第3章 活性化に資するビジネス・生活インフラ整備

1.公益事業関係

我が国産業の競争力向上のためには、国民生活及び産業活動の基盤となるいわゆる「公益事業分野」において、料金の低廉化及びサービスの多様化・質的向上による消費者選択の拡大を図り、高コスト構造を是正することが重要である。

公益事業分野の中でも、巨額の初期設備投資を必要とする電気通信事業、電気事業、ガス事業、運輸事業といった分野(以下「ネットワーク事業分野」という。)では、サービス提供に不可欠な設備(いわゆる「エッセンシャルファシリティ」)が既存事業者によって所有される等自然独占性がある程度残らざるを得ない側面がある。

このため、エッセンシャルファシリティの公平かつ公正な利用に関する条件等競争ルールを整備し、業種を超えた参入を含めた新規参入を促進するとともに、その遵守状況の監視機能を確立し、事前規制から事後規制への移行を促進することが重要である。

下記事項のうちIT関連の規制改革については、当会議での議論を踏まえIT戦略本部において、積極的に検討し結論を得ることを期待したい。

(1)市場参入の促進及び競争ルールの整備

1)既存事業者間を含めた競争を促進するための参入規制等の見直し

ネットワーク事業分野においては、「競争的産業における需給調整の視点からの参入・設備規制については、原則として、10年以内のできるだけ早い時期に廃止の方向で検討する」とされた臨時行政改革推進会議(第3次行革審)の第3次答申(平成4年6月19日)、「需給調整規制については、撤廃の方向で見直す」とされた規制緩和推進3か年計画(平成10年3月31日閣議決定)等に基づき、新規参入を制限する需給調整規制の廃止が進められてきた。

  1. 電気通信事業分野では、現在、新規参入を一層促進する観点から、一種・二種の事業区分の廃止、参入規制の大幅な緩和(許可制の廃止)等について検討が行われているが、全般的に規制水準を引き下げる方向で抜本的に制度を見直していくべきである。【平成14年度中に検討・結論】

    また、平成11年7月に、NTTを持株会社の下に、地域通信事業を行う東・西NTT、長距離国際事業を行うNTTコム、移動体通信事業を行うNTTドコモという形にする再編成が行われたが、NTT関係の各事業会社が独立した経営体として相互に競争を行うよう注視すべきである。

  2. 電気事業分野では、「規制改革推進3か年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)に記載されているように、以下の事項について検討し、結論を得るべきである。

    現在、大口需要家に対する小売等一定範囲で新規参入が認められているが、広域的な電力の融通のための仕組みの整備や送電網の広域的な整備などになる大規模電源についての投資環境の整備が行われ、電力の安定的な供給が確保されることを前提として、全面自由化を実施すべきである。仮に、急激な全面自由化の実施に伴う影響が非常に大きい等の特段の問題がある場合には、少なくとも高圧分野までの自由化範囲拡大は即座に実施するとともに、全面自由化を実施する条件・時期を明確に設定すべきである。

    また、既存事業者間の相互参入を促進し、市場自由化メリットの広範な享受及び事業者の自由な事業展開を実現する観点から、連系送電線を中心とした基幹送電線について、全国的視野からの整備の必要性を踏まえつつ、諸外国における送電会社や、ISO(Independent System Operator)のような、既存電気事業者に限定されない主体による送電線の整備ルールや整備計画の作成などが行われる仕組みを整備すべきである。

    さらに、自家発電設備を所有する事業者が近隣へ電力を供給する場合、特定電気事業や特定供給の場合を除いて、現状では自ら送電線を引いて供給することはできず、電力会社に託送料を支払い電力会社の送電線を使って供給せざるを得ないが、国民経済的観点にも配慮しながら、原則として自由な送電線建設を認めるべきである。その際、送電線建設を認めることで自由化部門では不必要となる特定供給に対する許可規制の在り方や、新規参入事業者が建設したネットワークのオープンアクセスについても併せて検討すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

  3. ガス事業分野では、大口需要家に対する小売等一定範囲で新規参入が認められているが、今後とも活発な参入が促進されるべく、早期に自由化範囲の拡大を行うとともに、全面自由化の実現性についても検討すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

  4. 国内航空、鉄道、海運、タクシー等の運輸分野については、「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31日閣議決定)において需給調整規制の廃止が決定され、各分野において規制緩和が行われたが、今後とも活発な参入を促進すべきである。【平成14年度以降逐次実施】

2)有限希少な公共財の公平な配分

飛行場施設や電波など公共資源については、行政により、免許・許可等の形で一種の利用権が割り当てられているが、競争を促進する観点から、公平かつ透明な制度を実現することが必要である。

  1. 電気通信事業分野では、最適な周波数再配分方策について、既存免許人への対応などの具体化を図るため、オークション方式など外国で行われている割当の実施状況の問題点を含め調査した上で、公平性、透明性、迅速性、周波数利用の効率性等の観点から、検討を行うべきである。【平成14年度検討、平成15年度結論】

  2. 国内航空事業では、平成17年に混雑空港発着枠の再配分が行われるが、その際には、客観性及び透明性の確保や支配的事業者とその他の事業者との競争条件に十分配慮した上で、基準を明確かつ具体的に設定すべきである。【平成14年度以降検討】

3)新規参入者を一定程度育成するための措置

ネットワーク事業分野においては、支配的事業者に対し自然独占性が残る非競争的分野と競争的分野との区分経理を義務付ける等の競争環境整備が重要である。特に、競争導入の初期段階では、既存事業者と新規参入者との間に、設備、人材等あらゆる面において大きな差があることから、新規参入者を一定程度育成する措置を、非対称規制を含めて、検討することが必要である。

  1. 電気事業分野については、非競争分野から競争分野への内部補助防止のため会計を明確に区分経理するとともに、内部補助防止のための有効な措置を検討すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

  2. 国内航空事業分野では、新規参入者の開設した路線に係るその割安な料金を標的にして、競合する路線・時間帯の特定便に係る料金値下げが既存航空事業者によって行われ、公正な競争が阻害されているのではないかとの指摘があるが、独占禁止法違反行為への厳正な対応等、適切な対応を図るべきである。

    また、事業運営上不可欠な搭乗受付カウンター、旅客搭乗橋等の空港施設についても、既存事業者が使用しているスペースを新規参入者が公平に使用できるよう、新規参入者の要望を踏まえ、既存事業者に協力を要請すべきである。【平成14年度以降逐次実施】

4)業種を超えた参入の促進【平成14年度から検討・措置】

個別事業分野における既存の設備を有効活用する形で、電気事業者、ガス事業者、電気通信事業者による業種を超えた参入が進展している。このような参入は、ネットワーク事業分野における競争を促進する上で、望ましいものであり、参入を促進する観点から、その公平性の確保を図るべきである。

今後、こうした業種を超えた参入が活発化すると考えられるが、事業所管省庁は、他分野における市場支配力等を背景とした反競争的行為が行われることがないよう、参入等に当たって適切な担保措置を講ずべきである。また、問題となる行為が見られた場合には、事業所管省庁及び公正取引委員会は、積極的にこれを是正・排除すべきである。

5)卸市場の整備

自然独占性が残るネットワーク事業分野において、サービスベースの競争を促進する観点から、多様な事業者が、需要家の要請に応じて、柔軟にサービスが提供できるよう、事業者間で取引を行うことができる市場の創設が必要である。

  1. 電気通信事業分野では、移動体通信事業における再販事業者の参入を促進するためガイドラインが策定されているが、制度の透明性・予見性を一層高める観点から、引き続き当該ガイドラインの見直しを行うべきである。【平成14年度以降逐次実施】

  2. 電気事業分野では、全国規模の取引が行われる卸電力市場の整備を検討すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

  3. ガス事業分野では、小売市場の競争を促進する観点から、新規参入者や中小事業者が必要な天然ガスを容易に確保できるよう、現在の託送制度と同様の制度を卸売分野においても導入すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

6)インフラ整備の促進【実際上の必要性が生じた場合に検討】

インフラ整備を通じて競争を促進する観点から、電気通信事業分野における光ファイバ網などの通信ネットワーク、電気事業分野における連系送電線などの送電ネットワーク、ガス事業分野における導管ネットワークの整備に際して必要となる工事や土地利用等に係る各種規制について、高コストの原因となっていないか、過剰規制となっていないか等について点検を行い、インフラ整備を抑制している規制があれば、これを緩和する等の措置を講ずべきである。

また、コージェネ等の分散電源に係る熱導管ネットワークの普及促進のため、熱供給事業法の対象外の小規模(21ギガジュール/hr未満)の熱供給導管についてもエネルギー政策等の観点から公共財的性格が法令上位置付けられれば、義務占用に準じた道路占用を認めることを検討すべきである。

(2)エッセンシャルファシリティの開放

1)提供義務

エッセンシャルファシリティは、サービス提供事業者にとって利用せざるを得ない不可欠な設備であることから、その新規参入を促進する上では、合理的な理由がある場合を除き提供を義務付ける等、その公平な利用を保証することが必要である。

  1. 電気通信事業分野では、全電気通信事業者に対し接続を義務付けるとともに、東・西NTTの地域通信網及び一定シェアを有する携帯電話会社の設備について、接続約款策定・認可または届出・公表を義務付ける接続ルールが整備されている。

  2. 電気事業分野の託送制度について、既存事業者及び新規参入者双方の利用上の公平性の確保のための制度整備について検討すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

  3. ガス事業分野では、託送制度の対象は大手都市ガス4事業者に限定されているが、自由化が進展するガス市場において競争が真に機能するよう、早期に、託送制度の適用対象を他の一般ガス事業者さらには他のガス供給用の導管を保有する事業者にも拡大すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

2)会計分離、情報遮断の徹底等

エッセンシャルファシリティの公正かつ公平な利用を確保する観点から、厳格な会計分離、情報遮断等を確実に担保するとともに、当該事業者の競争部門とその他の事業者が同等の条件で利用できているかどうかチェックすることができる仕組みを設けることが不可欠である。その担保方策としては、こうした行為規制による対応を基本とするが、仮にこうした対応によっても、十分な担保がなされない場合は、既存事業者を競争部門と非競争部門に分離する等の構造的措置を検討することが必要である。

  1. 電気通信事業分野では、東・西NTTに対し、接続会計の整理・公表、情報提供努力を義務付けるとともに、情報提供等に関する不利な取扱い等を禁止している。

  2. 電気事業分野について、「規制改革推進3か年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)に記載されているように、以下のような事項について検討し、結論を得るべきである。

    電力系統の運用への影響を考慮する必要があるとの指摘等を踏まえつつ、発送電を組織的に完全分離することなども含めた中立性、公平性、透明性の担保措置を講ずべきである。

    具体的には、(1)電力系統の運用ルールの見直し(既存事業者とは異なる中立的な主体によるルール設定及び公平・中立な電力系統運用が行われるといった海外における方策も踏まえた制度、新規参入者が安心して技術情報を電力系統の運用者に公開できる仕組み、新規参入者に対する電力系統に関する技術情報などの公開、送電線の空き容量が適時確認できるシステム)、(2)一層厳格な会計分離の徹底、(3)既存電気事業者の送電部門と他部門の情報遮断の確実な担保を行うべきである。【平成14年度中に検討・結論】

  3. ガス事業分野では、託送制度の対象となる事業者の導管部門とその他の部門との間で、一層厳格な会計分離の徹底を行うとともに、厳格な情報遮断の仕組みを整備すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

3)エッセンシャルファシリティの利用料金等【平成14年度から検討・結論】

エッセンシャルファシリティを独占的に所有する事業者が、エッセンシャルファシリティを開放する場合の利用料金については、以下のとおりとする。エッセンシャルファシリティの利用料金のうち従量部分は、限界費用に基づくことを原則とすべきである。特に、混雑がある場合には、既得権を不当に重んじることなく、エッセンシャルファシリティの社会的に見て最も価値のある使い方を図るため、混雑料金あるいは入札で、エッセンシャルファシリティの使用料を決めることを原則とすべきである。

エッセンシャルファシリティについては、厳格な分離会計に基づき、その利用料金の適正性を行政がチェックできる制度とともに、その料金の適正な水準を担保する仕組みを設けることが必要である。

  1. 電気事業分野において、自由化範囲を拡大する際に、いわゆる同時同量の原則を高圧分野以下の需要家を含めて要求することとした場合には、メーターの設置コスト等が膨大となり、それ自体が新規参入者に対する参入障壁となる可能性もある。したがって、「規制改革推進3か年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)に記載されているように、以下のような事項について、検討し、結論を得るべきである。

    同時同量の確保の方法について、電力系統全体では同時同量が守られる必要がある等の技術的な要素も踏まえつつ、より柔軟な制度への見直しを行うべきである。

(3)有効な競争監視体制の構築

ネットワーク事業分野では、これまでも各事業所管省庁と公正取引委員会によりガイドラインが策定されるとともに、競争状況の監視、紛争処理等が行われてきたが、一部の分野では、このような対応に関して、未然防止策が不十分である、紛争処理体制及び権限が不十分である、紛争処理に長期間を要する、専門的知識が欠如している等の不満が新規参入者から出されている。

ネットワーク事業分野において公正競争を確保するためには、特定事業者の有するエッセンシャルファシリティの公平な利用を始めとした競争ルールが個別事業法やガイドライン等により明確に定められるとともに、市場の特性、法制度及び技術に関する専門的知識を背景として、公正・透明かつ迅速な競争ルールの遵守状況の監視及び紛争処理がなされることが重要である。

なお、証券等に係る競争監視体制の在り方については、中立性及び監視機能の強化等の観点を踏まえつつ、今後議論が行われることが望まれる。

1)ガイドラインの適時適切な見直し等【平成14年度以降逐次実施】

上記(1)及び(2)の提言を踏まえ、個別事業法において競争ルールに関する所要の規定を整備していくとともに、法運用に関する事業者の予測可能性を高め、紛争、法令違反を未然に防止する観点から、競争の進展状況や紛争事案等を踏まえ、具体的事例を示した既存の個別事業分野におけるガイドラインを適時適切に見直していくべきである。

2)専門的機関の整備

競争ルールの遵守状況の監視及び紛争処理においては、専門性、中立性、独立性、競争ルールの策定との連携が確保された専門的機関の整備が重要である。特に、このような専門機関を事業所管省庁の下に設置する場合においては、意思決定プロセスにおいて、政策担当部署等からの中立性、独立性が確保されることが不可欠である。

  1. 電気通信事業分野では、平成13年に電気通信事業紛争処理委員会が設置され、専門性及び中立性が確保された体制の下で、迅速な対応がされている。

  2. 電気事業分野及びガス事業分野においては、市場の開放により競争が促進され、様々な紛争が生じることが予想されることから、公正・透明かつ迅速な対応を行うことができる専門的機関を速やかに整備すべきである。【平成14年度中に検討・結論】

3)専門的機関の機能・権限【平成14年度中に検討・結論】

ネットワーク事業分野における専門的機関については、迅速な紛争処理、競争監視の実効性確保、競争ルール策定との連携を実現する観点から、その整備に当たり、以下のような機能・権限を付与することについて検討すべきである。

  1. 斡旋、仲裁などの事業者間の紛争処理機能

  2. 情報遮断、会計分離等を含む競争ルールの遵守状況等の監視及び調査権限

  3. 監視、紛争処理の成果を競争ルール策定に適切に反映するための勧告権限

4)公正取引委員会の機能強化

公正取引委員会の競争監視機能は、市場が正常に機能することを担保するために極めて重要であるが、その専門性、事案処理の迅速性等についての不満がネットワーク事業分野の新規参入者から出されている。市場開放が進められている当該分野において公正競争を確保する観点から、公正取引委員会の審査体制及び機能を強化し、独禁法違反被疑事実に関する処理の迅速化を図るべきである。【平成14年度中に検討・措置】

また、公正取引委員会の位置付けについて、規制当局からの独立性及び中立性等の観点からよりふさわしい体制に移行することを検討すべきである。【平成14年度以降検討】

5)専門的機関と公正取引委員会の関係について【平成14年度以降逐次実施】

実効性ある競争監視及び公正・透明かつ迅速な紛争処理を確保する観点からは、競争の基本ルールである独占禁止法を所管する公正取引委員会と、各事業法を所管する事業所管省庁又は専門的機関が、それぞれの法律に基づき、競争ルールの遵守状況の監視、紛争処理を行うことができるようにし、両者の競合緊張関係の下で、適切な処理が行われることが重要である。

このような関係の中で、競争の進展状況や紛争事案等を踏まえ、迅速かつ柔軟にルールの見直しが行われ、それが監視や紛争処理に活用されるよう、公正取引委員会、事業所管省庁、専門的機関の間で、適時適切に情報交換が行われる等、実効性ある連携が図られるべきである。


2.司法サービスに関するインフラ整備

司法サービスに関するインフラ整備については、従来から指摘されている法曹人口の抜本的拡充が急務である。法科大学院に進まない者の資格取得も十分なものとなるよう配慮しつつ、法曹人口が計画的かつ早期に拡大するように制度設計する必要がある。

また司法制度改革推進本部における検討は、幅広に論点を網羅するとともに、法曹や関係機関の特定の利害を反映することなく、着実に進める必要がある。

(1)法曹人口の更なる拡大

本来、司法試験は資格試験に徹すべきであり、また司法制度改革審議会意見も明記したとおり「法曹の数は社会の要請に基づいて市場原理によって決定される」べきものである。しかしながら欧米先進国に早期にキャッチアップすべき過渡期には、数値目標を定めることが有効である。このため平成22年頃には新司法試験の合格者数年間3,000人を目指すべきとされたが、このとおり増員しても、法曹1人当たりの人口は平成30年に2,400人で、英米独はおろかG7で日本に次いで少ないフランスの1,640人にも及ばない。

この点、司法制度改革審議会意見が「あくまで『計画的にできるだけ早期に』達成すべき目標であって、上限を意味するものではない」としたとおり、平成22年3,000人は、どんなに遅くとも、少なくとも、クリアすべき最低ラインである。本来、それ以前にできるだけ早く3,000人を超える法曹への新規参入を実現することが望まれる。

この趣旨を踏まえ、新司法試験制度や法曹養成制度を設計するに当たっても、平成17年以降のできるだけ早期に、人口一人当たりの法曹人口が、フランスを上回ることを目標として、年間3,000人を大きく上回る年次別の新司法試験合格者数増員計画を定めた上で、それに基づいた制度設計を行うべきである。(別紙のとおり所管省等から意見が出されている。)

(2)法科大学院非修了者への司法試験受験資格の確保

平成18年度より実施される新司法試験制度の受験資格については、法科大学院を修了しなくとも予備的な試験に合格した者にも付与されることとされている。司法試験は、法科大学院修了の有無を問わず、すべてに門戸が開放されるべきであり、予備試験は、本来は不要である。仮に過渡期の措置として非修了者に予備試験を課すとしても、予備試験の内容・程度を基礎的な素養を判断するに足りる限度に極力平易なものとすべきである。

司法制度改革審議会意見は、法科大学院修了者が原則で法科大学院非修了の予備試験合格者が例外であるという区別はしていない。この趣旨を踏まえ、予備試験合格者で新司法試験において法科大学院修了者の合格最低点と同じ点数を取った者は必ず合格させるべきである。

さらに、予備試験は、合格者が、法科大学院修了者と同様の素養があることを判断するためのものであるから、これを供給制限の手段として運用することがあってはならないのはもとよりであり、あくまで本来の目的のためのみに運用すべきである。

そのための重要な目安として、予備試験合格者の本試験合格率が法科大学院修了者のそれを上回らないようにすべきである。(別紙のとおり所管省等から意見が出されている。)

(3)専門分野(知的財産権、国際企業法務、医療等)に通じた法律家の養成

法曹人口の拡大に当たっては、専門分野に通じた法律家の確保が不可欠であり、例えば、国際企業法務分野、知的財産分野、競争政策分野、医療等専門分野など特定の法分野を重点とした教育を行う法科大学院も設立されることや、公認会計士、医師等の専門家が法曹資格を取得しやすい環境が整備されることが必要であると考える。 これに関して、先般公表された「法科大学院の設置基準等について(中間報告)」(中央教育審議会)では、最低限必要な専任教員数を12人としている。専任教員については、一人の人が、同時に2つ以上の大学の専任教員を兼ねることはできなくとも、弁護士、判事、検事、その他民間企業社員などの職業と兼務することが妨げられるべきではない。仮にそのような運用がなされないのであれば、専任教員数についての最低基準の引下げを含めて対応策を検討し、適切な措置を採るべきである。

また法律基礎科目群、実務基礎科目群、基礎法学・隣接科目群及び展開・先端科目群という標準的なカリキュラムを想定した上で必要修得単位数を93単位以上と定めている。必須93単位の中には、例えば会計学、経済学、医学、工学など将来専門的な法曹人になるために有用な実定法以外の科目(他の大学院の授業科目の単位認定を含む。)の単位取得も認めるべきである。仮にそのような運用がなされないのであれば、93単位という必要修得単位数の引下げを含めて対応策を検討し、適切な措置を採るべきである。

今後策定される法科大学院の設置基準についても、継続的な第三者評価制度を前提に、必要最小限のものとし、多様な法科大学院が新規に参入しやすい仕組みとすべきである。加えて、各法科大学院の判断で公認会計士、医師等の専門家を入学選抜試験で優遇することを可能とする基準とすべきである。

また司法制度改革審議会意見では、法律学の基礎的な学識を有すると法科大学院が認める者は、短縮型として2年での修了を認めるとしているが、その運用により法曹志望者に対して法学部卒業を奨励する結果になるとしたら、公平性、開放性、多様性を旨とする法科大学院の教育理念と相反することとなる。法学以外に専門を持たない法学部卒業者に関しては、例えば将来どのような分野を専攻とするかなど必要に応じて法科大学院以外の大学院の科目の単位を取得するような指導も行いつつ、法学部出身者でない(すなわち法学以外の専門分野を有する)法学既修者に対しても、法学以外の学問を一定以上修得している法学部卒業者と同様に、2年での修了を積極的に認めるような運用がなされるようにするための措置を検討すべきである。

さらに公平性・多様性・開放性という理念を実効的に担保するため、法科大学院への入学者選抜に際しては、同一の大学法人が設置する大学の学部卒業者が優遇されたり、法学部又は法学科出身者の割合が過大になることのないよう、第三者評価による情報公開などを通じた実効的な措置を講ずべきである。【以上について法改正後速やかに措置】

加えて多様な専門分野を有する法曹の育成のためには、例えば立法政策や判決に携わる法曹にとってそれが社会・経済に広く及ぼす影響を知る上で重要な学問の習熟を新司法試験において問うことを検討すべきである。(別紙のとおり所管省等から意見が出されている。)

(4)法科大学院の設立等【法改正後速やかに措置】

現在、大学院における収容人員の増減については、文部科学大臣への届出のみで可能であることを踏まえ、法科大学院の設立に関する制度設計についても、必要な質を担保する客観的条件を満たす場合には設立を認めることとし、設立に関する規制によって法曹人口の拡大が進まないような事態があってはならない。設立後は、市場の評価を通じた教育の質の改善ができるように、行政は正しく十分な情報公開を担保する措置を採るべきである。

(5)司法修習の給費制の見直し

司法修習に関しては、司法制度改革審議会意見も、法科大学院での教育内容も含め、修習内容を適切に工夫して実施すべきとし、また給費制についても在り方を検討すべきとしたところである。法科大学院設立による実務教育の実施を踏まえれば、司法修習は屋上屋を重ねるものと言え、できるだけ早期に給費制を廃止すべきであり、その後に、希望者のみを対象として有償で実施する体制に移行することを検討すべきである。(別紙のとおり所管省等から意見が出されている。)

(6)弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条の見直し

法律サービスの質的向上のためには、法曹人口の増加を通じた競争の活性化が重要であり、弁護士法第72条に定める法律サービス業務独占についても、その在り方を見直すことが必要である。

司法制度改革推進本部における検討においても、弁護士法第72条の規制内容の予測可能性確保のため、少なくとも以下の措置を講ずべきである。(別紙のとおり所管省等から意見が出されている。)

  1. 弁護士に認められる業務独占の範囲を、必要最小限のものとすること

  2. 弁護士法第72条において、弁護士法で別に定める場合を業務独占の例外としている点については、そもそも弁護士法で例外を認容する性質のものではない点にかんがみ、このただし書を、「ただし、他の法律で別段の定めがあるときには、それに従う」と改めること

  3. 法廷外法律事務について、弁護士以外の専門家(隣接法律専門職に限定しない)が行えるようにすること

    少なくとも、会社がグループ内の他の会社の法律事務を有償で受託できるようにすることを含めて消費者保護の必要性が薄い対事業所向けサービスについては直ちに業務独占範囲外とすること

  4. 会社から権限を付与された社員が、当該会社の訴訟代理人となれるようにすること

    具体的には、弁護士法の関係規定のほか、民事訴訟法(平成8年法律第109号)第54条の訴訟代理人の資格に関する規定、商法(明治32年法律第48号)第38条第1項の支配人の権限に関する規定等の見直しを検討すること

  5. 弁理士の訴訟代理権については、規制改革委員会第2次見解では単独に付与されるべきとしていたが、その後司法制度改革審議会において、弁護士との共同との条件を付したことは職種間の垣根を低くする趣旨に反するものであることから、この拘束条件を撤廃すること

なお、税理士、司法書士についても、法改正がなされ(司法書士法(昭和25年法律第197号)の改正については未施行。)、隣接法律専門職種の業務に一定の法律業務が追加付与されたところであるが、更なる業務拡大が可能かどうかの観点から、引き続き、これらの法律の改正後の状況を注視していく必要がある。

(7)弁護士業に係る規制緩和

国際化時代の法的需要に対応するためにも、弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働を推進することは必須であり、その見地から、特定共同事業の要件緩和を行うとともに、外国法事務弁護士による雇用禁止も撤廃すべきである。(別紙のとおり所管省等から意見が出されている。)

また司法制度改革審議会意見では、弁護士法第30条第1項に規定する公務就任の制限及び同条第3項に規定する営業等の許可制については、届出制に移行することにより自由化すべきであるとしており、早期に所定の措置を講ずべきである。【平成14年度中に法案提出】


3.都心高度化

都心高度化に関連して、建築物等が従うべき各種の基準については、建築基準法、消防法等にそれぞれ異なる立法目的から異なる内容の規定が設けられている。そのうち、例えば、防耐火関係の規定については、消防法が、火災を予防、警戒、鎮圧(消防活動)することを目的とし、建築基準法が、火災による建築物の倒壊の防止、火災時における安全な避難の確保等を目的としているとされている。

このように、同一対象物に係る規定が複数の法律に存在する場合には、技術水準の動向、社会的ニーズの変化、法律間の相互関係等を総合的に勘案しながら、常にその合理性を検証し、規定内容の見直しを行うことが必要である。なお、見直しを行う際には、それぞれの規定の具体的な目的及び必要性について説明責任が果たせるようにするという観点が重要であることは言うまでもない。

(1)重畳的規制の整理・合理化等

1)重畳的規制の整理・合理化【平成14年度から検討、逐次実施】

排煙設備は、人命を守り火災により発生した煙を排出するための設備であるが、消防法(昭和23年法律第186号)の規定が消火活動上の支障とならないようにすることを目的としている一方、建築基準法(昭和25年法律第201号)の規定は避難上支障とならないようにすることを目的としている。沿革的には、当初は消防法のみに規定があったものであるが、次第に建築基準法の規定が整備されてきたため、現在の運用では、両法が適用される場合でも、おおむね建築基準法の基準で設定すればよいとされている。今後とも、このような例においては、関連する規定を所管する省庁間で十分連携を取り合い、法令改正等により必要が生じた場合には、統一的な運用を行うために必要な手続を所管省庁間で定め、外部に公表すべきである。

さらに、建築基準法においては、スプリンクラー設備が設置されている場合に防火区画や内装不燃化の緩和ができるとされたり、消防法においては、逆に防火区画された小区画室についてはスプリンクラー設備の設置が免除されたりしている。このように、代替的な内容の規定相互間において、今後とも、技術水準の向上等を踏まえつつ、必要が生じた場合には、整理・合理化を推進すべきである。

2)性能規定化等による合理化【平成14年度から検討、逐次実施】

建築基準法については、平成12年から、具体的な材料・寸法等を規定する方式(いわゆる仕様規定)に加え、構造及び防火材料、耐火建築物の主要構造部等については、一定の性能さえ満たせば多様な材料・構造方法等を採用できる方式(いわゆる性能規定)が選択肢として追加されたところである。関連する消防法についても、建築基準法の性能規定化との整合性を確保するとともに、同法に規定する消防用設備や消火活動上必要な施設も含めて、できる限り性能規定化を進めるべきである。

また、建築基準法においても、消防法の性能規定化に伴い必要となる性能規定の整理・合理化を行うべきである。

3)加圧防排煙の規定【平成14年度中に措置】

建築物の避難上の安全を確保するための排煙設備のうち、加圧防排煙については、現在性能規定により避難安全検証法に基づき、個別に大臣認定を受けた計画にしなければならないが、避難経路を加圧し、煙を入れないという考え方は、現状の仕様規定にある機械排煙、自然排煙と比較して安全性能が高い場合が多いと考えられている。したがって、附室の設置等必要な条件を満たす建築物について、避難経路機械給気・居室機械排煙(加圧防排煙)のシステムを建築基準法において、通則化すべきである。その際には、排煙機は災害時の場合にのみ必要となることから、一般空調用の換気ファン(排気ファン)を兼用できるようにし、排煙風量を従来風量の3分の1にする等軽減化を図るべきである。(別紙のとおり所管省より意見が出されている。)

4)指導の適正化【平成14年度中に措置】

超高層建築物等について、火災等の災害時に人命救助等を容易にするため、地方公共団体の消防担当部局が、ヘリコプターの緊急離発着場等の設置を求めるなど、法的に義務付けられた水準を超えることを求める指導を行う場合がある。

また、建築確認の際に、特定行政庁や指定確認検査機関が、性能規定化以前に行われていた防災評定や構造評定(高さ45m超60m以下の建築物について)を求めるなど、従前の取扱いに基づくことを求める指導もあるとの指摘がある。

このような指導の性格は、本来、任意の協力を求めるものであり、強制力を伴うものではない旨、通知により地方公共団体等に周知を図ってきたところであるが、改めて、同趣旨を周知徹底すべきである。

(2)道路の立体的利用に係る制度拡充(道路内建築制限の緩和)【平成14年度から検討・措置】

市街地における交通渋滞を解消するための幹線道路の整備と併せて、道路の上下空間に建築物等を建築することができるようにするため、平成元年に、道路法、建築基準法等の関係法令の改正により、道路と建築物等を一体的に整備する、いわゆる「立体道路制度」が創設された。このような制度創設の趣旨から、対象となる道路は、新設または改築に係る自動車専用道路等とされている。しかしながら、都心における高度利用というニーズにこたえるためには、交通渋滞の解消のみならず、良好なまちづくりという観点からも道路空間の立体的な利用が必要である。さらに地区計画等により都市計画上の位置付けが明確にされ、歩行者の安全性と道路管理上の配慮が十分になされたものである場合には、制度の濫用による実質的な支障が生じることはないと考えられる。このため、今後は一般道路や既存の道路にも適用できるよう、道路内建築制限の緩和等を検討すべきである。(別紙のとおり所管省より意見が出されている。)

(3)航空関係規制の合理化

1)航空法による建築物等の高さ制限の合理化【平成14年度から検討開始、できるだけ早期に結論】

空港に隣接する地域の建築物等については、建築基準法のほか、航空機の運航の安全性を確保する観点から、航空法(昭和27年法律第231号)に基づき、空港からの距離等に応じた高さ規制(いわゆる「制限表面」規制)が行われている。

特に、都心部に隣接している主要空港の規制については、昭和30年代に定められたまま、その後見直しが行われていないため、高度利用を実現するための制約となってきており、合理性の再検証が必要なものがあると考えられる。したがって、都心の高度利用のニーズとの関係において、我が国の各空港が置かれている気象・地形などの自然的・地理的条件、稠密な市街地や船舶の輻輳する港湾等と近接しているといった立地条件や航空機の運航実態を踏まえた運航の安全性の確保と環境面の配慮の必要性を十分に考慮に入れて、最近の我が国の就航機材の実情、諸外国の類似例等を踏まえ専門的・技術的観点から合理的な再検証を行い、制限表面の見直しを検討すべきである。

2)航空障害灯に係る規制の合理化【平成14年度から検討、平成15年度結論】

地表又は水面から60m以上の高さの建築物等については、航空機の安全な運航を確保する観点から、航空法に基づき、航空障害灯を設置することが義務付けられている。本制度については、昭和35年に現在の枠組みが確立されたものであるが、その後、建築技術の進歩等により、高層建築物等が著しく増加するとともに、都市開発の進展に伴う高層建築物の群立化も進んできており、航空障害灯の規制を巡る環境は、昭和35年当時とは大きく変化してきている。このような中、平成12年及び平成13年には、航空障害灯のつけ方等の設置方式を相当程度緩和してきているところであり、この点は評価できる。

一方、都心の高度利用化の更なる進展という時代の要請に対応するという観点から、航空機の運航の安全を確保した上で、ライトアップ等の都市美観との調和による都市空間における景観の向上に資するため、航空障害灯の規制について、個数、光度、点滅周期等について必要最小限化する、あるいは建物のライトアップで代替可能とする等の措置を含めて検討を行い、更なる緩和を行うべきである。


内閣府 総合規制改革会議