総合規制改革会議におけるマイケル・マハラック在日米国大使館経済担当公使の意見表明(2002年10月22日)(仮訳)

はじめに

総合規制改革会議の委員の皆様、本日意見表明の機会を頂戴しましたことに米国政府として御礼申し上げます。

私にとって貴会議において意見表明をさせていただくのは、今回が2度目となります。私は、べーカー大使より、大使自身がこの場で意見表明を行えないことへのお詫びと、貴会議の今後ますますのご活躍を期待している旨を皆様にお伝えする様申し付かって参りました。

大統領と大使は、強固な日本経済は強固な世界経済にとって必要不可欠であるという信念を共有しており、またこの相関関係はそのどちらかがかけても成り立たないことを理解しています。大統領は規制改革および構造改革は経済成長に必要なエンジンであり、日本の国民生活の質的向上には不可欠であると確信しています。

私はまた、米国通商代表部のハンツマン大使と茂木外務副大臣が、今週後半のAPECの場で、2002―2003年の日米双方の規制改革要望書を交換する予定であることを皆様にお伝えしたいと思います。要望書の交換が正式に行われた時点で、大使館から米国政府の要望書を貴会議にお届けするとともに、要望書に対する御質問に対して喜んでご返答致したく思います。

規制改革

この数年の間に、日本では経済・社会規制の簡素化が進みました。小泉政権は、規制緩和を推進し、日本経済を再建するための真摯な努力を続けています。3月に閣議決定された規制改革推進3ヶ年計画は、規制改革や構造改革を推進するための多くの重要な目標と課題を明らかにしています。首相とその経済チームは、いわゆる「失われた十年」と形容される過去10年間の停滞の問題の緊急性を理解し、新しい内閣は日本経済を再び繁栄させることに焦点を当てています。

しかしながら、依然、なされなければならないことがあります。我々やEUが本日こうして意見表明のためこの場に出席し、また経団連も先月この場で意見表明をされた理由は、日本のこの再建に向けた継続するプロセスの一端を担うためです。

はたして何人のアナリストや政策提言者が本当にこのことを理解しているかは私にはわかりませんが、前にも申し上げた通り、米国は強い日本経済を必要としており、日本が他のアジア諸国の成長の牽引力となることを望んでいます。それは、強い日本経済がより安定したアジア太平洋地域の確立に繋がるからです。また、強くそして活性化された日本経済なくしては、真に強固で健全な米国や欧州はありえません。世界経済はますます3脚いすの構造と似たものとなりつつあります。いすの脚1本が弱いものであれば、そのいす自体が不安定なものとなります。日本の規制改革の目的は、世界経済の一本の脚である日本経済を強化することであり、ひいては残りの脚つまり他の諸国の経済を強化することです。このアプローチは、ブッシュ大統領と小泉首相が「成長のための日米経済パートナーシップ」のもと「規制改革及び競争政策イニシアチブ」を立ち上げた時に合意したものです。そして貴会議の目標、つまり規制改革を通じて日本を持続可能な経済成長の道に導くこと、と同じものであると私は理解しております。

規制緩和と再建

皆様もよくご認識のことと思いますが、規制の負担が少ない環境のもとで発展可能な多くの分野が日本経済の中にはあります。

経済成長の鍵を握る分野が規制緩和を通して、再建、合理化され、生産性を高めることが可能です。

エネルギー

米国は電気およびガス分野における日本の継続的な自由化施策を歓迎致します。このような政策は、経済成長を促しエネルギーの安全で安定した供給を確保するために極めて重要です。私は、日本がエネルギー分野の自由化に向けて次なる大きなステップを踏み出すべきか否かを検討中であることを理解しています。我々は、そのようなステップを日本が競争を促進し効率性を向上させる形で踏み出すことを強く提唱したいと思います。

エネルギー市場の更なる自由化は、消費者や商業ユーザーのコストを削減し、電力コストを国際的に遜色のないレベルに引き下げることになります。これは、日本の産業界がより高い競争力を得、経済の活性化につながり、日本が投資対象国として魅力的な国となることを意味します。つまり、事業コストが引き下げられることは企業にとってプラスの投資インセンチブとなるからです。

電気通信

日本が力強い経済成長を取り戻すために経済を再建し改革するためには、活力と競争力のある電気通信分野が重要となります。コスト競争力のあるサービスや、個人・事業者用のインターネットおよび通話プランを提供することは、情報技術によって支配される世界経済にとっては必要不可欠です。

この分野において日本は、一層競争的でコストを重視した事業環境を整備するために具体的な施策を講じ、いくつかの真の進展を図って来ました。ネットワークの共有義務と接続料金の引き下げにより、例えば、ADSLの自由化やローカル電話市場に競争をもたらしました。日本はこのような施策を続けると同時に、いくつかの更なる大きなステップを取る必要があります。非支配的事業者にとっての真の規制緩和を行うためには、事業コストを引き上げ、消費者への柔軟なサービスの提供を妨げている不必要な規制を削減することが極めて重要です。競争促進的規制を執行する政府の権限を強化し、適切な競争のセーフガードの構築を担保するためには、電気通信の独立規制機関の設立が必要です。

IT

情報技術を取り入れ応用する企業および政府は、生産性を高め、雇用を創出し、経済全体の成長を刺激します。競争的市場に身をおく企業は、新技術を採用し、事業を拡大させ成功する傾向にあります。

米国政府は2002年のe―Japan重点計画に高い関心を払っており、日本政府がデジタル時代によりふさわしい法律および規制環境を整備することを要望しています。日本が技術的に中立な枠組みを構築すること、例えば電子商取引や新しいIT製品やサービスの開発が活性化する環境を整えることが重要です。

医療分野

我々は小泉政権が医療・社会福祉制度を改善するため、競争を導入し構造改革の推進を強調していることを歓迎します。我々は、そのようなアプローチは、質の高い医療の提供と革新的で費用対効果の高い医薬品・医療機器の開発を促すために極めて重要であると確信しています。

我々は日本政府が引き続き医療機器・医薬品の規制制度を改革することを奨励します:第一に、国際的に実践されている方法を最大限考慮し、迅速でより効率的な製品承認を確保すること、第二に、革新的医療機器・医薬品の導入が奨励され、透明で予見可能なプロセスを通じて適切な査定がなされることを確保すること、最後に医薬品・医療機器の価格設定と医療改革についての議論への意義ある参加の機会を業界に提供することです。

競争政策

日本市場において競争を促進し担保することは、新規の市場参入やイノベーションを奨励し、国内的にも国際的にも競争力のあるすぐれた企業を育む経済環境を作り出すことになります。従って我々は内閣府のもとに公正取引委員会を独立機関として設置するという提案を強く支持します。これは、独占禁止法の監視機関の独立性をより一層高めるための一つの重要な方策と言えます。また、競争関係に重大な影響をもたらす市場における急速な変化に対応するために、公正取引委員会の人員を大幅に増員し、審査権限を強化することは公正取引委員会の職務遂行に寄与するものと考えます。

透明性

規制プロセスにおける公平性、予見可能性、および説明責任を確保するためには、日本経済のあらゆる分野において透明性が改善される必要があります。日本国民、国内外の企業ならびに潜在的投資家が、彼らの生活や事業に影響を及ぼすルールや規制がどのように解釈され運用されるのかということがわからなければ、新しい事業を起こしたり投資を行うことを躊躇するでしょう。

我々は1999年よりパブリック・コメント手続が存在することを指摘したいと思います。この制度は、政府の決定プロセスにおける透明性を改善することを目的に導入されたものですが、制度がうまく運用されているとは思えません。先般総務省が公表したパブリック・コメント手続の効果に関する調査報告も、この制度が改善される必要があるという見解を支持しています。過去数年間の結果と同様に、過半数の案件において意見募集期間の設定は30日を下回っていました。また、平成13年度においてパブリック・コメントの対象となった354案件のうち、行政が提出された意見を最終規制に取り入れたケースが14%にまで下ったことは懸念される事実です。

司法制度改革

日本経済を再活性化させるためには、司法制度を改善する必要があります。国内外の企業とも、日本で完全に統合された法務サービスを利用することが、より困難になりつつあると感じています。結果として、未だ日本の国際金融センターとなるための努力は報われていません。日本弁護士と外国法事務弁護士との間に認められるべき関係が厳しく制限されているため、日本の法務サービス分野は引き続き痛手を受けています。これは、このような制限を設けていない他の諸国に比べ、日本経済が比較劣位に留まらぜるを得ないことを意味します。我々は日本弁護士と外国法事務弁護士の提携の自由に課せられたすべての規制を速やかに撤廃することを強く要請します。これは、ドイツ、フランス、英国、べルギー、米国といった他の先進諸国においては基本原則です。

流通

流通分野について私が指摘したい重要な点が1つあります。1日24時間、週7日営業を行うには、日本は引き続き通関手続を近代化し簡素化する必要があります。新しいグローバル経済は、新たなテクノロジーをもたらし、商品や情報を企業から企業へ、国から国へと迅速に移動させる必要性を高めます。近年の宅配業の急激な成長はこの現象の表れであり、宅配業はグローバル経済の発展にとって不可欠な歯車となっています。米国は、急速に成長しつつあるこの宅配業の(ニーズ)に対応する形で、通関手続規制が採用される必要があると確信します。それにより、海外のサプライヤーは、日本の国内需要に対応することが可能となります。

また、輸送システムの改善が図られなければ日本経済が完全に回復することはありません。本年、私が強調したい鍵となる事項は、日本の空港着陸料の算定をより透明にする必要があるということです。成田および関西国際空港は世界で最も着陸料の高い空港です。

規制改革・構造改革の利益

規制改革および構造改革によってもたらされる2つの主要な利益とは、投資の増加と投資家の市場に対するより高い信頼の確立と言えるでしょう。経済を規制緩和し、競争政策を厳格に施行することで、透明性が高く、ビジネスに開かれたシステムを構築することができます。よりオープンで透明性の高い経済は、ビジネスの取引コストを引き下げます。米国、英国、カナダが透明性の高い国としてランキングされていることと、国際ビジネスにおいてもこれらの国々が最も競争力のある経済であるとランキングされることには、直接的関連があります。世界競争力年鑑(ワールド コンペティティブ イアーブック)において、日本の競争力は世界で30位と位置づけられています。日本はスペイン、イスラエル、ハンガリー、フランスと同ランキングです。日本は、このランキングより高い評価を受けるべきであり受けられるはずです。

終わりに

意見表明を終わるにあたり、私は、規制改革、構造改革を通じた経済回復に向けての貴会議の献身的なご努力に、再度、祝辞を述べさせて頂きます。先ほども申し上げましたが、米国は今週後半に日本政府に対して、我々が経済的インパクトが大きく、日本経済を長期成長路線に戻すことに貢献すると確信する、規制緩和および規制改革の分野を明らかにした公式の要望書を提出する予定です。大使館は要望書の日本語版を貴会議、すべての国会議員、そして規制改革プロセスの一端を担う経済団体に送付致します。

私は、今後とも貴会議の委員の皆様と共に働かせていただくことを楽しみにしております。また、米国政府、大使館、或は私自身が、皆様方の規制改革に向けたご努力に対しなんらかのご協力をさせていただけることがありましたら、ぜひご連絡を頂きたいと思います。

ありがとうございました。


内閣府 総合規制改革会議