会社の場合において、監査役のうち1名以上は、労働組合代表もしくは従業員代表とすべきである。また、新たに監査委員会を組織する場合には、その取締役のうち1名以上は、労働組合代表もしくは従業員代表とすべきである。
株主代表訴訟を提起できる者を行為が行われた時点の株主に限定することは、取締役の違法行為を追及する手段を限定するものであり、行うべきではない。
株主総会制度の改善について、株主総会の特別決議は、定款の変更、資本の減少、合併、営業の全部または一部の重要な譲渡、取締役・監査役の解任など、関係者の利害に重要な影響を及ぼすものであるので、現行の「発行済株式総数の二分の一以上、出席株主の三分の二以上」との定足数を定款をもって減少させることは、慎重に検討すべきである。
ストック・オプション制度の改善について、ストック・オプションが給与(一時金)の代替となると、従業員の賃金・退職金の権利が脅かされるとの問題があるため、従業員に対するストック・オプションについては、給与(一時金)の代替として付与してはならないとの規定を商法に設けるべきである。
会社運営を電子化することについては、パソコンを利用することができない者が不利益を被ることが懸念される。デジタル・ディバイドの問題を最大限に考慮すべきであり、電子的手段と書面の選択制や、電子的手段による場合の本人同意の必要性などを、商法の規定に盛り込むべきである。
銀行本体の信託業務の兼営については、消費者ニーズに基づく競争促進の観点から、銀行本体のみならず、保険会社の信託業務兼営についても検討する。
銀行・保険会社等が本業以外の業務を営むことにより、金融機関の健全性や消費者利益が損なわれるおそれのある業務の見直しは認めるべきでないが、例えば保険会社本体における介護・福祉関連事業など、規制緩和推進3か年計画に掲げられた項目(銀行・保険会社の資産運用・ファイナンスに関する助言など)以外にも本業と密接な関係を持ち、消費者利益の向上に資する業務については、本体兼営を認めるべきである。
銀行等による保険販売については、銀行等がその優越的地位や影響力を行使することにより、「競争条件の公平性確保」などに問題が生じるおそれがあることから、銀行等がその子会社または兄弟会社である保険会社の商品を販売する場合に限定した上で、住宅ローン関連の長期火災保険および信用生命保険を認めることが適当であるとする「保険審議会報告」を尊重して慎重に対応すべきである。
保険会社の特別勘定の見直しについては、特別勘定の運用リスクが契約者に帰属する勘定であることから、保険会社破綻時においても特別勘定の資産が顧客のために保全されるよう対策を検討すべきである。
企業分野の保険商品に係る事前届出制のあり方については、届出制移行の趣旨ならびに行政手続法の規定を十分に踏まえ、行政等の裁量の余地を残さないことが肝要であり、届出前の商品審査の廃止も含めた検討を行うべきである。一方で家計向け分野の事前届出制については、保険に関する専門的知識や交渉力を持つ企業を対象とした分野とは異なり、家計向け保険商品が適正な保険契約内容を確保し、保険契約者等の保護をはかる必要性が高いことから、認可制の維持など慎重な検討を行うべきである。
生命保険の構成員契約規制については、生命保険商品を販売においてその商品の「契約の長期性」、「保険料の高額性」等を説明する責任を確保し、従業員(構成員)が商品を選択でき、「圧力販売」を防止するなどの機能を有していると言われている。また、この構成員契約規制の下にあって30万人の生保営業員が働いている。構成員契約規制の見直しでは、十分な説明の下で公正に契約できる「消費者保護ルールの確保」並びに「営業職員の雇用問題」を十分に踏まえ、慎重な検討を行う必要がある。
競争政策の観点からの医療費体系の見直し、医療費体系の在り方については、2001年度以降の検討となっているが、できるだけ早く着手すべきである。
保険診療と保険外診療の併用(いわゆる混合診療)は、公的医療保険の縮小、所得による医療サービスの格差を生じさせるものであり、国民が安心して良質な医療を等しく受けられなくなるため、反対である。
保険者機能の強化について、強化策としてあげられている2点、(1)被保険者に対する医療機関に関する情報提供、(2)保険者のレセプト審査、は直ちに実施すべきである。
特定療養費制度の見直しについて、現在、「差額ベッド」などについては、患者への説明が不十分、金額が医療機関によってバラバラ、退院後に差額ベッド代を分割返済、といった問題が起きている。これら、現状の問題点を解決する方策の検討が最優先であり、それがないままに病院による自由なサービス提供に委ねることには強く反対する。
セカンドオピニオンなど患者の意思決定支援を促進する施策については賛成であり、早急に検討し、結論を得るべきである。
訪問介護の介護報酬における3類型のあり方については、不適切利用の是正、ホームヘルパーの労働条件等の安定化、サービスの質向上などの観点から、早急に検討を行うべきである。
障害者施策に関して、身体障害者福祉法等の改正により、福祉サービスの利用方式は、「措置制度」から、契約に基づく「支援費支給制度」(2003年度実施)に転換された。利用者の権利擁護の観点から、市町村の「支援費支給」決定等に対する不服申立については、第三者機関による不服審査制度を創設すべきである。
「確定給付年金法」が制定されたが、さらに、受給権保護をはかるため、5年後の見直しを待たずに、「支払保証制度」を早急に創設すべきである。
職業紹介事業、労働者派遣事業にかかわる見直しについては、1999年の法改正にあたっての議論と国会での決定により、「施行後3年を経過した場合において施行状況を勘案し必要がある時は、改正法の規定に基づき必要な措置を講ずる」とされている。したがって、規制改革推進3か年計画に示されているとおり、指摘事項を含め各般にわたる事項について、法改正後の効果を十分に見極める総合的な実態調査結果を踏まえた上で、関係審議会での十分な議論が必要である。(有期労働契約、裁量労働制の規制緩和、解雇法制化については2 「『重点6分野に関する中間とりまとめ』に対する連合の意見」を参照。)
農作物検査については、食料の安全確保に万全を期す立場から、残留物基準の設定、残留物検査の強化、その結果を迅速に公表するなど必要な対応を講じるべきである。また、輸入食品については、原産国や収穫後の農薬・薫蒸・消毒の使用を表示するなど、安全基準と系統的・一元的な万全の検査体制を確立すべきである。
地域農業を活性化するためには、農業生産法人を含めて、中核農家など多様な農業生産組織・担い手を育成する必要がある。
遺伝子組み換え技術による食品については、将来にわたる安全性の確認が重要なことから、国際的な監視・研究機関を設置し、人体や環境への影響などを研究し、その情報を各国政府や企業、消費者などに公開すべきである。
中山間地域等直接支払制度の見直しにあたっては、対象農用地、対象者などの面から交付基準を実態に即して見直し、利用しやすい制度とすることが求められる。あわせて、自然環境の保全、水資源涵養、景観保全などの見地に立った総合的な政策を策定、実施すべきである。
中山間地等の活性化と国土の均衡ある発展のために、関係省庁・自治体・農協・連合等がネットワークを結び、Uターン、Iターン、Jターン、退職者など地方で生活したい人の基盤や受け入れ体制を整備すべきである。
医薬品のカタログ販売における範囲の見直しについて、薬局等での医薬品販売は対面販売が原則であり、医薬品の安全性確保、副作用の危険性、責任の所在などから、カタログ販売は行うべきではない。
電気事業およびガス事業の自由化のあり方については、安定供給、ユニバーサルサービス、公正な競争、透明な料金制度を前提とする効率的な供給体制が構築されるよう、現場で働く労働者を含む国民各層の意見を踏まえ検討する。また、自由化の中で、事業者の過度なコスト削減等により、地域住民および労働者の安全確保に悪影響が出ないよう配慮する。プール市場の創設については、英国などの例を踏まえ、慎重な検討を要する。
LPガスの取引適正化・料金透明化について、指針等をLPガス事業者が遵守するよう適切に指導するとあるが、LPガス事業者は数が多くその規模も多岐にわたるため、一様の指導ではなく、多様な事業者がそれぞれ理解を深めることのできる方法を工夫して行うべきである。
貨物自動車運送事業および貨物運送取扱事業においては、ごく一部の大企業と多くの下請の中小零細業者で構成される産業構造であり、また、顧客との取引面では荷主優位であることから、料金ダンピングを引き起こす体質を持っている。そのため、料金・運賃規制の見直しにあたっては、不当な運賃料金設定があった場合の変更命令ができるように事前届出制とされている趣旨を踏まえ、最大限慎重な検討を行うべきである。
貨物運送取扱事業の参入規制については、利用者保護の観点から、事業遂行能力のない悪質な事業者の参入を未然に防止することが重要であり、十分慎重な検討を行うべきである。
東京湾、伊勢湾への夜間入出域制限の見直しについては、安全にかかわる規制であり緩和には基本的に反対である。液化ガス積載船等の夜間入出域制限が実施されている理由を十分に考慮すべきである。
瀬戸内海における巨大船への航行管制の緩和については、安全にかかわる規制であり緩和には基本的に反対である。巨大船に対する夜間航行制限が実施されている理由を十分に考慮すべきである。
船員職業紹介事業と船員労務供給事業を有料で行うことについては、違法マンニング(船員手配)が後を絶たない現状において導入すべきでない。船員の雇用責任を明確にした新たな船員雇用制度を確立するため、船員保険加入の義務づけ等を前提とした許可制による船員派遣事業の創設について、引き続き国土交通省「船員職業紹介等研究会」で検討を進めるべきである。
以上