第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.3.1)

2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況

2.3. 子供のウェル・ビーイング指標

OECD 2009年「子供の福祉を改善する報告書(Doing Better for Children)」

OECDOECD加盟国の子供のウェル・ビーイングを改善する施策の範囲やそれらの施策のアウトカムを検討し、2009年「子供の福祉を改善する報告書(Doing Better for Children)」を公表した。

報告書では6分野21項目について、日本を含む30カ国のデータを比較している。児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)206 を基礎概念としており、6分野の選定においては、同じく児童の権利に関する条約を基礎概念としたユニセフ・イノチェンティ研究所の2007年の報告書「レポートカード7: 先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価(Child poverty in perspective: An overview of child well-being in rich countries)」を参考にしたとしている207 。ユニセフ・イノチェンティ研究所の報告書については④において詳述する。指標の選定には以下の基準が用いられた。

図表2-17 OECD「子供の福祉を改善する報告書」における指標選定基準208
指標の選定基準
① 世帯ではなく子供を分析の単位とする
② 可能な限り最新の統計調査を用いる
③ 標準的な方法によって収集され、比較可能な全国横断調査である統計調査を用いる
④ 乳児から17歳までの全ての子供を対象とする209
⑤ 政策に焦点を当てる
⑥ できる限り多くのOECD加盟国を網羅できる指標を用いる
⑦ 各分野における指標が、以下の3点について相互補完関係にある
(ア) 子供の年齢:1つの指標が特定の年齢に焦点を当てている場合は、他の指標は別の年齢に焦点を当てている。
(イ) 効率性と公平性:政策の効率性を測る観点から国の平均値を示す指標と、政策の公平性を測る観点からアウトカムのばらつきを示す指標の両方がある。
(ウ) 現在と将来のウェル・ビーイング:子供の現在のウェル・ビーイングを示す指標と将来のウェル・ビーイングのために大切な生活の側面を示す指標の両方がある。
(エ) 様々なアウトカム:1つの分類の中に複数の指標があっても、同じアウトカムを測る指標では意味がないため、様々なアウトカムを測る指標であること。
図表2-18 OECD「子供の福祉を改善する報告書」における指標一覧
指標の分類 具体的な指標項目210
①物質的豊かさ
(3項目)
平均可処分所得 0-17歳の子供がいる世帯の平均等価可処分所得
子供の貧困率 居住国の等価可処分所得の中央値の50%未満の世帯に暮らす子供の割合
教育のはく奪 8つの基礎教育財(机、静かな勉強部屋、学習に必要なコンピューター、教育ソフトウェア、インターネット接続、計算機、辞書、教科書)のうち4つ未満しか所有していない15歳の者の割合(人口千対)
②住宅と環境
(2項目)
過密 世帯員数が部屋数を(台所・風呂を除く)超える住宅に暮らす0-17歳の割合
地域環境 自宅又は自宅周辺が騒音、汚染、ゴミ散乱等の状況に置かれている0-17歳の割合
③教育
(3項目)
読解力の平均点 PISA211 における読解力の平均点
読解力の格差 PISA212 における1読解力の、上位10%の生徒の平均点数と下位10%の生徒の平均点の差
若年ニート率 15-19歳の者で就学・就労・職業訓練のいずれも行っていない若者(ニート)の割合
④健康と安全
(8項目)
低出生体重児出生率 出生体重が2,500グラム未満であった乳児の割合
乳児死亡率 該当年の出産数に対する同年の1歳未満で亡くなった乳児の割合
母乳実施率 新生児に対する母乳の授乳経験のある母親の割合
予防接種率(百日咳) 百日咳の予防接種が完了している2歳児の割合
予防接種率(はしか) はしかの予防接種が完了している2歳児の割合
運動 過去1週間に、中-高強度の身体活動213 を行ったと回答した子供の割合
死亡 0-19歳人口の10万人当たりの死亡率
自殺 15-19歳人口の10万人当たり自殺率
⑤リスク行動
(3項目)
喫煙 少なくとも週1回喫煙している15歳児の割合
飲酒 少なくとも週2回飲酒している13歳児と15歳児それぞれの割合
若年出産 15-19歳の女性人口の10万人当たりの出産率
⑥学校生活の質
(2項目)
いじめ 最近2ヶ月の間に、少なくとも2度学校でいじめを受けたと回答した11,13,15歳児のそれぞれの割合
学校が好きであるか 学校が好きと回答した11,13,15歳のそれぞれの割合

206日本ユニセフ協会「『子どもの権利条約』全文」http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig_all.html

207同報告書29頁

208同報告書29,30頁より抜粋。

209胎児期の環境がその後の成長にとって重要でこと、及び、多くの国において胎児期から法的権利が与えられることから、胎児も指標の対象として含むことを検討する必要があることが示唆されている。

210日本語訳は、一部、阿部彩他(2013)(前掲4)を参考にした。

211前掲94

212前掲94

213中―高強度の身体活動が具体的にどういった活動を指すのかについて、定義は見られない。