2002年10月22日

内閣府 総合規制改革会議
議長 宮内義彦 様

日本労働組合総連合会
会長 笹森 清

総合規制改革会議「中間とりまとめ」に対する連合の意見

私たち、働く者は、長期不況の影響下にあり失業率が昨年7月に5%台に乗って以降、2002年春からこの8月には5.4%と高止まりし、生活の先行き不安が高まり、生活は不安一色となっている。特に地方・地域では、中小・零細企業等の資金繰りの悪化、老舗や名門企業の倒産・廃業・事業縮小が多くみられ、住民の生活は、疲弊しつつある。今や一刻も早い生活の安心・安全・安定の確保に向けた対策が切望されている。

貴会議が7月23日に示した「中間とりまとめ−経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革−」について、勤労国民の生活改善を進める立場で、連合として意見を述べる。

1.「はじめに」について

(1) 「中間とりまとめ」の提言は、「経済活性化には規制改革が不可欠」と強調されているが、国民が将来にわたり安心して働き、暮らしていける経済社会のグランドデザインを明確に読み取れない。経済の健全な発展には、公正取引や公正労働基準、また安全やサービスの質についての社会的な基準・ルールが必要であり、このことを欠いた規制改革では、国民が求める経済活性化は実現できないことをまず強調したい。

(2) 今必要なことは、単なる規制改革ではなく、国民の生活、雇用の安心・安定を維持・改善し、経済を活性化する対策である。したがって、規制改革では、安全衛生、労働基準、サービスの質の維持・改善を確保した対策を示し、あわせて、民間、行政、地域が、その特性を生かして雇用創出や経済・地域の活性化を行なえる対策を提言しなければならない。
 その際、いずれの対策も国民の生活不安、雇用不安を助長するものであってはならない。

(3) 「中間とりまとめ」には、事後チェックルールの整備が指摘され、情報公開、第三者評価、苦情・紛争処理の検討の必要性が言及されている。しかし、これら事後チェックルール策が、規制改革の具体策とは切り離されて検討課題とされており、これでは安全やサービスの質の確保等の社会的ルールの確立が後回しになりかねず問題である。
 また、これら事後チェックルールは、民間の自主規範のみでは確保できず、公的、社会的な基準として国の責任による検査・監督が欠かせないが、その提言が欠けており、追加すべきである。

2.各章の問題点について

第1章「新しい事業の創出」について

(1)「人材の育成及び供給等に関する規制改革」について

事業を支えているのは「人」であり、人こそが事業を社会的に継続できることを認識する必要がある。単純な「雇用・労働制度のパラダイム転換」は、これら有能な人材を継続的に確保する機能を損ない、経済社会の健全な発展を危うくするものと言わざるを得ない。

  1. 労働者派遣制度については、派遣期間の制限の撤廃を含めた見直し、派遣対象業務の一層の拡大について検討すべきとしている。しかし、現行では、中途解雇、期間更新での同一者再契約、派遣先による契約前面接など違法行為が多発しており、これら違反行為の排除こそが急がれなければならない。これら違法行為を是正するには、国による厳正な法運用と監督体制の抜本強化が必要であり、この監督体制の強化なしに見直し検討は行うべきでない。
     また、有期労働契約は契約期間の特例、適用範囲拡大等について検討を進めるべきとしているが、原則1年、特別の専門職などを3年とする現行規定は、有期雇用労働者に対する拘束を防止し、その労働条件を改善するために、維持されなければならない。

  2. 紹介予定派遣制度は、2000年12月から開始されたばかりであり、その現状の実態と問題点をまず実態把握すべきであり、それを欠いた見直しは行うべきでない。

  3. 求職者からの紹介手数料の徴収については、ILO181号条約7条1項は「求職者からの手数料は原則禁止」としており、現行の措置を超えて求職者に紹介手数料を課すことには反対である。
     紹介手数料は原則として求人側から取るべきであり、現行制度の例外規定(芸能家、モデルの職種、および年収1200万円以上の科学技術者・経営者)を超えた緩和は行うべきでない。

  4. 学校以外の無料職業紹介事業を許可制から届出制に変更することについては、現行でも様々な法人、個人がすでに参入しており、その事業運営を適正に行う必要な要件を確認する許可申請の現行制度が重要となっている。3年後の見直し作業までは現行許可制を維持する必要がある。

  5. 労働基準法については、労働の社会的ルールとしては労働時間、労働契約等に関する労働者保護が不十分であり、これら強化の改正が必要である。
     「中間とりまとめに」示されているホワイトカラー労働者を労働基準法の適用除外(イグザンプション)とする考えは、ホワイトカラー職に長時間残業、過労死などが集中する現状では、認められない。
     解雇については、最高裁等で確立している解雇権乱用法理や整理解雇四原則を法制化すべきであり、一部で主張されている、これら法理を緩和する考えは絶対に認められない。

  6. 裁量労働制については、施行3年後の2003年に企画業務型裁量労働制の見直しを行うことが規定されている。同制度については、労働者保護に関する問題点の把握が不十分であることから、施行状況の十分な把握を行い、労働者保護を強めるべきである。対象の拡大や制度要件の緩和を行うことには反対である。

  7. 企業年金や退職金制度の設計・運用については、労使自治の課題であり、自主的な労使の取り組みが優先されるべきである。
     企業年金のポータビリティの拡大、また退職金に関わる制度・枠組み等のあり方を検討する際には、その前提として退職一時金と企業年金を包括した退職給付受給権保護の法律を制定する必要がある。

第2章「民間参入・移管拡大による官製市場の見直し」について

「消費者主権に立脚した株式会社の市場参入・拡大」については、消費者主権が発揮されることは重要であるが、その前提として、製品・サービスの安全性の確保などサービスの質の社会的確保策が欠かせない。

(1)  医療分野における株式会社参入については、経営の悪化等があった場合でも事業の継続性や患者の医療サービスの質を確実に担保するルールを確立し、また他事業との経営分離を明確にして医療供給の倫理を構築することが必要であり、慎重に検討すべきである。

(2) 福祉分野におけるサービス供給は、公的機関、民間企業あるいはNPOなどが有機的にその機能を補完しあうことが望ましい。そのための制度的な工夫について検討を急ぐ必要がある。

(3) 「教育分野における株式会社の参入」については、株式会社は利益追求など経済活動のための組織であり、利益追求を主目的にすることが許されている。一方、学校教育は、教育の機会均等、継続的な教育条件の確保などが不可欠な要件である。したがって、学校経営に株式会社が参加する場合には、これら教育の社会的要件を確保する条件を構築することが重要であり、慎重に検討すべきである。

(4) 「農業分野における株式会社参入の一層の推進」については、すでに昨年農地法が改正され、一定の要件のもとで株式会社の参入が認められ既に20を超える株式会社の参入が進んでいる。従来から「わが国の農村は水や土地の管理などが無償の行為で共同で管理されいる、株式会社が導入された場合には問題が生ずる」などの課題が指摘されており、これら実情を把握した上で進める必要がある。

第4章「事後チェックルールの整備」について

事後チェックルールの整備については、情報公開、第三者評価、苦情処理・紛争処理を別途に検討するに留まらず、個別の規制改革に対応させて改革課題を示す必要がある。
 同時に、規制改革では、消費者・住民や作業者の安全衛生、労働基準、環境基準など安全と社会的公正の基準については、国が検査・監督機能を強めるべきことを具体的に提起する必要がある。

(1) 医療、介護、教育分野における情報公開を推進すべきと考える。
 医療分野では、インフォームド・コンセントの義務化や、本人や遺族の請求によるカルテ・レセプト開示の制度化など、患者の権利を確立するための医療情報の公開は積極的に推進すべきである。
 教育分野では、私立学校は、経営・財務の状況について情報公開を行うべきである。

(2) 医療、介護、保育、教育分野における第三者評価の実施は必要である。
 医療機関の総合評価や医師の技術評価を行う第三者機関を設置し、評価情報を公開することによって、患者が医師や医療機関を選択できることが重要であり、第三者評価は積極的に推進すべきである。

第5章「規制改革特区」(構造改革特区)について

特区制度は、地方分権を確立することを前提として、地方公共団体が主体となって地域活性化、雇用創出を行い得る制度としなければならない。本提案では、中央で「規制改革」のメニューを提示し、地方自治体が選択する方式であるが、地方が主体性をもって提案し、国がそれを受け入れる方式に改めるべきである。

(1) 本提案の特区構想は、規制改革をすすめること目的とし、まず地域特区による規制改革を進め、その規制改革を全国展開する考えであり、地域の経済活性化が基本目標からはずされている。加えて、規制改革だけによって地域の経済が活性化するとは言えず、地域活性化こそを主目的に据えるべきである。
 規制の一国二制度を安易に導入する考えは問題である。特に、国の労働や環境の基準を緩和した特例措置の導入により、労働基準などのダブルスタンダード化が行われることは、憲法が定めた「法の下の平等」に反するおそれがある。
 加えて、経済活性化に結びつける場合は、「特区」の数を限定しなければ、これまでの地域政策の二の舞になるおそれがある。また、特区の適用期間は例えば10年から20年以上としなければ、特区の効果は期待できない。

(2) 「課せられた規制の特例措置により重大な問題が発生した等の場合に、特例措置の取り消し等により措置の停止ができる」としているが、こうした措置は問題がある。9月20日に決定された「構造改革特区推進のための基本方針」では、地方公共団体が自発的な意思と自己責任により事業を企画・実施するが、それによって生じる可能性のある特区内外における弊害については、地方公共団体が主体的に対応するものとしているが、政府の責任がこれでは曖昧であり、不適切である。
 企業倒産、失業の増加、環境悪化、安全衛生の低下などの弊害をもたらす場合には、直ちにこれを廃止する、国と地方公共団体が責任をもってこれら弊害を除去するとの制度に改めるべきである。

(3) 構造改革特区(規制改革特区)については、「労働者派遣事業の対象拡大や派遣期間の延長」、「有期雇用制度の契約期間(1年または一部3年)の延長」など労働基準・労働関係法に関する規制緩和、そして「リサイクル等の対象物の廃棄物処理法の廃棄物からの除外」などの環境に関する規制緩和については、国民生活の重大な基準の変更・悪化につながるおそれがあり、これらの特区は許されない。
 また、 高度先端医療の推進について、「混合診療」を容認することは、治療内容に経済的格差を持ち込むことになり反対である。

以上


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