第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.1.1)

2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況

2.1. 子供の貧困に関する指標

1 イギリス労働年金省・教育省「子供の貧困戦略2014-2017(Child Poverty Strategy 2014-2017)」

イギリスでは労働年金省と教育省が協働し、2011年4月「子供の貧困戦略(Child Poverty Strategy)」を策定したが、その中で15項目からなる子供の貧困戦略指標が設定されている49 。2014年6月には第二次子供の貧困戦略が策定されたが、指標に変更はなかった50 ,51

子供の貧困戦略においては、指標の選定基準については明言していないものの、国家戦略の進捗状況を把握するための指標であること、政府が取り組む他の計画と密接に連携した指標であることが述べられている52

各指標は、研究者らによって示されたエビデンスに基づいて設定されており、指標の改善の方向性(上昇すべきか、減少すべきか、困窮している世帯とその他の世帯の差が縮まるべきか)が明確になるように設定したとされている。また、指標の対象地域は必ずしも全国ではなく、一部項目はイングランドのみ、イングランドとウェールズのみを対象地域としている53

図表2-3 イギリス「子供の貧困戦略2014-2017」における子供の貧困戦略指標
指標の分類 具体的な指標項目54
1家庭の資産
(5項目)
相対的低所得55 等価可処分所得が中央値の60%未満の世帯に暮らす子供の割合
絶対的低所得 等価可処分所得が2010/11年度の中央値の60%未満の世帯に暮らす子供の割合。所得は2010/11年度の物価指数によって調整する。
低所得と物質的はく奪の複合 等価可処分所得が中央値の70%未満でかつ物質的はく奪状態56 にある世帯に暮らす子供の割合
慢性的な貧困 過去4年の間に3年以上にわたり等価可処分所得が中央値の60%未満であった世帯に暮らす子供の割合
深刻な貧困 等価可処分所得が中央値の50%未満でかつ物質的はく奪状態57 にある世帯に暮らす子供の割合
2家庭の就業環境
(3項目)
非就業者世帯に暮らす子供 非就業者世帯58 に暮らす子供の割合
就労世帯の貧困 世帯員のうち少なくとも1人は就労しているが、相対的低所得59 である世帯に暮らす子供の割合
児童・生徒期から労働市場への移行 (ⅰ)全日制又は定時制の教育や職業訓練に参加している18~24歳の者の割合
(ⅱ)就労しておらず、全日制の教育又は職業訓練に参加していない18~24歳の者の割合
3子供のライフチャンス60
(7項目)
低出生体重児出生率の差 社会階級1~4の家庭の子供と社会階級5~861 の家庭の子供について、出生時体重が2,500g未満の新生児の割合の差
子供の発達 (ティッケル・レビュー62 の考察に基づき、さまざまな社会的背景を持つ5歳以下の子供の就学準備度の格差を把握する指標を開発予定。)
学校及び継続教育63 での学習到達度 1 キーステージ264 における、給食費免除65 を受けている子供とその他の子供との間の読み書き及び算数の学習到達度の差
2 キーステージ466 における、給食費免除を受けている子供と、その他の子供との間の基礎到達度(全国統一試験(GCSEs)の英語及び数学の成績がA*~C評価であった子供の割合)の差
3 給食費免除を受けていた子供とその他の子供との間の19歳時点でのレベル367 到達度の差。以下の(a)及び(b)にわけて算出する。
(a)2つ以上の科目でAレベル68 を達成した者の割合の差
(b)その他Aレベル相当と見なされる資格を保有している者の割合の差
高等教育への進学 15歳時点で給食費免除を受けていた生徒とその他の生徒の、19歳時における高等教育への進学率の差
10代の妊娠 15歳から17歳の女性の1,000人あたり妊娠率
若年犯罪 初めて懲戒、警告、有罪判決を受けた、10歳から17歳までの若年者数
家族構成 相対的低所得である世帯に暮らす子供の割合。以下の世帯類型別に算出。
 (a)親が結婚している又はシビルパートナーシップ 69 である世帯
 (b)親が同居している世帯
 (c)ひとり親世帯

49UK Department of Education (2011). A new approach to child poverty: tackling the causes of disadvantage and transforming families' lives, UK, The Stationery Office. https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/177031/CM-8061.pdf

50前掲42

51政権交代後のイギリスでは2016年福祉改革及び労働法(Welfare Reform and Work Act 2016)によって2013年子供の貧困法(Child Poverty Act 2013)の内容に改正がなされた後は、子供の貧困の担当をしていた部署(Child Poverty Unit)も大幅に縮小されており、これらの指標に関しての報告もみられない。

52前掲49

53前掲49

54株式会社SELC(2016)「諸外国における子供の貧困対策に関する調査研究 報告書」(平成28年度内閣府政策統括官(共生社会政策担当)委託)を参考にし、一部加筆修正した。

55「子供の貧困戦略2014-2017」においては、相対的低所得(Relative Low Income)という表現が使われているが、指標の内容は相対的貧困率と同じである。

56物質的はく奪に関する21項目のうち、経済的理由により所有していない項目数を、ウェイト付けした上で合計し、その点数が基準値を超えた場合、物質的はく奪状態とする。項目や算出方法の詳細については第6章で述べる。

57同上

5816歳以上の世帯員が誰も就労していない世帯を指す。失業者(就業しておらず就業する意思のある者)と非活動者(定年退職、就学、障害を持っているなどの理由で就業していない者)のどちらも含む。(参考:UK Office of National Statistics (2015). “Labour Force Survey (LFS) QMI”. https://www.ons.gov.uk/employmentandlabourmarket/peopleinwork/employmentandemployeetypes/qmis/labourforcesurveylfsqmi)

59算出方法は同表の「相対的低所得」を参照。

60ライフチャンスを確保することとは、つまり、貧困の子供が再び貧困に陥らないよう、社会移動の可能性を確保することであると言える。(参考:大澤真平(2008)「子どもの経験の不平等」教育福祉研究,14,1-13.)

61社会階級は8段階に分類されている。1: 上級管理職及び専門職、2:下級管理職及び専門職、3:准専門職、 4:中小企業雇主及び自営業者、 5:下級管理職及び技術職、 6:准定型職、 7:定型職、 8:完全非就業者及び長期非就業者

62イギリスの研究者Dame Clare Tickell氏によりイギリス政府・教育省に提出された乳幼児期基礎段階に関するレビュー論文を指す。
Tickell, D.C.(2011).The Early Years: Foundations for life, health and learning: An Independent Report on the Early Years Foundation Stage to Her Majesty's Government, London, UK Department for Education. https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/180919/DFE-00177-2011.pdf

63イギリスにおいて、継続教育とは義務教育(中等教育)を終えた後での段階で行われる教育課程を指すが、大学によって提供される高等教育とは区別されたものを指す用語であり、基本的に職業教育を指す。(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構 (2004) 「イギリスにおける職業訓練と指導者等の資格要件」労働政策研究報告書, No.16.)

64イギリスの教育段階は、1988年の教育改革法により制定されたカリキュラムに基づいて4つのキーステージ(Key Stage 1:5~7歳、Key Stage 2:7~11歳、Key Stage 3:11~14歳、Key Stage 4:14~16歳)に分かれる。(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「イギリスの学校制度と職業教育」http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2004_6/england_01.html)

65イギリスにおいて学校給食は有料であるが、親が所得補助や失業手当等、特定の社会保障を受けている場合、免除される。

66前掲64

67レベル3とはイギリスの資格枠組みにおける基準である。資格枠組みとは、職業能力開発総合大学校(2011)「欧州教育訓練政策重要用語集」によると、「一群の基準(たとえば資格レベル説明指標を使うなど)に沿って、特定のレベルの学習成果に適用される各国・部門レベルなどの資格を分類・開発するための仕組み」である。イギリスの資格枠組みでは資格が9段階評価されており、レベル3とは下から4番目の段階である。これは普通教育の初等・前期中等教育修了と同等のレベルである。(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構(2017)『諸外国における教育訓練制度 ―アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス―』JILPT資料シリーズ,194,29-53.)

68正式には「一般教育修了上級レベル(GCE-Aレベル:General Certificate of Education, Advanced Level)」のこと。大学への入学に必要な一般教育証明試験。

692004年施行の「シビル・パートナーシップ法(Civil Partnership Act)により法的に承認されることとなった婚姻に準ずる同性同士の関係。「結婚(marriage)」という言葉が異性間の関係を指すものとして法律で定義されているため、結婚ではなくシビル・パートナーシップと呼ばれる。(参考:UK (2004) Civil Partnership Act 2004 Chapter 33, UK, The Stationery Office. http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2004/33)