第3回住宅・土地・公共工事・環境WG 議事概要

1. 日時

平成15年6月24日(火) 10:00〜12:00

2. 場所

永田町合同庁舎総合規制改革会議大会議室

3. テーマ
1 法務省ヒアリング

(1)借家制度の更なる改善について

(2)不動産競売における最低売却価額制度について

2 環境省・国土交通省ヒアリング

ヒートアイランド対策について

4. 出席者
(法務省)

(1)民事局 吉田参事官、和田局付

(2)民事局 小野瀬参事官、一場局付

(環境省)

環境管理局 上河原大気生活環境室長

(国土交通省)

総合政策局 岡田国土環境・調整課長

国土計画局 西野大都市圏計画課専門調査官

都市・地域整備局 美濃部街路課企画専門官、新田公園緑地課企画専門官

(委員、専門委員)

八田主査、森委員、安念専門委員、中井専門委員、福井専門委員

(事務局)

内閣府 福井審議官、千代参事官、下山企画官、廣田企画官 他


議事概要

1 法務省ヒアリング

(1)借家制度の更なる改善について

○八田主査 はじめに借家制度の更なる改善について、法務省から現在の取り組み状況について、伺いたいと思います。

○法務省吉田参事官 まず「規制改革推進3か年計画」の中で、借家制度の更なる改善が掲げられているが、現在の検討の内部的な準備作業について説明いたします。個別的に関係団体に非公式なヒアリングを行ったり、これまでの裁判例を収集、分析したり、今後の見直し作業に向けて、見直し作業をおこなっているところでございます。更に詳しく申し上げると、まず関係業界団体、借地借家人団体からヒアリングを行っているところでございます。この点は更に実情の把握、取引者のニーズの把握という観点から、引き続き事情聴取をしていく予定でございます。それから、裁判例の収集、分析については、公開されている事例の分析だけだと数が限られており、バブル時の事例など、特殊な事例が中心であるので、現在、無作為に抽出して、収集を行っているところでございます。こういった方法をとることによって正当事由についての判断の手法がどういうふうになっているかと、検討事項として取り上げられております特に地域の状況というものが、これは現在までも正当事由の判断要素の中で考慮されているというふうに理解しておりますが、それが具体的にどう取り上げられているかとか、それから、立ち退き料の算定の手法、算定要素としてどのようなものが考慮されているか、こういったものについて偏りのない形で件数を収集できるのではないかというふうに考えております。
 今申したヒアリングの手続きや調査等を通じて、実際のニーズ、定期借家と普通借家両方にまたがりますけれども、各検討を踏まえた上で、秋ごろを目途に最終的にどのような形で検討を行っていくのかということを決めたいと思っております。
 さらに具体的なそれぞれの項目について若干現在の検討状況をお話しいたします。
 最初に、定期借家の問題でございます。まず定期借家の居住用のものについて、普通借家から定期借家への切替えを解禁するという点でございます。この点につきましては、当事者が真に合意している以上、その合意どおりの効力を認めるべきであって、真に合意している場合に居住用建物に限って切替えを禁止する理由は乏しいのではないかというふうに考えております。ただ、当初の導入時に切替えについてこれを認めない措置がとられたという経緯がございますので、この点、こういう措置がとられた理由といたしましては、定期借家契約についての理解が不十分なままにその同意を取りつけて定期借家契約への切替えが、実際の合意がないにもかかわらず切替えが、強制的というか、十分な合意が得られないままに行われるという恐れがあると、こういった点に配慮してこういった措置がとられたというふうに理解しておりますので、そうした恐れが現実に払拭できるのかというあたりについて、慎重に検討する必要があるというふうに考えておりますけれども、切替えが、今言った点を踏まえて、解禁、容認できることになるかどうかについて検討していきたいと考えております。
 2番目に、説明義務の廃止の是非の点でございます。この点は、書面による説明義務が法律上要求されていることによって、定期借家契約の普及が阻害されているのではないかと、あるいは、契約当事者に不当な過大な負担となっているのではないかという指摘がございました。ただ、この点については書面による説明義務という形で過大な負担となっているのかどうかという点について、先ほど申し上げましたように、関係団体等からヒアリングを実施しておるところでございますけれども、一方で、説明義務を果たすことによって契約の手続きが明確になって後日の紛争発生が回避できるというようなメリットが一方では賃貸人の側にもあるように思われます。この説明義務を廃止した場合の問題点としては、先ほどの切替え禁止と同じように、賃借人が十分に理解しない形で定期借家契約を結ぶ恐れがあるのではないかと、こういった配慮に基づいてこういう規定が置かれたというふうにこちらもこの点は理解しておりますけれども、実際にこの説明義務を廃止することによって弊害が生じる恐れがないのかという点について、さらに実情を調査した上で廃止の是非について検討していきたいと思っております。
 3番目は、中途解約権の廃止の是非の件でございます。この点につきましては、定期借家というのは一定の期間についての使用権の付与を約束して、それに対する対価の支払を一方で約するということを本質的な内容としておりますので、借主の一方当事者に中途解約権を付与していることについては、特にこれを強行規定としていることについては、定期借家権の本質と相容れない制度である、あるいは、期間満了までの間、契約が継続して安定した収益を確保するという貸主の期待を侵害しているという指摘があるところでございます。ただ、この点につきましては、中途解約が認められる場合というのは転勤、療養等、やむを得ない事情によって建物を生活の本拠として使用することが困難になった場合に限定されているので、現実に解約権が行使されて貸主の期待が侵害されるのは実際にはかなり稀なのではないかという指摘がございました。それから、こうした場合、今申し上げたやむを得ない事情がある場合にまで中途解約を認めず借主が賃料を払い続けなければならないとすると、借主としては、居住用定期借家契約の締結を躊躇し、かえって定期借家契約の普及を阻害することにもなるのではないかという指摘もございました。これらの双方の指摘を踏まえまして、この点についても廃止の是非を検討すべきこととされておりますので、法務省においても検討を進めていっておるところでございます。
 それから、普通借家の問題でございます。普通借家の点については、まず正当事由制度について、建物の使用目的、建替えや再開発等、付近の土地の利用状況の変化等を適切に反映した客観的な要件とすることについて検討するというふうにされているところでございます。今回の正当事由の見直しの問題は、正当事由制度の機能を近時の借家の供給状況をはじめとした経済状況の変化等に照らして見直すという、いわば制度の本質にかかわる問題であるというふうに考えております。それから、見直しをする場合には、それを既存の借家契約にも適用できるかどうかと、その可否が重要な論点になるというふうに認識しております。先ほど申し上げましたように、法務省としましては、近時の裁判例において、建物の存する地域の状況、その例としては土地の高度利用の必要性等が正当事由を判断する要素としてどのように扱われているかという点を把握するために、調査を実施しているところでございます。その調査で収集した分析結果等を踏まえて、実際に土地の利用状況等をどういう形で正当事由の判断要素に取り込むことが可能であるかという点について、慎重に判断していきたいというふうに考えております。
 最後に、立ち退き料の位置付け・在り方についての検討とされている点でございます。現行法下では、普通借家の解約申入れ時に提供される立ち退き料につきましては、正当事由の補完的な事由として位置づけられておりますが、その算定基準が明確ではなくて、どういった条件のもとで明け渡しが可能となるのか予測困難であるという点に問題意識があるものと承知しております。この点に関しましても、先ほど正当事由に関する裁判例の収集というふうに申し上げましたけれども、近時の裁判例におきましては、営業上の損失でありますとか移転実費等が立ち退き料の算定要素としてどのように取り扱われているかという点が問題を検討する上での重要な手がかりになると考えております。そういったことで、法務省としては、先ほどの裁判例の調査の中で、分析結果等を踏まえて、例えば立ち退き料の算定基準を具体化・明確化することができないかという点について検討を加えていこうというふうに考えております。
 以上でございます。

○八田主査 どうもありがとうございました。
 最初にお断りしておいた方がよかったかもしれませんが、事務局から連絡があったと思いますが、この会議の議事録は公開されることとなっておりますので、ご了承願いたいと思います。
 私から1つだけ伺いたいと思います。書面による説明義務がどの程度の負担になっているかとかそういうことに関して、定期借家についての関係団体から意見聴取されるということなのですが、これは、関係団体として意見がまとめられたところでお聞きになるだけなのか、それとも、ランダムサンプリングや何かで、具体的に実際の、借りる人、貸す人、仲介業者、そういうところからの調査をされるご予定があるのか、その辺について伺いたいと思います。

○法務省吉田参事官 実はこの点は法務省としても独自にやるべきなのかもしれないのですけれども、定期借家の件につきましては国土交通省さんの方で、この見直しの時期に合わせて、貸し手、借り手、双方について、現状調査といいますか、普及状況の調査等について実施されるというふうに聞いております。その調査項目については、こちらとしてもこの見直しについてはこういう点を聞いてほしいという事項ももちろんありますので、その点について連携しながら調査をしていきたい。先ほど申し上げましたように、ヒアリングと言いましても、これは団体の幹事の方をお呼びして非公式に聞いておるものですから、それは実情調査としては不十分であろうということは認識しておりますので、これは別途、例えば何か秋以降に検討する場で改めてヒアリングを正式にやるかどうかということは別として、個別的といいますか、ある程度網羅的な調査については、そちらの場をお借りして、把握していきたいと考えております。

○八田主査 どうもありがとうございました。
 あと、委員の方から。

○福井専門委員 今まで実施されたヒアリングというのは、法務省としてヒアリングをされているのですか。法制審なりを通してやっているのですか。具体的に、どこに何を聞かれて、どういう話があったのかという、議事概要なり議事録を出していただけませんか。

○法務省吉田参事官 現在のところは本当に非公式にお呼びして話を聞いておるだけですので、その内容についてはちょっとお答えできないのですけれども。

○福井専門委員 しかし、それは立案作業のための基礎資料としてヒアリングをされているという位置づけなのでしょう。要するに、中身はよそにも出せないし、第三者が検証もできないような形でなされたヒアリング結果に基づいて立法をやっていいと思っているのですか。

○法務省吉田参事官 現時点では本当の準備作業としての非公式なヒアリングというふうな、事情を聞いているだけですので、それが直接、先ほども申し上げましたように、こういう方針を決めたということにもなっておりませんので。

○福井専門委員 その準備作業としてやっておられるヒアリング結果については、一切立法の前提としないということをこの場で確約していただけますか。

○法務省吉田参事官 今申し上げたように、こういう形で書類が残っているというものでもございませんので、この点はそれを立法の直接の資料とするという位置づけのものではないと考えております。

○福井専門委員 ですので、立法に当たって根拠とし得る例えば団体の意見あるいは関係者の意見というようなものは、ちゃんと名前が、あるいは団体が明らかになって、いつ、どこで、だれがだれに話を聞いて、ということが明らかになっていないと、全く資料価値も検証可能性もないのです。だから、立法の根拠として使う以上はそういう手続きを得たもの以外は一切使わないでいただきたいと思います。

○法務省吉田参事官 ご指摘の点はよくわかっておりますので。どういう形のフォーラムを設けて検討するか、もちろん実際のそこでのヒアリングはきちんと記録に残してという形になると思いますし、先ほど申し上げた実情調査みたいなものも、これはどういう結果が残っているのかというふうなことはきちんとお示しできるようにしていきたいと思っております。

○森委員 ご存じだと思いますけれども、世界の国の中で、結局、1人当たりの居住面積がどうなっているのかという調査があるのですが、大概の国と比べましても日本は、持ち家に関して言えば1人当たりの住居面積水準は平均よりやや上なのですが、借家に関してだけは半分ぐらいの規模でしかない。こういうことを招来した一番大きな原因は、日本にしかない特別の借地借家法だと思うのです。ですから、海外から人をお呼びしようにも、通常、海外から来た人は3年ですから貸家ですが、そういう人たちは海外レベルの生活のスタンダードの貸家が見つからない、見つかったとしても遠くてとても住めないとか、こういう状況は1日も早く改善しなければいけないと思っています。そういう意味では、諸外国の事例との比較研究などもなさるべきではないかと思うのですが、していらっしゃるのでしょうか。

○法務省吉田参事官 居住環境が、今申し上げた、要は、面積がどうかという点も含めてでしょうか。その点はちょっとやっておりません。

○森委員 そういう意味ではなくて、定期借家とか普通借家とかとおっしゃっていますけれども、この普通というのはいかに普通でないかという調査をしていただいているのかどうかということなのですが。

○法務省吉田参事官 主要国につきましてはもちろん把握しておりますし、最近の実情についても実は調査はしております。ただ、おっしゃるように、ご承知のように、フランスやドイツについては居住用の借家については存続保護の規定がありますけれども、ただ、内容は日本と全く同じかというと相当違うという点も理解しておりますので、その点は十分問題意識を持って検討を進めていきたいと思っております。

○福井専門委員 まず、切替え禁止の見直しなのですけれども、これについては、真に合意があるのであれば必ずしもこういう制度を存続する必然性はないというご説明がありましたけれども、真に合意があるのかどうかということについてはどういう形の確認があり得るとお考えですか。

○法務省吉田参事官 実はその点は書面による説明義務のところとの絡みにもなってくると思っているのです。正直申し上げて、これは3つとも並列で是非の検討ということが書いてあるのですけれども、もちろんこれは検討事項ですからそれぞれの是非については真摯に検討していきたいと思っておるのですが、ただ、前回の導入時に若干真意が確保されていない恐れがより高いのではないかということで、そういう趣旨から別枠で禁止されたという経緯からすると、なかなかこの点も含めて説明義務をそのまま全部落とすというような措置が妥当なのかというあたりについては、この点との絡みもあってちょっと問題があるかなと。

○福井専門委員 そうしますと、要するに、居住用建物で従来は普通借家、それをそのままの物理的な形態で定期借家に替えるという場合がこの切替えの問題とされている領域ですから、そういう領域での切替えに限って説明義務を課せば真に合意があるかどうかの確認ができるという考え方があると思いますが、どう思われますか。

○法務省吉田参事官 通常の場合で除いていいかどうかということは別として、切替えの場面に限っては、新規の場合以上の必要性のもとに、何らかの意思確認、説明義務と書面交付みたいなことが必要なのではないかというふうに一般的には考えられるのではないかと思っております。

○福井専門委員 要するに、通常のこれから全く新規に入るという場合と違って、切替えの場合には、相対的により丁寧な説明があればもともとの立法趣旨を逸脱することにはならないということですね。

○法務省吉田参事官 ただ、この点は、率直に言って、普通借家から定期借家に替えるということになると、他の契約条件が全く同じだということになってしまうと、借主が一方的に不利になるということは明らかなものですから、その点、その動機というのでしょうか、そこがはっきりしないと後で疑義というか紛争の種になる可能性があるのではないかと。ただ、動機と言っても、これは例えば家賃が下がっていればいいのかとかそういうのも相対的な問題ですので、なかなか一般的にこういう条件が満たされていれば真意が確保されているのではないかということまでは言えないだろうと。そうなると、やはり外形的な意思確認の方法みたいなことをきちんと担保するというのが選択肢としては妥当なところかなという感じはしております。

○福井専門委員 2つ目に、一般的に被っている書面の説明義務なのですけれども、これは恐らく宅建業者などから既にお聞きになられていると思うのですけれども、私が把握している実態は、通常の契約書と一緒に書面の説明を持っていって、同時に説明して、こっちも説明しましたよと言って書類を余分に1通つくるだけで、契約実態には全く変わりがないという実態ばかりです。ということは、形骸化していて、これによって余分に権利が守られているという社会実態は全くないというのが、私が把握している事実なのですけれども、そうではないという実態なり実例を今までにお聞きになったことはありますか。

○法務省吉田参事官 契約実態というか、要は、普通という言葉がいいかどうかは別として、導入時まではそれだけしかなかったということの差異をある程度当事者に明確に意識させるということに恐らく目的があると思いますので。契約内容自体としては契約書の中に書いてあるから、もちろん意思の合致の内容としてはそれで満たされているということになるのだと思いますけれども、趣旨としては、ただ、普通のものと違いますよということが普通というか、これまでの新規に導入される以前の借家一般とは違いますよということの注意喚起の趣旨だと思っていますので、形骸化しているという評価はひとつの見方だと思うのですけれども、それでいいのかという感じはお話を聞いて思いました。

○福井専門委員 それでいいのかというのは、形骸化してはいけない、立法の趣旨に反しているのが社会実態ではないかという趣旨ですか。

○法務省吉田参事官 形骸化しているというか、それで今までの借家と違うのですねということを理解しているという場合もあるのではないか。

○福井専門委員 要するに、その程度の、契約書と一緒に突き出して同時にめくら判を押させる場合でも、今までよりは意味があるということですか。

○法務省吉田参事官 ええ、まぁ程度問題だと思いますけれども。

○福井専門委員 書面の説明義務というのは、契約書を作成して取り交わすというセレモニーの前に、少なくとも時間的には断絶した時点に書面で説明をして、完全に納得して、しかる後にやおら契約書を取り交わすというのが、もともとの立法の意図であったのです。ただ、そこまでは厳格に書いていないですから、現実問題、仲介業者はそんな面倒臭いことはしないで、実際上は同時にやっているということなのです。
 ということは、同じ内容を書いた紙に判子を余分に押させて受領証を受け取るわけですけれども、それだけのことになっているとすると、恐らくそれで余分に権利を守られたという人、すなわち、具体的に説明義務のおかげで「うっかり」を避けられたという実例は私の耳には入っていませんし、国土省などの担当者もそういうのは聞いたことがないと言っているので、余り役に立っているという証拠がないのです。だから、もし法務省で、いや、これのおかげで役に立った、うっかり定期借家契約なんかに判子を押してしまうのが避けられたという事例をご承知だったら教えていただきたい。

○法務省吉田参事官 現在のところそういうものは把握しておりません。ただ、これは検討が4年を目途ということになっていて、いずれにしても、今回の見直し事項というのは、実は、一巡してというか、新たに……。要は、福井委員がおっしゃったような問題というのは、結局、期間が満了した時点でこんなはずじゃなかったみたいなことが紛争として顕在化するかどうかという問題ですので、今回の見直し時期を目途にもちろん検討は進めなければいけないのですけれども、時間が経たないと、それが本当に役に立っているのかとか、それで実際に権利が守られたかということの検証は、なかなか事例的にも難しいところがあるというふうに思っております。

○福井専門委員 ただ、定期借家も、運用実態上は大半がやはり2年なのです、居住用の場合。ということは、施行日から今までもう数年たっていますから、そういう意味ではもう満了しているのは実際問題としてはいっぱいある。しかし、その中で聞こえてきていないということなら、やはり弊害はないと推測するのが通常の合理的推論ではないかと思われるものですから、そういう推論に反する証拠があるのならぜひ教えていただきたい。

○法務省吉田参事官 なお調査したいと思います。

○森委員 先ほど、定期借家にすると明らかに借家人に不利だというようにおっしゃいましたけれども、現実は、家賃がどんどん値下がりしておりまして、借家人にとっては、定期借家にした方が有利ですよね。実際は、家賃が安くなってしまう、つまり相場が下がっていますから、貸主にとっては不利になっている。それは、上がったり下がったりするのが相場で、市場経済社会では当たり前のことなのに、貸家に関してだけは違うと、これだけ経済状況、相場状況が動いている中でこれだけは守るという、そのスタンスはもうそろそろ変わってもいいのではないかと思います。そういう予断に基づいてそういうことを守るということを言い続けるのはおかしいと思うのですが、いかがでしょうか。

○八田主査 おっしゃったことにちょっとつけ加えたいのですけれども、経済学者は、もちろん定期借家になったら家賃が下がるだろうと予測していました。実際にもうデータが出てきまして、家の大きさ、駅までの距離、東京駅までの時間、築年数、そういったさまざまなことをコントロールした上で定期借家と普通借家の家賃をかなり慎重に比較した分析が随分出てきました。その結果は、大体2割〜2割5分ぐらい定期借家の方が安いことを示しています。例えば大阪大学の大竹さんなどは、いろいろな手法で分析をしていますので、そのような分析結果をぜひ審議会の委員の方に、お知らせいただきたいと思う。
 それから、戸建ての場合には定期借家が家賃を引き下げる勢いが激しくて、普通借家の値段まで引き連れて下げてしまったことも示されています。定期借家が戸建ての場合にはかなり供給されていますから、それで全体の供給がふえて普通借家まで下がったと、そういう分析もあります。それから、もちろん駅ビルで随分新しい店舗の変化が非常に急速に始まっているなんていうのも定期借家の結果ですし、思い出横丁で火事があったときに後で若い人たちがどんどん開店できたというのも定期借家のためです。ぜひ審議会で、関係団体の意見だけではなくて、そういう非常に具体的な分析を委員の方に知らせていただきたいと思います。

○福井専門委員 借主からの解約権の強行規定の問題ですが、これは、今、普通借家では、特約を設けない限り解約は自由なわけです。特約を設けた場合にだけ解約権が制限される。その普通借家の場合よりも定期借家の場合の方が、借主からの解約をより容易にして保護しているわけです。バランスという点で、定期借家の方がもともとは借主の権利が弱い類型で、普通借家の方が借主の権利が強い類型だという出発点からすると、この中途解約権に関する限りは定期借家の方が借主の権利が強いのです。そこは、やりたくてこういう改正をされた立場ではないからお答えになりにくいかもしれませんけれども、どういうふうにつじつまを合わせてこの立法の意図を解釈されますか。

○法務省吉田参事官 普通借家だと、期間が定められてある場合だと中途解約は認められないという、そういう趣旨ですよね。定期借家の場合には、恐らく相当長い期間に基づいて契約が定められるとか、いろいろな考慮に基づいていると思いますけれども、どういうふうに説明するかということですよね。
 立法の経緯はおっしゃられたとおりなのですけれども、やはり、導入されたときというか、普通借家でありますと、先ほどの説明に戻ってしまうのですが、一般的に期間の問題もあるでしょうし、それから、法律上はおっしゃるように借主の解約権というのは、そんなに期間が長くないということもあるのでしょうが、認められていませんが、別途特約がある場合とかそういうケースがあるのだろうと。ただ、定期借家が全く新しい制度として導入されたので、そこは最低限借主の利益が害されないような形での手当をしたということだと思います。

○福井専門委員 定期借家も普通借家も中途解約をもし禁止するとしたら、その禁止する趣旨は、長いこと借りなければいけないという借主の拘束、借り続けなければいけないという拘束を余り長期間義務づけると、強制的に拘束するのはかわいそうではないか、というのが恐らく立法意図のはずなのです。そうすると、普通借家でも別に10年とか20年の契約が結べるわけです。しかも、期間を定めて、借主からの中途解約権なしという契約を定めれば、普通借家ですら10年間借りっぱなしで、借主は、転勤でも療養でもいかなる事情があろうともよそには移れない、借りっぱなしでなければいけないということを強いられる。ところが、定期借家の10年の場合には、転勤とか療養とかもっともらしい名目をつければいつでも解約できるわけで、これに関しては、バランスが悪いという議論が立法時からあるのです。そこは何か説明できますか。無理に説明しなくても結構ですが。

○法務省吉田参事官 それは別に公式にどうこうというのではなくて、全く個人的なあれなので、またちょっとよく考えてみたいと思います。

○福井専門委員 要するに、この場では答えられないぐらい変な規定でしょう。

○法務省吉田参事官 これは全く個人のあれですけれども、ただ、定期借家と普通借家を比べたときに、どっちが一方的に借主に有利だという仕組みである必要も恐らくないと思うのです。普通借家について存続保護という形で非常に堅く借主が保護されているのに対して、定期借家は中途解約という形で保護されると、これはバランスがとれているかどうかということは恐らく議論があるのでしょうけれども、一方で、普通借家は借主保護ということでプラス、プラス、プラスでなければいけないということではないのではないかという気はいたします。

○福井専門委員 もちろん全部それをする必要はないのですが、この解約権について言えば、長期にわたる借主の拘束を解放してあげるきっかけをどの程度与えるかという問題だから、その面でだけ比べれば、普通借家の借家人は縛りつけても構わなくて、定期借家の借家人はいつでも自由に動けるようにしなければいけないという必然性が論拠として成り立つのかどうかという問題ですね。
 これは、要するに、立法時にある与党の提案で、土壇場に入っただけのことで、何でだと言われても政府としては答えようがないというのが正直なところだと思うのですが、だとすれば、こういう今のような議論を経てつくられた規定ではないということで、1日か2日であまり論拠を考えないで妥協の産物でできてしまっただけの条文ですから、今のような議論がわかっていれば、これを主張した政党だって必ずしも合理性はないということがわかったはずです。そういう議論抜きにできた規定だということも踏まえていただいて、今のような、いわばバランス論から見ていかにも奇妙だということがあるのであれば、すっぱり見直した方が都合がいい。要するに、特約で今の普通借家の契約の約款で通常やっているように、中途解約は借主からは自由だというふうに約款上定めることは自由なわけですから、そういうふうに直す手もあると思います。

○安念専門委員 真の合意というのは無理な話だろうと思うんですね。もともと、伝統的な言葉を使えば、効果意思が表示行為と合致しているかどうかという、非常に古典的な話でございますよね。効果意思自体は全く内心の真意の問題でございますから、それが全く自由に形成されて、よくインフォームド・コンセントがあったということを確保しろと言っても、それはできない話だと私は割り切るべきだと思うのです。
 こういうときは案外民法一般理論の方が強いもので、結局、形式に流れるような書面の交付義務だの説明義務だのごちゃごちゃ言うよりも、結局のところ、きちんと説明しなかった場合の貸主のペナルティが十分重ければ、事後的なペナルティが重いということの方がはるかに合理的なのですね。それはどういうことかと言えば、要するに、定期借家というのは他の条件が同じであれば家賃が下がるということに最大のメリットがあるわけで、もうそこに尽きているわけです。ですから、切替えたのに家賃の下がり方が十分でないならば、それはそこに錯誤があったとか、詐欺があったとか、場合によっては脅迫があったとかというふうに後から推定すればよろしいと思うのです。その事後的なコントロールの方が私ははるかに合理的だと思います。事前のことは幾らやってもほとんど効果がないだろうと私は思いますので、その選択肢をぜひお考えいただいて、そういう意味では、割に民法というのはよくできているなと私は思うので。どんなときにでも使えると。
 もう1つは、借主の保護、特に切替えは借主の保護ということをお考えになるだろうと思うし、それはそれでわからなくはないのですが、こんなことはおまえに聞かなくてもわかっていると恐らく腹の中ではおっしゃると思うのですが、日本の民法学者というのは余り論理的な思考のできる人ではない人が多い、率直に言って。それはどういう意味でできないかというと、彼らにとっては論理的に考えていると思うのですが、例えば借主保護だと言って、やれ説明義務だ、何だと言って規制を設けることによって失われる利益の配慮がほとんどできないのです。それは、マクロレベルでどういう経済的な利益が失われても、なおかつ借主保護を重んずべきだという数字に基づく説得根拠がなければいけないということ自体がわかっていないのです。ですから、マクロのレベルでは消費者保護と称する規制によって失われる利益は大きいはずなのですが、そこをほとんど無視してしまうのです。
 ですから、もしこういう問題が法制審などでかかるのであれば、それをきちんとした形で、失われる利益があって、それはどのぐらい大きいのかということをきちんと議論しなければだめなのだということを、念を押していただきたいと思います。日本の民法学者というか法律学者はみんなそうなのですが、そこら辺の思考能力はほとんどゼロでございます、私の今までの経験で、私自身を含めて、自戒を込めてそう申し上げます。

○福井専門委員 3つ目の論点の正当事由の見直し、再検討ですが、土地利用状況とかをいろいろ具体化、明確化できないかというのは、これは91年改正のときに言われたような、判例要件をいわば追認して並べるというのを想定しておられるわけですか。

○法務省吉田参事官 具体的なところまではちょっとお答えできないのですけれども、ただ、先ほど申し上げたように、既存の借家関係の適用ということを前提にすると、現在の判断基準といいますか判断要素というものを具体化するというのが1つの大きな検討課題なのだろうと考えております。

○福井専門委員 ここの閣議決定で示されている文章は、そのために入れているわけではなくて、要するに、今の判例自体が必ずしも法則性がなくて正当事由が非常に個々ばらばらなので、もうちょっとあらかじめ予測可能な要件として定める、要するに判例の追認ではなくて立法的に解決すべきではないか、という問題意識なのです。だから、そこは単に判例を並べて四苦八苦されても余り甲斐がないと思うので、判例を並べた上でどういう決めをすれば客観的で、土地利用で当事者の利益を損ねないのか。こういうアプローチでぜひ検討していただきたいと思います。
 もう1つ、立ち退き料なのですけれども、正当事由の補完要素として立ち退き料があるとおっしゃいましたが、この補完要素という考え方に加えて、ここで言っている「立ち退き料の位置付け・在り方」という言葉の意味を、当時この表現で合意したのは、立ち退き料だけで正当事由になる制度も含めてこう表現しているのです。現実にアメリカの自治体では、立ち退き料が何カ月分とか、支払家賃総額の何割かを提供したら、土地利用状況とか当事者の事情とかは一切すっ飛ばして、それだけで正当事由として解約が認められるという制度を置いているところが現実にあるのです。そういうところについて我々は調査等もしておりますけれども、だからといって何か弊害があるということはない。みんなそれぞれ金銭的メリットで相殺されるという見方がされているわけです。とすると、日本でそういう制度を入れたときに何か弊害があるのかということも、何かコメントがあればお聞きしたい。

○法務省吉田参事官 弊害うんぬんについては今後検討すべきところだと思っておりますけれども、ただ、既存の借家関係の適用を前提にした場合に金銭だけで正当事由が具備されるというような制度については、既に形成されている法律関係のすべての関係でそういった遡及適用が可能なのかということについてはかなり困難な問題があるという経緯があってこうした文言に落ち着いたと思っておりますので、検討の内容としては含まれておるということになるかもしれませんが、そこについて何かこの点が方針として決まっているということではないと考えております。

○福井専門委員 それはそうなのです。要するに、選択肢の1つとして、それは有力な選択肢なので、その場合におっしゃるような何か弊害、遡及的な弊害があるとするなら、それは一体どういう弊害なのか、あるいは、また憲法の財産権とかをもし持ち出されるのであれば、それはどういう論拠で何が障害になり得るのか。これらについてよほどち密な議論をしていただかないといけないと思うのです。
 先般のマンション法のときにも似たような議論がありましたが、結果的に5分の4決議のみで建て替えを認める政策、しかも法制審も当初は断じてできないと言っておられた遡及適用を、最後はむしろお認めになられたわけですから、それとの比較でも、要するに、一切過去の財産権に対して事後的に制約を加えてはならないということには必ずしも憲法上はなっていません。そういう枠組みも踏まえて検討していただきたいと思います。

○八田主査 今後のスケジュールですけれども、審議会や何かを立ち上げられると思いますが、そのスケジュールはどういうふうになっておりますか。

○法務省吉田参事官 ちょっとまだ予定が確定していないものですから、秋以降ということしか現段階ではご説明できない状況でございます。いずれにしましても、年度内の検討ということになっておりますので、そのスケジュールの中に収まる形で今後何らかのフォーラムを設けるかどうかということを含めて準備を進めております。

○福井専門委員 今後のスケジュールに関して、冒頭の問題提起とも関わるのですが、それこそいわゆる公式にとおっしゃっていた、公式に意見を聞かれるとか、あるいは検討のスキームを示されるとか、あるいは国民一般の意見を聞かれるという場合には、後でここでは意味がないのではないというようなことになると不毛だし、お互いの時間や労力の節約にもなりませんから、基本的にどういう枠組みで、だれにどういう形で聞くのかについては、密に総合規制改革会議と事前に調整をとっていただいた上で、建設的な問題提起・議論の仕方をしていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。

○法務省吉田参事官 今の趣旨を踏まえまして、事務局とも連絡をとりながら進めていきたいと思います。

○八田主査 それでは、どうも朝早くからありがとうございました。

(2)不動産競売における最低売却価額制度について

○八田主査 不動産競売における最低売却制度について、「3か年計画」のフォローアップのお話を伺いたいと思う。

○法務省小野瀬参事官 不動産競売における最低売却価額制度に関する、私どもの現在の検討状況についてご説明したいと思います。
 担保執行法制に関しましては、本年2月に法制審議会の答申がございまして、この通常国会に「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案」を提出しているところでございます。かねてからこの最低売却価額制度につきましてはこれを廃止すべきだ等のご意見がございましたが、結局、今回の法案ではその点についての手当てはされておりません。それは、この点につきましてはさまざまなご意見がございますし、また、民事執行制度の基本にかかわる事柄であるということでございますので、もう少し時間をかけてじっくり議論をする必要があるのではないか、ということからでございます。
 このような経緯から、当省といたしましても、最低売却価額制度の在り方についてもう少し時間をかけて検討を開始する必要があると考えまして、本年3月24日の法制審議会におきまして民事執行法の改正についての諮問がなされております。お手元の資料のとおり、諮問第六十二号でございます。具体的には、「民事執行手続を一層、適正かつ迅速なものとすることにより、円滑な権利の実現を図るとの観点から、民事執行制度の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい」と、こういう内容の諮問でございます。
 このような諮問がされまして、民事訴訟・民事執行法部会において審議がされることとなりました。この部会では4月から審議が行われておりまして、先週の6月20日まで3回の部会が開催されております。
 これまでの審議の状況を簡単にご説明申し上げますと、まず4月の部会ですが、今後検討すべき課題についてご議論をいただきました。お手元の資料の中で「民事訴訟法及び民事執行法についての検討課題(案)」と書いてございます資料が、このときの部会でご議論いただいたときの資料でございます。このように、今後この部会で検討すべき課題というものの案をお示ししたわけでございますが、この中で、最低売却価額制度も今回の大きな検討課題の1つとされております。
 次に、5月の部会ですが、お手元の「民事訴訟法及び民事執行法についての論点整理」という資料で、論点整理といたしまして、事務当局の方から、さまざまな意見のご紹介、今後検討すべき具体的な論点というものを提示いたしております。
 例えば最低売却価額につきましてはこの資料の5ページに記載されておりますが、例えば最低売却価額制度を見直す必要性についてどのように考えるのか、例えば競売における売却価額は市場原理に委ねるべきではないか、あるいは最低売却価額の決定に時間がかかっているのではないか、あるいは最低売却価額制度の存在によって売却率が低下しているのではないか、こういった意見があるが、どのように考えるのかという論点を提示しております。
 また、最低売却価額を定めない制度を創設するというようにした場合に、現在この最低売却価額制度が有している機能、こういった機能に代わる措置を設ける必要性があるのかどうか、例えば債務者、債権者の利益を保護する必要があるかどうか、あるいは買受人への情報提供の機能といったものはどうするか、あるいは超過売却の見込みの判断基準としての機能はどうするのか、こういった点も論点としてあるのではないかという形で論点を整理しております。また、内覧制度につきましても、今回の改正法案以上に拡充すべきであるという意見もあるということもお示しいたしまして、この点も論点として提示しております。
 続きます先週の6月20日の部会でございますけれども、民事執行に関する実情の聴取をしております。最低売却価額に関する関係団体等から意見を伺っております。具体的には、やまと債権管理回収株式会社、全国銀行協会、東京地方裁判所の執行官の方からお話を伺っております。やまと債権管理回収株式会社の方からは、最低売却価額制度の存在が不動産の円滑な売却の阻害要因となっている、こういったような理由でこの制度を廃止すべきであるという趣旨のご意見がございました。他方、全国銀行協会の方は、この制度が廃止されると不当に安価に売却されて債権者の利益を害する恐れがある等の理由で、廃止には反対というご意見がそれぞれ述べられておりました。
 現在までの法制審議会の検討状況は以上のとおりでございます。今後、前回のヒアリングの結果等も踏まえまして、法制審議会の部会で審議されるものと考えております。また、その時期については、法制審議会におきましては、遅くとも来年の通常国会に所要の法律案を提出するということを目途にご審議をお願いしているということでございます。法務省といたしましても、法制審議会での議論を踏まえまして、引き続きこの最低売却価額制度について検討してまいりたいと考えております。
 以上が最低売却価額に関する検討の状況のご説明でございます。

○八田主査 どうもありがとうございました。
 それでは、ご意見はございませんか。

○福井専門委員 その法制審の議事録はホームページ等で公開されていますか。

○法務省小野瀬参事官 はい。

○福井専門委員 20日の分も。

○法務省小野瀬参事官 20日の分は、今はまだ公開はされておりません。

○福井専門委員 規制改革会議の事務局の方にホームページ公開前でも完成次第届けていただけませんか。

○法務省小野瀬参事官 わかりました。

○福井専門委員 法制審に加えて皆さん方は自民党の法務部会のヒアリング等にも同席されていると思いますが、そこで出ている1つの典型的な議論が、お示しの資料のこの6ページの上の(イ)にあるような、「最低売却価額がないと不当に安い価格で暴力団などが買い受けるのではないか」という議論であり、懸念としてよく出てくるのはご承知のとおりだと思います。これが成立するというのは、どういう場合かという想定を、論理的にどのように考えておられるかということをお聞きしたいのです。

○法務省小野瀬参事官 こういったようなことも、この間のヒアリングで、全銀協の方がおっしゃっておられました。推測するに、こういうことは結局何らかの執行妨害的な行為をするということで、買受人の入札をまず排除すると、多数の他の買受人が入ってくるということを排除した上で自己あるいは自分の意を通じた者が不当に安い価額で入札をすると、こういったようなシチュエーションが考えられるのではないかと思っております。

○安念専門委員 しかし、そうだとすると、そこでの問題は、実は最低売却価額があるかないかの問題ではなくて、要するに、意欲を示したおまえたちは出ていけというところに法制の問題があるのであって、最低売却価額うんぬんというのに絡めて問題提起をなさるのは非常にミスリーディングではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

○法務省小野瀬参事官 そこの議論ですが、恐らくそういうことを暴力団がするというのは、これは前回のヒアリングではやまと債権管理回収株式会社の方がおっしゃっておられましたが、転売利益を目的にするためにやるということになります。恐らくこの不当な執行妨害を助長するというようなご意見は、今ですと最低売却価額というものがありますから、なかなか一番下まで、本当に低い価額で取得することはできないと。つまり、そうしますと、転売利益というものを出そうとしても、そこは最低売却価額と次に転売する価額との差額が転売利益になってまいります。ところが、最低売却価額をなくしてしまいますと、より低い、本当に例えばぎりぎりのところで入札をするということになると、転売利益が非常に大きくなる可能性が……。

○安念専門委員 それは当たり前の話ですが、伺っているのは、なぜ暴力団に落ちるのですかというそこです。最低売却価額がなくなるとどうしても暴力団に落ちるのですか。

○法務省小野瀬参事官 暴力団に落ちるのは、買受人を排除して……。

○安念専門委員 ですから、買受人を排除することが問題なのでしょう。

○法務省小野瀬参事官 ですから、転売利益が大きくなると、いわば暴力団が狙う利益が大きくなるものですから、そういうものをより狙う傾向が強くなるのではないかということ。つまり、転売利益が例えば1のときは、それは1だから余りやっても意味がないかなと思うかもしれないけれども、10の転売利益がここから出てくる可能性が……。

○福井専門委員 ですから、転売利益を出すためには執行妨害集団なり暴力団が買受人にならねばならないわけです。彼らが買受人になるためには一番高い札を入れなければいけないわけでしょう。

○法務省小野瀬参事官 それはほかに人がいればそういう競争状態が生じますけれども、ほかに人がいなければ自分だけで入れられるということになるわけです。

○福井専門委員 ほかに人がいるかいないかというのは暴力団にとってわかることなんですか。

○法務省小野瀬参事官 つまり、それは執行妨害をしてそういう者を入れさせないようにするということでございます。

○福井専門委員 要するに、今は期間入札ですから、競り売りの際に周りを威嚇するというような形で暴力団が威力を示すということは物理的にできないわけです。そういう前提で、郵送で全国どこから札が入るかわからないときに−暴力団が威力を示していて確実に自分のものにできるのならそういうことはあり得るかもしれませんが−制度的には保障がないのになぜ暴力団に落ちることを想定されるのか、ということがよくわからないわけです。

○法務省小野瀬参事官 執行妨害の実情などを見てみますと、昔は入札の場面でにらみをきかせるというようなことはあったというふうに伺っておりますけれども、今はむしろ、例えば物件の周りに、あるいは物件にそういったようなものを示すようなものを、物件あるいは周りにそういうことを置くというようなこともあります。そうしますと、何も物件を見ないで多数の人が郵便で入札するということになれば、それはそういったような多数の人が入ってくるという可能性もあるかもしれませんけれども、場合によってはやはり入札しようとしている人は物件を見に行く、そうすると、物件を見に行くとそういったような暴力団をうかがわせるものがあるということで入札をためらってしまうというようなケースがあると伺っております。

○福井専門委員 入札をためらうということは、ヤクザの占有なり妨害なりがなければあるだろう市場価額を、その妨害行為が落ち込ませているということですね。

○法務省小野瀬参事官 そうですね。つまり、入札者がいなくなりますので、暴力団あるいは暴力団の意を通じた人の価格で決まってしまうということですね。

○福井専門委員 そこはよくわかるのです。それは多分どちらの議論の方も前提にしている。そうすると、暴力団が威嚇行為をすると値が下がるという事実に関してですが、最低売却がある場合とない場合とで、値段の下がり方が、市場価額に対する影響が、変わると思われますか。

○法務省小野瀬参事官 それは、最低売却価額があればそれ以上は下がらないので、ある意味ではそこから実際に売れるまでの転売利益しか出てこない。

○福井専門委員 ちょっと待ってください。最低売却価額まで下がって、それで誰か買う人がいると思われるのですか。

○法務省小野瀬参事官 ここは誰かいるかというご議論ではなくて、暴力団が札を入れる場合、買受人を排除して……。

○安念専門委員 それはおかしいですよ。だって、買受人を排除しているのなら、暴力団以外には札が入らないか、最低売却価額では落ちないということでしょう、それは。

○法務省小野瀬参事官 転売利益を確保しようということになりますと自分で取得しなければいけませんので、そこはやはり最低売却価額のところで札を入れると。最低売却価額と2次的な売買との差額を転売利益として得ることはあると聞いております。

○八田主査 私が暴力団なら何をやっても競売が不調ということにもっていくだろうと思います。その後は、「競売は何度やってもうまくいかないから、もう競売はやめて、こっちには安値で売ってくれ」ということは当然あり得るのではないですか。

○法務省小野瀬参事官 おっしゃるとおり、執行妨害のパターンは幾つもあるということは前回の法制審のヒアリングでもおっしゃっておられます。すなわち、競売を不成立にして例えば占有を続けることによってそこでいろいろと不当な利益を得るというパターンもあれば、さっき申し上げたような転売利益を得るというパターンもあるというふうに、いろいろなパターンがあると聞いております。

○八田主査 競売をやめさせて安く買ってしまうという手もあるのですけれども。

○法務省小野瀬参事官 競売をやめてですか。

○八田主査 競売は全部不調だから直接買うと。

○法務省小野瀬参事官 そういうのがあるのですかね。

○福井専門委員 やまと債権回収の専門家の方などがいつも言っておられるのは、執行妨害、要するに、最低売却価額を利用する典型的手口というのは、転売利益などというものではない。要するに、入札不成立のために最低売却を利用して、何度やっても落ちないだろうからおれに安く譲り渡せ、ないしは意を通じた者に安く譲り渡せと脅す。これが典型パターンだということです。

○八田主査 そのあと転売もできるということですか。

○福井専門委員 もちろん、任意で取得した後に転売もできる。わざわざ落札して転売するよりはるかに効率がいいのです。

○八田主査 実際に買う価額には最低売却価額は全然影響ないということですね。

○法務省小野瀬参事官 いろいろなパターンがあるというふうに伺っております。立ち退き料を要求するケースもあれば、自分で落札して転売利益を得るケースもあれば、あるいは安価で取得して第三者に賃貸するケースなどもある、こういったようなケースなどを紹介されておりました。

○福井専門委員 ある意味では執行妨害集団にとって競売に応じるというのは非常にリスキーだしコストがあるわけで、一番手がかからないのは、自分が落とせる保障はない以上、任売なら確実に売ってもらえます。我々の認識している典型的手口の場合には、最低売却価額があると、結局は威嚇行為をして最低売却価額を下回るような値付けにしか第三者が評価しないような行為を常になし得るわけです。独占的に占有しているわけですから。そうすると、最低売却以下となるような、あるいは最低売却を下げたとしても、その下がった分よりさらに下がるような威嚇行為をすれば、常に一般人で最低売却価額以上の札は入れる人はいなくなる、すなわち、市場価格自体を威嚇行為の分だけ下げて最低売却との間に乖離をもたらすことで常に入札を不成立にできるわけです。その場合に最低売却というのはどういう機能を営んでいると思われますか。

○法務省一場局付 そういう場合であっても、所有者ですとか債権者の利益を保護するという役割を果たしていると思います。

○福井専門委員 どういうふうに。

○法務省一場局付 少なくとも所有者は最低売却価額以下の価額でその物件を売却されるという危険性はないということになります。

○福井専門委員 売れなくて、今値下がり局面でさらに売れなくて、どんどんどんどん放っておく間に値段が下がっていて、所有者も債権者も利得の回収ができないということが現実に起こっているのです。それが債権者や所有者の利益を守っていると言えるのですか。

○法務省小野瀬参事官 そこは一般的に、今の最低売却制度のそもそもの機能をどう見るかという話ではないかなと思います。それは、時間がかかることによる今の局面における値下がりという問題と、それから、最低売却価額がなくなることによる不当な安価での入札を防ぐということとの機能をどう見るかということかと思います。

○福井専門委員 今、1回落札がないと、要するに入札不調になると、やり直しまでにどれぐらいの期間がかかるかご存じですか。

○法務省小野瀬参事官 3〜4カ月程度ではないかと聞いております。

○福井専門委員 東京地裁の方のお話だと半年程度と聞いています。では今、半年の間に地価はどれぐらい下落すると思われますか。

○法務省小野瀬参事官 具体的な正確な数字は今ここでは。

○福井専門委員 年間数十%下がっているところだってあるのです。要するに、こういう経済局面での典型的な手口というのは、地価が下落して債権回収が図れなくなったら泣くに泣けないだろうというところにつけ込むのが、利口な執行妨害者の手口なのです。その場合に、落ちないことそのものがもたらす不利益と、それがヤクザの集団に利益を生むという構造を、公平に見てどういうふうに利益衡量されますか。おっしゃる枠組みのもとで真摯に考えられたらどうなりますか、ということをこの場でお聞きしたい。

○法務省小野瀬参事官 これは、今ここで私の方で1つの結論を持っているわけではございません。おっしゃるようなご意見もございますし、やはりまだ債権者、所有者の保護が必要だといったご意見もございます。ですから、私どもとしては、そういったご意見も踏まえて、今後、法制審の方でご審議をいただきたい。

○福井専門委員 意見の開陳はいいのです、これは論理的推論の問題です。要するに、この局面で1回落ちなかったら半年先、もう一回落ちなかったら1年先というのは、泣くに泣けないという債権者が現にいるのです。そういう債権者にとって最低売却価額というのは現に存在しているわけですから−仮にメリットがあるのならどっちが大きいかというのはまた別の問題ですが−そういう債権回収の現場にいて現に困っている人が最低売却価額をどう思っているかということを、論理的に推論できないはずはない。

○法務省小野瀬参事官 それは、ほかの債権者あるいは所有者の利益というものを考えないで、それはまた別の問題として、それで、とにかく早く競落してほしいという人がいて、それで最低売却価額があるために競落ができない、そのことだけを考えた場合には、そういうふうにとにかく値段は下がってもいいから早く競落してほしいという人にとっては最低売却価額はない方がいいと思うのではないかと思います。

○福井専門委員 その場合に、そういう人がいるとして、もう一方で、おっしゃるように、これで守られていると思う人もいるかもしれない。その両者を、何らかの形で利益・不利益を換算して天秤にかけて計測していますか。

○法務省小野瀬参事官 それをどう考えるかというのはこれからの議論だと思います。どういう形で天秤に計ったらいいのかというそういう方法論も含めてこれはご議論することかなと思っております。

○福井専門委員 利益を得ているという方、債権者、債務者なりで、最低売却があるから、最低売却のおかげで自分たちの権利が守られているというケースというのは具体的にどういう場面かを、念のために論理的パターンとしてお伺いしておきたい。

○法務省小野瀬参事官 論理的パターンとしては、今はある意味ではすべて制度によって守られているというふうに言えると思います。ですから、逆に言えば、最低売却価額がなくなった場合に先ほど言ったようなご意見があると、つまり、買受人を排除して暴力団が不当に安い価額で競落すると、こういうようなことが出てくるおそれがあるというのであれば、それがこれによってなくなっている、そういうおそれがないということが今の利益だということになろうかと思います。

○八田主査 1つだけ確認をしておきたいのですが。さっきの話は必ずしも終息していなかったと思うからです。もともとおっしゃったことは、「暴力団としては最低売却価額制度がある場合には、威嚇行動をすることによって得られる利益が少ないが、もしそういう制度がなければ非常に利益が大きい、だから威嚇行動をするだろう」というお話でしたね。ところが、実際問題は、暴力団は、結局は威嚇行動をして、買受人が何もいないようにして、そして後でこっそり、「どうせあんたは売れないんだから、うちに安く売ってちょうだいよ」という。特に値下がり局面では、「そんなに長いこと待っていたってろくなことはないからうちに売ってちょうだいよ」という訳ですよね。とすると、結局は同じですよね。むしろ最低売却価額制度があるために自己競落もなかなかできないわけですから、安い値段で買い戻したいと思ってもできないわけですから、むしろこの制度の方が暴力団にそういう行動を奨励しているのではないか。もし最低売却価額制度がなくて、しかも自己競落ができるとすれば、暴力団は入りようがないと思います。

○法務省小野瀬参事官 ただ、任意競売の場合には、これは抵当権がそのまま残るわけですね。ですから、競売で自己競落をすれば抵当権がなくなるといったことは、そこは大きい違いかなと思います。

○福井専門委員 だけど、それは任意で抵当権を別に抹消したっていいわけです。

○法務省小野瀬参事官 ですから、当然そうなると暴力団と金融機関が話をつけられるかという話だとは思います。

○福井専門委員 暴力団というよりは、要するに、債権者にとってみれば、最低売却価額があることで本当に利益になる局面というのが何なのかということがわからない、というのが今の論点のポイントなんです。

○法務省小野瀬参事官 ですから、今のようなケースで考えますと、さっき言ったように、買受人というものを、幅広く買受人が入ってくることを排除して安い価額で暴力団が落札してしまうということになると、これは金融機関としてもそこから得られる債権の回収額が少なくなる。

○福井専門委員 逆に、最低売却があると高い価額になるわけです。暴力団が執行妨害をして、最低売却を割らせるような威嚇行為をしている場合には、最低売却に達しないから一般人の入札としては不成立に終わるわけです。要するに、これは別の御省の参事官が言っておられましたが、最低売却を決めたら、その値段だけ、やはりお上が決めたありがたい価額だから、その価額に基づいて札を入れようかなと自分なら思うかもしれないというようなことをおっしゃっていました。そういうことがあり得るかどうかというのが1つのポイントです。一般人にとって、最低売却がついたら、それより高い札を入れる気になるだろうかということについてはどう思われますか。

○法務省小野瀬参事官 それは最低売却価額の定め方いかんではないかと思います。まず基本的には、物件について自分がどれだけだったらこれを買おうかと考えることもあろうかと思います。それは、最低売却価額というものが自分の価額よりも低いということになれば、最低売却価額よりも高いのだけれども私はそれでもいいからということで入札する。ほかにもそういう人がいると思えば、その競争に負けないように最低売却価額よりも高い値段で札を入れる、こういう構造になるのではないかと思います。

○福井専門委員 その場合に、最低売却というものがあったら、例えば何もなければ1億円の価値がある物件だとすると、最低売却が 8,000万円に定まったとするとします。そこには実はヤクザが居座っていて、外観上もどうも暴力団組事務所の看板がかかっていて、こいつらを立ち退かせるためには裁判とか労力コストを全部含めると 4,000万円かかりそうだというときには 6,000万円の札しか付かないわけです。普通の人にとっては。 6,000万円ならやっと元が取れる。では、そのときに最低売却で 8,000万円と付けたがために、本来なら 6,000万円の値打ちしかないとないと思う土地に、同じ暴力団の看板がかかっているところに、では私はありがたい裁判所の評価額が出た以上 8,000万円の札を入れましょう、という人が出てくるかどうかという問題なのです。

○法務省小野瀬参事官 執行妨害によって買受人を排除するというような現実の執行妨害の手口があるということですので、そういったものが効果的だということになりますと、これはやはり買受人が排除されるということですので、最低売却価額では入らないということは十分にあり得ると思います。

○福井専門委員 とすると、さっき最低売却ぎりぎりでヤクザ自身が落とすとおっしゃいましたけれども、それは非常に非効率でしょう。やってやれないことはないかもしれないけれども、そんなことをするよりは、威嚇行為で入札不調にして稼いだ方がはるかに利ざやは大きいし手間もかからないわけです。小野瀬さんが仮にヤクザだったらどっちを選ぶのが合理的だと思いますか。

○安念専門委員 合理的なヤクザなら、それは不調にしますよ。

○法務省小野瀬参事官 ですから、不調にして何を得るかですね。単に不調だけでは、これは何の利益もないわけです。不調にして例えば居座ることによって占有の利益ということになると、これは割と月々大きい利益というのはないのかもしれません。

○福井専門委員 そんなの利益はだれも執行妨害の当事者は歯牙にもかけない。そうではなくて、転売益です。安くおれに譲り渡せ、何遍競売にかけたっておれたちが居座っている以上、おまえはもう債権回収できないぞ、と言ってすごんで任売で安く買って、今度は仲介業者を通じて莫大な利ざやを得るというのが普通の手口です。

○法務省小野瀬参事官 そこは、要するに抵当権者との間のネゴシエーションと言うのでしょうか、それは脅しなのかはわかりませんけれども、もちろん所有者もあれですけれども、所有者、抵当権者とのネゴシエーションをどう考えるか。

○福井専門委員 そういうパターンが多いということは20日のヒアリングでも紹介されたでしょう。

○法務省小野瀬参事官 そこまでは。安価で取得して第三者に賃貸するか、所有権があれば抵当権がついていても賃貸できますから、賃貸利益を上げられるとおっしゃっていたのですが。

○福井専門委員 転売益と言っているようですが、議事録では。

○法務省小野瀬参事官 任意売却の場合ですか。

○福井専門委員 それが標準パターンです。

○法務省小野瀬参事官 前回のヒアリングではそこははっきりおっしゃっていなかったと認識しております。

○八田主査 最初におっしゃった、「最低売却価額制度があるから転売益がそのために小さくなって威嚇する可能性が下がるだろう」という議論は必ずしも成立しないと思います。

○法務省小野瀬参事官 ただ、そこはやはり金融機関がすぐに応じてくれるかどうかというところの認識をどう見るかというところだと思います。

○八田主査 放っておいたら売れないわけですからね。

○福井専門委員 売れないのを放っておくよりは、要するに、いつまでたっても決着がつかないのだったら安値が進展しないうちに売ってしまう。これは、抵当権者の利益でもあり、債権者の利益でもあるということになるのではないですか。逆に塩漬けにする利益というのはありますか。

○八田主査 実務の方からはそのように伺っています。そこは割と鍵になるところですね。

○福井専門委員 要するに合理的な、今の日本の暴力団は、アメリカと違って、売春や拳銃や麻薬ではなくて、執行妨害で依然として一番稼いでいるわけです、現実問題。裁判所の方は、東京地裁では8割ぐらいは1回目に落札されるようになりましたと言うが、残りの2割と、5割も6割も入札不調がある地方はどうなのか。そこにいかに暴力団が巣食っているのか、というリアルな認識をまず持っていただきたいのです。彼らは極めて利口ですから、どういうときに一番効率的に、犯罪にならずに合法的に、手間も労力も裁判コストもかけずに、自分が莫大な利益を得られるかということを考えるわけです。そういう利口なヤクザの立場に立ってよくシミュレーションをしてほしいのです。利口なヤクザの立場に立てばわかる。最低売却価額ちょい上で落とすなどという間抜けなことをするヤクザは、私は聞いたことがない。

○法務省小野瀬参事官 おっしゃるとおりで、ですから、そこは現在の執行妨害で本当にいわば任意売却というものが行われているのかどうかというその辺の事実認識というものを、もうちょっとこちらでも確認しておきたいと思います。

○八田主査 それでは、あとは内覧の問題について議論があったら。

○福井専門委員 内覧については、占有者の同意を得ないで内覧を認めるということについて、問題点として何か把握されておられますか。

○法務省小野瀬参事官 いろいろなご意見としては、やはりプライバシーの侵害の問題があるということは意見としてはございます。

○福井専門委員 ここの会議の場でも前に大分議論をしたことがあったのですが、例えば一斉に内覧会を設けるとか、個別呼び込みの短期間の半日とか1日の内覧会を設けるとか、あるいは、内覧に応じた占有者に場合により内覧手数料を払ってもいい、とかいろいろな議論があったのですけれども、そういう過去の議事録はごらんになられていますか。

○法務省小野瀬参事官 拝見しております。

○福井専門委員 そういう議論はされているのですか、法制審議会では。

○法務省小野瀬参事官 まだ法制審議会では論点整理という段階でございますので、具体的な議論はこれからでございます。

○福井専門委員 債権者、債務者間のデフォルトで、たまたま発生したことに占有者が巻き込まれるのは不当だというような意見を一部言う方がいるのですが、その見解についてはどう思われますか。

○法務省小野瀬参事官 そういうことも意見としてはあると思います。まさに賃貸・賃借人でございますので、賃借人の権利自体は抵当権に優先する権利であるにもかかわらず、そういうものが侵害されていいのかというご議論はあると認識しております。

○福井専門委員 抵当権に優先するのではないでしょう。抵当権に対抗できないから出ていかないといけないわけでしょう、競売になったときには。

○法務省小野瀬参事官 それは今回の改正法案でございますので……。

○福井専門委員 短賃が仮に保護されていたとしても、3年なら3年の期間が過ぎた後は無権限になるわけですから。

○法務省小野瀬参事官 そこは今回の改正法案で内覧の対象になっているというふうに認識しておりますけれども。

○福井専門委員 だけど、今回の改正は占有者の同意が前提でしょう、今国会にかかっているものは。

○法務省小野瀬参事官 今国会でかかっているのは、抵当権に対抗できない権利しか持っていない人については同意なくして内覧ができると、こういうことになっておりますが。

○法務省小野瀬参事官 抵当権設定以前に引渡しによって対抗要件を得た人については、これはまた話は別で。

○法務省小野瀬参事官 それをそこまで広げるかどうかというのが今のご議論ではないかなというふうに認識しておりますが。

○福井専門委員 ちょっと待ってください。対抗できない借家人についてです。合意なしというのは、条文はどう書いてありましたか。ちょっとそこは理解が違うのですけれども。対抗できない占有者でも、本人の同意が前提でないと内覧にはならないというのが今回の制度ではなかったですか。今回の法案の世界の前は、一切内覧はできなかったのです。

○法務省小野瀬参事官 改正法案は、基本的には同意なくしても内覧を実行できますが、ただし、差押債権者に対抗できる占有者については同意が必要であるという法案でございます。そこはかなり広げております。

○福井専門委員 まったく留保はなかったでしたか。

○法務省小野瀬参事官 はい。

○福井専門委員 だとしたら、対抗できない場合の扱いを主にその点だと考えておられる、そういうことですか。

○法務省小野瀬参事官 はい、法案を前提として検討しております。まだ成立しておりませんので。

○八田主査 では、次がありますので、よろしいですね。それでは、どうもありがとうございました。

○法務省小野瀬参事官 どうもありがとうございました。

2 環境省・国土交通省ヒアリング:ヒートアイランド対策について

○八田主査 それでは、長いことお待たせいたしまして、どうもありがとうございます。
 第3回の住宅・土地・公共工事・環境WGの一環として、ヒートアイランド対策について、環境省、国土交通省さんからヒアリングをしたいと思います。これは規制改革推進3か年計画に関するフォローアップとしてうかがうものであります。
 最初は環境省さんに、よろしくお願いいたします。

○環境省上河原室長 環境省大気生活環境室長の上河原でございます。よろしくお願いいたします。
 関係府省連絡会議を持っておりますけれども、その事務局が私ども環境省と国土交通省さんでありますので、全体の流れにつきまして環境省の方からご説明させていただきます。
 昨年12月以降の動きということでありますが、本年3月28日に「ヒートアイランド対策に係る大綱の策定に関する基本的な方針」という文書を関係府省連絡会議で取りまとめております。
 1番目は「現状認識」ということで、ヒートアイランド現象は今どういうふうになっているかということ。
 それから、2番目といたしまして「検討の経緯」、これまで規制改革推進3か年計画に沿ってこういうことをやってきましたということを書いております。
 3.といたしまして、「大綱(仮称)策定の基本的な考え方」というものを書いております。
 1番目に、ヒートアイランド現象は、長期間にわたって累積してきた都市化全体と深く結びついているため、その対策も長期的なものとならざるを得ないということ。それから、最新の科学的知見や技術の進展に合わせて、柔軟に見直しを行い段階的に対策を強化していくことが合理的だということ。それから、地球温暖化対策等関連分野の施策との連携を図るということを述べております。
 2番目に、ヒートアイランド対策の主な柱といたしまして、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善の3つを挙げております。
 3番目に、調査研究の推進ということ。
 4番目に、地方公共団体との連携。
 4.といたしまして「関係府省連絡会議の構成の見直し」ということであります。大綱策定に当たって連絡会議の構成員の拡大を図るということ、それから、現在課室長級となっている関係府省連絡会議の構成員の見直しを検討するということを言っております。
 5.では、「作業日程」といたしまして、ヒートアイランド対策大綱を平成15年度中に策定するということ、それから、策定に当たっては一般からの意見を聴取する機会を設けるということを述べております。
 その次に、5月29日にヒートアイランド対策関係府省連絡会議を開いております。
 そこでは、まず、ヒートアイランド対策関係府省連絡会議の構成員の拡大を行っております。この5月29日付けの文書でございますが、1枚めくっていただきますと、そこに拡大後の関係府省連絡会議の構成員の一覧が出ております。追加になりましたのが上から2番目の内閣府大臣官房企画調整課長、これは総合科学技術会議の関係でございます。それから、交通関係で警察庁さん、それから、学校関係などで文部科学省さん、それから、周辺の農地の関係で農水省が追加になっております。
 その会議で今後のスケジュールを定めております。次の紙でございますけれども、6月から大綱策定に向けて一般からの提言の募集を開始しております。それから、その提言募集の一環といたしまして、7月にシンポジウムを東京と大阪で開催するということにしております。9月には大綱骨子案の策定を行いまして、年末から年始にかけて大綱(案)に関しパブリックコメントを募集、2月〜3月にかけて大綱を策定するというスケジュールになっております。
 もう1枚開けていただきますと、「国民の皆様からの提言募集について」というお知らせの紙がございます。今回は、まだ大綱とか大綱の骨子案がない段階でございますので、ある程度こういう部分についてご意見をくださいということで説明をつけております。お知らせの紙を1枚めくっていただきますと提言募集の本体が出てまいりまして、主に、人工排熱の削減、人工化された地表面被覆の改善、都市形態の改善といったところについて、ご意見をくださいということを述べております。もう1枚裏側を見ていただきますと募集期間が出ておりまして、6月3日〜7月18日というふうになっております。それから、5ページと書いてあるところでございますが、ヒートアイランド対策シンポジウムを行いますということを述べております。
 その後ろに一般の方々の参考用に、今、ヒートアイランドがどうなっているのかといったこと、それから、検討の経緯はどうなっているかといったことなどにつきましての参考資料が出ております。それから、一般の方々の参考のためにやはり本年3月28日に閣議決定されました「規制改革推進3か年計画」もあわせてつけております。
 一番最後の紙でございますけれども、「ヒートアイランド対策シンポジウムの開催」という紙がついております。6月19日付けでお知らせをしております。東京では7月8日、大阪では7月16日にシンポジウムを開催することとなっております。
 1枚めくっていただきますと、「ヒートアイランド対策シンポジウムの概要」という紙が出てまいります。東京では、まず学識経験者の方からの講演ということで、千葉大学名誉教授の丸田先生、早稲田大学の尾島先生、慶應義塾大学の村上周三先生からご講演をしていただきまして、その後、産業界の方々からの取組と提言、そして、東京都からの取組と提言、そして、NPOの方からの取組と提言をいただきまして、その後、総合討論をするということになっております。大阪も基本的に構造は同じでございまして、講演の部分が、大阪府の検討会のメンバーをされています、大阪大学の水野先生、神戸大学の森山先生となっております。それから、地方公共団体といたしましては、大阪府から取組と提言をいただくことになっております。
 これが大きな流れでございます。
 それから、環境省の調査研究の取組でございますけれども、これにつきましては資料はございませんが、本年度は、首都圏における広域測定を実施する予定でございまして、東京都が昨年度から23区で行っておりますので、その周辺を環境省で行うということにしております。それから、地方公共団体に簡易シミュレーションモデルを配布することといたしております。それから、対策技術の評価を行いますとともに、大都市に隣接する内湾についての評価が課題となっておりますので、それにも取り組んでいきたいというふうに考えているところでございます。
 以上でございます。

○八田主査 どうもありがとうございました。

○国土交通省岡田課長 では、続きまして国土交通省の取組につきましてご説明をさせていただきます。別の資料で、「都市のヒートアイランド対策に関連する国土交通省の主な取組み」というペーパーをご覧いただければと思います。
 国土交通省としては、主として都市構造の改善等について、特に最近の取組状況についてご報告をさせていただきたいと思います。
 3つの点を挙げさせていただいております。
 1つ目は、「大都市圏における都市環境インフラ整備」についてということでございます。これにつきましては、大都市圏における都市環境インフラのグランドデザインをつくるということが計画でも盛り込まれているところでございます。これにつきまして、昨年の3月に、関係省庁、首都圏の都県市を構成員としました協議会を発足させたところでございまして、その協議会において今年の3月に中間報告の取りまとめを行ったところでございます。
 中間報告の中身といたしましては、主として首都圏の自然環境の基本目標、これを検討したところでございます。具体的には、5ページ目に別紙1ということでつけさせていただいております。ページがなくなったところでございますが、「首都圏の自然環境の基本目標」ということで、大きく5つの機能があるのではないかという整理をさせていただいております。生物多様性保全の場提供、人と自然のふれあいの場提供、良好な景観提供、4番目に都市環境負荷調節機能、この中で特にヒートアイランド現象等に対応した局気象調節機能といったようなものにも着目していこうということにしておるところでございます。5つ目として防災機能というところで、基本的な環境についての目標の認識をしたということでございます。
 それで、具体的には、これからどうやって水と緑のネットワーク形成等々をしていくかということ等についてこれからまた引き続き検討してまいって、首都圏の都市環境インフラのグランドデザインの策定というのを行っていきたいというふうに考えておるところでございます。
 それから、この検討の過程で、今目標というようなことを申し上げましたけれども、もう少し具体的な即地的な検討もしていく必要があるということで、別紙2というところで、具体的にどんなところが保全すべき自然環境かということについて、先行検討地域というようなことで具体的な保全すべき地域等につきまして、25のゾーン、13の河川を抽出した上で、4つの地域については先行的に具体的な施策の検討をしていこうということで取組を行っておるところでございます。(2)というのはその先行検討地域の1つとして、埼玉県の三富地域において具体的な検討をしているということをご紹介させていただいているところでございます。いずれにしましてもこういった先行的な検討と並行して、今後の具体的な方策、課題を検討した上でグランドデザインの策定を行うということにしているところでございます。
 それから、2ページ目を見ていただければと思います。2つ目といたしまして、「今後の緑地とオープンスペースの確保方策について」ということでございます。緑地の確保というのはヒートアイランド対策上重要でありまして、多面的な機能があるわけでございますけれども、この緑の確保について社会資本整備審議会の都市計画部会の小委員会において報告を今年の3月にまとめておるところでございます。これは緑とオープンスペースのネットワークをいかに確保していくかということについての計画のあり方あるいは施策のあり方についての方向をまとめたものでございます。
 それで、具体的には、別紙の3ということで、一番最後の紙につけてございますけれども、基本的な考え方といたしまして、そこにちょっとポンチ絵を、ちょっと見にくくて恐縮でございますが、緑とオープンスペースを総合的・計画的に確保していくということで、ハード・ソフトの組合せによってネットワークを確保していこうということにしているものでございます。そこにございますように、従来、主として都市公園整備、公の方でのハードの整備ということが主眼であったわけですけれども、今後は、公園だけではなくて、民有地も含めた緑地の保全、緑の確保という政策もあわせて展開することによって総合的な緑のネットワークを確保していこうという考え方でございます。そこにありますように、公園の整備だけではなくて、民有地の緑化の誘導、あるいは緑地の保全といったことも重視しながらネットワークの確保をしていきたいという考え方に基づいたものでございます。
 それで、また2ページ目に戻っていただきまして、そういった考え方をベースにいたしまして、では計画においてはそういったものに視点を置いた上で計画をつくるべきという話が(1)の部分でございます。それで、具体的にはそういったものを実現していくためのいろいろな制度、施策のあり方というところが課題になっておるわけでございまして、2)の「総合的・計画的な政策運営を推進するため必要な法制度のあり方」ということで、今後そういった総合的な緑を確保するための施策の方向について提示をしているところでございます。具体的には○を3つほど書いておりますので、それをちょっと紹介させていただきます。
 1つは、今申し上げましたように、緑についてはハードとソフトを組み合わせて総合的に整備をしていくということで、従来は、ハードの方の都市公園についての公園保護、それから、ソフトは民有地の緑化誘導でありますところの都市緑地保全法、これは別の法体系になっておりましたので、これの統合についての検討をしていこうということになっております。
 それから、3ページ目をお開きいただければと思いますけれども、主としてソフトの方の都市緑地の保全に係る部分でございますけれども、これにつきまして、そこにありますような、緑を増加させるため建物の敷地あるいは屋上緑化施設の附置を求めるような方策はできないかということ、あるいは、届出勧告制により都市近郊の緑地を保全する方策はないかということ、それから、地区計画の活用はできないかということ等について検討をしていくということにしてございます。
 それから、ハード面の都市公園につきましては、そこにありますように、従来は都市公園は平面で敷地を更地で確保した上で整備するということだったわけですが、立体的に、例えば建物の上とか、いろいろな複合的な、あるいは建物の一部といったような、立体的な公園の整備の仕方もあるのではないかと、あるいは借地、企業の遊休地等、いろいろな民有地も活用し、借地での公園整備といったものもできるのではないかといったようなこと等々、公園の整備をより弾力的に展開できるようにというようなことを検討したいと考えております。それが主な点でございます。いずれにしましても、緑のネットワークの確保というのが重要でございますので、そういうことに向けて制度というのを具体的に検討していきたいというふうに考えてございます。
 それから、3点目でございます「都市排熱処理システムに関する調査検討」ということでございます。これは都市排熱処理システムについて事業の実現化について検討するということで計画で盛り込まれているところでございまして、従来は民間の日本地域冷暖房協会等の調査が進んでおったわけでございますが、本年度は行政として国土交通省としての調査を行うということにしているものでございます。
 具体的には、(2)にございますような検討課題についての検討を進めてまいりたいというふうに考えております。主な点といたしましては、そこにございますように、このシステムが特に海等への排熱によって環境にどんな影響があるかということについての検討を進めるということが1点でございます。それから、都市排熱処理システムということで、実際の管路計画、下水とか海水等にどうつなぐのかといった等々の技術的な検討。3番目で、これが一番問題でございますけれども、このシステムについての効果の検証ということで、実際の費用に対応してどのような便益が上げられるかということで、この実際の事業についてどんな事業可能性が出てくるかということの中心になる部分でございますけれども、そういった費用便益の分析を行いながら、一方で、事業推進方策もあわせて検討することによって、この事業について成り立つかどうかということについての事業可能性について検討を進めてまいるということにしておるところでございます。以上が主な点でございますけれども、いずれにしましても、計画の中身に沿って具体的な検討を進めてまいりたいと思っておるところでございます。

○八田主査 どうもありがとうございました。
 では、最初に全般的な話をうかがいたいと思います。
 環境省さんにうかがいたいと思います。ヒートアイランド対策として、今、国土交通省さんの方からおっしゃったように、緑地をどうやって作るか、それから、その排熱の処理をどうやるか、あるいは、そもそもの原因になっている集積に対しどういう対策をするかというような、いろいろな政策的なオプションがあると思います。関係府省連絡会議だとか研究のコーディネーションとかということでは、これらのうち特にどういう具体的な政策を特に念頭に置いておられるのか、それをちょっとうかがいたいのです。要するに、どの政策も全部費用を伴うことですし、犠牲を伴うことです。しかも、ヒートアイランドだけが世の中で重要ではないわけで、ヒートアイランド現象を防ぐために最小のコストでできたらしたいと、そのための戦略としてどういうふうに研究のコーディネーションなどを考えていらっしゃるか、そこのところをうかがいたいと思いますが。

○環境省上河原室長 まず、基本的な考え方としては、ヒートアイランド対策について、1つの施策で大きな効果を上げるというものはなかなかないということで、体系的にいろいろなことをやっていかなければいけないということがまず1つあると思います。ただ、私たちは、現在、調査の結果を公表するための最後の段階に来ているのですけれども、そこで、どういう類型の地区でどういうことをやると一番効果が出るかということを評価しているところなのです。そこでは、高度に業務系の機能が集積している地域ではやはり人工排熱の低減というものがかなりきいてくる、それから、住宅地のようなところでは緑地の拡大といったことがかなり効果的なのではないかということが出てきております。そういうことで、地域の特性に従ってどういうものが一番きいてくるかということは浮かび上がってくるのではないかと思っております。ただ、費用対効果の問題についてはまだ研究が十分ではないところが正直あると思います。
 それから、どんなふうにコーディネーションをしていくかということでございますけれども、これは、今後、大綱を作るに際して、他の関係府省の方々とご相談をしていかなければならないことではありますけれども、今それぞれ各府省で各々やっている調査研究を何年かに一度関係府省連絡会議として取りまとめて、総合的な報告書を出すといったことも考えていくべきかなあというふうに思っているところでございます。

○八田主査 そこでは、各府省でやっていることをまとめて、お互いにどういうことをやっているかを連絡することが主眼であって、そこの連絡会議でもって何らかの力点を置くような方向性を与えていくことを必ずしも目指しているわけではないということですね。

○環境省上河原室長 大綱をどんな形で書いていくかということはまだ決まっておりませんので、まとめ的なものになるのか、あるいはもっと踏み込んで力点をしっかり書いていくことになるのか、そこはまだ決まっておりません。

○中井専門委員 それでは、幾つかおうかがいさせていただきます。
 1つ目は、まず対策を立てるには相手をよく知らなければいけないということで、そもそもどれぐらいのヒートアイランド現象が起きているのかということで、観測点も環境省の方で増やされるということでしたけれども、例えば微気象レベルでの都市の中の温度ですとか、あるいは風向きみたいなことについての基礎的な情報の蓄積ということについて、現段階での自治体なり国の方の取組について教えていただけませんか。

○環境省上河原室長 データについては幾つかのセットがありまして、関東とかそういう大きなレベルで見ますと、気象庁さんの方で整備されているアメダスの測定点が1つございます。ただ、それは何キロ四方に幾つかということで、ちょっと私は記憶がはっきりしませんけれども、関東圏ということですと十数カ所ぐらいでございまして、もう少し細かく見ていくためには別のデータのセットが必要でございます。
 1つ既存でありますのは、大気測定点、常時監視の測定所がかなり密に大都市圏にあり、そこでは温度についても自動測定されております。それを1つ使えるということ。それから、常時監視局というのはもともと大気汚染を測定するということでございますので、そこが温度を測る上で代表的な地点かどうかということはまた別の問題でございまして、それを加味して、東京都では温度についてもっと密に測定するということで、23区で100カ所ほど別途昨年度から測定点を設けて測定されておりまして、そこでかなり微気象的な温度の分布もわかるようになってきております。私どもとしましては、東京都のデータと大気汚染常時監視測定局のデータの傾向を見て、大気汚染測定局のデータがどのぐらい扱えるのかということも今後検証していきたいということを考えております。それから、先ほども申し上げましたとおり、東京都さんは23区で行っておりますが、その外側についてもう少し広域的な観点から見るとデータが少ないところについて環境省で補完を今年度から測定を行っていきたいというふうに考えております。
 それからもう1つ、海の方については、陸上のように常時機械で記録を取るということは難しくて、今ありますのは、水質測定のときにあわせて温度を都道府県の関係部局で測っております。そのデータのセットが体系的なものとしては唯一なものでございます。それは12カ月に1回ずつでございまして、陸上と比べるとかなり精度は限定的になります。そういう状況でございます。

○中井専門委員 お願いしたいのは、いろいろな自治体とか、あるいは環境省だとか気象庁だとかいろいろなところで多分測られているようですが、それをぜひどこかで統合した形にしていただいて、大学のような研究機関なり、あるいは自治体のようなところで、使えるような形にしていただきたい。温度の情報というのはだれが測っても基本的には同じでしょうから、周辺の状況とあわせた形でのそういう情報の整備を、これは多分環境省がよろしいかと思うのですけれども、そういうところが中心になって、もういろいろなところでいろいろな団体がそういうことをやっていると思いますので、ぜひそういう情報整備の調整を積極的にやっていただきたいというのが1点目です。
 2点目で、自治体の方に簡易シミュレーションモデルを今年は配られるというようなご説明があったかと思うのですけれども、これはどういうものなのでしょうか。

○環境省上河原室長 建築研究所の足永先生が開発されました「都市気象モデル」というのがございまして、それは私どもも使わせていただいて改良を進めてきたわけですけれども、そこでたくさんの数の計算を行いまして、それを集積して、ある仮定を置いて、5つぐらいの変数を自治体の方が選択すれば、その地域の気温ですとか風とかがどういう結果になるかということが検索できるというものでございます。

○中井専門委員 多分、自治体にとってみれば、それはどれぐらい政策立案に使えるものなのかというのが大きなポイントだと思うのですけれども、そのあたりは率直に言ってどういう感じなのでしょうか。

○環境省上河原室長 1つ先に申し上げますと、今、東京を前提として都市気象モデルができておりますので、大阪とか名古屋とかそれぞれ地域別にまた計算を調整する作業が必要でございますので、それも今やっております。それが終わったという前提でお話をしますと、どういう地域でどういう対策をとるとどのぐらいの効果が出るだろうかと、金額的なことは別ですけれども、大まかにつかめるという意味では意味のあるものかと思っております。

○中井専門委員 それから、環境省の方にもう1点。大綱を今年度中に作られるということなのですけれども、基本的な考え方というところで、確かにヒートアイランド現象というのは長期的なものなのですが、現象として出てきたのはここ10年とか15年ぐらいの話で、その意味ではちょっとここに書いてあるような認識と違うところもあるのかなと思っているのですけれども。
 確かにまだわからないところはたくさんあるので、科学的知見や技術の進展にあわせて段階的に対策を強化していくというような考え方になっているわけですが、今年は、特に、電力事情だとかいろいろなことを考えると、かなり緊急にいろいろとやらないといけないことがあって、このように徐々にいろいろなことを確実になったものから進めていくというだけではなくて、もう少し手を打ってから、確実になったものから柔軟に見直すのは結構なのですけれども、やや危急といいますか、ちょっと私の印象だと悠長な感じを受けるのですけれども、そのあたりはいかがお考えでしょうか。

○環境省上河原室長 ここで書いた趣旨は、ヒートアイランドというのはまちづくりと非常に密接に結びついておりますので、まちづくりということでは、3年とか5年とかでがらっと変えるということはなかなか困難でございます。そういう意味で長期的に取り組んでいかなければいけないということがあろうかと思います。おっしゃるとおり、緊急にやれることで、切迫感があればできることももちろんあるのかもしれません。その辺は今後検討していきたいと思っております。

○中井専門委員 それでは、国土交通省の方にも幾つか。
 1点目は、例えばいただいた資料の別紙2の「先行検討地域」というような感じで、首都圏全体のものが出ていまして、確かにこういうマクロ的な話ではこういうことなのだろうと思うのですが、既成市街地の中についてはどういうことをお考えなのか。これは割合と郊外と都心部との関係での緑地のネットワークというのはこれで理解できますけれども、既成市街地の中について、特に温度の高い地域ですね、山手線の中だと思いますけれども、そういう地域について何かお考えがあれば教えていただきたいのですが。

○国土交通省岡田課長 別紙2につきましてはまさにおっしゃるとおり首都圏全体を見て、これは既成市街地と近郊整備地帯を対象として、広域的な観点から保全すべき自然環境というものを抽出させていただいたというところでございます。その際、マクロなスケールですので、これは25のゾーンと13の河川ということでございまして、そういったスケールで見させていただきますと、現在、自然環境が多く残っているところを抽出したということもございまして、都心部ということになりますと明治神宮でありますとかある程度はございますけれども、全体のスケールから見るとここに抽出するというところまでは至らなかったというところでございます。
 これが昨年度までの検討でございまして、これは保全、再生、創出を含めたグランドデザインを取りまとめるということが目的でございまして、昨年度は保全ということを中心に取りまとめたと、あるいは途中経過でございますが、今年度は、再生、創出ということも含めまして、水と緑のネットワークのあり方というものをより具体化していきたいというふうに考えております。ですので、都心の扱い、ヒートアイランドであれば郊外の冷温域という、自然環境のよさを引き込んでいくかということ、また、少ないながらも都心にある自然環境についてどう生かしていくかということについて、まだ具体的なイメージというのはできていないのですけれども、そういった都心ということにより着目して、例えば既存のまとまった自然環境、いろいろな公園とか、もう少し小さな緑地でありますとか街路樹とかそういったものを位置づけたりしていきながら、あるべきネットワークというものを描いていきたいというふうに考えております。

○中井専門委員 この公園緑地小委員会の2次報告の議論の中では、こういうヒートアイランドの話というのは具体的には出てきたのでしょうか。あまり出てこなかったのでしょうか。

○国土交通省岡田課長 具体的にということの意味がどれぐらいかというのはございますけれども、特に都市部、都心部での緑化ということを議論する中で、ヒートアイランド現象の緩和ということに関しても緑をして果たせる役割があるであろうということは前提として議論はなされております。

○中井専門委員 もう1点、緑の方はわかりましたのですが、3か年計画の方では、市街地形態の方についての国としての検討なり地方自治体に対応のあり方を示すというあたりを少し強調しているわけですが、これについて何かございますか。

○国土交通省岡田課長 今のところ、十分計画は認識しておりまして、中で検討しているということで、ちょっと今は具体的なところは……。

○国土交通省椰野企画専門官 都市計画課でございます。今のところ、まだ案の段階ですけれども、都市計画の運用の考え方の中で、ヒートアイランドに限りませんけれども、環境負荷の小さな都市を作るにはどういうふうにしていくべきかとか、そういった考え方を都市計画課の方としても示して、地方公共団体の意見も聞きながらまとめていこうと考えているところでございます。

○八田主査 あと、12時10分ぐらいまで延ばさせていただきたいと思います。温度に関するデータが分散しているというご指摘が中井専門委員からありましたけれども、そうしたデータを全部集めて研究者などが分析を容易に行うことができるように、例えば環境省のホームページに載せるというような、そういう計画はおありなんでしょうか。

○環境省上河原室長 環境省のデータはすべて国立環境研究所でまとめておりまして、それは磁気媒体で研究者の方にもご提供できるように既になっております。
 それから、アメダスも、ご承知のとおり、気象庁さんの方で公表されております。
 それから、一般の方向けに温度分布が今どうなっていることをわかりやすく示すために「都市環境気候図」というものの作成を行っております。首都圏はほぼできております。それから各自治体で作られるときには後押ししたいというふうに思っているところでございます。
 ただ、今申し上げましたように、環境省の測定のデータは国立環境研究所で提供しておりますけれども、もともとが生データでございますので、実際使われる際には異常値をはじき飛ばすということをさらにやっていただく必要がございます。そこは結構手間のかかることになります。

○八田主査 環境省のデータだけではなくて他のところについてもデータはある。それをどこかに集中して多くの優れたデータを提供するということが急務なのではないでしょうかね。生データしかないのなら、環境省さんでそういうデータを使いやすいように加工して公開すればどうでしょうか。それをやらない理由は何なんでしょうか。

○環境省上河原室長 お話はよくわかりました。

○八田主査 ほかの省でもこの問題についてやられるときに、共通の温度に関するデータがなくて、いろいろ探しまくって、異常値も自分ではじかないといけない。そなると他の省でできるわけがないですよね、何も進まないですよね。それはおたくの役所の役割なのではないですか。

○環境省上河原室長 お話はよくわかりますので、また国立環境研究所の環境情報センターとご相談をさせていただこうと思っています。

○八田主査 よろしくお願いします。
 2番目に、先ほどお話が出たシミュレーションモデルですけれども、例えば東京で言えば池袋は渋谷なんかに比べて非常に暑いところです。その原因までこのシミュレーションモデルを用いるとわかるんですか。それとも、何らかのヒートアイランド対策をやったときの効果がわかるものなんですか。

○環境省上河原室長 池袋が暑いとか、そういう全体のことは都市気象モデルの方で把握できるわけですけれども、この簡易シミュレーションモデルでは、ある地域の特性を入れて、例えば銀座のような中層のビルがずっと広がっていると仮定をした場合に、屋上を緑化した場合とか、人工排熱をどのぐらい下げた場合とか、いろいろなケースを設定して、それで気温がどんなふうに変わるかということはできると思います。

○八田主査 ビルのごく周辺についてということですか。

○環境省上河原室長 ビルの周辺といいますか、中層のビルが続いている街とか、そういうことですね。街の、高さ何メートルのところとか。

○八田主査 それについては、このモデルで非常に的確に予測できるというわけですか。

○環境省上河原室長 ほぼですね。

○八田主査 それでは、随分研究が進んでしまっているわけですね。それならそれ以上はあまり要らないような気がするけれども。まさにそういうモデルが欲しいわけですからね。要するに、ヒートアイランド対策はいろいろな対策がありますけれども、例えば緑地に関してはかなり正確にわかるということですか。

○環境省上河原室長 例えばビル街だとそのビル街がずっと続いているという仮定をおいて計算するとどうなるかというものでありまして、仮定が現実に近ければ現実に近い値になります。

○八田主査 そのシミュレーションモデル自体は公表されているのですね。地方公共団体に配布されるようなものですから。研究者の間にも共通に見れるのですね。

○環境省上河原室長 著作権の問題が別途ありますので、著作権を害さない形で配布するような工夫が必要です。

○八田主査 それでは研究が進まないですよね。

○安念専門委員 モデルそれ自体に著作権がございません。思想には著作権はなく、表現にだけ著作権は存在しますので、それをクリアするのはきわめて簡単です。私に御相談下さい。

○森委員 ヒートアイランド現象は、世界的に問題になっているのか、日本独特の問題なのでしょうか。

○環境省上河原室長 世界の大都市それぞれにヒートアイランド現象をかかえており、アメリカやドイツなどでも研究が進められております。ただ、研究者の方々のお話では、アメリカやヨーロッパの都市では、それほど数十年の間に気温が上がっていることはない、むしろ安定しているということです。

○八田主査 それじゃ、問題ないということじゃないですか。

○環境省上河原室長 問題があるという意味は、都市内外での気温差はもちろん存在するわけですが、日本のように百年間で大都市で3度上昇するというほどのことはないということです。

○八田主査 東京は都市化のスピードが速かったからですね。

○森委員 ヒートアイランド対策の主な柱として、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市構造の改善と出ていますが、日本で急激に気温が上がっている根本原因を究明するのに、何が一番問題なのか、簡単に研究できるのではないですかね。要するに、冷房とか車とか、人工排熱が増えているというのは世界的に同じであって、日本だけが大きな問題になっているのは、私は都市形態にあるのではないかと思うのです。地表面被覆がやたらに拡大しているとか、やたらに人工排熱が増えることを招来している都市形態のあり方にあるという仮説を持っているのですが、そのあたりの検証はなさっているのでしょうか。

○環境省上河原室長 お配りした資料の3月28日付けの基本的な方針についてという文章の一枚めくっていただきますと図2というのがございます。東京23区について、都市気象モデルで計算したものですが、これは、東京23区が自然状態と仮定した場合と現状を比較して、ヒートアイランドの負荷がどれくらい多くなっているかを円グラフで示したものでございます。これを見ますと、建物が増えたり、道路が舗装されたことによる、対流顕熱の増加が約半分、建物からの排熱が約4分の1、自動車からの排熱が約2割、事業所排熱と書いてございますが、これは工場とか発電所から出ているものですが、これが約7%という結果が出ております。

○森委員 それは対流顕熱問題が一番大きいということではないかと思われます。そういうことになっているのはなぜかというと、都市形態、居住形態、建物の形態や地域の拡大等がもたらしていると思うのですが、そのあたりの検討はしていただいているのでしょうか。

○環境省上河原室長 おっしゃるとおり、対流顕熱の増加部分が約半分ということで、建物の増加ですとか、道路の舗装が大きな原因であることは間違いないと思います。

○八田主査 森委員のおっしゃったことは、おそらくまちの広がりが悪影響を及ぼしているなら、市街地のあり方がどの程度影響を及ぼしているのかということに研究に注力して欲しいということですよね。

○森委員 そうです。過去気温が上がってきた間に何が増えたのかということがわかれば一番いいのですが。おそらく左の対流顕熱が増えて、東京の場合、事業者排熱はむしろ減っているはずですね。自動車の方はどのように増えたのかはすぐにわかりますし、建物の排熱もすぐわかるでしょう。結局、左の対流顕熱の状態が悪くなっていることに主因があると考えられるのですが、その点をぜひ検証していただきたいと思います。

○環境省上河原室長 まさに報告書としてこれから出そうとしているものは、1930年代から比べてみて、人工排熱の増加などがどうなっているかをお示ししようとしているところです。

○八田主査 都市は急に変えられないからゆっくりやるんだとおっしゃりますが、先ほど中井委員がおっしゃったように、そんなにのんびりできないと思うんですよね。ほっとけば都市はどんどんできていくわけで、予防的措置を講ずる必要があったら講ずるべきです。どうも研究のスピードとかコーディネーションにかなり力をいれていただきたいですね。少なくとも、データの整備とかモデルの公表とかぜひお願いしたいと思います。それでは、本日はどうもお忙しいところありがとうございました。


内閣府 総合規制改革会議