総合規制改革会議における
マイケル・マハラック
駐日米国大使館 経済担当公使の意見表明

(2001年10月1日/於:内閣府)

(仮訳)

宮内議長ならびに委員の皆様、私は、本日、ベーカー大使ならびに米国政府に代りまして、皆様に対して意見表明をさせていただく機会をいただきましたことに、心から御礼申しあげます。私は、ベーカー大使より、大使自身がこの場において皆様にお目にかかれないことを、皆様にお詫びするよう申しつかって参りました。大使は、米国政府は、規制改革ならびに貴会議の職務は、本年6月に小泉首相と ブッシュ大統領により創設された「成長のための日米経済パートナーシップ」における重要な柱として位置づけていることを強調したいと申しておりました。私は、大使より、貴会議による規制改革推進3ヶ年計画の実施に向けたご努力に対して、米国政府は駐日米国大使館を通して十分な協力をさせていただくことをお約束する旨、皆様にお伝えするよう申しつかっております。

昨年のちょうど今ごろ、私は、当時のフォーリー大使と共に、宮内議長が委員長を務められていました貴会議の前身である規制改革委員会の公聴会に出席させていただきました。それは、当時の規制改革委員会が、規制改革推進3ヶ年計画に対する委員会の最終意見書の準備をされている時でした。その意見書において、委員会は、日本の1990年代を「失われた10年」と呼び、改革の実行に対する日本の気乗りの無さや、そのことが日本経済にもたらす衰退的効果に対する委員会の挫折感を表現していました。

その当時から考えると、多くのことがなされてきました。小泉内閣は、規制改革に向けた方針を熱意をもって採用し、貴会議は内閣府のもとに設置され、現行の3ヶ年計画を実施するためのより強力な権限が与えられました。そして、宮内議長は、重要かつ多大な影響力を持つこの会議の議長として、規制改革に向けた活動を、再度、牽引するという要請を、もちろん、お引き受けになりました。宮内議長が引き続きリーダーとして活躍される限り、規制改革に向けた活動が成功裡に運ぶことは疑う余地がありません。

ご承知のとおり、米国政府は、長年にわたり、日本における改革に向けた活動に関係して参りました。それは、強固な日本経済は強固な世界経済にとって必要不可欠なものであるという皆様の認識を、我々も共有するからです。この両者の関係は、どちらか一つが欠けた場合には成り立ちません。昨今のような不確実な時代においては、日本と米国という世界経済における二つの主要な柱が、それぞれの経済に成長をもたらすためのあらゆる可能な方策を講じることが重要です。宮内議長ならびに各委員の皆様は、規制緩和は日本の経済成長の重要なエンジンであることを理解されています。

従って、我々は、日本政府による改革に向けた努力を、貴会議とともに、今後とも支持して参る所存です。我々が貴会議との協力を願う一つの具体的な現れとして、ベーカー大使は貴会議に対して、日本で活動する米国のビジネス・コミュニティーのエキスパートを、貴会議の種々のワーキング・グループの委員として登用することをご考慮いただくため、何人かの具体的な名前を提示させていただいております。私は、在日米国商工会議所も、それらのワーキング・グループが予定するヒアリングに参加させていただくことを希望していることを承知しております。我々は、貴会議の職務の一助と成るのであれば、貴会議がそれらの機会を米国の民間部門の知識と経験を吸収する場に利用されることを希望します。

この数日、我々は、小泉内閣が9月21日に発表した「改革工程表」を興味深く拝見しています。この工程表の中心をなすものは、小泉首相による「改革先行プログラム」ですが、これは貴会議が本年7月24日に発表された「重点6分野に関する中間とりまとめ」において検証された規制改革課題を組み込んだものです。この中間とりまとめにおいて、貴会議は、六つの「重点」社会的分野、すなわち、 医療、福祉・保育、人材、教育、環境、都市再生分野における緊急改革を提言されました。これらの分野の改革は、日本国民の生活の質を改善するために基本的に重要であり、我々は、貴会議のご努力を奨励いたします。

しかし同時に、我々は、貴会議が、規制改革推進3ヶ年計画で取上げられている他の重要分野における規制改革の促進に向けて、その努力を継続されることを希望します。私は、それらの分野に関する我々の要望の幾つかを、皆様にご検討いただくために特に指摘させていただきたいと思います。

本年3月に閣議決定された規制改革推進3ヶ年計画は、規制改革における共通の目標ならびに共通のテーマを検証し、賢明な分野横断的アプローチを採用しています。これは、本年6月に小泉首相とブッシュ大統領が「成長のための経済パートナーシップ」のもとでの規制改革および競争政策に関する二国間イニシアティブを創設した際にも合意されたアプローチです。

本日、私は、規制改革における幾つかの重要な分野横断的あるいは構造的分野、すなわち、競争政策の強化、透明性の向上、商法改正、司法制度改革、保険、流通および運輸について皆様にお話させていただきたいと思います。その前に、私は、3ヶ年計画において取上げられている他の分野、すなわち電気通信、IT、医療、エネルギーに関する我々の考えを述べさせていただきたいと思います。更に、 我々は、その他の改革課題についても日本政府と協働していることを付け加えさせていただきます。例えば、我々は、対日外国投資に対するより自由かつ透明な規制環境の必要性、また、金融サービス分野における更なる規制緩和の必要性について検討を重ねていきたいと考えます。しかし、これらの点につきましては、また別の機会にお話させていただくものとして、本日は、皆様のお時間を頂戴するつもりはございません。


電気通信

まず、電気通信分野から始めたいと思います。我々は、日本が強力な経済大国であり続けるため、また日本国民や日本企業が情報技術によって支配される世界に参加する際に不可欠である製品やサービスへアクセスするために、効率的で競争的な電気通信分野は基本的に重要であるとする、昨年のIT戦略会議の見解に賛同します。6月に成立した改正電気通信事業法は前向きな一歩ではありますが、我々は、改正法が実際にどのように運用されるかを見極めるべく、その施行令の発布を待っているところです。

他の市場における経験は、幾つかのステップが電気通信分野に競争的環境をもたらすための鍵となることを明確に示しています。それらのステップは、我々が日本に対してこれまで提案し続けてきたものです。例えば、我々は、日本が競争促進のための規制を執行する権限と手段を兼ね備えた独立規制機関を設置することを望んでいます。また、我々は日本政府に対し、認可制度から届け出制度に移行するなど、新規市場参入者を不必要な規制から開放することを、重ねて要請しています。さらに、我々は日本に対し、競争のセーフガードを担保する強力な支配的事業者規制を確立するよう強く要望しています。


情報技術

情報技術を取り入れることは、IT業界のみならず経済全体の生産性を高め、雇用を創出し、成長を促します。情報技術は、また、企業が垂直的に統合された組織体系から、水平的な組織体系へと移行することを促進してきました。更に、競争にさらされた企業の方が、保護された市場環境につかった企業よりも新しい技術を取り入れる傾向にあります。

我々は、e・ジャパン行動計画を実行に移し、また、デジタル時代に適合すべく日本の法制度および規制制度の枠組みを見直そうとする日本の努力を賞賛します。その際に、電子商取引や、コンテンツを含む新たなIT商品やサービスが繁栄できるような環境を整え、技術的に中立な枠組みを設立することが重要です。日本がe・ジャパン行動計画を実行に移すにあたり、我々はこの国境のないインターネットの世界における共通の課題について日本と対話を続けてゆくことを楽しみにしています。これらの課題とは、個人情報の保護、明確なISP法的責任のルール化を通してインターネット・サービス・プロバイダーや権利保有者の利益と権利保護のバランスをとること、ペーパーレス取引を更に促進すること、そしてITを基軸にした新しいビジネス・モデルが栄えることを確保にするために現行の法制度を見直すことなどです。


医療

貴会議が「重点」分野の一つとして指摘し、また、政府の改革工程表においても優先的な取り組み項目とされている医療分野に話を移したいと思います。我々は医療システムを改善する為の競争原理導入と構造改革推進に焦点を合わせている貴会議の「中間とりまとめ」を歓迎します。我々は、長年にわたり、そのような手法が、質の高い医療の提供と革新的で費用対効果の高い医薬品・医療機器の開発を促す為に極めて重要であると主張してきました。貴会議が推奨する医療機関経営の効率化と、広告規制の緩和を含む患者の医療情報へのアクセスの強化もまた、重要な前進です。

貴会議の提案する医療システムの効率化の拡充に加え、我々は、引き続き、医療機器の承認審査の迅速化、新しい医療機器の透明な保険医療材料算定ルールの迅速な創設、そして、医薬品・医療機器の価格設定と医療改革についての議論への業界による意義ある参加を推奨します。

しかしながら、貴会議が「医療資機材の内外価格差の解消」に特に注目していることは、大きな懸念を惹起します。日本が医療費の削減を推し進めるのであれば、日本は、貴会議が一般に提案しているように競争原理導入や構造改革を促進することによって、高コストの主な原因に対処する必要があります。恣意的に外国製品を標的とすることは許容することの出来ない非生産的なアプローチです。


エネルギー

分野別課題の最後に、エネルギーについて簡単にお話したいと思います。我々は、電気、ガス分野における日本の継続的な自由化政策を歓迎します。このような政策は、経済成長を促進し、この分野における競争を通じてエネルギーの安定供給を確保し、また、エネルギーコストの引き下げのために極めて重要です。エネルギー分野の自由化は、電気料金を国際的に遜色のないレベルに引き下げ、一般消費者や企業のコストを低減することで、小泉首相がかかげる改革の中心分野の一つである「都市再生」に貢献するものです。

エネルギー分野において自由化に向けた施策は講じられてはいるものの、国内外の新規参入者は、日本のエネルギー市場は、今なお、諸外国に比べ閉鎖的であり、不透明であると感じています。独立した規制機関の設置は、エネルギー市場における競争を促進し、公平性を確保するための基本的な方策です。我々は、日本政府が経済産業省の電力市場整備課およびガス市場整備課に対して、効果的かつ独立した権限を行使することを可能とするために必要な人材・予算および手段を付与することを奨励します。

我々は、日本政府が将来におけるエネルギー政策の実施や研究会の開催について、タイム・テーブルを明示していることを歓迎します。同時に、将来に向けた政策の策定や検討に対して、パブリック・コメントや研究会への参加などを通じて、民間部門や米国政府が有意義な方法で貢献できることを確保するよう要望します。

我々は、送電サービスのコストや利用可能性、また、ガス輸送サービスの価格設定に関する情報など広範囲にわたる透明性の向上を、エネルギー分野においても奨励しています。この分野におけるもう一つの重要な点は、公正取引委員会の活動を強化することを通じて、より競争的環境を整備すること、また、送電ネットワーク、ガスパイプライン、LNGターミナルに対するよりオープンかつ非差別的なアクセスを確保することです。


競争政策

次に、規制改革推進三ヶ年計画において「分野横断的」課題として挙げられている事項に移りますが、私は、それらの中で、より効果的な競争政策の必要性について強調したいと思います。我々は、9月21日に公表された改革工程表の中で提案されている公正取引委員会の地位の格上げを強く支持します。このことは、例えば、公正取引委員会を内閣府に属する独立機関として設置することによって も達成できるかもしれません。競争関係に重大な影響をもたらす市場における急速な変化に対応するために、公正取引委員会の人員も大幅に増員する必要がありますし、また、その審査権限も強化されなければなりません。我々は、カルテルや談合の調査を助ける強力な手段として制裁減免制度を採用することを可能とする法制上の柔軟性を公正取引委員会に対して供与すること、および、違反行為に対する抑止力を高めるためや、制裁を減免することにより調査への協力に対するインセンチブを与えるよう課徴金制度を強化することを推奨します。更に、官製談合に対処するための必要な法整備、国土交通省をはじめとする調達官庁による積極的な改善措置、また、地方自治法 第242条 に規定される住民訴訟の中央政府への適用拡大を含め、談合に対処するためのより強力な新しい措置が必要です。


透明性

規制改革推進3ヶ年計画は、主要な横断的課題として、規制プロセスにおける公平性、予見可能性および説明責任を確保するためには、すべての分野において透明性が改善される必要があることを指摘しています。我々は、この指摘に全面的に同意します。一般市民、企業、あるいは、潜在的な投資家は、彼らの生活やビジネスに影響を及ぼすルールや規制がどのように解釈され運用されるかということがわからなければ、新しい事業を始めたり投資を行うことは躊躇するでしょう。

我々は、貴会議の中間報告が、透明性改善の必要性を一つの独立した課題としては取り上げていないことを理解しています。しかし、この透明性の問題は経済のすべての分野に影響を与えるものであり、我々は、貴議会が3ヶ年計画の実施にあたり、再びこの透明性の問題を取り上げることを希望します。我々は、行政手続法は1994年から施行され、パブリックコメントは1999年から採用されている点を、特に指摘したいと思います。両制度とも、政府活動の透明性を改善することを目的に導入されたものですが、我々はこれらの施策が満足のいく形で運用されているとは思いません。先般、総務省が発表したパブリック・コメント手続の効果に関する調査報告も、我々の見解を確かに支持するものでした。私は、このヒアリングの場において、多くの具体的な分野でより高い透明性が求められていることを指摘させていただきたいと思います。


商法

我々は、また、商法改正、企業の構造および組織に関する法制度の透明性、効率性の改善、更に、国内におけるM&Aの促進に向けた日本政府の取り組みについても賞賛を送ります。対照的に、国際的M&A に関する幾つかの深刻な障害については未だ検討されておらず、日本がこの分野において世界の他の諸国に遅れをとる結果を招いています。我々は、商法および税制を改正することにより、非課税の株式交換において日本企業が受けているものと同じ取扱いを外国企業にも与えることを強く要請します。

商法改革において日本政府が格段の配慮を注いでいるもう一つの重要な分野はコーポレート・ガヴァナンスに関するものです。その誘因は明確です。つまり、激しさを増す世界的競争は、より迅速であり、より柔軟であり、より明確な説明責任を要求するからです。株主の利益を保護しつつ、これらの目標を達成するために、我々は、企業自らが現行の監査役制度か、あるいは、過半数が社外取締役から成る監査委員会(その他の委員会)の設置のいずれかを選択できるとする最近の提案を支持します。その一方、日本が企業に対して最低一人の社外取締役を登用することを義務付ける場合には、それらの企業は、すべての「大会社」ではなく、株式上場会社に限られるべきであり、経営がオーナーの利益に完全に拘束されている非上場会社については適用されないものとすることが妥当と考えられます。

最後に、我々は、商法改正のプロセスを透明なものとすること、また、内外のすべての企業に対して、政府機関およびその他のグループにおける改革に向けた討議について、最大限のアクセスと意見表明の機会が与えられることを強く要望いたします。


司法制度改革

我々は、「司法制度改革審議会意見書 --21世紀の日本を支える司法制度--」と題された報告書を発表された同審議会のご努力を賞賛いたします。同時に、我々は、決意に満ちた行動のみが、日本における司法制度を改善し、日本経済を再活性化するために必要な時宜を得た、効果的な法改正を推し進めることができるものと認識します。

国内外の企業とも、日本においては完全に統合された法務サービスを得ることは、より困難になりつつあると考えています。そして、日本を誰しもが認める国際金融センターにしようとする日本の努力は阻害され続けています。日本の法務サービス分野において最も問題である構造的欠陥の一つは、日本弁護士と外国法事務弁護士との間に認められる関係を厳しく制限している制度です。我々は、この両者による提携の自由に課せられたすべての規制を速やかに撤廃することを強く要請します。これは、ドイツ、フランス、イギリス、ベルギー、そして米国といった他の先進国においては支配的な原則です。


保険

簡易保険(簡保)に関連して、我々は、総務省が郵政事業庁の公社への移行を討論する際には、そのプロセスを透明なものとし、また、如何なるガイドライン案や行政手続き案もパブリック・コメントの対象とすることを強く要請します。


流通

流通分野を検証するにあたり、私が指摘したい重要な点は一つだけです。それは、日本が引き続き通関手続を近代化し効率化することです。新しいグローバル経済は、新たなテクノロジーをもたらし、商品や情報を企業から企業へ、国から国へと迅速に移動させる必要性を高めます。この現象の表れとして、近年のエクスプレス小型包装宅配業(エクスプレス・ビジネス)の急激な成長が上げられます。いろいろな意味でこのビジネスは、グローバル経済の発展にとって不可欠な歯車となっています。我々は、急速に成長しつつあるこのエクスプレス・ビジネスに適応する形で通関手続規制が制定される必要があると確信します。


運輸

流通分野と同様に、私は、運輸分野に関して、一つだけ問題を指摘させて頂きたいと思います。我々は、警察庁が、高速道路におけるモーターバイクの前後2人乗りの禁止の解除を支持する方向で速やかに措置を講じるべきだと考えます。日本は世界中で、そのような2人乗りを禁止をしている唯一の国ですが、その禁止の解除が現在では広く日本において支持されています。2人乗りの禁止の解除は、市場の規制を撤廃するのみならず、モーターバイク利用者に対して、一般道路よりも安全性が高いことが実証されている高速道路へのアクセスを供与することにより、モーターバイクの安全性を高めるという利益をもたらします。


終りに

意見表明を終わるにあたり、私は、規制改革を通じた経済回復に向けての貴会議並びに宮内議長の献身的なご努力に、再度、祝辞を述べさせていただきます。

我々は、数日以内に日本政府に対して、我々が日本の経済回復に貢献すると確信する規制改革の分野を明らかにした公式の要望書を提出する予定です。もちろん、その要望書のコピーは貴会議の皆様にお届けいたします。また、その要望書は、すべての国会議員の方々にも送付させていただきます。その後、大使館職員は、皆様のものとも合致するであろう我々の具体的関心事項について、より十分に説明し、また、我々がよりいっそう協働することが出来る方法を見つけ出すために、貴会議の担当ワーキング・グループにもコンタクトさせていただきます。

有り難うございました。


内閣府 総合規制改革会議