第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.2.2)

2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況

2.2. 人口全体の貧困に関する指標

2 国連開発計画 「多次元貧困指数 (MPI: Multidimensional Poverty Index)」

多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index)は、健康、教育、生活水準の面における貧困の程度と発生頻度を明らかにするものとして、国連開発計画により2010年人間開発報告書において導入された。

多次元貧困指数は発展途上国の貧困の程度と発生頻度を明らかにすることに焦点を当てた指標で構成されているが、貧困を多面的に捉えようとする代表的な取組であるため105 、ここで概観することとする。

世帯単位で、多次元貧困を構成する各項目に該当するか否かを判断し、該当する場合には項目に応じて重み付けされた点数を加点していく。合計点が基準値以上の場合に「貧困世帯」と定義される。最終的には、貧困下にあると定義された世帯数と世帯別得点を用いた計算により、各国のMPI指数を算出し、国家間の比較を行うことが可能な単一指標とする。

指数の考え方と計算の手順の概要は以下のとおりである106

図表2-9 国連開発計画「多次元貧困指数」の選定基準と算出方法

1 個人又は世帯が貧困状態にあるか決定するのにMPIを構成する指標を総合的に判断する必要があるため、個人又は世帯の全ての情報が同じ調査から入手できなければならない

2 国際比較可能な統計調査では、個人単位の集計ではなく世帯単位の集計がなされているため、分析の単位は世帯とする

3 MPIを構成する分類及び指標は人間開発指数(HDI)に基づいている107

4 各項目に該当するか否かの基準値を、国際的に合意されたミレニアム開発目標(MDG)基準に基づいて決定する108

5 満点が1点となるように、健康・教育・生活水準の3分野にそれぞれ同じウェイトをつける。各分野内の項目も、全て均等にウェイトをつける

6 各項目につき該当する場合は1点が与えられ、該当しない場合は0点が与えられる。ウェイトをかけ、全項目の合計得点が満点(1点)の1/3以上の世帯を貧困世帯と特定する。このとき、合計得点が1/3未満の世帯(非貧困世帯)の合計得点は0点とする。

7 上記の手順で貧困世帯であると定義された世帯数と世帯別得点を用いて、貧困率と貧困強度をもとめ、その積により各国のMPI指数を算出する

  • 貧困率(H)=貧困と定義された世帯の世帯員数の和÷全調査対象世帯の世帯員数の和
  • 貧困強度(A)=Σ(各世帯109 の合計得点×各世帯員数110 )÷貧困と定義された世帯の世帯員数の和
  • MPI=H×A
図表2-10 国連開発計画「多次元貧困指数」を構成する項目一覧
指標の分類 具体的な指標項目 ウェイト
教育 1.就学年数 就学経験年数が6年以上の世帯員がいない 1/3×1/2=0.167
2.子供の就学 学校に通うべき年齢の子供111 が就学していない 1/3×1/2=0.167
健康 3.子供の死 調査日までの過去5年間のうちに子供が亡くなった世帯 1/3×1/2=0.167
4.栄養 栄養不足の成人又は子供がいる(15歳以上の場合、BMI112 <18.5を栄養不足とする。15歳未満の子供の場合、体重<WHO基準のz値(中央値-標準偏差×2)を栄養不足とする。) 1/3×1/2=0.167
生活水準 5.電力 電気の供給を受けていない 1/3×1/6=0.056
6.衛生 改善された下水設備113 がない、又は、改善された下水設備を他の世帯と共用している 1/3×1/6=0.056
7.安全な飲料水 安全な水が得られない、又は安全な水を入手するのに往復30分以上かかる 1/3×1/6=0.056
8.床 家の床が泥、砂又は糞である 1/3×1/6=0.056
9.炊事用燃料 糞、木材又は木炭で料理をする 1/3×1/6=0.056
10.資産 ラジオ、テレビ、電話、自転車、二輪車、冷蔵庫、自動車、トラックのいずれも持っていない 1/3×1/6=0.056

105Boarini R. and Mia d’Ercole (2006). “Measures of Material Deprivation in OECD Countries”, Social, Employment and Migration Working Papers, no.37, Paris, OECD.

106Oxford Poverty and Human Development Initiative (2011). MPI Construction and analysis: Training material for producing national human development reports, Oxford, OPHI. www.ophi.org.uk/wp-content/uploads/OPHI-RP-29a.pdf-2011.pdf

107各国が独自のMPIを作成する場合は市民のコンセンサスを得ながら独自の分類と指標を決定すべきとしている。

108各国が独自のMPIを作成する場合はその国の政策優先度と文化に応じた基準値を設定すべきとしている。

109貧困世帯と特定された世帯とその他の世帯両方が対象である。

110同上

111第8学年の年齢までの子供(up to grade 8)と定義されている。第8学年は日本における中学校2年生に当たる。

112前掲96

113改善された下水設備とは国連がミレニアム開発目標で用いたimproved sanitationという言葉の訳であり、人間の排泄物を人間との接触から衛生的に隔離する施設・設備を指す。(参考:United Nations (2016). “Water for Life Decade, Access to Sanitation”. http://www.un.org/waterforlifedecade/sanitation.shtml)