第2章 諸外国における子供の貧困に関する指標の状況(2.4.1)

2. 健康、教育等様々な分野の指標を設定するアプローチを用いた貧困に関する指標の設定状況

2.4. 人口全体のウェル・ビーイング指標

1 OECD 「より良い暮らし指標(BLI: Better Life Index)」287

OECDは2011年から「OECDより良い暮らしイニシアチブ(OECD Better Life Initiative)」を開始した。このイニシアチブにおいて、「より良い暮らし指標(BLI, Better Life Index)」と呼ばれるウェル・ビーイング指標の分析・公表及びウェル・ビーイングの傾向とその要因に関する理解を深めるための研究プロジェクトを実施している。

BLIは、人々にとって重要であり、生活の質に関わる暮らしの11の分野(住宅、所得と富、雇用と収入、社会とのつながり、教育と技能、環境の質、市民生活とガバナンス、健康状態、主観的幸福、個人の安全、仕事と生活のバランス)288 について38カ国間の比較を可能にするものであり、「How’s Life?」と題する報告書とインタラクティブなウェブアプリケーション289 で公表されている。

BLIで用いられている11分野は、2011年に発表された報告書「OECDウェル・ビーイング指標の概論(Compendium of OECD well-being indnicators)」に基づいて選定されている。この報告書は、OECDが2011年までに実施した研究や協議を基に、ウェル・ビーイングを測る方法についての理論をまとめたものである290 。この概論において、ウェル・ビーイング指標は物質的生活状況(material living conditions)、生活の質(quality of life)の2分野の指標を含むべきとされている。さらに各分野において、物質的生活状況は1)住宅、2)所得と富、3)雇用と収入の3項目を、生活の質は1)社会とのつながり、2)教育と技能、3)環境の質、4)市民生活とガバナンス、5)健康状態、6)主観的幸福、7)個人の安全、8)仕事と生活のバランスの8項目を含むべきとしている。また、物質的生活状況と生活の質に加えて社会経済環境及び自然環境の持続可能性(the sustainability of the socio-economic and natural systems)についても把握すべきであるが、この分野の状況を把握するのに適当な指標が未開発であるためこの概論には含めないとしている。

図表2-28 OECD「より良い暮らし指標」における指標一覧291292
指標の分野 具体的な指標項目
物質的生活状況 1住宅 基本的衛生条件 世帯専用の屋内水洗トイレを有さない者の割合
家の値頃感 調整世帯可処分所得293 に占める、家にかかる経費(家賃、水道、電気、ガス・燃料、管理修繕費)の割合の平均値
1人当たりの部屋数 住宅の部屋の数(台所、洗濯機置き場、風呂、トイレ、ガレージ、診察室、オフィス、店を除く)をその住宅の居住人数で除した値の平均値
2所得と富 家計収入 1人当たりの家計調整純可処分所得(2005年基準の購買力平価によるドル換算額)の平均値
資産 一人当たり家計保有正味金融資産額(現金のほかに預金、保証(株式以外)、株式、ローン、保険金、その他受け取りや支払いが可能な口座を含む純資産。最新の購買力平価によるドル換算額。)
3雇用と収入 労働市場の不安定 調査前年の全就業者数に占める、調査時点で1年未満の間失業状態にある者の割合
就業率 15-64歳人口に占める就業者294 の割合
長期的失業率 労働力人口に占める1年以上失業状態が続いている失業者295 の割合
所得 フルタイム労働者の平均年間報酬。国民経済計算での総賃金をフルタイム労働者数296 で割った値
生活の質 4社会とのつながり 社会的支援 「困ったときに、いつでも助けを求めることのできる親戚や友人はいますか」との設問に対し、肯定的な回答を行った者の割合
5教育と技能 教育達成 25-64歳人口に占める、後期中等教育297 を卒業した者の割合
認識能力 PISA298 における読解力、数学リテラシー、科学リテラシーの平均点
成人力 PIAAC299 における読解力と数的思考力の平均点
生活の質 6環境の質 大気汚染 平均微小粒子状物質(PM2.5)濃度の2010~2012年の平均値
水の質 「あなたの住んでいる街や地区での水の質に満足していますか」との設問に対し、「満足」と回答した者の割合
7市民生活とガバナンス 投票率 有権者に占める投票した者300 の割合
8健康状態 寿命 出生児平均余命301
健康状態の認識 15歳以上で、健康状態が「良い」以上の回答302 した者の割合
9主観的幸福 生活満足度 生活全般に対する主観的な評価303 の平均値
10個人の安全 夜間の安心感 「あなたの住んでいる街や地区で、夜間にひとりで歩くことに安心感はありますか」との設問に対し、明確に安全との回答した者の割合
殺人発生率 10万人当たりの傷害による死亡率
11仕事と生活のバランス 労働時間 普段の1週間で50時間以上働く就労者の割合
余暇 フルタイムで働いている者が1日のうちレジャーや個人的な活動に割くことのできる時間の平均値

287前掲35

288日本語訳はOECD(2016) に基づく。(参考:OECD (2016)How’s Life in Japan?日本の幸福度」https://www.oecd.org/statistics/Better-Life-Initiative-country-note-Japan-in-Japanese.pdf)

289このウェブアプリケーションでは、「How's Life?」報告書のウェル・ビーイング指標の各分野に対し、利用者が好きなウェイトをつけると、そのウェイトに沿った国別順位が表示されるようになっている。このウェブアプリ―ケーションはhttp://www.oecdbetterlifeindex.org/からアクセス可能。

290OECD(2011). Compendium of OECD well-being indicators, Paris, OECD. 

291BLIは2011年のOECDより良い暮らしイニシアチブの開始時から改編が成されてきているが、ここに示した指標は最新の報告書であるOECD(2015)(前掲214)26頁に基づく。

292前掲288

293一般政府・対家計民間非営利団体から家計への現物移転を調整している可処分所得を指す。

294就業者は、ILOの定義により、調査前の1週間に1時間以上有給の仕事に就いていた者を指す。

295失業者は現時点で職に就いていないが、就労の希望があり、就職活動を行っている者を指す。

296フルタイム労働者数は、全労働者の労働時間とフルタイム労働者の労働時間の比率を全労働者数に乗じて算出する。

297国際標準教育分類(ISCED)の定義に基づく。日本では高等学校教育に相当する。ISCEDの詳細については前掲148。

298前掲94

299PIAACとはOECDが実施する国際成人力調査のことを指す。この調査は、各国の成人を対象に、仕事や日常生活で必要とされる汎用的なスキルのうち「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3分野のスキルを測定するもので、2013年度に初めて実施され、日本を含む24ヶ国・地域が参加した。(参考:国立教育政策研究所(2013)「OECD国際成人力調査(PIAAC)調査結果の要約」http://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/pdf/piaac_summary_2013.pdf)

300各国で最も多くの有権者がいる選挙(国の議会選挙、大統領選挙等)を対象にする。

301現在の死亡率が今後も継続すると仮定した場合、出生児が生きると期待される平均年数。平均年数は男女の人口の比率によってウェイトを付けた上で算出する。

302WHOが推薦する設問は「あなたの普段の健康状態はいかがですか」との問に対し、「とても良い」「良い」「普通」「悪い」「とても悪い」の5択の中から選択するもの。

303「自分の最近の生活全般に関してにどれ程満足していますか。」という問いに対して、最低の0から最高の10の11段階で評価