第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.3.5)
2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況
2.3. 子供のウェル・ビーイング指標
アメリカ子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム
「子供のウェル・ビーイング指標(America's Children: Key National Indicators of Well-Being)」251
アメリカに暮らす子供のウェル・ビーイングを把握するために22の連邦政府の統計を集約したレポートであり、子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム(Federal Interagency Forum on Child and Family Statistics)が公表している。
1997年から毎年公表されており、アメリカの子供に関する人口統計を示した上で、子供のウェル・ビーイングを、家庭・社会環境、経済状況、医療、環境と安全、行動、教育、健康の7つの側面から評価・分析している。公表年のみ集計された統計が追加して掲載されるなど、指標の項目は毎年見直しが行われているが、ここでは最新の2016年の報告書に掲載されている指標を示す。
また、2015年の報告書では各分野に対して、「必要とされる指標(Indicators Needed)」についても言及されているため、図2-25に示す。これらは指標の基準値の設定方法等について十分なエビデンスがそろっていなかったり、国内統計が十分に整備されていなかったり等の課題があり、指標として採用されるに至っていないが、子供のウェル・ビーイングを測定する上で重要と考えられる項目である。
指標の選定基準 |
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指標の分類 | 具体的な指標項目253 | |
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![]() (3項目) |
子供の人口 | 0-17歳人口 |
総人口に占める子供の割合 | 総人口に占める0-17歳人口の割合 | |
人種・民族構成 | 0-17歳の子供の人種民族構成割合。非ヒスパニック系白人、非ヒスパニック系黒人、非ヒスパニック系アメリカンインディアン又はアラスカ原住民、非ヒスパニック系アジア人、非ヒスパニック系ハワイ原住民又は他の太平洋島嶼民、ヒスパニック系の7種の人種・民族の割合をそれぞれ算出。 | |
![]() (7項目) |
家族構造と子供の生活環境 | 0-17歳人口に占める結婚している親2人と同居している者の割合 |
結婚していない254 女性の出産 | 15-44歳の女性の出産数に対する結婚していない女性の出産数の(出産千対) | |
全出産数に占める結婚していない女性の出産の割合 | ||
保育 | 母親が就業している0-4歳児に占める、主たる育児者が親戚である者の割合 | |
幼稚園未就園の3-6歳児に占める、以前保育施設で保育を受けていた者の割合 | ||
親が外国生まれである子供 | 0-17歳人口に占める、親の少なくとも1人が外国生まれである者の割合 | |
家庭で話す言語と英会話の困難さ | 5-17歳人口に占める、家庭で英語以外の言語を話す者の割合 | |
5-17歳人口に占める、家庭で英語以外の言語を話し、英会話が困難である者の割合 | ||
若年出産 | 15-17歳の女性の出産率(人口千対) | |
虐待 | 虐待を受けたことがあると確認された0-17歳の者の割合(人口千対) | |
![]() (3項目) |
子供の貧困と世帯所得 | 0-17歳人口に占める、絶対総収入255 が貧困基準値256 未満の世帯に暮らす者の割合 |
親の雇用の安定 | 0-17歳人口に占める、親少なくとも1人が年間フルタイムで就労している者の割合 | |
食料不足 | 0-17歳人口に占める、食料不足状態257 と分類された世帯に暮らす者の割合 | |
![]() (4項目) |
医療保険の加入状況 | 0-17歳人口に占める、医療保険に未加入の者の割合 |
医療サービスを受けることができるか | 0-17歳人口に占める、普段から利用できる医療サービスがない者の割合 | |
予防接種 | 19-35ヶ月の子供に占める予防接種(7種類計19回)258 を完了した者の割合 | |
口腔環境 | 5-17歳人口に占める、過去1年間に歯医者に行った者の割合 | |
![]() (8項目) |
屋外の空気の質 | 0-17歳人口に占める、微小粒子状物質(PM2.5)年間平均濃度が12μg/m3259 より高い地域に暮らす者の割合 |
受動喫煙 | 4-11歳人口に占める血中コチニンレベルが0.05ng/mL以上であった者の割合 | |
飲料水の質 | 0-17歳人口に占める、飲料水の安全基準260 を全て満たしていない公共水道設備を利用する者の割合 | |
血中鉛量 | 1-5歳人口に占める血中鉛濃度が5μg/dl以上である者の割合 | |
住宅問題 | 0-17歳の子供がいる世帯に占める、重い住宅費負担261 、過密262 、設備不十分263 の問題を1つでも抱える世帯の割合 | |
重大な暴力犯罪の被害者 | 12-17歳人口に占める、重大な暴力犯罪(加重暴行、強姦、強盗、殺人)の被害者になった者の割合 | |
子供の怪我と死亡 | 1-4歳の者の10万人当たりの傷害死亡数 | |
5-14歳の者の10万人当たりの傷害死亡数 | ||
青年の怪我と死亡 | 15-19歳の者の10万人当たりの傷害死亡数 | |
![]() (5項目) |
常習喫煙 | 過去30日間日常的に喫煙したと回答した生徒の割合。第8、10、12学年別264 に算出 |
アルコール摂取 | 過去2週間連続で5杯以上のアルコール飲料を飲んだと回答した生徒の割合。第8、10、12学年別265 に算出 | |
違法薬物使用 | 過去30日間に違法薬物を使用したと回答した生徒の割合。第8、10、12学年別266 に算出 | |
性的行動 | 性交渉経験があると回答した高校生の割合 | |
重大な暴力犯罪の加害者 | 12-17歳人口に占める重大な暴力行為(加重暴行、強姦、強盗、殺人)を犯した者の割合 | |
![]() (6項目) |
家庭での読み聞かせ | 3-5歳の子供で過去1週間に3回以上家族から読み聞かせをしてもらった者の割合 |
数学と読解の習熟度 | NAEP267 の数学と読解の平均点。第4,8,12学年別268 に算出 | |
高等学校の選択科目 | 該当年の高等学校卒業者に占める、代数学、微分積分学、生物学・化学、生物学・化学・物理の4つのコースを修了した者の割合。コース別に割合を算出 | |
高校の修了 | 18-24歳人口に占める、高等学校修了者の割合 | |
就労も就学もしていない青年 | 16-19歳人口に占める、就学も就職もしていない者の割合 | |
大学への進学 | 該当年の高等学校卒業者に占める、高等学校卒業直後の10月に大学へ入学した者の割合 | |
![]() (8項目) |
早産と低体重出生 | 37週以前に生まれた出生児の割合 |
2,500グラム以下で生まれた出生児の割合(低出生体重出生率) | ||
乳児死亡率 | 1歳の誕生日の前に亡くなった乳児の割合(乳児死亡率) | |
感情・行動面の困難 | 4-17歳人口に占める、感情・行動面の困難269 を持つ子供の割合 | |
青年期のうつ | 12-17歳人口に占める、過去1年間にうつ病の主な症状が現れたことのある者の割合 | |
行動の制限 | 5-17歳で1つ以上の慢性の健康障害により行動上の制限270 がある子供の割合 | |
食事の質 | 2-14歳児の食事の2010年版健康食指数271 の平均値 | |
肥満 | 6-17歳人口の肥満率272 | |
喘息 | 0-17歳人口の喘息有病率 |
指標の分類 | 必要とされる指標(Indicators Needed) |
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(特になし) |
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時間の使い方を示す示す指標(例:テレビを見ている時間、特定の活動に参加している時間) |
社会とのつながりと社会参加の度合いを示す指標 | |
保護者が受刑中の子供の数 | |
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世帯の様々な資産を含めて収入や支出を示す指標 |
慢性的な貧困に陥っている世帯に暮らす子供の割合を示す指標 | |
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医療保険の保障内容を示す指標 |
子供たちが受けている医療サービスの質と内容を示す指標 | |
環境の質を示す指標(家・学校・保育施設等における屋内の空気の汚染度を示す指標、飲み水の汚染度を示す指標、食料・土壌の汚染度を示す指標が追加で必要) | |
家・学校・地域で暴力の現場を目撃したことのある子供の割合 | |
生物モニタリング274 の指標(例:子供の血液中や尿に含まれるの汚染物質の量) | |
ホームレスの子供の数や一時的に施設に保護されているホームレスの子供の数 | |
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ボランティア活動や放課後の活動等、健康や発達(発育)を促進させる活動への参加状況を示す指標 |
刑事司法制度下にある若者の状況を示す指標(例:少年院に収容されている若者の数、逮捕されたことのある若者の数等) | |
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幼児期の認知力や感情面・社会面の発達状況を示す指標 |
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障害を持つ子供の視力、聴力、歩行、自己管理、コミュニケーション等における機能制限を示す指標 |
251Federal Interagency Forum on Child and Family Statistics(2016). America's Children: Key National Indicators of Well-Being, Washington DC, Government Printing Office.
252同上 2頁
253日本語訳は阿部彩他(2013)(前掲4)を一部参考に、Federal Interagency Forum on Child and Family Statistics(2016)(前掲251)に基づいて内容を最新のものに更新した。
254未婚(結婚の意思があるが結婚していない)と非婚(結婚の意思がなく結婚していない)の区別はされていない。
255諸外国や国際機関では貧困率の算出に等価可処分所得を用いることが一般的であるが、アメリカでは絶対総収入が用いられている。絶対総収入には報酬、失業保険、雇用保険、社会保障、生活保護、公的支援、兵役納付金、遺族給付、高度障害給付金、退職金、年金、利息、配当、賃借料、印税、信託、教育補助、扶養料、児童手当、家庭外の支援援助、その他の収入が含まれている。(参考:株式会社SELC(2016)前掲54)
256貧困基準値は、1年間に家族が必要とする食費の3倍としている。この食費は1963年に農務省が設定したものであり、毎年消費物価指数によって調整されている。世帯の人数と世帯員の年齢に合わせた貧困基準値がそれぞれ算出される。(参考:株式会社SELC(2016)前掲54)
257農務省が定めた定義に基づく。「食料不足状態(food insecurity)」には「低い食料保障状態(low food insecurity)」と「とても低い食料保障状態(very low food insecurity)」のどちらかに認められた世帯が含まれる。「低い食料保障状態」とは補助的栄養支援プログラム等の支援を受けたり、世帯員が多様性に欠ける食事により食料を摂取している状態(「金銭的な理由でバランスの取れた食事をすることができなかった」と自己申告をした場合を指す)であり、「とても低い食料保障状態」とは金銭的な理由により摂取する食料を減らすことを余儀なくされた世帯員が1人でもいる状態を指す。(参考:U.S. Department of Agriculture Economic Research Service (2016) “Key Statistics and Graphs”. https://www.ers.usda.gov/topics/food-nutrition-assistance/food-security-in-the-us/key-statistics-graphics.aspx)
258三種混合ワクチン、ポリオワクチン、新三種混合ワクチン、Hibワクチン、B型肝炎ワクチン、水痘ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンが含まれる。(参考:Center for Diseasse Control and Prevention (2016). “Technical Notes for NIS Surveillance Tables”. https://www.cdc.gov/vaccines/imz-managers/coverage/nis/child/tech-notes.html)
259環境保護庁が設定した環境大気質基準(NAAQS:National Ambient. Air Quality Standards)に基づく。(参考:U.S. Environmental Protection Agency (2016). “NAAQS Tabl”e. https://www.epa.gov/criteria-air-pollutants/naaqs-table)
260最大許容濃度と90以上の物質の扱い方をそれぞれ定めた基準である。(参考:U.S. Environmental Protection Agency. (2017). “Drinking Water Regulatory Information”. https://www.epa.gov/dwreginfo/drinking-water-regulatory-information).
261住宅費が世帯所得の30%以上を占める場合を指す。
262世帯人数が1部屋につき1人以上である場合を指す。部屋に台所や風呂が含まれるか否かについては記されていない。
263「設備不十分」とされる世帯は、「アメリカ合衆国住宅調査(American Housing Survey for the United States)」において「中程度の設備問題(Physical problems - moderate)」と「重度の設備問題(Physical problem - severe)」とされた住宅に住む世帯が含まれる。「中程度の設備問題」と「重度の設備問題」は台所、水道管、電気等の状態別に細かく定義されている。詳細はU.S. Census Bureau (2013). American Housing Survey for the United States: 2011, Current Housing Reports, Series H150, Washington D.C., U.S. Census Bureau.を参照。
264日本の中学校2年生、高校1年生、高校3年生に対応する。
265同上
266同上
267NAEPとは、全米学力調査(The National Assessment of Educational Progress)を指す。全州が参加する標本調査であり、第4,8,12学年の児童・生徒が対象である。読解、数学、科学、作文、米国史、公民、地理等の各分野の習熟度を測る。
268日本の小学校4年生、中学校2年生、高校3年生に対応する。
269「あなたの子供は情緒・集中力・素行・人との付き合いにおいて問題があると思いますか。」という問いに、「いいえ」「少々問題がある」「問題がある」「重度の問題がある」の選択肢の中から、「問題がある」「重度の問題がある」と親が回答した場合を指す。
270自分の子供は特別な教育サービスを使用している、又は、自己管理・歩行・その他の諸行動が制限されていると親が回答した場合を指す。
271農務省が示すthe Healthy Eating Index (HEI)と呼ばれる食事の質を測る指標である。農務省が公表している「2010年版米国人のための食生活指針 (Dietary Guidelines for Americans)」及びこの食生活指針を実行する際に個人が参考にできるよう作成された「農務省食品摂取パターン(USDA Food Patterns)」 に基づいて開発された指標である。食生活がどれだけ健康的であるかを様々な観点から測定し、総合点を0-100点のスケールで示す。(参考:U.S. Department of Agriculture, Center for Nuturion Policy and Promotion (no date). “Healthy Eating Index”. https://www.cnpp.usda.gov/healthyeatingindex)
272BMIが同年齢・同性集団の上位5%である子供を肥満としている。
273Federal Interagency Forum on Child and Family Statistics(2015). America's Children: Key National Indicators of Well-Being, Washington DC, Government Printing Office.
274生物モニタリングとは、環境汚染を監視する方法のうち、生物を用いる方法をいう。環境汚染の測定は、例えば大気中の微小粒子状物質の量を測るなど物理的・化学的方法で行われているが、生物学的方法を併せて用いることで各汚染物質の複合的な影響や累積的な影響をとらえることができる。(参考:環境省総合環境政策局環境影響評価課(2017)「環境アセスメント用語集」http://www.env.go.jp/policy/assess/6term/index.html)