第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.3.4)

2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況

2.3. 子供のウェル・ビーイング指標

④ ユニセフ・イノチェンティ研究所 2013年「レポートカード11: 先進国における子供たちの幸福度(Child well-being in rich countries: A comparative overview)」

ユニセフ・イノチェンティ研究所は、前述のレポートカード7で公表した指標を、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)241 に基づく子供のウェル・ビーイングをより適切に捉えるものに更新し、2013年に「レポートカード11: 先進国における子供たちの幸福度(Child well-being in rich countries: A comparative overview)」として公表した242Martonorano243 によると、2009年のEU統計局「所得と生活水準統計」(EU-SILC)に物質的はく奪に関する調査項目が追加されたため、「物質的豊かさ」を示す指標としてEU-SILCを用いた物質的はく奪指標を追加できたこと、主観的ウェル・ビーイングを指標として含めず客観的指標との関連性を別途分析した244 ことの2点がレポートカード7と大きく異なる点であるとしている。

図表2-22 UNICEF「レポートカード11」における指標選定基準245
指標の選定基準
①「子供の権利条約」に基づき、子供の生活と子供の権利に関連する指標であること
②できる限り子供を指標の単位とすること
③子供のウェル・ビーイングを多面的に捉えること
④子供のウェル・ビーイングに関して、良い状態と悪い状態の両方を捉えること
⑤国際比較の可能な統計が入手できること
図表2-23 UNICEF「レポートカード11」における指標一覧
指標の分類 具体的な指標項目
① 物質的豊かさ
(4項目)
子供の貧困率 0-17歳人口に占める、等価平均所得の50%未満の世帯に暮らす者の割合
貧困線(等価可処分所得の中央値の50%の値)の値と貧困線未満の子供がいる世帯の等価可処分所得の中央値の差の貧困線の値に占める割合 (貧困ギャップ率)
物質的はく奪 14項目246 のうち2項目以上欠如している子供の割合
家庭の豊かさが低水準にある247 11、13、15歳児の割合
② 健康と安全
(4項目)
出生時の健康 1歳の誕生日の前に亡くなった乳児の割合(人口千対)(乳児死亡率)
2,500グラム以下で生まれた出生児の割合 (低出生体重出生率)
予防保健医療 ポリオ、DPT(ジフテリア、百日咳、破傷風)、はしかの予防接種が完了している12-23ヶ月児の割合(予防接種率)
子供の死亡率 19歳未満人口10万人当たりの死亡率
③ 教育
(4項目)
就学状況 4歳から義務教育開始年齢の子供で就学前教育に参加している者の割合
15-19歳人口に占める、就学している者の割合
15-19歳人口に占める、就学、就業、職業訓練もしていない者の割合
学習習熟度 PISA248 における読解力、科学リテラシー、数学リテラシーの平均点
④ 行動とリスク
(10項目)
健康行動 11、13、15歳児で、過体重249 である者の割合
学校がある日に毎日朝食を食べる11、13、15歳児の割合
毎日果物を食べる11、13、15歳児の割合
11、13、15歳児の、調査日の前の1週間に1時間以上過去1週間に、中-高強度の身体活動250 を行った者の割合
リスク行動 15-19歳女性の出産率(人口千対)
1週間に最低1回は喫煙する11、13、15歳児の割合
2回以上泥酔経験のある11、13、15歳児の割合
過去12か月間に大麻を使用した15歳児の割合
暴力 過去12か月間に暴力に関与した11、13、15歳児の割合
過去2か月間に1度でもいじめられたことがある11、13、15歳児の割合
⑤ 住居と環境
(4項目)
住居 子供のいる世帯の、住宅の部屋の数をその住宅の居住人数で除した値の平均値
屋根・壁・床等の破損、日当たりが悪い、風呂・シャワーがない、屋内水洗トイレが共用でないの4項目のうち、1項目以上あてはまる住宅に暮らす子供のいる世帯の割合
環境の安全性 10万人当たりの殺人事件の発生率
微小粒子状物質(PM10)の年間平均濃度

241前掲206

242この報告書において日本は以下の指標についてのみ国際比較に含まれており、他の指標については使用できる統計調査が日本には存在しないため、国際比較に含まれていない。「0-17歳 人口に占める、等価平均所得の50%未満の世帯に暮らす者の割合」、「貧困線(等価可処分所得の中央値の50%の値)の値と貧困線未満の子供がいる世帯の等価可処分所得の中央値の差の貧困線の値に占める割合」、「1歳の誕生日の前に亡くなった乳児の割合」、「2,500グラム以下で生まれた出生児の割合」、「ポリオ、DPT(ジフテリア、百日咳、破傷風)」、「はしかの予防接種が完了している12-23ヶ月児の割合」、「4歳から義務教育開始年齢の子供で就学前教育に参加している者の割合」、「PISA242における読解力、科学リテラシー、数学リテラシーの平均点」、「15-19歳女性の出産率」、「微小粒子状物質(PM10)の年間平均濃度」

243Martonorano, B., L. Natali, C. de Neubourg and J. Bradshaw (2013). “Child Well-being in Advanced Economices in 2000s”, Working Paper 2013-01, Florence, UNICEF Office of Research.

244分析結果の詳細はBradshaw et al. (2013)に示されている。(Bradshaw, J., Martonorano, B., L. Natali, amd C. de Neubourg. (2013). “Children’s Subjective Well-being in Rich Countries”, Working Paper 2013-03, Florence, UNICEF Office of Research.

245Martonorano, et al. (2013) pp6-8. 2.1. Theoretical Frameworkに記載されている選定基準をまとめた。

246「1日3食摂取」、「肉・魚又は代替するタンパク源を1日1回摂取」、「新鮮な野菜・果物を1日1回摂取」、「子供の年齢と知識水準に適した本(教科書を除く)を所持」、「屋外レジャー用品(自転車、ローラースケートなど)を所持」、「定期的なレジャー活動を行う」、「屋内ゲーム子供1人につき1つ以上(知育玩具・積木・盤ゲーム、コンピューター・ゲームなど)を所持」、「修学旅行や学校行事の参加費を支払うことができる」、「宿題をするのに十分な広さと照明がある静かな場所がある」、「インターネットへの接続ができる」、「新品の衣服(中古品を除く)を所持」、「ぴったりの寸法の靴2足(1足は全天候型)の所持」、「時々友達を遊びや食事のために家に呼ぶ」、「誕生日・命名日・宗教行事などのお祝いをする」の14項目。

247前掲233

248前掲94

249前掲240

250前掲239