平成14年9月25日(水)14:00〜15:30
永田町合同庁舎総合規制改革会議大会議室
八代主査、鈴木委員、福井専門委員
岡本審議官、宮川室長 他
中城室長 他
略 (下記議事次第参照)
構造改革特区に関する意見交換
立花宏
龍井葉二
(1)立花常務理事から資料に基づき説明
(2)意見交換
(八代)規制改革というのは長い間、総論賛成、各論反対であった。実現するのは難しかったのし、実現してもスピードという点でかなり問題があった。構造改革特区というのは、特定の地域で規制改革を先行して行なうことによって効果を見え易いものにすると同時に、それによって全国ベースの規制改革を推進させる両面を持っている。全国の自治体から多くのアイデアが寄せられているが、仮に規制改革特区ができたとしても、実際に企業の参入に結びつかなければ意味がない。実効のある規制改革を実現していくためには、行政の知恵だけでなく企業の協力が必要不可欠。その点はお願いしたい。
(中城)今後も提案を受け付けるようにとの意見があったが、経済財政諮問会議の方でも同じような意見があるので、法案とのスケジュールを検討して、地方からの要望をオープンにして、再度要望を募る機会を設けたい。
(八代)日本経団連としては、個別企業が提案しているが自治体が取り上げてくれないとか、要望を出した自治体でも企業の要請が反映されていないとかを含めて、問題点はないのか。
(立花)構造改革特区推進室から、7月末に構造改革特区の概要を聞いた。民間企業からも提案を受け付けると聞いたが、8月に民間企業に特区の要望を出したらどうかとネットワークを通じて呼びかけたが、時間的余裕がなかった。具体的な要望については、特区に限らず現場からの規制改革要望については、総合規制改革会議の全体会議でご説明することになっている。
(八代)要望に関して、規制改革では不充分で、税制とか財政上の支援を欲しいという意見を企業からも自治体からも聞く。従来の政府主導のモデル事業であれば、当然そういうことが行なわれた。補助金とか税制上の優遇措置がなければ、なかなかビジネスとしては成り立たないということであれば、現在の財政事情では、全国ベースでやるのは難しい。財政的支援よりも政府、民間企業の行動を縛っているような規制を緩和・撤廃を行うということが、よりビジネス活動に大きな影響を与える。そういう趣旨から、財政上の措置を今回は設けないことを原則としているが、何か企業からの要望がある場合、日本経団連としてはどのように答えているのか。
(立花)そのことは、制度の根幹を成す大事な仕組の一つであると思う。本年5月のヒアリングの時に申し上げたが、単なる地域振興策であってならないと思う。ご指摘のように、従来型のモデルに沿って取り組めば、補助金や税制の優遇措置を講じるとの地域と中央省庁との関係で取り仕切ってきたものが、今日の経済環境の激変というものもあるが、あまり成功していない。そういうことから見て、税、補助金を中央省庁レベルで講じるべきでないと考える。但し、自治体独自で税制措置を講ずることの仕掛けを考えているところがある。例えば、三重県が法人事業税を軽減するとか、まさに地域が産業を集積するために、自らのリスクをかけてチャレンジするといった試みは、否定されるべきではないと考える。自治体が独自でいろいろ措置を講ずることは、正しい方向ではないか。特区の構想では、地域の独立性なり、智恵を活かす、智恵の競争だということがつのキャッチフレーズになっていることから、その方向でいくべきであって、地方の方から国に補助金などの財政措置を求めることは、規制改革中心の特区構想には馴染まないと思う。
(福井)個別の特区のタマに対する事業を行おうとする民間とどれくらい意見交換しているのか。2番目に現在の推進室でまとめた自治体、民間の提案のうち、法改正、制度改正の中で特に優先順位が高いと思うものは何か。整理していれば、評価や重点項目を教えて欲しい。3番目に、反対に自治体から民間から出ている要望の中で、これはやるべきでないと評価しているものがあるのか。
(立花)日本経団連の中で、規制改革の部会の話題になったので、それに関連して3番目の質問から答えると、自分の財布は痛めないで、他人の財布なら良いというような提案がみられる。温泉を療養・養生として活かすという場合に健康保険の対象に認めて欲しいというものがあって、中身を詳細に検討はしていないが、健保は大変な大赤字になっているので、他人の財布を当てにするのは如何なものかというものがある。もう一つは、再開発税・特別税をつくりたいというものがあるが、それは逆ではないかと思う。本当の意味で規制改革につながるのかなと思うところがある。地方の声が全て正しいということではなくて、民間のビジネス、マーケットの智恵を活かすという発想がないと机上の空論になりかねない。制度を実効性のあるものにするには、民間がのらないとだめである。全ての構想を逐一見たわけではないが、詰めが不十分であると役所が直ぐに攻め倒すことは容易であるが、そうではなくて、自治体のやる気をいかに支援していくか、詰めが不十分であれば共同作業するといった発想がなければ、活きたものにならない。民間のビジネス・市場の智恵を活かすことが重要である。
どの程度民間企業との意見交換しているかどうかということについては、特区そのものだけで意見交換はしていない。特区推進室からのヒアリングした内容を地方のブロックの経済団体や地域の経営者協会にも伝えて、具体的な提案があればと呼びかけている。2番目の特区の優先項目等については、提出した資料以上に検討はしていない。
(福井)2番目の点は重要である。ニーズが強いけれども障害も大きいものというのは、効果も大きいし象徴的な意味合いもある。民間企業の立場から見て、規制改革のこの個別項目をやれば、ビジネスの上で意味があり、しかも大きくて広がりあるというものを集約してもらうと、実際の制度改正に参考になる。早急に具体的な個別項目について、どういう優先順位でどうしてニーズがあるのかを集約して欲しい。
(立花)426の提案のうち、全く初めてというものは無かったように思う。例えば、産業再生の関連で言うと、かねてから要望している製造ラインへの派遣の問題も複数出ている。また、地方の国立大学に対して、地方自治体が地域における産学連携のため財政支援するということは禁止されていることもあがっている。特区の構想例の相当部分が日本経団連の規制改革要望にオーバーラップしているのではないか。優先順位については、今後の検討課題である。
(八代)福井委員が言われた優先順位は一番大事である。これを一度にやるのは難しい。ニーズがあり効果が高いものを優先的に考える必要がある。
(立花)それは、地域の独自性をどうやって活かすかという点、数が多いという点というのが一つの指標となる。数の面では、混合診療とか大学の関係とかの共通の項目がクローズアップされると思う。
(福井) 民間の観点、スタンスと自治体のスタンスは必ずしも一致しない。現在の提案は、民間と自治体の共同提案的なものが多いと思う。逆に自治体固有の規制は、民間と利害が一致しないものもある。自治体のスクリーニングを通すとそういったものが出て来ない。自治体と利害が対立するかもしれないが、民間にとっては大事だいう規制項目も引続き広く洗い出して欲しい。効果がより手厚くなると思う。
(立花)特区に関する要望の中には、地方が国に要求しているものだけでなく、自らの抱えている条例とか指導要綱に関するものも多い。
(福井)自治体が撤廃すれば良いというのも数あるが、自治体がなかなか出来ない領域、開発の指導要綱などの是正は国が旗を振っているところもある。自治体が特異な過剰な規制をしないように国法で縛るのも規制改革の一つである。そういう観点も拾いうるというのが特区の元々の発想でもある。自治体の自己変革が望めないなら、国が関与しても止めさせる領域があるのなら、これを具体的に出すことは意味がある。
(1)龍井総合労働局長から資料に基づき説明
(2)意見交換
(福井)資料の1についてであるが、法令の規律に2つ以上の多様性があってはいけないということか。
(龍井)法令設定そのものの問題とそれが及ぼす効果の問題があると思う。ダブルスタンダードを設けることによって、地域によって2つの成果が得られることになる。全国的に見て最低限のルールが2つあることはおかしいし、公正競争の面からいっても問題であると思う。
(福井)現在地方分権の流れがあるが、地方公共団体ごとに個々に条例を作ることに反対ということか。
(龍井)すべてのルールで全国一律の法令が必要と言っているわけではない。あくまで最低規制と公正競争を担保するものについてはそうだと言ったまでである。
(福井)多様であってもいいルールと全国一律でないといけないルールを区別する基準は何か。
(龍井)公正競争の確保と最低限の生活や権利の保障がされることである。
(福井) 例えば労働面について言えば、一律のルールを設定することが必要というわけか。
(龍井)最低基準についてはそうである。
(福井)日本は連邦制の国ではないが、連邦国家では、国の秩序の下に州ごとに様々な法律がありそれを州が規律しているが、そうした国については州ごとに規律があることはよくて、日本ではだめな実質的な根拠は何か。
(龍井)日本で仮に道州制を敷く又は海外との取引に関してゾーンを設けるということを国民の合意の下で形成されるというプロセスがあるかどうか。つまり日本の国内市場にこうした設定をしているルールがあるかどうか。頭から地方独自の制度を否定するわけではないが、それがパッチワークではなく、日本全体における位置づけをしっかり議論した上で地域独自の制度を設けるということであれば、一国二制度はあり得る。
(福井)日本においては憲法を変えて連邦国家にしないと、地域ごとの規律は認めないということか。
(龍井)先ほど申し上げた意味ではそうである。
(福井)個別の法令について地域ごとに多様な規律があっていいという国民的合意が得られた場合には、一国二制度の議論は、連邦制から必然的に出てくる帰着というよりは、個別の法令ごとの議論の結果出てくる帰着ではないのか。
(龍井)そうとは思わない。恒久的に制度を継続する特区であればいいが、ここで述べられているのは、あくまでも実験であって最終的には全国的にものにすることを見据えている。そうではなくて、全国一律の法令ではワークしておらずこうあるべきだ、分権の在り方は都道府県ではなくこうあるべきだという全体的な議論とセットで議論していただくならよいが。
(福井)問題は連邦制がどうこうというより憲法14条や25条の解釈論に最後は行き着くことになると思う。その時、連邦ということで見るというのではなく、個別の法律で弊害があるかどうかで見るべきである。連邦制を敷くドイツやアメリカでも憲法14条や25条と類似の規定があるが、だからといって個々の州ごとに規律が違ってはいけないということはない。
(龍井)だったら、一つの経済圏、地域圏の在り方といった全体論を議論すべきであり、市町村ごとに色を塗るようなパッチワーク的な制度を考えることとは性質が違うのではないか。
(福井)具体的にどういう地域でどういう規制をすべきかというときはそういう議論が出てくるかもしれないが。
(龍井)また、特区の単位がどうして市町村であるのかが分からない。むしろ人の移動とか経済圏などの単位がしかるべきであるが、市町村が単位であることはいかがなものか。
(福井)市町村はあくまでも一つの典型的な例であり、市町村より小さい単位もあるし市町村が連合してやる場合もある。総合規制改革会議においては、エリアを市町村の行政区界に合わせなければならないという議論はない。また、資料の2についてであるが、地域ごとの社会実験を行うことはだめとのことだが、全国一律に法律を変えることも全国規模での社会実験である。なぜ、地域ではだめで全国ではよいという話になるのか。
(龍井)どういう主体がどういうプロセスで合意形成したか、どういうリスクを誰が負うのかという合意形成が必要だが、それが国会の議論を経る合意形成でなく、地方公共団体のニーズを受け、制度を組み立て後は地方公共団体でフォローしますよというのは問題ではないか。特に、他の制度と違い規制撤廃なのだから。
(福井)全国に適用される法律を廃止する法律もあり、これも全国の規制を撤廃することになる。カバー率の違いがあることは分かるが、質的に問題があるというのが分からない。
(龍井)国会で一律規制を撤廃するのと地方のニーズに基づき規制撤廃を行うのでは、合意形成プロセスが違う。
(福井)特区も法律でやる。すなわち国会審議されるものであり、法形式に違いがあるとは思えないが。
(龍井)法形式にも問題があると思う。個別法の規制の撤廃を一本の法律でまとめることは、これらの規制一つ一つをその撤廃の是非に関し議論することを担保することになるのか。個別の法律ごとに特区制度が適切かどうか議論すべき。
(福井)当然国会においてそうした観点で行われると思う。また、雇用・労働、安全、環境など権利や安全に係るものについて全国的に規制を緩和することは、日常的になされている。これは、全国民を道連れにする社会実験であることには違いない。結局、規制改革を希望している地域で規制改革をやる方がリスクが小さいと思うが。
(龍井)まさに最低基準については、リスクが大きい、小さいといったことではなく、手続きとルールが問題となる。そういう合意形成をしていくのが政治である。
(福井)資料の3について、頭にかける法律が一本であっても、個々の法律ごとに是非を議論すればいいのであり、おっしゃっているロジックが分からない。
(龍井)全体のスキームが見えないので、乱暴な議論になっているのかもしれないが、個別の規制について規制を撤廃することによる地域毎のリスク等についてしっかり議論がされるのかということが懸念される。
(福井)当然国会で審議されることである。
(八代)資料の4について、規制撤廃の特例を設けることを地方公共団体のニーズに求めることは間違っているということだが、地域にはそれぞれ特性があり、ある地域では規制を撤廃するニーズがあるという場合に、全国ベースでなければ規制が撤廃できないとなれば規制改革のスピードが遅くなる。全国一律に適用しなければいけない法律もあれば、地域特性によって違うルールを作ってもいいものもあるはず。以上から、地域のニーズに規制撤廃の根拠を求めることもあるのではないか。
(龍井)結局は、特区制度が、最終的に全国一律で規制撤廃するための実験という位置づけにすぎないことが問題と言っているのである。
(八代)特区毎の規制改革がうまくいかない場合もあれば、うまくいくし普遍性があるので全国的に適用すべきものもあれば、全国には適用できないものの特定地域では恒久化するものもあると考えられる。
(龍井)そうした結果を導く基準が分からない。よい規制改革があれば合意形成に時間をかけてでも特区ではなく全国一律でやるべきである。
(八代) 明らかによければそうであるが、明らかによいものですら全国的な規制改革が遅々として進まない。合意形成に時間がかかるのは規制を変えれば何か問題が生ずるのではないかという懸念があるためだ。雇用についてみれば、職業安定法や労働者保険法はいわば人材ビジネスをどうするかという産業政策面での規制である。製造業には派遣を禁止している実例があるが、これはむしろ請負労働にシフトさせて労働者にとってマイナスになるのではないか。こうしたものを全国ベースだけで議論しても仕方がないわけであって、特定の地域でどちらの規制がよりいいか試してみないと分からない。労働者にとって何がベストか自明ではないので、なかなか労働法の改正が進まない。そういう議論はできないということか。
(龍井)この話は、すでに議論が進められている話であり、3か年計画で1年前倒しでどうするか合意形成を進めているところと聞いており、なぜ特区として急いで行う必要があるのか分からない。
(八代)この議論は10年前から行なわれている話であり、今回上がった特区制度も活用しようということである。何も特区でないといけないという話ではない。特区の話が出ると全国ベースの規制の議論が進むという相乗効果もあると思う。必ずしも特区だけでやればいいというわけではない。
地域のニーズで規制改革を行うことがなぜいけないのか。
(龍井)規制に適用除外という穴をあけるというニーズに従い、地域ごとに規制撤廃の特例を設けることは、全体の見直しからするとむしろ逆効果である。
(八代)ある地域だけで派遣労働法の適用を除外すると、全体の規制改革に不利に働くということか。
(龍井)ケースバイケースであろう。地域全体が活性化する場合もあるし、地域経済が埋没する場合もあろう。仮に失敗した場合はトータルであれば国会審議の結果であるのでリスクも負わざるを得ないが、地方公共団体に、「手を挙げたのだからセーフティネットを引かずお前らの自己責任だ」というのはどうか。
(八代)地域によって労働市場を含めあらゆるものに特性がある。地域の実情を一切無視しなければならないのはなぜか。
(龍井)地域の経済圏があることは否定しない。パッチワーク的になるのが問題といったまでのこと。
(福井)地方公共団体から規制緩和についてニーズが出たということは、いわば地域のシグナルがあり、地域で規制を緩和する合理性があるという根拠となるのではないか。
(龍井)ニーズといっても、労働に関して言えば、派遣元、派遣先、労働者など多様なものがあり、それを「地域のニーズ」として一言でまとめることに問題があるのではないか。
(福井)様々なニーズを把握して議論しては永遠に終わらない。具体的に一歩踏み出すときに、特区制度というのはある地域で試してみることにより結果を求めるものであり、規制改革を進める上では必要であると思う。
(龍井)近年国際化が進み経済圏といっても自己完結しないのに、地域単位で特区を設けることがおかしい。
(福井)そういう議論もあるが、地域でうまくいって他でもうまくいけば全国的に昇格するような制度は何がいけないのか。
(龍井)パッチワーク的に行うだけでは効果など読みとれないのではないか。地域が活性 化したとしても、それが規制改革によるものかどうか単純には分からない。
(八代)地域の範囲が小さくなればなるほど効果も分析しやすくなる。また、労働の場合であれば地域が閉じている必要はない。規制改革によって雇用機会が増え、他の地域から労働者が多く集まってくれば、そのシステムの効果があったということであろう。
(鈴木)全国的にバランスをとることの必要性は分かるが、話が大きすぎる。こうしたことをやっていても永久に解が出ない。私は常々特区制度は「実験的」ではなく「先行的」と言っている。私の認識では、緩和すべき規制は多くあるが、既得権益がありなかなか進まない。全国単位でやるのがベストであるが、たとえパッチワークになってもやらないと日本経済は閉塞状態になってしまう。どうか御理解いただき建設的な御意見を賜りたい。
(龍井)制度の枠組みは決まったもののとして、具体的な規制の内容について議論するのではなく、こうした制度の根本の是非についてもっとしっかり議論を重ねることが重要と認識している。
(鈴木)制度そもそもについては、従来から審議の過程でずっと各方面も含めた議論をしている。
以上