第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.3.3)
2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況
2.3. 子供のウェル・ビーイング指標
③ ユニセフ・イノチェンティ研究所 2007年「レポートカード7: 先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価(Child poverty in perspective: An overview of child well-being in rich countries)」224
欧州連合理事会の依頼によりAtkinsonらが2005年に発表したEUにおける社会包摂に関する報告書225 では、当時のEUの社会包摂指標226 には子供に着目した社会包摂指標が欠けているため追加すべきとの提案がなされたが、追加すべき指標として示されたのは学習習熟度を表す1項目のみであった。この報告書の内容を受け、子供の生活を改善する政策についてより多面的なモニタリングを促し、政策の比較を可能にし、政策の議論と形成に刺激を与えることを目的として、ユニセフ・イノチェンティ研究所が発表したのが、「レポートカード7: 先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価(Child poverty in perspective: An overview of child well-being in rich countries)」である227 ,228 。
児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)229 を基礎概念とし、OECD加盟国21カ国における子供と若者の生活と福祉の総合評価をするための指標であり、ユニセフ・イノチェンティ研究所の以前の報告書では金銭に基づく指標のみを用いていたが、この報告書では6分野40指標230 により子供のウェル・ビーイングの動向を把握している231 。
指標の選定基準 |
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①「子供の権利条約」に基づき、子供の生活と子供の権利に関連する指標であること ②国際比較の可能な統計が入手できること |
指標の分類 | 具体的な指標項目 | |
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①物質的豊かさ (5項目) |
子供の貧困率 | 0-17歳人口に占める、等価平均所得の50%未満の世帯に暮らす者の割合 |
無職世帯の子供の割合 | 子供(0-17歳)がいる就業年齢世帯に占める、就業している親がいない世帯の割合 | |
はく奪状況 | 家庭の豊かさが低水準にある233 11、13、15歳児の割合 | |
8つの教育財234 のうち、6つ未満しか所有していないと答えた15歳児の割合 | ||
家庭に本が10冊未満しかないと申告した15歳児の割合 | ||
②健康と安全 (6項目) |
出生時の健康 | 1歳の誕生日の前に亡くなった乳児の割合(人口千対) |
2,500グラム以下で生まれた出生児の割合 | ||
予防接種 | はしかの予防接種が完了している12-23ヶ月児の割合 | |
DPT(ジフテリア、百日咳、破傷風)の予防接種が完了している12-23ヶ月児の割合 | ||
ポリオの予防接種が完了している12-23ヶ月児の割合 | ||
子供の死亡率 | 19歳未満人口10万人当たりの事故又は外傷による死亡者の割合 | |
③教育 (6項目) |
学習習熟度 | PISA235 における読解力の平均点 |
PISA236 における科学リテラシーの平均点 | ||
PISA237 における数学リテラシーの平均点 | ||
就学状況 | 15-19歳人口に占める、就学している者の割合 | |
将来の希望 | 15-19歳人口に占める、就学、就業又は職業訓練のいずれもしていない者の割合 | |
低技能238 の仕事に就くことを望んでいる15歳の者の割合 | ||
④友人や家族との関係 (5項目) |
家族構成 | 11、13、15歳児でひとり親家庭に暮らす者の割合 |
11、13、15歳児でステップファミリー(連れ子再婚家庭)に暮らす者の割合 | ||
家族関係 | 週に2回以上親とメインの食事を一緒に食べる15歳児の割合 | |
親が週に何回かは自分と話をするためだけに時間を使ってくれると回答した15歳児の割合 | ||
仲間関係 | 11、13、15歳児で、自分の同級生は親切で助けになってくれると回答した者の割合 | |
⑤日常生活上のリスク (12項目) |
健康行動 | 学校がある日に毎日朝食を食べる11、13、15歳児の割合 |
毎日果物を食べる11、13、15歳児の割合 | ||
11、13、15歳児で、調査日の前の1週間に1時間以上中-高強度の身体活動239 を行った日数の平均値 | ||
13、15歳児で、過体重240 である者の割合 | ||
リスク行動 | 1週間に最低1回は喫煙する11、13、15歳児の割合 | |
2回以上泥酔経験のある11、13、15歳児の割合 | ||
過去12か月間に大麻を使用した15歳児の割合 | ||
性交渉経験のある15歳児の割合 | ||
最近の性交渉においてコンドームを使用した15歳児の割合 | ||
15-19歳女性の出産率(人口千対) | ||
暴力 | 過去12か月間に暴力に関与した11、13、15歳児の割合 | |
過去2か月間に1度でもいじめられたことがある11、13、15歳児の割合 | ||
⑥主観的ウェル・ビーイング (6項目) |
健康 | 11、13、15歳児で、「あなたの健康状態はどうですか」という設問に対して、「とても良い」「良い」「普通」「悪い」の4択から「普通」「悪い」と答えた者の割合 |
学校生活 | 「学校生活が大好きである」と回答した11、13、15歳児のの割合 | |
個人のウェル・ビーイング | 11、13、15歳児の生活全般に対する主観的な評価が中央値より上であった者の割合(「自分の最近の生活全般に関してにどれ程満足していますか。」という問いに対して、最低の0から最高の10の11段階で評価) | |
「学校で疎外されていると感じるか」の問いに「はい」と回答した15歳児の割合 | ||
「学校では気後れし居心地が悪いと感じるか」の問いに「はい」と回答した15歳児の割合 | ||
「学校で孤独だと感じるか」の問いに「はい」と回答した15歳児の割合 |
224前掲37
225Atkinson, A.B., Cantillon, B., Marlier, E. and Nolan, B. (2005) Taking forward the EU social inclusion process, Luxembourg, LU Council of the European Union (European Union, 11-05-0180-E). http://eapn.lu/eapn/File/EU%20Conferences/Conf_TakingforwardEUinclusion_final_report.pdf
226前述のラーケン指標を指す。
227前掲37
228Bradshaw, J., Hoelscher, P. and D. Richardson. (2006). “Comparing child well-being in OECD countries: concepts and methods”, IWP-2006-03, Florence, UNICEF Office of Research.
229前掲206
230指標の選定はBradshaw et al. (2006).(前掲228)に基づいている。
231この報告書において、日本は以下の指標については使用できる統計調査が存在しないため、国際比較に含まれていない。「家庭の豊かさが低水準にある11、13、15歳児の割合」、「15-19人口に占める、就学している者の割合」、「15-19歳に占める、就学、就業、又は職業訓練のいずれもしていない者の割合」、「11、13、15歳児でひとり親家庭に暮らす者の割合」、「11、13、15歳児でステップファミリーに暮らす者の割合」、「11、13、15歳児で、自分の同級生は親切で助けになってくれると回答した者の割合」、「学校がある日に毎日朝食を食べる11、13、15歳児の割合」、「毎日果物を食べる11、13、15歳児の割合」、「11、13、15歳児の、調査日の前の1週間に1時間以上、中-高強度の身体活動を行った日数の平均値」、「13、15歳児で、過体重である者の割合」、「1週間に最低1回は喫煙する11、13、15歳児の割合」、「2回以上泥酔経験のある11、13、15歳児の割合」、「過去12か月間に大麻を使用した15歳児の割合」、「性交渉経験のある15歳児の割合」、「最近の性交渉においてコンドームを使用した15歳児の割合」、「過去12か月間に暴力に関与した11、13、15歳児の割合」、「過去2か月間に1度でもいじめられたことがある11、13、15歳児の割合」、「11、13、15歳児で、「「あなたの健康状態はどうですか」という設問に対して、「とても良い」「良い」「普通」「悪い」の4択から「普通」「悪い」と答えた者の割合」、「「学校生活が大好きである」と回答した11、13、15歳児のの割合」、「11、13、15歳児の生活全般に対する主観的な評価が中央値より上であった者の割合」
232UNICEF (2007)(前掲37)3頁“Measurement and policy”に記載されている基準をまとめた。
23311、13、15歳児に「あなたの家族は車、バン、又はトラックを所有していますか。」、「あなたは自分の寝室を持っていますか。」、「過去12ヶ月の間に何回家族と旅行に行きましたか。」、「あなたの家族はコンピューターを何台所有していますか。」の4つの質問をし、その回答に基づき、0-8の尺度で家庭の豊かさを測り、0-3に当てはまった場合を低水準とする。
234机、静かな勉強部屋、学習に必要なコンピューター、教育ソフトウェア、インターネット接続、計算機、辞書、教科書の8つを指す。
235前掲94
236同上
237同上
238「30歳前後でどのような職業に就いていたいと思うか。」という質問に対して、「現在受けてる教育や訓練以上の訓練や資格を必要としない仕事」を選んだ子供を指す。
239中―高強度の身体活動が具体的にどういった活動を指すのかについて、定義は見られない。
240BMI(定義は前掲90)がWHO子供発育基準 の中央値より1標準偏差高い場合を過体重とする 。WHO子供発育基準(WHO child growth standard)に年齢別のBMIの中央値が示されている。(参考:WHO(2016). “Obesity and Overweight”. http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs311/en/)