平成15年5月6日

総合規制改革会議雇用・労働WG第3年次基本方針
「原則に立ち戻った規制に」

清家篤(慶應義塾大学教授)

当WGの第3年次の課題を、雇用規制のあり方を原則に立ち戻った形に整理するということにしたいと考えている。当WGは過去2年にわたって、現在とりわけ必要と考えられ、かつ厚生労働省とぎりぎり合意可能な規制改革を進めてきたところである。

しかし本年次は当会議・当WGの最終年次ということもあるので、多少大上段に振りかぶるような形にはなるが、より原則に立ち返って雇用規制のあり方の抜本的な見直しについて厚生労働省と議論していきたい。

その原則とは、「規制は少しでも労働者の利益になるように」ということである。具体的には次の4つのポイントを議論したい。

  1. 職業紹介事業・労働者派遣事業の規制緩和
     許可制、料金規制、無料職業紹介の担保、などによって悪質業者によるピンはね等が防止できれば、現行の有料職業紹介規制ある手数料徴収対象者の限定は撤廃した方が求職者の選択肢拡大という観点から労働者の利益になる。また、派遣労働者を雇った方が安くなる(たとえば社会保険の適用等で)ということがないように、派遣労働者と常用労働者の均衡待遇(同じ能力の労働者であれば賃金、処遇をそろえる)を実現さえすれば、現行の労働者派遣規制にある派遣対象職種や期間の限定は撤廃した方が労働者の働き方の選択肢拡大という観点から労働者の利益になる。
     つまり問題となる行為、労働条件等を直接規制すれば、現行のような職種や期間等による規制は不要であるはずだ。

  2. 労働時間規制の適用除外拡大
     労働基準法は工場における定型労働に従事する労働者を念頭に置き、そうした労働者の安全や労働条件担保を目指して作られたものである。ところが、現行法ではそうした当初念頭においたものとは異なる非定型労働等に従事する労働者にも同じように適用しているため無理が出てきている。そうしたもともと適用になじまない労働者等に対して無理に適用しようとするため、適用が甘くなり、結果として本当に厳格な適用を必要とする労働者への適用も甘くなってしまうという問題を惹起している。真に労働基準法によって守らねばならない労働者への適用をきちんとするためにも、もともとその適用がなじまない非定型労働等に従事する労働者は適用除外(エグゼンプト)とするのが労働者の利益になる。
     こうした観点からホワイトカラーエグゼンプション制度を導入すべきである。

  3. 雇用における年齢差別禁止
     本格的高齢化を迎えて、中高年になってから再就職を余儀なくされる労働者も増えている。こうした中で、募集・採用の年齢制限が横行していることは、社会不安を増大させるだけでなく、賃金調整の余地を減じてしまうといった市場効率の面からも問題である。雇用はあくまでも本人の仕事能力とその賃金との見合いで決められるべきであって、年齢等の外形基準によらないようすることが、仕事を求めている失業者の利益にかなうものとなる。少なくとも募集・採用の年齢制限禁止を打ち出すべきである。

  4. 事後監視・監督の強化
     事前規制緩和は労使双方にとって選択肢を増やすという利益をもたらす。しかしその一方で、事前規制によって守ってきた労働者の利益は損なわれる恐れがある。
     従って、事前規制緩和と事後監視・監督の強化、あるいは事後的な紛争処理制度の整備はペアで進められるべきである。事後監視・監督の強化があってはじめて、事前規制緩和は労働者の利益になるともいえる。

以上の観点に立って、職業紹介、労働者派遣、労働基準などの分野における雇用規制のあり方の抜本的見直しを問題提起すると同時に、事後監視・監督・紛争処理の拡充について、厚生労働省と討議していくことにしてはどうかと考えている。

もちろんこれと併せて、これまで当WGと厚生労働省との間で合意された規制改革が着実に実現しているかどうかのモニタリング、督促なども行っていかなければならないことは言うまでもない。


内閣府 総合規制改革会議