第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.2.1)
2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況
2.2. 人口全体の貧困に関する指標98
① 国連開発計画 「人間開発指数(HDI: Human Development Index)」
貧困の多面性に関して論じた先行研究や国際機関の発行物において、Amartya Senが提唱した理論99 の重要性が論じられていることが多く100 ,101 、人間開発指数(HDI: Human Development Index)はその理論を基に開発された指標である102 。また、②において詳述する「多次元的貧困指数」は貧困の多面性を捉える代表的な指標の1つであるが、人間開発指数を基に開発されている。
この指標は、発展途上国を含む各国の人間開発103 の段階を4段階に段階付けするために用いられ、以下の3つの指数の幾何平均として計算される。国家間の比較に用いられ、その国の国内の貧困の分布や程度を把握することはできない。
○健康 ○知識 ○生活水準 ◎人間開発指数(HDI)=(平均余命指数×教育指数×GNI指数)^(1/3) ※就学予測年数:25歳以上の人が生涯を通じて教育を受けた期間の平均年数 ※平均就学年数:就学年齢の子供がその後の生涯を通じて受けると予測される教育の年数 ※1人あたりGNI:米ドル建ての購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)に換算された1人あたりGNIを用いる ※指数は全て、(実測値-最小値)/(最大値-最小値)の式によって算出される104 。 |
98大人と子供両方に着目した指標を指す。
99センは、貧困を潜在能力(capability)の不十分性・欠如としている。ケイパビリティ(潜在能力)とは、簡潔に述べれば,人が保持・享受している財・サービスを用いてしたいと思うことをできる能力のことである。(参考:志賀信夫(2016)『貧困理論の再検討: 相対的貧困から社会的排除へ』法律文化社)
100志賀信夫(2016)『貧困理論の再検討: 相対的貧困から社会的排除へ』法律文化社
101例えば、以下の発行物が挙げられる。
- Bradshaw, J., Hoelscher, P. and Richardson, D. (2006). “Comparing Child Well-Being in OECD Countries: Concepts and Methods”, Innoccenti Working Paper, 2006-03, Florence, UNICEF Innocenti Research Cenre.
- Boarini R. and Mia d’Ercole (2006). “Measures of Material Deprivation in OECD Countries”, Social, Employment and Migration Working Papers, no.37, Paris, OECD.
- OECD(2013). OECD Framework for Statistics on the Distribution of Household Income, Consumption and Wealth, Paris, OECD.
102UNDP(2016). “About Human Development”. http://hdr.undp.org/en/humandev
103国連開発計画は2010年版人間開発報告書において、人間開発の基本概念を、「人々が長寿で、健康で、創造的な人生を送る自由」、「意義ある目標を追求する自由」、そして、「全ての人類の共有財産である地球上で、平等かつ持続可能な開発を進めるプロセスに積極的に関わる自由」を拡大することであると定義している。(参考:国連開発計画東京事務所(2010)プレスリリース「人間開発報告書2010:国家の真の豊かさ-人間開発への道筋」2010年11月4日http://www.undp.or.jp/hdr/pdf/release/101109_04.pdf)
104GNI指数は自然対数(ln)を用いて対数変換してから計算している。