法務省

(1)法務省から資料に基づき説明

(2)意見交換

(八代)外国人研究者等の受け入れについて、手続き自体も重要であると思うが、研究開発活動と企業というものが、別々の基準となっているのがどうか。優秀な人材を確保するためには、研究開発、投資・経営の在留資格、許可を一度で済ませるというのが必要ではないか。代替措置ができないということであるが、代替措置の中味をもっと検討すべき。地方自治体が何らかのかたちで実効的な代替措置を提示できればという条件付きで、特区内で実施するという考え方もある。代替措置の中味を検討したうえで、だめであればあきらめればよい。外国法事務弁護士については、法務省は前向きに進めているが、特区では馴染まない、全国的に実施するということであれば、具体的な審議内容と来年の通常国会に提出できるのかということを教えて欲しい。
株式会社に関する最低資本金の引き下げというのは、今の1000万円というのが、本当に事業の安定に関して不可欠な水準なのかどうか特に証拠が無い訳で、なぜ500万円ではいけないのかというのは、単なる一つの基準に過ぎない。特区という特定の地域において、別の基準でやってみる。それは完璧な情報公開の下で、これは特区でつくられた株式会社であるから、資本金は少ないですよと利用者に明示できれば良いのではないか。現に米国などでは、いろいろかなかたちの株式会社がある訳で、日本でも地域の状況に応じてニーズのあるところで、先ずやってみて、それが問題がなければ全国に広げる。経済産業省の新事業創出促進法では、何らか似たようなことをやっているが、これはあくまで5年間の猶予措置であり、新事業創出促進法の特例ではなくて、商法自体の最低資本金の引き下げを特区で検討すべきである。

(福井)外国法事務弁護士について、一番保護されるべき相手方は外国法事務弁護士への依頼者である。特区で承認を受けた特別な資格者であるということが取引相手方にわかるような印が常に公示されているという仕組みがあれば、自己責任で弁護士とやりとりする或いは弁護士に法律事務を頼むということも合理化される余地があるのではないか。
株式会社についても、例えば単に株式会社と名乗ってはいけない、特区株式会社というような新たな類型をつくるとか、そういった仕組みとすればよい。特区株式会社は資本金が少ないのであるから、そこに債権を持つときには注意しろということが公示されているようなことはできると思う。以前に法務省と議論したときに債権者に対する保護がきちんと図られているのであれば、あり得るという趣旨のことを法務省が話したように思う。

(四宮)在留資格について、現在の仕組では研究と投資・経営は分かれているが、例えば研究をしながら投資・経営したいという時に、資格外活動を手続上時間がかかるということは考えたいと思うが、それが不許可になるということはあまり例が見当たらない。実際問題として投資系の在留資格をとってもらえれば、研究活動もできるので、実際はひとつの在留資格になっていると見なすこともできる。早く手続きを進めることは重要であり、むしろそちらの方が実効性に意味があると思う。さらに3年間の最初の在留資格の時に顕著な功績があって、日本の国にも貢献が大きいとい方には永住権をとってもらうやり方もある。そうであえば、活動は日本人と基本的に同じであるので、更新ということもない。これを特区に関しては、通常は5年程度の日本での活動を要件としているが、これを緩和して、一回目の3年目に最初の在留資格の更新をするタイミングで永住権を取得することを可能とするやり方は考え得ると思う。

(黒川)外国法事務弁護士関係について、八代委員からの15年通常国会ではどうかとの話であるが、内閣の方の司法制度改革推進計画に明示されており、外国法事務弁護士関係についても共同事業に関する要件の撤廃方向、また雇用規制についても見直しの方向を法改正がなされる予定である。福井委員からの指摘については、最近の法律事務、特に渉外的要素を要する法律事務処理については、必ずしも契約関係が相対で行なわれる訳ではないし、どのような公示のシステムをつくりあげるか、また、その事柄によって、時として法律行為自体の有効無効判断に影響を及ぼす事柄になると法的安定性、取引の安定性を害する事態が生じるとの懸念がある。

(原田)最低資本金関係のところであるが、現在の最低資本金1000万円が適当かどうかという質問の趣旨は、特区で資本金を少し下げたかたちで実験してみて、弊害が出るかどうかということを見てみたらどうかであると思う。最低資本金制度は、これと取引する相手方の保護、会社が直ぐに債務超過に陥って破産になり連鎖倒産ということで、多大の被害が拡大することを防ぐということであるから、特区でやってみて弊害が起きてからでは、取り返しのつかない事態が生じかねない。特区でもしやるとすると相当に代替措置を考えてやらざるを得ない。指摘のとおり、経済産業省で検討している新事業創出促進法は、その観点から、かなり周到な代替措置を検討している。また、我々が承知している限りでは、臨時国会に法案提出が予定されており、しかも全国区レベルで規制緩和を行なうことになっているので、このように全国区レベルのしかも代替措置の相当考えられたものが動こうとしている時に、特区で同じような代替措置であれば意味が無いが、全く別な新たな代替措置を考えてやる必要性があるのかどうか疑問である。指摘があったような弊害があるかどうかもある程度分かってくる。それを踏まえて、法務省としても、最低資本金制度については、常に時代の要請、社会的経済情勢を見ながら、見直すことはやぶさかではない。第一弾として新事業創出促進法の在り方を見るということは意味のあることである。あえて特区でやる必要はない。特区において最低資本金が低い場合に、会社に何か名前をつけてやるということは、資本金の額というのは登記で公示されているから、極論すれば、登記を見て相手方が危険かどうか判断して取引をしろというところまで行き着く話である。今の商法は、そういう立場をとらない。資本金が少ない会社は、容易に債務超過に陥って破産に至る可能性があるということから資本の公示とは別に、最低資本金制度を設けている。非常に低い額若しくは例外を設けて、開示さえすれば済むという話ではないという立場をとっている。資本金については、新事業創出促進法で例外措置が設けられるし、その結果等を見ながら我々も検討はしていくつもりである。資本金制度は、今の商法、会社法の中核をなす概念であるから、ここを変えるとなると相当に検討も必要である。資本金制度を変えるということは、別な会社法に移る可能性もある。そうであると特区毎に会社法をつくるという話ではなくて、商法全体の話として今後考えていくことになる。

(八代)経済産業省の方は、最低資本金を引き下げるのではなく、今の1000万円に増額するまでの5年間の猶予措置なので、最初は少なくてもスタートできるが、いずれ1000万円にしなければならない。最低資本金自体の引き下げとは基本的に違うし、また5年間の猶予措置にしかならない。慎重に検討しなければならないというのは、その通りだが、法制審議会で慎重に検討すると同時にニーズが高いところでやってみて、どれほど弊害があるのか、どれほど倒産に結びつくのか、ある程度経済のことであるから、試してみなければ判らないのではないか。倒産を防ぐということも重要なことであるが、新規事業、会社を起こすことが、今とても重要になっている時に、資本金の1000万円というハードルがあまりにも高すぎるということが最大の懸念とされている。何事にもコストとベネフィットがある訳で、法制審議会の審議だけでなく社会的実験が必要であるというのが、特区の発想である。

(福井)例えばアメリカでは、州ごとに契約法も不法行為法も会社法も全く違う訳であるが、アメリカであれば州を超えて取引もあるし、州を越えた会社の行き来もある。別に州法が違っているから、債権者が困るという話は聞かない。それは、そういうものであるとして取引している。州によって規律が違うという前提で取引しているから上手くいっている。アメリカのような多元的な仕組みが並存する場合の利点として、特区と同じであるが、アメリカだと日々社会実験が行なわれている。例えば死刑がある州とない州では、どれくらい犯罪が多いのか少ないのかということまで、実証分析の対象となっている。不法行為法の過失が重過失主義か軽過失主義かによって、交通事故の発生がどれくらい違うかということまで判る。そういう意味では、多様な制度が並存していること自体が、制度をどちら向きにいじるのが社会的に合理的かという判断材料を与える側面もある。そういう観点から、日本では民事秩序、刑事秩序というのは、今までずっと全国一律で、変えるとしたら長い時間をかけて慎重に検討して、そろそろ変えるというのが通例であった。今度の特区の発想というのは、州の多様性と似ているところがあって、本当に慎重にやるのであれば、かなりの程度長い時間をかけて重装備の検討をしないと踏み切れないということになりがちであるが、狭い範囲でやってみて、上手くいけば全国の及ぼす余地がある。失敗してもリスクが少なくて済むという意味の社会実験になるというのが、元々の発想である。そういう意味で会社などはそれに馴染むのではないか。

(原田)アメリカでは、各州がそれぞれ会社法を持っており、連邦で一つの会社法があって、個別のところに例外措置がある訳ではなく、それぞれ体系的に完成されたものを各州ごとに持っている。特区でその覚悟で地方自治体単位で、それだけのものをつくるのなら良いが、中々出来ないと思う。倒産の話は、簡単に弊害が起きてからと言うが、今の日本の経済情勢の下で、民事再生事件が月100件、年間1200件の申請がある。会社更正手続きとなると、1社あたり500億を越す債務がある。それが今年末予想で140件になる。

(八代)そのとおりであると思うが、それが資本金の不足のせいなのかどうかということ。

(原田)資本金制度の趣旨というのは、資本金がはじめから無いような会社、債権者の引当てとなる財産も無いような会社をつくる。しかも会社については、債務超過となったら、債権者の引当てとなるものがなくなる訳であるから、直ぐに破産となる。そういう仕組の中で、資本金が無いような会社をつくるということは、当然破産事件が増えるということは、見やすい道理である。

(八代)それは実験してみないと判らないのではないか。

(原田)実験的にやって、弊害が起きた時の責任をどうするのかという問題もある。今年破産事件が16万件から20万件になろうとしている中で、しかも新事業創出促進法が全国規模で相当な代替措置を周到に考えて、臨時国会で法案を出そうとしている時に、なぜ特区でやる必要があるのか。

(八代)経済産業省が仮に良いと言ったら、やっても良いということか。経済産業省の迷惑になるからやめろということか。

(原田)法務省と経済産業省ときちんと相談しながら、最低資本金制度の趣旨を考え、債権者保護に十分配慮した代替措置を考えてやってもらっているので、そこは我々としても了解している。


内閣府 総合規制改革会議